第T部 平成9年労働経済の推移と特徴
第1章 雇用・失業の動向
(年後半以降厳しさを増した雇用・失業情勢)
- 我が国経済は、1997年(平成9年)に入ってから消費税率引上げ前の駆け込み需要もあって、1〜3月期には高い成長を記録した。4〜6月期はその駆け込み需要の反動減から大幅な減速となった後、続く7〜9月期には反動減から立ち直りつつあったが、秋以降、景況感が厳しさを増し、景気は年末にかけて足踏み状態となった。さらに、1998年初には景気は停滞し、一層厳しさを増した。そうした中、雇用・失業情勢は、年前半は厳しいながらも雇用者の大幅な増加などの改善の動きがみられたが、年後半には雇用者の伸びが鈍化し有効求人倍率が低下する中で、失業率が依然高水準を続けるなど厳しい状況となり、1998年1〜3月期には更に厳しさを増した(第1図)。
(増加幅が縮小した新規求人)
- 新規求人(新規学卒を除く)は前年比5.2%増と前年(同11.9%増)に引き続き増加となったが、増加幅は縮小した。これを四半期別にみると、1996年10〜12月期をピークとして、その後は期を追って増加幅が縮小し、1998年1〜3月期には前年同期比9.5%減とやや大きく減少した。産業別には、建設業で4〜6月期以降は減少に転じたほか、製造業、卸売・小売業,飲食店、サービス業等の主要産業において、いずれも期を追って伸びが鈍化、あるいは減少に転じたことが要因となっている(第2図)。
(再び増加に転じた新規求職)
- 一方、新規求職者の動きをみると、1997年に入って再び増加基調に転じ、年平均では前年比4.7%増となり、その水準は比較可能な1963年以来最高となった。常用新規求職者の増加を自発的離職求職者、非自発的離職求職者及び離職者以外の求職者に分けてみると、いずれの寄与も増加に働いている。特に1996年におおむね減少基調で推移していた非自発的離職求職者は再び増加に転じ、1998年1〜3月期には前年比27.6%増となった(第3図)。
(有効求人倍率は10〜12月期以降低下)
- 有効求人倍率(季節調整値)は、1〜3月期から7〜9月期までおおむね横ばいで推移していたが、求人の減少、求職の増加幅の拡大から10〜12月期には0.69倍に低下し、1998年1〜3月期は0.61倍と1986年10〜12月期以来の水準となった(前掲第1図)。
(労働力人口、就業者数、雇用者数とも年後半に男性の増加幅が縮小)
- 労働力人口、就業者数は年平均では前年に引き続き増加幅が拡大したが、四半期別にみるといずれも年前半には大幅な増加をみせたものの、年後半に男性の増加幅が大きく縮小したことを受け、7〜9月期以降増加幅が縮小し、就業者数は1998年1〜3月期には前年同期差3万人増にとどまった。就業者を自営業主、家族従業者、雇用者に分けてみると、雇用者数が年前半に大幅に増加したものの、7〜9月期以降男性を中心に増加幅が大きく縮小したことが就業者の動向に大きな影響を与えた(第4図)。
また自営業主、家族従業者は年平均でみると前年差7万人増、同6万人減となり、1996年と比べ自営業主は増加に転じ、家族従業者も減少幅が縮小しており、年平均の就業者数の増加幅の拡大に寄与している。特に自営業主の増加は1987年以来10年ぶりである。
(7〜9月期以降は製造業、10〜12月期以降は建設業で雇用者数が減少)
- 1997年の雇用者数は、前年差69万人増と前年の増加幅をやや上回ったものの、1〜3月期に大幅に増加幅が拡大した後、7〜9月期、10〜12月期の増加幅は1〜3月期に比べ半減した。その後、景気が一段と厳しさを増したことを反映して、1998年2月及び3月には前年を下回る水準となり、1998年1〜3月期で前年同期差1万人増にとどまった。産業別にみると、サービス業は1997年に入って以降も専門サービス業や対事業所サービス業を中心に堅調に増加した一方で、7〜9月期以降は製造業、卸売・小売業,飲食店の減少ないし増加幅縮小、加えて10〜12月期以降建設業が減少に転じたことが年後半以降の増加幅縮小の要因となった(第5図)。
(短時間雇用者が引き続き増加)
- 非農林業雇用者について、週間就業時間が35時間未満の短時間労働者と、35時間以上の労働者に分けてみると、35時間以上の労働者が男女とも特に年後半に増加幅が縮小したのに対し、35時間未満の女性については1997年から1998年1〜3月期にかけて、比較的安定した増加を続けた(第6図)。これを産業別にみると、特にサービス業や飲食料品小売業、飲食店等の女性の増加が大きく、男性への雇用需要が減退した産業と女性短時間労働者に対する需要が増加した産業は異なっており、両者間の代替がおきているというより産業間の業況や雇用需要の差が両者の動きの差をもたらしていると考えられる。さらに、非農林業雇用者を常雇と臨時・日雇に分けてみると、常雇の増加幅が縮小し、1998年1〜3月期には減少に転じたが、臨時・日雇は増加を続けた。男女別には、特に男性常雇が年後半以降増加幅が縮小し、1998年1〜3月期にはやや大きな減少に転じた一方、臨時・日雇は、男性は10〜12月期以降増加幅が大きく縮小したが、女性では大きな変化がなかった。
(1997年後半以降の男性雇用者数の伸びの低下の背景)
- 1997年7〜9月期以降の男性雇用者の動きを詳しくみると、産業別では、年後半は卸売業の減少幅の拡大とともに建設業、小売業,飲食店及び製造業の増加幅の縮小、減少がみられた。また企業規模別には100人未満規模企業における増加幅の縮小ないし減少に加えて1998年1〜3月期には1,000人以上規模の減少が大きく、従業上の地位別には常雇の年後半以降の増加幅の縮小ないし減少が大きいことなどが指摘できる。
こうした男性への雇用需要の伸びの鈍化を反映し、1997年前半には上昇していた男性の労働力率が、7〜9月期以降低下に転じ、労働力人口の増加幅も縮小したと考えられる。男性労働力人口の動きについて、労働力状態の変化(フロー)の面からみると、4〜6月期以降は就業者から非労働力人口への流出が大幅に増加し、7〜9月期以降は非労働力人口から就業者への流入が縮小するなど、そのいずれもが非労働力化に寄与したことが主因となって、労働力人口の増加幅が縮小したことが分かる(第7図)。
(完全失業率は期を追って上昇)
- 1997年平均の完全失業率は3.4%となり、比較可能な1953年以来最高水準であった1996年と同水準となった。季節調整値の推移をみると、1997年1〜3月期の3.3%から10〜12月期には3.5%となり、1998年1〜3月期には3.6%と四半期でみて比較可能な1953年以来最高の水準に上昇した(前掲第1図)。また単月では1998年に入って2月3.6%、3月3.9%と既往最高水準を2か月連続して更新した。男女別にみると、男性は年前半には3.3%、後半には3.4%と年後半にやや上昇した後、1998年1〜3月期には3.8%と大幅に上昇しており、女性も月によって上下しながら、年を通してやや上昇気味に推移した(第8図)。
(10〜12月期以降再び増加した非自発的離職失業者)
- 求職理由別の完全失業者数の推移を四半期別にみると、自発的離職失業者が年間を通じて増加している中で、年前半は非自発的離職失業者が減少を続け、「その他」の者も横ばい傾向であったのが、年後半には景気に足踏みがみられる中、非自発的離職失業者が10〜12月期に再び増加に転じ、1998年1〜3月期には非自発的離職失業者の増加幅が拡大したことに加え、「その他」の者も増加幅が拡大したことから、全体の増加幅が拡大した(第9図)。また、世帯主との続き柄別にみると、「その他の家族」が男女とも7〜9月期以降増加幅が拡大するとともに、世帯主も年前半の減少傾向から年後半は増加傾向となった。さらに、年齢階級別にみると、男女若年層及び男性60〜64歳層の完全失業率は引き続き高い水準にあるが、1997年後半には、男性はおおむね各年齢層とも失業率が上昇している中で、特に高年齢層の上昇が著しく、女性は40歳未満で上昇し、40歳以上では低下した。
(製造業の労働投入量と労働生産性)
- 製造業について、労働投入量の動きを生産の動向とともにみると、生産指数は1992年10〜12月期を底に前年比のマイナスが縮小し、それに伴って、労働投入量の前年比も1993年4〜6月期から上昇を始めたが、雇用者数はその後も減少幅を拡大させており、1996年後半になって前年比プラスに転じた。この時期に長引いていたバブル崩壊後の雇用調整がほぼ終了したとみることができる。その後、1997年に入ると、生産の伸びが7〜9月期以降大きく鈍化する中で、労働投入量も10〜12月期には減少となった。年後半の特徴は、雇用者数の前年比が生産と同時に低下したことであり、これは雇用面の調整が一段落し、雇用の本格的拡大に入る前に在庫調整が始まったことによる影響とみられる(第10図)。
- 稼働率の影響を考慮した労働生産性と労働生産性のタイムトレンドを試算し、両者を比較すると、1992年から1993年頃にかけては稼働率調整労働生産性がトレンドを大幅に下回って推移しており、労働密度の低下が過去と比べても大きなものであったことがわかる。このため、今景気回復過程の初期においてはすぐに雇用の増加には結びつかない状況にあり、労働投入量にこの時期減少がみられたと考えられる(第11図)。
(第3次産業の生産、労働投入量、労働生産性)
- サービス業について、生産と労働投入量、労働生産性の関係をみると、1991年以降の景気後退期も他産業に比べて活動指数の落ち込みは比較的小さい一方、労働投入量は労働時間短縮もあり1991年から1993年にかけて活動指数と同様低下し、労働生産性は景気後退期にも低下しなかった。1997年に入ってからは、活動指数の伸びは一進一退を繰り返す中で、再び労働時間が短縮したことから労働投入量は横ばいとなって、労働生産性は低下しなかった(第12図)。卸売・小売業,飲食店について同様にみると、1991年以降雇用者数の増加が続く一方で労働時間短縮が進んだが、活動指数の低下が大幅であったため、労働生産性は1992、93年と低下した。1997年に入ってからは後半になって活動指数が急落したが、労働時間の短縮により労働投入量も同様に低下し、労働生産性は低下しなかった。
(1997年後半には各産業で業況が悪化)
- 企業の業況を業況判断D.I.でみると、1997年の半ば以降急激に落ち込んだが、産業別には、建設業は1997年1〜3月期から落ち込み始めているのに対し、卸売・小売業は4〜6月期以降、製造業は7〜9月期以降であり、また、サービス業は落ち込みそのものが緩やかであった。ただし、1998年1〜3月期にはおおむねいずれの産業でもやや大きく落ち込み、建設業及び卸売・小売業では1975年以降で最も低い水準となっている(第13図)。
(高まりがみられた雇用過剰感)
- 全国企業の雇用人員判断D.I.の推移をみると、製造業では1994年以降、非製造業でも1995年8月調査以降総じて過剰感は緩やかな低下の動きがみられていたのが、1997年後半になって改善の動きに足踏みがみられ、再び雇用過剰感が高まった(第14図)。
(雇用調整実施事業所割合も10〜12月期に上昇)
- 雇用調整実施事業所割合は、景気回復の足踏みや業況の悪化、雇用過剰感の高まりを反映し、建設業で1997年10〜12月期に大幅に上昇したほか、製造業でも1997年後半には上昇がみられた。その他の産業でもおおむね10〜12月期に上昇した(第15図)。
(業況の悪化を受け年後半以降厳しさを増していった雇用失業情勢)
- 企業の業況感の悪化や雇用過剰感の高まりを背景に、1997年後半以降雇用需要が減退した。産業別にみると、建設業で早くから業況が悪化し、4〜6月期には新規求人、7〜9月期には所定外労働時間が減少となった後10〜12月期には雇用者数の減少が始まった。次に卸売・小売業,飲食店において消費停滞の影響が所定外労働時間や新規求人に現れ、年後半には雇用者数も前年比減少ないし横ばいとなった。製造業では7〜9月期以降所定外労働時間、新規求人の伸びが鈍化し、雇用者数も前年比減少となった。こうした中で、サービス業の雇用者数は大幅な増加を続け、雇用全体の下支えとなった(第16図)。雇用需要の減退は年後半以降の求人倍率の低下、失業率の上昇に影響した。
(障害者実雇用率は前年と同水準)
- 1997年6月1日現在における障害者実雇用率をみると、1.47%と前年(1.47%)に続き過去最高の水準となった。これを企業規模別にみると、300人以上規模では各規模とも前年を上回ったが、300人未満規模では1994年以降実雇用率が低下している。一方雇用率未達成企業の割合をみると、300人以上規模では低下しているものの300人未満の規模では上昇しており、中小規模企業での障害者雇用に厳しさが出てきていることがうかがわれる。
(外国人労働者の動向)
- 1997年における就労目的新規入国外国人は前年に比べ増加した。また、就労を目的とする在留資格での外国人登録者数も1996年には前年に比べ増加した。一方、外国人雇用状況報告結果によると、1997年の直接雇用の事業所数、外国人労働者数は前回(1996年)よりもそれぞれ11.7%、10.6%増加した。産業別には製造業、サービス業、卸売・小売業,飲食店の3産業で全体の約9割を占めている。
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