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第3節 賃金制度等の動向

 企業は成果主義化・能力主義化の方向で賃金制度改革を実施している。正社員は成果主義の導入と評価の結果として賃金格差がつけられることに賛成しているが、公正な評価がなされるかには不安を感じている。
 成果主義的賃金制度の導入と運用に当たっては、適切な目標設定、透明性・公正性の確保等により、従業員の納得性を高めることが重要である。
 正社員とパートとの賃金格差は職種構成の違い等を考慮しても1990年代を通じて拡大している。自律的に仕事を進めているパートほど賃金についての不満が強く、処遇が不十分であり働きに見合ったものになっていない可能性がある。
 非正社員の活用を図るため、意欲と就業実態に応じた適切な評価・処遇と能力開発を実施し、賃金についての納得性を高めることが重要である。

(正社員の賃金の動向)
 正社員の賃金については、年齢や役職、性別の違いによる格差は縮小傾向であるが、男性大卒中高年層の中ではばらつきの拡大がみられる。この背景としては、従業員の高齢化、高学歴化が進む中で、企業が比較的賃金の高い大卒中高年層を中心に、能力や成果の評価の厳格化等により、賃金コストの抑制を図っていることがうかがえる。

(企業における賃金制度改革の実態と課題)
 企業の賃金制度をみると、成果主義化・能力主義化の動きがみられる。3割以上の企業が、賃金の決定要素として、業績・成果部分を5年前より拡大している(第40図)。また、今後も7割以上の企業が賃金制度の変更を考えており、その内容をみると、昇給・昇格を能力主義的に運用する等の能力主義を指向したものとともに、個人業績のボーナスや基本給への反映といった成果主義を指向した賃金制度改革を考えている企業が多いことが分かる(第41表)。
 正社員は成果主義の導入と成果主義導入の結果として賃金格差がつけられることを容認しているが、評価が公正に行われるか不安を感じている。
 成果主義的賃金は、目標の設定と運用によっては従業員の就業意欲、人材育成等に悪影響を与えるおそれがあり、成果主義的賃金が機能するためには、適切な目標の設定、評価の透明性・公正性の確保、能力開発機会の確保等により、従業員の納得性を高めることが重要である。しかしながら、業績評価制度の公開や結果の本人への通知、評価者訓練などの企業の取組は不十分である。

(非正社員と正社員との賃金格差の動向と背景)
 1990年代を通じて、パートタイム労働者の割合が継続的に上昇している中で、パートタイム労働者と一般労働者との賃金格差が拡大している。賞与を含む年間賃金で時間当たり賃金の格差をみると、2001年の女性労働者では、一般労働者を100として54.3となっている。この背景をみるため、女性労働者に絞って、(1)勤続年数の長期化と賃金カーブ、(2)職種構成の違いとその変化、(3)就業調整と賃金以外の労働費用に着目して検討を行った。
(1)  産業、企業規模、年齢、勤続年数等の属性の違いを調整しても賃金格差は拡大している。パートタイム労働者の勤続年数は長期化している一方で、賃金決定において勤続年数についての評価が変化していないことがうかがわれる。
(2)  1990年代後半には職種構成の変化が賃金格差を拡大する方向に大きく影響している。また、1990年代を通じてみると職種構成の違いを除いても賃金格差は拡大しているとみられる(第42表)。
(3)  配偶者のいる女性のパートタイム労働者のうち3人に1人が就業調整を行っており、一般労働者との賃金格差の一因になっている。社会保険料などを含む総労働費用の格差をみると、賃金でみた格差より5ポイント程度大きくなっている。

 自律的に仕事を進めているパートタイム労働者ほど賃金が安いことに不満を持つ者が多く、処遇が不十分であり働きに見合ったものになっていない可能性がある。このような状況で非正社員と正社員との労働条件の格差が拡大を続けると、非正社員の就業意欲、自己の能力を向上させる意欲等が減退することにつながり、今後さらに非正社員の活用を進めていく上での制約となるおそれがある。
 このため、正社員との職務・責任分担の明確化を図り、職務の能力要件を明らかにした上で、非正社員についても働きに見合った適切な評価の実施と処遇の向上を図ることが必要である。
 また、企業による適切な処遇、能力開発支援等は非正社員の賃金についての納得性を高めていることから、就業実態と意欲に応じて、計画的なOJT、研修、自己啓発支援などを適切に実施し、職務に関連した職業能力の開発を進めていくことが、今後さらに非正社員の活用を図る上で必要である(第43図)。


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