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資料5

初期から終末期に至るまでの地域に密着した望ましい
痴呆性高齢者ケアのあり方に関する調査研究
【平成14年度報告書要旨】


はじめに
 痴呆発症後間もない初期の段階から終末期に至るまで、痴呆性高齢者が、介護保険制度を活用しながら、できる限り住み慣れた地域で在宅生活(自宅から居所を移して利用する居宅サービスの利用も含め)を継続することができるためには、現行制度の下では以下の二つの課題に必ずしも対応し切れていない。
 課題1: 在宅から通所、一時宿泊、グループホーム等への入居に至るなじみの環境の連続性を考慮したケアのあり方
 課題2: グループホームにおけるターミナルケアの可能性
 本調査研究は、このような課題を解決するため、平成14年度から15年度にかけての2年度継続で行うものである。平成14年度は、先進的な事業者の間で取組が広がっているいわゆる「小規模多機能ケア」の実態とそのあり方を検証すること、また、グループホームに対し入居者の痴呆症状及び身体機能障害が重度化した時の対応方針及び考え方等について意識調査を行うことにより、介護保険制度見直しに向けて、痴呆性高齢者ケアのあり方を検討する際の一助となる資料を提供することを目的として、調査研究を実施した。


1.方法
 本調査研究では、痴呆ケアに係る学識経験者、グループホーム事業者、宅老所関係者、利用者家族、在宅医療関係者からなる研究委員会を設置し、また、研究委員会の下に、課題1に関し小規模多機能ケアワーキング班、課題2に関しターミナルケアワーキング班を設置した。

(1)課題1: 在宅から通所、一時宿泊、グループホーム入居に至るなじみの環境の連続性を考慮したケアのあり方

 小規模多機能ケアワーキング班によるワーキング班会議を実施し、以下の論点に従って検討を重ね、検討結果を取りまとめた。
  論点1: 小規模多機能ケア施設が目指してきたもの
  論点2: 小規模多機能ケア施設の機能について
  論点3: 小規模多機能ケア施設の要件
  論点4: 制度と関連する課題について
  論点5: 小規模多機能ケア施設におけるターミナルケア

(2)課題2: グループホームにおけるターミナルケアの可能性
 平成15年1月17日現在、WAMNETに登録されている痴呆性高齢者グループホーム2,579事業所を対象として調査を行った。質問紙を用いた郵送調査で、記入日時点の状況について回答を求めた。調査依頼状を同封し、本調査の趣旨、調査結果は統計的に処理すること等を伝え、調査票は記名式とした(但し、記名を強制するものではない)。調査期間は平成15年2月14日〜3月末日であった。
 質問項目は、(1)グループホームの属性、(2)職員配置、(3)入居者の状態、(4)グループホームと医療機関との関係、(5)入居者の通院及び往診等の状況、(6)入居者の入院状況、(7)入居者の退居の状況、(8)グループホームでターミナルケアまで行うことについての方針、という8つの視点から設定し、調査を実施した。
 調査対象としたグループホーム2,579事業所のうち1,192事業所から有効回答を得(有効回収率は46.2%)、これらの事業所を分析対象とした。
 分析は、単純集計と設問間のクロス集計を実施し、結果についてとりまとめた。


2.結果
(1)課題1: 在宅から通所、一時宿泊、グループホーム入居に至るなじみの環境の連続性を考慮したケアのあり方
 小規模多機能施設の利点と望ましいあり方を明らかにし、制度化する場合の検討項目を洗い出す。それにより、グループホームの多機能化も視野に入れ、地域に密着した新しい在宅支援のあり方を探るため、5つの視点に分けて検討した。
 1) 小規模多機能ケアが目指してきたもの
住み慣れた自宅・地域でつながりのある大切な人々とともに暮らしつづけることを望む高齢者の在宅生活の支援
少人数で家庭的な雰囲気の中での、一人一人のニーズに応じた、曜日や時間帯を問わないきめ細かいサービスの提供
新たな人間関係の構築と、本人の社会性の維持
痴呆を背景とした家庭内や地域での人間関係の障害の修復の支援

 2) 小規模多機能ケアの機能について
<通所機能>
本人の生活能力・社会性を維持するための機会を提供し、また関係が悪化した家族との緊張状態を回避し、また、家族の疲労やストレスの蓄積を回避できる。
<泊まり機能>
本人のリロケーションダメージが回避でき、また、家族の安心が確保できる。
<居住機能>
本人にとってなじみの環境や人間関係があり、また、家族の訪問が容易である。
自宅での生活への復帰への試みが比較的容易である。
<訪問介護機能>
本人・家族双方にとって、安心して在宅介護を継続するための強力な後ろ盾となり得る。
<ケアマネジメント機能>
利用者の状況を熟知している内部職員による調整がより望ましく、ケアマネジメント能力を備えるべきである。

 3) 小規模多機能ケア施設の要件
小規模であること。通所の定員は15人以下、できれば10人以下が望ましい。
多機能であること。通所をベースとし、泊まり、居住、訪問介護等が一拠点に集積されていることが大きな特徴。
地域密着であること。地域住民や福祉、医療関係者等と利用者支援について十分な連携を保っていること。
ハードの条件。既存の建物の在り方、条件に応じて利用人員を決めたり、不足している機能を確保するために増改築するなどの柔軟な対応も必要。
職員の資質。事業運営の核となる職員の痴呆性高齢者ケアに関する確かな知識と力量が求められる。必要に応じた外部の医療系専門職と連携がとれる体制を確保することも重要。

 4) 制度と関連する課題について
<泊まり(任意事業としての宿泊)機能について>
泊まりはあくまでも通所の延長としての位置付けであり、原則的には通いの利用者に限る。
短期入所の指定基準はハードルが高く、指定をとることは物理的に困難である。
通いと泊まりを短期入所として一体化すると事業者にとっては実質的な収入減となる。
毎日の通所だけで区分支給限度額を超え、介護保険の短期入所としての利用は困難である。
<住まう(任意事業としての居住)機能について>
基本的には個室が前提であるが、プライベートな空間の確保や居住者の状態の見極めを条件に2人室の場合もありうる。
居住開始以降も家族との関わりが切れないように援助することが大切である。
一度居住を開始しても、再び自宅に戻れる場合(一時帰宅・在宅復帰)がある。

 5) 小規模多機能ケア施設におけるターミナルケア
利用者の重度化に対応するために必要なスキルを身に付けた介護スタッフの養成・確保が最も重要な課題である。
家族と施設及び医療機関が、ターミナルケアに取り組む意義や方針を共有していることが不可欠である。
必要な時に気軽に往診に応じてくれる医療機関(医師)との関係の確保が不可欠。
ターミナルを迎えるにあたって、度の程度の延命治療を求めるのか、家族と事前に十分話し合い、その上で対処方針を医療機関とよく打ち合わせることが重要。
最期まで利用者を支援するためにはどのような条件整備が必要なのか、関係者が知恵を出し合って対応策を検討することが大切。

(2)課題2: グループホームに対する意識調査
 1) 現在の入居者の状況
 多くの事業所が介護保険施行後に開設されており、事業開始からそれほど時間が経過していないため、利用者の痴呆・身体障害の程度は比較的軽い状態にある。しかし、開設から相当の年月を経ている事業所では、入居者の重度化が進んでいる実態が確認された(図表1)。また、利用者の平均要介護度が高い事業所ほど、手厚い人員配置を敷いている傾向が窺われる(図表2)。

図表1 入居者の平均要介護度別開設後の経過年数別の構成割合

図表2 入居者の平均要介護度別1ユニットあたりの職員数

 2) 入院や退居の状況
 回答が得られた事業所のうち、4分の3の事業所において退居の条件が明確に定められている(図表3)。また、約8割の事業所で1年間(平成14年1月〜12月)に入居者が入院したケースがあったが、入院となったケースの中には、外部の医療機関や訪問看護との連携がうまく取れていれば、入院に至らなかったと考えられるケースが含まれている(図表4)。

図表3 退居の場合、経済的な理由のほかに設けている基準

図表4 入居者が入院したケースの中で、GHにおいて訪問診療(往診)や訪問看護、訪問リハなどをもっと積極的に使うことができれば入院に至らずに済んだと思われるケースの有無

 3) 看取りに対する考え方
 「なじみの空間・なじみの人間関係の喪失」によりもたらされる、いわゆるリロケーションダメージを回避し、利用者が住み慣れたグループホームで最期まで尊厳ある暮らしを続けることができるよう、看取りの時までの継続支援に取り組もうと考える事業所が少なからず存在する状況が明らかとなり、ホーム長個人としては、約3分の2のホーム長が看取りについて前向きに考えている(図表5)。

図表5 グループホームで看取りまで行うことについて(ホーム長個人の意見)

 4) 看取りの状況
 ターミナルケア(看取り)に取り組んだ経験の有無について聞いたところ、回答のあった1,192事業所のうち、14.4%にあたる172事業所が「ある」と回答し(図表6)、このうち98事業所で、延べ156人を実際に看取ることができたと回答している(図表7)。

図表6 図表7


小規模多機能ケアワーキング班 14年度の検討経過(PDF:28KB)


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