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           厚生統計の今後の在り方についてNO1
                                      平成8年5月31日

厚生大臣  菅  直 人  殿

                            厚生統計協議会

                             会長   松浦 十四郎



            厚生統計の今後の在り方について


 標記について、本協議会は平成7年6月より審議を重ねてきましたが、今般、これま
での検討結果を別添の「厚生統計の今後の在り方について(中間報告)」としてとりま
とめたので報告します。なお、平成8年度中を目途に最終報告をとりまとめる予定です
。


(別添)


             厚生統計の今後の在り方について
                  (中間報告)



                 平成8年5月31日
                          厚生統計協議会


          厚生統計の今後の在り方について(中間報告)

はじめに

 本協議会は、少子・高齢化等の厚生行政をとりまく環境の変化を踏まえ、来るべき2
1世紀に向けての厚生統計の在り方について平成7年6月より検討を重ねてきたが、今
般その検討結果を中間的にとりまとめた。
 なお、政府全体の統計の今後の在り方については、平成7年3月、統計審議会より「
統計行政の新中・長期構想」が公表されたところであるが、本協議会は、保健、医療、
福祉などの分野において、国民生活に直接関連する事項を対象とし、かつ高い専門性が
求められる統計である厚生統計について、同構想を踏まえつつ、さらに掘り下げた検討
を行った。

第1 厚生統計の発展に向けての基本的考え方

1.厚生統計の意義と役割

 厚生行政の諸分野において適切な施策を展開していくためには、保健、医療、福祉な
どの諸分野における国民のニーズと各種サービスの現状とを的確に把握し、これをもと
にして様々な分析を行い、厚生行政の進むべき方向を明らかにしていくことが必要であ
る。
 厚生統計は、そのための情報を提供するという役割を担うものであり、単に調査結果
を集計するだけでなく、その加工、分析を通じて政策の企画・立案や施策の効果の検証
・改善のために有用な情報を提供していくことが求められている。
 また、保健、医療、福祉をはじめとする厚生行政に関連したサービスは、国民生活に
密着したものであり、その現状についての正確な情報を提供し、国民の理解を深めるこ
とが厚生行政の推進にとって重要である。このように、客観的なデータによって、広く
国民に厚生行政の現状についての理解を深めるための情報を提供することも厚生統計の
重要な役割の一つである。

2.厚生統計をとりまく環境の変化

 厚生統計がその本来の役割を十分に果たしていくためには、社会の変化と厚生行政の
変化に応じ常に見直しを行っていくことが必要である。
 今回の見直しにあたって考慮すべき主な環境の変化としては、第一に少子・高齢化の
進展があげられる。厚生行政においては、高齢者、児童、障害者を対象とする保健福祉
3プランの総合的推進、新しい介護システムの検討等、少子・高齢社会の到来に対応し
て様々なニーズに応じた施策を展開しつつあり、その推進においては、分野を超えた総
合的な施策展開の基礎資料となる情報が求められているところである。
 また、核家族・単身世帯の増加や女性の社会進出に伴う共働き世帯の増加などにより
、従来、家族が担ってきた介護機能や保育機能が低下しつつあるといわれており、この
ような社会環境の変化に対応した施策を適切に推進するための情報の必要性が大きくな
ってきている。
 一方、近年の情報通信技術の進展と普及はめざましいものがあり、厚生省としても平
成7年3月に策定した「厚生省行政情報化推進計画」を基に、情報の高度・迅速利用を
目的とした分散処理環境の整備をはじめ、オンライン化による情報交換、データベース
の充実等を推進していくこととなっている。従来、「国の統計は正確だが遅い」という
指摘を受けてきており、情報化の推進により統計情報の迅速な収集・提供や提供方法の
多様化を図ることが期待される。
 また、保健・医療・福祉など住民に身近な行政は、より身近な地方公共団体が主体と
なって実施することが近年ますます強く要請されるようになってきている。このため、
従来は全国で画一的に実施されてきた保健・医療・福祉サービスが各地域のニーズに応
じて展開されるようになっており、国の政策立案にあたっても、地域ごとの違いを視野
に入れた情報の把握が必要となっている。また、地方公共団体が施策を立案・実施する
場合においても同様の情報が必要であり、国としてこれを支援することも求められてい
る。
 さらに、国際化の進展とわが国の社会保障に対する国際的な関心の高まりにより、単
に統計の国際比較により政策立案の資料を得るということだけでなく、我が国の社会保
障の現状に関する情報を世界に向けて発信していく必要性も増している。

3.厚生統計見直しの視点

 以上のような厚生統計をとりまく環境の変化の中で、1.で述べた厚生統計の役割を
より的確に果たしていくためには、主として次のような視点から見直すことが必要であ
ると考える。
 まず第一に、厚生行政は、全国画一的に必要なサービスを確保するという段階から、
地域の実情に応じて多様なサービスの展開を進める方向に変わってきており、これに対
応して「サービスの需要と供給の関係を適切に把握できる統計体系としていく」という
視点から見直すことが必要である。
 第二に、厚生行政に対する国民の要望が、単にサービスの量の拡大のみではなく質の
向上を求めるものになってきており、これに対応して「サービスの質を把握できる統計
体系としていく」という視点からの見直しも必要である。
 第三に、住民に身近な行政主体としての役割が期待される地方公共団体における保健
医療福祉施策の推進を適切に支援するため、「地域間の比較に活用できる統計情報を提
供していく」という視点が挙げられよう。
 さらに、広く厚生行政の現状についての情報を提供するという観点からの検討も重要
であり、このため、「利用者にとって使い易い形で統計情報を提供していく」という視
点からの見直しも必要である。
 また、統計は高度の信頼性を要求される一方で、調査対象者に極力負担をかけないよ
うに努力する必要もあり、このような観点から「信頼性の高い統計を効率的に作成する
」という視点も忘れてはならない。
 本協議会は、主としてこのような視点に立って厚生統計の見直しを行い、厚生統計の
発展に向けての指針をとりまとめるとともに、統計分野ごとの具体的課題の解決に向け
ての検討を行った。

4.厚生統計の発展に向けての指針

(1)政策立案に必要な統計情報の的確な把握

 厚生統計に求められることは、まず第一に、厚生行政に関連したサービスに対する国
民のニーズとサービス供給の現状を量的な面のみならず質的な面も含めて的確に把握す
るための統計調査を企画し、多面的な解析を行い、結果を迅速に提供するということで
ある。これによって、厚生行政の進むべき方向を明らかにするために役立つ情報を提供
していくことが、厚生統計の重要な役割である。
 このためには、時代の要請に敏感に反応し、今後の厚生行政の推進において必要とな
る情報を予測し、速やかにその情報の収集に着手するよう努める必要がある。それと同
時に、既存の施策についても、「サービスの需要と供給の関係の把握」や「サービスの
質の把握」などその実態を正確に把握し、それが社会の実情にあったものとなっている
かが検証できるような情報の把握に努める必要がある。また、政策立案に資するために
は統計データの収集・提供の迅速化を図る必要があり、オンライン化やデータベース化
の推進など近年急速に発達してきた情報通信技術を積極的に活用していくことも考えね
ばならない。さらに、政策の立案と推進に役立つという観点から、単なる調査結果の集
計だけでなく、指標化などの加工を通じて政策目標の達成状況の把握に活用できる統計
指標の開発に努力すべきである。
 また、厚生統計が政策立案に必要な情報を的確に提供していくためには、保健、医療
、福祉など厚生行政の相互に関連する諸分野における施策の実施状況などを総合的に把
握できるものであることが必要であり、分野横断的な分析に活用しやすい統一のとれた
統計体系の構築が不可欠である。このため、例えば、介護を必要とする人についての調
査では日常生活自立度に関する統計情報を統一的な判定基準で取得するとか、施設サー
ビスと在宅サービスのつながりのわかる調査体系とするといった改善が必要である。
 さらに、地域特性を踏まえた厚生行政の推進に役立つ統計情報の収集・提供、地域間
比較が可能なデータの作成・提供が必要である。

(2)統計利用の利便性の向上

 第二に、利用者にとってより使い易い形で統計情報を提供していくことである。
 そのためには、まず、どのような統計情報がどこにあるかという、いわゆる所在源情
報を検索しやすい形で提供することが必要である。その役割は、現在、「厚生統計調査
総覧」という出版物が担っているが、情報化の進展に合わせて統計所在源情報のデータ
ベース化を図っていく必要がある。また、指標化等の加工により、わかりやすい形で統
計情報を提供していく努力も必要である。
 さらに、国や地方公共団体の政策担当者、大学などの学術研究者、報道機関、一般国
民など広範な統計利用者の多様なニーズに柔軟に応えるために、オンライン化、データ
ベース化、CD−ROM化など統計情報の提供方法の多様化を推進する必要がある。ま
た、調査結果の公表の早期化を図るために、概数がまとまった時点で速報を発表するな
どの段階的公表についても検討することが望ましい。
 また、国際化時代への対応という観点から、統計調査の結果の国際的な比較、活用を
考慮した集計方法及び提供方法についての検討が必要である。内外の研究者や国際機関
等から要望の高まっている統計調査の標本データ提供の問題については、「統計行政の
新中・長期構想」において今後2〜3年を目途に専門的・技術的な研究を行うとしてい
るところであり、その結果を踏まえ、厚生統計についても適切な対応を図っていく必要
があるものと考えられる。

(3)信頼性の高い統計の効率的作成

 第三は、高い信頼性を確保しつつ効率化を推進していくことである。
 高い信頼性を確保するためにまず考えなければならないことは、調査をされる側が統
計調査の趣旨をよく理解し積極的に協力してくれるような条件をつくることである。こ
のためには、調査の意義を十分にPRするとともに、調査環境の変化を踏まえ、調査事
項や調査対象の選び方、調査方法さらには設問の立て方等についてさらなる工夫、見直
しが必要である。
 厚生統計の高い信頼性を将来にわたって維持していくためには、統計収集の第一線に
立つ地方公共団体の統計担当職員や調査員の資質の維持向上が不可欠であり、今後の厚
生統計の在り方を踏まえつつ、地方における厚生統計調査の充実方策を検討すべきであ
る。
 一方、調査対象者の負担軽減や調査の迅速性の確保の観点から、統計の信頼性の確保
に配意しつつ、標本調査の活用や調査周期の見直し、さらには情報通信技術の積極的活
用など、より効率的な統計作成への努力も必要である。
 さらに、社会情勢の変化等により必要性の低下した統計調査については、調査事項の
整理縮小、場合によっては廃止するなど不断の見直しを行うべきである。

第2 統計分野ごとの課題の解決に向けて

1.人口動態調査について

 少子・高齢化の進展、国際化の進展等の近年の状況を踏まえ、以下の課題について検
討を行った。
 なお、今後、1.死因統計と疾病統計の関連分析  2.人口及び世帯の移動状況の把握方
法等  3.人口動態調査のオンライン化等について新たに検討を進めていく必要があると
考えられ、結論が得られ次第提言することとしたい。

(1)出生、婚姻、離婚等の新たな指標

 人口動態事象を指標化する場合、配偶関係別人口を用いることにより、配偶者の有無
によって事象発生頻度が大きく異なる出生、無配偶人口からのみ生じる婚姻、有配偶人
口からのみ生じる離婚について、人口動態事象をより精密に観察できるようになり、時
系列観察、地域観察の面でも有効である。
 たとえば、現在の人口全体を分母としている出生率の他に有配偶人口を分母とした出
生率を作成することにより、出生率を人口に占める有配偶人口の割合と有配偶人口の出
生率に分解して観察できるようになり、出生率の低下又は上昇の要因がより明らかとな
る。
 このように、出生、婚姻、離婚等について、その動向をより明らかにするための新た
な指標を作成することを検討する必要がある。
 有配偶人口、未婚人口等の無配偶人口の把握のためには、国勢調査による人口を用い
ることがまず考えられるが、国勢調査は5年に1度の実施であるため、毎年公表してい
る人口動態統計への活用という点では不充分である。従って、毎年実施されている国民
生活基礎調査の配偶関係別構成割合を用いることも検討すべきである。

(2)外国人の取り扱い

 日本における外国人の人口動態事象についても、出生率、死亡率等の指標化が望まし
い。その分母人口となる外国人人口に関する統計としては、現在、国勢調査及び推計人
口(総人口と日本人人口の差)と在留外国人統計(外国人登録数)があり、適切な分母
人口の検討が必要である。
 日本における外国人の人口動態統計は、日本人の人口動態統計に比較して届出件数が
小さいこともあり、限定されたものとなっている。このため、実数について外国人の人
口動態事象の概要が把握できるようクロス集計を含めて拡充していく必要がある。

(3)ICD−10(第10回修正国際疾病分類)の適用による死因統計の変化の検証
    結果の普及

 平成7年1月から改訂された疾病死因分類であるICD−10が適用されたことによ
る死因統計への影響について、平成6年のデータを用いてICD−10と従来の分類で
あるICD−9のそれぞれでコーディングを行い比較した結果、選択される原死因が肺
炎から脳血管疾患、悪性新生物に変わるものがあるなどの影響が認められたので、死因
統計を利用する際にはその結果を踏まえる必要があることを周知する必要がある。
 また、その情報を適宜公表することは、死亡診断書を作成する医師、歯科医師へ情報
をフィードバックすることになり、死亡診断書に記載される情報の質の向上を図るうえ
でも有用である。
 さらに世界に先駆けて本格的にICD−10を適用したことから、検証結果について
は、国の内外を問わず積極的に公表していく必要がある。

(4)複合死因の分析
 平成7年10月分について、主な原死因別に記載死因(調査票に記載のあった全ての
傷病名)を調べた結果、特に糖尿病や高血圧症等の慢性疾患の記載数が原死因の3〜5
倍の多さであることや糖尿病の患者が心疾患、脳血管疾患等を原死因として死亡してお
り、高齢者では、脳血管疾患の割合が高いなど、糖尿病患者の原死因に年齢による違い
があることがわかった。
 このように、原死因以外の疾患について調べることにより、死亡へ至る過程の分析が
可能となるとともに、原死因となる疾患が年齢等で異なることなど、慢性疾患対策を検
討するための基礎資料が得られるものと考えられる。また、新生児医療においても重要
な資料となると考えられ、幅広い活用が想定される。
 複合死因については、現在、国際的に統一された定義、表章がないが、行政としても
この分野の研究の動向に注目すると同時に、国内、国外の研究者等にデータを提供すべ
きである。また、複合死因のとらえ方、原死因から死亡に至る過程の類型化等の研究を
進めていくことは今後の疾病対策上有意義である。
 そのため、将来的に人口動態統計においてもこのようなデータを整備、蓄積し、利活
用を図る必要がある。
NO2に続く

    問い合わせ先 厚生省大臣官房統計情報部管理企画課
     担 当 山崎(内221)
          電 話 (代)3260-3181


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