厚生労働科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)
分担研究報告書


(2) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査
(2-1) 個別食品のダイオキシン類汚染実態調査

分担研究者 天倉吉章 国立医薬品食品衛生研究所

研究要旨
魚介類及びその加工品41試料について,PCDDs 7種,PCDFs 10種及びCo-PCBs 12種の計29種のダイオキシン類濃度を調査した.その結果,最も濃度が高かったのは,さめの6.141 pgTEQ/g次いでめかじきの4.034 pgTEQ/g,まぐろの3.932 pgTEQ/gであった.
 平成13〜17年度の魚介類試料の分析値,農林水産統計月報に掲載された平成14〜16年の10都市中央卸売市場における水産物魚種別の市場入荷量,及び国民栄養調査の魚介類一日摂取量から,魚介類からのダイオキシン類摂取量の推定を試みた結果,平均摂取量は1.44 pgTEQ/kgbw/dayと推定され,トータルダイエットによる摂取量調査結果と概ね一致した.

研究協力者
(財)日本食品分析センター
 丹野憲二,野村孝一,柳 俊彦,河野洋一
国立医薬品食品衛生研究所
 佐々木久美子,堤 智昭

A.研究目的
 トータルダイエット法によるダイオキシン類の摂取量調査結果から,ダイオキシン類の摂取源は主に魚介類であることが分かっている.そこで,本研究では食品のダイオキシン類汚染実態を把握し,個人別暴露量を正確に評価するためのデータ蓄積を目的に,魚介類及びその加工品について,ダイオキシン類含有量を調査した.

B.研究方法
1.試料
 調査対象食品は,国内産生鮮魚介類(20試料),輸入魚介類(11試料)及び魚介類の国産加工品(10試料)であり,東京,神奈川及び北海道の小売店で平成17年度に購入した.

2.試験項目及び検出限界
 WHOが毒性等価係数(TEF)を定めた下記のPCDDs 7種,PCDFs 10種及びCo-PCBs 12種の計29種を分析対象とした.
 ( )内の数字は検出限界(pg/g)を示す.

PCDDs
2,3,7,8-TCDD,1,2,3,7,8-PeCDD(0.01)
1,2,3,4,7,8-HxCDD,1,2,3,6,7,8-HxCDD,1,2,3,7,8,9-HxCDD,1,2,3,4,6,7,8-HpCDD(0.02)
1,2,3,4,6,7,8,9-OCDD(0.05)
PCDFs
2,3,7,8-TCDF,1,2,3,7,8-PeCDF,2,3,4,7,8-PeCDF(0.01)
1,2,3,4,7,8-HxCDF,1,2,3,6,7,8-HxCDF,1,2,3,7,8,9-HxCDF,2,3,4,6,7,8-HxCDF,1,2,3,4,6,7,8-HpCDF,1,2,3,4,7,8,9-HpCDF(0.02)
1,2,3,4,6,7,8,9-OCDF( 0.05)
Co-PCBs
3,3',4,4'-TCB(#77),3,4,4',5-TCB(#81),3,3',4,4',5-PeCB(#126),3,3',4,4',5,5'-HxCB(#169) (0.1)
2,3,3',4,4'-PeCB(#105),2,3,4,4',5-PeCB(#114),2,3',4,4',5-PeCB(#118),2',3,4,4',5-PeCB(#123),2,3,3',4,4',5-HxCB(#156),2,3,3',4,4',5'-HxCB(#157), 2,3',4,4',5,5'-HxCB(#167),2,3,3',4,4',5,5'-HpCB(#189)(1)

3.試験方法
 ダイオキシン類の分析は,「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(厚生労働省,平成11年10月)に従った.

4.分析結果の表記
 測定結果は湿重量あたりの毒性等量(pgTEQ/g)で示した.検出限界以下の異性体濃度はゼロとして計算した.

5.ダイオキシン類摂取量の推定
 魚介類試料の分析値と,各魚介類の摂取量から,ダイオキシン類摂取量の推定を試みた.
 魚介類試料の分析値として,平成13〜15年度に実施された厚生労働科学研究費補助金研究事業「ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究」(主任研究者平成13年度:豊田正武,平成14,15年度:佐々木久美子)の個別食品(水産物)の分析結果,本研究の平成16年度及び本年度の分析結果を用いた.国産品と輸入品を区別せずに全ての分析データを用いた.
 各魚介類の摂取比率に関するデータとして,農林水産統計月報に掲載された,平成14〜16年の10都市中央卸売市場における水産物魚種別の市場入荷量を用いた.本統計に示された魚介類の総入荷量に対する各魚介類の入荷量の比率を魚介類摂取の比率とした.
 魚介類の一日摂取量としては,分担研究「ダイオキシン類の摂取量に関する研究」で用いたものと同じ,平成13年度国民栄養調査(厚生労働省)に基づいた魚介類摂取量全国平均値(94 g)を用いた.

C.研究結果及び考察
1.魚介類の調査結果
 生鮮魚類31試料及び魚介類加工品10試料を分析し,結果を表1(PDF:43KB)に示した.
 1魚種につき2試料を分析したが,2試料の何れにおいても比較的濃度が高かったのは,さわら(2.523及び1.829 pgTEQ/g),めかじき(2.416及び4.034 pgTEQ/g)であった.最高値はさめの6.141 pgTEQ/gであったが,さめのもう1試料は0.788 pgTEQ/gであり,試料による差が大きかった.同様に,ぎんだら,まぐろ,ます,ずわいがに棒肉では,試料により濃度が大きく異なった.
 ダイオキシン類に占めるCo-PCBsの割合は,全試料平均では66.7%であったが,赤貝では,19.4%,19.7%,いいだこでは28.2%,41.4%,かきでは44.8%と,Co-PCBsの比率がPCDD/Fsより低かった.平成16年度に調査したえびでも同様にCo-PCBsの比率がPCDD/Fsより低かった.一般に魚介類ではCo-PCBsの比率が高いが甲殻類,貝類ではPCDD/Fsの比率が高い傾向が認められた.
 EUではPCDD/Fsに4 pgTEQ/gの基準を設けている.本年度調査した魚介類から検出されたPCDD/Fsの最高値はさめの2.040 pgTEQ/gであり,EUの基準を超えたものはなかった.

2.ダイオキシン類摂取量の推定
 表2(PDF:61KB)に推定の結果を示した.
 10都市における水産物魚種別市場入荷量の入荷量比率に応じて国民が魚介類を摂取していると仮定して,平成13年度国民栄養調査による魚介類の一日摂取量の平均値(94 g)に基づいて各魚介類の摂取量をもとめた.
 平成13〜17年度調査の各魚介類(国産品,輸入品を含む)の分析データの最小値,平均値及び最大値を求め,それぞれに各魚介類の摂取量を乗じてダイオキシン類摂取量を求めた.
 ダイオキシン類摂取量の合計値は,分析データの最小値を用いた場合は25.8 pgTEQ,平均値を用いた場合は71.9 pgTEQ,最大値を用いた場合は148.9 pgTEQであった.
 日本人の体重を50 kgとして体重あたりの摂取量をもとめると,それぞれ,0.52,1.44,2.98 pgTEQ/kgbw/dayとなる.
 計算に用いた10都市における水産物魚種別市場入荷量の統計には,入荷量が少ない魚介類は含まれておらず,また,市場を通らない魚介類の流通もあると考えられるため,国民の魚介類摂取の実態を正確に反映しているとはいえない.しかし,代表的な魚介類は含まれており,ダイオキシン類濃度に関して魚種を恣意的に選択していないので,ダイオキシン類摂取量推定に使用できると考えられる.全魚種の中では,ぶり類の入荷量が最も多く,全体の8.4%であった.
 本年度の分担研究「ダイオキシン類の摂取量に関する研究」によると,トータルダイエット調査によるダイオキシン類の平均摂取量は1.20 ± 0.66(範囲0.47〜3.56)pgTEQ/kgbw/dayであり,そのうちの90.6%が魚介類からの摂取であった.トータルダイエット調査から得られたダイオキシン類摂取量と,魚介類の汚染実態調査から推定した摂取量は概ねよく一致した.

D.結論
1. 魚介類41試料について,ダイオキシン類濃度を調査した結果,最も濃度が高かったのは,さめの6.141 pgTEQ/g,次いでめかじきの4.034 pgTEQ/g,まぐろの3.932 pgTEQ/gであった.
2. 平成13〜17年度の魚介類試料の分析値,平成14〜16年の10都市中央卸売市場における水産物魚種別市場入荷量及び国民栄養調査の魚介類摂取量から,魚介類からのダイオキシン類摂取量の推定を試みた結果,平均摂取量は1.44 pgTEQ/kgbw/dayと推定され,トータルダイエットによる摂取量調査結果と概ね一致した.

【参考文献】
1) 厚生労働科学研究「ダイオキシンの汚染実態の把握及び摂取低減化に関する研究」平成13年度研究報告書,14年度研究報告書及び15年度研究報告書
2) 厚生労働科学研究「ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究」平成16年度研究報告書
3) 農林水産統計月報
http://www.maff.go.jp/toukei/geppo/geppo.html
水産物の市場入荷量及び市場平均価格(10都市中央卸売市場)
http://www.maff.go.jp/toukei/geppo/g056059.xls

E.研究業績
1.論文発表
 なし

2.学会発表
 なし

トップへ