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厚生年金基金の資産運用に係る受託者責任ガイドライン研究会報告書
平成9年3月31日
厚生年金基金(以下「基金」という。)が老後の所得保障という目的を達成できるようにするためには、加入員等の受給権保護の観点から、資産の安全かつ効率的な運用を行っていくことが不可欠である。
このためには、運用規制の緩和を図るとともに、英米における「受託者責任」に関するルールのように、資産運用関係者の役割及び責任を明確化、具体化したルールの確立を図り、基金が自己責任の下で、自主的に運用を行うことができる環境を整備することが重要である。
基金の資産運用関係者の義務や責任は、厚生年金保険法等に規定されているが、これらの具体的内容は必ずしも明らかでなく、その結果、一般的には、関係者の責任意識は高いとはいえない状況にある。
現在、いわゆる「受託者責任」について、基金関係者の間で議論がなされているが、早期に関係者の責任意識の醸成と基金の運用管理体制の向上を図るためには、これを明確化、具体化するためのガイドラインを策定し、普及・定着させていくことが必要である。
本研究会では、計8回にわたり、有識者からの報告や関係者からの意見聴取を交えて議論を行い、別紙「厚生年金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン」を策定するに至った。
本ガイドラインの策定に当たっては、次の点に留意した。
- (1) 現在の厚生年金保険法等には、基金関係者の役割分担、権限及び権利義務に関するいくつかの規定がある。また、厚生年金保険法では、理事の「忠実義務」は「善管注意義務」を敷えんし、これを一層明確にしたものであるとの立場がとられている。そこで、本ガイドラインは、これらを前提とする必要がある。
- (2) 米国のエリサ法(1974年従業員退職所得保障法)におけるフィデューシャリー(fiduciary)の定義、義務、責任等は、我が国でも参考になる点が多く、その基本的な考え方や精神は、最大限参考とすることが望ましい。
- しかし、米国の考え方は、現行の厚生年金保険法や民法における考え方と異 なる面があり、エリサ法の考え方を、現行法制の下で、そのまま我が国に持ち 込むことはできない。「受託者責任」といっても、国によって概念や制度が異 なっており、現行法の下では、現行法を前提として我が国の実状に応じたもの を考える必要がある。
- したがって、本ガイドラインは、我が国の現行法制の下で用いられている概念を使用して記述した。具体的には、エリサ法等英米の法制度における考え方や精神をできる限り参考としつつ、現行法における「善管注意義務」や「忠実義務」の概念を、基金の管理運用業務を行う場面を想定して、具体的な行動指針として示すこととした。
- 本ガイドラインは法令そのものではなく、どのような事項に留意すれば、理事等に求められる職務を全うできると考えられるかを示したものである。
- 理事等の責任に関して訴訟が起きた場合、我が国の現行法制度の下では、責任の有無は裁判所の判断に委ねられることになる。例えば、善管注意義務が遵守されたかどうかの判断については、裁判所によって一切の事情が斟酌されるため、このガイドラインを守ってさえいれば責任を免れるということではない。しかしながら、本ガイドラインは、裁判所が判断を下す際の参考とされるものと思われる。
- また、本ガイドラインは、各運用受託機関・商品の性格やそれぞれの根拠法令上の規定に応じ、それらを活用する場合ごとに細かく書き分けたものではなく、資産運用に当たっての一般的な考え方を記述したものである。このため、本ガイドラインどおりに基金の理事が行動しようとすると、運用受託機関の各業法等の法令の規定に抵触する場合も考えられるが、その場合には、法令が優先される。
- 本ガイドラインは、以上のような考え方に基づいて作成したものであるが、本ガイドラインが基金関係者のみならず、事業主や運用受託機関等の関係者にも理解され、我が国においても、英米におけるような「受託者責任」の精神が定着するとともに、基金の運用管理体制が向上し、加入員等の受給権の保護に一層の関心が払われるようになることを期待したい。
なお、本研究会の議論を通じ、現行制度についての問題点が明らかになったので、下記のとおり、本研究会としての要望を付記することとする。今後、関係者の間で活発な議論がなされることが望まれる。
- (1) 我が国においてもできる限り、英米における「受託者責任」の考え方を導入 することが望ましく、個々の加入員等の受給権保護の徹底、忠実義務の明確化 等の点から、現行法制の整備を行うべきである。
- (2) 基金関係者と運用受託機関はいずれも基金の加入員等の受給権保護を図る役 割と責任を負っていることから、これらを規制する法令等の考え方や内容の整 合性を図るべきである。
- (3) 基金の株主議決権の行使については、本ガイドラインの趣旨に沿って、全体として整合性のとれた取扱いを体系的に確立する必要がある。
- (4) 基金のみでなく、税制適格年金等を含む企業年金すべてを対象とした横断的なルールを確立すべきである。
厚生年金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイドライン
1 本ガイドラインの目的・性格・対象
- (1)本ガイドラインの目的
- (2)本ガイドラインの性格
- (3)本ガイドラインの対象
2 基金の資産運用関係者の役割分担
3 理事
- (1)一般的な義務
- (1) 法令上の義務
- (2) 一般的基準
- (2)基本的な留意事項
- (3)運用の基本方針
- (4)運用の委託
- (1) 運用受託機関の選任・契約締結
- (2) 運用受託機関の管理
- (3) 運用実績の評価及び掛金の払込割合の変更等
- (5)資産管理の委託
- (1)資産の保全
- (2)資産管理機関の選任・契約締結等
- (6)運用コンサルタント等の利用
- (7)自己研鑽
- (8)利益相反
- (1) 法令上の禁止行為等
- (2) 忠実義務違反のおそれのある行為
- (3) 事業主への注意喚起
- (9)理事の責任
- (1) 管理運用に係る意思決定に関する理事の責任
- (2) 管理運用業務の執行に関する理事の責任
- (3) 義務履行の評価
4 代議員
5 監事
6 資産運用委員会
7 その他
- (1)会議録等の作成・保存
- (2)代議員会への報告
- (3)加入員への情報提供
- (4)事業主への情報提供
1.本ガイドラインの目的・性格・対象
(1)本ガイドラインの目的
- ○ 厚生年金基金(以下「基金」という。)の目的は、加入員及び加入員であった者(以下「加入員等」という。)の老齢について給付を行い、もって加入員等の生活の安定と福祉の向上を図ることにあり、基金は、加入員 等の受給権を保護するため、安全かつ効率的に資産の運用を行わなければならない。
- ○ 本ガイドラインは、基金の資産運用関係者の役割や職務の分担及びそれに伴う責任の内容を明確化、具体化するものであるが、その目的は、これらの者の責任意識の醸成及び自主性の涵養を図ることにより、安全かつ効率的な資産運用を促進し、もって加入員等の受給権の保護を図ることにある。
(2)本ガイドラインの性格
- ○ 本ガイドラインは、現行の法的枠組みを前提とし、現行の厚生年金保険法等の下で、基金の資産運用を安全かつ効率的に行うためのルールをできる限り網羅的、体系的に整理したものである。
- ○ 本ガイドラインは現行法制の下で、遵守しなければ義務違反を生じる可 能性があると考えられるルールについては、「しなければならない」行為として記述し、遵守しなかった場合に直ちに義務違反を生じるとまでは言えないが、現行法の精神から判断して遵守することが望ましいと考えられるルールについては、「望ましい」行為として記述した。
(3)本ガイドラインの対象
- ○ 本ガイドラインの対象者は、主として基金の積立金の管理及び運用に関する基金の業務(以下「管理運用業務」という。)の執行に係る意思決定とその執行を職務とする理事であるが、管理運用業務に関与するその他の関係者(代議員、監事)及び資産運用委員会についても、その対象とする こととする。
- なお、本ガイドラインでは、管理運用業務とは、運用の基本方針や資産 構成の決定、運用受託機関、資産管理機関又は運用コンサルタント(以下「運用受託機関等」という。)の選任、管理等をいい、運用受託機関等が行う業務を含まない。
- ○ 本ガイドラインは、事業主、運用受託機関等の基金の外部の者を直接対象とするものではないが、これらの者は、本ガイドラインを尊重して行動することが求められる。
2.基金の資産運用関係者の役割分担
- (基金と理事の関係)
- ○ 理事は、基金から委任を受け、理事会において管理運用業務の執行に係る意思決定を行う(厚生年金保険法(以下「法」という。)第120条参 照)。
- ○ 理事長は、基金を代表して、管理運用業務を執行する。理事(常務理事、運用執行理事等)は、理事長の定めるところにより、理事長を補佐し、管理運用業務を執行することができる(法第120条参照)。
- (外部の機関との関係)
- ○ 基金は、自家運用の場合を除き、信託銀行、生命保険会社又は投資顧問業者と積立金の管理及び運用に関する契約を締結することとされており、また、運用コンサルタント等と管理運用業務に係る助言に関する契約を締 結することができる。ただし、管理運用業務に関する意思決定については、基金自らの判断の下に行う。
- ○ 基金が外部の機関に委託した業務及び外部の機関に求めた助言の内容については、関係法令及び契約の定めるところにより、その外部の機関が基金に対する責任を負う。基金の理事等は、外部の機関の選任及び管理について、基金に対する責任を負う。
3.理事
(1)一般的な義務
- (1) 法令上の義務
- (善管注意義務)
- ○ 理事は、基金に対し、善良なる管理者の注意をもって職務を遂行する義務を負う(民法第644条の類推適用)。
- (忠実義務)
- ○ 理事は、管理運用業務について、法令、法令に基づいて行う厚生大臣の処分、規約、代議員会の議決を遵守し、基金のため忠実にその職務を遂行しなければならない(法第120条の2参照)。
- (2) 一般的基準
- ○ 理事は、管理運用業務について、常勤・非常勤の勤務形態やその職責の内容に応じ、理事として社会通念上要求される程度の注意を払い、基金のため忠実にその職務を遂行しなければならない。
- 特に、管理運用業務を執行する理事(理事長、管理運用業務を行う常務理事及び運用執行理事等。以下「理事長等」という。)は、管理運用業務に精通している者が、通常用いるであろう程度の注意を払って業務を執行しなければならない。
- ○ 理事は、その職務の遂行に当たり、もっぱら加入員等の利益を考慮す べきであり、これを犠牲にして加入員等以外の者の利益を図ってはなら ない。
(2)基本的な留意事項
- (分散投資義務)
- ○ 基金資産の運用に当たっては、投資対象の種類等について分散投資に 努めなければならない(厚生年金基金令(以下「令」という。)第39 条の4参照)。ただし、分散投資を行わないことにつき合理的理由があ る場合は、この限りでない。
- (資産構成の重視)
- ○ 基金資産の運用に当たっては、基金資産全体のリスク(収益率の変動性)とリターン(収益率)を考慮して、個々の資産の種類(株式、債券等)や商品(以下「資産等」という。)の選択(自家運用の場合にあっては、個々の銘柄等の選択)を行わなければならない。リスクの高い資産等であっても、資産全体のリスクとリターンとの関係において合理的と考えられれば、資産配分規制(5・3・3・2規制)等の法令に違反しない限り、基金自らの判断によりこれらの資産等に運用することができる。(法第130条の2及び厚生年金基金規則(以下「規則」という。)第41条の2等参照)
- (資産の特性等への配慮)
- ○ 資産等の選択に当たっては、次の点に配慮しなければならない。
- ア 当該資産等への運用と基金の目的との整合性
- イ 当該資産等への運用が資産全体のリスクとリターンに与える影響
- ウ 当該資産等の流動性
- エ 当該資産等への運用及び当該資産等の管理に必要な費用
- オ 当該資産等への運用に関する運用受託機関の専門的能力の水準
- (資産状況の把握)
- ○ 理事長等は、少なくとも四半期ごとに、基金全体の資産構成割合を時 価で把握しなければならない。
(3)運用の基本方針
- (策定)
- ○ 理事長等は、運用の基本方針を策定しなければならない(法第136 条の3参照)。
- ○ 運用の基本方針は、基金の成熟度・積立水準、事業主の掛金負担能力 ・経営状況等、基金の個別事情に応じて、基金自らの判断の下に策定されなければならない。
- (内容)
- ○ 運用の基本方針においては、運用の目的、資産構成に関する事項、運 用業務に関する報告の内容及び方法に関する事項、運用業務に関し遵守 すべき事項、その他運用業務に関し必要な事項を定めなければならない (法第136条の3及び規則第42条参照)。特に、運用受託機関の運 用実績の評価に関する事項を定めることが望ましい。
- ○ 資産配分規制の適用が除外される基金においては、自らの判断の下に当該基金にとって最適と認められる資産構成割合(以下「政策的資産構成割合」という。)を定めなければならないが、その他の基金においても、資産配分規制の範囲内において、これを定めることが望ましい。
- ○ 政策的資産構成割合については、ALM分析(資産と負債の関係の分析)等による将来にわたる資産及び負債の変動予測を踏まえ、基金の個別事情に応じて許容できるリスクの範囲内で最大のリターンを得るような資産構成を求める手法等の合理的な方法により、適切に定められなければならない。
- (策定の手続き)
- ○ 運用の基本方針は、理事会等基金内部での意思決定手続きにしたがっ て策定されなければならない。
- (見直し)
- ○ 運用の基本方針は、中長期的な観点から策定されるべきであるが、基 金の状況や環境の変化に応じ、その前提条件との整合性を確認し、定期 的に見直しをしなければならない。
(4)運用の委託
- (1) 運用受託機関の選任・契約締結
- (選任の基準)
- ○ 運用受託機関の選任については、運用受託機関の得意とする運用方法 を考慮するとともに、運用実績に関する定量評価だけでなく、投資哲学、運用体制等に関する定性評価を加えた総合評価をすることにより行うこ とが望ましい。
- なお、資産の管理も行う運用受託機関の選任については、資産管理の 委託に当たっての留意事項((5)を参照)も遵守しなければならない。
- (定量評価の基準)
- ○ 定量評価については、時価による収益率を基準とし、資産種類ごとに適切な市場ベンチマーク(市場動向の指標)を設定すること、他の同様の運用を行う運用受託機関の収益率との相対比較を行うこと等、一般的に適正と認められる合理的な基準により行うものとする。
- (定性評価の基準)
- ○ 定性評価については、運用についての基本的考え方、運用責任者及び 運用担当者の体制及び能力、調査分析等運用支援の体制、運用状況の報 告その他の情報提供内容などを総合的に考慮して行うものとする。
- (義務の明確化)
- ○ 運用受託機関と契約を締結するに当たっては、各契約の特性を踏まえ、 運用受託機関の義務を明確にしておかなければならない。
- (契約締結の手続き)
- ○ 運用受託機関との契約は、当該運用受託機関の選任の理由を明らかに した上、理事会等基金内部での意思決定手続きにしたがって締結しなけ ればならない。
- (2) 運用受託機関の管理
- (運用の基本方針に沿った運用)
- ○ 理事長等は、運用受託機関に対し、協議に基づき運用の基本方針の趣旨に沿って運用が行われるべきことを、当該基本方針に係る事項(当該運用受託機関に示す必要がないと考えられる事項を除く。)を記載した書面を交付することにより示さなければならない(法第136条の3及び規則第42条参照)。
- (注)合同運用の生命保険契約については、運用の基本方針を提示する 必要はない。
- (運用ガイドラインの提示)
- ○ 理事長等は、運用の基本方針を踏まえ、文書によるガイドラインにより、各運用受託機関に対し、それぞれ遵守すべき資産構成割合の基準及び許容幅、運用スタイル(運用手法)等を示すことが望ましい。
- (報告の請求)
- ○ 理事長等は、運用受託機関が契約、運用の基本方針及び運用ガイドラ インに沿った運用を行っているかどうかを確認するため、運用受託機関 に対し、運用の実態に関する正確かつ必要な情報の報告を求めなければならない。
- (注)情報の内容によっては、資産管理機関に対し報告を求めることが 適当な場合がある。
- ○ 理事長等は、運用受託機関に対し、少なくとも四半期ごとに、運用状況についての時価での報告を求めなければならない。
- (注)生命保険一般勘定契約の場合には、当該契約に係る責任準備金に 関する報告で差し支えない。
- ○ 特に、他の資産と合同運用する商品で運用している場合、当該商品の運用方針、資産構成、運用状況、配当の考え方等、各基金の運用実績に影響を与える情報の報告を求めなければならない。
- ○ そのほか、報告の内容には、運用受託機関の運用方針の変更、運用責任者や運用担当者の大幅な異動等の運用体制の変更等を含めることが望ましい。
- (契約上の義務の違反)
- ○ 理事長等は、運用受託機関が契約上の義務に違反した場合には、運用受託機関の責任を問わなければならない。
- (3) 運用実績の評価及び掛金の払込割合の変更等
- (運用評価の期間)
- ○ 運用受託機関の運用実績については、短期の運用実績に著しく問題が ある場合等を除き、一定の期間(例えば、3年以上)の実績を評価する ことが望ましい。
- (運用評価の基準)
- ○ 運用評価の基準については、運用受託機関の選任・契約締結に当たっ ての留意事項((1))を参照。なお、運用評価の基準は、運用の基本方針 において明示するとともに、運用受託機関に提示しておくことが望ましい。
- (掛金の払込割合の変更等)
- ○ 掛金の払込割合の変更及び資産の移受管については、政策的資産構成割合を維持するために行う場合を除き、適切な評価に基づいて、基金自らの判断の下に行わなければならない。
- (変更等の手続き)
- ○ 掛金の払込割合の変更及び資産の移受管については、その理由を明ら かにした上で、理事会等基金内部での意思決定手続きにしたがって行わ なければならない。
(5) 資産管理の委託
- (1) 資産の保全
- ○ 理事長等は、資産管理機関の選任に当たっては、基金の資産が滅失又は散逸することのないよう、当該機関の信用力や資産の管理体制について説明を求めなければならない。
- (2) 資産管理機関の選任・契約締結等
- (選任の基準)
- ○ 資産管理機関の選任に当たっては、次の点に留意する必要がある。
- ア 資産の分別管理が行われているか。
- イ 資産の売買に伴う受渡し・決済が確実に行われているか。
- ウ 資産の管理に第三者を用いている場合、当該第三者の選任・管理を 適切に行っているか。
- エ 資産の管理が保護預かりにより行われている場合、当該資産の管理 状況を確認しているか。
- オ 資産の管理を行う部署と運用を行う部署との間に隔壁が設けられているか。
- (義務の明確化)
- ○ 資産管理機関と契約を締結するに当たっては、各契約の特性を踏まえ、 資産管理機関の義務を明確にしておかなければならない。
- (契約締結の手続き)
- ○ 資産管理機関との契約は、当該資産管理機関の選任の理由を明らかに した上、理事会等基金内部での意思決定手続きにしたがって締結しなければならない。
- (契約上の義務の違反)
- ○ 理事長等は、資産管理機関が契約上の義務に違反した場合には、資産管理機関の責任を問わなければならない。
(6)運用コンサルタント等の利用
- (運用コンサルタント等の利用)
- ○ 運用の基本方針や政策的資産構成割合の策定、運用受託機関の選任、 運用評価等に関し、必要な場合には、運用コンサルタント等外部の機関 に分析・助言を求めることが考えられる。
- ○ なお、運用受託機関の選任又は運用評価に関する助言の契約を運用受 託機関又は運用受託機関と緊密な資本若しくは人的関係にある機関と締 結する場合、助言の中立性・公正性の確保に十分留意する必要がある。
- (契約内容の明確化)
- ○ 運用コンサルタント等と契約を締結するに当たっては、基金が運用コ ンサルタント等に助言を求める範囲及び運用コンサルタント等の義務を 明確にしておかなければならない。
- (契約締結の手続き)
- ○ 運用コンサルタント等との契約は、助言を求める理由及び当該運用コンサルタント等の選任の理由を明らかにした上、理事会等基金内部の意思決定手続きにしたがって締結しなければならない。
- (契約上の義務の違反)
- ○ 理事長等は、運用コンサルタント等が契約上の義務に違反した場合には、運用コンサルタント等の責任を問わなければならない。
(7)自己研鑽
- ○ 理事長等は、投資理論、資産運用に関する制度、投資対象の資産の内 容等の理解及び資産運用環境の把握に努めなければならない。
(8)利益相反
- (1) 法令上の禁止行為等
- (禁止行為)
- ○ 理事は、次の行為をしてはならない(法第120条の3及び規則第 64条の2参照)。
- ア 自己又は当該基金以外の第三者の利益を図る目的で、特別な利益の 提供を受けて、積立金の管理及び運用に関する契約を基金に締結させ ること。
- イ 自家運用を行う場合において、自己又は基金以外の第三者の利益を 図る目的で、自己又は自己と利害関係のある者の有する有価証券を自 家運用に係る資産で買い取ること。特定金銭信託契約を締結している 場合には、この旨を信託銀行に指図すること。
- ウ 自家運用を行う場合において、自己又は基金以外の第三者の利益を 図る目的で、自己又は自己と利害関係のある者に対し、自家運用に係 る有価証券を売り渡すこと。特定金銭信託契約を締結している場合に は、この旨を信託銀行に指図すること。
- (特別な利益の提供)
- ○ 「特別な利益の提供」とは、一般の人や一般の場合と比較して有利な 条件で与えられる利益又は一般の人には与えられない特恵的若しくは独 占的利益の提供をいい、例えば、金銭の提供、有利な条件による物品等 の譲渡、貸付その他信用の供与又は役務の提供等がこれに該当すると考 えられる。
- (利害関係のある者)
- ○ 「自己と利害関係のある者」としては、例えば、理事の親族、事業主 及びその役員等が考えられる。
- (公務に従事する者としての行為)
- ○ 基金の役員及び基金に使用され、その事務に従事する者は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなされるため(法第121条参照)、上記の禁止行為に該当しない場合であっても、運用受託機関等から特別な利益の提供を受けてはならない。
- (2) 忠実義務違反のおそれがある行為
- ○ 下記のa、b及びcの条件を満たすことなく、例えば、理事がア、イ、 ウ等の行為を行う場合には、忠実義務違反を生じるおそれがあることに 留意する必要がある。
- a 運用受託機関と積立金の管理及び運用に関する契約を締結すること につき、当該運用受託機関の適正な評価を行った結果である等合理的 な理由があること
- b 基金が締結する契約の条件が、通常の契約の条件に比べ基金にとっ て不利なものでないこと
- c 運用受託機関に対する指示や指図が基金に不利益をもたらすもので ないこと
- ア 事業主と運用受託機関又は資産管理機関(運用受託機関又は資産管 理機関と緊密な資本又は人的関係のある会社を含む。)との間に緊密 な資本関係、取引関係又は人的関係がある場合において、基金をして 当該運用受託機関又は資産管理機関との間で、基金の積立金の管理及 び運用に関する契約を締結させること。
- イ 自家運用の場合において、特定金銭信託契約を締結している信託銀行に対し、事業主又は事業主と緊密な資本若しくは人的関係のある会社(以下「関係会社」という。)が発行する社債を購入するよう、指図すること。
- ウ 運用受託機関に対し、事業主又は関係会社である証券会社等と有価 証券の売買を行ったり、これに売買の委託を行うよう、指示すること。
- (3) 事業主への注意喚起
- ○ 理事は、管理運用業務の執行に当たっては、もっぱら加入員等の利益を考慮すべきであり、事業主の利益に配慮することが加入員等の利益を犠牲にするような場合には、基金に対する忠実義務に違反することについて、事業主の理解が得られるよう努めなければならない。
(9)理事の責任
- (1) 管理運用に係る意思決定に関する理事の責任
- (理事の義務)
- ○ 理事は、常勤・非常勤にかかわらず、基金から委任を受け、理事会に おいて管理運用業務に関する意思決定を行うが、その勤務形態及び職責 の内容に応じ善管注意義務及び忠実義務を負う。
- (理事の責任)
- ○ 理事は、管理運用業務に関する意思決定について善管注意義務又は忠実義務に違反した場合には、基金に対し連帯して損害賠償責任を負う(法第120条の2参照)。
- (2) 管理運用業務の執行に関する理事の責任
- (理事長の義務)
- ○ 理事長は、管理運用業務の執行全般について基金に対し善管注意義務及び忠実義務を負う。他の理事への権限委任、他の理事による補佐又は報酬受領の有無にかかわらず、その義務を免れることはできない。
- (管理運用業務を執行する理事の義務)
- ○ 管理運用業務を執行する理事(運用執行理事、常務理事等)は、基金に対し善管注意義務及び忠実義務を負う。
- なお、自家運用を行う基金の運用執行理事は、積立金の運用すべてを外部の機関に委託している基金の運用執行理事に比べ、運用に関する高い水準の専門的能力が求められる。
- (理事長等の責任)
- ○ 理事長等が管理運用業務の執行に当たり善管注意義務又は忠実義務に違反した場合には、連帯して基金に対し損害賠償責任を負う。その場合、理事会の意思決定において理事長等の反対意見が会議録(議事録)にとどめられていたとしても、理事長等がそれに基づき管理運用業務を執行したときには、責任を問われる可能性がある。
- (3) 義務履行の評価
- (職務遂行過程による判断)
- ○ 理事が義務を果たしたかどうかは、運用実績などの結果で判断するの ではなく、職務遂行の時点を基準として、その職務遂行の過程が適切か どうかにより判断すべきものである。
- (状況に応じた評価)
- ○ 理事が義務を果たしたかどうかは、意思決定や業務執行の時点におけ る基金の実状その他の具体的な状況に照らして総合的に判断すべきもの である。
4.代議員
- (議決に当たっての留意事項)
- ○ 代議員会は、規約の変更、毎事業年度の予算、事業報告及び決算その他 基金の運営上の重要事項を決定する議決機関であるが、代議員は、議決に 当たっては、もっぱら加入員等の利益を考慮し、これを犠牲にして加入員 等以外の者の利益を図ってはならない(法第118条参照)。
- (理事の業務執行の確認)
- ○ 代議員会において、管理運用業務に関する事項の議決をする際には、代 議員は、理事が管理運用業務を適正に執行しているかどうかを確認しなけ ればならない。
- (監査の請求)
- ○ 代議員会は、監事に対し、基金の管理運用業務に関する監査を求め、その結果の報告を求めることができる(法第118条参照)。
- (理事の交代の議決)
- ○ 基金は、代議員会の議決により、規則第64条の2に規定する禁止行為 (3(8)(1)の禁止行為)をした理事を交代させることができる (法第120条の3参照)。
5.監事
- (監査の実施)
- ○ 監事は、自ら又は代議員会の求めにより、基金の業務を監査する(法第 120条参照)。監査は、「厚生年金基金監事監査規程要綱」(昭和41 年11月30日年発第549号厚生省年金局長通知)に定められた事項を 基準として、監査規程を設け、適正かつ厳正に監査を実施しなければなら ない。
- (監査に関する責任)
- ○ 監事は、基金から委任を受けて監査業務を遂行する。このため、監事は、 監事として通常要求される程度の注意をもって、理事の業務執行の状況を 監査しなければならない。
- (代表権の行使に関する責任)
- ○ 理事長が利益相反行為につき代表権を制限された場合、学識経験者であ る監事が基金を代表する(法第120条の4参照)。この場合、監事は、代表権の行使に当たり、基金に対し理事長と同様の責任を負う。
6.資産運用委員会
- (設置)
- ○ 資産配分規制の適用が除外される基金においては、理事長等を補佐する ため、資産運用委員会を設置することとされているが、その他の基金にお いても、これを設置することが望ましい。
- (役割)
- ○ 資産運用委員会の役割としては、運用の基本方針や政策的資産構成割合 の策定及び見直し、運用受託機関の評価等に関し、理事長等へ意見を述べ ること等が考えられる。資産運用委員会の委員は、基金の個別事情に応じ て審議することになるが、もっぱら加入員等の利益を考慮し、これを犠牲 にして、加入員等以外の者の利益に配慮すべきではない。
- (構成)
- ○ 資産運用委員会は、理事、代議員、事業主の財務に関する業務を担当す る役員等の中から理事長が選任する者で構成されるが、基金の実状に応じ、 基金の外部の者を委員とすることも考えられる。ただし、資産運用委員会 が運用受託機関等の評価を行う場合には、運用受託機関等の関係者である 委員が審議に加わることは適当でない。
- (位置付け等)
- ○ 資産運用委員会の位置付けや開催の手続き等については、各基金の実状 に応じて定められるべきものであるが、基金の業務の執行に関する意思決 定はあくまで理事会で行うべきものであることに留意する必要がある。
7.その他
(1)会議録等の作成・保存
- (理事の業務執行の記録)
- ○ 理事は、管理運用業務のうち主要な事項について、その執行の過程及び 結果を記録にとどめ、保存するものとする。また、記録には、意思決定の 内容、理由、根拠となった情報及び手続きについて記載しておくことが望 ましい。
- (理事会の会議録)
- ○ 理事会における会議の状況及び決定事項については、つとめて詳細に記 録し、整理保存するものとする。特に、理事会での議決において、反対意 見があった場合には、これを会議録にとどめておくことが望ましい。
- (代議員会の会議録)
- ○ 代議員会の会議録は、つとめて詳細に記録し、整理保存するものとする。 特に、代議員会での議決において、反対意見があった場合には、これを会 議録にとどめておくことが望ましい。
- (監事の記録)
- ○ 監事は、その職務を行ったときは、記録を作成しなければならない。
(2)代議員会への報告
- (報告)
- ○ 理事は、代議員会に対し、管理運用業務に関する情報を、正確に、かつ、わかりやすく報告しなければならない。
- (報告の内容)
- ○ 報告の内容としては、次の事項が考えられる。
- ア 運用の基本方針
- イ 運用結果(時価による資産額、資産構成、収益率、運用機関ごとの運 用実績等)
- ウ 理事会における議事の状況
- ○ 代議員会に対しては、資産運用委員会における議事の状況その他の情報 についても積極的に報告することが望ましい。代議員会からこれらについ て報告の要請があった場合には、理事長等は、合理的な理由のない限り、 拒否すべきでない。
(3)加入員への情報提供
- ○ 理事は、加入員に対し、年1回以上、文書の送付により、管理運用業務 に関する情報(運用の基本方針、時価による資産額、資産構成、収益率等 の運用結果等)を、的確に、かつ、わかりやすく提供しなければならない。 ただし、費用や作業量の面から文書の送付によることが難しい場合は、各 基金の実状に応じ、それ以外の方法(文書の回覧、掲示、広報誌の配布等) を採用することも考えられる。
- ○ なお、理事会及び代議員会における議事の状況その他の情報についても 希望があれば提供する旨を、加入員に対し、あらかじめ知らせておくこと が望ましい。
(4)事業主への情報提供
- ○ 理事長等は、事業主に対し、定期的に、又はその求めに応じて、管理運 用業務の状況に関する情報を提供しなければならない。
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