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薬価基準制度の見直しに関する作業チーム報告書
(平成10年10月23日)


照会先 保険局医療課 内線(3276)


目  次


I 作業チームにおける作業方針

II 薬剤の分類について

1 対象薬剤

2 薬剤分類の考え方

(1) 基本的考え方
(2) 作業手順

3 作業結果と今後の課題

III 保険給付の仕組みについて

1 基本的考え方

(1) 薬の使用の適正化
(2) より安価な薬の使用促進
(3) 有用な薬剤の研究開発促進・安定供給
(4) 効率性・透明性の確保

2 購入価格について

(1) 実購入価格制の問題点
(2) 今後の検討方向

3 給付基準額の設定について

(1) 給付基準額の設定方法
(2) 給付基準額設定による価格への影響
(3) 患者への説明と薬剤の選択
(4) 薬剤の研究開発・安定供給に与える影響
(1) 特許品の取扱い
(2) 画期的新薬、希少疾病用医薬品等の取扱い
(3) 先発品と後発品
(5) 新しい制度を導入する際の環境整備

IV 終わりに

別紙1 作業チーム委員名簿

別紙2 作業チーム検討経過

別紙3 日本型参照価格制度に関する関係団体等の主な意見

別紙4 薬剤分類結果


I 作業チームにおける検討方針

 薬価基準制度の見直しに関する作業チーム(以下「作業チーム」という。)は、平成9年8月に与党医療保険制度改革協議会がとりまとめた「二十一世紀の国民医療−良質な医療と皆保険制度確保への指針」において示された薬価制度の改革案(以下「与党協案」という。)について、医療保険福祉審議会制度企画部会より、「制度企画部会での議論を具体的に進めるための素材提供」という要請を受け、平成10年7月以来、これまで11回にわたって検討を行ってきた。(委員名簿、検討経過は別紙1、2)
 作業チームにおいては、制度企画部会におけるこれまでの議論をふまえつつ、与党協案に示されている考え方に基づき、今後検討すべき事項をわかりやすく整理するという方針で、実現可能性を含め検討を行ったところである。
 制度企画部会においても、医薬品業界から意見聴取を行ったところであるが、薬価基準制度の見直しは、医薬品業界だけでなく医療関係者など関係方面に広く影響を与える問題であることから、当該検討作業の参考とするため、作業チームとしても幅広く関係団体等から意見聴取を行いつつ、以下のように議論のとりまとめを行ったところである。(関係団体等からの意見の概要は別紙3)


II 薬剤の分類について

1 対象薬剤

 現在、保険収載されている薬剤についてその一部を対象に試行的に分類作業を行った。具体的には、制度企画部会において了解された、薬効分類上、以下に分類されている4薬剤群の内用薬を対象としたが、必要に応じて、作業の過程で他の薬剤を追加した(*印)。

(1) 消化性潰瘍用剤(日本標準商品分類番号:232)

(2) 血圧降下剤(同:214)
 (*)利尿剤(同:213)、血管拡張剤(同:217)

(3) 解熱鎮痛消炎剤(同:114)
 (*)坐剤

(4) 感染症用剤(同:611〜629,641,642)

2 薬剤分類の考え方

(1) 基本的考え方

 薬剤の分類については、臨床上、薬剤処方の実態からみて同等に使用される薬剤を同一グループとするという基本的考え方に基づき、まず薬学的観点から整理作業を進め、続いて臨床的観点から検証作業を進めた。
 具体的には、以下の作業手順により、公開されている関連情報についてはできる限り利用して、分類作業を進めた。

(2) 作業手順

(1) 薬学的観点(薬効又は薬理作用の同等性及び化学構造の類似性)
ア 臨床上、薬効(薬の効き方)又は薬理作用(薬の作用のメカニズム)の 違いが使用薬剤を選択する基準となっていることから、薬剤の分類作業を行うにあたっては、まず薬効又は薬理作用の同等性に着目して分類作業を行った。なお、配合剤(複数の有効成分を配合したもの)については、薬効又は薬理作用の組合せに着目した。
イ 同一の薬理作用を有する薬剤について、臨床上、化学構造の違いによって使い分けが比較的明確になっている場合には、化学構造の類似性に着目して更に分類を行った。
ウ なお、同一成分・同一規格・同一剤型のものは、同等であるとして作業を行った。

(2) 臨床的観点(臨床的同等性)
 薬効又は薬理作用が同等であったとしても、臨床上の使用実態が明らかに異なる場合があり、このような場合には、別のグループとして扱うことも考えられる。
 このような観点から、薬効又は薬理作用の同等性等に基づく分類を行った後、同一グループ内の薬剤間の臨床的同等性に関し、以下のような観点から検証作業を行った。
ア 効能・効果の同等性
 各成分における効能・効果が明らかに違うか否か
イ 剤型・規格単位の同等性
 同一成分における剤型又は規格単位(一単位当たりの有効成分量)の違いによって、臨床上明らかに薬剤を使い分けているか否か
ウ 用法・用量の同等性
 同一成分における投与回数等の違いによって、臨床上明らかに薬剤を使 い分けているか否か
エ 効力、副作用の同等性
 効力や副作用の違いによって、臨床上明らかに薬剤を使い分けているか否か


3 作業結果と今後の課題

 今回の4薬剤群を例とした薬剤の分類作業については、薬効又は薬理作用の同等性を基本とした分類作業に臨床的同等性による評価を必要に応じ加味することにより、概ね適切に、薬剤処方の実態からみて同等に使用される薬剤を同一グループとすることができることが確認された。(分類結果については別紙4)
 なお、今回の作業で検討した薬剤群が限られた領域であることから、今後、薬剤の分類作業を全体的に進める場合には、臨床的同等性に関しては、今回、主要な要素として着目した4点の他、以下のような細部の留意点もあり、医学、薬学等の専門家からなる委員会を設置し、幅広く意見を聴取しまた情報を収集しつつ、薬剤分類に関する統一的な基準づくりを進めていくことが必要と考えられる。

(1) 併用して使用されることが通例の薬剤の取扱い

(2) 同一成分であるが投与経路が異なる薬剤の取扱い

(3) 臨床現場における使用性、利便性の向上を目的として開発されたキット製品(薬剤とその投与システムを組み合わせたもの)等の取扱い

(4) 製造方法が異なる薬剤(特にバイオテクノロジー(遺伝子組換技術等)応用医薬品)の取扱い

(5) 植物性の薬剤(漢方薬や生薬)の取扱い


III 保険給付の仕組みについて

1 基本的考え方

 制度企画部会での議論を踏まえ、以下の4つの視点から、保険給付の仕組みについて検討した。

(1) 薬の使用の適正化

 公定された薬価からの値引き販売で生じる薬価差を解消し、必要以上の薬の多用と高薬価な薬への移行傾向(高薬価シフト)を抑制するという観点から、必要な検討を行った。
 なお、検討事項とされた給付基準額により一律に支払うことについては、低価格品の場合には、給付基準額と購入価格の間に大幅な差額が生ずる可能性があるため、薬の使用の適正化の観点から、否定的に考えざるを得ない。購入価格と給付基準額いずれか低い額を基礎に保険給付を行う仕組みとすることが必要と考えられる。

(2) より安価な薬の使用促進

 コスト意識を高め、臨床上同等のものであれば、より安価な薬の使用促進を図るという観点から、必要な検討を行った。
 なお、この観点からは、まず患者、医療機関にコスト意識が働く仕組みとするため、購入価格又は給付基準額いずれか低い額を基礎として、一定率の保険給付を行う仕組み(一定率の患者負担)とすることが必要であると考えられる。
 更に、こうした給付基準額を超える部分の患者負担や定率の患者負担によるコスト意識が効果的に働くようにするため、患者、医療機関への価格情報も含めた適切な薬剤情報の提供等の措置を講ずることが必要と考えられる。

(3) 有用な薬剤の研究開発促進・安定供給

 国民にとって有用性の高い薬剤の研究開発の促進、薬剤の安定供給が図られる仕組みであるかという観点からの検討にも留意した。

(4) 効率性・透明性の確保

 制度の効率性・透明性が確保される仕組みであるかという観点からの検討にも留意した。


2 購入価格について

(1) 実購入価格制の問題点

(1) 公平性・安定性の観点

 完全な実購入価格制(医療機関が実際に購入した薬剤価格を保険給付の基礎とする仕組み)については、患者負担が医療機関毎にばらつきが生じてもある程度やむを得ないとの意見もあったが、患者負担の公平性、患者行動の安定性の観点から、以下のような問題があると考えられる。

ア 同一の薬剤について、医療機関・薬局間で薬剤価格に差が生じることはもちろんのこと、ある医療機関等では給付基準額を超える患者負担が発生し、ある医療機関等では発生しないこととなり、患者負担が不公平となる。
イ 医療機関等の中でも実購入価格が比較的安い大病院に患者が集中したり、安く薬を購入できる大型チェーン薬局に患者が集まったりと、保健医療政策(医療機関の役割分担等)に反する経済的誘因を持つことになる。
ウ 薬局の薬剤価格を医療機関が把握することは困難なので、医薬分業の場合、医療機関において患者に負担の有無も含めた的確な説明を行うことは事実上不可能である。また、患者側も全ての医療機関・薬局における薬剤価格に関する情報を比較検討することは現実的に不可能であるので、結果として不公平感を招くこととなる。

(2) 効率性・信頼性の観点

 初期投資は必要であるが商品流通システムを導入すれば実購入価格の把握は可能ではないかという意見もあったが、制度の効率性、信頼性という観点から、完全な実購入価格制については以下のような問題があると考えられる。

ア 実購入価格で支払うことは薬価差をなくすという観点からは望ましいが、1万2千種類以上の薬剤が、15万カ所の保険医療機関、4万カ所の保険薬局において流通している中で、実購入価格による事務処理には、膨大な経費が生じるとともに、価格の正確な把握等ための経費も膨大なものとなる。
イ 現在の薬剤流通の実態を考えると仮納入・仮払いの問題があり、ある時点の価格を把握できたとしても、それが実購入価格であるか正確に把握することが困難である。把握システム自体が不十分なものであれば、制度全 体への信頼性を失うこととなる。
ウ いわゆるトンネル卸を通すことにより購入価格をつり上げる行為を制度的に防止することができない。

(2) 今後の検討方向

 完全な実購入価格制は、薬価差を解消するという観点からは最善の方法であるが、上記のような問題点があることから、現実的にこれを導入することは困難であると考えられる。
 市場価格に応じて保険給付額が変動するという、薬価差解消のための実購入価格制の基本骨格を維持しつつ、このような問題点を解消できる仕組みを検討する際には、同一の薬剤について消費者価格が同一となるよう、製薬企業が届け出る全国一律の出荷価格を基本に流通経費等を加えた価格を基礎に保険給付を行っているドイツの方式を参考にして検討を進めることが現実的であると考えられる。
 また、この方式では、薬剤価格の引下げの経済的誘因がある程度生じる可能性があることから、後述する低価格品の価格上昇を防止する等の副次的効果も生じるのではないかと考えられる。
 しかし、この方式について具体的検討を行うに当たっては、流通の非効率性を温存することのないよう現在の流通システムを改善すること、流通システムの改善が保険給付額に反映されるような効率的な給付の仕組みとすることに留意することが必要である。


3 給付基準額の設定について

(1) 給付基準額の設定方法

 与党協案は、臨床上の同等性を有する薬剤グループ毎に、給付対象の上限とする基準額(給付基準額)を設定することにより、患者、医療機関のコスト意識を高め、臨床上同等のものであれば、より安価な薬剤を使用する経済的誘因を高めようとする仕組みと考えられる。
 給付基準額を設定することについては、公定価格を設定することと大差がなく、与党協案の実購入価格制の趣旨の一つである薬剤価格を自由な市場競争に委ねるという発想とは矛盾するのではないかとの意見もあったが、保険給付がなされる前提で保険制度としての給付の上限を全く設けないとすると、薬剤価格が著しく高価になる可能性が否定できないため、基本的には、給付基準額を設定することが必要と考えられる。
 給付基準額の設定については、薬剤グループをどのような範囲で設定するかが大きな問題であるが、いずれにしても市場に過度に介入しない透明かつ安定した制度であることが必要と考えられる。
 このような観点から、同一グループ内の全薬剤の加重平均値を基礎に給付基準額を設定する方法が基本と考えられるが、具体的に設定方法を検討する際には、作業チームの検討過程で指摘のあった以下のような点について、その可否も含め更に考え方を整理することが必要と考えられる。

(1) 医療機関における薬剤の損耗廃棄費用、管理費用の評価の考え方について

(2) 現行の新薬薬価算定方式に準じた給付基準額への加算の考え方について

(3) 新薬の場合における原価計算方式による給付基準額の考え方について

(4) 既存薬や従来の治療法と比較した費用−便益分析等の経済性評価の考え方について

(5) 複数規格、複数剤型等を有するグループに給付基準額を設定する際の考え方について

(6) 多くの薬剤が給付基準額に近い価格で高止まりする可能性に対応するための価格引下げ誘因の考え方について

(7) 価格抑制の観点から、グループ内の最低価格等を給付基準額の基礎とする考え方について

(2) 給付基準額設定による価格への影響

 薬剤を臨床上の同等性の観点から分類し、同一の給付基準額を設定した場合には、給付基準額を超える価格の薬剤は、患者・医療機関の薬剤選択の変化の可能性を踏まえ、その大多数については、製薬企業は給付基準額まで価格を引き下げる方向で行動するものと考えられる。
 一方、給付基準額を下回る価格の薬剤については、ドイツ等の例を見ると、低価格品の価格が一定程度上昇する可能性も否定できないため、これを防止できるような方策を導入することが必要と考えられる。
 例えば、以下のような方法が考えられるが、その適否については更に検討することが必要である。

(1) 定率負担を通じた、患者、医療機関のコスト意識を高めるよう、価格情報を含めた薬剤関連情報の積極的提供等を図る。
(2) 同一グループの市場平均価格と大幅に乖離した価格の薬剤について別途給付基準額を設定する。
(3) 薬剤給付に係る領収明細書を発行する。
 なお、低価格品への価格上昇防止の措置が適正な効果をもたらした場合には、給付基準額(加重平均値を基礎に設定することを前提)は、ゆるやかに低下していくことになると考えられる。

(3) 患者への説明と薬剤の選択

 与党協案は、患者が、医師から、薬剤の効能やその処方の必要性の他、患者負担を含めた説明を受け、納得の下に薬剤が選択される仕組みである。
 通常、一人の医師が診療で使用する薬剤は限られており、医師は診療経験に基づいて、その中から患者に適切な薬剤を処方することとなる。効能・効果の面における患者への説明は、現在でも普通に行われており、それ程負担になるものではないと考えられる。
 また、医師が患者に対して患者負担を含めた薬剤の説明を行うことについては、医師にとって重い負担が生じる可能性があるものの、医師は診療経験に基づいて薬剤の効能やその処方の必要性を説明すれば、患者の病態から給付基準額を上回る高価格の薬剤を使わなければならないとしても、通常は、患者の納得は得られるのではないかと考えられる。なお、場合によっては、患者の納得を得ることが困難な状況となる可能性もあるとの意見もあった。
 いずれにしても、この点については、新しい制度における論点の一つであり、患者の納得が受けられるような仕組みとなるよう、十分な検討が必要と考えられる。

(4) 薬剤の研究開発・安定供給に与える影響

 薬剤の研究開発・安定供給に与える影響については、薬剤グループをどのような範囲で設定し、どのように給付基準額を設定するかに大きくかかわる問題であるが、今後、制度化の検討を進める上では、基本的には以下のような論点があると考えられる。

(1) 特許品の取扱い

 ドイツのように特許期間が終了した薬剤についてのみ給付基準額の設定を行うとすると、かえって新規性に乏しい新薬の開発を助長する可能性があり、薬剤費の増加傾向をもたらすことも考えられる。
 一方、特許期間中か否かにかかわらず、原則として全ての薬剤を薬理作用を基本に分類し、給付基準額を設定するとすると、研究開発費を十分回収できず、有用な薬剤についての開発意欲を損なう可能性も高いと考えられる。
 全ての特許期間中の薬剤について、研究開発の促進の観点から一定の配慮を行うことが適切であるとの意見もあったが、製薬企業の新規性に乏しい新薬の開発を抑制しつつ、国民にとって有用性の高い新薬の開発意欲を損なわないようにするため、医療保険制度としても、特許期間中の新薬のうち、有用性等も勘案しつつ、「一定の範囲」の新薬について、給付基準額の設定等に配慮を行うことが必要と考えられる。
 なお、新規性に乏しい薬剤の開発抑制は、医療保険制度としてではなく、薬剤の承認審査の厳格化を図ることにより対応することが適切であるとの意見もあった。

(2) 画期的新薬、希少疾病用医薬品等の取扱い

 国民医療に有用な画期的新薬、希少疾病用医薬品等については、臨床的同等性のある薬剤がない又は乏しいと考えられ、銘柄間競争が十分に働かず、著しく高価になる可能性が否定できないこと、また負担能力のある患者しか使用できないことになる可能性があること等との観点から、費用−便益分析等の結果に基づく適切な給付基準額の設定、原価計算方式等に基づく公定価格設定等を検討することが必要との意見もあった。
 しかし、これらの有用性の高い薬剤が十分に上市され、利用が促進されるという国民医療の向上の観点から、医療保険制度としても、給付基準額を設定せず、自由価格を基礎に給付する等の何らかの思い切った優遇措置を講ずることについても検討することが必要と考えられる。
 また、これ以外でも副作用が少ない優れた改良型新薬など、有用性の高い一定範囲の薬剤についても、給付基準額に一定の配慮を行う等の措置を講ずることについて検討することも必要と考えられる。
 いずれにしてもこれらの配慮を行う場合には、対象となる薬剤の範囲の定義を明確に設定しておくことが必要であるが、その際には単に製薬企業の研究開発意欲ということにとどまらず、国民医療の向上への寄与度、国民医療費への影響度、患者負担の程度といった観点も含めて総合的に判断されるべきものと考えられる。
 また、個々の薬剤について、いずれの薬剤に該当するかを具体的に認定する場合には、幅広い意見を聴取し、科学的妥当性を担保するため、医学、薬学等の専門家からなる委員会において、開発企業の見解も十分に聴取した上で、その検討を行うことが必要と考えられる。

(3) 先発品と後発品

 先発品と後発品については、より安価な薬の使用を促進するという観点からは、先発品と後発品を制度上同一に取り扱うことを原則とすべきであるが、一方、現実問題として、我が国では、現時点において、副作用などの薬剤情報の収集・提供などの面で先発品のみが大きなコストを負っている状況にある。このような状況で、同一グループ内で現在の後発品が大幅にシェアを拡大すると先発品は市場から撤退してしまい、情報提供・安定供給の側面で問題が生じる可能性がある。
 従って、先発品メーカー、後発品メーカーにかかわらない統一的な薬剤情報の収集・提供体制、副作用事故への対応体制等の整備が進められるまでの間は、同一グループ内で価格が大幅に乖離した後発品等については、別に給付基準額を設定することとし、使用実態や価格の推移を見ながら両者の給付基準額を調整すること等を検討することが必要であると考えられる。
 なお、先発品と後発品を制度上同一に取り扱うこととすると、研究開発等のコストがかかっていない後発品メーカーが不当に大きな利益を得る可能性があり、先発品メーカーの研究開発意欲を阻害する可能性があること等から、同一グループ内で価格が大幅に乖離した後発品等については、別に給付基準額を設定することが必要であるとの意見もあった。
 いずれにしても、先発品メーカー、後発品メーカーにかかわらない統一的な薬剤情報の収集・提供体制、副作用事故への対応体制等の整備を進めることと並行して、その位置づけについて更に検討することが必要である。

(5) 新しい制度を導入する際の環境整備

 新しい制度を導入する際には、以下のような環境整備を図ることを検討することが必要との意見があった。

(1) 患者や医療機関が、価格の面も含めて、適切に薬剤を選択するためには、ドイツの医薬品情報センターのような、価格情報を含めた薬剤に関する情報提供が適切に行われる仕組みの整備が必要である。このような面では、保険者にも期待すべき役割が大きいと考えられる。
(2) 新制度においては、後発品の健全な市場の育成を図り、その普及を促進することが必要であることから、後発品の品質に関する信頼性の確保、安定供給の確保、米国におけるオレンジブック(臨床上の同等性評価を付記した承認薬リスト)発行などの患者や医療機関等に対する情報提供の推進等の措置を講ずることが必要である。
(3) 入院患者については、情報をもとにした診療や薬剤の選択が困難な場合があり、入院については定額払い等の拡大により効率化を進めることが必要である。また、これにより医療機関における薬剤価格の引下げの経済的誘因が生じ、薬剤価格の高止まりを防止する要因の一つともなる。
(4) 安価な薬の使用を促進するために、低価格品への代替調剤なども検討することが必要である。
(5) ドイツの医薬品価格令などを参考に、医薬品価格形成のルール化を図ることが必要である。
(6) 新たな制度の効果を正確に評価し国民に開示するために、薬剤費を他の医療費と明確に分離して把握できる体系を構築することが必要である。


IV 終わりに

 限られた時間の中で、現在得られうる情報に基づく作業ではあったが、作業チームに任された役割については、当初の目的は、果たせたのではないかと考えている。
 なお、作業チームの中での議論には、新しい制度の当否についての意見もあったが、作業チームの役割は与党協案の是非を検討するのではないことを踏まえ、あくまで「制度企画部会での議論を具体的に進めるための素材提供」という点に絞って報告書のとりまとめを行っている。
 この報告書をもとに、医療保険福祉審議会をはじめ各界関係者において、更に具体的な議論が進められることを期待して、今回の検討作業を終わることとしたい。


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