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3.介護保険制度の導入を展望した介護サービスの基盤整備について


(1)介護サービス基盤整備の意義

 平成10年度の老人(保健)福祉施策の中心課題は、平成12年度からの介護保険制度の円滑な実施に向けての準備であると考えている。
 介護保険の実施準備においては、保険料の徴収、要介護認定、介護保険事業(支援)計画策定、介護報酬の審査・支払い等の介護保険制度特有の新しい仕組みを円滑に機能するように整備するにとどまらず、様々な現行の老人保健福祉施策の仕組みを介護保険に適合するように切り替えていくことが重要である。
 したがって、介護サービス基盤の整備においては、単にサービスの量を増大させるのみならず、サービスの内容及びこれを提供する仕組みが介護保険に適合するものとなるように現行制度の枠組みを切り替えていくことを念頭に置いて取り組んでいただきたい。
 なお、介護サービス基盤整備の重要性については、

1) 衆議院厚生委員会及び参議院厚生委員会における附帯決議
2) 参議院における法案修正
3) 参議院における本会議決議
など、介護保険法案の国会審議過程においても繰り返し確認されているので、これらも参照されたい。

(2)介護サービス基盤整備としての新・高齢者保健福祉推進10か年戦略(新ゴールドプラン)

 介護サービス基盤整備の具体的な進め方については、各地方自治体が地域の需要を踏まえて策定した老人保健福祉計画を集大成した新ゴールドプランの達成を最優先課題として取り組むこととしている。
 新ゴールドプランの進捗状況は、参考資料のとおりであるが、地域により、介護サービスの種類により、大きく差異が生じている。
 また、在宅サービスにおいては、介護サービス基盤が整備されていてもその利用状況が必ずしも適切でない市町村があることも老人保健福祉サービス利用状況地図(老人保健福祉マップ)などからうかがわれる。
 都道府県におかれては、管下市町村における介護サービス基盤の整備状況及び利用状況について綿密に把握し、適切な指導をお願いしたい。また、老人保健福祉計画と比較して基盤整備の遅れている地域にあっては、その理由の分析及び推進策の実施に取り組むとともに、平成11年度末までの年次計画を具体的に策定するなど、必要な対策を講じられたい。
 平成10年度において新ゴールドプランを進めていく際には、引き続き公立学校の余裕教室等の転用、既存施設活用型日帰り介護(サテライト型デイサービス)事業の実施等の既存資源の活用を図るほか、次の事項に留意して取り組むことを考えており、以下、順次その基本的考え方をお示しする。
1) 特別養護老人ホームの入退所の適正化をどのように図っていくか
2) 在宅サービス推進のために民間企業等の参入をどのように図っていくか
3) 介護保険給付の対象とならない保健福祉サービスをどのように取り扱っていくか

(3)特別養護老人ホームの入退所の適正化をどのように図っていくか

ア 介護保険制度下の特別養護老人ホーム
 特別養護老人ホームは、介護老人福祉施設として介護保険制度下の施設サービスの重要な柱となることが期待されているが、介護保険制度により次のような変化が生じるものと考えられる。
1) 利用の決定が「措置」から「契約」に変わることとなり、入所を希望する者が急増することが予想されること
2) 他方、要介護度という客観的な形でサービス利用の必要性が定められ、また、要介護度に応じ介護報酬が支払われることとなるため、入所の必要性が低いと判断される場合には、他の適切なサービスにより対応していくことが求められること
3) 同様に、施設入所後に要介護度が改善した者については、引き続き入所を継続することが困難になる事例も生じること
 このため、特別養護老人ホームにおける24時間の専門的処遇を真に必要とする者は、「待機」することなく施設入所が可能となるようにする一方、必要性の低い者は、介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)を含む在宅サービスが十分に利用できるよう特別養護老人ホームの入退所の流れを今から適切なものにしておくことが求められてくる。

イ 「入所待機者」の厳密な把握
 この点については、特別養護老人ホームの整備に当たって、従来、入所を真に必要とする者か否かについての吟味が不十分なまま、いわゆる「待機者」の数ばかりが強調される傾向にあったのではないかと思われる。
 しかしながら、幾つかの地方自治体が実施した調査を通じ、「待機者」として各地方自治体が把握している者の中には、特別養護老人ホームにおける24時間の専門的な処遇を必ずしも必要としない者や在宅サービスを全く利用していない者も含まれていることが確認されている。このため、「待機者」の数をそのまま所要定員数として認識することは、介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)等の必要な需要も特別養護老人ホームの必要量として誤認させ、在宅サービスの整備を遅らせる結果となるおそれがある。
 したがって、都道府県におかれては、介護サービスの実施主体である市町村に対し、個々の高齢者に係る介護サービスの需要を厳密に把握するよう、指導するとともに、訪問介護(ホームヘルプサービス)、日帰り介護(デイサービス)等の在宅サービスや、介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)、高齢者世話付住宅(シルバーハウジング)等の整備を推進されたい。
 なお、徘徊が始まった程度の痴呆性老人を念頭に置いた痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)事業の活用も併せて対応されたい。

ウ 特別養護老人ホーム入退所計画実践試行的事業の実施
 介護保険制度においては、適切な介護サービス計画の策定による居宅復帰を始めとする「在宅生活(介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)等における生活を含む)」の検討が求められることになる。
 したがって、今から、在宅から施設へ、あるいは、施設から在宅への円滑な移行が図られるよう、入退所計画の作成やそれに基づく入所前又は退所後の在宅サービスの提供を実践する必要がある。
 このため、平成9年度から、「特別養護老人ホーム入退所計画実践試行的事業」を実施しているところであり、その実施状況は、参考資料のとおりである。
 特に、同事業に対する取組が立ち後れている地方自治体においては、特段の努力をお願いする。
 なお、平成10年度以降、特別養護老人ホームを整備しようとする地方自治体にあっては、原則として同事業を実施することがその前提になるものと考えているので、御留意願いたい。

(4)在宅サービス推進のために民間企業等の参入をどのように図っていくか

ア 日帰り介護(デイサービス)事業及び短期入所生活介護(ショートステイ)事業に対する民間企業等の参入「21世紀を切りひらく緊急経済対策」(平成9年11月18日経済対策閣僚会議決定。以下「緊急経済対策」という。)においては、
1)平成9年度内に市町村が民間企業に対して日帰り介護(デイサービス)事業を委託することを可能とすること
2) 平成9年度内に市町村が民間企業に対して短期入所生活介護(ショートステイ)事業を委託することを可能とすること
等が盛り込まれた。
 これについては、日帰り介護(デイサービス)事業及び短期入所生活介護(ショートステイ)事業における民間事業者の運営上の指針(「民間事業者による日帰り介護(デイサービス)事業指針及び短期入所生活介護(ショートステイ)事業指針について」(平成9年12月17日障障第183号・老振第139号大臣官房障害保健福祉部長・老人保健福祉局長連名通知)を先般通知したところであるが、今後、この指針に適合する民間事業者等に対して、公的サービスの委託を認めることとしている。
 都道府県におかれては、市町村に対し、民間事業者等を含む多様な事業主体に対する委託を推進するよう、更に指導されたい。

イ 在宅介護支援センターの運営に対する民間企業等の参入
 在宅介護支援センターについても、緊急経済対策において、平成10年度に市町村が民間企業に対して運営委託を可能にすることが盛り込まれた。
 在宅介護支援センターについては、平成10年度から予定している「単独型」及び「基幹型」の導入に当たり、区域内におけるすべての在宅介護支援センターを包摂する連絡支援体制(ネットワーク)の形成が条件となっているところであるが、市町村による民間事業者等に対する委託についても、こうした連絡支援体制を形成した市町村による委託を認める方向で検討しているところである。

ウ 多様な事業主体による在宅サービスの提供
 介護サービスの基盤整備を推進するため、在宅介護サービスに対する多様な事業主体の参入が期待されるところである。都道府県におかれては、市町村に対し、民間企業、農業協同組合等の多様な事業主体に対する委託を推進するよう、指導されたい。
 特に、農村地域等において介護サービスの基盤整備を推進するためには、身近な協同事業組織である農業協同組合等による在宅サービスの取組を推進することが重要である。平成10年度税制改正においては、医療事業と併せて老人福祉事業を行う厚生農業協同組合連合会(医療事業を行う農業協同組合連合会)が「公益法人等」として法人税、法人住民税等の非課税措置の対象となるよう、要件を緩和することが盛り込まれた。これにより、厚生農業協同組合連合会において事実上制約されていた老人福祉事業の実施が、平成10年度から可能となる。したがって、厚生農業協同組合連合会に対する委託についても、十分配慮されたい。
 なお、介護保険制度の円滑な導入に向けて、平成10年度においても、過疎地域等において民間企業、農業協同組合等を活用する際の課題や問題点を把握する「過疎地域等在宅保健福祉サービス推進試行的事業」を引き続き実施するとともに、都市部等において住民参加型非営利組織等を活用する際の課題や問題点を把握する「都市部等住民参加型在宅保健福祉サービス推進試行的事業」を新たに実施することとしている(7の(1)のイ及びウ参照)。

(5)介護保険給付の対象とならない保健福祉サービスをどのように取り扱っていくか

 介護保険が円滑、かつ、効率的に実施されるよう、実施準備の一環として、要介護状態になる前の保健予防活動、生きがい対策、地域の支援体制の整備など介護保険給付の対象とならない保健福祉サービスの充実を図り、介護保険を支える条件を整えることが重要である。
 具体的には、平成10年度において、
1)介護保険事業計画の策定と同時に行われる老人保健福祉計画の見直し作業において明確な位置づけを行うこと
2)在宅介護支援センターの再構築を図り、地域における総合的な保健・福祉サービスに関する相談援助業務を担う機能を強化すること
3) 配食サービス事業等について市町村で選択実施できるよう(メニュー化)地域の実情に応じた事業実施に切り替えること(5の(5)参照)
 などに取り組むこととしているが、併せて「新寝たきり老人ゼロ作戦の展開」や「高齢者の生きがい・健康づくりの推進について」も参照願いたい。



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