第3節 経済変動と雇用
今回の雇用者数の大幅減は建設業、製造業の減少によるが、製造業の大幅減はバブルの精算終了前に再び生産が減少し、労働生産性が低下したためである。先行き不透明感の高まり等から、雇用過剰感はかつてなく高まっており、バブル崩壊後、生産や企業収益の変動に対する企業の雇用調整行動はやや速まっている。企業の雇用量調整は、入職抑制中心であるが、今後の産業構造調整の中で、この方法が困難となる可能性がある。
(建設業及び製造業の減少)
これまで、我が国では、サービス業等の堅調な雇用需要に支えられ、第1次石油危機後も含め、雇用者数が暦年ベースで前年を下回ることはなかった。しかしながら、1998年には、製造業の大幅な減少に加え、不況期に雇用を吸収してきた建設業も減少したことから、前年を初めて下回った(
第34図
)。
(建設業の雇用創出力低下の背景)
建設業の雇用創出力の低下には、需要の大幅な減退に加え、バブル崩壊後も続いていた雇用者数の増加の後だったため、労働生産性の水準が低かったことが大きい(
第35図
)。建設需要の見通しに不透明感が強まっていることも影響している。
(バブルの精算終了前に生産が減少)
製造業雇用者数の減少は、第1次石油危機後やバブル崩壊後と同様の動きであり、生産と雇用の関係(雇用弾性値)がこれまでと異なっているわけではない。
製造業の雇用者数と労働生産性との関係をみると、労働生産性の水準がトレンドを下回ると雇用者数は減少に転じる(
第36図
)。今回の急激かつ大幅な雇用者数の減少は、バブルの精算が終了しきれていない状況で、再び生産の減少が始まったため、両者の影響が重複したものと考えられる。
(不透明感の増大による雇用過剰感の高まり)
ただし、労働生産性の低下幅や企業収益の悪化の程度に比べ、雇用過剰感がかつてなく高まっている(
第37図
)。将来の不透明感の高まりが、期待成長率を低下させ、雇用過剰感を一層強くしているものと考えられる。なお、グローバル化が進む資本市場の要請を背景として、雇用保蔵の早期解消を図る動きが強まっていることにも留意する必要がある。
(速くなっている雇用調整)
中期的にみると、バブル崩壊後、生産の変動に対する企業の雇用調整行動はやや速まっている。製造業では、常雇の雇用調整速度の速まりに加え、雇用調整速度がかなり速い臨時・日雇比率の上昇も影響している。一方、サービス業ではむしろ遅くなっており、生産の増加に対する雇用増が慎重になっていることを示している(
第38図
)。
また、企業は、経常利益が2期連続赤字になると大幅に雇用調整を実施するが、バブル崩壊以降、企業収益が赤字になった場合に、より迅速に雇用量を調整させつつある(
第39図
)。
(入職抑制中心の雇用調整)
製造業では、入職率により雇用変動の7割以上を説明できるのに対し、離職率の説明力は1割にも満たず、企業は入職抑制により雇用量を調整している。また、大企業でその傾向が強い(
第40図
)。
一貫して雇用者数の減少が続いている鉄鋼業では、入職抑制による雇用量の調整が限界に近づいているため、雇用量の調整は離職率によるところが大きくなっている(
前掲第40図
)。
製造業の入職率は、1990年代に入って一段と低下し、かなり低い水準にまで低下してきている(
第41図
)。今後、産業構造調整が一層大きくなると見込まれる中で、一層の入職抑制による対応は困難となる可能性があり、既存労働者の雇用に与える影響を注視していく必要がある。
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