第 I 部 平成10年労働経済の推移と特徴
第1章 雇用・失業の動向
(平成10年の雇用・失業情勢の特徴)
- 1998年の雇用・失業情勢は急速に深刻さを増した。この背景には、我が国経済が、バブル崩壊後の景気回復局面を経た後1997年3月を景気の山として再び景気後退局面に入り、実質国内総生産(GDP)が戦後初めて5・四半期連続の減少となるなど、第1次石油危機に匹敵するインパクトが長期にわたり続いていることがある。雇用・失業情勢の特徴としては、(1)有効求人倍率は過去最低の水準に低下し、完全失業率がこれまでにない上昇幅で上昇するなど年前半に労働力需給が急激に悪化したこと(第1図)、(2)景気低迷が続く中で、非自発的理由による離職失業者や求職者が大幅に増加し、失業期間の長期化もみられたこと、(3)雇用者数が初めて前年より減少したこと、これら3つの景気的な要因に加え、(4)構造的・摩擦的な失業も増加を続けたことが失業率の水準を押し上げたこと、の4点があげられる。1999年に入っても雇用・失業情勢は依然厳しく、完全失業率はさらに上昇し、3月には 4.8%となった。
(大幅に減少した新規求人)
- 新規求人数(新規学卒者を除く)は1998年平均で前年比11.9%減と4年ぶりに減少した。四半期別の動きを季節調整値でみると、1997年10〜12月期以降、前期比4〜5%の減少を続けたが、1998年後半には前期比1%程度の減少と落ち着きをみせ、1999年1〜3月期には 0.3%増とわずかながら増加した。産業別には、全ての産業で求人が減少したが、製造業と建設業で落ち込みが大きい。特に、製造業は1997年4〜6月期以降大幅な減少が続き、1998年10〜12月期までに約4割も落ち込んだ(第2図)。
(新規求職は大幅に増加)
- 一方、新規求職者は1997年から増加基調にあったが、1998年に入り、景気の低迷が長引く中で増加幅が大幅に拡大し、1998年平均で前年比15.4%の大幅な増加となった。常用新規求職者の増加を自発的離職求職者、非自発的離職求職者、離職者以外の求職者に分けてそれぞれの寄与度をみると、いずれの寄与も増加しているが、非自発的離職求職者と離職者以外の求職者の増加寄与が大きい(第3図)。ただし、1999年1〜3月期には離職求職者はともに減少となった。こうした状況を背景に、雇用保険の受給者実人員も第1次石油危機後の1975年を上回る過去最高の水準となった。
(有効求人倍率は過去最低の水準に低下)
- 有効求人倍率(季節調整値)は1998年1〜3月期に0.61倍と前期差0.07ポイントの急落となった後、4〜6月期0.54倍、7〜9月期0.49倍と大幅に低下し、10〜12月期には0.47倍となった(前掲第1図)。1998年平均では、0.53倍となり、1997年の0.72倍を大きく下回り比較可能な1963年以降で最低の水準となった。また、単月でみて1998年10月から12月の0.47倍は過去最低の水準である。その後、1999年1〜3月期には0.49倍とやや水準を戻している。1998年10〜12月期までの低下幅を第1次石油危機後やバブル崩壊直後の景気後退期と比較すると、今回の低下幅は相対的に小さいが、そもそも景気の山の時の水準が1倍を大きく下回っていたため、有効求人倍率はかつてない水準に低下した(第4図)。新規学卒労働市場においても、大学新卒者の就職率が低下、高校新卒者の求人倍率が大幅に低下するなど、企業の採用意欲は一段と減退している。
(男女とも労働力率が低下)
- 労働力人口は前年差6万人増と増加幅が非常に縮小した。なかでも男性は比較可能な1954年以降で初めて前年より減少した。労働力率の動きをみると、1998年を通じて前年を下回り、年平均では63.3%と前年差 0.4%ポイント低下した。男女別には、男性が前年差 0.4%ポイントの低下、女性が同 0.3%ポイントの低下となった。1998年の労働力率の低下について年齢階級別にみると、男性はほとんどの年齢階級で低下したが、需給に敏感に反応しやすい15〜24歳層と65歳以上層で低下幅が大きかった。女性は、人口構成変化要因を除けばおおむね横ばいであり、1993〜95年に比べ低下幅が小さい。ただし、4〜6月期以降、パートタイム労働者の需要の鈍化等により労働市場への純流入の動きが弱まったため、35〜44歳層を中心に女性労働力率が低下した(第5図)。
(減少に転じた就業者数)
- 就業者数は、1998年平均で6,514万人、前年差43万人減と1975年以来の減少となり、減少幅は比較可能な1954年以降で最大となった。男女別にみると、男性は年初から前年を下回る水準で推移したが、女性は、パートタイム労働者の増加を背景に1〜3月期までは増加を続けており、パートタイム労働者の需要にかげりがみられる中で4〜6月期以降減少に転じ、その後は男性と同程度の減少幅となった。就業者を自営業主、家族従業者、雇用者のそれぞれに分けてみると、就業者の約8割を占める雇用者が減少に転じたことが、就業者数の減少に大きく影響した(第6図)。
(製造業、建設業の雇用者数が大幅減少)
- 雇用者数は、1998年平均で5,368万人、前年差23万人減となり、比較可能な1954年以降で初めて前年より減少した。これは、例年は新規入職者を中心に雇用者数が大幅に増える春先に、入職抑制が厳しく行われたことが大きく影響した。産業別にみると、サービス業は増加は続いたが1997年より伸びは大幅に鈍化した。卸売・小売業,飲食店は小売業,飲食店での臨時・日雇の増加を主因に増加基調で推移した。一方、建設業と製造業で雇用者数が大幅に減少した。建設業は、これまで景気後退期には雇用の受け皿として機能してきたが、今回は雇用者数が減少した。製造業については、バブル崩壊後雇用者数が減少基調にあり、1996〜97年に生産の増加によりいったん下げ止まったが、バブル崩壊後の雇用調整が完全に終了していなかったことから、生産が力強い回復に至る前に1997年10〜12月期以降落ち込むのと同時に雇用者数の調整が再発し、これに景気要因が重なり雇用者数が大幅な減少に転じたものとみられる(第7図)。
(職業別にはブルーカラー職種で大きく減少)
- 職業別に雇用者数の動きをみると、製造業、建設業の低迷を背景に単純工、技能工で雇用過剰感が急激に上昇し、ブルーカラー職種で雇用者数が大きく減少した。また、管理的職業従事者も過剰感がさらに高まり雇用者数は引き続き減少した。一方で、専門的・技術的職業従事者は雇用者数の増加が続いており、雇用不足感も依然みられる(第8図)。
(パートタイム労働者の構成比が上昇)
- 常用労働者のうち、一般労働者は前年比 0.8%の減少に対し、パートタイム労働者は前年比 4.2%の増加となり、パートタイム労働者の構成比を試算すると18.86%と前年差0.75%ポイントの上昇となった。産業別には、卸売・小売業,飲食店で36.11%(前年差1.30%上昇)と高い水準にあり、上昇の程度も大きい。
(入職率が大きく低下、非自発的な離職率が上昇)
- 常用労働者の入職率は1.88%と、前年差0.11%ポイント低下、離職率も1.96%と前年差0.04%低下となったことから、1998年平均では0.08%ポイントの離職超過となった。すなわち、常用労働者数の減少は、主に年前半に厳しい入職抑制の動きが起こったため、入職率が低下し、離職超過幅が拡大して生じたものといえる。ただし、1998年上期の離職率を離職理由別にみると、自発的な離職率は低下したが、非自発的な離職率は上昇しており、また、企業倒産による倒産従業員被害者数も大幅に増加したことから、倒産等も含めた非自発的な離職の増加が、後にみるように失業者の増加に大きく影響しているといえる。
(2〜4月に急激に上昇した完全失業率)
- 完全失業率は1998年2〜4月にかけて急激なペースで上昇し、4月には現行の統計調査開始以来初めて4%を超え、年平均でも 4.1%と1997年よりさらに 0.7%ポイント上昇した。男女別にみても、男性 4.2%、女性 4.0%と、男女ともこれまでにない高さとなった。完全失業者数は1998年平均で279万人(前年差49万人増)、男女別には男性168万人(同33万人増)、女性111万人(同16万人増)といずれも水準、増加幅ともこれまでで最大となった。月別に完全失業率の推移をみると、2〜4月にかけて急上昇した後、5月以降は緩やかな上昇となったが、1999年2月以降再び上昇幅が拡大し、3月には 4.8%(男女とも 4.8%)となった(第9図)。また、完全失業者数も1999年1〜3月期に317万人(原数値、前年同期差63万人増)と初めて300万人台となった。
- 1998年前半について、完全失業率が急上昇した背景を整理すると、生産活動の減少、停滞等を背景に1997年末から新規求人が大きく減少し、入職抑制が強く行われたこと、雇用調整実施事業所割合の上昇や非自発的な離職率の上昇、倒産件数の増加等にみられるように離職を余儀なくされる者が増加しており、製造業や建設業を中心に離職求職者数が大幅に増加した結果新たに失業者となる者が急増したこと、労働力需給の悪化により一度失業するとなかなか再就職できない情勢となったことにより完全失業者が大幅に増加したことがあげられる。年後半は、再就職の状況は依然として非常に厳しいものの、生産や新規求人の減少に下げ止まりがみられ、年前半のように離職求職者数が加速度的に増加する情勢でなくなったため、失業率の上昇テンポは年前半に比べれば緩やかであった。今回の失業率の上昇幅を過去の不況期と比較すると、円高不況期やバブル崩壊後の上昇幅を大きく上回り、第1次石油危機後とほぼ同じテンポで上昇した。
(非自発的離職失業が急増)
- 完全失業者の増加について求職理由別にみると、各属性とも大きく増加している。特に非自発的離職失業者が1998年は前年差31万人増と大幅に増加しており、新たに失業へ流入する者の増加と同時に失業状態も長期化している(第10図)。自発的離職失業者も増加しているが、失業期間が長期化しているためであり、自発的離職から新たに失業へ流入する動きは鈍化している。世帯主との続き柄別に完全失業者数をみると、1998年は世帯主の配偶者をはじめ、いずれの続き柄においても大幅に上昇し、過去最高の水準となった(第11図)。なお、続き柄別の完全失業率をみると、単身世帯やその他の家族に比べれば世帯主、世帯主の配偶者の完全失業率の水準、上昇幅は低く、相対的に安定しているといえるが、これらの続き柄の完全失業率も過去最高の水準となっている。
(失業への流入、非労働力への流出とも増加)
- 労働力状態の変化(フロー)をみると、1998年に入り、男性・女性とも、就業者が失業化する流れが大幅に増加しており、新たに失業者となったものが急激に増えたことが確認できる。一方で、就業者が労働市場から退出し、非労働力人口となる動きも男女とも大きく増加しているほか、完全失業者が非労働力化する動きも増加しており、労働力率が低下した。また、この就業から失業、非労働力への動きとも大幅に増加したことで、就業者数がこれまでで最大の減少幅となった(第12図)。また、離職を余儀なくされる者の増加や再就職が困難なことを反映し、1998年は男女とも失業頻度が上昇し、失業継続期間が長期化している。
(需要不足失業が大幅に増加)
- UV分析を用いて完全失業率を構造的・摩擦的失業率と需要不足失業率に分けてみると、1998年平均の完全失業率 4.1%のうち、構造的・摩擦的失業率が 3.2%、需要不足失業率が 0.9%となっているが、1997年10〜12月期から1998年10〜12月期にかけての完全失業率の上昇 0.9%ポイントのうち需要不足失業率の上昇分が 0.6%ポイント程度を占めており、構造的・摩擦的失業率が長期的に高まっていることに加えて、1998年に需要不足失業率が急上昇したことが、失業率を4%台にまで上昇させたことを示している(第13図)。
(障害者実雇用率は前年よりやや上昇)
- 1998年6月1日現在における障害者実雇用率は1.48%と、前年(1.47%)を上回り過去最高の水準となった。しかし、法定雇用率未達成企業の割合も、49.9%と前年(49.8%)より 0.1%ポイント上昇した。実雇用率を企業規模別にみると、 300人以上規模企業では前年に比べ上昇したが、 300人未満規模企業では1994年以降実雇用率の低下が続いている。また、景気の低迷を受けて、障害者の解雇届出数も増加した。
(外国人労働者の動向)
- 我が国における外国人労働者数は合法・不法を合わせ1997年現在約66万人で、そのうち就労が認められている在留資格の外国人登録者数は過去最高の水準となり、就労目的の新規入国外国人は1998年には前年に比べ8.5%増加した。就労する日系人等も一貫して増加している。他方、不法就労者も依然として高水準と推測される。また、1998年の外国人雇用状況報告結果によると、直接雇用の事業所数は前年に比べ7.9%増となり、産業別には製造業、サービス業、卸売・小売業,飲食店の3産業で全体の約9割を占めている。
ホームページへ