II 調査結果の内容


1. 経営改革

包括的な経営改革)
 現在、多くの企業が経営改革を進めている。最近3年ほどのうちにすでに「実施した」あるいは「検討中」という回答が多かったものには、意思決定者の少数化や諸会議の集約など経営トップの意志決定のスピードアップ(「実施した」49.6%、「検討中」31.3%、合計80.9%。以下は合計のみ)、企業グループ内での連結経営の強化(83.0%)、「小さな本社」の構築(80.6%)、自己責任経営の明確化(73.9%)、関連企業の整理・統合(69.2%)、財務部門の強化充実(65.1%)などがある(図1−1)。これら6つの施策はしばしばワンセットで行われている。それだけ、進行中の経営改革が包括的であることを示唆している。これらに比べて、担当事業部門をもたない役付き取締役制度への転換や経営者の選抜方法の見直しを「実施した」あるいは「検討中」という回答はいずれも25%前後にとどまった。
 
変わる経営指標 〜売上高から経常利益へ〜)
 こうした包括的な経営改革とパラレルに、重視する経営指標も大きく変わろうとしている(図1−2−1図1−2−2)。
 第1に、これまでもっとも重視してきた経営指標(1位)は、業種計でみると、売上高(47.2%)、ついで経常利益(27.2%)であった。しかし、これから重視していこうとしている経営指標(同じく1位・業種計)は経常利益(30.6%)、純利益(20.9%)、営業利益(14.2%)などであり、売上高(12.0%)という回答は激減している。また、株主資本利益率をこれらから重視する経営指標の1位にあげたところが10.0%あった(金融保険業では28.8%)。
 第2に、こうした重視する経営指標の比重変化には大きな業種差がみとめられる。もっとも重視する経営指標(1位)の「これまで」と「これから」を業種別にみてみると、建設業では売上高(61.7%)から経常利益(41.7%)へ、製造業でも売上高(49.8%)から経常利益(30.2%)へ、卸売業では経常利益(38.9%)から純利益(38.9%)へ、小売業では売上高(58.2%)から経常利益(38.2%)へ、金融保険業では売上高(23.3%)から株主資本利益率(28.8%)へ、サービス業では売上高(55.7%)から経常利益(36.5%)といった比重の変化がみられる。
 
社内分社化・子会社化)
 包括的な経営改革のなかには社内分社化、子会社化もふくまれる。
 第1に、最近3年ほどのうちに社内分社を設けた企業は全体の1割強(12.2%)、今後の予定のあるところが2割強(24.3%)あった。合わせると4割弱になる。同じ期間中に、子会社を設立した企業は5割弱(47.1%)、今後設立を予定しているところが4割(40.9%)あった。
 第2に、このうち社内分社化の代表的ケース(設立予定のものをふくむ)についてその業務内容をみてみると、既存事業中心が7割、新事業中心が1割となっている。他方、子会社の代表的事例では新事業中心が4割弱(37.4%)、既存事業中心が6割を占めている。
 第3に、これら社内分社、子会社の設立目的はそれぞれなにか。社内分社、子会社いずれの場合にも、第1位には市場の変化に敏感に対応するため、第2位には既存事業部の整理・再編のためという回答であった。しかし3位にランクされたのは、社内分社の場合には従業員の危機意識を徹底させるため(26.2%)、子会社の場合には雇用の受け皿として(26.8%)というものであった。
 第4に、これらの社内分社や子会社はどれほどの権限をもっているのか。社内分社の場合、従業員の採用(42.1%)、労働条件の決定(32.3%)、投資決済(30.3%)などについて一定の自主決定の権限をもっている。子会社の場合には、従業員の採用(72.9%)、労働条件の決定(58.7%)、労使交渉の権限(45.3%)が上位3位にあげられ、雇用・労使関係事項についてかなりの権限を付与されていることがわかる。しかし、資金調達の権限(31.1%)、投資決済(27.6%)、役員人事(8.9%)といったものについて子会社は必ずしも大きな権限を与えられていない(図1−3)。
 このように、社内分社でも従業員の採用や労働条件の決定、投資決済について固有の権限を与えられているケースが3〜4割に達する一方、子会社であるにもかかわらず、資金調達や投資決済、役員人事などについて権限を与えられていないというケースが7割以上にのぼる。
 第5に、その労働条件のあり方について、社内分社の場合には、親会社の水準を上回っても業績に応じた労働条件にするのがよい(28.2%)、労働条件は親会社ではなく、同業他社の水準を基準とするのがよい(24.1%)、企業グループ内各社の労働条件はできるだけ同一化するのがよい(23.1%)などとなっている。このように、社内分社の労働条件にかんして当該企業からの自立性が強調されている。子会社の場合には、同業他社基準(38.4%)、業績準拠(31.3%)に回答が集中している(図1−4)。
 したがって、これら第4および第5点からすると、子会社には雇用・労使関係の領域を中心に社内分社よりも高い自立性が与えられてはいるが――自己責任経営と企業グループとしての連結経営がともに強調される状況にあって――、両者の連続的性格もみとめられる。とくに資金調達や投資決済、役員人事といった点では社内分社と子会社のあいだにほとんど差異はない。
 
持ち株会社)
 事業持ち株会社を設立する意向があるところは全体の6.5%、また純粋持ち株会社設立の意向をもつところは5.4%、合わせて1割強(11.9%)であった。すでにいずれかの持ち株会社を設立しているところが5.1%であった。設立の意向のないところが73.5%であった。
 
小括)
 (イ)  いま日本の大企業では包括的な経営改革が進行中である。意思決定者の少数化や会議の集約化などによる経営トップの意思決定のスピードアップ、「小さな本社」の構築、財務部門の強化、企業グループ内での連結経営の強化、自己責任経営の明確化、関連企業の整理・統合といったことがしばしばひとつのパッケージとなって進められている。
 (ロ)  それにともなって、重視する経営指標にも注目すべき変化が生じている。全体的には「売上高から経常利益へ」といった重視指標のシフトがみられるが、業種によっては、たとえば金融保険業の場合のように、「売上高から株主資本利益率へ」といった大きな変化もみとめられる。
 (ハ)  社内分社化・子会社化の動きも活発である。主として、市場の変化に敏感に対応するため、また既存事業部の整理・再編のためである。  これら社内分社・子会社の権限についてみると、雇用・労使関係あるいは労働条件決定といった点で親会社からの自立性がめだつ。その自立性は社内分社より子会社で高い。しかし資金調達や投資決済、役員人事といった点では親会社の影響力が強く、子会社の場合でさえ必ずしも自立的でない。
 (ニ)  持ち株会社の設立については、すでに設立しているところ、事業持ち株会社を設立する意向があるところ、純粋持ち株会社を設立する意向があるところがそれぞれ5%ほどあり、合わせて15%程度にのぼる。



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