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「国民健康保険制度の改革について」要旨

医療保険審議会(国民健康保険部会関係)

 厚生省においては、当審議会の審議の経過を十分に踏まえ、国民健康保険制度の基本構造に踏み込んだ改革の今世紀中の実現を目指して精力的に検討を進めるとともに、その他の国保制度固有の課題についても早急に取り組むべきである。

1 国民健康保険制度の課題

 (1)  経済基調の変化と医療費の増高等は財政体質の脆弱な国保に大きな影響
 (2)  高齢者や低所得者が増大する構造。国保制度運営は厳しい状況。
 (3)  地域保険 → 小規模保険者の増加や保険料格差の存在

2 医療保険制度改革との関連

 (1)  高齢者の位置付けの検討とあわせ、高齢者の加入が多い国保制度の基本的あり方の検討が必要
 (2)  高齢者の一部負担や医療提供体制の見直し等→国保の安定化に寄与

3 国保制度固有の論点

(1)保険者単位の広域化
 (1)  広域化論と市町村保険者論が並立
 (2)  保険者単位のあり方は高齢者の位置づけと不可分。高齢者の位置付けの検討の推移を見つつ本格的検討を急ぐ必要
 (3)  当面、高額医療費共同事業の拡充、国保連による支援事業、複数市町村による広域化支援方策を検討

(2)医療費格差の是正、保険料負担の公平化
 (1)  定率国庫負担のあり方を公平性と医療費適正化の取組み促進の観点から検討する必要との意見と、定率負担を重視する意見
 (2)  基準超過医療費共同負担事業の見直しの検討
 (3)  保険基盤安定制度の定額国庫負担、財政安定化支援事業の暫定措置 → 国庫負担の復元が求められ、事業の継続の要望も多い。制度の原則や各種調整制度の機能と相互の関係、国、県、市町村の役割を踏まえ、国保制度の一層の安定化を目指した取組みが必要。

(3)国保組合の国庫補助の見直し
  ・ 従来の経緯や市町村国保との関係を踏まえるとともに、健保との均衡や国保組合の運営状況も考慮して見直しを検討する必要

(4)保険料(税)のあり方の見直し
  ・ 高齢者世代と現役世代の保険料負担の公平化の観点から、高齢者の位置付け論も念頭に置き、年金受給者の保険料負担を見直す必要。その際は生活への影響に配慮する必要がある。
・ 社会保険料としての性格を踏まえ保険料移行へ向けて検討必要
・ 賦課限度額についても中間所得層の負担緩和を図るため適切な引上げが必要。

平成8年12月6日

厚生大臣  小泉 純一郎 殿

医療保険審議会
会長 塩野谷 祐一

国民健康保険制度の改革について(建議書)

 当審議会においては、国民健康保険制度も含め今後の医療保険制度のあり方について審議を行ってきたが、国民健康保険制度については、国民健康保険部会において本年7月以降、9回にわたり検討を行い、現時点における検討の結果を下記のとおり取りまとめた。
 国民皆保険を支える基盤である国保制度の抱える問題の多くは医療保険制度の基本的な枠組みに深く関連しており、高齢者の医療保険制度における位置付けの検討とあわせて国保制度の課題に取り組んでいく必要があると考える。
 厚生省においては、当審議会の審議の経過を十分に踏まえ、国民健康保険制度の基本構造に踏み込んだ改革の今世紀中の実現を目指して精力的に検討を進めるとともに、その他の国保制度固有の課題についても早急に取り組むべきである。

1 国民健康保険制度の課題

 ○ 経済基調が変化し、人口の高齢化等により国民医療費は増加し続けている状況の下で、医療保険制度は深刻な状況となっている。特に財政体質が脆弱な国保制度においては、医療費の伸びに十分対応できず、赤字を抱える保険者も依然として多く、総合的な医療保険改革が必要となっている。

 ○ 国保制度は、国民皆保険を支える制度として、他の医療保険に属さない者を被保険者としているため、高齢者や低所得者の割合が必然的に増加する構造となっている。
   このため、老人保健制度や退職者医療制度、国庫負担などを通じ、制度間の公平を図る措置が講じられているが、老人保健拠出金の増嵩や被保険者の高齢化に伴う保険料軽減世帯の増大などを背景に、国保制度の運営は一層厳しくなっている。

 ○ また、市町村国保には、事業運営が不安定になりやすい小規模保険者の増加や、保険者間の保険料格差の存在など、地域保険であるがための国保制度固有ともいえる課題が存在している。このため、保険者単位のあり方、保険料格差是正のための措置など国保制度の枠内においても根本的な検討が求められている。

2 医療保険制度改革との関連について

(1)高齢者の位置付けと国保制度

 ○ 増大する高齢者の医療費の問題は、今後の医療保険制度の枠組みを考える上で最大の課題であり、医療保険制度における高齢者の位置付けは、特に高齢者の加入割合が高い国保制度のあり方に極めて大きな影響を与える問題である。
 ○ 高齢者の医療保険制度における位置付けについては、介護保険制度の創設も念頭に置き、同制度の施行を目途に老人保健制度に代わる新たな仕組みの創設を含め、老人医療の費用負担の仕組みを見直すこととされており、その検討とあわせ、国保制度の基本的あり方について検討を進める必要がある。

(2)給付のあり方

 ○ 老人医療費の問題は、結局は医療保険制度全体で、保険料、公費及び患者負担の均衡をどう図るのかということに帰着するが、高齢者世代と現役世代の負担の公平化の観点からも低所得者については適切な配慮を行いつつ高齢者の一部負担を見直すとともに、薬剤給付の見直しが必要である。

 ○ また、医療保険制度における給付は、法定給付と高額療養費により行われており、国保でも実質的な給付割合は既にほぼ8割となっている。国保の厳しい状況も踏まえつつ、各制度の法定給付率についても将来的に統一を目指すことが必要である。

(3)医療提供体制の見直し等

 ○ 良質な医療を効率的に提供するための医療提供体制の構築やそれに応じた診療報酬体系の創設は、国保制度の安定的な運営にも大きく寄与するものと考えられる。
 ○ その際には、医療機関の機能分担と連携の強化、介護保険の導入も踏まえたいわゆる社会的入院の解消のための総合的な施策、在宅医療も視野に入れた在院日数の短縮、薬剤使用の適正化、患者に対する情報提供など幅広い取組が必要である。
 ○ 地域保険である国保制度には、高齢者の多くが加入しており、住民の健康保持を支援するための、健康診査・健康教育・訪問指導等の保健活動の推進が、国保制度の運営の改善上効果的である。また介護保険の導入も念頭に置いて、直営診療施設の活用も図りつつ保健・医療・福祉の連携の要として機能することが期待されている。今後、被保険者に対する情報提供なども含め保険者機能の強化を図り、その自律性を高めることが必要である。

3 国保制度固有の論点について

(1)保険者単位の広域化

(現状)
 ○ 国保制度においては、最も住民に近い基礎的自治体である市町村を単位として保険者を構成している。
 ○ 過疎化の進展等により、被保険者数が3000人未満のいわゆる小規模保険者が増加している。小規模保険者では、財政規模も小さく、高額の保険給付が生じた場合運営に多大の影響がでる恐れがある。特に過疎地の小規模保険者においては、所得水準が低く、高齢者の比率も高く、財政的にも脆弱な面がある。

(今後の方向)
 ○ 国保の保険者単位については、従来から、都道府県単位、広域圏単位、2次医療圏、組合方式の活用などにより広域化を検討すべきとの意見があるが、他方、現行の市町村保険者については、地域の連帯感を基礎に被保険者の把握や保険料の徴収が比較的進めやすく、それらの業務と財政運営も一体となっており、地域の保健・医療・福祉活動との連携も図りやすい利点があるとの意見があり、双方の意見が併存した状況である。
 ○ また、保険者単位の広域化だけでなく、調整機能の充実による方策も考えるべきであり、都道府県が必要な調整等を行うことが適当であるとの意見がある。
 ○ 保険者単位のあり方は、制度の本質と関わり、また、医療保険制度における高齢者の位置付けと不可分である。今後高齢者の位置付けの検討の推移を見つつ、小規模保険者の実態、地方自治体制の動向なども踏まえながら、保険者単位のあり方について本格的検討を急ぐ必要がある。

(現行制度の下での対応)
 ○ 当面、小規模保険者の保険機能を広域単位で補完する高額医療費共同事業の拡充を図ることを検討する必要がある。
 ○ また、小規模市町村への保険運営の支援としては、国保連における国保財政診断事業、保健活動やレセプト(診療報酬請求明細書)の点検などの保険者事務の支援の拡充を行う必要がある。
 ○ さらに、複数市町村による広域化への取組を促進するため、従来の一部事務組合に加え市町村が取り組みやすい形での広域化支援方策を検討することも必要である。

(2)医療費格差の是正、保険料負担の公平化

(現状と基本的考え方)
 ○ 地域保険である国保制度においては、高齢者が多いなどの年齢構成や病床数の相違等に起因する医療費の地域差が存在しており、これと合わせて、被保険者間の所得の格差や保険料算定方式等の相違により、各保険者間において、保険料の格差が存在している。
 ○ 高齢者が多い等保険者の責めによらない医療費格差については、調整交付金などを通じて公平化を図るとともに、それ以外の医療費格差については、医療提供体制の見直しとあわせ、保険者、国、都道府県、市町村それぞれの役割と責任を明確にし、協調して取組むことを基本に考えるべきである。

(定率国庫負担と調整交付金)
 ○ 現在の国庫負担のうち、定率負担分は、医療費の高低にかかわらず、一律に実績給付費の4割となっているが、公平性の観点と医療費適正化への取組みの促進の観点から定率負担のあり方を検討するとともに、調整交付金の配分の見直しを検討することが必要であるとの意見があった。
 ○ こうした意見に対して、定率国庫負担は一律の配分を通じて制度の基礎を支えるものであり、これを重視すべきであるとの意見があった。

(保険基盤安定制度等)
 ○ 現在、低所得者が多いことによる保険料負担の調整については保険基盤安定制度、国保財政安定化支援事業、調整交付金により実施している。保険基盤安定制度の国庫負担については、平成8年度までの暫定措置として定額国庫負担となっているが、定率国庫負担への復元が求められている。同様に平成8年度までの暫定措置となっている国保財政安定化支援事業についても継続の要望が多い。
   保険基盤安定制度や国保財政安定化支援事業の来年度以降の取扱いについては、それぞれの制度の原則、各種の調整制度が果たしている機能と相互の関係、国、都道府県、市町村の役割を踏まえ、国保制度のより一層の安定化を目指した取組みが必要である。

(その他の調整措置)
 ○ 医療費の適正化のために制度化されている基準超過医療費共同負担事業については、より効果的な事業として見直しを検討する必要がある。
 ○ 都市部の自治体においては、収納率が低い所が多く、今後その収納努力を促進するための方策が必要である。

(3)国保組合の国庫補助の見直し

 ○ 国保組合は、同種の事業又は業務に従事している者を対象に組合方式で運営されており、連帯感を生かした保険者機能の発揮が期待されている。
  さらに、新しい国保組合のあり方を検討すべきとの意見もあった。
 ○ 国保組合は、旧国保制度時代被用者保険の対象とならない者を組合員として設立されたものや日雇健康保険の擬制適用の廃止に伴い設立されたものなどである。また、健康保険の適用拡大により健保の適用を受けることとなった者は適用除外承認を受けて国保組合に加入しており、国保組合の現状は健康保険の適用の変遷と密接に関連している。
 ○ 国保組合に対しては、市町村国保との均衡にも配慮した国庫補助を実施しているが、従来の経緯や市町村国保との関係を踏まえるとともに、健康保険との均衡や国保組合の運営状況も考慮して見直しを検討する必要がある。

(4)保険料(税)のあり方の見直し

 ○ 現在保険料(税)の算定に当たっては税制上の控除額が採用され、年金受給者については年金控除が適用されており、現役世代よりも控除額が大きい。
   高齢者を自立した存在とみる観点及び高齢者世代と現役世代の保険料負担の公平化の観点から、高齢者の位置付けの議論も念頭に置きつつ、年金受給者の保険料負担のあり方を見直す必要があるが、見直しに当たっては高齢者の生活への影響にも配慮して行うことが必要である。
 ○ また、本来、社会保険制度である国保の保険料(税)は国民健康保険の受益の対価としての性格を有しており、一般的な租税負担とは性格が相違している。このようなことを踏まえると保険料と税の関係を整理し、市町村の事務処理体制にも十分配慮しつつ、保険料への移行へ向けて検討を急ぐことが必要である。
 ○ 保険料(税)の賦課限度額については、中間所得層の負担の緩和を図るため適切な引上げが必要である。なお、賦課限度額の引上げについては、保険料(税)の賦課方式や賦課の実態などを総合的に勘案して行うべきではないかとの意見があった。

  問い合わせ先 厚生省保険局国民健康保険課
     担 当 田河(内3253)
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