第1部 1997〜98年の海外労働情勢
2 賃金・労働時間等労働条件の動向
(1)賃金・物価の動向と対策
@賃金・物価の動向
1996〜97年において、主要先進諸国では、アメリカ、イギリス、イタリアにおいて賃金上昇率にやや高まりが見られ、ほぼ4%台で推移した。ドイツ、フランスでは賃金上昇率は3%前後で落ち着いた動きを示した。物価は、イギリスでやや上昇率が高まり3%台になっているものの、他では概してl〜2%台で安定して推移している。
アジアでは、賃金上昇率の水準は異なるものの、低下傾向で推移している。物価は概して安定していたが、韓国、インドネシア、タイでは、通貨危機の影響があり、97年後半以降上昇傾向にある。中国においては、経済が全般的に引き締め気味に運営される中で、賃金上昇率、物価上昇率とも徐々に伸びが低下している。
中東欧諸国では、国による差異が大きく、賃金上昇率はチェッコ、ハンガリー、ポーランドでは2けた台の上昇率ではあるが沈静化している。また、物価上昇率もハンガリー、ポーランドで高水準だが低下傾向にある。ロシアにおいては、賃金、物価とも落ち着きをみせ、上昇率が縮小している。
A賃金・物価に関する対策
97年にブレア労働党新政権が誕生したイギリスで、最低賃金制度の復活に向けて、最低賃金諮問委員会が発足し、最低賃金法案が議会に提出されている。
タイ、インドネシアにおいて毎年行われる最低賃金の改訂において、通貨危機の影響を受けて、引上げ幅が抑制されたり、引上げ額の決定が遅れること等があった。
(2)労働時間の動向と対策
@労働時間の動向
労働時間は、国・地域により増減があったが、その動きはわずかであり、全体としては大きな変化はなかった。主要先進諸国、オーストラリア、ニュージーランドの労働時間の水準はほぼ週当たり30時間台後半から40時間台初めであるが、アジアの労働時間(週又は月間)はほぼ週当たり40時間台後半、月当たり200時間台と長くなっている。
A労働時間に関連した動き
欧州司法裁判所が、女性の夜間労働を禁止したフランスの労働法の規定は、EUの男女均等待遇指令に違反し無効であるとの判決を下した。これにより、フランス政府は労働法の当該規定を廃止する義務を負うこととなった。
97年にジョスパン新政権が誕生したフランスでは、法定労働時間を週35時間に短縮する法案が議会に提出された。これについて、当初より労働組合側は概ね歓迎しているが、使用者側は強く反発し、フランス経営者連盟会長が辞意を表明するなど態度を硬化させたが、週35時間労働制の導入については、企業レベルの労使協議に委ねられることとなり、同法案は、98年2月、国民議会(下院)を通過した。
(3)労働災害の動向
1996年において、アメリカ、ドイツ、中国においては労働災害の発生は減少したが、イギリス(死亡災害発生件数)、シンガポールにおいては増加した。一方、韓国において、労働災害の被災者数は減少したが、香港では増加した。
表3 各国の賃金上昇率の推移
表4 各国の物価の上昇率の推移
表5 各国の週労働時間の推移
表6 労働災害発生件数
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