第3節 高齢化への企業の対応と課題
賃金カーブはここ20年でフラット化している。今後は成果主義的賃金の拡大が予想されるが、企業の評価制度は課題が多い。高齢化の下で役職者割合が高まっているが、それでも昇進の遅れがみられる。逆転人事も珍しくなくなっており、企業は、職位でなく仕事そのもののやりがいで労働者のインセンティブを引き出す新しいシステムを形成しつつある。65歳までの雇用継続は徐々に広がっている。継続雇用で、賃金や雇用形態は変わるが、仕事の内容や勤務形態は変わらないことが多い。
(企業における高齢化の実態)
卸売・小売業,飲食店、金融・保険業といった高齢化が比較的進んでいなかった産業で近年高齢化スピードが速くなっており、高齢化の進展が産業全体に広がっている。規模別には、高齢化の進んでいなかった大規模企業で近年高齢化が急速に進行している。
(フラット化してきている賃金カーブ)
賃金カーブはここ20年で中高年齢者を中心にフラット化しており(
第70図
)、その程度は高齢化のスピードの速い業種、規模ほど大きい傾向があることから、高齢化が進んでいる企業ほど年齢による制約の小さい賃金制度に変化している傾向があると考えられる(
第71図
)。同一年齢における賃金のばらつきは、大卒40歳台以上の他は拡大しておらず、全体としては、賃金決定の基準が年齢から能力や成果に移行しているというよりは、高齢化の下で、年齢間の賃金配分が徐々に変わってきた可能性が強い。
(拡大が予想される成果主義的賃金制度)
今後は、大卒、管理職以外も含め、成果主義的賃金制度が広がっていくことが予想される(
第72図
)。これにより労働者の労働意欲が高められるかどうかは、仕事分担の明確化、裁量範囲の見直し、能力開発機会の保証等の施策が講じられるか、評価基準の明確化や評価結果の透明性などにかかっている。企業の評価制度はまだまだ課題が多い。
(中年層での教育費出費が大きい日本の生計費)
日本、アメリカ、ドイツの賃金カーブとそれに関わりの大きい生計費カーブを比べると、日本の方が傾きが急である。特に日本は中高年齢層での教育費負担が大きい(
第73図
)。
(役職者割合の高まりと昇進の遅れ)
高齢化の下で役職者割合が高まっている。この傾向は特に高齢化スピードの速い大規模企業において著しく、年功処遇に苦心する企業の姿がうかがわれる。役職者割合の年齢別の変化は、若年でやや低下し、高い年齢で大幅に上昇している(
第74図
)。しかし、これは、役職に就く割合が相対的に高い大卒者比率の上昇によるものであり、学歴別では、役職への昇進の遅れがみられ、さらに、大卒でも役職に就けない者が増えている(
第75図
)。
(珍しくなくなってきた逆転人事とインセンティブを引き出す新たなシステムの形成)
こうした中で、同学歴で年下の者が年長者の上司になること、いわゆる逆転人事も珍しくなくなってきている。そうしたことがある程度行われている企業では、できるだけ責任を与え、権限委譲を進めたり、専門的な仕事への配置などにより、年長者のモチベーション維持が図られている(
第76図
)。また、そのような立場に置かれている50歳台、60歳台の労働者のほとんどが「会社のシステムであり他の同年配も同じであるから」「仕事中心で職位にこだわらない雰囲気だから」等の理由で抵抗感はないと答えている。
このように、従来のような年功的処遇が困難になってきている中で、企業は職位ではなく、仕事そのもののやりがいによって労働者のインセンティブを引き出す新たなシステムを形成しつつある。働く側もこうした動きに適応しつつある。このような新たな仕組みの中では、職位によらずに組織の中で存在価値が認められる確固たる能力を身につけているかどうかが本人の働きがいに直結することになる。
(専門職制度の実施状況と問題点)
専門職制度については、導入割合は1990年代に入り、頭打ちになっているが、その内容は職位の不足を補う処遇ポスト的なものから、各分野のラインの業務の中で個々の労働者の専門性をいかすことを目的としたものに変化してきている。労働者にとって組織の中で存在価値が認められる確固たる能力を身につけることの重要性が増しており、こうした中で、自己啓発の取組やこれを支援する企業の取組も活発化している。
(60歳定年制の雇用効果)
政策や労使の積極的な取組により60歳定年制は、1980年代、1990年代を通じ普及率が着実に上昇し、定着したといえる。1980年代以降の50歳台後半の雇用状況の改善、残存率の高まり、勤続年数の伸張などをみても、60歳定年の雇用効果は明らかである(
第77図
、
第78図
)。早期退職優遇制度も普及した。なお、1980年代半ばには、定年延長にあわせて新規採用の手控えがあったが、好況期の1989年にはほとんどなくなっている。
(65歳までの雇用継続の広がり)
65歳までの希望者全員の継続雇用制度がある企業は2割前後で推移しているが、65歳まで雇用するなんらかの制度を有する企業割合は5割以上となっており(
第79図
)、また、60歳定年後の継続雇用制度を有する企業は約7割、定年到達者への勤務延長・再雇用制度の適用者割合の高まりなど、徐々にではあるが60歳以上の継続雇用の動きは広がりつつある。一方、50歳代の労働者に、60歳代前半層の望ましい働き方を聞くと「今の会社でフルタイム」等継続雇用を希望する者が多い(
第80図
)。
(継続雇用制度導入企業の実態)
継続雇用制度導入企業の実態をみると、役職、雇用形態は変化するが、仕事の内容や勤務形態は変わらない場合が多い。所属部署も知識・技能・経験や人脈をいかす等の理由で変わらない場合が多い。賃金は約3割低下するが、60歳台前半で再就職する場合(約5割)に比べ、その低下幅は小さく、職務継続性も継続雇用の方が高い(
第81図
、
第82表
)。
(阻害要因と対応)
継続雇用制度を導入せず、その予定もない企業では、作業能率の低下、賃金や処遇の問題などを阻害要因として挙げている。継続雇用を実施している企業では、作業能率の低下に対しては、高年齢者が負担を感じずに安心して働ける職場づくり、賃金や処遇・ポスト面については、生計費や体力との調和を図りつつ賃金コスト増を少なくし、雇用形態の切替えで、人事の停滞を防ぎつつ、高年齢者のこれまでの経験・能力の活用により、対応を図っている(
第83図
)。
(再就職あっせん等の実態)
定年到達者への再就職あっせん制度や早期退職優遇制度、転職援助あっせん制度、独立開業支援制度の状況をみると、規模計では低いものの、5,000人以上規模企業ではある程度導入が進んでいる。
(今後の60歳以降の雇用方針)
年金支給開始年齢の引上げに伴って、自社内で60歳以上の継続雇用を「積極的に進めていきたい」、「進めざるをえない」とする企業は8割以上に上っている。実際、2001年度からの年金支給開始年齢引上げを目前にして、65歳継続雇用に向けた労使の取組が活発化しており、電機や繊維産業などの大手企業を中心に65歳までの雇用延長について大枠での労使合意に達している企業も増えてきている。
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