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記述情報分析事例

記述情報分析事例
(26事例)



  ●与薬(内服・外用)
事例1024 (非定時薬の与薬ミス)
発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

 ■ 事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【 月】 発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【6時〜7時台】
発生場所【病棟のその他の場所】
患者の性別【  】 患者の年齢【 歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【     】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【3年2ヶ月】
当事者の部署配属年数【1年2ヶ月】
発生場面 【           】
(薬剤・製剤の種類) 【           】
発生内容 【           】
発生要因-確認 【           】
発生要因-観察 【           】
発生要因-判断 【           】
発生要因-知識 【           】
発生要因-技術(手技) 【           】
発生要因-報告等 【           】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【           】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【           】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ ヒヤリ・ハットの具体的内容
6/4午後、オンコールで尿道切開術予定の患者に、手術当日朝、アリスメット(痛風)、パルペジノン(降圧剤)内服の指示を受けていたが、与薬することを忘れてしまい、11:20の夜勤者での業務確認の段階で与薬忘れに気づく。6/4朝の血圧110/70mmhg(6:20)

 ■ ヒヤリ・ハットの発生した要因
与薬準備のワゴンとは別の場所に置いた。既往歴と持参薬の把握をしていなかった。

 ■ 実施したもしくは考えられる改善策
リーダー看護師、泌尿器科医師、麻酔科医師に報告し、少量の水で内服していただくように指示受け、アリスメット・パルペジノンの内服を、日勤スタッフに申し送り、師長に報告する。<改善策>・既往歴と持参薬の把握をする・内服しなかった場合のリスクについて、認識していなかった。・メモ板に色を変えるなどの工夫をし忘れないようにする。・バイタル測定時に、与薬箱持参し、内服していただく。



専門家からのコメント


 ■ 記入方法に関するコメント
1. 事例の概要の記載がなく、患者の背景が把握できないので患者に関連するコメントはできません。
2. 手術前に限らず患者の状態等に応じて与薬する場合(以後非定時薬という)の与薬はどういうシステムでなされているかの記載があれば、問題がどこにあるか考えやすくなります
3. 「11:20の業務確認で気づく」という記載ですが、夜勤業務の続きなのかなど、業務や夜勤者の状況の記載があると、視点を変えて原因や対策を考えるヒントになると思います。
4. 対策で既往歴と持参薬の把握をすると記載されていますが、与薬すべき薬剤は持参薬だったのでしょうか。また持参薬の取り扱いはどのような基準になっていますか。

 ■ 改善策に関するコメント
非定時薬の与薬で起こりやすいミスは、指示の見落とし、患者の非定時与薬に関する情報不足、与薬薬剤の効果や使用目的の認識不足あるいは知識不足、そして与薬者の責任の所在の不明確さ、業務の多忙による忘却等があります。
1. 非定時薬の指示
  非定時薬の指示受け(必要時使用目的の確認)、薬剤部へ連絡、薬剤が病棟へ届けられたか否かの確認、配薬準備、実施を誰が責任を持って行うかを決めておくことが必要です。
2. 患者の情報を知ったうえで看護をする
 対策にもあるように、受け持ち患者の情報を把握して看護をすることは基本的なことです。入院の目的や内服薬の有無を把握することはもちろんですが、受け持つ当日には、患者の治療・看護計画がどのようになっているのかを確認すること、さらに必ず患者のベッドサイドに行き、本日の予定を説明するといったことを習慣づけることが大切です。
3. 与薬薬剤の効果と目的を認識する
非定時薬の指示は、一時的な対症療法としての場合(例えば急に頭痛が出たときなど)と、次に行われる治療や処置を効果的に、かつ安全に実施する目的での与薬があります。特に後者の場合、治療や処置の効果を最大にするためには、薬剤の血中濃度の有効域に合致するように考えて与薬時間を設定すると考えます。この事例では手術に関連する患者の状態の変化はわかりませんが、仮に全身麻酔で手術を行う場合など、麻酔導入期、覚醒期には血圧の急激な変動が見られるため、降圧剤などの指示がある場合は特に注意を払い、アクシデントが発生しないようにしなければなりません。与薬の目的をまず十分認識することが必要でしょう。対策にも書かれていますが、この事例に限らず非定時の薬剤の指示についてはその意味を確認し、正確に与薬をすることが重要です。
当該病棟への新入職のためにも、こうした事例のような場合の与薬に対する学習会も必要です。
4. 非定時薬の与薬ルールと責任の明確化
非定時薬には、睡眠剤や下剤のように患者の状態に応じて定時処方に近い状態で与薬する場合と、患者の状態や医師の治療方針によって一時的に処方され与薬する場合があります。いずれにしても通常とは違う意味での与薬となりますから、指示を確認し、確実な与薬を実施することが重要で、そのためのルールつくりと明示、徹底が必要と考えます。
方法としては対策にも書かれていますが、一時的な与薬については以下のようなことが考えられます。
1) 特に検査や手術などで一時的に与薬する薬剤は、定時薬とは別にまとめておくケース等を院内で統一し、それに入れるよう勤務者に周知しておく。
2) 当日与薬分は、与薬時間に合わせて患者ごとに薬剤を整理し、勤務者の目に付くところへ置き、タイマーをかけておくことも一案。
3) 検査や手術で事前に与薬が必要な場合は「○○時 薬あり」などのカードをつくり、患者のベッドサイドに明示しておく。あわせて患者にも説明をしておく。状況によっては患者の協力を得られることもある。ただし、患者の同意を得ることが必要。
与薬が終了したらカードをはずすといったルールを決めておくこと。
4) 与薬は誰が責任を持って実施するかを決めておく。1)と2)に挙げたことの確認者ともなる。
5) 与薬時間になったら受け持ちナースの持つ情報端末にメールが入るというようなシステムの導入。または、受け持ちナースはタイマーを持ち時刻を設定しておく。
5. 薬剤師との協働
 上記2の1)2)4)の対策は病棟薬剤師の協力を得ることによって責任ある業務が遂行できると考えます。病棟内を常に移動している看護師は、決められた時間になっても計画通りに行動ができないことはしばしばあります。また、与薬時間が早朝であると業務が多忙を極め、看護人員も少ないことが想定されます。特に時間を厳守した与薬が必要であれば、薬剤師にその業務を委譲することは十分考えられますが、病院の状況に合わせて検討されると良いでしょう。
 6.持参薬の取り扱いについての基準つくりが必要と考えますがこれは他の事例でのコメントを参照してください。

参考文献
1) 佐藤秀昭: 薬剤師としての基本業務に基づく医療事故防止対策, Pharmaceutial Risk Management 2004.12



 
事例2728 (処方箋の記載の取り違えによりメキシチールを指示の 2倍量与薬した事例)
発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

 ■ 事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【 月】 発生曜日【日曜日】曜日区分【休日(祝祭日を含む)】発生時間帯【14時〜15時台】発生場所【病室】
患者の性別【  】 患者の年齢【  歳】
患者の心身状態【不明】
発見者【     】
当事者の職種【准看護師】
当事者の職種経験年数【33年1ヶ月】
当事者の部署配属年数【 年 ヶ月】
発生場面 【           】
(薬剤・製剤の種類) 【           】
発生内容 【           】
発生要因-確認 【           】
発生要因-観察 【           】
発生要因-判断 【           】
発生要因-知識 【           】
発生要因-技術(手技) 【           】
発生要因-報告等 【           】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【           】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【           】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【      】
備考【                   】

 ■ ヒヤリ・ハットの具体的内容
4/25(日)13時頃、医師が来棟し、EKGモニター上でVTのリコールチェック後、『メキシチール100mg×2』を臨時処方。薬品名と用量(mg)を看護師2人で声だし確認したが、1回にメキシチールを200mg内服させてしまった。医師に報告し、胃吸引、胃洗浄を実施。

 ■ ヒヤリ・ハットが発生した要因
ベテランの准看護師でありながら、内服薬の処方箋記載ルールの理解不足
ダブルチェックが機械的に実施され、機能していない

 ■ 実施したもしくは考えられる改善策
指示内容を最後まで複数のスタッフで読み合い確認する
注射薬を含め、処方箋記載ルールの学習会を実施



専門家からのコメント


 ■ 記入方法に関するコメント
本事例は医師の指示と異なる量(おそらく2倍量)のメキシチールを与薬したインシデントでありますので、本来医師が求めていた与薬方法をできるだけわかりやすく記載すればより多くの分析が可能となると思われます。

医師の処方について正確に記載する
『メキシチール100mg×2』と記載されていますが、与薬時点や与薬日数についての情報がありません。また、手書きの処方箋であったのか、さらに、処方箋のほかに、指示書がなかったのか等の情報があれば有用と思われます。

時間外の処方に対する病院のシステムについて記載する
薬剤を払い出したのは薬剤師だったか、病棟のストックを使ったのか等の情報も重要です。本事例には薬剤師は介入していないと推測されます。

患者の背景について記載する
モニター上VTの危険があったのでメキシチールの処方が出されたことは理解できますが、解析により必要な情報は、薬剤の与薬方法であると考えます。本事例は患者が重篤であること、胃洗浄をスムーズに行ったような印象があること、カプセル製剤であるメキシチールをカプセル数の記載はせずにmgのみで処方していることより、患者はNGチューブが挿入されている状態で、メキシチールはカプセルをはずしてNGチューブより与薬されたと推測されます。もし、NGチューブから与薬と記載があれば、医師がやや不自然な記載方法で処方したことが理解でき、改善策もより具体的になると考えます。

 ■ 改善策に関するコメント
処方箋の記載について〜医師の場合〜
処方箋の基本は(1)薬名(商標・剤型・規格単位からなる)(2)分量 (3)用法および用量 の正確な記載ですあり、本事例は
『メキシチール カプセル (50mg) 2カプセル 1日2回 朝夕○○日分 カプセルをはずしてNGチューブより』
 と記載されるべきでした。しかし、実際は
『メキシチール100mg×2』
と記載されているだけでした。前述しましたようにカプセルをはずして与薬するという意識がこのような記載をさせたとも思われますが、これでは不完全な処方箋といわざるを得ません。また、×2の記載も100mgを2回に分けるのか、100mgを2回与薬するのか、かなり紛らわしい表現です。さらに本事例は払い出しに薬剤師が介入していないと推測されるので誰にでもわかりやすい処方がことさら要求されると考えます。
処方箋の記載について〜看護師の場合〜
『与薬という職務は医師が行うべきである。』という議論にはここでは、触れませんが、現実的には、患者に与薬するという行為は看護師が行うことが多い訳ですから、看護師にも処方箋のルールについての知識が要求され本事例においては指示を受けた看護師が処方医に対して、不完全な処方箋(少なくても分かりにくい処方箋)であることを指摘して与薬内容を確認する必要があったと考えます。さらに、薬剤そのものに対する知識としてメキシチールの一回服用量の上限が通常150mgであることを知っていればいうことはありません。

手書き処方箋のチェックについて
本事例は時間外で臨時の手書き処方箋であったと推測されますが、オーダリングシステムによる処方であれば少なくても(1)薬名(商標・剤型・規格単位)(2)分量 (3)用法および用量の3要素は抜けることはないと考えます。従って、手書きの処方箋に対しては、処方→指示受けのステップで通常のチェックに加えて、医師から直接確認する、指示簿を効果的に利用する等の手順のマニュアル化が必要と考えます。

以上より、本事例は処方医の不完全な処方箋と看護師の曖昧な処方箋に関する知識とが薬剤師不在の時間外に重なって発生したインシデントであり、医師・看護師間で、曖昧な処方箋を書かない、受けないというルールの確立が最も効果的な改善策であると考えます。そのためには処方箋のルールに対する知識と重要性の認識が必要であり、医師・看護師とも院内の勉強会はもちろん、現在の医学・看護学教育で軽視されがちなこの分野を学生教育のレベルから改善していく必要がありそうです。各人・各大学等で大きく異なる処方箋の記載方法に関する指針を厚生労働省でとりまとめ、周知を図ることも望まれます。現場の対応としましては、まず、看護師・薬剤師が曖昧な処方箋を受けないというルールを徹底させ、異動の多い医師・処方箋の書き方に癖のある医師等を教育していくことが早道だと思われます。そのためには、医師・看護師・薬剤師間で良好なコミュニケーションが存在する職場環境の構築が必要なことはいうまでもありません。

参考文献 臨床医のための処方箋の書きかた 第4版 桐野高明ほか 文光堂



 
事例5908 (医師のオーダーミスで処方された薬剤がそのまま与薬された事例)
発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

 ■ 事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【6月】 発生曜日【金曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【18時〜19時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【67歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【同職種者】
当事者の職種【医師 看護師】
当事者の職種経験年数【 年 ヶ月】
当事者の部署配属年数【 年 ヶ月】
発生場面 【内服】
(薬剤・製剤の種類) 【抗糖尿病薬】
発生内容 【薬剤間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【           】
発生要因-判断 【判断に誤りがあった】
発生要因-知識 【知識が不足していた 知識に謝りがあった】
発生要因-技術(手技) 【           】
発生要因-報告等 【           】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【医師と看護職の連携不適切 看護職間の連携不適切】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【薬剤の色や形態が似ていた】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【           】
発生要因-教育・訓練 【教育・訓練が不十分だった】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【           】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ ヒヤリ・ハットの具体的内容
本来抗糖尿剤が与薬されるはずであったが、医師から抗血圧剤のオーダー処方があり、それを血糖降下剤であると思い込み与薬。そのまま内服開始となった。看護師間の申し送りも「血糖降下剤処方開始」と伝達。その後血糖値の低下がみられず、確認のためカルテ参照すると血糖降下剤だと思っていた薬は、抗血圧剤であった。当直医師へ連絡し、再オーダーをしてもらい投与開始。血圧管理を観察し続け状態安定を確認した。

 ■ ヒヤリ・ハットが発生した要因
医師のオーダーミスならびに受けた側の確認ミス。

 ■ 実施したもしくは考えられる改善策
薬に関する知識の再確認と、処方の内容について投与された理由を考えて実施するよう指導した。



専門家からのコメント


 ■ 記入方法に関するコメント
薬剤に関するインシデントレポートには薬剤名の記載は必須である
本事例は薬剤の取り違えであるので、その薬剤名の記載が望まれます。確かに、医療の質の改善には『なぜ間違えたか』が重要な要素であり、『何を間違えたか』は本質的な問題ではないかもしれませんが、現実的にはインシデントのレベルは最終的に患者にどのような影響を及ぼしたかというアウトカムで評価されることが殆どでありますから、インシデントの重要度の推測のためにも薬剤についての情報は必須だと考えます。

 ■ 改善策に関するコメント
アルマールとアマリール
本事例は降圧剤と糖尿病治療剤の処方ミスでありますので、アルマールとアマリールとの取り違いの可能性が最も高いと考えます。
発生要因-【薬剤薬剤の色や形態が似ていた】と事例の概要に記載がありますが、他に該当薬剤が考え難いので、アルマールとアマリールとの取り違いであったこととして考えていきます。
アルマールとアマリールの取り違えの危険は、既に平成15年11月に厚生労働省からも指摘されています。この2剤の取り違えの関しては、マニュアルやシステムの改善では対処困難な純然たるヒューマンエラーの要素が大きいと思われますので、再発防止の改善策としましては、どちらかの薬剤の商標の変更が必要と考えます。
処方内容がその患者に適正か否かの判断
ヒヤリ・ハットが発生した要因に『受けた側の確認ミス』との記載がある通り、処方内容が適正か否かの判断も看護業務の1つ(日本看護協会 看護業務基準 1995年 5−1 医療行為の理論的根拠と倫理性 について看護独自の判断が必要)と考えられています。本事例においては、単一の薬剤の気づきやすい取り違いであるので、与薬を行った看護師が確認を行わなかったことにも非があると思われます。しかしながら、多種多様な薬剤が複雑な与薬方法で処方されることが多い現状において、指示を受けた看護師が処方の適正性を判断するのは困難で、さらに、副疾患に対する影響、薬剤の相互作用等まで考慮しての判断は事実上不可能と思われます。即ち、改善策としてあげられている『薬に関する知識の再確認と、処方の内容について投与された理由を考えて実施するよう指導した。』という事項には限界があると考えます。また、どの程度まで処方内容に踏み込むことが看護師の業務なのかという線を引くことも難しいと思われます。そこで、今回は、本事例においても、『受けた側の確認ミス』とは断じずに、次に示した病棟薬剤師との連携について言及するのはどうでしょうか。処方内容そのものに看護師がどこまで関わっていくべきかは、議論の余地があると思います。

病棟薬剤師の介入
処方箋から薬剤師はその薬剤の用法・用量が正しいかは把握できますが、その患者に適切な処方か否かの判断は困難で、実際に患者や診療録をよくみている病棟薬剤師の存在が重要となってきます。特に薬剤の相互作用や副作用については医師に提言していく立場であります。病棟薬剤師が介入していれば本事例は未然に防ぐことができたと思われます。病棟における、薬剤師の日常的な活動が改善策として有用であると考えます。

システムの改善
ある患者に登録されている病名と処方される薬剤の適応が一致しなければオーダーできないシステムが導入されていれば本事例は未然に防ぐことができたと思われます。

薬剤の商標について
多くの薬剤が何の規則性も持たずに命名され新商品として続々と登場してきている現状ですから、本事例に類似したインシデントはますます発生しやすい環境になっていると考えます。特に、後発医薬品の採用が多くの施設で大幅に増加しておりヒトの記憶力では追いつかないという報告が多々みられます。商標の命名法(特に後発医薬品の命名)に何らかの規則性を導入すれば、このようなリスクが多少なりとも軽減されるのではないかと考えます。
 例)後発医薬品の商標名の原則:オリジナルの薬剤名+メーカー名 等々



 
事例6061 (調剤方法が異なっていたことによる重複投与)
発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

 ■ 事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【 月】 発生曜日【木曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【16時〜17時台】
発生場所【病室】
患者の性別【  】 患者の年齢【  歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【     】
当事者の職種【看護師,薬剤師】
当事者の職種経験年数【 年 ヶ月】
当事者の部署配属年数【 年 ヶ月】
発生場面 【           】
(薬剤・製剤の種類) 【           】
発生内容 【           】
発生要因-確認 【           】
発生要因-観察 【           】
発生要因-判断 【           】
発生要因-知識 【           】
発生要因-技術(手技) 【           】
発生要因-報告等 【           】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【           】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【           】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ ヒヤリ・ハットの具体的内容
エントモールを含む内服薬4種類が一包化され、薬袋には4種類の薬剤名が書かれていた。薬剤が少なくなり、医師が同じ内容の処方をしたところ、エントモールとそれ以外の二包に分かれて病棟に届いた。受け取った看護師が前回のエントモール入り一包化のものにA,
今回のエントモール以外の薬剤にBと記載し、エントモールには何も記載せず与薬車に整理した。何も記載していないもの(エントモール)はすぐに開始、それ以外のもの(B)は前回処方のもの(A)が終わってから開始した。Aの薬剤が終わるまで4回分、エントモールが重複投与となった。

 ■ ヒヤリ・ハットの発生した要因
薬袋の記載を十分に確認しなかった。
一包化の薬剤に薬剤名が記載されないシステム(患者氏名が印字されている)
看護師による作業に限界
薬剤師により調剤方法が異なる
医師が処方する際に指示コメントを入力していない場合でも、整腸剤などは薬剤師が好意的に分けて調剤することがある
与薬したのが受け持ち看護師ではなかった

 ■ 実施したもしくは考えられる改善策
医師が処方したとおりに調剤する
必要に応じて医師がきちんと指示コメントを入力する
看護師は薬袋の表記を確認する
前回処方との違いを探す
代理与薬のシステムを再検討する



専門家からのコメント


 ■ 記入方法に関するコメント
1. 事例の概要の記載がなく、患者の背景が把握できないので患者に関連するコメントはできません。
2. 4回分の重複投与がどの時点で、誰により発見されたのかの記載がありませんが、これらの記載があれば具体的な対応策を考えるうえで有用な情報になると思われます。
3. 薬袋には薬品名が書かれていたわけですが、与薬準備に際して薬袋の薬品名を確認するなどの、手順が決まっているのか、また決まった手順どうり行なわれたのなどの記載があれば違った視点での原因解析が可能になると思われます。
4. 「看護師による作業の限界」との記載がありますが、もう少し具体的に記述があると、問題がより明確になると思います。

 ■ 改善策に関するコメント
1. 重複投与を防止するためには、正確な与薬準備することが極めて重要です。特に、看護師が与薬準備を行う場合には、医師の処方と調剤されて薬袋に入っている薬品の照合を間違いなく行なうことです。この手順を明確にして確実に行うこと必要です。ダブルチェック又は、終了後に確認するなどの方法を検討してください。
 その場合、業務の中断を避ける工夫も必要です。
2. 内服薬による薬物療法が中心の病棟だけでも、薬剤師による与薬準備が行なわれるような、業務の分担を検討することも、このようなエラーを防ぐ上から重要だと考えられます。
3. 看護師が病棟で服薬準備を行なう病院では、分包された薬剤の1包ごとに薬剤名を印字するシステムであればこのようなエラーは防止できると考えられます。



 
事例6106 (持参薬で1日おき服用薬剤の与薬ミス)
発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

 ■ 事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【 月】 発生曜日【月曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【18時〜19時台】
発生場所【ナースステーション】
患者の性別【  】 患者の年齢【  歳】
患者の心身状態【歩行障害】
発見者【     】
当事者の職種【看護師,薬剤師】
当事者の職種経験年数【 年 ヶ月】
当事者の部署配属年数【 年 ヶ月】
発生場面 【           】
(薬剤・製剤の種類) 【           】
発生内容 【           】
発生要因-確認 【           】
発生要因-観察 【           】
発生要因-判断 【           】
発生要因-知識 【           】
発生要因-技術(手技) 【           】
発生要因-報告等 【           】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【           】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【           】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ ヒヤリ・ハットの具体的内容
外来通院中の患者が入院時、調剤薬局でもらった内服薬を持参した。入院前からプレドニン5ミリグラム錠を一日おきに内服していたが、入院後5日間連日投与し内服した。薬袋には「一日おき」という用法の記載はなかった。担当看護師及び病棟薬剤師が与薬のカセットを準備する際に、薬袋を見て連日投与した。

 ■ ヒヤリ・ハットの発生した要因
持参薬で処方箋がなく、確認のルールが明確にされていなかった。患者は青年期で理解力があり、長期にわたって内服している薬であったが、与薬されるまま内服していた。院外処方で院内処方と薬袋が異なり、用法の記載がなかった。

 ■ 実施したもしくは考えられる改善策
持参薬の場合は、コンピュータで処方を確認してプリントアウトする。その後に投薬確認書を作成し、これに基づいて投薬する。 院内処方以外の薬袋を持参した場合には、薬剤名、量、用法等を十分確認する



専門家からのコメント


 ■ 記入方法に関するコメント
1. 事例の概要の記載がなく、患者の背景が把握できないので患者に関するコメントはできません。
2. 持参薬はどのようなシステムで管理・与薬されているのかの記載があれば問題がどこにあるのか考えやすくなります。
3. どの時点で誤服薬に気が付いたのか、誰が気が付いたのかの記載があれば、具体的な応策を考えるうえで非常に重要な情報となると考えます。
4. 改善策で、「持参薬の場合は、コンピュータで処方をプリントアウトする」との記載がありますが、同じ病院での処方であれば可能ですが、他院からの持参薬の場合にはむずかしいと思われます。
5. 入院時に薬剤師による持参薬のチェックなど面談があるのかどうかについても、記載があれば、問題がより明確になると思われます。

 ■ 改善策に関するコメント
1. 本事例で院外の保険薬局で調剤された「プレドニン」の薬袋に「一日おき服用」の指示が書かれていなかったということですが、近年、保険薬局では、薬の作用や副作用を書いた冊子(一般に「おくすり手帳」と呼ばれたいる)を交付するところが増えていますが、これを確認されたのでしょうか。これを確認されればもっと確実な情報が得られた可能性があります。
2. 持参薬の自宅での管理状況に問題がある可能性も考え、原則として入院時に新しく処方するという考え方をすれば、このようなエラーは防ぐことができます。しかし、その場合は、患者に十分理解していただくことが必要です。また慢性疾患などで、退院後、かかりつけ医のフォローを受けるような場合は、関連病院との採用薬品の違いなどを考慮した患者・家族への指導と医療機関間の連携が必要と考えられます。
3. 持参薬に関連する与薬ミスは、持参薬の取り扱い方法が明確でないことに起因するケースが多くみられます。持参薬を入院後継続服用する場合には持参薬の管理方法をについて、施設としての管理上のルールを明確にすることが大切です。
4. 持参薬を入院後継続服用する場合には薬剤師が持参薬の服薬状況について患者面接を行うことは有効です。そこで得た情報を医師、看護師にフィードバックするなど、薬剤師による薬剤管理指導業務を積極的に活用するとよいと思います。
5. 改善策に書かれている「投薬時は患者とともに確認する。」ことも重要ですが、他院からの紹介患者の場合は医師の紹介状を確かめること(5つのRightの確認:間違いない患者、正確な薬品、正確な量、正確な時間、正確な方法:経路)と、入院時に主治医となる医師から、“先の5つのR”について、確実に指示を受けてから(“持参薬の何をどのような服用してください”というような)投与すべきだと考えます。



 
事例8020 (自己管理薬の間違い)
発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

 ■ 事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【 月】 発生曜日【土曜日】曜日区分【休日(祝祭日を含む)】発生時間帯【8時〜9時台】発生場所【病室】
患者の性別【  】 患者の年齢【  歳】
患者の心身状態【痴呆・健忘】
発見者【     】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【 年 ヶ月】
当事者の部署配属年数【 年 ヶ月】
発生場面 【           】
(薬剤・製剤の種類) 【           】
発生内容 【           】
発生要因-確認 【           】
発生要因-観察 【           】
発生要因-判断 【           】
発生要因-知識 【           】
発生要因-技術(手技) 【           】
発生要因-報告等 【           】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【           】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【           】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【       】
備考【                   】

 ■ ヒヤリ・ハットの具体的内容
内服薬を一日分ずつ看護師が容器に準備し、患者が自己管理で内服していた。食前薬と食後薬があるので、患者にも説明し注意するように伝えていたが、食後に内服の確認に行くと、食前薬(ベイスン3T分3)がすべてなくなっており、患者は「3T飲んだ」とのことであった。その後、血糖の大きな変化は見られず。

 ■ ヒヤリ・ハットの発生した要因
入院時に自己管理能力をアセスメントしたが十分ではなかった(時々物忘れがある。自室がわからなくなる。といった情報を生かせていなかった)

 ■ 実施したもしくは考えられる改善策
すべて看護師管理にしていく。細かい情報も捉えていくように意識していく。



専門家からのコメント


 ■ 記入方法に関するコメント
コード化情報の詳細の記載がないのでここからは見えません。
自己管理の間違いは「誰の問題」なのかがあいまいなため、背景要因も記載しにくいのかもしれません。
入院時に行った自己管理能力のアセスメントの内容と方法が良くわかりません。アセスメントを行ったのなら、そのどこに問題があってそこを改善するためにどうする、というところの展開があれば良いと思います。そこが見えず「すべて看護師管理にしていく」という改善策になってしまうと、次の同様の間違いを防ぐことにはつながりません。

 ■ 改善策に関するコメント
自己管理の考え方
  入院患者が薬の自己管理をするには、その必要性と妥当性、医療者が介入すべきことを明確にし、関係者が共通認識しておくことが必要です。その段階を追って自己管理したものを、間違ったからと看護師管理に戻すことでは問題は解決しません。どこに問題があったのかを洗い出しそこを改善していきます。
適応と介入
  長期に服用が必要な場合、退院に向けて指導が必要な場合は教育的視点で自己管理が有用です。意識状態・ADLの自立など、患者側の要因だけでなく、薬剤そのものや治療のリスクへの考慮も自己管理判断基準となります。間違えると身体や治療経過に大きく影響を及ぼすものなどは、自己管理に当たって慎重に行う必要があります。また、今回のように食前薬、食後薬が入り混じったものは混乱や間違いを起こしやすいことは明らかです。それも、血糖コントロールの薬剤という、間違えば生命への危険も予測された薬剤ですから、慎重に判断する事は必要です。
「説明する」「注意するように言う」は効果的なエラー防止策ではありません。理解力、記憶力に頼るのではなく、ヒューマンエラー防止の視点で具体的な方法を工夫できないでしょうか。
自己管理の基準の作成
  『自己管理の基準』として作成すると良いと思います。自己管理を判断する基準には(1)治療目的や段階(2)薬自体の問題(3)患者の理解力・判断力(4)患者の実施能力、などが含まれます。そのための情報が必要です。自己管理開始に当たって必要な説明は(1)薬剤名とその作用(2)服用(使用)の仕方と時間・間隔(3)服用(使用)にあたって守るべき注意(4)特殊な状況における服用方法、例えば食事をしない時、検査のとき、など。(5)服用(使用)を間違った時の対応(6)予想される副作用とそれが生じた時に行うべき事(7)安全に服用するための手順と方法、などです。
これを元に医師、看護師、薬剤師が情報共有し患者に応じた指導と支援が出来るように役割とその方法を取り決めておきたいものです。
まとめ
   自己管理薬の間違いは患者の問題ではなく、医療者の判断ミスと指導・介入が不適切であることが大きな要因と言っても過言ではありません。薬は重要な治療のひとつです。判断基準と支援手順を作成し、個々の患者に応じた情報を得てアセスメントし判断と介入をする事が必要です。インシデントが生じたときは、基準・手順に照合してみるとどこに問題があったか明らかになり、具体的で実効性のある改善策が立てやすくなると思います。医師・薬剤師・看護師との協働が求められます。
参考文献
 「看護ケアにおける与薬リスクのマネジメント」 学習研究社、2003.10



 
事例9766 (電子カルテで中止指示が伝わらなかったことによる誤投薬)
発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

 ■ 事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【5月】 発生曜日【月曜日】曜日区分【平日】発生時間帯【10時〜11時台】
発生場所【病室】
患者の性別【男性】 患者の年齢【50歳】
患者の心身状態【障害なし】
発見者【当事者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【8年1ヶ月】
当事者の部署配属年数【0年1ヶ月】
発生場面 【内服】
(薬剤・製剤の種類) 【循環器用薬】
発生内容 【投与方法間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【           】
発生要因-判断 【           】
発生要因-知識 【           】
発生要因-技術(手技) 【           】
発生要因-報告等 【           】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【          】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【           】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【           】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ ヒヤリ・ハットの具体的内容
中止指示薬を誤与薬した

 ■ ヒヤリ・ハットの発生した要因
電子カルテシステムで、医師の指示が即座に看護師に伝達されないことがある。緊急指示、処方は直接看護師に連絡することになっているが、守らない医師がいる。

 ■ 実施したもしくは考えられる改善策
中止指示、緊急支持は直接連絡。与薬ボックスを全面的に信用しない。



専門家からのコメント


 ■ 記入方法に関するコメント
1. 薬品名が記載されておらず、中止薬を継続したことの問題が明確ではありません。誤薬に関する事例の報告に当たっては、薬品名を記載することは必須です。
2. しかし、循環器用薬と記載されておりますので、そうだとすれば、中止の指示が確実に伝わることが重要ですから、今後同じことが起きないため確実な解決策策定が重要です。そのためには、もっと具体的な記載があると良いでしょう。

 ■ 改善策に関するコメント
1. 電子カルテシステムでは、医師の指示をリアルタイムに現場に届けることができるのが利点でもあります。しかし、現場の看護師は医師が指示を出したのかどうかを常に見ているわけではありません。特にこの事例の10:00〜11:00の時間帯は看護師は既に患者のケアに入っている時間帯だと考えられます。服薬中止や緊急の変更の場合は、この情報が確実に看護師に伝わるようなシステムの構築が必要と考えられます。緊急指示に当たっては、病棟又は担当看護師に、医師から連絡を入れるなどのルールを決めておくことが必要です。
2. 病棟で行なわれる患者のケアや診療の補助について医師と看護師がお互いの業務の進め方を理解して、指示を出すタイミングや緊急指示を出す場合のルールなどを決めておくことは重要です。お互いの勝手な都合で相手の業務を乱すことがないように協働で行なう必要のある業務の進め方を決めておくべきでしょう。これには、基本的な病棟のルールと、個々の患者のその日の状況によって、決めておくことあります。チーム医療の協働者としてお互いの業務を尊重する姿勢で指示が伝わらないなどのエラーを防ぐことが重要です。
 ルールとして決めておく事項としては次のような事柄が考えられます。
 1. 指示変更時のルールの策定
 2. 口頭指示の原則
口答指示の条件を具体的に整備する
  「なるべく」「必要時」などのあいまいにせず「緊急時に限る」など具体的な表現にします。何が口答指示となっているのか現状を把握し、その頻度を減少するためにはどうしたらよいのか検討していきます。
指示の出し方、受け方を明確にする
  出す方は5W1Hで、単位まで正確に言う、受ける方はメモに誰でも読めるように記載し、それを見ながら指示者に聞こえるように復唱をする、など。
カルテへの記載の条件を明確に決めておく(何時間以内に、誰が、など)



 
事例14315 (麻薬デュロテップパッチ貼付日の記載ミスが重なり貼付交換日を誤った例)
発生部署(入院部門一般) キーワード(与薬(内服・外用))

 ■ 事例の概要(全般コード化情報より)
発生月【6月】 発生曜日【土曜日】曜日区分【休日】発生時間帯【20時〜21時台】
発生場所【病室】
患者の性別【女性】 患者の年齢【57歳】
患者の心身状態【床上安静】
発見者【患者本人】
当事者の職種【看護師】
当事者の職種経験年数【3年 ヶ月】
当事者の部署配属年数【3年 ヶ月】
発生場面 【外用】
(薬剤・製剤の種類) 【麻薬】
発生内容 【与薬時間・日付け間違い】
発生要因-確認 【確認が不十分であった】
発生要因-観察 【           】
発生要因-判断 【           】
発生要因-知識 【           】
発生要因-技術(手技) 【           】
発生要因-報告等 【           】
発生要因-身体的状況 【          】
発生要因-心理的状況 【思いこんでいた】
発生要因-システムの不備 【          】
発生要因-連携不適切 【          】
発生要因-記録類の記載 【記録形式が統一されていなかった】
発生要因-勤務状態 【          】
発生要因-医療用具 【          】
発生要因-薬剤 【          】
発生要因-諸物品 【          】
発生要因-施設・設備 【           】
発生要因-教育・訓練 【          】
発生要因-患者・家族への説明 【          】
発生要因-その他 【           】
間違いの実施の有無及びインシデントの影響度【間違いが実施されたが、患者に影響がなかった事例】
備考【                   】

 ■ ヒヤリ・ハットの具体的内容
デュロテップパッチを6/5に交換しなければならないところ、患者ワークシートに6/6とかかれてあったためそう思い込んだ。デュロテップパッチには前回の交換日が記載されていたが、それを見ても交換日と実際の日時が一致しなかった。そのため気づかなかった。
〈発見経緯〉患者よりいつもより強い疼痛があったため、交換日の確認を看護師に行ったことでわかった。

 ■ ヒヤリ・ハットの発生した要因
ワークシートに違う日付が記載されており、それしか見ていなかった。処方は毎回一回量のみ、持続時間は3日間と長いため、忘れてしまうと次回処方日がわかりづらい。忘れないようにするための統一した方法も確立していなかった。アンペック併用もあるため指示簿を見ると麻薬の処方がたくさんあるように見えてしまう。

 ■ 実施したもしくは考えられる改善策
〈改善策〉交換した時点で次回交換日、次回処方日を指示簿に記載しておく
〈リスクマネジャーのコメント〉パッチは導入されたばかりであったため運用が不明確であった。早速(1)パッチに貼付日付の記載をする(2)次回投与忘れがおきないように「検温表フローシート」に鉛筆で予定日時の書き込みをする(3)「患者ワークシート」に月日貼付と入力することを決めた。「麻薬投与者」を明記したテープを貼ること(当科のルール)で注意をしておこうと呼びかけた。



専門家からのコメント


 ■ 記入方法に関するコメント
事例が発生した背景・要因が含まれており、事例の全体像が把握できる記載となっています。
しかし、記載に当たっては、背景や要因をもう一度整理して書いてあるとより理解しやすいと考えられます。

 ■ 改善策に関するコメント
1. ワークシートが間違っていたと書いてありますが、これは指示を転記して作成するのでしょうか。その場合は、間違いを防ぐために医師の指示の情報がワークシートとして使えるような工夫をするか、ワークシート作成時に間違いを生じないようにダブルチェックをするなどの手順の再確認が必要です。
2. この事例では、患者からの確認によって間違いに気づいていますが、.麻薬によるペインコントールをしている患者のケアについては、医師の指示どうりに行なうのではなく、鎮痛効果について適切に評価できるように、標準看護計画を作成し、これに基づいて観察するようにすれば、このようなエラーを防ぐことができると考えられます。そのためには、以下のような点については十分理解し、ルール化しておくことが必要です。
(1) 薬剤に対する認識を高めるため、効果・用法・副作用などを理解する。
様々な形状・作用をもつ麻薬が提供され、患者の状況に応じた方法で使用されるようになたこと、また、その知識と情報を正確に把握すること。
(2) 麻薬管理マニュアル及び運用を明確化・簡素化し周知する
重要な手順・運用はフローチャート形式など簡素化しわかりやすくしておくこと。

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