平成19年8月6日
厚生労働省食品安全部
加地 監視安全課長
担当:日田,山本(内2477,2447)


平成18年度食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果について

我が国の平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量の推計や個別食品における汚染実態を調査するため、従来より、国立医薬品食品衛生研究所を中心に調査を行い、その結果を公表してきたところですが、今般、平成18年度の調査結果がとりまとめられたので、お知らせします。

平成18年度における食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、1.04±0.47pg TEQ/kgbw/日(0.38〜1.94pgTEQ/kgbw/日)と推定され、耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低く、一部の食品を過度に摂取するのではなく、バランスのとれた食生活が重要であることが示唆されました。

なお、本調査結果については本日開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において報告されました。








本調査は、厚生労働科学研究費補助金(食品の安全性高度化推進事業)「ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究」(主任研究者 佐々木久美子国立医薬品食品衛生研究所食品部第一室長)においてダイオキシン類及び臭素化ダイオキシン等による食品汚染実態の把握並びに分析の迅速化等を目的として実施されたものです。








PDFファイルを見るためには、Adobe Readerというソフトが必要です。
Adobe Readerは無料で配布されています。(次のアイコンをクリックしてください。) Get Adobe Reader


(別紙)

平成18年度ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究(概要)

主任研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所食品部第一室長

1 目的

ダイオキシン類の人への主な曝露経路の一つと考えられる食品について

(1)平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量を推計すること

(2)個別の食品のダイオキシン類の汚染実態を把握すること 等

2 方法

(1) ダイオキシン類の食品経由摂取量に関する研究(トータルダイエットスタディ)

全国7地域の9機関で、それぞれ約120品目の食品を購入し、厚生労働省の平成13、14年度国民栄養調査並びに平成15年度国民健康・栄養調査の食品別摂取量表に基づいて、それらの食品を計量し、そのまま、又は調理した後、13群に大別して、混合し均一化したもの及び飲料水(合計14食品群)を試料として、「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(平成11年厚生省生活衛生局)に従ってダイオキシン類を分析し、平均的な食生活におけるダイオキシン類の一日摂取量を算出した。

なお、ダイオキシン類摂取量への寄与が大きい食品群である10群(魚介類)、11群(肉類、卵類)及び12群(乳、乳製品)について、各機関が3セットずつ試料を調製し、それぞれについてダイオキシン類を測定した。

(2) 個別食品中ダイオキシン類濃度に関する研究

個別食品として、国内産及び輸入食品合計42試料について、(1)と同様にダイオキシン類を分析した。

3 ダイオキシン類の調査項目

従来通り、世界保健機構(WHO)が1997年に毒性等価係数を定めたポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)7種、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)10種及びコプラナーPCB (Co-PCB)12種の合計29種。

4 結果の概要

(1) 一日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)

食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、1.04±0.47pgTEQ/kgbw/日(0.38〜1.94pgTEQ/kgbw/日)と推定された。この数値は、平成16、17年度の調査結果(1.41±0.66、1.20±0.66pgTEQ/kgbw/日)と比べ、ほとんど同レベルであり、日本における耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低かった。

なお、同一機関で調製した試料であっても、魚介類、肉類、卵類、乳及び乳製品類として採取した食品の種類、産地等の差により、ダイオキシン類の摂取量には約1.5〜4.5倍の差が生じることが分かった。

<表1 ダイオキシン類一日摂取量の全国平均年次推移>

(5年間の調査結果)

  平成14年度 平成15年度 平成16年度 平成17年度 平成18年度
一日摂取量
(pgTEQ/日)
74.45
(28.42〜169.82)
66.51
(28.95〜152.41)
70.47
(23.83〜146.60)
60.16
(23.40〜178.15)
52.23
(23.40〜178.15)
体重1kg当たりの一日摂取量
(pgTEQ/kgbw/日)
1.49
(0.57〜3.40)
1.33
(0.58〜3.05)
1.41
(0.48〜2.93)
1.20
(0.47〜3.56)
1.04
(0.38〜1.94)

数値は平均値、( )内は範囲を示す。なお、体重1kg当たりの一日摂取量は日本人の平均体重を50Kgとして計算している。

<表2 ダイオキシン類一日摂取量の地域別年次推移>

(単位:pgTEQ/kgbw/日)

地域 北海道 東北地方 関東地方 中部地方
地方 東北A 東北B 関東A 関東B 関東C 中部A 中部B 中部C
平成10年度
2.77
1.26
2.06
2.14
2.00
1.87
2.03
平成11年度
1.29
1.47
1.65
4.04
1.59
1.68
1.53
1.57
2.42
平成12年度
0.84
1.10
1.92
1.30
1.72
1.48
1.44
1.41
1.80
平成13年度
0.67
2.02
1.08
1.99
1.42
1.65
1.53
平成14年度
0.88
1.16
1.46
1.34
0.90
1.40
0.62
0.94
1.46
2.01
2.33
1.17
1.67
0.68
1.44
2.05
2.76
3.40
1.51
1.93
1.28
平成15年度
0.84
0.72
0.78
0.90
1.02
1.34
0.58
1.03
0.84
1.86
1.01
1.06
1.48
1.15
1.33
1.35
3.05
2.93
2.05
1.86
1.50
平成16年度
0.48
0.48
1.64
1.05
0.72
0.64
1.03
0.80
1.80
1.75
0.91
0.71
2.48
2.93
1.87
2.34
1.83
2.03
平成17年度
0.67
0.64
0.55
0.70
0.69
0.47
1.80
1.15
0.87
1.33
0.80
0.60
3.56
1.57
1.26
2.03
1.40
1.86
平成18年度
0.38
0.53
0.60
0.79
0.67
0.46
0.45
1.06
0.94
1.00
0.87
0.70
1.71
1.85
1.47
1.38
1.00
1.24
地域 関西地方 中国四国地方 九州地方
関西A 関西B 関西C 中四国A 中四国B 中四国C 九州A 九州B
平成10年度
2.72
1.22
1.99
平成11年度
7.01
1.79
1.89
3.59
1.48
1.84
1.19
平成12年度
2.01
1.43
2.01
0.98
1.40
1.55
0.86
平成13年度
1.33
2.00
0.88
1.60
3.40
平成14年度
0.96
1.40
0.79
0.73
0.57
1.39
1.78
0.98
1.54
1.18
2.75
2.02
1.22
2.12
1.81
平成15年度
0.77
0.62
1.03
0.85
1.15
1.22
1.51
1.04
1.58
1.56
2.05
1.83
平成16年度
1.32
1.19
0.61
1.86
1.35
0.99
2.25
1.72
1.27
平成17年度
0.67
1.20
0.66
0.82
1.57
1.05
1.42
1.72
1.44
平成18年度
0.98
0.93
0.61
1.50
1.08
0.65
1.76
1.94
1.65

(注)平成18年度調査において各地方でのサンプリングを実施した自治体は以下のとおり。なお、数値は各地方毎の食品別一日摂取量を用いて換算されたものである。表の左から、北海道地方:北海道、東北地方:宮城県、関東地方:埼玉県、横浜市、中部地方:石川県、名古屋市、関西地方:大阪府、中国四国地方:香川県、九州地方:福岡県

(2)個別食品中のダイオキシン類等濃度調査
個別食品のダイオキシン類の測定結果は表3のとおりであった。

<表3 平成18年度 食品中のダイオキシン類の濃度 (pgTEQ/g)>

食 品 産地 ダイオキシン類 (pgTEQ/g)
PCDD/Fs Co-PCBs Total
生鮮魚介類 あんこうの肝 輸入 4.250 9.354 13.604
あんこうの肝 輸入 6.767 20.324 27.092
うなぎ 輸入 0.214 0.837 1.052
うなぎ 輸入 0.186 0.246 0.432
うに 輸入 0.065 0.083 0.148
うに 輸入 0.032 0.049 0.081
かき 国産 0.100 0.207 0.307
かき 国産 0.071 0.175 0.246
かたくちいわし 国産 0.069 0.258 0.328
かたくちいわし 国産 0.300 0.476 0.776
かつお 国産 0.064 0.267 0.331
かつお 国産 0.051 0.210 0.261
かれい 国産 0.187 0.477 0.664
かれい 国産 0.166 0.161 0.327
キハダマグロ 国産 < 0.001 0.004 0.004
キハダマグロ 国産 < 0.001 0.034 0.034
さけ 国産 0.067 0.148 0.215
さけ 国産 0.021 0.078 0.099
さけ 輸入 0.302 1.757 2.059
さけ 輸入 0.459 1.535 1.994
さば 国産 0.438 1.861 2.299
さば 国産 0.629 1.663 2.292
さば 輸入 0.108 0.454 0.561
さば 輸入 0.392 1.476 1.868
さんま 国産 0.030 0.171 0.201
さんま 国産 0.026 0.168 0.193
すけとうたら 国産 0.003 0.025 0.028
すけとうたら 国産 0.004 0.048 0.052
ぶり 国産 0.452 1.916 2.368
ぶり 国産 0.416 1.403 1.819
ホタテ貝 国産 0.001 0.001 0.002
ホタテ貝 国産 < 0.001 0.001 0.001
ほっけ 国産 0.259 0.490 0.748
ほっけ 国産 0.288 0.486 0.774
まあじ 国産 0.428 0.429 0.857
まあじ 国産 0.176 0.267 0.442
まだい 国産 0.119 0.538 0.657
まだい 国産 0.089 0.417 0.506
メバチマグロ 輸入 0.010 0.137 0.147
メバチマグロ 輸入 0.034 0.411 0.445
鶏卵 国産 0.005 0.003 0.008
鶏卵 国産 0.007 0.024 0.031

【用 語 説 明】

ダイオキシン類:

ダイオキシン及びコプラナーPCB

ダイオキシン:

ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)

ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)

コプラナーPCB(Co-PCB):

PCDD及びPCDFと類似した生理作用を示す一群のPCB類

トータルダイエットスタディ:

通常の食生活において、食品を介して化学物質等の特定の物質がどの程度実際に摂取されるかを把握するための調査方法。飲料水を含めた全食品を14群に分け、国民栄養調査による食品摂取量に基づき、小売店等から食品を購入し、必要に応じて調理した後、各食品群ごとに化学物質等の分析を行い国民1人あたりの平均的な1日摂取量を推定するもの。

TEF(毒性等価係数):

ダイオキシン類は通常混合物として環境中に存在するため、様々な同族体のそれぞれの毒性強度を、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした毒性等価係数(TEF:Toxic Equivalency Factor)を用いて表す。なお、今回は1997年にWHOで再評価されたTEFを用いている。

TEQ(毒性等量):

ダイオキシン類は通常、毒性強度が異なる同族体の混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシン類の量は、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent Quantity)として表す。

TDI(耐容一日摂取量):

長期にわたり体内に取り込むことにより健康影響が懸念される化学物質について、その量まではヒトが一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日当たりの摂取量。ダイオキシン類のTDIについては、1999年6月に厚生省及び環境庁の専門家委員会で、当面4pgTEQ/kgbw/日(1日に体重1kg当たり4pgTEQの意味。体重50kgの人であれば、4pgTEQ×50kgで計算し、TDIは200pgTEQとなる。)とされている。


厚生労働科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)
総 括 研 究 報 告 書

ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究

主任研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所 食品部第一室長

研究要旨

ダイオキシン類(PCDDs,PCDFs,コプラナーPCBs),臭素化ダイオキシン類及び関連化合物による食品汚染実態の把握及び分析の迅速化を目的として,研究を実施した.

(1)トータルダイエット方式によるダイオキシン類の摂取量調査では,全国9機関で調製したトータルダイエット試料を分析し,食事経由ダイオキシン類一日摂取量の全国平均が,1.04 ± 0.47 pg TEQ/kgbw/dayであることを明らかにした.(PDF:72KB)

(2-1)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査では,魚介類40試料及び鶏卵2試料についてダイオキシン類を分析し,汚染実態を明らかにした.(PDF:50KB)

(2-2)ファイトレメディエーションに関する予備検討として,形質転換株と野生株のタバコ及びシロイヌナズナのダイオキシンに対する吸収除去能について検討した.ABCタンパク質ファミリーのMRP1を発現させたタバコでは,野生株と比較しダイオキシン吸収除去について顕著な差は認められなかった.一方,同じABCタンパク質ファミリーであるMDR1を発現したシロイヌナズナでは,野生株と比較しダイオキシン吸収能が高かったことから,ダイオキシン浄化植物としての可能性が示唆された.(PDF:49KB)

(3-1)ダイオキシン類分析の迅速化に関する研究として,表面プラズモン共鳴センサーを用いた市販魚中のダイオキシン類のスクリーニング法を検討した.抗PCB 118モノクローナル抗体を使用した測定法は,コプラナーPCBsの毒性等量値を短時間に把握することが可能であり,スクリーニング法として期待できた.(PDF:140KB)

(3-2)ダイオキシン類分析の迅速化を目的として,高速溶媒抽出法(ASE)についてトータルダイエット試料を対象に検討した.ASEを用いた結果、抽出時間は従来法に比べ迅速化され、さらに抽出に用いる有機溶媒を少量化することができた.また、溶媒除去大容量注入装置と組み合わせることで,TDS試料の高感度分析が可能であった.しかし,一部の異性体ではマトリックスの影響を受けやすく,定量値の取り扱いには注意が必要であった.(PDF:79KB)

(4)臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物質の汚染調査として,[1]臭素系ダイオキシン類(PBDD/DFs, MoBrPCDD/DFs)及び臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)のトータルダイエット方式による三地域(北海道,東北,中部地区)の摂取量調査,[2]ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)の分析法検討と,一地域(北九州地区)のトータルダイエット方式による摂取量調査を行った.PBDD/DFs及びMoBrPCDD/DFsに関しては油脂類(第4群)から1,2,3,4,6,7,8-HpBDFが検出されたが,その他の食品群では検出されなかった.PBDEsについては全ての食品群から検出された.ND=0とした場合のPBDD/DFs及びMoBrPCDD/DFsの一日摂取量は平均で0.00071 pg TEQ/kgbw/day,PBDEsの一日摂取量は平均で1.83 ng/kgbw/dayであった.一方,検討したHBCDsの分析法は再現性及び回収率も良好であった.本法により北九州地区におけるHBCDsの摂取量調査を行った結果,ND=0とした場合の一日摂取量は平均で1.80 ng/kgbw/dayであった.(PDF:216KB)

分担研究者

米谷民雄      国立医薬品食品衛生研究所
食品部長
佐々木久美子   国立医薬品食品衛生研究所
食品部第一室長
天倉吉章   松山大学
薬学部助教授
堤 智昭   国立医薬品食品衛生研究所
食品部主任研究官
中川礼子   福岡県保健環境研究所
生活化学課長

A.研究目的

ヒトがダイオキシン類(PCDDs,PCDFs及びコプラナーPCBs)に曝露される原因は,空気,水などの環境よりも主に毎日摂取する食品である.そこで,ダイオキシン類の人体への影響を評価するためには,食品汚染状況の把握が重要である.

本研究では,ダイオキシン類及び臭素化ダイオキシン類とその関連化合物について,食事経由摂取量及び個別食品の汚染実態の把握,測定の迅速化,信頼性向上等を目的として,次の研究を実施した.

(1)ダイオキシン類のトータルダイエット方式による摂取量調査

(2-1)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査

(2-2)植物を利用した汚染浄化技術に関する基礎検討

(3-1)表面プラズモン共鳴センサーを用いた市販魚中のダイオキシン類スクリーニング法

(3-2)食品中ダイオキシン類分析における高速溶媒抽出法の応用に関する研究 −トータルダイエット試料の迅速抽出への応用並びに個別食品分析における運用試験−

(4)食品中臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質汚染調査

B.研究方法

(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査

トータルダイエット試料は,全国7地区の9機関で調製した.厚生労働省の平成13,14年度国民栄養調査並びに平成15年度国民健康・栄養調査の各地区における食品別摂取量表に基づいて,それぞれ食品を購入し,それらの食品を計量し,そのまま,または調理した後,13群に大別して,混合均一化したものを試料とした.さらに第14群として飲料水を試料とした.第10群(魚介類),11群(肉・卵)及び12群(乳・乳製品)は,各機関で魚種,産地,メーカー等が異なる食品で構成された各3セットの試料を調製した.これらについて,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析し,一日摂取量を算出した.なお,第10,11及び12群を除く食品群試料は9機関で調製した試料を各群毎に5ブロックに分け,複数機関の試料を混合して分析を行った.

(2-1)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査

魚介類(40試料)及び鶏卵(2試料)について,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析した.

(2-2)植物を利用した汚染浄化技術

ダイオキシンを添加した培地で形質転換株であるMRP1タバコ及びCjMDR1シロイヌナズナを栽培し,ダイオキシン抵抗性と吸収除去能を検討した.

(3-1)表面プラズモン共鳴センサーを用いた市販魚中のダイオキシン類スクリーニング法

CM5センサーチップにPCB類似体-牛アルブミン結合物を固定化し,固定化物に対し測定試料と抗PCB118抗体を競合させる競合測定法を開発した.前処理した魚試料液を使用した添加回収試験等を行いマトリックスが本法の測定値に与える影響を検討した.また,同じ抗PCB 118抗体を使用したELISA(コプラナーPCBs ELISA)及びHRGC/HRMS分析と比較試験を行い,魚試料におけるコプラナーPCBs測定の妥当性について検討した.

(3-2)食品中ダイオキシン類分析における高速溶媒抽出法の応用に関する研究

トータルダイエット試料を対象として,ASEの適用を検討した.ASEの抽出条件は昨年度の本分担研究の結果より,抽出溶媒にアセトン/ヘキサン等量混液,抽出温度として150℃を選択した.トータルダイエット試料測定におけるクリーンアップスパイクの回収率,分析結果を明らかにし本法の適用性を検討した. また,PCDD/Fs及びノンオルトPCBs分析については高感度化を達成するため,溶媒除去大容量注入装置(SCLV injection system,以下SCLV)との組み合わせを検討した.

(4)食品中臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質汚染調査

[1]臭素系ダイオキシン類(PBDD/DFs,MoBrPCDD/DFs)及び臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)について,三地区(北海道,東北,中部地区)で調製したトータルダイエット試料による摂取量調査を行った.試料を凍結乾燥後,高速溶媒抽出装置で抽出し,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」 に準じた方法で臭素化ダイオキシン類及び臭素化ジフェニルエーテル類を分析し,一日摂取量を算出した.

[2]ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)の分析法を検討した.また,本法により北九州地区のトータルダイエット試料(2002及び2005年度の2試料)の分析を行い,一日摂取量を算出した.

C.結果及び考察

(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査

ダイオキシン類の国民平均一日摂取量は1.04 ± 0.47 pg TEQ/kgbw/day(範囲0.38〜1.94 pg TEQ/kgbw/day)であった.これは,平成10年度以降(平成10〜17年度)の調査結果(それぞれ2.00,2.25, 1.45,1.63,1.49,1.33,1.41,1.20 pg TEQ/kgbw/day)の中で最も低かった.最大値は1.94 pg TEQ/kgbw/dayであり,この場合でも日本における耐容一日摂取量(4 pg TEQ/kgbw/day)の半分程度であった.なお,同一機関で調製した試料であってもダイオキシン類摂取量には1.4〜4.5倍の差が認められた.

(2-1)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査

魚介類40試料及び鶏卵2試料を分析した結果,最も濃度が高かったのはあんこうの肝であり,13.604 pg TEQ/g及び27.092 pg TEQ/gであった.1 pg TEQ/gを超えたものは,うなぎ(1.052 pg TEQ/g),さけ(2.059,1.994 pg TEQ/g),さば(2.299,2.292,1.868 pg TEQ/g),及びぶり(2.368,1.819 pg TEQ/g)であった.これらの魚試料ではコプラナーPCBs汚染が主体であった.

(2-2)植物を利用した汚染浄化技術

形質転換株(MRP1タバコ及びCjMDR1シロイヌナズナ)について,一定量のダイオキシン類を暴露し,各野生株との抵抗性の差を観察した.その結果,両植物とも枯れることなく生育し,抵抗性に差は認められなかった.またダイオキシン吸収除去能を検討したところ,両植物とも低塩素(4塩素体)の吸収量が最も高く,高塩素になるに従い吸収量が低減する傾向が認められた.MRP1タバコと野生株における吸収除去能を比較したところ,両者に顕著な差は認められず,むしろ野生株の吸収量の方が多く,ダイオキシン暴露量が高くなるとその傾向は顕著に認められた.一方,CjMDR1シロイヌナズナと野生株における吸収除去能を比較したところ,全てのダイオキシン類においてCjMDR1株の吸収量の方が多く,ダイオキシン汚染浄化植物としての可能性が示唆された.

(3-1) 表面プラズモン共鳴センサーを用いた市販魚中のダイオキシン類スクリーニング法

本法のPCB 118に対する定量下限は100 ng/mlであり,魚試料を20 g使用した場合における試料の定量下限は1 ng PCB 118/gであった.添加回収試験の結果,前処理した魚試料に対するPCB 118の添加回収率は低く,魚試料中のマトリックスによる影響が示唆された.そこで,マトリックスの影響を低減するため,測定試料は希釈系列をとり測定し,最も希釈率の大きい試料の測定値を用いて試料濃度を算出した.7検体の魚試料についてコプラナーPCBs ELISAと比較試験を行った.その結果,両者はよく一致し,本法はELISAと同等の測定能を有することが示唆された.さらに,10検体の魚試料についてHRGC/HRMS分析と比較試験を行った結果,コプラナーPCBsの毒性等量値と比較的良い相関(r = 0.89)が認められ,スクリーニング法として期待できた.しかし,魚の種類(スズキ)によっては,他の魚試料と比較し高めの定量値が得られる傾向があり,注意が必要であった.本法の前処理した試料の測定時間は1試料あたり約12 minであり,迅速に汚染濃度を把握することが可能であると考えられる.ただし現段階では,マトリックスの影響を軽減するため希釈系列をとり試料を測定する必要があり,試料数が多くなると迅速性が失われる点が今度の検討課題である.

(3-2) 食品中ダイオキシン類分析における高速溶媒抽出法の応用に関する研究

ASEを用いてトータルダイエット試料(1〜13群)の分析を行った.トータルダイエット試料は水分含量を多く含む食品群があるため,湿試料の状態では珪藻土粉末と混同して必要量を抽出セルに充填することが困難であった.そこで,試料は凍結乾燥を行った後,珪藻土と混合しセルに充填した.ASEを用いた結果,抽出時間は従来法に比べ迅速化(2時間以上→約30分)され,抽出に用いる溶媒量を少量化(400 ml以上→約120 ml)することができた.試料におけるクリーンアップスパイクの回収率は,概ねガイドラインで規定された40〜120%の範囲内であった.しかし,一部の化合物(特に2,3,7,8-TeCDF及び1,2,3,7,8-PeCDF)については,回収率が120%を超える傾向が強く,これら異性体の定量値の取り扱いには注意が必要であった.

また,SCLVを組み合わせた結果,従来の標準的検出下限値と比較し概ね5倍以上の高感度でダイオキシン類を検出できた.異性体の検出率が低かった第1群では,検出下限以下の異性体にゼロを適用した場合(ND=0)と,検出下限値の2分の1を適用した場合(ND=LOD/2)のダイオキシン類濃度は,0.00029 pg TEQ/g(ND=0)及び0.0031 pg TEQ/g(ND=LOD/2)であった.従来の標準的検出下限値を適用した場合は,0 pg TEQ/g(ND=0)及び0.027 pg TEQ/g(ND=LOD/2)になることから,本法では両者の変動をより小さくすることができた.従って,本法は高い検出率が得られるのみならず,不検出の場合に算出方法の違いによって生じるダイオキシン類濃度の変動を小さくすることができ,摂取量推定の信頼性向上に寄与することが期待できる.

(4)食品中臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質汚染調査

[1]臭素化ダイオキシン類及び臭素化ジフェニルエーテル類について, 三地区で調製したトータルダイエット試料による摂取量調査を行った.その結果,三地域全ての第4群(油脂類)から1,2,3,4,6,7,8-HpBDFが0.25〜0.44 pg/g検出されたが,他の群からは臭素化ダイオキシン類は検出されなかった.臭素化ジフェニルエーテルはすべての群から検出された.一日摂取量に占める各食品群の割合は,中部地区では第4群が,北海道及び東北地区では第10群が最も高かった.臭素化ダイオキシン類の一日摂取量は平均0.00071 pg TEQ/kgbw/day,臭素化ジフェニルエーテル類の一日摂取量は平均1.83 ng/kgbw/dayであった.

[2]ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)に対する分析法の確立では,トータルダイエット試料の第10群(魚介類)を用いた再現性試験(n=6)を実施した.変動係数はα-HBCDが7.7%,γ-HBCDが15.0%であり,良好な値であった(β-HBCDは未検出).また,本分析法の内標準物質の回収率はα-HBCDが62.2〜81.9%,β-HBCDが66.5〜92.6%,γ-HBCDが54.8〜90.0%であり,許容範囲内の値であった.検出下限値はα-HBCD及びγ-HBCDが0.02 ng/g,β-HBCDが0.01 ng/gであった.

本分析法により北九州地区のトータルダイエット試料(2002及び2005年度の2試料)の分析を行った結果,第10群(魚介類)及び第11群(肉類)からα-HBCD及びγ-HBCDが検出された.総HBCDsの一日摂取量は2002年度試料が2.22 ng/kgbw/day,2005年度試料が1.37 ng/kgbw/dayであり,平均で1.80 ng/kgbw/dayであった.

D.結論

1.トータルダイエットによる摂取量調査の結果,ダイオキシン類の一日摂取量は,1.04 ± 0.47 pg TEQ/kgbw/dayであった.

2.個別食品(42試料)について調査した結果,最も濃度が高かったのは,あんこうの肝13.604及び27.092 pg TEQ/gであった.また,うなぎ,さけ,さば,ぶりでも比較的高い濃度(1 pg TEQ/g以上)のダイオキシン類が検出された.

3.形質転換株であるMRP1タバコ及びCjMDR1シロイヌナズナのダイオキシン吸収除去能を検討した結果,CjMDR1株で効果的な吸収除去能が認められ,ダイオキシン浄化植物としての可能性が示唆された.

4.表面プラズモン共鳴センターを用いたスクリーニング法は,市販魚中のコプラナーPCBsを短時間で測定することが可能であった.

5.ASEを用いた結果,トータルダイエット試料中のダイオキシン類を迅速に抽出することができた.また,SCLVと組み合わせることで高感度分析が可能であり,ダイオキシン類摂取量推定の信頼性向上に寄与すると考えられた.

7.トータルダイエットによる摂取量調査の結果,臭素化ダイオキシン類の一日摂取量は0.00071 pg TEQ/kgbw /day,臭素化ジフェニルエーテルの一日摂取量は1.83 ng/kgbw/dayであった.また,予備調査として行ったヘキサブロモシクロドデカンの一日摂取量は1.80 ng/kgbw/dayであった.

E.健康危険情報

なし

F.研究発表

1.論文発表

1) Nakagawa R., Ashizuka Y., Hori T., Yasutake D., Tobiishi K., Sasaki K.: Determination of brominated flame retardants and brominated dioxins in fish collected from three regions of Japan. Organohalogen Compounds, 68, 2166-2169, 2006.

2) Tsutsumi T., Amakura Y., Matsumoto T., Ito Y., Kurihara H., Sasaki K., Maitani T.: Removal of dioxins from retail fish by high-speed solvent extraction. Organohalogen Compounds, 68, 2473-2476, 2006.

3) Tsutsumi T., Amakura Y., Okuyama A., Tanioka Y., Sakata K., Sasaki K., Maitani T.: Application of an ELISA for PCB 118 to the screening of dioxin-like PCBs in retail fish. Chemosphere, 65, 467-473, 2006.

4) Tsutsumi T., Amakura Y., Sasaki K., Maitani T.: Dioxin concentrations in the edible parts of Japanese common squid and saury. J. Food Hyg. Soc. Japan, 48, 8-12, 2007.

2. 学会・協議会発表

1) 芦塚由紀,中川礼子,堀 就英,村田さつき,安武大輔,佐々木久美子:食品における臭素化ダイオキシン及びその関連化合物の汚染実態調査. 第43回全国衛生化学技術協議会 (2006. 11).

2) 芦塚由紀,中川礼子,堀 就英,安武大輔,佐々木久美子:食品における臭素化ダイオキシン及び臭素系難燃剤の汚染実態調査.第9回環境ホルモン学会 (2006. 11).

3) 堤 智昭,三好紀子,佐々木久美子,米谷民雄:表面プラズモン共鳴センサーを用いた市販魚中のコプラナーPCBsスクリーニング法. 第16回環境化学討論会(2007.6).

G.知的財産権の出願,登録

なし


トップへ