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平成8年12月24日

医薬品副作用情報No.140号(概要)



1 α‐グルコシダーゼ阻害剤と低血糖症状

該当商品名 グルコバイ他

 α‐グルコシダーゼ阻害剤を投与した患者で,低血糖症状が報告されている。アカルボースでの報告例では,低血糖との因果関係を完全に除外することはできないものの,低栄養状態や合併症など他の要因も考えられる症例が多い。また,血糖未測定例の中には必ずしも低血糖とは断定できない症例も含まれており,アカルボースと低血糖との因果関係は未だ明らかではない。ボグリボースで報告された例は,いずれも肝硬変を合併しており,因果関係は必ずしも明らかではない。しかしながら,これらは重要な情報であることより,平成8年5月に他の糖尿病用薬非併用時における低血糖症状の発現について「使用上の注意」に追記し,注意喚起を行った。

2 シサプリドとQT延長

該当商品名 アセナリン錠・細粒他

 これまでアゾール系抗真菌剤,エリスロマイシン,クラリスロマイシン併用での心血管系副作用については「慎重投与」「相互作用」の項に記載し,注意を喚起してきたが,今回,動物実験で本剤がQT延長を誘発する可能性が示唆され,国内で2例の併用外でのQT延長が報告されていることから,より一層注意を喚起するために,「副作用(その他の副作用)」の項に「QT延長」を,「その他」の項に「動物実験で,QT延長等の心血管系副作用が示唆されたとの報告がある」を追記し,本剤の適正使用を促すための情報提供を行うよう指導した。

医薬品副作用情報
Information on Adverse Reactions to Drugs

No.140
目 次
1 α‐グルコシダーゼ阻害剤と低血糖症状
2 シサプリドとQT延長
3 使用上の注意の改訂について(その100)

 この医薬品副作用情報は,厚生省において収集された副作用情報をもとに,医薬品の より安全な使用に役立てていただくために,医療関係者に対して情報提供されるもので す。

【情報の概要】

No.1
医薬品 アカルボースボグリボース
対策 使用上注意の改訂
   症例の紹介
 α‐グルコシダーゼ阻害剤を投与した患者で,低血糖症状が報告されている。アカルボースでの報告例では,低血糖との因果関係を完全に除外することはできないものの,低栄養状態や合併症など他の要因も考えられる症例が多い。また,血糖未測定例の中には必ずしも低血糖とは断定できない症例も含まれており,アカルボースと低血糖との因果関係は未だ明らかではない。ボグリボースで報告された例は,いずれも肝硬変を合併しており,因果関係は必ずしも明らかではない。しかしながら,これらは重要な情報であることより,平成8年5月に他の糖尿病用薬非併用時における低血糖症状の発現について「使用上の注意」に追記し,注意喚起を行った。

No.2
医薬品 シサプリド
対策 使用上注意の改訂
   症例の紹介
 これまでアゾール系抗真菌剤,エリスロマイシン,クラリスロマイシン併用での心血管系副作用については「慎重投与」「相互作用」の項に記載し,注意を喚起してきたが,今回,動物実験で本剤がQT延長を誘発する可能性が示唆され,国内で2例の併用外でのQT延長が報告されていることから,より一層注意を喚起するために,「副作用(その他の副作用)」の項に「QT延長」を,「その他」の項に「動物実験で,QT延長等の心血管系副作用が示唆されたとの報告がある」を追記し,本剤の適正使用を促すための情報提供を行うよう指導した。
No.3
医薬品 塩酸トラマドール他(13件)
 使用上の注意の改訂について(その100)
1 α‐グルコシダーゼ阻害剤と低血糖症状
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 成分名  成分名  該当商品名
 該当商品名  アカルボース
ボグリボース
 グルコバイ(バイエル薬品)
ベイスン(武田薬品工業)
 薬効分類  糖尿病用剤
効能効果  (アカルボースの場合)
 インスリン非依存型糖尿病における食後過血糖の改善(ただし,食事療法・運動療法によっても十分な血糖コントロールが得られない場合の追加療法に限る)
 (ボグリボースの場合)
 糖尿病の食後過血糖の改善(ただし,食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合,又は食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下剤若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な効果が得られない場合に限る)


(1)経緯並びに症例の紹介
 α‐グルコシダーゼ阻害剤は糖質の消化・吸収を遅延させ,食後の過血糖を改善する作用を持つ糖尿病用薬であり,アカルボースが平成5年10月1日に,ボグリボースが平成6年7月1日に承認されている。これら薬剤はインスリンやSU剤とは異なり,直接に血糖を降下させる作用はないが,他の糖尿病用薬と併用すると低血糖症状が発現する可能性があること,及び二糖類の消化・吸収を遅延させることから,低血糖症状が認められた場合にはショ糖ではなくブドウ糖を投与する必要があることより,その旨を「使用上の注意」の冒頭に記載し注意を喚起してきた〔本情報No.129(平成6年12月号)〕。
 一方,平成6年度の品目指定副作用調査に指定するなど,低血糖症状の発現状況に注目してきた。薬剤との因果関係は必ずしも明確ではないが,これまで他の糖尿病用薬非併用時に低血糖症状が発現した例(アカルボース:15例,ボグリボース:3例)が報告されていることから,非併用時における低血糖症状の発現について平成8年5月に「使用上の注意」に記載し,注意喚起を行った。
 アカルボースで報告された15例の性別は,男12例,女3例で,年齢は1例が15歳で,その他の症例は50〜84歳であった。合併症としては高血圧症5例,脳血管障害,虚血性心疾患,高脂血症が各3例等であった。低血糖発現時に血糖が測定されていた9例の検査値は18〜70mg/dLで,その他の6例の血糖値は測定されておらず,冷汗等の低血糖様症状のみの報告例であった。血糖値が最も低値(18mg/dL)を示した症例は長期の低栄養状態にあった83歳の患者で,グルコースの静注により最終的には回復したが,低血糖状態の遷延化が認められた。本症例では,低血糖発現4日前より尿路感染症が発症しており,糖消費の促進状態に陥っていたとも考えられる。本症例と同様に高齢で,食事摂取が不十分といった共通要因が認められた2例も含めて3例を表1に紹介する。
 ボグリボースで報告された3例はいずれも肝硬変を合併しており,3例とも男性で,年齢は45〜56歳であった。3例中2例は血糖値の低下とともに冷汗,脱力感等の症状を呈し,他の1例は,本剤の投与開始3日目の朝食2時間後に血糖値の低下(58mg/dL)を認めたのみで,特に自覚症状は伴わなかった例である。3例とも程度は軽度で,ボグリボースの投与継続で消失した例が1例,ブドウ糖を摂取の上,ボグリボース投与の中止により軽快した例が1例,ボグリボースの投与を中止したが,ブドウ糖摂取等の処置は特に行わず消失した例が1例であった。なお,これらの3例はいずれも低血糖の診断基準(血糖値:50mg/dL以下)を満たしていない。
 ボグリボースで報告された3例のうち1例を表2に紹介する。

(2)安全対策
 アカルボースでの報告例では,低血糖との因果関係を完全に除外することはできないものの,低栄養状態や合併症など他の要因も考えられる症例が多い。また,血糖未測定例の中には必ずしも低血糖とは断定できない症例も含まれており,アカルボースと低血糖との因果関係は未だ明らかではない。ボグリボースで報告された例は,いずれも肝硬変を合併しており,本剤についても因果関係は必ずしも明らかではない。しかしながら,他の糖尿病用薬が併用されていない患者における低血糖の発現という重要な情報であることより,他の糖尿病用薬非併用時における低血糖症状の発現について「使用上の注意」に追記し,注意喚起を図っている。
 なお,α‐グルコシダーゼ阻害剤投与時に発現した低血糖例にはショ糖ではなく,ブドウ糖を投与し,血糖値を確保してから食事(補食)などを摂取するのが望ましいと考えられる。

(3)報告のお願い
 他の糖尿病用薬非併用時の低血糖症状の発現に注意する必要がある。アカルボース,ボグリボースの両剤ともに今後同様の症例を経験した場合には報告をお願いしたい。

《使用上の注意(追加改訂部分)》
〈アカルボース〉
その他
低栄養状態又は食事摂取が不十分な高齢の患者において,他の糖尿病用薬非併用時に,低血糖又は低血糖症状が発現したとの報告がある。
また,他のα‐グルコシダーゼ阻害剤(ボグリボース)で,重篤な肝障害のある患者において,他の糖尿病用薬非併用時に,低血糖症状が発現したとの報告がある。

〈ボグリボース〉
その他
重篤な肝障害のある患者において,他の糖尿病用薬非併用時に,低血糖症状が発現したとの報告がある。
また,他のα‐グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース)で,低栄養状態又は食事摂取が不十分な高齢の患者において,他の糖尿病用薬非併用時に,低血糖又は低血糖症状が発現したとの報告がある。

表1‐1 症例の概要(アカルボース)
No.1
患者 性・年齢 男 83歳
   使用理由〔合併症〕 糖尿病 〔糖尿病性腎症〕
1日投与量、投与期間 200mg、約1年5ヵ月間
副作用 経過及び処置
 アカルボース投与開始約1年5ヵ月後の午前3時頃,右上肢と顔面のピクつきが発現した。症状は処置せずにすぐに消失した。午前8時,右上肢と顔面の痙攣が出現。食事及びアカルボースを含むすべての投薬を中止。その後意識レベルが徐々に悪化。午後0時45分,低血糖(18mg/dL)が判明。50%ブドウ糖60mL,20%ブドウ糖40mL,コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム500mgを静注。
 午後6時,血糖値53mg/dL。痙攣消失し,意識レベルも改善。更に50%ブドウ糖    40mLを静注。翌日の午前6時,血糖値112mg/dL。意識レベルはほぼ回復。
 本症例は低血糖が発現する約1年3ヵ月前に脳梗塞再発,以後日常生活動作低下のため,在宅看護が難しくなり,長期入院していた(食事摂取量は不全麻痺のためこぼすことが多く,1000kcal/日程度であった)。また,低血糖発現4日前から尿路感染症が発症し,熱発が認められていた。
備考 企業報告
併用薬:テプレノン,アスピリン・ダイアルミネート,ワルファリンカリウム,メチル硫酸アメジニウム,パンテチン,酸化マグネシウム,バルプロ酸ナトリウム,イミペネム・シラスタチンナトリウム
臨床検査値
投与
2ヵ月後
投与
1年後
投与
1年5ヵ月後
投与中止
16日後
投与中止
44日後
空腹時血糖(mg/dL) 111 86 18 82
HbA1C(%) 7.8 6.0 5.4
体重(kg) 55 41.2


No.2
患者 性・年齢 男 84歳
   使用理由〔合併症〕 糖尿病〔高血圧症,脳梗塞,末梢神経障害,痛風〕
1日投与量、投与期間 150mg、17日間
副作用 経過及び処置
 本症例は飲酒歴60年で,毎日90mLの飲酒をしていた。グリベンクラミドで血糖値200〜300mg/dLとコントロール不良のため,アカルボースに切り替えられた。アカルボース投与開始17日後に朝起き上がれず,寝たきりで両腕・両足がしびれると往診の依頼があった。昼食時の往診では,口調ははっきりしているが,寝たきりの状態。前日からほとんど食事摂取できていないとのことであった。午後1時の空腹時血糖値は56mg/dL(血圧160/60mmHg)で,低血糖状態による脱力であろうと判断された。血糖は角砂糖3個をなめさせた30分後に90mg/dLまで回復した。アカルボースの投与を中止するとともに,マルトース加乳酸リンゲル,複合ビタミンB剤,アスコルビン酸,肝臓エキス・フラビンアデニンジヌクレオチドを4日間点滴投与した。アカルボース投与中止3日後,食後血糖値は216mg/dLと元に戻ったが,なお立ち上がれなかった。麻痺はなかった。

備考 企業報告
併用薬: メシル酸ジヒドロエルゴトキシン,ペントキシフィリン,イデベノン,バルプロ酸ナトリウム,アロプリノール,塩酸ニカルジピン,フロセミド,スピロノラクトン,ジソピラミド

臨床検査値
投与
15日後
投与
17日後
投与中止
翌日
投与中止
2日後
投与中止
3日後
空腹時血糖(mg/dL) 131 56 110
食後血糖(mg/dL) 156 216


表1‐2 症例の概要(アカルボース)
No.3
患者 性・年齢 女 67歳
   使用理由〔合併症〕 糖尿病
1日投与量、投与期間 150mg、約3ヶ月間
副作用 経過及び処置
 1400kcal/日の厳格な食事療法にもかかわらず,食後血糖219mg/dL,HbA1C7.0%であったため,アカルボースの投与を開始した。アカルボース投与開始97日後,朝食前に服用したあと,通常量の朝食を摂取したところ,午前11時頃,急に手指振戦,しびれ,全身倦怠感,冷汗等の低血糖症状が発現した。ブドウ糖6g摂取により回復した。特に下痢などの消化器症状はなかった。アカルボースの投与を中止した。

備考 企業報告
併用薬:なし
臨床検査値
投与前
投与
18日後
投与
24日後
投与
53日後
投与
84日後
投与中止
8日後
空腹時血糖(mg/dL) 124 115 99
食後血糖(mg/dL) 219
(食後1時間)
137
(食後2.5時間)
115
(食後2.5時間)
99
(食後2.5時間)
HbA1c(%) 7.0 6.8 6.6


表2 症例の概要(ボグリボース)
患者 性・年齢 男 45歳
   使用理由〔合併症〕 糖尿病〔アルコール性肝硬変〕
1日投与量、投与期間 0.6mg、6日間
副作用 経過及び処置
 ボグリボース投与開始2日目の血糖値は96mg/dL。3日目朝食前に本剤服用し,午前8時に朝食摂取(ご飯茶碗1杯)。午前10時20分に血糖値の低下発現(血糖値58mg/dL)。自覚症状はなく,特に処置はせず。以後血糖値は正常となる。4日目の空腹時血糖値95mg/dL。5日目の空腹時血糖値96mg/dL。6日目の空腹時血糖値92mg/dL。ボグリボース投与開始6日目にボグリボース投与中止。#企業報告
備考 企業報告
併用薬:なし

2 シサプリドとQT延長
成分名 成分名 該当商品名
該当商品名  シサプリド  アセナリン錠・細粒(ヤンセン協和)
リサモール錠・細粒(吉富製薬)
薬効分類  消化管運動賦活調整剤
効能効果 下記疾患に伴う消化器症状(胸やけ,食欲不振,悪心・嘔吐,上腹部痛,腹部膨満感)
慢性胃炎,胃切除後症候群
逆流性食道炎
偽性腸閉塞(特発性)

(1)症例の紹介
 シサプリドは平成元年に承認された,慢性胃炎,胃切除後症候群に伴う消化器症状(胸やけ,食欲不振,悪心・嘔吐,上腹部痛,腹部膨満感),逆流性食道炎,偽性腸閉塞(特発性)を効能とする薬剤である。アゾール系抗真菌剤,エリスロマイシン,クラリスロマイシン併用での心血管系副作用(心室性不整脈,QT延長等)については,既に使用上の注意の「慎重投与」と「相互作用」の項に記載し注意を喚起しているが,今回,併用以外でQT延長が2例報告された。
 1例は塩酸イミプラミンとの併用例で,塩酸イミプラミンが関与すると考えられたが,本剤の関与も否定できない症例である。
 他の1例は,QT延長発現日,疼痛の訴えのため,ジクロフェナクナトリウムの坐薬を投与され,その後本剤服用。数時間後,胸苦,意識の低下,血圧低下が認められた。胸苦時の心電図検査ではQT延長が認められた。両剤中止後にQTは正常化しており,本剤との関連は否定できないと考えられた。
 2例の概要について,表1に紹介する。
 なお,アゾール系抗真菌剤との併用での心血管系副作用は現在までに国内で2例報告されている。併用例での発現例2例の概要を表2に紹介する。
(2)文献の紹介
 シサプリドの心血管系に対する作用を,ウサギのプルキンエ線維を用い,in vitroの実験で確認した報告が外国文献に掲載された1)。報告によると,摘出したウサギのプルキンエ線維におけるシサプリドの電気生理学的作用を検討した結果,シサプリドは0.1〜1μMの濃度範囲で,他のパラメーターに影響を与えることなく,濃度依存的に活動電位持続時間(APD;action potential duration)を延長させ,早期後脱分極(EAD;early afterdepolarization)を誘発し,高濃度ではその後に続くtriggered activity(EADが6回以上連続してみられた場合と定義)を誘発することが示された。動物実験の結果を臨床観察に当てはめるには慎重を期す必要があるが,活動電位持続時間の有意な延長等がみられたことから,本剤投与でQT延長等の心血管系副作用が起こる可能性が示唆された。
(3)安全対策
 これまでアゾール系抗真菌剤,エリスロマイシン,クラリスロマイシン併用での心血管系副作用については「慎重投与」「相互作用」の項に記載し,注意を喚起してきた。今回,動物実験で本剤がQT延長を誘発する可能性が示唆され,国内で2例の併用外で本剤との関連性が否定できないQT延長が報告されている。そのため,より一層注意を喚起するために,「副作用(その他の副作用)」の項に「QT延長」を,「その他」の項に,「動物実験で,QT延長等の心血管系副作用が示唆されたとの報告がある」を追記し,本剤の適正使用を促すための情報提供を行うよう指導した。
(4)報告のお願い
 併用で心血管系副作用が発現することは既に知られているが,安全性確保の観点から,本剤投与で心血管系副作用が認められた症例について,副作用症例報告をお願いしたい。

《使用上の注意(追加改訂部分)》
〈シサプリド〉
副作用 その他の副作用 循環器:まれにQT延長,立ちくらみがあらわれることがある。
その他
動物実験で,QT延長等の心血管系副作用が示唆されたとの報告がある。
〈参考文献〉
1)Puisieux, F. L., et al.:British Journal of Pharmacology, 117:1377a1996b

表1 症例の概要
No.1
患者 性・年齢 女 52歳
   使用理由〔合併症〕 便秘症 NUD(Non‐ulcer dyspepsia)
1日投与量、投与期間 7.5mg、継続
副作用 経過及び処置
 QT延長
 本剤投与5ヵ月後,QT延長(450msec)がみられ,1週間後もQT延長(470msec)がみられた。副作用発現1週間前に塩酸イミプラミンの投与を開始し,副作用発現後も本剤とともに投与を継続した。副作用発現20日後のホルター心電図上で不整脈や有意なST‐T変化は認められなかった。副作用発現23日後,本剤服用3時間後の本剤血中濃度を測定した結果25ng/mLであった。QT延長は発現から1ヵ月後に軽快した。
    (原疾患:うつ状態)
備考 企業報告
併用薬: 塩酸イミプラミン,アルプラゾラム,マレイン酸セチプチリン,エチゾラム


No.2
患者 性・年齢 女 85歳
   使用理由〔合併症〕 胃切除後逆流性食道炎
1日投与量、投与期間 7.5mg、継続
副作用 経過及び処置
 QT延長
 本剤投与48日目,K低下(3.0mEq/L)を認めた。3日間Kを静注補給,その後食事療法により正常化。本剤投与71日目夕方,疼痛の訴えあり,ジクロフェナクナトリウムを投与。夕食後本剤服用。約4時間半後,腹部膨満感のためトイレに行きベッドに戻ったが,胸苦を訴え,意識の低下があり血圧低下を来した(血圧60/40mmHg)。昇圧剤使用し,血管確保にて血圧は70/50,106/58,116/58mmHgと回復した。胸苦時,心電図にてQT延長(471msec)が認められたが,不整脈は認められなかった。同日本剤の投与中止。12日後,心電図は正常となった。
 (原疾患:骨粗鬆症)
 (既往歴:胃切除術,洞性不整脈)
備考 企業報告
併用薬: アンピロキシカム,カルシトリオール,L‐アスパラギン酸カルシウム,ジクロフェナクナトリウム,消化性潰瘍剤
表2 症例の概要
No.1
患者 性・年齢 女 63歳
   使用理由〔合併症〕 食欲不振〔肺炎〕
1日投与量、投与期間 7.5mg、78日間
副作用 経過及び処置
 心室性不整脈,QT延長,意識消失,torsades de pointes(フルコナゾールとの併用)
 急性骨髄性白血病に対し本剤投与5ヵ月前より化学療法施行,本剤投与44日前に地固め療法施行。食欲不振,嘔気強く発現のため本剤投与開始。本剤投与51日目,肺炎に対しフルコナゾール投与開始(34日間)。本剤投与72日目外泊(2日間)。その際嘔吐あり,帰院時低K血症(2.5mEq/L)であった。夜,睡眠時全身硬直,意識レベルの低下,尿失禁あり。翌日,不整脈,夜,尿失禁あり。QTc:
631msec。その翌日も午後1時頃意識消失,尿失禁。午後10時頃尿失禁。午後10時4〜5分にtorsades de pointes発現。低K血症に対する補充と,本剤,塩酸ミノサイクリン,硫酸ポリミキシンB,スルピリドの中止にて心室性不整脈は消失。8日後にフルコナゾール投与中止。その1週間後QTc:400msec。回復。
 (原疾患:急性骨髄性白血病)
 (既往歴:子宮筋腫〜20年前)
備考 企業報告
併用薬: フルコナゾール,塩酸ミノサイクリン,硫酸ポリミキシンB,スルピリド,パニペネム・ベタミプロン

No.2
患者 性・年齢 男 64歳
   使用理由〔合併症〕 慢性胃炎に伴う腹部膨満〔細菌性肺炎〕
1日投与量、投与期間 7.5mg、14日間
副作用 経過及び処置
 心室性不整脈(イトラコナゾールとの併用)
 本剤投与約5ヵ月前,多発性骨髄腫により腎機能の悪化。血漿交換,血液透析などの後,化学療法を3コース施行。深在性真菌症に対してアムホテリシンBシロップ投与開始したが,効果不十分,悪心・嘔吐の悪化により中止。イトラコナゾール(消化管真菌症に対して)投与開始し,約1ヵ月半後,本剤投与開始。
 約半月後,午後5時頃VT(心室性頻脈)様の波形確認。VPC(心室性期外収縮)頻発。自覚症状は,はっきりせず(意識低迷のため)。午後7時,10%リドカイン2mL/min開始。VPC頻発。翌日イトラコナゾール投与中止(腎機能悪化,肺炎出現のため)。その3日後,胸圧迫感の訴えあり。心拍数102〜110/min,心電図でU誘導*1),aVF誘導*2)の両部位でST波の上昇傾向が確認された。その後,症状消失。翌日,本剤投与中止。中止4日後,上記同症状出現するも,自然消失。更に4日後,キシロカイン減量。翌日VPCの出現回数減少(1〜2/2〜3min)。副作用回復。2週間後リドカイン中止。それから約1ヵ月後,肺水腫を伴う細菌性肺炎で死亡。
 (原疾患:多発性骨髄腫)
 (既往歴:腰椎椎間板ヘルニア,糖尿病)
備考 企業報告
併用薬: イトラコナゾール,ファモチジン,テプレノン,硫酸ポリミキシンB,センノシド,酸化マグネシウム,ピコスルファートナトリウム,スルファメトキサゾール・トリメトプリム
*1) U誘導:双極誘導で,左足−右手間の電位差を記録。
*2) aVF誘導:単極誘導で,横隔膜の方向から心臓の電気的中心に興奮が近づいたり遠ざかっていくのを記録。

3 使用上の注意の改訂について(その100)
 本情報No.139掲載分以降に改訂を指導した使用上の注意について,改訂内容,主な該当商品名,参考文献等をお知らせいたします。
1 〈フェノールエーテル系鎮痛剤〉
塩酸トラマドール
[販売名] クリスピンコーワ注(興和)
[禁忌] 本剤に過敏症の患者
[慎重投与] 痙攣の既往歴のある患者[痙攣発作を誘発するおそれがあるので,本剤投与中は観察を十分に行うこと。]
[相互作用(併用に注意すること)] 三環系抗うつ剤,モノアミン酸化酵素阻害剤,中枢神経抑制剤(フェノチアジン誘導体等)[これらの薬剤との併用で痙攣発作の危険性が増大するとの報告がある。]
キニジン[相互に副作用が増強されるおそれがある。]
ジゴキシン[併用によりジゴキシン中毒が発現したとの報告がある。]
ワルファリン[併用によりプロトロンビン時間の延長等ワルファリンの効果への影響がみられたとの報告がある。]
〈参考〉 企業報告

2 〈浣腸剤〉
グリセリン(浣腸剤)
[販売名] グリカンチョー液(アストラ)他
[慎重投与] 局所(腸管,肛門)に炎症・創傷のある患者[出血を促しグリセリンが吸収され溶血を,また,腎不全を起こすおそれがある。]
[適用上の注意] 注入に際し,直腸粘膜を損傷することがあるので,慎重に挿入すること。
挿入時,損傷を起こし,出血がみられた場合,グリセリンが血管内に入り,溶血を起こすおそれがある。
〈参考〉 企業報告
五十洲剛他:臨床麻酔,15(11):1489(1991)
奥史郎他:臨床麻酔,16(6):779(1992)
今村美幸他:臨床麻酔,17(11):1509(1993)
江口政治他:高知県立中央病院医学雑誌,20(1):45(1993)
森山信男他:腎と透析,7(3):353(1979)


3 〈ヒト成長ホルモン〉
ソマトロピン
[販売名] ジェノトロピン(住友)他
[その他] ヒト成長ホルモンの投与を受けた患者に脳腫瘍が再発したとの報告がある
〈参考〉 企業報告

4 〈子宮頚管熟化剤〉
プラステロン硫酸ナトリウム
[販売名] マイリス注(鐘紡)他
[その他] 本剤投与後に胎児に徐脈があらわれたとの報告がある。
〈参考〉 企業報告

5 〈痛風治療剤〉
ベンズブロマロン
[販売名] ユリノーム(鳥居)他
[副作用(重大な副作用・外国症例)] 劇症肝炎:外国において劇症肝炎が報告されているので,肝機能検査の実施など観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し適切な処置を行うこと。
[副作用(その他の副作用)] 肝臓:ときにGOT,GPT,まれにAl‐Pの上昇等の肝機能障害,また,黄疸があらわれることがある。
〈参考〉 企業報告

6 〈免疫抑制剤〉
シクロスポリン
[販売名] サンディミュン(サンド)
[一般的注意] 全身痙攣,意識障害,錯乱,運動麻痺,皮質盲,昏睡等の脳症の徴候を呈することがあるので,このような症状があらわれた場合には,CT,MRIによる画像診断を行うとともに,減量又は中止するなど適切な処置を行うこと。
[副作用(重大な副作用)] 中枢神経系障害:ときに全身痙攣,意識障害,錯乱,まれに運動麻痺,皮質盲,昏睡等の脳症の徴候を呈することがあるので,このような症状があらわれた場合には,CT,MRIによる画像診断を行うとともに,減量又は中止するなど適切な処置を行うこと。
〈参考〉 企業報告
Shimizu, C., et al.:Pediat. Nephrol., 8:483(1994)
Teshima, T., et al.:Int. J. Hematol., 63:161(1996)

7 〈免疫抑制剤〉
タクロリムス水和物
[販売名] プログラフ(藤沢)
[一般的注意] 下記の薬剤,飲食物との併用により本剤の血中濃度が上昇し,腎障害等の副作用が発現する可能性があるので注意すること。
 カルシウム拮抗剤:ニフェジピン,ニルバジピン,ジルチアゼム等
 抗生物質:エリスロマイシン,ジョサマイシン等
 抗真菌剤:クロトリマゾール,フルコナゾール等
 その他の薬剤:ブロモクリプチン,ダナゾール等
 飲食物:グレープフルーツジュース
全身痙攣,意識障害,錯乱,言語障害,皮質盲等の脳症の徴候を呈することがあるので,このような症状があらわれた場合には,CT,MRIによる画像診断を行うとともに,減量・休薬等の適切な処置を行うこと。
[慎重投与] 肝障害のある患者[薬物代謝能が低下し,本剤血中濃度が上昇する可能性がある。]
[相互作用(併用しないこと)] 生ワクチン[類薬による免疫抑制下で,生ワクチンを接種すると発症するとの報告がある。]
[相互作用(併用に注意すること)] 不活化ワクチン(不活化インフルエンザワクチン等)[ワクチンの効果を減弱させることがある。]
下記の薬剤,飲食物を併用する際は,タクロリムスの血中濃度に特に注意すること
 本剤の血中濃度を上昇させる可能性のある薬剤等
カルシウム拮抗剤:ニフェジピン,ニルバジピン,ジルチアゼム等
抗生物質:ジョサマイシン等
抗真菌剤:クロトリマゾール等
その他の薬剤:ブロモクリプチン,ダナゾール等
飲食物:グレープフルーツジュース

[副作用(重大な副作用)] 汎血球減少症,血小板減少性紫斑病:ときに汎血球減少症,血小板減少性紫斑病があらわれることがあるので,定期的に検査を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には,減量・休薬等の適切な処置を行うこと。
中枢神経系障害:ときに全身痙攣,意識障害,錯乱,言語障害,皮質盲等の脳症の徴候を呈することがあるので,このような症状があらわれた場合には,CT,MRIによる画像診断を行うとともに,減量・休薬等の適切な処置を行うこと。
[副作用(重大な副作用・外国症例)] 削除
[副作用(その他の副作用)] 代謝異常:高血糖,尿糖,高カリウム血症,高尿酸血症,また,ときに高コレステロール血症,高トリグリセライド血症,低マグネシウム血症があらわれることがある。
肝臓:ときにGOT,GPT,Al‐P,LDH,γ‐GTP上昇等があらわれることがある。
その他:ほてり,また,ときに発熱,発赤,全身倦怠感,筋肉痛,味覚異常,月経過多があらわれることがある。
〈参考〉 企業報告
Hinchey, J., et al.:N. Engl. J. Med., 334:494(1996)
Appignani, B. A., et al.:Am. J. Roentgenol., 166:683(1996)

8 〈代謝拮抗性抗悪性腫瘍剤〉
フルオロウラシル(注射剤)
[販売名] 5‐FU協和(協和醗酵)他
[副作用(重大な副作用)] 急性腎不全:急性腎不全等の重篤な腎障害があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。なお,腎障害の知られている抗悪性腫瘍剤(シスプラチン,メトトレキサート等)との併用時には特に注意すること。
[副作用(その他の副作用)] 腎臓:BUN,クレアチニン値上昇,クレアチニン・クリアランスの低下等の腎機能異常,ときに蛋白尿があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には減量,休薬等の適切な処置を行うこと。
〈参考〉 企業報告

9 〈抗悪性腫瘍抗生物質〉
塩酸ドキソルビシン,塩酸エピルビシン,塩酸ダウノルビシン
[販売名] アドリアシン注(協和醗酵),ファルモルビシン注(ファルマシア),ダウノマイシン(明治製菓)
[その他] 本剤と他の抗悪性腫瘍剤を併用した患者に,急性白血病(前白血病相を伴う場合もある),骨髄異形成症候群(MDS)が発生したとの報告がある。
〈参考〉 企業報告

10 〈抗悪性腫瘍抗生物質〉
塩酸ピラルビシン
[販売名] 注射用テラルビシン(明治製菓)他
[一般的注意] アントラサイクリン系薬剤未治療例で,本剤の総投与量が950mg/u(体表面積)を超えると,うっ血性心不全を起こすことが多くなるので十分に注意すること。前治療等により950mg/u以下の総投与量でもうっ血性心不全が起こることがあるので,他のアントラサイクリン系薬剤等心毒性を有する薬剤による前治療歴のある患者,心臓部あるいは縦隔に放射線療法を受けた患者及び本剤の総投与量が700mg/uを超える患者では心機能検査を行い慎重に投与すること。
[禁忌(次の患者には投与しないこと)] 他のアントラサイクリン系薬剤等心毒性を有する薬剤による前治療が限界量(塩酸ドキソルビシンでは総投与量が体表面積当り500mg/u,塩酸ダウノルビシンでは総投与量が体重当り25mg/kg等)に達している患者[心筋障害があらわれることがある。]
[副作用(重大な副作用)] 心筋障害:ときに心筋障害更に心不全等があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には,休薬又は投与を中止すること。
また,総投与量が950mg/u(体表面積)を超えるとうっ血性心不全を起こすことが多くなるので,十分に注意すること。(以下略)
骨髄抑制:汎血球減少,貧血,白血球減少,好中球減少,血小板減少,ときに出血傾向等があらわれることがあるので,末梢血液の観察を十分に行い,異常が認められた場合には,減量,休薬等適切な処置を行うこと。
[その他] 本剤と他の抗悪性腫瘍剤を併用した患者に,急性白血病(前白血病相を伴う場合もある),骨髄異形成症候群(MDS)が発生したとの報告がある。
〈参考〉 企業報告

11 〈グリコペプチド系抗生物質〉
塩酸バンコマイシン(注射剤)
[販売名] 塩酸バンコマイシン点滴静注用(日本イーライリリー)
[副作用(重大な副作用)] 汎血球減少:まれに汎血球減少があらわれることがあるので,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。
〈参考〉 企業報告

12 〈カルバペネム系抗生物質〉
イミペネム・シラスタチンナトリウム
[販売名] チエナム(萬有)
[副作用(重大な副作用)] 汎血球減少症,無顆粒球症,溶血性貧血:汎血球減少症,また,まれに無顆粒球症,溶血性貧血があらわれることがあるので定期的に検査を行うなど観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。
〈参考〉 企業報告

13 〈ニューキノロン系抗菌剤〉
ノルフロキサシン(経口剤)
[販売名] バクシダール(杏林)他
[副作用(重大な副作用)] ショック,アナフィラキシー様症状(呼吸困難,胸内苦悶等),中毒性表皮壊死症(Lyell症候群),皮膚粘膜眼症候群(Stevens‐Johnson症候群),急性腎不全,痙攣
[副作用(海外での副作用)] 中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)を削除
〈参考〉 企業報告
安谷久美子他:眼科臨床医報,88(9):1349(1994)
    問い合わせ先 厚生省薬務局安全課医薬品適正使用推進室
     担 当 山本(内2756)、池田(内2758)
          電 話 (代)[現在ご利用いただけません]

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