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重要事例情報−分析集−



  事例327:(ファイティングによる人工呼吸器の接続外れ)

 発生部署(集中治療室) キーワード(人工呼吸器)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【4月】 発生曜日【水曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【16時〜17時台】
発生場所【CCU】
患者の性別【不明】 患者の年齢【不明】
患者の心身状態【薬剤の影響下麻酔中・麻酔前後】
発見者【他職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【5年0ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年1ヶ月】
発生場面【人工呼吸器】
(薬剤・製剤の種類)【】
発生内容【機器の点検管理ミス】
発生要因-確認【】
発生要因-観察【】
発生要因-判断【】
発生要因-知識【】
発生要因-技術(手技)【】
発生要因-報告等【】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【他のことに気を取られていた】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【多忙であった】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【施設構造物に関する問題】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
呼吸器の回路が患者のファインティングのため外れた。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
他の患者のところに行っていた。CCU内ではあったが、距離もありアラーム音が聞こえにくかった。また、手術直後の患者の所へ行っていたため気をとられいた。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
アラーム音に気をくばる。必要時は音量を最大にし、音が聞こえるようにする。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 人工呼吸器の回路が患者のファインティングによって外れたと書かれていますが、ファインティングは、人工呼吸器による呼吸のリズムが患者の呼吸に合わなかったり、患者が人工呼吸器に合わせて呼吸することを拒否した場合起こります。なぜそのようになるのか再度フィジカルアセスメントが必要になりますので、人工呼吸器の設定と患者の病態が記載されているとより具体的対策が立案できると考えます。

 ■改善策に関するコメント
 人工呼吸器は、生命維持装置であり、使用中はチームで対応していくことが重要です。
 吸引や吸入等の処置に伴い、何度となく接続を外すこともあり、人工呼吸器の設定によっては、内圧が高くなりその結果回路との接続部分で外れることもあります。外れると生命に直結するからこそアラーム装置がついています。外れることもあることを考えて、外れても直ちに発見でき、大事に至らない管理をしていくことが重要と考えます。
 また、報告の内容を見ますと16時〜17時台に他の患者のところへ行っている間に起きています。多忙であったことも書かれています。この状況は業務上あり得ることです。看護師一人では責任を負えないことと考えます。その場合、医師・看護師・臨床工学技士が病院の安全保障の機能として連携して対応できるシステムを構築することが鍵と言えます。

人工呼吸器装着患者のフィジカルアセスメント
 ファインティングの原因を特定し、呼吸のリズムが合わないのであれば、設定を医師と検討します。動脈血ガス分析結果、胸部X-Pなどから総合的に判断します。また機器の不具合の場合も考慮して点検します。

人工呼吸器使用中の管理
 人工呼吸器を使用する前の準備、使用中の点検、日頃のメンテナンスを誰が、いつ、どのように行うのか、業務の分担を明確にし、安全管理のためのマニュアルとして明文化しておきます。特に看護師は具体的に業務遂行できる形、たとえばチェックリスト形式にし、いつチェックするか明確にしておくことも効果的な方法です。
 可能であれば人工呼吸器の管理・保守点検は中央管理とし、運用手順、マニュアルは統一しておくことが望まれます。

人工呼吸器装着患者の看護管理
 人工呼吸器を装着する患者は集中治療室とは限りません。むしろ一般病棟で時々使用される場合のほうが、リスクは高くなります。知識と技術が伴わない場合は、看護管理者は看護師に知識・技術の確認を行う必要があると考えます。また、病室はどこにいてもアラーム音が聞こえるところとし、アラーム音量も設定します。そしてチームで対応することを前提に医師・看護師・臨床工学技士、気付いたら誰でも対応できるように体制を整えることが重要です。

その他の情報
 人工呼吸器の機種によっては、アラーム音の調整ができないものもあります。その場合可能であれば他のモニター(サチュレーションモニター、心電図モニターなど)を併用することも有効な方法です。
 また、人工呼吸器に接続してアラームがなったら看護師の携帯する器械に知らせる“無線アラームシステム”が臨床工学技士により開発され、フジ・レスピロニクス(株)より発売されています。

【参考資料】
「人工呼吸器ケアマニュアル」、渡辺 敏・中村 恵子監修、学習研究社、2003,4,15
「医療スタッフのための人工呼吸療法における安全対策マニュアルVer.1.05」、日本臨床工学技士会、H13.11.15



 事例329:(人工呼吸器回路の接続ミス)

 発生部署(入院部門一般) キーワード(人工呼吸器)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【4月】 発生曜日【火曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【16時〜17時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【68歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【その他】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【19年月数不明】
当事者の部署配属年数【年数不明1ヶ月】
発生場面【人工呼吸器】
(薬剤・製剤の種類)【】
発生内容【組立】
発生要因-確認【】
発生要因-観察【】
発生要因-判断【】
発生要因-知識【知識が不足していた】
発生要因-技術(手技)【】
発生要因-報告等【】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【】
発生要因-教育・訓練【教育・訓練が不十分だった】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
回路交換時、呼気弁と蛇管の接続場所を間違えているのに気付かず取り付けてしまう。2人で行い、内圧も確認する。翌日接続ミスを指摘される接続し直す。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
いつも使用している呼吸器じゃなかった。呼気弁も初めてのものだった。交換後他者の確認がない。接続に関する、表などを使用していない。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
回路交換後、表で照合しながら確認を行う。詳細な表を作成する。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 「呼気弁と蛇管の接続場所を間違えた」と記入されていますが、間違えて接続した場所の記入があると状況が判断しやすくなります。
 要因に「いつもの呼吸器じゃなかった、呼気弁も初めてのものだった」とありますが、いつもと異なる呼吸器を使用するに至った理由や人工呼吸器の管理方法等の記載があると改善策を立案しやすくなります。

 ■改善策に関するコメント
 人工呼吸器の接続(組立)間違いは比較的多いエラーの一つです。これは回路の構成部品が規格化され径が同一のためいろいろな接続が可能な事によります。しかし通常誤接続の場合は、流路が保てずアラームにより誤接続に気がつくケースがほとんどです。本例のようにアラームが鳴らず人工呼吸器は正常動作し発見しにくい誤接続には、人工呼吸器の出口で呼気側と吸気側の接続間違いが生じた場合があります。そこで本例は呼気側と吸気側の接続間違いと推定いたします。
 この様なエラーは前記しましたように非常に発見しにくい特徴を持っています。しかし患者には、加温加湿器を経由しないガスが送り込まれるため長時間になると影響が出てきます。回路取り付け時に十分な確認を行うことと早期発見が重要になりますのでチェックリストを用いた確認が必要となります。また、ディスポーザブル回路を用いると呼気側と吸気側の色が異なるため誤接続予防と早期発見に効果的です。

日常使用されていない機器使用の場合
 日頃使用に慣れた機器を使用することが望ましいのですが、やむをえず不慣れな機器を使用する場合には、事前に研修を受けるか使用に熟知したスタッフの立ち会いの元に、準備や回路交換を行う事がよいと思われます。

回路の構成図
 人工呼吸器の回路は機種毎や施設によりに少しずつ接続が異なるために回路の接続模式図を機器に常備し一目でわかるようにしておくことも有効な方法です。また、方向等がわかりにくい構成品は写真の併用によりリアルな接続図となりエラー防止となります。

人工呼吸器の管理方法
 人工呼吸器の回路は使用後洗浄滅菌され次の使用に備えます。しかし使用後各構成部品を分解し洗浄するため一部の部品が失われると滅菌後の再使用の際に組立が出来ない事になります。そこで一時消毒洗浄後にチェックリストにより構成部品をチェックする事が重要になります。
 機器の中央管理化が行われ機器の統一を行うことで操作性が均一化し操作間違いが激減いたします。また、中央管理化により、回路交換時は臨床工学技士等の専門スタッフが立ち会うか、既に人工呼吸器に回路を組み立てたものを用意し人工呼吸器ごと交換することが可能となり回路のセットミスが発生しなくなります。



 事例366:(手術前準備としての確認項目)

 発生部署(手術部門) キーワード(その他)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【5月】 発生曜日【水曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【10時〜11時台】
発生場所【手術室】
患者の性別【不明】 患者の年齢【不明】
患者の心身状態【麻酔中・麻酔前後】
発見者【同職種者】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【16年2ヶ月】
当事者の部署配属年数【10年2ヶ月】
発生場面【術前準備】
(薬剤・製剤の種類)【】
発生内容【診察・治療等のその他のエラー】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【】
発生要因-判断【】
発生要因-知識【】
発生要因-技術(手技)【】
発生要因-報告等【】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【作業マニュアルの不備】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【説明が不十分であった】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
手術で麻酔がかかった後に患者がカツラをつけていることが解った。看護師申し送り書には記載なく、担当医も知らなかった。カツラは患者の髪と紐で結ばれており、金属の留め金がついていたが取り外しが出来なかった。執刀医と確認し、電気メスを使用するため火傷を起こさないよう金属部にガーゼを巻き手術を開始した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
患者さんの髪は医療スタッフ誰もがカツラとは思っていななった。火傷のリスクについて理解していなかった。手術入室チェック項目にはへアピンとあるが、カツラと結びついて理解されていず、チェックされなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
手術入室チェック項目にカツラ等のピンと入れる事にした。患者さんにはオリエンテーション資料に付け加え、さらに口頭でチェックする事とした。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
具体的内容に関して
 予定手術名と診療科が明記されていると、電気メス使用による危険範囲及びカツラの除去の必要性が理解しやすくなります。

対応策に関して
 取り外しが困難であると判断された時、「安全の視点」から家族へカツラの取り扱いに関して確認されたのか、またガーゼを巻いて手術を行うことの承諾は得られていたのか、対応策は安全を裏付ける根拠があったか等の記載があると良いでしょう。

改善策に関して
 オリエンテーション資料に付け加えられた内容とは具体的にどのようなものか、口頭でチェックするとは、カツラか否かと問うことなのか、具体的な記載があると良いでしょう。

 ■改善策に関するコメント
 かつらには、金属の留め具を用いて自分の髪の毛にはさんで固定するものや、自分の髪の毛に編み込んだり、接着剤で固定するもの、また自分の髪の毛がない人の場合は両面テープを用いて固定するものなどの種類があります。
 かつらの普及率や種類別の構成比については統計的なデータが見当たりませんが、自分で着脱できるメリットから金属の留め具があるものが一般的に普及していると言われています。
 手術前の準備は、手術を安全に行うために欠くことの出来ないものであり、滞りなく見落としなく実施されなければなりません。この事例はまれではありますが貴重な情報として全部署で共有し、手術前にかつらなど金属類のチェックができるようオリエンテーション、チェックリストの見直しを行うなどして認識を深めることが大切でしょう。見直しの視点として以下のような点が挙げられます。
1.医療の安全は医療者と患者・家族との協働である
安全な医療を行なうためには患者・家族の理解と協力は不可欠です。そのためにもオリエンテーションの内容については、医療者側の一方的なものではなく、項目によってはなぜ必要であるかの理由を書き記し、説明することが大切でしょう。理解も深まり患者・家族からの積極的な質問あるいは患者からの申し出等の協力も得られると考えます。
2.倫理上の配慮をする(尊厳を傷つけない配慮)
身体に装着する物のうち、金属類の危険性の観点からの説明、あるいは手術中の何らかの原因で汚染や破損もあり得ると考えれば、その説明を行なった上ではずしていただくことも必要でしょう(ただし、すべてのカツラに金属性のものが使われているとは限りません)。また場合によっては取り外す時期・場所などについて要望を聞くことや、同意を得ておくことも必要でしょう。
3.医療行為上の危険の回避(熱傷の防止)
電気メスによる熱傷は、2点の金具が金属で結ばれていると起こりやすく、また発汗などで結露があると通電が起こって熱傷が起こりやすいと言われています。機器を使用する時、どのような状況であっても、危険の回避には最大限努力をすることが必要でしょう。



 事例368:(検査手順の規則化及び情報管理の不徹底によるMRI検査手技・判定技術の間違い)

 発生部署(放射線部門) キーワード(組織)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【4月】 発生曜日【火曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【4時〜5時台】
発生場所【放射線撮影室・検査室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【57歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【診療放射線技師】
当事者の職種経験年数【15年1ヶ月】
当事者の部署配属年数【15年1ヶ月】
発生場面【MRI】
(薬剤・製剤の種類)【】
発生内容【検査手技・判定技術の間違い】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【】
発生要因-判断【】
発生要因-知識【】
発生要因-技術(手技)【】
発生要因-報告等【】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【多職種間の連携不適切】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【】
発生要因-教育・訓練【マニュアルに不備があった】
発生要因-患者・家族への説明【説明が不十分であった】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
救急MRで頚部の血管描出依頼があった。撮影には造影剤の使用が必要であったと思われたので主治医に連絡し了解をえた。この撮影にはダイナミック法が必要であったが担当医師、担当看護師への連絡をおこたった為、通常の造影剤の注入が医師によってなされた。その結果、依頼に対する情報が提供されないため検査が中止となり担当技師が患者さんに謝罪したが、中止となった経緯の説明不足により患者さんが立腹された。その後、病棟主治医より患者さんにたいしての謝罪依頼があり技師長が謝罪し納得された。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
四月の異動まで熟練の医師、看護師がおり造影剤使用時のノウハウがあった。しかし、異動により担当者が変わったのに、技師は検査におけるノウハウを、関係職種の人達が理解していると思い込み、伝達しなかった事が要因であった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
血管撮影やTV検査等でおこなわれている検査内容の声かけを全撮影部門でおこなうように通達した。思いこみの打破に努める。チーム医療の適正化を図るために、有機的連携に努める。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 時間経過にそって簡潔に書かれていると思います。以下の点についてさらに記述すると具体的な改善策をたてることが容易になるでしょう。
 まず初めに、「撮影には造影剤の使用が必要であったと思われたので主治医に連絡し了解を得た。」とありますが、主語は放射線科の医師でしょうかそれとも放射線技師でしょうか。また、患者に検査指示が出てから検査が終了し主治医にデータが届くまでどのようなシステムになっているのでしょうか。さらに要因の中の「ノウハウ」や改善策の中の「声かけ」と表現されているものは具体的にどのような内容を指し示しているのでしょうか。同時に「確認不足」、「マニュアルの不備」とありますが何を媒体に何を確認すれば今回のような事例が生じなかったのでしょうか。

 ■改善策に関するコメント
検査手順の規則化と情報管理の徹底
 これまでの業務のありかたが、「四月の異動まで熟練の医師、看護師がおり」という記述から、造影剤使用時の確認作業においてあいまい、あるいは長年の慣習で行われていた可能性が考えられます。「ひとはエラーをおこすもの」という観点で考えれば、個人の経験や努力に頼ることには限界があります。異動により担当者が変わっても安全に検査が実施できるような仕組みを作る必要があると考えます。
 要因に「マニュアルの不備」とあるため何らかのマニュアルが存在していたと考えられますが、経験の有無に関わらず他職種が共有できる具体的な内容になっているかという観点から見直してみましょう。たとえば、当該の放射線技師は、主治医には検査手技の確認もあり連絡をとっていますが、担当医師、担当看護師には、「分かるだろう」と思い込み情報伝達をしなかったため今回のヒヤリハットが発生しています。この際の連絡方法においても口頭で連絡するだけでなく、オーダー画面やオーダー用紙等の媒体を介し確認できるようなシステムにする必要があるでしょう。また、異動者へのオリエンテーション内容についても再確認する必要があるかもしれません。さらに、マニュアルの見直しにあたっては、個々の職種毎ではなく全撮影部門に関わるすべての職種が、定期的にカンファレンス等の機会を持ち安全の観点から評価し常に見直していけるようなシステム作りが重要でしょう。

責任体制の明確化
 「撮影には造影剤の使用が必要であったと思われたので主治医に連絡し了解を得た。」という記述から、当該病院では、検査方法については、放射線技師が判断し主治医に承諾を得るシステムになっているようです。これらの手順が規則化されていることと、造影剤の投与により患者の状態が急変した場合や今回のように検査が中止になった等の患者の診療全般に関する管理責任者は誰で、どのような連絡経路が取られるのかといったことも規則化しておくことも重要です。
 当事者の方は経験15年の経歴をもつ方であり医療安全を推進していく存在となり得る人材と思われます。しかしながら、その経験ゆえの思い込みにより今回のヒヤリ・ハットが生じています。撮影に関わる職種の管理者は、「自分の管理する職場で何が起きているのか」、また不安全な事象が生じた際にその場その場で対応するのではなく、システム的に改善するリスクはないかキャッチできる感性や組織風土の醸成を念頭におき、医師、看護師、薬剤師だけでなく病院レベルで教育していくことが必要でしょう。

職員の健康管理の観点からの対策
 「血管撮影やTV検査等でおこなわれている検査内容の声かけを全撮影部門でおこなうように通達した」という記述から、放射線技師が1検査室に1人配置されているのではなくいくつかの部屋をかけ持ちして検査していることも推測されます。また、本件発生時間帯が4時〜5時台というところより午前であれば当直勤務による疲労感に加え、「緊急MR」ということからも精神的なプレッシャーが高い状態にあったことも推測されます。このような精神的プレッシャーが本来の手順を省略化し情報が欠落しやすい状況にあったことも考えられます。場合によっては重度の疲労を招きかねない勤務シフトではなかったか、あるいは長時間勤務における休息時間の確保がなされていたかという点から見なおすことも必要でしょう。



 事例420:(開口障害のある患者の口腔ケア)

 発生部署(入院部門一般) キーワード(清潔)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【  】 発生曜日【   】曜日区分【  】発生時間帯【    】
発生場所【    】
患者の性別【  】 患者の年齢【  】
患者の心身状態【    】
発見者【    】
当事者の職種【   】
当事者の職種経験年数【   】
当事者の部署配属年数【   】
発生場面【          】
(薬剤・製剤の種類)【          】
発生内容【          】
発生要因-確認【       】
発生要因-観察【       】
発生要因-判断【       】
発生要因-知識【       】
発生要因-技術(手技)【       】
発生要因-報告等【       】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【       】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【               】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
口腔内吸引時舌のか皮に白い虫が付いているのを発見した。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
開口障害があり、口腔ケアが不十分だった。含嗽等も、誤飲の恐れがあり実施していなかった。いつも口腔が開いている。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
口腔ケア時舌や磨きにくい所も念入りに行う。



専門家からのコメント


 ■記入方法に関するコメント
 口腔内吸引時に、白い虫がついていた状況しか書かれていないため、具体的な改善策を立案するためにも以下の情報を記載されると良いでしょう。
 患者の病態(意識障害の有無、口腔摂取可能かどうか)
 口腔ケアの実施状況など
 白い虫が口腔内で発生したのか、外から飛んで来たのかでは、講じる対策が異なってきますので、できるだけ詳しく記載されることを望みます。

 ■改善策に関するコメント
 口腔ケアは、療養上の世話にあたり看護そのものです。患者にとっても心地よさ、そしてなによりも生活者としての人間らしさを提供するための基本的ケアであり、生活リズムを確立していく上でも重要なケアと考えます。特に開口障害のある患者の場合、高齢者、気管内挿管(気管切開)患者、意識障害患者、麻痺のある患者と同様に、口腔内細菌による呼吸器感染症のリスクが高く、口腔内ケアの適切な実施が予防の鍵となります。

白い虫の種類を同定する
 状況から推測しますと、白い虫が患者の口腔内で発生したのか、あるいは外から飛んできたのかによって対策が異なってきますので、虫の種類を同定する必要があると考えます。口腔内で発生したのであれば口腔ケアの見直しが必要ですし、どこからか飛んできたのであれば、療養環境の改善(場合によっては害虫処理)が必要となります。

開口障害のある患者の口腔ケア
 口腔ケアはセルフケア不足の患者に提供する基本的ケアであり、また感染予防の観点からも重要な看護と言えます。呼吸器感染症以外にも、特に保湿と湿潤、唾液の分泌促進効果によって、歯垢・歯石の蓄積を防止し、その結果う歯を予防します。う歯が進行すると骨髄炎になり、その細菌によっては敗血症、心内膜炎、心臓弁膜症を引き起こします。患者さんにとっても苦痛なことです。オーラルケアの重要性を看護師に教育し、看護の質の問題であることを充分認識した上で、看護実践の規準に位置付けて手順を示す必要性があると考えます。

 I.目的
1.口腔内の清掃およびう歯、口腔内の炎症、舌苔の予防。
2.口腔内の細菌の繁殖を防止し、二次感染を予防する。
3.口腔内を清潔にし、爽快感を与える。
 II.キーポイント
1.座位が取れれば座位を取り、充分に排液できるようにする。
2.ケア中の誤嚥に注意する。
 III.必要物品
1.殺菌効果としては、イソジンガ―グルが最も期待できるが、ヨード過敏症や長期間は使用できないため、洗口液(リステリン、モンダミンなど)を使用する。
2.吸引用カテーテルを準備しておく。
3.下を向かせて膿盆に排出させる。排液が不充分であれば吸引する。
4.可能であればブラッシングする。
歯ブラシによる歯磨きの効果として、食物残渣や歯垢の清掃作用のほか、機械的刺激による唾液の分泌促進という重要な働きがある。

座位が取れない場合
 患者の上体を15度ほど挙上させるか、やや側臥位にして背部をあて枕で支え安定させ、施行する。

ブラッシングできない場合
 綿棒を濡らして、歯牙、歯肉、口蓋、頬粘膜を拭く。

 病態によっては危険な場合があるので、主治医と相談しながらどこまでケアが可能か判断することが必要です。特に顎関節の脱臼には注意を要します。口腔外科があれば相談しながらケアを行うことも重要です。


【参考資料】
1)「なぜ?がわかる看護技術 LESSON」、大岡 良枝・大谷 真千子、学習研究社、2001,12
2)「慶應義塾大学病院看護部 標準看護計画 ND−3:セルフケアの不足看護実践の規準、III−14開口障害のある患者の口腔ケア」



 事例442:(自律哺乳児への授乳忘れ)

 発生部署(集中治療室) キーワード(食事と栄養)


  ■事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【6月】 発生曜日【水曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【8時〜9時台】
発生場所【NICU】
患者の性別【女性】 患者の年齢【0歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【助産師】
当事者の職種経験年数【1年2ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年2ヶ月】
発生場面【経口摂取】
(薬剤・製剤の種類)【】
発生内容【その他給食・栄養のエラー、哺乳しわすれた】
発生要因-確認【確認が不十分であった】
発生要因-観察【】
発生要因-判断【】
発生要因-知識【】
発生要因-技術(手技)【】
発生要因-報告等【】
発生要因-身体的状況【          】
発生要因-心理的状況【          】
発生要因-システムの不備【          】
発生要因-連携不適切【          】
発生要因-勤務状態【          】
発生要因-医療用具【          】
発生要因-薬剤【          】
発生要因-諸物品【          】
発生要因-施設・設備【】
発生要因-教育・訓練【          】
発生要因-患者・家族への説明【          】
発生要因-その他【          】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【仮に実施されていても、患者への影響は小さかった(処置不要)と考えられる】
備考【                   】

 ■ヒヤリ・ハットの具体的内容
自律哺乳児の授乳を忘れて5時間あいてしまった。

 ■ヒヤリ・ハットの発生した要因
十分に確認できていなかった。

 ■実施したもしくは考えられる改善策
最終哺乳時間を確認できるように書き出しておく。



専門家からのコメント



 ■記入方法に関するコメント
 この事例には具体的な内容が不足しています。例えば、自律哺乳児の状況やヒヤリ・ハットの発生状況、発生要因、児に予測される障害などが記載されていません。例えば、自律哺乳と時間哺乳の確認を怠ったとか、授乳時間と緊急に行わなければならない処置が重なったとか、他の入院時が急変し担当が対応できなかったとか、児が啼泣しなかった又は啼泣したが多忙で見過ごしているうちに児が疲労のため入眠してしまい授乳間隔が空いたのか、哺乳時間が5時間空いたことにより児に予測される障害があるのかなども改善策の立案には有用な情報です。また、事例の背景となる児の成育状態(月齢・自律哺乳の適応状況・疾患など)、具体的な哺乳計画(哺乳の方法;直母・哺乳瓶・注入、時間)、実施の詳細(哺乳確認、記録、ケア情報の共有方法)が記載されていないと改善策が立てられません。
 この事例の発生時間帯は朝の引継ぎ時間に当たりますが、シフト間の引継ぎに関連して深夜勤・日勤どちらかの確認で気づいたのでしょうか。忘れていたことに気づいた経過も改善策のヒントになります。
 ヒヤリ・ハットの具体的な内容、発生要因は5W1Hで、通常の確認方法など詳しく記載しましょう。

 ■改善策に関するコメント
自律哺乳が徹底できるシステムづくり
 このような事例に遭遇した場合には、もう一度、施設でのケアを見直すとよりよい改善策が導かれるものと思います。
 自律哺乳とは、自律授乳ともいい、母乳またはミルクを赤ちゃんが欲する時に、欲するだけ飲ませることを言います。母乳育児を成功させるために、世界保健機関もこの方法を推奨しています。また、児にとっては、欲求があるときには満たされることで「基本的な信頼感」が培われる好機です。自律哺乳を実施するためには、哺乳間隔や哺乳回数を厳格に決めないで、児の生活リズムを考え、児の哺乳欲求や吸啜力に応じて柔軟に個別的な対応できるようなケアが必要です。
 特に、NICUでは時間哺乳児が多いのですが、その中で、自律哺乳児は、適応、消化能力、量、時間など検討して哺乳計画が決定されます。個別性を踏まえた哺乳計画を実施していくためには、同時に入院している児や施設の特徴、勤務体制などを踏まえて自律哺乳が徹底できるシステムをつくる必要があります。「WHO/UNICEF 母乳育児成功のための10か条」には、
 1.母乳育児についての基本方針を文書にし、関係するすべての保健医療スタッフに周知徹底しましょう
 2.この方針を実践する為に必要な技能を、すべての関係する保健医療スタッフにトレーニングしましょう (以下、略)
とあります。システムは文書にして関係するスタッフで共有できるようにしましょう。また、体重増加の状況や、一般状態の観察を行いながら欲求に合わせて授乳を行うことのできる総合力のあるスタッフの育成も重要です。

情報の共有
 新生児・乳児は言葉で自分の状態を表現することはできません。哺乳時間を忘れられても啼泣以外の方法での意思伝達はできません。よって、自律哺乳児個々の哺乳計画、つまり時間・量・担当者・哺乳準備・実施確認方法・2シフトにまたがる場合の責任、哺乳時の児の状態や哺乳量、哺乳終了時間などの記録と報告ルートなどをあらかじめ決めて置き、いつでも同じ方法で行われるようにマニュアル化します。そして、スタッフ間で情報を共有し、マニュアルにそって実施することを徹底します。
 また、時間哺乳児と自律哺乳児の区別を誰が見ても分かるように表示する、自律哺乳児の哺乳時間・哺乳終了が一目で分かる表示したりするなどして、担当者が何らかの事情で哺乳計画を実施できなかった時にも他のスタッフが気づいて対応できるようにしておくことが必要です。

【参考資料】
“Ten Steps to Successful Breastfeeding”、WHO/UNICEF、1989
http://www.unicef.org/newsline/tenstps.htm
「母乳育児成功のために〜だれでも知っておきたい母乳育児の保護、推進、支援〜産科医療施設の特別な役割」、日本母乳の会運営委員会編集・発行、1999
「カンガルーケア ぬくもりの子育て 小さなちゃんと家族のスタート」、堀内 勁・飯田 ゆみ子・橋本 洋子編、メディカ出版、1999
“Evidence for the ten steps to successful breastfeeding (Revised)”、Family and Reproductive Health, Division of Child Health and Development, World Health Organization、1998 [WHO/CHD/98.9]


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