平成18年9月26日
厚生労働省食品安全部
桑崎 監視安全課長
担当:鶏内、山本(内2477)


平成17年度食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果について


 我が国の平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量の推計や個別食品における汚染実態を調査するため、従来より、国立医薬品食品衛生研究所を中心に調査を行い、その結果を公表してきたところですが、今般、平成17年度の調査結果がとりまとめられたので、お知らせします。
 平成17年度における食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、1.20±0.66pg TEQ/kgbw/日(0.47〜3.56pgTEQ/kgbw/日)と推定され、耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低く、一部の食品を過度に摂取するのではなく、バランスのとれた食生活が重要であることが示唆されました。
 なお、本調査結果については本日開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において報告されました。










 本調査は、厚生労働科学研究費補助金(食品の安全性高度化推進事業)「ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究」(主任研究者 佐々木久美子国立医薬品食品衛生研究所食品部第一室長)においてダイオキシン類及び臭素化ダイオキシン等による食品汚染実態の把握並びに分析の迅速化等を目的として実施されたものです。










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(別紙)

平成17年度ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究
(概要)


 主任研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所食品部第一室長

 目的
 ダイオキシン類の人への主な曝露経路の一つと考えられる食品について
 (1)平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量を推計すること
 (2)個別の食品のダイオキシン類の汚染実態を把握すること 等

方法
 (1) ダイオキシン類の食品経由摂取量に関する研究(トータルダイエットスタディ)
 全国7地域の9機関で、それぞれ約120品目の食品を購入し、厚生労働省の平成13年度国民栄養調査の食品別摂取量表に基づいて、それらの食品を計量し、そのまま、又は調理した後、13群に大別して、混合し均一化したもの及び飲料水(合計14食品群)を試料として、「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(平成11年厚生省生活衛生局)に従ってダイオキシン類を分析し、平均的な食生活におけるダイオキシン類の一日摂取量を算出した。
 なお、ダイオキシン類摂取量への寄与が大きい食品群である10群(魚介類)、11群(肉類、卵類)及び12群(乳、乳製品)について、各機関が3セットずつ試料を調製し、それぞれについてダイオキシン類を測定した。
 (2) 個別食品中ダイオキシン類濃度に関する研究
 個別食品として、国内産及び輸入食品合計41試料について、(1)と同様にダイオキシン類を分析した。

 ダイオキシン類の調査項目
 従来通り、世界保健機構(WHO)が1997年に毒性等価係数を定めたポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)7種、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)10種及びコプラナーPCB (Co-PCB)12種の合計29種。

 結果の概要
 (1) 一日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)
 食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、1.20±0.66pgTEQ/kgbw/日(0.47〜3.56pgTEQ/kgbw/日)と推定された。この数値は、平成15、16年度の調査結果(1.33±0.59、1.41±0.66pgTEQ/kgbw/日)と比べ、ほとんど同レベルであり、日本における耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低かった。
 なお、同一機関で調製した試料であっても、魚介類、肉類、卵類、乳及び乳製品類として採取した食品の種類、産地等の差により、ダイオキシン類の摂取量には約1.4〜5.3倍の差が生じることが分かった。

<表1 ダイオキシン類一日摂取量の全国平均年次推移>
(5年間の調査結果)
  平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度 平成17年度
一日摂取量
(pgTEQ/日)
81.47
(33.3〜169.9)
74.45
(28.42〜169.82)
66.51
(28.95〜152.41)
70.47
(23.83〜146.60)
60.16
(23.40〜178.15)
体重1kg当たりの
一日摂取量
(pgTEQ/kgbw/日)
1.63
(0.67〜3.40)
1.49
(0.57〜3.40)
1.33
(0.58〜3.05)
1.41
(0.48〜2.93)
1.20
(0.47〜3.56)
 数値は平均値、( )内は範囲を示す。なお、体重1kg当たりの一日摂取量は日本人の平均体重を50Kgとして計算している。

<表2 ダイオキシン類一日摂取量の地域別年次推移>
(単位:pgTEQ/kgbw/日)
地域 北海道
地区
東北地方 関東地方 中部地方
東北A 東北B 関東A 関東B 関東C 中部A 中部B
平成10年度 2.77 1.26 2.06 2.14 2.00 1.87
平成11年度 1.29 1.47 1.65 4.04 1.59 1.68 1.53 1.57
平成12年度 0.84 1.10 1.92 1.30 1.72 1.48 1.44 1.41
平成13年度 0.67 2.02 1.08 1.99 1.42 1.65
平成14年度 0.88
0.94
1.44
1.16
1.46
2.05
1.46
2.01
2.76
1.34
2.33
3.40
0.90
1.17
1.51
1.40
1.67
1.93
平成15年度 0.84
1.03
1.33
0.72
0.84
1.35
0.78
1.86
3.05
0.90
1.01
2.93
1.02
1.06
2.05
1.34
1.48
1.86
平成16年度 0.48
1.03
2.48
0.48
0.80
2.93
1.64
1.80
1.87
1.05
1.75
2.34
0.72
0.91
1.83
平成17年度 0.67
1.80
3.56
0.64
1.15
1.57
0.55
0.87
1.26
0.70
1.33
2.03
0.69
0.80
1.40

地域 中部地方 関西地方 中国四国地方 九州地方
中部C 関西A 関西B 関西C 中四国A 中四国B 中四国C 九州A 九州B
平成10年度 2.03 2.72 1.22 1.99
平成11年度 2.42 7.01 1.79 1.89 3.59 1.48 1.84 1.19
平成12年度 1.80 2.01 1.43 2.01 0.98 1.40 1.55 0.86
平成13年度 1.53 1.33 2.00 0.88 1.60 3.40
平成14年度 0.62
0.68
1.28
0.96
1.39
2.75
1.40
1.78
2.02
0.79
0.98
1.22
0.73
1.54
2.12
0.57
1.18
1.81
平成15年度 0.58
1.15
1.50
0.77
1.15
1.58
0.62
1.22
1.56
1.03
1.51
2.05
0.85
1.04
1.83
平成16年度 0.64
0.71
2.03
1.32
1.86
2.25
1.19
1.35
1.72
0.61
0.99
1.27
平成17年度 0.47
0.60
1.86
0.67
0.82
1.42
1.20
1.57
1.72
0.66
1.05
1.44
(注) 平成17年度調査において各地方でのサンプリングを実施した自治体は以下のとおり。なお、数値は各地方毎の食品別一日摂取量を用いて換算されたものである。表の左から、北海道地方:北海道、東北地方:宮城県、関東地方:埼玉県、横浜市、中部地方:石川県、名古屋市、関西地方:大阪府、中四国地方:香川県、九州地方:福岡県

 (2) 個別食品中のダイオキシン類等濃度調査
 個別食品のダイオキシン類の測定結果は表3のとおりであった。

以上



【用語説明】

ダイオキシン類:
 ダイオキシン及びコプラナーPCB

ダイオキシン:
 ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)

コプラナーPCB(Co-PCB):
 PCDD及びPCDFと類似した生理作用を示す一群のPCB類

トータルダイエットスタディ:
 通常の食生活において、食品を介して化学物質等の特定の物質がどの程度実際に摂取されるかを把握するための調査方法。飲料水を含めた全食品を14群に分け、国民栄養調査による食品摂取量に基づき、小売店等から食品を購入し、必要に応じて調理した後、各食品群ごとに化学物質等の分析を行い国民1人あたりの平均的な1日摂取量を推定するもの。

TEF(毒性等価係数):
 ダイオキシン類は通常混合物として環境中に存在するため、様々な同族体のそれぞれの毒性強度を、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした毒性等価係数(TEF:Toxic Equivalency Factor)を用いて表す。なお、今回は1997年にWHOで再評価されたTEFを用いている。

TEQ(毒性等量):
 ダイオキシン類は通常、毒性強度が異なる同族体の混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシン類の量は、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent Quantity)として表す。

TDI(耐容一日摂取量):
 長期にわたり体内に取り込むことにより健康影響が懸念される化学物質について、その量まではヒトが一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日当たりの摂取量。ダイオキシン類のTDIについては、1999年6月に厚生省及び環境庁の専門家委員会で、当面4pgTEQ/kgbw/日(1日に体重1kg当たり4pgTEQの意味。体重50kgの人であれば、4pgTEQ×50kgで計算し、TDIは200pgTEQとなる。)とされている。



表3 平成17年度 食品中のダイオキシン類の濃度 (pgTEQ/g)

食品 産地 ダイオキシン類(pgTEQ/g)
PCDD/Fs Co-PCBs Total
生鮮魚介類 あゆ 国産 0.031 0.296 0.327
いさき 国産 0.034 0.069 0.103
きびなご 国産 0.359 0.500 0.860
ぎんだら 輸入 0.597 1.318 1.914
ぎんだら 輸入 0.082 0.185 0.267
さめ 国産 0.248 0.540 0.788
さめ 国産 2.040 4.102 6.141
さわら 国産 0.767 1.756 2.523
さわら 国産 0.597 1.231 1.829
ふぐ 国産 0.034 0.022 0.056
ふぐ 国産 0.001 0.012 0.013
まぐろ 国産 0.000 0.035 0.035
まぐろ 国産 0.952 2.980 3.932
ます 輸入 0.356 1.227 1.582
ます 輸入 0.013 0.121 0.135
まだい 国産 0.133 0.719 0.853
まだい 国産 0.795 0.662 1.457
むきがれい(おひょう) 輸入 0.008 0.061 0.069
むろあじ 国産 0.210 0.203 0.412
むろあじ 国産 0.219 0.166 0.384
めかじき 国産 0.747 1.669 2.416
めかじき 国産 0.969 3.066 4.034
メルルーサ 輸入 0.028 0.164 0.192
いいだこ 国産 0.648 0.255 0.903
いいだこ 国産 0.536 0.379 0.915
かき 輸入 0.105 0.086 0.192
すじこ(生) 国産 0.053 0.156 0.209
ずわいがに棒肉 輸入 0.262 0.179 0.442
ずわいがに棒肉 輸入 0.005 0.030 0.035
赤貝 国産 0.151 0.036 0.186
赤貝 国産 0.152 0.037 0.188
魚介類加工品 あみ佃煮 国産加工品 0.032 0.059 0.091
あみ佃煮 国産加工品 0.135 0.079 0.214
かます干物 国産加工品 0.279 0.621 0.900
かます干物 国産加工品 0.177 0.411 0.587
小女子佃煮 国産加工品 0.228 0.286 0.514
小女子佃煮 国産加工品 0.138 0.335 0.472
すじこ 国産加工品 0.032 0.109 0.141
すじこ 国産加工品 0.070 0.188 0.257
たらこ 国産加工品 0.013 0.105 0.118
たらこ 国産加工品 0.008 0.078 0.086



厚生労働科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)
総括研究報告書

ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究


主任研究者 佐々木久美子 国立医薬品食品衛生研究所 食品部第一室長

研究要旨
 ダイオキシン類(PCDDs,PCDFs,Co-PCB),臭素化ダイオキシン類及び関連化合 物による食品汚染実態の把握及び分析の迅速化を目的として,研究を実施した.
(1) トータルダイエット方式によるダイオキシン類の摂取量調査では,全国9機関で調製したトータルダイエット試料を分析し,食事経由ダイオキシン類一日摂取量の全国平均が,1.20 ± 0.66 pgTEQ/kgbw/dayであることを明らかにした.
(2-1) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査では,魚介類41試料中のダイオキシン類を分析し,汚染実態を明らかにした.さらに,平成13〜17年度の魚介類試料の分析値,水産物魚種別の市場入荷量及び魚介類一日摂取量を用いて,魚介類からのダイオキシン類摂取量を試算した結果,平均摂取量は1.44 pgTEQ/kgbw/dayと推定され,トータルダイエット方式による摂取量調査結果と概ね一致した.
(2-2) ファイトレメディエーションに関する予備検討(PDF:279KB)として,形質転換タバコ及び野生タバコの3農薬に対する抵抗性と吸収除去能について検討した.両タバコとも2,4-Dに対しては抵抗性が観察されなかった.alachlor,atrazineに対しては形質転換タバコに抵抗性が示され,特にatrazineでは顕著な抵抗性の差が認められたが,吸収除去能には差が認められなかった.
(3-1) ダイオキシン類分析の迅速化・信頼性向上に関する研究(PDF:343KB)として,PCB ELISA とAhイムノアッセイによる市販魚中のダイオキシン類のスクリーニング法を開発した.魚試料を前処理分画後,モノオルトPCBs分画をPCB ELISAにより,ノンオルトPCBs及びPCDD/Fs分画をAhイムノアッセイにより測定することによって,従来法と比較し,数分の一の時間及び費用で市販魚中のダイオキシン類濃度の把握が可能であり,スクリーニング法として有用であると考えられた.
(3-2) ダイオキシン類分析の迅速化(PDF:266KB)を目的として,高速溶媒抽出法(ASE)について動物性食品試料を対象に検討した.ASEの抽出条件を検討し,ASEと従来法(アルカリ分解・溶媒抽出法)を用いてダイオキシン類の定量値を比較した.その結果,ASEによる定量値の再現性は良好で,各異性体の定量値は従来法とほぼ同等あり,ASE は動物性食品試料に使用可能と考えられた.
(3-3) 魚油を使用した健康食品4製品について,臭素化ダイオキシン類,臭素化ジフェニルエーテル及びポリ塩化ビフェニルの汚染調査を実施した.臭素化ダイオキシン類異性体はほとんど検出されず,2製品で1.2 pg/g及び1.3 pg/g の2,3,7,8-TeBDFが検出されただけであった.臭素化ジフェニルエーテル及びポリ塩化ビフェニルは全ての製品で検出された.特にイタチ鮫肝油製品では,賞味期限の異なる2ロットについて調査した結果,他の製品よりも高濃度の臭素化ジフェニルエーテル(150,000 pg/g及び210,000 pg/g)とポリ塩化ビフェニル(10,000 ng/g及び18,000 ng/g)が検出された.
(4) 臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質の汚染調査(PDF:866KB)として,(1)臭素化ダイオキシン類(PBDD/DFs, MoBrPCDDs)及び臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)のトータルダイエット方式(関東地区,中国四国地区)による摂取量調査では,第4群の油脂類から1,2,3,4,6,7,8-HpBDFが検出されたが,その他の群では臭素化ダイオキシン類は検出されなかった.臭素化ジフェニルエーテルはすべての群から検出された.臭素化ダイオキシン類の一日摂取量は平均すると0.00034 pgTEQ/kg/day (ND=0として),臭素化ジフェニルエーテル類の一日摂取量は平均2.48 ng/kg/dayであり,2地区でほとんど差は見られなかった.個別食品(東北地方の魚介類)の分析では,PBDEsが魚10試料(サケ,スズキ)すべてから検出された.主要な異性体は4臭素化体の#47であった.(2)難燃剤のテトラブロモビスフェノールA(TBBPA)の微量分析の確立と個別食品の分析では,国内3地域の個別食品(魚介類45件)のTBBPA平均汚染濃度は0.02ng/g(範囲<0.01 ng/g〜0.11 ng/g)であった.

分担研究者
米谷民雄  国立医薬品食品衛生研究所
食品部長
天倉吉章国立医薬品食品衛生研究所
食品部主任研究官
堤 智昭国立医薬品食品衛生研究所
食品部主任研究官
中川礼子福岡県保健環境研究所
生活化学課長

A.研究目的
 ヒトがダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン,ポリ塩化ジベンゾフラン及びコプラナーPCB)に曝露される原因は,空気,水などの環境よりも主に毎日摂取する食品である.そこで,ダイオキシン類の人体への影響を評価するためには,食品汚染状況の把握が重要である.
 本研究では,ダイオキシン類及び臭素化ダイオキシン類とその関連化合物について,食事経由摂取量及び個別食品の汚染実態の把握,測定の迅速化,信頼性向上等を目的として,次の研究を実施した.
 (1) ダイオキシン類のトータルダイエット方式による摂取量調査
 (2-1) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
 (2-2) 植物を利用した汚染浄化技術に関する基礎検討
 (3-1) PCB ELISAとAhイムノアッセイによる市販魚中のダイオキシン類のスクリーニング法
 (3-2) 動物性食品試料への高速溶媒抽出法(ASE)の応用
 (3-3) 魚油を使用した健康食品の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の汚染調査
 (4) 食品中の臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質汚染調査

B.研究方法
(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査
 トータルダイエット試料は,全国7地区の9機関で調製した.厚生労働省の平成13年度国民栄養調査の各地区における食品別摂取量表に基づいて,それぞれ食品を購入し,それらの食品を計量し,そのまま,または調理した後,13群に大別して,混合均一化したものを試料とした.さらに第14群として飲料水を試料とした.第10群(魚介類),11群(肉・卵)及び12群(乳・乳製品)は,各機関で魚種,産地,メーカー等が異なる食品で構成された各3セットの試料を調製した.これらについて,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析し,一日摂取量を算出した.なお,第10,11及び12群を除く食品群試料は9機関で調製した試料を各群毎に5ブロックに分け,複数機関の試料を混合して分析を行った.

(2-1)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
 魚介類(41試料)について,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析した.また,平成13〜17年の魚介類分析データからダイオキシン類の一日摂取量を推定した.

(2-2)植物を利用した汚染浄化技術
 3農薬(2,4-D,alachlor,atrazine)を添加した培地で形質転換(MRP1)タバコ及び野生(Wild)タバコを栽培し,抵抗性と吸収除去能を検討した.

(3-1)PCB ELISAとAhイムノアッセイによる市販魚中のダイオキシン類のスクリーニング法
 魚試料における定量下限値を設定するため,前処理操作における操作ブランクの有無を検討した.測定に対するマトリックスの影響を検討するため,ダイオキシン類を含む魚試料の前処理済み溶液をDMSOで段階希釈し,希釈測定時の定量値を初期濃度と比較した.さらに,添加回収試験を行い,本法が前処理後のダイオキシン類を正確に定量できるか検討した.測定の再現性について検討するため,同一の魚試料の分析を複数回行った.市販魚試料(20試料)について本法と従来法(HRGC/HRMS分析)で測定し,ダイオキシン毒性等量値を比較した.

(3-2)動物性食品試料への高速溶媒抽出法(ASE)の応用
 粉末ミルクを試料として,ASEの使用条件を検討した.マグロ可食部の均一試料からASEと従来法(アルカリ分解・溶媒抽出法)を用いてダイオキシン類を抽出し,定量値を比較した.さらに種々の動物性食品18試料を分析し,クリーンアップスパイクの回収率の妥当性を検討した.

(3-3)魚油を使用した健康食品の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の汚染調査
 日本国内で2004〜2005年に市販されていた,魚油を使用した健康食品(4製品,5検体)を試料とした.1製品については,ロットによる汚染濃度の違いについて調査するため,異なる賞味期限が表示されている製品を試料とした.カプセルも含めて約5〜20 gを試料として,臭素化ダイオキシン類,臭素化ジフェニルエーテル及びポリ塩化ビフェニルを分析した.

(4)臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質汚染調査
(1) 臭素系ダイオキシン類及び臭素化ジフェニルエーテル類について,中国四国地区(香川県),関東地区(埼玉県)で調製したトータルダイエット試料による摂取量調査を行った.試料を凍結乾燥した後,高速溶媒抽出装置で抽出し,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」に準じた方法で臭素化ダイオキシン類及び臭素化ジフェニルエーテル類を分析し,一日摂取量を算出した.また,個別食品として東北地方(宮城県)の魚10試料(スズキ,サケ各5試料)についてトータルダイエット試料と同様の方法で分析を行った.
(2) テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)については,2002年に福岡県で調製したトータルダイエット試料(第1群から第13群まで)を再分析した.また,九州,中国・四国,中部の3地域で2004年9月から2005年2月までに採取した各15件計45件の魚介類を分析した.さらに,環境試料として,有明海,博多湾,洞海湾の底質を分析した.何れの試料も,メタノールでTBBPAを抽出し,ヘキサンで洗浄した後,ジクロロメタンに転溶し,エチル化,フロリジルカラムで精製した後,HRGC/HRMSで測定した.

C.結果及び考察
(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査
 ダイオキシン類の国民平均一日摂取量は1.20 ± 0.66 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.47〜3.56 pgTEQ/kgbw/day)であった.これは,平成16年度以前の5年間(平成12〜16年度)の調査結果(それぞれ1.45,1.63, 1.49,1.33,1.41 pgTEQ/kgbw/day)に比べて低かった.最大値は3.56 pgTEQ/kgbw/dayであり,過去6年間で最高であったが,この場合も日本における耐容一日摂取量(4 pgTEQ/kgbw/day)よりは低かった.なお,同一機関で調製した試料であってもダイオキシン類摂取量には1.4〜5.3倍の差が認められた.

(2-1)個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
 魚介類41試料を分析した結果,最高はさめの6.141 pgTEQ/gであり,比較的濃度が高かったのは,さわら(2.523及び1.829 pgTEQ/g),めかじき(2.416及び4.034 pgTEQ/g)などであった.ダイオキシン類に占めるCo-PCBsの割合は,平均66.7%であった.
 平成13〜17年度調査の各魚介類の分析データ,平成14〜16年農林水産統計による10都市中央卸売市場における水産物魚種別の市場入荷量及び国民栄養調査の魚介類摂取量を用いて,ダイオキシン類の一日摂取量を試算したところ,71.9 pgTEQであった.体重を50 kgとして体重あたりの摂取量をもとめると,1.44 pgTEQ/kgbw/dayであり,トータルダイエット調査から得られたダイオキシン類摂取量と概ね一致した.

(2-2)植物を利用した汚染浄化技術
 形質転換株(MRP1)と野生株(Wild)のタバコを2,4-D添加培地で培養したとき,両タバコとも培養4日目で完全に枯れ,抵抗性の差は認められなかった.Alachlorに対しては,MRP1タバコに僅かな抵抗性が認められた.Atrazineに対しては,MRP1タバコに明らかな抵抗性が認められた.一方,培地中の各農薬濃度を測定した結果から,3農薬とも両タバコ間に顕著な吸収除去能の差は認められなかった.

(3-1)PCB ELISAとAhイムノアッセイによる市販魚中のダイオキシン類のスクリーニング法
 PCB ELISAでは希釈操作による定量値の大きな変化は認められず,マトリックスの影響は小さいと考えられた.一方,Ahイムノアッセイではマトリックスの影響が疑われた.前処理済みの抽出液に対する添加回収試験では,PCB ELISA92.0〜114.7%,Ahイムノアッセイ90.4〜99.4%の良好な回収率が得られた.異なる日に分析した時の変動係数は,PCB ELISAでは0.5〜4.9%,Ahイムノアッセイでは19.9〜23.4%であり,本法の繰り返し測定の精度は良好であった.PCB ELISAの測定濃度と従来法によるモノオルトPCBs毒性等量濃度の比較では,良好な相関係数(r = 0.99)が得られた.また,Ahイムノアッセイの測定濃度とノンオルトPCBs及びPCDD/Fsの毒性等量濃度の比較でも,良好な相関係数(r = 0.97)が得られた.
 以上の結果から,PCB ELISAとAhイムノアッセイの組み合わせにより,市販魚中のダイオキシン類を良好に測定することが可能であった.本法は,従来法と良い相関が得られたことから,魚中のダイオキシン類の毒性等量濃度を推測することが可能であると考えられる.従来法に比べ安価で迅速に定量結果が得られることから,スクリーニング法として有用であった.

(3-2)動物性食品試料への高速溶媒抽出法(ASE)の応用
 粉末ミルクを試料としたとき,ASEによる抽出効率が高い条件は,アセトン−n-ヘキサン(1:1)混液,150℃であった.
 マグロ試料を用いてASEと従来法であるアルカリ分解・溶媒振とう法によるダイオキシン類定量値の比較を行った結果,ASEによる定量値の再現性は良好で,各異性体の定量値は従来法とほぼ同等あった.さらに動物性食品(18試料)におけるASE使用時のクリーンアップスパイク(29異性体)の回収率は41〜108%であり,「食品中のダイオキシン類及びコプラナーPCB測定方法暫定ガイドライン」の要求事項(40〜120%)に適合していた.ASEでは短時間(約30分)でダイオキシン類を抽出でき,抽出に用いる溶媒量を少量化(約120 mL)できた.以上の結果から,ASEは動物性食品試料におけるダイオキシン類の迅速かつ精密な抽出方法として使用することが可能と考えられた.

(3-3)魚油を使用した健康食品の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の汚染調査
 臭素化ダイオキシン類異性体はほとんど検出されず,2製品で1.2 pg/g及び1.3 pg/gの2,3,7,8-TeBDFが検出されただけであった.臭素化ジフェニルエーテル及びポリ塩化ビフェニルは,全ての製品から検出された.特にイタチ鮫肝油製品では,賞味期限の異なる2ロットを調査した結果,他の製品よりも高濃度の臭素化ジフェニルエーテル(150,000 pg/g及び210,000 pg/g)とポリ塩化ビフェニル(10,000 ng/g及び18,000 ng/g)が検出された.
 本研究の臭素化ダイオキシン類,臭素化ジフェニルエーテル及びポリ塩化ビフェニルの調査結果と,これらの4製品を含む健康食品(30製品)について別途調査した塩素化ダイオキシン類(PCDD/Fs及びCo-PCBs)による調査結果を合わせて,魚油を含む健康食品摂取によるリスク評価を行った.その結果,ほとんどの製品では摂取により臭素化ダイオキシン類及び塩素化ダイオキシン類に対するリスクを大幅に引き上げる可能性は低いと考えられるが,ごく一部の製品では高濃度の塩素化ダイオキシン類を含む場合があり,長期的な摂取には注意が必要と考えられた.

(4)臭素化ダイオキシン及びその関連化合物質汚染調査
(1) 臭素化ダイオキシン類(PBDD/DFs,MoBrPCDDs)及び臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)について 2地区で調製したトータルダイエット試料による摂取量調査を行った結果,第4群(油脂類)から1,2,3,4,6,7,8-HpBDFが0.14 pg/g及び0.17 pg/g検出されたが,他の群からは臭素化ダイオキシン類は検出されなかった.臭素化ジフェニルエーテルはすべての群から検出された.総PBDEs濃度は第4群,第10群,第11群の順に高かった.臭素化ダイオキシン類の一日摂取量は平均0.00034 pgTEQ/kg/day(ND=0として),臭素化ジフェニルエーテル類の一日摂取量は平均2.48 ng/kg/dayであり,地区による差はほとんど見られなかった.
 東北地方の魚10試料(サケ,スズキ)の分析では,PBDD/DFsはすべての検体でNDであったが,PBDEsがすべてから検出された.主要な異性体は4臭素化体の#47であった.
(2) TBBPAの微量分析法の確立では,今回用いたTBBPAの分析法について,イワシを用いた再現性試験(n=5)を実施した結果,定量値0.142 ng/g,RSDは2.02%と良好であった.
 平成16年度に報告したトータルダイエット試料中のTBBPA分析の検出限界値は0.1 ng/gであった.その時の分析結果では,TBBPAの一日摂取量は18.8 ng/day(ND=0),110.2 ng/day(ND=LOD/2)であった.平成17年度は検出限界が0.01 ng/gの分析法を確立して,再調査した結果,56.5 ng/day(ND=0),64.4 ng/day
(ND=LOD/2)と算出された.
 国内3地域の魚介類45件の分析を行った結果,TBBPA濃度は平均0.02 ng/g(範囲<0.01〜0.11 ng/g)であった.参考として,福岡県周辺海域底質のTBBPAを調査した結果,0.02 〜0.33 ng/g-dryであり,九州海域底質中のTBBPA濃度は今回の九州の魚介試料中TBBPA濃度と見かけ上,同レベルであった.

D.結論
 1. トータルダイエットによる摂取量調査の結果,ダイオキシン類の一日摂取量は,1.20 ± 0.66 pgTEQ/kgbw/dayであった.
 2. 魚介類試料の分析値及び魚種別市場入荷量等から試算したダイオキシン類摂取量は1.44 pgTEQ/kgbw/dayであった.
 3. 形質転換タバコと野生タバコの3農薬に対する抵抗性と吸収除去能を検討した結果,alachlor,atrazineに対して形質転換タバコで抵抗性が示されたが,吸収除去能には差が認められなかった.
 4. PCB ELISAとAhイムノアッセイによる市販魚中のダイオキシン類のスクリーニング法を開発した.従来法と比較し数分の一の時間及び費用で分析可能であり,スクリーニング法として有用であった.
 5. 高速溶媒抽出法(ASE)の動物性食品試料への適用を検討した結果,適用可能であった.
 6. 魚油を使用した健康食品から臭素化ダイオキシン類異性体はほとんど検出されなかった.臭素化ジフェニルエーテル及びポリ塩化ビフェニルは全製品で検出された.
 7. トータルダイエットによる摂取量調査で,臭素化ダイオキシン類はほとんど検出されず,一日摂取量は0.00034 pgTEQ/kg/ dayであった.臭素化ジフェニルエーテルは全群から検出され,一日摂取量は2.48 ng/kg/dayであった.臭素化ジフェニルエーテルは魚試料(サケ,スズキ)すべてから検出され,主要な異性体は4臭素化体の#47であった.また,難燃剤のテトラブロモビスフェノールAの魚介類(45件)汚染濃度は0.02ng/g(範囲<0.01 ng/g〜0.11 ng/g)であった.

E.健康危険情報
 なし

F.研究発表
1.論文発表
1)Tsutsumi T, Amakura Y, Ashieda K, Okuyama A, Tanioka Y, Sakata K, Kobayashi Y, Sasaki K, Maitani T.: Screening for dioxins in retail fish using a combination of a PCB ELISA and an aryl hydrocarbon receptor immunoassay (Ah-immunoassay)., Organohalogen Compounds, 67, 42-45, 2005.
2)Nakagawa R, Ashizuka Y, Hori T, Tobiishi K, Yasutake D, Sasaki K: Determination of brominated retardants in fish and market basket food samples of Japan., Organohalogen Compounds , 67, 498-501, 2005.

2.学会・協議会発表
1) 堤智昭,天倉吉章,芦枝和典,奥山亮,坂田一登,谷岡洋平,小林康男,佐々木久美子,米谷民雄:AhイムノアッセイとPCB ELISAによる市販魚中ダイオキシン類のスクリーニング法.第14回環境化学討論会(2005.6)
2) 堀 就英,飯田隆雄,中川礼子,芦塚由紀,飛石和大,堤 智昭,佐々木久美子:食品中ダイオキシン類分析における高速溶媒抽出の適用について.第42回全国衛生化学技術協議会年会(2005. 11).
3) 芦塚由紀,中川礼子,堀 就英,安武大輔,佐々木久美子:魚介類個別食品における臭素化ダイオキシン及びその関連化合物の汚染実態調査.第42回全国衛生化学技術協議会,東京都,11月17-18日,2005年.
4) 芦塚由紀,中川礼子,堀 就英,安武大輔,佐々木久美子:魚介類個別食品における臭素化ダイオキシン及びその関連化合物の汚染実態調査.第8回環境ホルモン学会,東京都,9月27-29日,2005年.

G.知的財産権の出願,登録
 なし

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