ホームページへ戻る 前ページ 次ページ
厚生統計の今後の在り方についてNO2
2.施設面統計調査について
施設面統計調査は、施設において提供されている保健・医療・福祉サービスについて
その需要と供給の実態を把握するという役割を果たすものである。保健・医療・福祉サ
ービスは、「施設」というハードとソフトを一体化した総合的な主体によって提供され
ているものが多いため、施設面からサービスの実態を把握する意義は大きいが、近年は
、保健・医療・福祉の連携が進み、施設と在宅の垣根が少しずつ取り払われるなど、施
設面統計をめぐる環境も大きく変化してきている。とりわけ、現在議論されている新介
護システムでは、高齢者の介護というニーズに対し、保健・医療・福祉、施設・在宅と
いう区分にこだわらず最も適したサービスを総合的に提供していくとの考え方が強く打
ち出されており、こうした動きの中で、統計調査も、従来の施設面、世帯面という区分
で別々に調査の設計を行うのではなくサービスの需要と供給の両面から総合的な情報を
一体的に把握していくことが求められるようになってきている。このような変化に対応
した施設面統計の在り方については、今後新介護システムの導入に伴う厚生統計の見直
しを検討するなかで具体的な提言を行うこととしているが、当面は以下の課題について
見直しを行うことが必要であると考える。
(1)医療の需要と供給の動態をより的確に捉えるための医療統計の改善
人口の高齢化、医療技術の進歩、患者の価値観の多様化など医療をめぐる諸状況の変
化に対応し良質で効率的な医療サービスを提供するシステムを確立するためには、医療
の需要と供給の動態をより的確に捉える必要がある。
こうした見地から本協議会は昨年8月、既存の医療統計に加えて医療機関と直接接点
のある患者自身から情報の把握を行う「受療行動調査(仮称)」を全国的な規模で導入
し、患者本人の医療ニーズに関する新たな情報を把握するとともに、需要と供給に関す
る既存調査とのリンケージ等によって医療資源の効率的活用に資する情報等の把握が必
要である旨の意見を具申し、本年3月には、平成8年度における実施計画についての諮
問を受け答申を行ったところである。
介護対策、障害者対策の充実等、医療を取り巻く環境は今後も大きく変化していくも
のと考えられ、これらを踏まえた需要と供給の動態を的確に捉えることのできる情報の
収集と有効活用を目指した医療統計の改善、充実を今後とも積極的に行っていく必要が
ある。
(2)保健・医療・福祉施設従事者についての情報把握の充実
社会福祉施設や老人保健施設の従事者については、将来の需要増大に向けての従事者
の確保・定着、そして何よりも質的な向上が重要な課題となっている。
これまで従事者の量的な面での把握は行われてきたが、質的な面の把握や将来の安定
供給につながる処遇面や定着の状況、採用の経過等に関する情報はあまり把握されてこ
なかった。今後は、従事者の質の向上がサービスの質の向上につながり、従事者の安定
供給、定着が良質なサービスの安定供給につながるという視点から、そのための対策の
基礎となる従事者に関する情報の把握の充実を図ることが必要であり、以下のことを進
めていく必要がある。
1.当面、措置費によって運営されている社会福祉施設におけるいわゆる直接処遇職員
について、新規採用者・退職者の状況、雇用形態、労働時間、処遇の状況、研修等の
資質向上の状況等について調査し、多角的な分析が行えるようにすることを検討する
。
2.老人保健施設の従事者についても、既に調査している事項に加え資質向上の状況等
の情報を把握することを検討する。
3.医療施設等他の施設についても必要な情報の収集の方法について検討する。
4.将来的には、従事者自身の意識についても把握する方法を検討する。
なお、従事者に関する情報に限らず、施設におけるサービスの質を客観的に評価し得
るような情報の充実についても今後さらに検討を進めることが必要である。
(3)保育関連等地域の自主的な活動についての情報把握の充実
従来の保育関連の施設面での統計調査では、公的な保育サービスに重点が置かれ、無
認可保育施設や放課後児童対策としての児童クラブ等の地域の自主的な活動についての
情報の把握は十分ではなかった。今後は、このような活動も含めた保育関連情報の総合
的な把握が必要である。
また、保育関連に限らず公的なサービスと地域の自主的な活動を総合的に進めていく
ことが重要になってきており、こうした面での総合的な情報の把握の必要性も高まって
いる。
このため以下のことを進めていく必要がある。
1.無認可保育施設、児童クラブについて、在所・参加児童数、保育者・指導者の状況
、保育形態、運営形態、開設時間等、公的なサービスと同様の情報を把握することを
検討する。
2.将来的には、これらの施設・事業についても(2)で述べたような従事者に関する
情報把握の充実を図ることを検討する。
3.調査を行うに当たっては、社会福祉施設等調査等既存の調査体系との整合性を確保
する。
4.保育関連以外の地域の自主的な活動についてもその状況を把握することについて検
討する。
(4)健康・福祉関連サービス産業統計調査の改善
健康・福祉関連サービス産業統計調査は、公的サービスと民間のサービスをどのよう
に組み合わせ、どのように役割分担をしていくべきかといった政策的な問題を検討して
いく上で必要となる情報を提供するための調査として位置付けられ、サービスの質にか
かわる情報や公私のサービスの比較ができるような事項など政策に直接結びつく内容を
調査するとともに、当面の政策の視野には入っていない事業については調査対象から除
外するなど、位置付けを明確にした調査となるよう以下の見直しを行う必要がある。
1.対象となるサービスの分野を、ア 福祉サービス、イ 医療関連サービス、ウ 健康増進サ
ービスの三つの分野に区分し、各分野ごとのサービスの種類については、公的サービ
スの分類あるいは施策上の分類に即してその区分を行い、対象となるサービスの種類
も整理する。
2.民間事業所のサービスの内容、提供の実態及び公的機関等からの受託・助成の状況等
を把握し、公私の役割分担の在り方、適正な業務委託の在り方等の検討資料とすると
ともに、事業者の育成、指導方策に資する情報を提供することを目的として調査を行
う。
3.営利・非営利を問わず有償でサービスを提供している民間事業所を調査対象とする。
4.共通的事項のほか、対象となるサービスの種類ごとに政策上必要となる事項を調査し
できるだけ詳細な分析ができるようにする。
5.行政機関のみならず一般の利用者の利便にも配慮した名簿の作成について検討する。
3.業務統計について
業務統計は、もともと厚生省の機関委任事務として地方公共団体が実施している事業
実績及び法律による届出を統計として収集し、その事業目的や目標の達成度を確認する
役割を担ってきた。しかしながら、福祉八法の改正、地域保健法の制定にみられるよう
に、厚生行政は地方の自主性を尊重する方向に大きく変化しつつあり、国は、公平性の
確保に配慮しつつ、サービス提供の調整を行い、その量的質的向上を支援していくとい
った役割を果たすように変わりつつある。
国、都道府県、市町村がそれぞれの役割を果たしていくために必要な情報を主にサー
ビスの供給面から体系的に把握し提供することが今日における業務統計の中心的役割で
あり、こうした機能を十分に発揮できるよう以下の課題について見直し・改善を進めて
いくことが必要であると考える。
(1)事業の客観的評価が可能な情報の収集、活用
1.保健・福祉サービスの需要、供給の関連を明確にし、供給面については事業の評価
が可能となる情報の収集を行う。
2.保健、医療、福祉の情報を相互に関連させて保健・福祉サービスの総合的な把握が
可能となるよう業務統計の調査内容の整備を図る。
3.事業評価を行うに当たって、業務統計で把握できない情報については業務統計以外
の調査統計及び各種情報等との関連分析を行うなど情報の活用を図る。
(2)市町村等が実施するサービス提供を支援するための情報の収集・提供
1.情報の収集は可能な限り事業主体である市町村ごとに行う。
2.市町村等の事業主体が事業の効果等を客観的・相対的に評価することが可能となる
よう、事業の実績と住民の保健・福祉水準の改善との関係を示すような指標を策定す
る。
3.地域住民がさまざまな形で自主的に保健・福祉サービスに参加する上で、あるいは
サービスの受け手として必要となる情報の提供ができるような環境整備を行うことを
検討する。
(3)情報通信技術の活用、統計の効率化
1.WISH(厚生行政総合情報システム)の活用を積極的に図り、業務統計として地
方自治体から報告される電子情報をデータベース化し、概数としてまとめて早期利用
を図ることにより報告の重複を避けるとともに情報利用の迅速化を図る。
2.将来的には、事業主体での日常業務の電子化の促進、情報通信技術の活用等によっ
て即時的に業務内容に関する情報の収集を可能にするとともに、国及び地方公共団体
がデータベースの充実を図り、事業主体が必要な情報を必要な時に即時かつ簡便に利
用できるような体制の整備を図る。このため、情報記録様式の統一、通信手順の標準
化、基盤整備等に対する、国の役割及び支援の具体的方策について検討する。
3.業務統計と原局の事業実績報告等とで内容の類似したもの、情報把握の必要性が低
くなったものについては、情報の重要性に優先順位をつけ、必要に応じてスクラップ
するなど収集する情報を整理する。
4.報告周期について、月報は季節変動の観察、速報性等特別な必要性のあるもののみ
とし、原則として年報又は年度報に整理する。
(4)その他、個別課題への対応
1.数値の妥当性・信頼性が必ずしも十分に確保されず統計の目的が達成されていない
との指摘がある伝染病統計等については、関連施策の動向も踏まえその在り方につい
て検討する必要がある。
2.平成9年4月の地域保健法の本格施行に伴い、地域保健情報把握の観点から保健所
運営報告等の見直しを行う必要があるが、その際には、保健所を通じて市町村の情報
が収集できるようにすることが望ましい。
3.都道府県、指定都市等に設置されている委託職員の在り方については、業務統計の
今後の在り方をふまえ、業務の実態、配置体制等を勘案しつつ見直しを行う必要があ
るが、その際は、調査の正確性を確保するという視点が重要である。
4.世帯面統計調査について
少子・高齢化に伴う家族構成の変化、世帯主の長期単身赴任、高齢者の長期入院・入
所、子供の遠隔地就学等を要因とする居住形態の多様化など、世帯をめぐる状況は大き
く変化している。一方、家計に目を向けると、働く女性が増えていることに加え、高齢
者の年金、子供のアルバイト等収入形態が多岐にわたってきている。このような変化に
対応し、世帯面統計調査についてもその見直しを図ることが必要である。
見直しに当たっては、以下のような方向で検討を進めていくことが適当であると考え
る。なお、具体的な課題については今後さらに検討を行い、結論が得られ次第提言する
こととしたい。
(1)各種世帯面統計調査における世帯定義の統一化
世帯面統計調査における世帯の定義は、各調査が持つ調査目的等の違いから必ずしも
同一ではなく、「統計行政の新中・長期構想」においても世帯の定義の統一化等につい
て関係省庁間による検討の必要性が指摘されているところである。
これを受けて、関係省庁による検討委員会が発足し検討が進められているが、厚生省
としても同委員会の動向に留意しつつ所管の調査における世帯定義の統一化について検
討を行う必要がある。
具体的には、母子世帯、父子世帯等世帯面統計調査間の世帯分類の違いについての見
直し及び国民生活基礎調査における高齢者世帯の年齢区分の見直し等について検討する
必要がある。
(2)世帯面統計調査における政策課題への対応
1.少子・高齢社会への対応
ア.二世帯同居世帯における生活の共同性
現在、我が国の世帯面統計調査では、同一家屋に二世帯が居住していても生計
が異なる場合は別世帯として取り扱っている。しかし、世帯間における住居、生
計は非常に多様化しており、在宅介護等の問題を論ずる上からも、それらの世帯
間における生活の共同性の内容が把握できるようにしていく必要がある。
イ.子供と高齢者の関係
少子化、高齢化といった問題に一体的に取り組む観点から、子供と高齢者の交
流頻度、訪問回数等を把握するとともに、児童に関する調査と高齢者に関する調
査の結果比較、分析等調査間の連携を図るための方策を検討する必要がある。
ウ.痴呆の取扱い
高齢化の進展とともに課題として顕在化している「痴呆」については、これま
で世帯面統計調査による実態把握がされていなかったことから、世帯面からもそ
の実態が把握できるようにしていく必要がある。
2.保健・医療・福祉サービスの需要把握
保健・医療・福祉分野における各種サービスに対する需要はますます増大するこ
とが考えられ、需要と供給の関係をより明らかにしていくことが厚生行政の推進の
上からもいっそう重要となる。このため世帯面からも保健、医療、福祉のサービス
の需要をより正確に把握する方策について検討する必要がある。
(3)世帯面統計調査における効率的な客体把握
調査実施の実効を上げるため、各種世帯面統計調査に適した母集団情報の選択等効率
的な調査客体を把握することについて検討する必要がある。
国民生活基礎調査については、同調査の調査区を使用して実施される統計調査の利便
性を向上させるために世帯の特定属性の把握等調査区情報の充実を図るべきである。
5.統計調査の総合解析等について
施設面統計や世帯面統計の各種調査結果を総合的に解析して政策の達成状況の把握に
用いることのできる指標を作成、提供するための具体的な取り組みとして、現在までの
ところ次のような検討を行った。
(1)新たな健康福祉指標としての「健康寿命(仮称)」の開発
「人々がより健康で長生きする」ということが、厚生行政の一つの重要な政策目標で
あり、その達成状況を把握するための統計指標として、平均的にどのくらいの期間「健
康」で生存できるかを示す「健康寿命(仮称)」の開発について検討を行った。
今後「健康寿命(仮称)」の開発を進めるにあたっては、次の3点に配意する必要が
ある。
1.「健康」の基準はADL(日常生活動作)などの客観的な指標に準拠して設定する
のが適当である。
2.算定の方法としては、全国民を対象とするデータの把握の現実的可能性に照らして
、いわゆる「サリバンの方法」によることが適当である。
3.指標の名称については、指標の実体的意味をよく反映した誤解の生じないものにす
る必要がある。(例えば、「平均無介護寿命」、「活動的平均寿命」、「平均自立期
間」など)
本協議会としては、この検討結果を踏まえ、入院患者のADLに関する統計などのデ
ータの把握に努めつつ、引き続き新たな健康福祉指標としての実用化に向けての検討を
進め、結果が得られ次第具体的な提言を行うこととしたい。
(2)「地域保健福祉指標(仮称)」の開発
地域の特性を踏まえた厚生行政施策の展開に資するとともに、地方公共団体における
保健福祉施策の推進を情報の面から支援するため、地域ごとの保健福祉の状況を客観的
に表す総合指標としての「地域保健福祉指標(仮称)」の開発について検討を行った。
既存の調査結果を利用した試算では、地域における保健福祉の状況を年齢構成の相違
を補正して比較するなど指標化による分析を行うことは有効であると考えられるが、現
在のデータでは、主に都道府県レベルでの指標の作成にとどまることから、本協議会と
しては、業務統計の一層の利用や市町村レベルでの情報の収集をも念頭に置きつつ、収
集データの選定、データのウェイト付けによる総合指標の作成、老人保健福祉圏域や市
町村などのより小規模の地域を対象とした指標への発展、作成した指標の評価方法等の
課題を中心にして検討を進め、結果がまとまり次第提言することとしたい。
(3)国民医療費の周辺部分の費用の推計
国民医療費は「医療機関等」における「傷病の治療」に要する費用を算定したものと
して、我が国の医療費の規模を表す代表的指標としての意義を有しているが、諸外国と
の医療費の水準比較に際しては、国によって医療費に含める費用の範囲に差異があるた
め的確な比較が困難となっている。
我が国の国民医療費の範囲に含まれない周辺部分の費用としては次のカテゴリーに分
類される費用が考えられる。
1.医療機関等の治療に関連して支出する費用(利用料、室料差額など)
2.医療機関等以外の治療的費用(買薬の費用、柔道整復及びはり・きゅう・マッサー
ジの保険適用外部分など)
3.予防的費用(健康診断、予防接種など)
4.その他(正常分娩の費用)
これらの費用について現状において利用可能な各種データを用いて推計を試みたが、
データが不十分な費目もあり、また複数の方法による推計額にかなりの開きがあるなど
、国民医療費と同程度の精度で推計することは困難であると認められた。
しかしながら、医療費の水準の国際比較等に活用するために、これら国民医療費の周
辺部分の費用についてその費目ごとにある程度の精度を確保した推計が可能となるよう
検討を進め、国民医療費とは別掲の形で参考として公表することが望ましいと考えられ
る。
本協議会としても、費目ごとの推計の精度の向上についてさらに検討を加えるととも
に、諸外国のデータとの比較可能性についても検討を進め、その結果を踏まえて具体的
な提言を行うこととしたい。
第3 今後の検討課題
各統計分野ごとの今後の検討課題に加え、各分野に共通の検討課題として新しい介護
システムの導入に関連する厚生統計の見直しが挙げられる。今後、介護保険制度の具体
化の状況を踏まえつつ、厚生統計の所要の見直しについて検討する必要がある。
NO3に続く
問い合わせ先 厚生省大臣官房統計情報部管理企画課
担 当 山崎(内221)
電 話 (代)3260-3181
ホームページへ戻る 前ページ 次ページ