第T部 平成11年労働経済の推移と特徴
第1章 雇用・失業の動向
(平成11年(1999年)の雇用・失業情勢の特徴)
- 1999年の雇用・失業情勢は、1998年の大幅な悪化の後、依然厳しい状況が続いた。有効求人倍率は5月に既往最低を記録し、新規求人数が季節調整値で1999年後半に増加に転じたものの、有効求人倍率は低水準で推移した。雇用者数も、1999年後半以降減少幅は縮小したものの、常雇を中心に大幅な減少が続いた。完全失業者も非自発的離職失業者、自発的離職失業者を中心に増加が続いたが、年央以降増加幅は縮小した。完全失業率も3月、4月、6月、7月にそれまでの既往最高の4.8%となるなど、厳しい状況が続いた。その後、景気の緩やかな改善を受けて、年央以降有効求人倍率が若干上昇するなどの動きもみられたが、2000年に入っても2月、3月と完全失業率が既往最高の4.9%となるなど、雇用・失業情勢は依然として厳しい状況となっている(第1図)。
(7〜9月期から前年同期比で増加した新規求人)
- 新規求人数(新規学卒者を除く)は1999年平均で前年比0.7%減と2年連続で減少した。四半期別にみると、1997年10〜12月期以降前年同期比で減少が続いていたが、1999年7〜9月期以降増加に転じた。季節調整値前期比でみても、1999年7〜9月期以降は増加が続いた。産業別には、1999年平均では製造業、建設業等の減少幅が縮小し、サービス業、卸売・小売業, 飲食店が増加に転じた(第2図)。増加幅が最も大きいサービス業の中でも大きく増加している業種としては情報サービス業、医療,教育,社会福祉等があげられる。
(増加幅が縮小した新規求職)
- 一方、新規求職者は1999年平均で前年比4.2%増と1998年より増加幅は縮小したものの、依然高水準で推移した。常用新規求職者の増加を自発的離職求職者、非自発的離職求職者、離職者以外の求職者に分けてそれぞれの寄与度をみると、1999年に入って自発的離職求職者は減少に転じ、非自発的離職求職者も4〜6月期を除いて減少し、離職者以外の求職者も増加幅は縮小した。その結果、離職求職者は1999年平均で減少に転じ、2000年1〜3月期も非自発的離職求職者の減少幅が拡大し、離職求職者は減少した(第3図)。こうした状況を背景に、雇用保険の受給者実人員は1999年平均で過去最高水準となったものの、前年比5.0%と1998年に比べ増加幅は縮小し、2000年1〜3月期は1991年4〜6月期以来の減少となった。
(有効求人倍率は過去最低水準の後、上昇)
- 有効求人倍率は1999年平均で0.48倍となり、比較可能な1963年以降で最低となった。四半期別にみると、1999年1〜3月期0.48倍の後、4〜6月期、7〜9月期0.47倍と過去最低水準の後、10〜12月期は0.49倍、2000年1〜3月期0.52倍と上昇し、6四半期ぶりに0.5倍台となった(前掲第1図)。この動きについて、前期差を新規求人・求職、繰越求人・求職に要因分解してみると、7〜9月期には新規求人が上昇に寄与して横ばい、10〜12月期には繰越求人の上昇寄与が拡大し、新規求職も減少して上昇寄与に転じたことから有効求人倍率は上昇し、2000年1〜3月期も新規求人の上昇寄与の拡大等により有効求人倍率はさらに上昇した(第4図)。新規学卒労働市場は、大卒、高卒とも1999年の就職率は過去最低となり、2000年も引き続き厳しい状態にあった(第5表)。
(男女とも低下が続く労働力率)
- 労働力人口は1999年平均で前年差14万人減と、1974年以来の減少となり、男女いずれも減少した。労働力率の動きをみると、年平均で62.9%と前年より0.4%ポイント低下し、2年連続の低下となった。男女別には、男性が76.9%で0.4%ポイント低下、女性は49.6%で0.5%ポイント低下となり、いずれも2年連続で低下となった。1999年の労働力率の低下について年齢階級別にみると、男性はほとんどの年齢層で低下したが、労働力需給の状態に敏感に反応しやすい15〜24歳層と65歳以上層で低下寄与が大きく、特に15〜24歳層は、若年労働市場の厳しさ等から低下寄与が拡大した。女性は25〜34歳層が上昇寄与となったものの、15〜24歳層の低下寄与が拡大した。また、人口構成変化要因についてみると、高齢化による人口構成変化によるマイナス効果が近年拡大し、女性の労働力率が1999年は0.3%ほど引き下げられている(第6図)。
(大幅な減少の続く就業者数)
- 就業者数は、1999年平均で6,462万人、前年差52万人減と2年連続で減少となり、減少幅も比較可能な1954年以降で最大となった。男女別にみると、男性は4〜6月期前年同期差46万人減の後、減少幅は縮小し、10〜12月期同9万人減となったが、2000年1〜3月期は同23万人減と減少幅は再び拡大した。女性は1〜3月期に前年同期差47万人減の後、減少幅は徐々に縮小し、10〜12月期、2000年1〜3月期は同6万人減となった。就業者を自営業主、家族従業者、雇用者に分けてみると、自営業主と家族従業者は前年比減少が続いているほか、就業者の8割近くを占める雇用者で前年差37万人減と減少幅が拡大したことが、就業者数の減少幅の拡大に大きく影響した。
(製造業等で減少が続く雇用者数)
- 雇用者数は、1999年平均で5,331万人、前年差37万人減と2年連続で減少し、減少幅も拡大した。年前半の大幅減の後、景気の緩やかな改善を受けて、年後半以降は減少幅は縮小した。産業別にみると、製造業は1999年は1998年に比べて減少幅が縮小した。建設業は経済対策の政策効果等から7〜9月期は増加となったが、10〜12月期以降再び減少に転じた。卸売・小売業, 飲食店は小売業や飲食店の増加が寄与して年を通じて増加が続いた。サービス業は、常雇の減少から1〜3月期に減少に転じた後、増加と減少を繰り返し、10〜12月期以降は増加した(第7図)。従業上の地位別にみると、臨時・日雇が前年差で引き続き増加となったのに対して、常雇は2年連続で減少し、減少幅も前年から拡大した。
(ホワイトカラー職種により厳しい雇用情勢)
- 職種別の動きをみると、技能工、単純工で雇用過剰感が大きく低下し、ブルーカラー職種で1999年の雇用者の減少幅は縮小した。専門的・技術的職業従事者の増加幅は大幅に縮小した。また、事務従事者は減少に転じ、管理的職業従事者は減少幅が拡大するなど雇用過剰感が依然として高い状態もみられる(第8図)。
(活動指数に遅れて鈍化・減少した1999年のサービス業の雇用者)
- サービス業の雇用者数の伸びは1998年に比べて大幅に鈍化した。個人消費の低迷から対個人サービス業等で減少傾向で推移した。サービス業の活動指数は1997年10〜12月期以降1999年10〜12月期まで前年同期比で減少し、サービス業の活動が低調に推移したことが、遅れを伴って、サービス業の雇用の鈍化、減少となって現れたと考えられる(第9図)。
(生産・所定外労働時間が増加しても減少が続く製造業の常用雇用)
- 製造業の所定外労働時間、常用雇用指数、鉱工業生産指数の動きをみると、今回の不況においては、生産と所定外労働時間が1999年に入って回復の動きをみせ始めたものの、常用雇用指数は引き続き、悪化を続けた。
(すぐに減少した今不況期の生産と常用雇用)
- 過去の景気後退局面について、常用雇用指数と生産指数の動きをみると、第2次石油危機後、円高不況期には常用雇用も生産もほとんど減少せずにすぐ回復に向かったのに対し、今回の景気後退局面では初めから常用雇用、生産ともに減少している(第10図)。今回の不況は、バブル後の不況の後に常用雇用が回復しないうちに再び不況に入ったため、バブル期後から直近までのトータルの常用雇用の減少幅は大きくなっている。
(依然として高い企業の雇用過剰感)
- 雇用人員判断D.I.の動きをみると、1999年に入って、生産の持ち直しに合わせて若干過剰感が低下したものの、依然高い水準で推移した。製造業、非製造業ともに規模が大きいほど雇用過剰感の水準は高い(第11図)。
(雇用調整実施事業所割合も依然として高水準)
- 雇用調整実施事業所割合の動きをみると、水準は高いものの1999年1〜3月期をピークに低下傾向にあった。製造業における雇用調整実施事業所割合は他業種に比べて高い水準にあった。雇用調整等の方法別では、残業規制や配置転換等の方法の実施割合が高く、希望退職の募集、解雇といった厳しい雇用調整方法は1〜3月期に過去の不況期に比べて高い割合となったが、その後はそうした動きは落ち着きがみられた。
(完全失業率は既往最高水準で推移)
- 完全失業率(季節調整値)は1998年に引き続き上昇し、3月、4月、6月、7月と4.8%を記録し、その後やや低下したものの、2000年2月、3月は4.9%と比較可能な1953年以降で最高水準を記録した。特に男性は2000年3月、過去最高の5.2%となった(第12図)。1999年平均でも4.7%と1998年よりさらに0.6%ポイント上昇し、過去最高となった。男女別にみても、男性4.8%、女性4.5%と、男女ともこれまでにない水準となった。完全失業者数は1999年平均で317万人(前年差38万人増)、男女別には男性194万人(同26万人増)、女性123万人(同12万人増)といずれもこれまでの最高水準となった。
- 完全失業率が1999年年央まで上昇した背景には、厳しい経営環境下で1998年度末にかけて雇用人員の削減を行う企業があったことや、入職抑制により春先から学卒未就職による失業者が増加したことなどの影響も考えられる。一方、年後半は、生産に持ち直しの動きが出始め、企業の雇用過剰感もやや低下したことから、完全失業率はやや落ち着いた動きとなった。2000年1〜3月期は、求人の増加が失業者の再就職に結び付きにくくなっており、男性失業者で滞留傾向が強まっていることから、男性を中心に完全失業率が上昇した。
(高い水準で推移する非自発的離職失業)
- 完全失業者数について求職理由別にみると、各属性とも大幅な増加となり、既往最高の水準となった。特に非自発的離職失業者が102万人(前年差17万人増)と、増加幅は1998年より縮小したものの、初めて100万人台を記録した(第13図)。世帯主との続き柄別にみても、いずれの続き柄も増加が続き、それぞれ過去最高の水準となった。
(ほとんどの年齢層で失業率が上昇)
- 完全失業率を年齢階級別にみると、ほとんどの年齢層で上昇した。従来あまり完全失業率の上昇がみられなかった男性中堅層でも上昇の動きがみられ、厳しい状況となった。
(就業から失業への流れは伸びはやや鈍化)
- 労働力状態の変化(フロー)をみると、就業者が非労働力人口となる動きは男性で微増、女性で減少したものの、完全失業者が非労働力人口となる動きが男女とも増加して、労働力率は低下した。一方、就業者が失業化する流れは、1999年に入って男女とも伸びは鈍化したものの高い水準で推移しており、失業から就業への動きを上回っている(第14図)。
(水準は依然高いものの落ち着いた動きとなった需要不足失業)
- 完全失業率を構造的・摩擦的失業率と需要不足失業率に分けてみると、構造的・摩擦的失業率は1998年以降3%台で、需要不足失業率は1998年前半に急上昇した後1%台前半で推移している。2000年1〜3月期に完全失業率が上昇するなど高水準で推移した背景には、構造的・摩擦的失業率の上昇の寄与があったことも考えられる(第15図)。フローデータを用いた試算では、1999年は失業頻度は男女とも上昇幅が縮小し、失業継続期間も女性で長期化の幅が縮小、男性では短縮に転じた。2000年1〜3月期は男性で失業継続期間が長期化し滞留の動きもみられる。
(障害者実雇用率は前年と同水準)
- 1999年6月1日現在における障害者実雇用率は1.49%、法定雇用率未達成企業の割合は55.3%となった。これを改正法施行前の前年調査の集計対象範囲及び法定雇用率でみると、それぞれ1.48%(前年と同水準)、49.7%(前年差0.2%ポイント低下)となった。同様に企業規模別にみると、300人以上規模企業では前年に比べ上昇したが、300人未満規模企業では1994年以降実雇用率の低下が続いている。また、障害者の解雇届出数は1998年に比べれば減少したが、1997年以前の水準には回復していない。
(外国人労働者の動向)
- 我が国における外国人労働者は合法・不法を合わせ1998年現在約67万人である。就労する日系人はこれまで一貫して増加していたが1998年には初めて減少した。就労目的の新規入国外国人は1999年には1998年に比べ6.0%増加した。また、1999年の外国人雇用状況報告結果によると、直接雇用の事業所数は前年に比べ2.5%増となり、産業別には製造業、サービス業、卸売・小売業,飲食店の3産業で全体の約9割を占めている。
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