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第1回薬剤耐性菌対策に関する専門家会議 議事要旨

  1. 日時:平成8年12月24日(火)午後1時半〜午後4時

  2. 場所:厚生省別館特別第2会議室

  3. 出席者:別紙

  4. 議事要旨:

     まず、国立予防衛生研究所 荒川 宜親委員より薬剤耐性菌の動向について説明があり、続いて、順天堂大学 平松啓一委員よりMRSAについて説明があった。それぞれの概要を(1)、(2)にまとめた。

    (1) 薬剤耐性菌の動向について

    • 欧米では、バンコマイシン耐性腸球菌( Vancomycin resistant enterococci、VRE)の急増が問題になっている。特に米国では、1994年の時点で集中治療室(ICU)で管理されている患者から分離される腸球菌の12%がVREとなっているとの調査結果が報告されている。現在、日本においては、欧米で問題となっているようなvanA遺伝子やvanB遺伝子を保有するVREによる大規模な院内感染事例は報告されていない。しかし、近い将来、その出現が危惧される。

    • 日本において、現在、問題となりつつある耐性菌としてカルバペネム耐性緑膿菌やセラチア菌などがある。これらの耐性菌はメタロ-β-ラクタマーゼと呼ばれる特殊な酵素を産生し、カルバペネムを含む全てのβ-ラクタム薬を不活化する。その遺伝子は、伝達性プラスミド上のインテグロン構造によって媒介されており、耐性菌から感受性菌へカルバペネム耐性が容易に伝達されうる。これらの耐性菌は感染防御能力の低下した患者からしばしば分離されている。この種の耐性菌は、現在、北海道から九州までの広い地域の20以上の医療施設から分離されており、今後、その分離動向に特に注意する必要がある。その他、問題とすべき耐性菌としてニューキノロン系剤高度耐性菌、アミノグリコシド高度耐性菌、ペニシリン耐性肺炎球菌などがある。

    • 薬剤耐性菌のサーベイランス体制を整備し、薬剤耐性菌の動向を把握することが対策を立てる上で不可欠である。

    (2) MRSAについて

    • 平松委員から、肺炎患者の喀痰から分離されたMRSAについて、以下のような説明がなされた。
       この症例は、当初バンコマイシン投与により軽快したが、その後増悪したため、他の薬を併用投与したところ軽快治癒したものである。この症例から分離されたMRSAは、NCCLSの標準法では、バンコマイシンにMIC(最小阻止濃度)2μg/mlで感受性であったが、その薬剤感受性パターンは、ヘテロタイプ(大部分が薬剤に感受性があるが、一部に耐性を示す菌が存在する集合体)であった。これから、10(6乗)に1つの頻度でバンコマイシンにMIC8μg/mlの耐性を示すMRSAが薬剤含有平板上で選択できた。このMRSAは、VREのもつ耐性遺伝子(vanA、vanB、 vanC)は持たず、バンコマイシン耐性機序の詳細については、現在、研究中である。他の施設でも、このような菌がでているのかを調査する体制が必要であると考える。また、近年、MRSAの中でバンコマイシンに対するMICが若干上昇傾向にあり、今後の高度耐性株の出現に警戒が必要である。ことに、バンコマイシンの多用がその出現を促すものと考えられ、抗生物質の適正使用のためのガイドラインを作成することや新薬開発の支援をすること及び院内感染予防対策を徹底することが必要と考える。

     次に、今後のMRSA及び薬剤耐性菌対策について、以下のような意見が出された。

    • MRSAが問題となってから、MRSA保菌者がいわれのない差別的対応によって苦しい状況に置かれている。最近になって徐々に鎮静化してきているが、過剰な報道等によりこのような問題が再燃することが危惧される。不安を煽るだけにならないよう、学問的にも正確な情報と適切な対策を示すことが必要である。

     次に、VREについて、ヨーロッパで、「バンコマイシンとよく似た構造を持つアボパルシンが飼料添加物として使用されたために、家畜にVREが発生して、それが人に感染したのではないか」という研究報告がなされている問題について事務局が説明を行い、次のような意見が出された。

    • 日本においては、鶏にアボパルシンの使用が認められているが、これまでの使用量は、ヨーロッパと比較して非常に少なく、また、今年11月以降、メーカーによる自主規制がなされて使用されていないため、ヨーロッパのようなアボパルシン使用によるVREの発生及び人への感染の可能性は、非常に少ないと考えられるのではないか。

     薬剤耐性菌に関する必要な対策については、第1回で提案された内容を含めて、次回以降に検討し、3月までに報告をまとめることとなった。


(別紙)

薬剤耐性菌対策に関する専門家会議  委員一覧

 氏名所属職名
 荒川宣親国立予防衛生研究所細菌・血液製剤部長
 稲松孝思東京都老人医療センター感染症科医長
 木村 哲東京大学医学部感染制御部教授
 砂川慶介国立東京第二病院小児科医長
 武澤 純名古屋大学医学部集中治療部教授
 寺門誠致家畜衛生試験場企画連絡室長
 平松啓一順天堂大学医学部細菌学教授
 三瀬勝利国立衛生試験所衛生微生物部長
◎渡邊治雄
(◎:座長)
国立予防衛生研究所細菌部長
  問い合わせ先 厚生省大臣官房厚生科学課
     担 当 矢島(内3806)、中村(3808、2278)
     電 話 (代)[現在ご利用いただけません]
         (直)03-3595-2171

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