1997年(平成9年)の我が国経済をみると、1〜3月期の消費税率引上げ前の駆け込み需要の後、7〜9月期にはその反動減から立ち直りつつあったが、秋以降、景気は足踏み状態となり、さらに1998年初には景気は停滞し、一層厳しさを増した。こうした中、雇用失業情勢は年前半は厳しいながらも改善の動きがみられたが、年後半以降厳しい状況となり、1998年3月には完全失業率が既往最高の3.9%を記録するなど、更に厳しさを増していった。一方、消費者物価の上昇幅の拡大から4〜6月期以降実質賃金は前年を下回ったほか、年間総実労働時間は1,891時間と初めて1,900時間を下回った。 第1章 雇用・失業の動向
(年後半には、有効求人倍率が低下、雇用者の増加幅も縮小)
(完全失業率は期を追って上昇)
(4〜6月期以降前年を下回った実質賃金と減少に転じた総実労働時間) |
安定成長期には、国際化、サービス化、情報化等の経済構造の変化や、高齢化、女性の職場進出、高学歴化等の労働力供給面の変化のほか、労働市場や労働条件に関する制度も大きく変化している。 就業構造はサービス化、ホワイトカラー化が進んでいる。また、転職率は中長期的に上昇しているが、男性中高年齢層等の基幹層で労働移動が活発化しているわけではない。完全失業率も中長期的に上昇しているが、世帯主等での上昇は小さく、若年層と男性高年齢層で上昇が著しい。 今後は、高齢化から少子・高齢化へ変化するので、その対応が重要である。また、企業の雇用維持努力を前提としつつ、雇用面のセイフティネットの充実と労働力需給調整機能の強化が重要である。 |
就業形態の多様化は、若年層、女性中年層及び男性高年齢層を中心に進展している。 職業生涯の変化をみると、企業の新規学卒者、若年者重視に大きな変化はないが、パートや中途採用の活用等採用戦略に多様化がみられる。また、団塊の世代以降昇進に遅れがみられ、人事管理制度の多様化、個別化の動きがみられる。職業能力開発は、自己啓発が重視されている。平均勤続年数は長期化しており、企業、労働者とも長期雇用に対する期待は強い。60歳以上定年の普及と退職形態の多様化が進んでいる。 労働条件面では、賃金の年齢間格差が縮小し、賃金制度は能力・実績重視の動きがみられる。労働時間は大幅に短縮が進んでいる。福利厚生は、個々のニーズに応じ、多様化している。職場環境は、死傷者数全体では減少しているが、死亡者数は近年横ばい傾向にあり、職場ストレスが増えている。 働き方の個別性、自律性重視の流れの中で、長期雇用を維持するためにも、働き方の仕組みを変えていくことが重要であり、働き方の自己選択の確立と評価制度の構築、個別紛争への対応等の新しいルールの整備が重要である。また、従来の働き方の下で経験を積み重ねてきた中高年齢層への配慮が必要である。新しいルールの整備等には、労使の努力が基本的に重要であり、政府の役割も重要である。 |
増加傾向にあった勤労者家計の収入及び消費支出は、1990年代に入り収入の伸びは緩やかで、実質消費支出は横ばいである。保険や住宅ローン等の増加による家計の自由度の低下に加え、バブル崩壊後の不透明感の影響により、平均消費性向は低下傾向にある。貯蓄は生命保険などを中心に大幅に増加し、負債は住宅ローンを抱える中年層で大きく増加している。 生活時間をみると、週休2日制の普及もあって、週末の仕事時間が減少し、自由時間が増加している。有業女性の生活時間構造は、結婚、出産とライフサイクルが進むにつれて大きく変化し、男性との差が大きくなっている。 今後一層の生活の充実のためには、構造改革等による我が国経済と雇用に対する不透明感の払拭と高齢社会における具体的な生活のビジョンが必要であり、また内外価格差の是正や自由時間の充実を図るほか、企業中心のライフスタイルの転換のため、社会や企業の仕組みの変革と併せて労働者自らの発想の転換が必要不可欠である。 |
我が国が安定成長期に入ってから四半世紀が経過している。この間、労働条件や生活水準が着実に向上するとともに、経済社会の構造変化の影響を受けて、雇用面や働き方、生活の面で様々な変化が生じている。今後、21世紀に向けて我が国は新たな構造改革期を迎えており、経済社会の構造変化は一層急激になるであろう。これに伴って、労働者にも大きな変化がもたらされることが予想され、それだけ将来の生活や雇用に対する不安感が強まっている。したがって、一方でこの不安感を払拭しつつ、変化に柔軟に対応して我が国経済の活力を維持していかなくてはならない。そのためには、基本的には長期雇用慣行を維持しつつ外部労働市場の機能も強化することにより雇用の安定を図るとともに、労働者の働き方を、従来の画一的・集団的なものから、個人個人の置かれた状況、意識、将来設計、能力などに応じて自ら選択し、かつ自律的に働くものへと変えていく必要がある。これには、企業はもとより労働者の努力の積み重ねが重要であり、行政の支援も必要不可欠である。 |