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厚生統計の今後の在り方に関わる
厚生統計協議会報告について

平成9年3月19日
統計情報部


 厚生統計協議会(厚生大臣の諮問機関:会長 和田 攻、埼玉医科大学教授:委員27名)は、21世紀に向けての厚生統計の在り方について平成7年6月より検討を行ってきた。今回の報告は、平成8年5月31日に中間報告を提出した後も様々な課題について審議を重ねた結果を「厚生統計の今後の在り方について」としてとりまとめたものであり、報告の指摘事項は以下の通りである。
 厚生統計協議会においては、この報告の後も、今回報告できなかった事項を含め厚生統計をめぐる様々な課題について調査審議を行う予定である。

報告の概要

I 厚生統計の発展に向けての基本的考え方

1 厚生統計の意義と役割

(1)保健、医療、福祉などの諸分野における国民のニーズと各種サービスの 現状を的確に把握、分析し、厚生行政の進むべき方向を明らかにするため の基盤となる情報を提供すること。
(2)国民に対して厚生行政の現状や施策の基盤に関する情報を的確に提供す ること。

2 厚生統計を取り巻く環境の変化

 今後の厚生統計の在り方を検討するに当たって考慮すべき主な環境の変化 は、次のとおりである。

(1)少子・高齢化の進展 (2)家族・世帯の機能の変化 (3)行政改 革の動き (4)地方公共団体の役割の増大 (5)国際化の進展

3 厚生統計の発展に向けての方向

 上記の変化に対応して、厚生統計の役割をより的確に果たしていくために、今後の発展に向けての方向は、次のとおりである。

(1)政策立案に資する統計の作成

 ○時代の要請に敏感に反応し、今後の厚生行政の推進に必要となると思わ れる情報を予測し、速やかにその情報の収集に着手すること
 ○「サービスの需要と供給の関係」や「サービスの質」等の観点から、施 策の実態を把握し、社会の実状にあっているかを検証できるようにする こと
 ○分野横断的な分析に活用できる情報、地域間の比較を可能とする情報、 指標化等の加工により政策目標の達成状況の把握に活用できる解析結果 を提供すること
 ○統計データの収集・提供の迅速化を図るため、情報通信技術を積極的に 活用すること

(2)統計利用の利便性の向上

 ○どのような統計情報がどこにあるかという所在源情報は、データベース 化を図る等検索し易い形で提供すること
 ○提供内容は、指標化などの加工により分かり易くするとともに、国際比 較を可能とすること
 ○オンライン化、データベース化、CD一ROM化など提供方法の多様化 を図ること
 ○調査結果の公表の早期化を図るため、速報等の段階的公表について検討 すること

(3)信頼性の確保と効率化

 ○調査結果の信頼性を確保するため、調査方法等にさらに工夫をこらすこと
 ○地方公共団体の統計担当職員や調査員の資質の維持、向上を図ること
 ○効率的な統計調査の実現のため、標本調査の活用や調査周期の見直し等 に努めること
 ○必要性の低下した統計調査の整理縮小など、効率化のために不断の見直 しを行うこと
II 統計分野ごとの課題の解決に向けて

1 人口動態調査について

(1)出生、婚姻、離婚等に関する指標として、既婚・未婚別人口を用いて新 たな指標に基づく分析を行っていく必要がある。
(2)日本における外国人について人口動態が把握できるよう、統計の拡充を していく必要がある。
(3)世帯に関する調査の中に移動理由を把握する項目を含めること等により、 世帯及び世帯構成員の移動状況を明らかにする必要がある。
(4)改訂された疾病死因分類(ICD−10)の適用に伴う死因統計の変化 について、今後も検証した結果を国内外に公表する必要がある。
(5)死亡診断書に記載されている全ての死因、いわゆる複合死因について、 慢性疾患等の対策を検討するための基礎資料として、データの整備、蓄 積、利用を図る必要がある。
(6)死因統計と疾病統計を関連付けて分析できるようにする上で必要な、死 亡診断書の記載法の周知や追跡調査、疾病登録情報からの統計作成等の 検討事項を整理する必要がある。

2 施設面統計調査について

(1)医療の需要と供給の動態をより的確に捉えるため医療統計の改善、充実 を積極的に行っていく必要を中間報告において指摘し、平成8年度「受 療行動調査」が実施されたが、今後もさらに情報の収集と有効活用を目 指す必要がある。
(2)保健・医療・福祉施設従事者について、情報把握の充実を図る必要を中 間報告において指摘し、「平成9年社会福祉施設等調査」に従事者票が 導入されることとなったが、他の施設等についても同様に検討する必要 がある。
(3)保育関連等地域の自主的な活動についての情報把握の充実を図る必要を 中間報告において指摘し、平成9年度に「児童福祉事業等調査(仮 称)」が計画されているが、この調査結果の動向については継続的に把握する 必要がある。
(4)「健康・福祉関連サービス産業統計調査」について、サービスの質にか かわる情報を調査するとともに、当面の政策の視野に入っていない事業 を調査対象から除外するなど、位置付けの明確化を図る必要を中間報告 において指摘したが、平成8年調査において改善された。今後も、当調 査の充実、発展の継続的な検討が望まれる。

3 業務統計について

(1)保健・福祉サービスの需要・供給について、業務統計以外の調査統計及 び各種情報等との関連分析を行うなどによりそれらの関連を明確にし、 事業の客観的評価が可能となるような情報の収集活用を行う必要がある。
(2)市町村等が実施するサービス提供を支援するため、可能な限り市町村ご との情報把握を図るとともに、事業主体が事業の効果を評価することが 可能となるような指標の策定を進める等の必要がある。
(3)報告内容の類似性、情報把握の必要性の点から見直す等、情報に優先度 をつけるとともに、報告周期を整理する必要がある。

4 世帯面統計調査について

(1)高齢者世帯の定義は、諸々の調査において様々となっており、厚生省に おいては現在、男65歳以上、女60歳以上で構成する世帯としている が、平均寿命の伸長等を勘案すれば男女とも65歳以上に統一すること が、今後の在り方ではないかと考えられる。ただし、この定義の改定に ついては、関係各省庁間での協議を踏まえた上で実施するのが適当である。
(2)二世代同居の実状、痴呆性老人の実態、サービス需要の把握方法につい て検討する必要がある。

5 統計調査の総合解析等について

(1)健康に関する新たな指標として、日常生活動作の自立度に着目した指標 の策定を検討する必要がある。
(2)保健、医療、福祉の観点からみた地域の特性を総合的に把握するための 新しい指標の開発を目指して検討し、地域比較のために適用すべき手法 について整理したが、更に検討の必要がある。

6 情報通信基盤の活用

(1)統計情報を電子化して、オンラインで収集する等により統計作成の迅速 化、効率化を図る必要がある。
(2)統計情報の提供に、インターネット、CDーROM等の電子媒体を活用 することにより、国民に使い易い媒体での情報提供に改善する必要がある。

III 今後の検討課題

 高齢者介護に関わる統計整備については、介護保険法の創設を踏まえて さらに検討する必要があるほか、提言事項の実現のため、統計情報部門 の機能強化が求められる。



問い合わせ先 厚生省大臣官房統計情報部管理企画課
   担 当 廣瀬滋樹(内4115)
   電 話 (代)[現在ご利用いただけません]



平成9年3月19日

厚生大臣 小泉 純一郎 殿

厚生統計協議会

会長 和 田 攻



厚生統計の今後の在り方について

標記について、本協議会は平成7年6月から審議を重ねてきましたが、今般、これまでの検討結果を別添の「厚生統計の今後の在り方について(報告)」としてとりまとめたので報告します。


「厚生統計の今後の在り方について(報告)」 目次

はじめに

I 厚生統計の発展に向けての基本的考え方

1厚生統計の意義と役割
2厚生統計をとりまく環境の変化
3厚生統計の発展に向けての方向
(1)政策立案に資する統計の実施
(2)統計利用の利便性の向上
(3)信頼性の高い統計の効率的作成

II 統計分野ごとの課題の解決に向けて

1人口動態調査について
(1)出生、婚姻、離婚等の新たな指標
(2)外国人の取り扱い
(3)人口及び世帯の移動状況の把握
(4)ICDー10(第10回修正国際疾病分類)の適用による死因統計の変 化の検証結果の普及
(5)複合死因の分析
(6)死因統計と疾病統計の関連を分析する上での検討事項
(7)疫学的研究おける被調査者の追跡
2施設面統計調査について
(1)医療の需要と供給の動態をより的確にとらえるための医療統計の改善
(2)保健・医療・福祉施設従事者についての情報把握の充実
(3)保育関連等地域の自主的な活動についての情報把握の充実
(4)健康・福祉関連サービス産業統計調査の改善
3業務統計について
(1)事業の客観的評価が可能な情報の収集、活用
(2)市町村等が実施するサービス提供を支援するための情報の収集・提供
(3)統計の効率化
4世帯面統計調査について
(1)高齢者世帯の定義についての検討
(2)世帯面統計調査における政策課題への対応
(3)その他
5統計調査の総合解析等について
(1)新たな指標としての「健康寿命(仮称)」の開発
(2)「地域保健福祉指標(仮称)」の開発
(3)その他
6情報通信基盤の活用
(1)統計情報の収集の側面
(2)統計情報の提供の側面

III 今後の検討課題



厚生統計の今後の在り方について(報告)

平成9年3月19日

厚生統計協議会

はじめに

本協議会は、少子・高齢化等の厚生行政を取り巻く環境の変化を踏まえ、来るべき21世紀に向けての厚生統計の在り方について平成7年6月から検討を重ねてきた。この間、平成8年5月31日に中間報告として提言を行ったが、その後も引き続き様々な課題について審議してきたところであり、今般、中間報告における指摘事項を含め検討結果を以下のとおり取りまとめた。

I 厚生統計の発展に向けての基本的考え方

1.厚生統計の意義と役割

厚生行政において適切な施策を展開していくためには、保健、医療、福祉等諸分野における国民のニーズと各種サービスの現状とを的確に把握、分析し、厚生行政の進むべき方向を明らかにすることが必要である。
厚生統計は、このような厚生行政推進の基盤となる情報を提供する役割を担っている。このため、厚生統計には、単に調査結果を集計するだけではなく、その加工、解析を通じて政策の企画・立案や施策の効果の検証・改善のために有用な情報を提供することが求められている。
同時に、国民生活に密着した厚生行政を推進するためには、厚生行政に対する国民の理解を深めることが不可欠であり、そのため、国民に対して厚生行政の現状や施策の基盤に関する情報を的確に提供することも厚生統計の重要な役割である。

2.厚生統計を取り巻く環境の変化

厚生統計がその本来の役割を十分に果たしていくためには、社会の変化と厚生行政の変化に応じ、常に見直しを行っていくことが必要である。
今後の厚生統計の在り方を検討するに当たって考慮すべき主な環境の変化としては、以下の諸点があげられる。

(1)少子・高齢化の進展

少子・高齢化の進展に対応した高齢者、児童等を対象とする保健福祉3プランの総合的推進、介護保険制度創設への取組み、医療保険制度の改革等の、厚生行政の新しい総合的展開の基礎となる情報が求められている。
(2)家族・世帯の機能の変化
核家族・単身世帯の増加や女性の社会進出に伴う共働き世帯の増加などにより、従来、家族や世帯が担ってきた介護機能や保育機能が低下しつつあるといわれており、こうした状況を正確に把握する必要が高まっている。
(3)行政改革の動き
国の財政が危機的状況にあること等を背景に社会保障制度の構造改革や行政・財政の構造的な改革が政府としての基本方針となっている。厚生統計においても、行財政のスリム化・効率化の観点からの見直しが迫られている。
(4)地方公共団体の役割の増大
保健、医療、福祉など国民生活に密着した行政は、より身近な地方公共団体が主体となって実施すべきとの要請が強まっており、地域ごとのニーズに応じた施策の展開、地域ごとの違いを視野に入れたきめ細かな政策立案、更には地方公共団体における施策の立案・実施への支援の観点から地域の状況の違いを把握できる情報が求められている。
(5)国際化の進展
国際化の進展と我が国の社会保障に対する国際的な関心の高まりにより、単に統計の国際比較により政策立案の資料を得るということだけでなく、我が国の社会保障の現状に関する情報を世界に向けて発信していく必要性も増している。

3.厚生統計の発展に向けての方向

以上のような厚生統計を取り巻く環境の変化の中で、厚生統計の役割をより的確に果たしていくためには、

(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
サービスの需要と供給の関係を適切に把握できる統計体系としていく、
サービスの質を把握できる統計体系としていく、
地域間の比較に活用できる統計情報を提供していく、
利用者にとって使い易い形で統計情報を提供していく、
信頼性の高い統計を効率的に作成するといった視点が重要であり、これらを踏まえて、より具体的にまとめれば以下のとおりである。
(1)政策立案に資する統計の作成

厚生統計に求められることは、何よりも厚生行政の施策の企画・立案に役立つ統計データを提供できるような統計調査を企画・実施し、多面的な解析を行った上、結果を迅速に提供するということである。
このためには、時代の要請に敏感に反応し、今後の厚生行政の推進に必要となると思われる情報を予測し、速やかにその情報の収集に着手するよう努めることが必要である。それと同時に既存の施策についても「サービスの需要と供給の関係」や「サービスの質」等の観点からその実態を正確に把握し、それが社会の実情にあっているかを検証できるような情報の把握に努める必要がある。
また、提供される情報については、保健、医療、福祉等の厚生行政の諸分野の施策の実施状況等を総合的に把握し、分野横断的な分析に活用できる情報、地域の役割が増していることから地域間の比較を可能とする情報、更に、単なる調査結果の集計だけでなく、指標化等の加工を通じて政策目標の達成状況の把握に活用できる解析結果を提供できるよう努める必要がある。
更に、急速な社会の変化に的確に対応した政策立案のためには、統計データの収集・提供の迅速化を図る必要があり、データ収集のオンライン化やデータベース化の推進等、急速に発展する情報通信技術の積極的な活用も必要である。

(2)統計利用の利便性の向上

利用者にとってより使い易い形で統計情報を提供していくことは厚生統計にとって重大な課題である。
どのような統計情報がどこにあるかという、いわゆる所在源情報については、データベース化を図る等検索し易い形で提供することが必要である。
また、提供する内容についても、(1)でも述べたように指標化等の加工により、分かり易い形としていくことや結果の国際比較を可能とすることが必要である。
統計情報の提供の方法については、広範な統計利用者の多様なニーズに柔軟に応えるために、オンライン化、データベース化、CD−ROM化などの多様化を推進する必要がある。
調査結果の公表の早期化を図るためには、概数がまとまった時点で速報を発表するなどの段階的公表についても検討されるべきと考える。
なお、内外の研究者や国際機関等から要望の高まっている統計調査の標本データ提供については、統計審議会答申「統計行政の新中・長期構想」(平成7年3月)において今後2〜3年を目途に専門的・技術的な研究を行うとしているところであり、その結果を踏まえ、厚生統計についても適切な対応を図っていく必要があるものと考えられる。

(3)信頼性の確保と効率化

今後とも厚生統計については高い信頼性を確保しつつ効率化を推進していくことが必要である。
信頼性を確保するためには、被調査者に対し調査の意義を十分に説明するとともに、調査事項や調査対象の選び方、調査方法、設問の立て方等について更に工夫、見直しを行い、回答し易い調査とするとともに地方公共団体の統計担当職員や調査員の資質の維持及び向上を図ることが必要である。
また、効率的な統計調査の実現には標本調査の活用や調査周期の見直し、更には情報通信技術の積極的活用などの努力が不可欠である。
更に、社会情勢の変化等により必要性の低下した統計調査については、調査事項の整理縮小、場合によっては廃止するなど不断の見直しを行うべきである。

II 統計分野ごとの課題の解決に向けて

1.人口動態調査について

少子・高齢化及び国際化の進展等、厚生統計を取り巻く環境の変化を踏まえ、人口動態統計においても基本的な枠組みを維持しつつ、的確に対応することが必要である。

(1)出生、婚姻、離婚等の新たな指標

少子・高齢化の進展に対応し、人口動態事象をより精密に観察できるようにするため、出生、婚姻、離婚等について、本協議会は、既婚・未婚別人口を用いた指標を作成し、それに基づく分析を行う必要があると指摘した。
これを受け厚生省では、人口動態統計のうち婚姻についてまとめた「人口動態統計特殊報告―婚姻統計―」(現在、準備中)で出生動向を左右する婚姻について、新たに未婚人口を分母とする年齢別婚姻率を時系列で分析することとしている。この結果を踏まえ、今後更に出生等についても、既婚・未婚別人口を用いた新たな指標に基づく分析を行っていくべきである。

(2)外国人の取扱い

本協議会は、人口動態統計において、外国人の人口動態事象が把握できるようクロス集計を含めて拡充していく必要があると指摘した。
これを受け厚生省では、平成8年10月に公表した「平成7年人口動態統計(確定数)」で外国人を表章した表を追加充実しているが、今後も、外国人の届出状況と外国人人口の占める割合をにらみつつ、適宜、追加拡充していく必要がある。

(3)人口及び世帯の移動状況の把握

現在では、地域の人口は自然増減でそれほど変化せず、人口移動により地域人口の規模と構成が決まってくる。各地域における保健、医療、福祉等の行政施策の推進や行政計画の立案をする際には人口移動を加味する必要があり、そのためには地域の経済計画等をよく踏まえるなどし、地域の人口の動向を把握する必要がある。
人口移動を世帯の観点からみると、その地域の世帯類型別の世帯数など地域の世帯構成に変化を生じさせることになる。厚生行政施策では、高齢者単身世帯や母子世帯対策など世帯に着目し施策を進めていくケースが多いことから、人口のみならず世帯の地域間移動の状況把握が必要である。
人口の移動については住民基本台帳に基づくデータ整備の進捗によって、量的な側面についてある程度把握できると考えられるが、世帯構成の変化に関わる移動理由等の側面は把握することができない。このため、世帯調査の中に、世帯構成員の移動状況及び移動理由等を把握する項目を含めること等により、世帯の面から見た移動の状況を明らかにし世帯構成の変化を把握すべきである。また、地域を限定した上での移動データの検証や各種調査の結果を利用した実証研究など、移動に関する調査研究も積極的に行っていくべきである。

(4)第10回修正国際疾病分類(ICD−10)の適用による死因統計の変化の検証結果の普及

本協議会は、ICD−10の適用により、選択される原死因が肺炎から脳血管疾患、悪性新生物に変わるなどの死因統計の変化についての情報を、国内外に広く普及する必要があると指摘した。これを受け厚生省では、平成7年人口動態統計に基づいた検証結果を平成8年7月以降、国内の専門誌等に公表したほか、平成8年10月に行われた国際会議で報告している。ICD−10の適用は世界に先駆けた経験であり、また保健医療政策に大きな影響を与えるものであるため、今後もさらにICD−10の適用による死因統計の変化について詳細な分析を加え、積極的に国内外に公表していく必要がある。

(5)複合死因の分析

死亡診断書に記載されている、原死因を含むすべての死因、すなわち複合死因の情報は、例えば、死亡へ至る過程の分析、慢性疾患における合併症の考察、原死因とそれ以外を含む疾病の総体としての影響の把握など幅広い活用が想定されることから、本協議会は、複合死因の分析のためのデータの整備等の必要性を指摘した。これを受け厚生省では、現在、複合死因のデータを試験的に一部蓄積し始めたほか、平成8年度厚生科学研究で分析も進めている。
今後は、原死因以外の死因の精度、データの蓄積・整備、利活用の方法などについて引き続き検討し、幅広く複合死因のデータを提供していく必要がある。

(6)死因統計と疾病統計の関連を分析する上での検討事項

現代社会においては、疾病構造の変化、高齢化、医療技術の進歩などによって疾病進行の経過は複雑になってきているため、罹患した時点から死亡へ至る経過を把握して死亡の全体像を明らかにすることが必要となっている。本協議会は、そのための方法の一つとして死因統計と疾病統計の関連を分析するための課題と対応策について整理した。

(1)関連分析のための死因統計上の課題と対応

1)複合死因による疾病的背景の照合

死因統計と疾病統計の関連を分析するための課題としては、まず死因と疾病的背景とを可能な限り照合し得るようにするため、現在のような原死因一つのみの情報ではなく、死亡診断書に記載されている複数の死因すなわち複合死因の情報を得ることが重要である。このためにも、上記の複合死因のデータの蓄積・整備を積極的に進めていく必要がある。

2)死因(死亡診断書)の精度の向上

また、死亡診断書に記載される死因が正確であることも、死因と疾病の関連分析を行うためには重要である。そのためには、特に臨床現場における死因統計・死亡診断書に関する教育を充実する必要がある。
例えば、医師の卒前・卒後教育において、死亡診断書が死因統計に反映されることを強調し、更にマニュアルを作成し、あるいは様々な専門誌その他の各種メディアによって死亡診断書の記載方法を周知することを検討し、実現していく必要がある。

(2)関連分析のための疾病統計上の課題と対応

1)疾病登録型の疾病情報

死因統計と疾病統計の関連を分析するためには、疾病への罹患から死亡へ至る時間的経過を連続的に反映した疾病的背景の情報を得ることも必要である。
そのためには、患者を罹患(発症)の時点から死亡へ至るまで把握する疾病登録のような情報収集の方法などについて検討することが望ましい。しかし、この疾病登録のような方法には多額の費用、人手と時間を要するため、例えば診療録の管理された病院などを選び、死亡を起点として過去の疾病的背景にさかのぼる形の調査によって代替する方法も考えられる。
現在、病院の退院時抄録を標準化する努力がなされているが、それが実用化されれば、病院の記録から疾病的背景を知る方途が拡大するため、この点からも退院時抄録の標準化が望まれる。

2)疾病の重症度・合併症などの表記方法

また、死因と疾病の関連について分析し、疾病の実態を質を含めて把握することは疾病対策上きわめて有益であるので、今後、患者調査などの疾病統計において疾病の分類ばかりでなく重症度の把握、複数の疾患に罹患している場合の疾患の程度の評価、合併症のとらえ方といった問題を解決するため、必要な研究を行うべきである。

(7)疫学的研究における被調査者の追跡

疫学的な知見は、医療又は保健政策の基礎となる重要な情報であるが、なかでも重要なコホート的疫学的調査・研究においては、対象者の追跡が転院・転居などにより途中で中断(脱落)すると分析精度が大きく低下する。そのため、人口動態の死亡データを用いて、コホート調査の対象者の生存・死亡確認を行い、対象者の脱落を補うことについての検討を考慮すべきである。

2.施設面統計調査について

保健、医療、福祉サービスは、「施設」というハードとソフトを一体化した総合的な主体によって提供されているものが多いため、施設面からサービスの実態を把握する意義は大きいが、近年は、保健、医療、福祉の連携が進み、保健・医療・福祉、施設・在宅という区分にこだわらず最も適したサービスを総合的に提供していくとの考え方が強く打ち出されている。こうした動きの中で、統計調査も、従来の施設面、世帯面という区分で別々に調査の設計を行うのではなくサービスの需要と供給の両面から総合的な情報を一体的に把握していくことが求められるようになってきている。このような変化に対応した施設面統計の在り方については、今後、介護保険制度の導入に伴う厚生統計の見直しを検討する中で更に検討が必要と考えられるが、当面取り組むべき課題は以下のとおりである。

(1)医療の需要と供給の動態をより的確にとらえるための医療統計の改善

医療をめぐる諸状況の変化に対応し良質で効率的な医療サービスを提供するシステムの確立に資するためには、医療の需要と供給の動態をより的確にとらえる必要があるとの見地から、本協議会は平成7年8月医療機関と直接接点のある患者自身から情報の把握を行う「受療行動調査」の実施を提言した。これを受け厚生省は、平成8年度この調査に取り組み、現在集計中である。
介護対策、障害者対策の充実等、医療を取り巻く環境は今後も大きく変化していくものと考えられ、これらを踏まえた需要と供給の動態を的確にとらえることのできる情報の収集と有効活用を目指した医療統計の改善、充実を今後とも積極的に行っていく必要がある。

(2)保健・医療・福祉施設従事者についての情報把握の充実

社会福祉施設や老人保健施設の従事者については、将来の需要増大に向けての従事者の確保・定着、そして何よりも質的な向上が重要な課題となっている。
今後は、従事者の質の向上がサービスの質の向上につながり、従事者の安定供給、定着が良質なサービスの安定供給につながるという視点から、そのための対策の基礎となる従事者に関する情報の把握の充実を図ることが必要である。
このため、本協議会は、社会福祉施設におけるいわゆる直接処遇職員について、新規採用者・退職者の状況、雇用形態、労働時間、処遇の状況、研修等の資質向上の状況等について調査し、多角的な分析が行えるようにするべきであると提言した。これを受け厚生省は、「平成9年度社会福祉施設等調査」において従事者票の導入を計画中である。
また、老人保健施設、医療施設等の従事者についても、既に調査している事項に加え資質向上の状況等、従事者自身の意識を含め必要な情報の収集を検討する必要がある。なお、施設におけるサービスの質を客観的に評価し得るような情報の充実についても今後更に検討を進めることが必要である。

(3)保育関連等地域の自主的な活動についての情報把握の充実

本協議会としては、従来、公的な分野での把握に重点が置かれてきた保育サービス関連の状況について、認可外保育施設、児童クラブ等の在所・参加児童数、保育者・指導者の状況、保育形態、開設時間等の実態や保育関連以外の地域の自主的な活動についても、その状況を把握すべきであると指摘してきた。
これを受け厚生省は、これらの細部の実態について把握するため、平成9年度に「児童福祉事業等調査(仮称)」の実施を計画しているが、こうした統計データは少子化及び児童の健全育成対策の分野において極めて重要であるので、その動向については今後も引き続き継続的に把握していくことが必要である。

(4)健康・福祉関連サービス産業統計調査の改善

「健康・福祉関連サービス産業統計調査」については、公的サービスと民間のサービスをどのように組み合わせ、どのように役割分担していくべきかといった政策的な問題を検討していく上で必要となる情報を提供するための調査として位置付けられ、サービスの質にかかわる情報や公私のサービスの比較ができるような事項など政策に直接結びつく内容を調査するとともに、当面の政策の視野には入っていない事業については調査対象から除外するなど、位置付けを明確にすべきであると指摘した。これを受け厚生省は、平成8年の当調査において、
(1)対象となるサービスの種類を公的サービスの分類あるいは施策上の分類に即した区分により整理し
(2)民間事業所のサービスの内容、提供の実態及び公的機関からの受託・助成の状況等を把握し
(3)営利・非営利を問わず有償でサービスを提供している民間事業所を調査対象とする等の改善を図って調査を実施している。
今後も政策上必要となる事項についての詳細な分析や、行政機関のみならず一般の利用者の利便にも配慮した名簿の作成等、調査の充実、発展に対する継続的な検討が望まれる。
3.業務統計について

「衛生行政業務報告」「社会福祉行政業務報告」等の業務統計は、もともと厚生省の機関委任事務として地方公共団体が実施している事業実績及び法律による届出を統計として収集し、その事業目的や目標の達成度を確認する役割を担ってきた。しかしながら、福祉八法の改正、地域保健法の制定にみられるように、厚生行政は地方の自主性を尊重する方向に大きく変化しつつあり、国は、公平性の確保に配慮しつつ、サービス提供の調整を行い、その量的質的向上を支援していくといった役割を果たすように変わりつつある。
国、都道府県、市町村がそれぞれの役割を果たしていくためには必要な情報を主にサービスの供給面から体系的に把握し提供することが今日における業務統計の中心的役割である。
こうした側面から、例えば従来の「保健所運営報告」を改正し、「地域保健事業報告」として実施し、地域の実情をより小さな単位でわかるような工夫の具体化が図られている。今後も更に、地域の保健福祉情報がより的確に地方支援に資するよう十分な配慮が必要である。これらも含め、業務統計関係の課題を整理すると以下のとおりである。

(1)事業の客観的評価が可能な情報の収集、活用
(1) 保健・福祉サービスの需要、供給の関連を明確にし、供給面については事 業の評価が可能となる情報の収集を行う。
(2) 保健、医療、福祉の情報を相互に関連させて保健・福祉サービスの総合的な把握が可能となるよう業務統計の報告内容の整備を図る。
(3) 事業評価を行うに当たって、業務統計で把握できない情報については業務統計以外の調査統計及び各種情報等との関連分析を行うなど情報の活用を図る。

(2)市町村等が実施するサービス提供を支援するための情報の収集・提供

(1) 情報の収集は可能な限り事業主体である市町村ごとに行う。
(2) 市町村等の事業主体が事業の効果等を客観的・相対的に評価することが可能となるよう、事業の実績と住民の保健・福祉水準の改善との関係を示すような指標を策定する。
(3) 地域住民が様々な形で自主的に保健・福祉サービスに参加する上で、あるいはサービスの受け手として必要となる情報の提供ができるような環境整備を行うことを検討する。
(3)統計の効率化

(1) 業務統計と厚生省各局の事業実績報告等とで内容の類似したもの、情報把握の必要性が低くなったものは見直すなど、情報の重要性に優先度をつけ収集する情報を整理する。
(2) 報告周期について、月報は季節変動の観察、速報性等特別な必要性のあるもののみとし、原則として年報又は年度報に整理する。
4.世帯面統計調査について

厚生省は国民生活と密着した行政を所管しており、多くの施策が世帯を対象として幅広く展開されている。そのため、世帯及び世帯員の変化や実態を的確にとらえることが施策遂行上、不可欠である。国民生活基礎調査など世帯面統計調査は、各種行政施策の企画・立案の基礎資料を得るため、日常生活の基本単位である世帯及び世帯員を対象に実施されているが、こうした世帯面統計調査は昭和50年代の後半に再整備されたものである。その後、社会情勢は少子・高齢化の進展を始めとして大きく変化し、厚生行政の施策においても、介護保険制度創設への取組み、障害者プランの推進等の新たな広がりをみせている。
こうした中で世帯面統計調査は、新たな施策の展開に必要な基礎資料及び現在推進されている各種施策の効果測定、検証のための基礎資料として一層の重要性が増している。
一方、調査対象としての世帯においては、世帯規模の縮小・高齢化がみられるとともに、単身赴任、高齢者の入院・入所、子供の遊学等による居住形態の多様化、さらには女性の就労、高齢者の年金、子供のアルバイト等による収入形態の多様化などの大きな変化が生じている。
また、世帯面統計調査における世帯の定義及び分類は、各統計調査が持つ調査目的等の違いから必ずしも同一ではなく、前述の「統計行政の新中・長期構想」において、世帯の定義の統一化等について関係省庁間による検討の必要性が指摘されている。
こうした世帯をめぐる社会情勢の変化を踏まえ、世帯や世帯員の実態を的確に把握するため、世帯面統計調査の今後の在り方について見直しを行う必要がある。 見直しに当たっては

(1)各種世帯面統計調査間の比較、分析における利便性の向上
(2)各種施策課題に対する世帯面からの情報の把握という観点から検討を行った。

(1)高齢者世帯の定義についての検討

(1) 各種世帯面統計調査における世帯の定義は、「同一住居・同一生計」でほぼ一致しているが、詳細な部分では異なっている。そのため、世帯としてとらえる際の基準が必要であり、可能な範囲で基準の統一化を図るべきである。
しかし、詳細な基準の設定は、調査結果の時系列観察が困難になること、被調査者、調査員の負担の増加を派生させることにもなることから慎重に行うべきである。
(2) 世帯分類の統一化に関しては、主として「高齢者世帯」について検討を行った。
分類の統一化は、各統計調査が固有の調査目的を持っていることから、これを考慮した上で行う必要がある。
1)現在、厚生省が実施する統計調査で使用している高齢者世帯の定義は、昭和20年代後半に、高齢による所得の減少等の世帯の経済的側面及び婚姻における男性と女性の年齢差という当時の一般的状況を考慮して定義付けられたもののようである。そのため、男65歳以上、女60歳以上と性による年齢差があり、60歳から64歳の男の単独世帯、男65歳未満・女65歳以上の夫婦世帯等については高齢者世帯に該当しないものとなっている。
しかし、平均寿命の伸長、年金制度の成熟、女性の社会進出等、社会・経済の状況は大きく変化している。そのため、こうした社会の変化を踏まえた世帯分類とする必要がある。
2)高齢者世帯については、経済、介護等の面から、行政として何らかの支援が必要、又は必要と思われる高齢者を中心とした世帯としてとらえ、
(ア)高齢者を65歳以上の者とする
(イ)65歳以上の者の世帯に18歳未満の未婚の者が加わった世帯も対象とする
(ウ)女性の就労による経済的自立、年金における性による扱いにほとんど違いがないこと等から、性による年齢差は考慮する必要がないとする
ことが妥当である。
具体的な高齢者世帯の定義としては、「65歳以上の者のみで構成する世帯又は、これらに18歳未満の未婚の者が加わった世帯」とすることが考えられるが、各種世帯面統計調査間の統一化の問題、これまでの高齢者世帯の定着の度合い等から十分な検討が必要である。
なお、調査結果の公表に当たっては、利用者における継続的活用・高齢者をめぐる世帯の変化をみる観点から、現行の定義による数値及び「65歳以上の者のみの世帯及び65歳以上の者と60歳から64歳の者で構成される世帯(18歳未満の未婚の者も含む)」についても、併せて表章することが望ましい。

(2)世帯面統計調査における政策課題への対応

(1)二世帯同居世帯における生活の共同性

現在、世帯面統計調査においては、同一家屋に居住しているものであっても、生計を異にしている場合は、別の世帯として取り扱っており、同一家屋に居住する親世帯と子世帯などの関係については解析が行われていない。
しかし、世帯の住居や生計の在り方が多様化している現在、在宅介護に関する現状を把握するといった目的のためには、こうした世帯を、いわば一つの世帯としてとらえることも必要と考えられる。
このため、調査の実施に際してこうした世帯については単なる別世帯ではなく、関連分析の必要な世帯として関連づける等の方法により、このような世帯の情報を把握すべきである。
また、親と子といった二世代の者が同居する世帯については、これまで明確な概念でとらえられていなかったが、世帯内の構造を明らかにするため、性、年齢、子の配偶関係等のライフステージ別に居住形態を類型化する等、現行調査の解析を高度化することが必要である。
こうした世帯について、生活の共同性を把握するためには、家計収支、住居の状況、食事・入浴の状況、交際費の負担状況等の日常生活の在り方を調査する必要があるが、今後、行政的活用、把握すべき事項、分析の手法等についての検討が必要である。
(2) 痴呆性老人の実態把握

痴呆性老人については、寝たきり者と同様に、施設及び在宅での適切な介護が必要であり、そのための実態に関する基礎資料が求められているが、現在実施されている世帯面統計調査では全国的に同一の基準での実態は把握されていない。
世帯面統計調査における痴呆性老人の実態把握においては適切な介護の提供という観点から、痴呆により生ずると考えられる心身の状態及び日 常生活動作(ADL)の状況を把握することが適当である。併せて、医 療機関での受診等の状況を把握することによって、調査結果の活用の幅 が広がることとなる。
痴呆性老人の実態を医学的な側面から厳密に把握することは望ましいが、痴呆か否かの具体的な把握方法については今なお検討すべき点が多く、新たな全国的大規模調査を直ちに行うことは困難であるため、当面は上記のような世帯面の調査による実態把握の可能性を検討することが現実的であると考えられる。
その際の、設問及び調査方法については、地方公共団体等で実施された調査を参考とするとともに、この分野の専門家等により、その在り方を十分検討すべきである。

(3) 保健・医療・福祉サービスの需要把握

人口の高齢化等により、保健・医療・福祉分野における各種サービスに対する需要は、ますます増大すると考えられる。これまでの世帯面からの需要の把握は、主として各種サービスの利用実態及び利用意向を把握してきているが、可能な限り客観的なものとする必要がある。
世帯面統計調査における今後の方向としては、世帯及び世帯員のサービスに対する需要を的確にとらえるため、新たに世帯の誰がサービスを必要としているかを把握するとともに、世帯員の健康状態、要介護の状況等、世帯及び世帯員の置かれている状況をより詳細に把握する必要がある。同時に、世帯内でのプライバシーを考慮した調査方法についても検討が必要である。
また、様々なサービスのうちどのようなサービスが求められているかをより的確にとらえるためサービスの種類、対象とする世帯員等を適切に選んで行うなどの方法が有効であると考えられ、行政需要に対応して、年次により調査対象を変更することも検討すべきである。

(3)その他

(1) 以上、各課題について検討したが、検討結果の実施について、世帯の定義及び分類の統一化は、各種調査を所管する各省庁間での協議を踏まえて実施すべきである。痴呆性老人の実態把握については上記の諸点を十分検討した上で、実施すべきである。
(2) なお、今回は検討できなかったが、世帯の個人化への対応、国際比較への対応、ライフサイクルを浮き彫りにすることによる各世代への効果的な施策展開のための表章等については、今後の課題として残されている。また、統計調査の実効をあげるため、各種世帯面統計調査に適した母集団情報の活用等による一層の効率的な実施、調査精度の向上が望まれる。
5.統計調査の総合解析等について

厚生統計は、世帯面、施設面等にわたる各種統計調査により、保健、医療、福祉など国民生活の基盤となる政策分野に対して、それぞれ必要な統計情報を提供してきたが、総合的な施策の推進に資する観点からは、更に有益な情報を提供することが必要である。
このためには、必ずしも新しい統計調査の実施を必要とせず、既存の複数の調査結果を結合して分析することにより新しい有益な視点や情報を引き出す工夫をもすべきである。
こうした観点から、保健、医療、福祉に関わる新たな指標の開発に向けての検討を行った。まだ、様々な検討を行わなければならず検討過程であるが、その状況を以下のとおり報告する。
なお、このような各種統計調査の結果を総合した分析のためには、統計調査間で調査項目及びその定義、調査の精度並びに調査の周期及び時期等の統一がとれていることが望ましいので、今後、保健、医療、福祉に関わる統計について、分野横断的に活用しやすい統一のとれた統計体系の整備を目指すことが必要である。

(1)健康に関する新たな指標の開発

我が国の平均寿命は年々伸長しており、現在では、世界でもトップクラスの長寿国となっている。平均寿命の伸長に伴った高齢者の増加は、加齢に伴う様々な障害や疾病への対応を迫っており、今後は単なる長命ではなく、「生活の質(QOL : Quality of Life)」を考慮に入れた施策の推進が必要となっている。
こうした観点から、健康という側面からみた寿命、すなわち国民が平均的にどのくらいの期間、病気や他人の介助等がなく、生存できるかという指標を考えることができないか検討を行った。つまりは、その指標を総合的な政策目標の一つとして活用し得るのではないか、との発想である。
ただし、この指標は、加齢に伴う様々な障害や疾病を予防する観点から評価されるべきものであって、病気や介助が必要となった状態における施策が別途整備されるべきであることは言うまでもない。

(1)健康とは

まず、健康について、世界保健機関(WHO)は「健康(Health)とは、完全な身体的、精神的及び社会的安寧の状態であり、単に疾病または病弱でないということではない。(WHO憲章前文)」と定義し、身体、精神及び社会の3つの側面からとらえるものとしている。
したがって、この指標もこれら3つの側面からとらえた指標として開発することが望ましいことは言うまでもない。しかし、社会面における健康についてはその定義からいっても社会的に一致した結論を得ることは困難であり、精神面における健康については、算定に必要な年齢別の精神的な健康度に関するデータを既存の調査結果から得ることは困難であるので、これらの側面を織り込んだ指標を開発することは難しいという結論に達した。
(2)考え方と算定方法

このため、今回の検討においては、健康を身体的側面からのみとらえることとせざるを得なかったものである。
1) 健康については、全く快適な健康状態から病気で入院して動けない状態など本来、健康の程度には様々な段階があり、健康か非健康だけでは割り切れないものであるが、データの存在を考慮して、ここでは日常生活動作(ADL)における介助の有無で考えてみることとした。
また、疾病に罹患している状態は健康でないと言えようが、これを寿命の視点から考慮するためには、疾病ごとにその疾病による当該期間をデータとして把握する必要がある。しかしながら、こうした疾病に罹患している期間についてのデータは把握されておらず、当面、疾病について織り込むことは困難であるとの結論に達した。したがって、通常長期にわたって継続すると考えられるADLの状態を基準と考えてみることとしたものである。
しかしながら、身体的側面からとらえる場合、疾病期間及びそれに関する期間も健康でない期間ととらえるべきであると考えられるので、何らかの方法でこの期間を推計することも検討課題というべきであろう。
2) ADLについては「入浴」、「歩行」、「着替え」、「食事」、「洗面・歯磨き」及び「排泄」の6項目のデータが得られており、特定の項目に重点を置くという考え方もあり得るが、ADLが日常生活を様々な側面から総合的にとらえて要介助の状態を判断するよう設計されていることに鑑み、項目間に軽重を付けることは適当でないと判断した。
3) したがって、この指標を算定するには、介助を必要とするADLの項目数に着目し、
a介助を必要とする項目が一つもない状態、
b一つでも介助を必要としない項目がある状態、
cいくつかの項目についてのみ介助を必要とする状態
のいずれかを健康の基準とすることが適当である。
aからcまでのいずれを採用するかについては、この指標の用い方と関わるので、更に検討することが必要である。
4) 指標を算定する方式としては、
a サリバンの方法(年齢別の健康な状態とそうでない状態を一時点でとらえてそれぞれの年齢人口に占める割合を基にして算定する)、
b ロジャースの理論を応用した方法(健康な状態とそうでない状態の間の年齢別遷移確率を作成し算定する)

の2つの方法が考えられるが、bの方法に必要な健康の状態が年齢別にどのように遷移しているかについてのデータを既存の調査により把握することは困難である。一方、aの方法に必要な一時点における健康である状態についてのデータは、既存の調査結果を駆使することにより収集可能であることから、サリバンの方法を採用することが現実的である。

(3)指標の名称

この指標は、諸外国において「Healthy Life Expectancy」と総称されているものの一つであり、直訳すれば健康寿命と訳されるものであるが、今回検討した作成方法が、身体的側面、特にADLにおける介助の必要性という観点からみたものであることから、指標に関する誤解を生じさせないよう、例えば「平均ADL自立期間」とでも名付けることが適当であろう。
(4)今後の課題

今回の検討では、算定の基本的考え方を整理したが、今後、この方法に従って、意味するところが誤解されないものが計算できるか、指標としてどのように使うことが適当かを検討することが必要である。このような場合、指標の実体的意味につき誤解のないようにすることが極めて大切であることは言うまでもなく、基礎となるべき各種調査におけるデータの定義や精度の検証に十分注意することが必要である。

(2)「地域保健福祉指標(仮称)」の開発

地域における保健福祉政策を地域の実情に沿った形で行うには、まず、その地域の保健福祉の状況を客観的に把握することが必要である。そのための方法として、各地域における保健福祉に関するデータを収集し、それらのデータから全国平均や他の地域の保健福祉に関する水準の比較ができるような総合化指標を作成することが有効である。更に、算定された指標の値を各地域に還元することも考えられる。

(1)地域ごとの指標化

高齢者の健康状況や病院・社会福祉施設等への入院・入所の状況など、年齢構成に依存して値が大きく変動する指標を全国平均や他の地域と比較可能とするためには、年齢構成の違いが与える影響を除去する必要がある。そのためには、地域間の死亡状況を比較する指標である標準化死亡比(SMR)の手法を応用することが有効である。また、地域的な特性を分析するためには、SMRの手法により算定される指標の値を地図上に表して視覚的把握を容易にすることも有効である。
更に、上記の方法により求められる複数の指標間の相関係数を算定することにより、指標同士の関係の深さをとらえることができ、地域の特徴を分析する場合には、分析の効率化のため相関が小さい項目を探し出すことができる。これらの理由から相関係数を算定することも重要である。

(2)一人当たりの指標化

一人当たりの指標を作成する際、単純に人口を使用することはよく採られる方法である。しかし、例えば在宅要介護者に対する各種サービス利用量・供給量など特定の人に対するサービスなどを指標化するには、単に人口で除するのではなく、当該サービスを必要とする者一人当たりで作成することが地域間で比較する上で適当である。
また、地域ごとのデータを地域間で比較するにあたり、算定された数値のみで単純に比較するだけでは、その後の分析には不十分であり、かつ危険である。そのため、地域ごとに算定された数値が他の地域の数値と比べて著しく大きい、または小さいというような、いわゆる「離れ値」であるかどうかを検出し、また、「離れ値」についてはなぜそのような値が出ているのかを考察する必要がある。「離れ値」であるかどうかを見極めるには例えば、分布の状況を簡素に表す「箱ひげ図」を利用することなどが、非常に有用な手法である。

(3)総合化していく一つの手法

1) 総合化指標を作成するに当たり、単純に全項目を足しあげるのではなく、項目の寄与度の大小を織り込んで足しあげることを可能とする手法である主成分分析を用いることが有効である。また、主成分分析により求められた寄与度が高い項目だけを足しあげる手法を用いることも、総合化の手法に幅を持たせることとなり、このような点からも主成分分析は有効な手段といえる。
2) しかしながら、項目にウェイトを付け総合化指標を作成するためには、それぞれの項目に最も適正なウェイトを付ける必要があり、なお慎重な検討が必要である。
3) 指標の散布図を描くことによる地域間の比較、全国値との比較は、それぞれの地域が図のどこに位置するか視覚化して表現できることにより、地域の特徴付けができる。更に、それぞれの地域では、今後どの方向を目標とすべきかという政策の方向性について議論するための基礎データにもなりえるものと考えられる。

(4)今後の課題

1) 地域の指標を作成し比較することから、その基礎となるデータの精度が問われることとなる。まずは、都道府県レベルで地域の指数の比較ができるよう、統計調査の精度を上げるとともに、それぞれの調査の精度をそろえていく必要がある。
2) 地域の保健福祉施策の水準を表す指標としては、高齢者に関するもの、児童に関するものなど様々なものが考えられる。そのような総合的な指標を作成するためには、地域の保健福祉の状況を的確に表す分野としてどのようなものを採択するか、またその中で基礎データとして何を取捨選択するかについて、更に検討が必要である。また、それぞれの分野について総合化された指標を更にウェイト付けし、多分野にわたる指標を総合化することについては、それぞれの分野にウェイト付けをするという厚生行政全般に関わる問題が新たに生じるため、別途検討する場が必要である。

(3)その他

(1) 厚生省は平成8年12月より1人1台パソコン体制とし、それに伴ったハード面での整備を行ったところと聞いている。これにより、既存の統計データを迅速に入手し、加工していくことが各分野の担当者個人の単位で行うことができるなど、指標の算定業務への取組みにおいて高度化・効率化に資するものと期待している。
(2) 国民医療費は、医療機関における傷病の治療に係る費用を中心に推計しているものであるが、我が国の医療に係る費用の全体の把握、国際比較等の視点から、現在把握している費用のほかに、その周辺部分の費用を明らかにすることが求められている。
このため、現在推計されている国民医療費の周辺にある費用を推計することについて検討を行ったが、推計すべき費用の範囲、データの把握可能性、推計精度の確保等についてなお検討すべき課題が多く、今後ともこれらの課題を引き続き検討する必要がある。
6.情報通信基盤の活用

近年における情報通信技術の進歩は著しいものがあり、統計情報を活用する国民の側でも、また、統計情報の作成に当たる国などの機関の側でも、パソコンの配備やネットワークの整備といった情報基盤の強化が見られる。
こうした状況の中で、統計情報の収集作成については調査票、統計情報の提供については報告書といった紙を媒体とした情報伝達がなお主流となっている。
今後は、統計情報の迅速かつ的確な収集と提供のため、社会的に広く展開している情報基盤を積極的に活用することが必要となっていることから、本協議会では、統計情報の収集の側面と提供の側面から情報通信基盤の活用について検討した。
なお、厚生統計における情報通信基盤の活用については、現在行財政改革の大きな流れの中で進められている規制緩和の一環である申請等の負担軽減、地方分権の推進、更には国の情報公開の動きと密接な関連を有すると考えられるので、情報収集に当たっての国民の負担軽減、プライバシーの保護等に十分留意しつつ進めることが必要である。

(1)統計情報の収集の側面

厚生統計にかかわる情報は、市区町村、世帯、施設、事業所等で発生し、保健所、福祉事務所などの機関又は都道府県を経由して厚生省に報告され、審査、集計、解析が行われるが、現在は、厚生省における審査・集計の段階で初めてデータの電子化が行われている。このため、調査票などの通信運搬に多大の時間を必要とし、これが統計情報の解析・公表までの期間の短縮を困難としている原因の一つとなっている。
このことを解決するためには、厚生統計にかかわる情報をできるだけ発生源に近いところで電子化し、オンラインなどの形で迅速に厚生省に集約するシステムを構築することが必要である。
オンラインによる統計情報の収集を行うためには、発生源、経由機関及び厚生省のそれぞれの段階における情報基盤の整備、この間をつなぐ回線の整備並びにデータの入力、審査及び集計をできるだけ容易に行うことができる統計報告業務処理のためのソフトウェアの開発が必要である。
情報基盤の整備については、厚生省においては平成8年12月から厚生省本省のすべての職員が厚生省LANに接続されたパソコンを利用する環境が整っており、発生源又は経由機関である地方公共団体においても徐々に整備が進みつつある。
オンライン回線の整備については、すでに厚生省と都道府県を結ぶ厚生行政総合情報システム(WISH)が整備されており、厚生省及び都道府県の保健統計担当部局とは情報交換が可能となっているが、都道府県の社会福祉統計担当部局及び市区町村については、今後、オンライン接続の拡充が望まれる。
統計報告業務処理のためのソフトウェアについては、人口動態統計について、平成6年からの市区町村の戸籍事務のコンピュータ化の開始に併せて人口動態統計業務のコンピュータ化も可能となり、現在、250市区町村においてこのシステムの導入が行われている。また、その他の統計業務については、地方公共団体における入力により、厚生省にオンラインによる統計報告を行うためのソフトウェアの開発が進められていると聞いている。
オンラインによる統計報告の実現は、統計調査を迅速化し、正確さを確保する上で効果がきわめて大きいので、プライバシー保護の観点からの安全性の確保に十分留意しつつ、できるだけ早く情報基盤や回線の整備を進めるとともにシステムの開発、普及に努めることが必要である。
統計報告の電子化、オンライン化の基盤を整備することは、単に通常の統計情報収集だけでなく、将来的には事業主体での日常業務の電子化が進むことにより、即時的な業務統計情報の取得や、収集情報をそのままデータベース化する等により概数として早期の利用を図るなど様々な活用が可能となるので、こうした活用についても視野に入れた検討が必要である。

(2)統計情報の提供の側面

(1) 情報提供の媒体
統計調査の結果は、従来、報告書という紙を媒体として国民に提供されてきたが、社会全体の情報基盤の整備に伴い、統計情報を国民が十分に活用するには、電子化された情報提供を進めることが必要となっている。
厚生省では、平成8年12月からインターネットにホームページを開設し、公表した統計情報の一部を国民がインターネットを通じて取得できる体制を整えたところであり、地方公共団体などについては、前述のWISHネットワークを通じてオンラインによる統計情報の取得が可能となっている。
また、厚生省の保有する統計情報について更に加工・解析する地方公共団体などについては、統計法の手続きを経て磁気テープ等でのデータ提供も行っている。
更に、CD−ROMによる統計調査報告書の出版が「平成5年患者調査」について行われたところである。
このような電子化された情報提供の推進は望ましいことであり、今後、インターネットを通じて提供する統計情報のデータベース化やCD−ROM出版の拡充など、国民の厚生統計情報へのアクセスの改善に努めることが必要である。
(2) 統計情報利用の利便性の向上
上記のような電子化された統計情報を活用する前提として、情報の所在を検索する便宜が図られる必要がある。この点については、統計審議会の統計行政の新中・長期構想」に基づき統計情報の所在を案内するシステムが計画されているほか、国の情報一般についての国民向けの行政情報所在源案内(クリアリングシステム)についても整備の計画が進められているので、着実な推進を期待する。なお、こうしたシステムの整備に当たっては、情報所在源の検索と情報の取得を切り離さず、検索後そのまま情報アクセスできるような利便性についても配慮すべきと考える。
また、オンラインによる情報取得では、通信回線の速度が遅い場合に取得に要する時間が相当程度長くなるという欠点をもっているので、提供する情報を例えば帳票ごとに細分化するなど必要な情報を細かく選択できるような利便性も考慮されるべきである。
更に、各種の情報をクロスして処理する等のニーズに対応することも必要であり、この意味でも、提供する情報をデータベース化し、併せてキーワードで検索できるような利便性の高いシステムとすることが必要である
(3) 新しい技術の活用
情報通信技術の進展は急速であり、開発された新しい技術を速やかに厚生統計の活用に生かすことにも留意する必要がある。
例えば、近年各種の情報処理分野への応用が進んでいる地理情報システム(GIS)では、個人、世帯、施設、事業所といった個別の情報を地図の上に正確に位置付けることができるので、統計情報を視覚的に把握することが可能となるとともに、調査区ごとの調査客体のぶれや調査区の特性等を考慮した分析が可能となり、統計調査の活用範囲の拡大を図ることができる。
今後とも、このような新たな技術の開発や応用化の動向を注視しつつ、導入の可能性を検討すべきである。
III 今後の検討課題

各統計分野ごとの今後の検討課題に加え、各分野に共通の検討課題として介護保険制度の導入に関連する厚生統計の見直しが挙げられる。
当初、介護保険制度の具体化の状況を踏まえつつ、本協議会としても検討する予定であったが、平成8年度においても、介護保険制度の詳細な事項が未確定であったため、具体的な検討に取りかかることができなかった。
今後、本制度の成立を踏まえると、更に調査項目、調査対象等を横断的にとらえ高齢者介護の施設の実態、それに関連する在宅サービスの実態等の全体像を把握する必要性から、厚生統計の各分野に横断して派生する諸課題について、できるだけ早期に見直しの検討に着手することが必要と考えられる。
なお、以上において提言してきた内容を実現するためには、厚生省における統計情報部門の機能強化が求められ、そのための体制整備を早急に図る必要がある。


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