骨 子


第 I 部 平成10年労働経済の推移と特徴

 1998年(平成10年)には、年平均の完全失業率が 4.1%、前年差 0.7%の大幅な上昇となるなど、雇用・失業情勢は急速に深刻さを増した。この背景には、我が国経済に対し、第1次石油危機に匹敵するインパクトが長期間続いていることがある。現金給与総額は調査開始以来初めて減少した。総実労働時間は引き続き減少した。実収入の減少、平均消費性向の大幅な低下から、消費支出は大幅に減少した。

第1章 雇用・失業の動向

 (1998年前半に労働力需給は急激に悪化)
 1998年の雇用・失業情勢の特徴としては、年前半に求人の大幅減少、求職者の大幅増加が続いたことから有効求人倍率が大きく低下した後、年後半には低下が緩んでいる。この結果、有効求人倍率は0.53倍と比較可能な1963年以降で最低の水準となった。新規学卒労働市場においても、企業の採用意欲は一段と減退している。こうした需給の悪化を受けて、完全失業率は2〜4月にかけて急上昇し、4月には初めて4%を超えた。5月以降も緩やかに上昇を続け、1999年3月には 4.8%となった。非自発的離職失業者の増加とともに、雇用需要の減少、採用の抑制に伴い再就職の困難度が増したことから失業期間は長期化した。また、雇用者数は、建設業、製造業で大幅減少となり、年平均で初めて前年を下回った。さらに、需要不足失業率が急激に上昇したことに加え、構造的・摩擦的失業が増加を続けたことが、失業率の水準を押し上げた。

第2〜4章 賃金、労働時間等の動向

 (調査開始以来初めて減少した現金給与総額と引き続き減少した総実労働時間)
 所定内給与の低い伸び、所定外給与や特別給与の大幅な減少を受け、現金給与総額は調査開始以来初めて減少した。労働時間は、所定内労働時間の減少に加え所定外労働時間が減少に転じたことから、総実労働時間は引き続き減少した。勤労者家計をみると、実収入の現行の調査開始以来最大の減少に加え、雇用不安や所得環境の悪化、先行き不透明感の高まりを背景に、平均消費性向が大幅に低下したことから、消費支出は大幅な減少となった。



第 II 部 急速に変化する労働市場と新たな雇用の創出

第1章 労働市場の実態

 若年層は自発的離職失業の増加等により失業率が高い。45〜59歳の中年層や世帯主の失業率は低いが、再就職が困難であり失業期間が長期化しやすい。高年齢層は、雇用需要が不足しており、男性60〜64歳層の失業率は高水準となっている。製造業、建設業からの離職者は離職期間が長くなる傾向がある。日米の失業率の逆転は景気動向の違いとアメリカの労働市場の効率性の改善による。失業の増加は、生産、消費の減少、技能損失や心理的ショック等社会に様々な影響をもたらす。失業世帯は配偶者の収入、資産の取り崩しで消費水準の低下を抑えている。
 失業は、景気動向で増減する需要不足失業と労働市場の構造で決まる構造的・摩擦的失業に分けられる。構造的・摩擦的失業率は中長期的な上昇がみられ、特に第1次石油危機後とバブル崩壊後に大きく上昇しているが、バブル崩壊後の大幅上昇の背景には、産業間や年齢間のミスマッチの拡大、就業形態の多様化の進展等がある。ミスマッチと関連の強い失業継続期間は第1次石油危機後とバブル崩壊後に上昇し、摩擦的失業と関連の強い失業頻度はバブル期以外は上昇傾向にある。なお、女性の就業意欲の高まりを背景に、女性の労働力率の需給感応度が低下し、失業率が需給に感応的になっている。
 今回の雇用者数の大幅減は、建設業、製造業の減少によるが、製造業の大幅減はバブルの精算終了前に再び生産が減少し、労働生産性が低下したためである。先行き不透明感の高まり等から、雇用過剰感はかつてなく高まっており、バブル崩壊後、生産や企業収益の変動に対する企業の雇用調整行動はやや速まっている。企業の雇用量調整は、入職抑制中心であるが、今後の産業構造調整の中で、この方法が困難となる可能性がある。


第2章 雇用創出の状況

 第3次産業では、バブル崩壊後も雇用者数は増加を続けており、特に情報分野、対事業所サービス、医療・福祉分野、余暇関連分野などのサービス業、スーパーやコンビニエンス・ストアなどの卸売・小売業,飲食店で雇用が創出されている。規模別には、中堅規模の比率が緩やかに上昇しており、今後も中堅規模の雇用創出が期待される。バブル期の雇用創出は大都市圏が中心だが、バブル崩壊後は大都市圏の吸引力は低下した。
 新設事業所の雇用創出は、新規企業と既存企業の事業拡大でほぼ同じとなっており、新規企業の4分の3は独立企業、4分の1は子会社の設立によるものである。既存事業所の雇用の増減は、主に雇用創出率の変動によるが、事業所単位では一般労働者からパートタイム労働者への代替は少ない。企業の新規事業展開は、本業関連分野を中心に行われており、必要な労働力は内部調達によろうとしているが、企業内に存在しない人材等を採り入れる姿勢も強めている。
 近年雇用の伸びが大きく、今後も雇用創出効果が高く見込まれる分野としては、「情報通信分野」、「医療・福祉分野」、「教育・余暇分野」及び「ビジネス支援分野」の4分野を取り上げることができるが、各分野とも、今後の課題としては、人材の確保とそのための労働条件整備、少子・高齢化が進む中での中高年齢層の活用、高度化・多様化するニーズや技術に対応した人材の育成等があげられる。


第3章 雇用構造の転換

 就業構造は産業面、職業面ともに大きく変化しているが、これまでのところ転職の寄与は小さい。今後は、少子・高齢化が進むと、若年層の新規入職と高年齢層の退職のみでは十分な就業構造の変化が行われないため、転職が重要な役割を果たすことになる。職業能力開発については、OJTを中心としつつも自己啓発の比重が高まっている。
 雇用対策は、事後的施策から雇用維持やミスマッチ、雇用創出対策へと拡大し、労働市場におけるルールの整備と労働力需給調整機能の強化が図られ、職業能力開発もより重視されるようになってきた。雇用保険の失業給付には、失業中の家計の下支え効果等がある。公共職業訓練は、訓練内容が仕事への定着度等に影響を与えている。近年は専門的・技術的・管理的職業従事者の公共職業安定所の利用も高まっている。国際的にも雇用問題の解決が重要視される中で各国共同で取組が行われている。
 長期雇用慣行には、学卒から定年まで1つの企業に勤めるという側面と、不況期にも安易に解雇を行わず、雇用維持に努めるという側面がある。また、社会的にも、企業、労働者双方にとっても、メリットとデメリットがある。今後、雇用慣行は緩やかに変化すると考えられるが、企業、労働者とも現在でも支持が高く、安易な雇用調整は企業に対する信頼の喪失を招き、人材確保に支障をきたすおそれがある。
 緩やかな変化に対応して円滑な労働移動を支援するためには、エンプロイアビリティの向上、労働市場の整備、セイフティネットの整備、雇用の創出等が重要である。一方、雇用維持の支援も重要であり、特に、中年層の雇用不安の解消のためには、エンプロイアビリティの向上等だけでなく、これまで培ってきた能力をいかす方策が必要である。職業能力開発の課題としては、職業能力開発投資の確保・増強、ニーズへの的確な対応、体系及び評価の整備、若年層の職業能力開発が重要である。




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