骨 子


第T部 平成11年労働経済の推移と特徴

  1999年(平成11年)の雇用・失業情勢は、年平均の完全失業率が4.7%と前年より0.6%ポイント上昇し、既往最高となるなど厳しい状況が続いた。景気の緩やかな改善を受けて、年央以降求人倍率の上昇など若干の持ち直しの動きもみられるが、完全失業率が2000年2月、3月と既往最高の4.9%となるなど、依然、厳しい状況が続いている。現金給与総額は2年続けて減少した。総実労働時間は引き続き減少した。消費者マインドに持ち直しの動きもみられるが、収入の低迷から消費支出には足踏みがみられる。

第1章 雇用・失業の状況

(年前半悪化し、年後半に明るい動きもみられたが依然として厳しい雇用・失業情勢)
 1999年の雇用・失業情勢は、年前半にかつてない雇用過剰感の高まりの中、雇用調整が強まり、雇用情勢が一段と悪化し、非自発的離職失業が増加し、完全失業率は3月4.8%と既往最高、求人倍率も5月には0.46倍と既往最低となり、雇用者数の減少幅も、年前半は1998年を上回った。年後半以降は、景気の緩やかな改善を受け、製造業所定外労働時間や求人が増加に転じ、雇用調整の動きが鎮静化し、求職者も減少に転じ、有効求人倍率も上昇した。しかし、雇用過剰感は若干低下したが、依然高水準であり、採用抑制の中、新規学卒就職状況は依然厳しく、雇用者も常雇の減少、臨時の増加が続く等厳しい側面が依然残っている。完全失業率は、2000年2月、3月4.9%と既往最高を更新した。

第2〜4章 賃金、労働時間等の動向

(2年連続して減少した現金給与総額と引き続き減少した総実労働時間)
 所定外給与が増加したが、所定内給与が初めて減少し、特別給与も大幅減少が続いたことから、現金給与総額は2年続けて減少した。総実労働時間は、生産の持ち直しから所定外労働時間の減少幅が縮小したが、出勤日数の減少により所定内労働時間が減少したことから引き続き減少した。勤労者家計は、消費者マインドに持ち直しの動きがみられたが、実収入の現行の調査開始以来最大の減少から消費支出は大幅な減少となった。



第U部 高齢社会の下での若年と中高年のベストミックス

第1章 経済構造変化と高齢化の進展

 業況の改善にもかかわらず、雇用過剰感の高まりなどから、一部の企業では入職抑制を中心とした雇用調整を伴うリストラクチャリングを実施、計画する動きがみられ、その厳しさは第1次石油危機時に匹敵する。一方、新たな雇用創出の動きもみられる。また、パートを多く活用する業種・業態の拡大などから非正規雇用比率がこれまで以上のテンポで拡大しているが、同一企業での一般からパートへの代替は比較的少ない。
 高齢化のマクロ経済への影響としては、技術進歩の活発化、消費需要の拡大等、需給両面でプラスの効果を期待できる。労働力人口の少子・高齢化に対応して企業の雇用需要構造を変革していく必要がある。労働力人口減少への対応としては、高年齢者、女性の有効活用をまず考えるべきである。


第2章 若年者の雇用・失業問題

 学卒労働市場は厳しい状況にあり、供給側の要因も働いて、学卒無業者比率は高卒で3割を超えている。若年の失業は自発的離職による失業が最も多く、親等の経済的支えによる側面もあると思われる。若年者の自発的離職率の最近の高まりはフリーターなど離転職の多い非正規労働者のウェイトの上昇によるところが大きい。
 最近の若年者の就業行動の背景には、職業に対する目的意識の希薄化や経済的豊かさなどの影響がある。近年増加しているフリーターの意識は多様であり、「自己実現型」、「将来不安型」、「フリーター継続型」、「その他」の4つに類型化できる。フリーターの3分の2はいずれは定職に就きたいと思っているが、実際には能力開発機会の乏しさから正規雇用への移行がうまくいかない者もいる。先の見通しの無い離転職の増加は、本人のみならず社会にとっても技術・技能の蓄積等の面で損失が大きい。
 新卒採用を基本としつつ、大規模企業を中心に、緩やかながら中途採用拡大の動きがみられる。今後、転職による産業間労働力調整の必要性も高まる。中途採用市場の整備に向けた課題への対応が必要である。学卒採用システムについては、仕事を選ぶ際に必要な知識などの付与や、職業や職場の実態に接し、体験する機会の提供が重要である。
 今後、若年者意識や産業構造変化に伴う構造的問題への対応が重要である。学校から職業への円滑な移行のためには、企業内での長期的育成システム、若年者の初職選択への真剣な取組やその環境作りの他、学校、行政、企業が一体となったマッチングが重要である。特に高卒については、質の向上に加え、より広い範囲の企業へのアプローチなどの取組が必要である。また、再チャレンジ可能な柔軟なシステムとなるよう、企業外の職業能力開発機能の充実などを図るとともに、企業における定着対策等が重要である。


第3章 高齢化と雇用・就業問題

 現在、60歳までの失業の方が深刻であるが、団塊の世代が60歳台前半にさしかかる10年後には、65歳までの就業の必要性が増すものと考えられ、それまでに雇用・就業機会確保のための環境条件を整備する必要がある。60歳台前半層で過去と比較すると、雇用者割合は大きく上昇し、しかも55歳当時の企業での継続雇用が増加している。
 60歳男性の平均余命は20年と、60歳定年が言われ始めた1970年頃と比べ5年延びている。高年齢者雇用を考える際に、専門的知識の蓄積など年齢とともに上昇していく能力を有効に活用する仕組み作りが重要である。我が国高年齢者の就業意欲は国際的にも高く、厚生年金支給開始年齢の引き上げは、就業への動きをさらに強めることが予想される。
 賃金カーブはフラット化している。成果主義的賃金の拡大が予想されるが、企業の評価制度は課題が多い。高齢化の下で昇進の遅れがみられる。逆転人事も珍しくなくなっており、企業は、職位でなく仕事そのもののやりがいで労働者のインセンティブを引き出す新しいシステムを形成しつつある。65歳までの雇用継続は徐々に広がっている。継続雇用で、賃金や雇用形態は変わるが、仕事の内容や勤務形態は変わらないことが多い。
 中高年齢者の再就職はこれまでの職種領域をベースとした移動が主体であることを踏まえた能力開発が必要である。求人の年齢要件設定が中高年の再就職を困難にしている。出向の機能としては、移動のショックの緩和、雇用機会の確保があるが、出向先の確保に苦心している。起業者に占める中高年齢者の割合が上昇してる。
 引退過程では、経済的な面で就業の必要性が低下しており、就業理由も生計目的以外の理由が増加している。一方、諸外国と比較してみると年金等への将来不安や、人とのつながりが希薄であることが老後生活への満足度を低めている。精神的にも豊かな老後生活を送るためには、若い時からの働き方を含め、地域等とのバランスのとれた関わりを考える必要がある。
 高年齢者活用の条件は、@年齢による制約の少ない賃金・処遇制度、A第一線でそれまでの経験をいかした業務、B責任、権限の分権化である。65歳までの雇用機会確保のための方向性は、@今後10年間での65歳定年制への労使の自主的取組、A65歳までの本格的就業機会確保に向けた段階的な取組、B企業の年齢に対する固定観念の払拭(求人年齢要件の緩和)、C確固たる能力を確立するための自己啓発への支援である。





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