ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療 > 医療安全対策 > 医療事故情報収集等事業 > 重要事例情報の分析について
重要事例情報の分析について
重要事例情報の分析について
1 重要事例情報の分析対象
-
総事例数 110事例 分析対象事例数 10事例
2 分析方針
1)分析の方法
医療事故を防止する観点から、報告する医療機関が広く公表することが重要と考える事例について、発生要因や改善方策などを記述情報として収集する。収集したインシデント事例より、分析の対象に該当するものを選定し、よりわかりやすい表記に修文した上で、「タイトル」やキーワードを付けた。
さらに、事例の特徴や重要性、医療安全対策に資する内容について、専門家からのコメントを付けた。
専門家からのコメント
各事例に対し、検討会において次の視点からコメントをつけた。
医療安全に関する専門的立場からのコメントとする。
要因や改善策について、事例に記述された以外の視点から分析したり、不足している情報や参考となる考え方を提示するなど、読む人の今後の取り組みに参考となるものとする。
対象事例の重要性について解説する。
2)分析対象事例の選定の考え方
収集された事例のうち、特に有用な事例を選定し、分析を行った。選定の考え方は、
-
(1) インシデント事例の具体的内容、発生した要因、改善策が全て記載されており、事例の理解に必要な情報が含まれていること。
(2) 次のいずれかに該当する事例であること。
- 発生頻度は低いが、致死的な事故につながる事例。
- インシデントの要因について深くかつ多角的に分析ができている事例。
- 斬新かつ組織的事例で、他施設でも活用できる改善策が提示されている事例。
(3) なお、個人が特定しうるような事例は除く。
3)事例のタイトル及びキーワードの設定
利用者の検索を円滑にするためタイトルおよびキーワードを設定した。
-
(1) タイトル:各事例に20文字程度の簡単なタイトルを付与して、内容が一目でわかるよう工夫した。
(2) キーワード:キーワードは多すぎるとかえって検索が不便となるため、「発生場所」、「手技・処置など」、および「診療科」の3項目について各あらかじめ設定されたものを選択して設定することとした。
キーワードの選定の方法
-
(1) 医療・看護分野のテキストを参考に、「発生場所」及び「処置・手技など」についてキーワードとなりうる用語を網羅的体系的にリストアップ
↓
(2) 収集された用語から、以下の視点で選択
視点1:収集されるインシデント事例が多く該当するもの
視点2:「発生場所」や「手技・処置など」、さらに「診療科」に特有の危険をあらわしうるもの
視点3:関連する他の研究における分類項目を参考↓
(3) 「発生場所」と「手技・処置など」で重複するものは場所を優先
-
2 分類項目及びデータ提供フォーマット
1)発生場所
-
大項目 分類項目 外来部門 (1) 一般外来 (2) 救急外来 病棟部門 (3) 一般病棟 (4) 集中治療室 その他の診療関連部門 (5) 臨床検査室 (6) 放射線検査・治療室 (7) 内視鏡検査・治療室 (8) 透析室 (9) 手術室 (10) 輸血部門 (11) 薬局 その他 (12) 栄養部(厨房含む) (13) 事務部門 (14) その他
2)手技・処置など
-
大項目 分類項目 日常生活の援助 (1) 食事と栄養 (2) 排泄 (3) 清潔 (4) 移送・移動・体位変換 (5) 転倒・転落 (6) 感染防止 (7) 環境整備 医学的処置・管理 (8) 検査・採血 (9) 処方 (10) 調剤 (11) 与薬(内服・外用) (12) 与薬(注射・点滴) (13) 麻薬 (14) 輸血 (15) 処置 (16) 吸入・吸引 (17) 機器一般 (18) 人工呼吸器 (19) 酸素吸入 (20) 内視鏡 (21) チューブ・カテーテル類 (22) 救急処置 (23) リハビリテーション 情報と組織 (24) 情報・記録 (25) 組織 その他 (26) その他
3)診療科
-
分類項目 (1) 内科 (2) 精神科 (3) 小児科 (4) 外科 (5) 整形外科 (6) 脳神経外科 (7) 泌尿器科 (8) 産婦人科 (9) 眼科 (10) 耳鼻咽喉科 (11) 放射線科 (12) 皮膚科 (13) 歯科 (14) その他
3 分析結果及び考察
1)収集された重要事例情報の概要
○収集されたインシデント事例の中には、そのまま実施され続ければ深刻な事故問題となりうる事例が見られた。このような事例の要因分析や改善策に関する情報を提供するしていくことにより、他の医療機関においても同様の事故を予防することに貢献できると考えられる。
○治療内容に応じて、医療機器の使用方法を変更することや、使用に際する安全性が確保されていない事例や、間違えやすい薬剤名、デザインなど、一医療機関だけの努力だけでは改善が困難な事例も見られた。こういった事例について情報を収集し、現状についてメーカーを含めた関係者に広く公開し、課題を提示し、議論を喚起することができれば、全国規模で事例を収集することの意義は大きい。
○複数診療科からの重複した指示など、部門間の連携不足に起因するインシデントが見られ、部門を越えた病院全体で取り組む組織的な対応が必要であること。
○輸液ポンプのクランプ操作ミスなど、基本的な行為を怠ったことによるインシデントが見られた。基本的な行為に関しては、チェックリストを作成し、確実に確認を実施できる具体的方法が必要である。
以上のように、重要事例情報では、他医療機関の医療安全のための取り組みの参考となるような事例が得られており、本システムの意義が改めて確認された。
2)今後の課題
収集された事例の中には次の通り記載の改善が必要なものが見られた。
○事例の具体的内容についての記述が不足している、あるいはあいまいで、事例の状況が分からないもの。
○改善策についての記述が不足している、あるいは改善策の具体的内容が分からないもの。
○要因分析が表面的で根本原因分析にまで至っていないもの。特に、改善策が「確認の徹底」など表面的なものになってしまっているもの。
このため、記載すべき内容をわかりやすく示す記載用紙(別紙1)および記入例(別紙2)を作成した。
3)データの提供について
収集・分析された重要事例情報は、見やすく、検索し易い形でデータベースとしての公開の方法が望ましい。また、冊子形式の事例集を作成・配布も有用であると考えられるため、その編集イメージを示した。(資料)
以上
【事例集イメージ】
資料 |
医療安全対策ネットワーク整備事業による インシデント重要事例集 |
平成13年
厚生労働省
インシデント事例分析検討会
− 目次 −
【外来部門】
(1) 一般外来
事例1 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例2 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(2) 救急外来
事例3 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例4 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
【病棟部門】
(3) 一般病棟
事例5 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例6 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例7 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例8 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(4) 集中治療室
事例9 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
【その他の診療関連部門】
(5) 臨床検査室
事例10 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例11 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(6) 放射線検査・治療室
事例12 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例13 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(7) 内視鏡検査・治療室
事例14 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(8) 透析室
事例15 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(9) 手術室
事例16 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(10) 輸血部門
事例17 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例18 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例19 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(11) 薬局
事例20 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
【その他】
(12) 栄養部(厨房含む)
事例21 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(13) 事務部門
事例22 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例23 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(14) その他
事例24 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
− キーワード別索引 −
【日常生活の援助】
(1) 食事と栄養
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(2) 排泄
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(3) 清潔
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(4) 移送・移動・体位変換
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(5) 転倒・転落
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(6) 感染防止
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(7) 環境整備
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
【手技・処置等】
(8) 検査・採血
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(9) 処方
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(10) 調剤
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(11) 与薬(内服・外用)
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(12) 与薬(注射・点滴)
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(13) 麻薬
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(14) 輸血
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(15) 処置
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(16) 吸入・吸引
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(17) 機器一般
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(18) 人工呼吸器
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(19) 酸素吸入
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(20) 内視鏡
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(21) チューブ・カテーテル類
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(22) 救急処置
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(23) リハビリテーション
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
【情報と組織】
(24) 情報・記録
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(25) 組織
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
【その他】
(26) その他
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
− 診療科別索引 −
(1) 内科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(2) 精神科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(3) 小児科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(4) 外科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(5) 整形外科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(6) 脳神経外科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(7) 泌尿器科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(8) 産婦人科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(9) 眼科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(10) 耳鼻咽喉科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(11) 放射線科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(12) 皮膚科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(13) 歯科
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
(14) その他
事例◎ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○
別紙1 |
【重要事例情報入力上の注意】
医療事故の予防上、特に有益と考えられる事例については、以下の注意に従って入力してください
なお、医療機器・器具・医療材料、薬剤、諸物品が要因で発生したインシデント事例については、「医薬品・医療用具・諸物品等情報」に入力してください 。
1)インシデントの具体的内容
「何をしようとしていたのか」、「実際には何をしてしまったのか」、「実施前に発見された事例の場合は、発見に至った経緯」が判るように、具体的に記述してください。
・入力にあたっては、患者名、当事者名、施設名等の情報が含まれないよう、十分ご注意ください。
インシデントが発生した状況が詳細に判るように、「誰が、いつ、何を、どこで、どうしたか」の5W1Hを明確にして記述してください。 特に、診療科や事故の当事者の職種はなるべく記入してください。 |
2)インシデントの発生した要因
インシデント発生の直接的な要因のみではなく、背景にある要因に関しても、具体的に記述してください
直接的な要因のみでなく、その根本的な要因まで十分検討した上で記入してください。また、その背景も詳しく書いてください。 直接的な要因とは、概ね従業者個々人の先入観や勘違い、確認不足、知識不足といったものであり、根本的な要因とは、作業環境や組織的な問題など構造的な欠陥を指します。 根本的な要因の分析のために、イベントレビュー、SHELLモデルや4M4E法、ルートコーズアナリシスなどの手法もあります。 |
3)実施したもしくは考えられる改善策
同様のインシデントの発生を予防するために実施した、若しくは有効であると考えられる対策について記述してください
改善策の検討の視点として、(1)システム面での改善、(2)ものに関する改善、(3)人の問題に関する改善の3つがあります。 改善策としては、上記の根本的要因の分析を踏まえた上で、「確認の徹底」など人に依存するもの以外の対策も検討してください。 |
別紙2 |
「記入例」
■インシデントの具体的内容
看護婦(経験18年)は、18時(準夜帯)に患者Aの血糖値採血の結果が262であったため、ワークシートのスライディングスケールに従い、ヒューマリンR4単位を皮下注射した。その後、見ていたのは同室の患者Bのワークシートだったことに気付いた。処置室に戻り、患者Aのワークシートを確認したところ、たまたまインシュリンの種類とスライディングスケールの単位が同じだったため、症状の変化は見られなかった。 |
■インシデントの発生した要因
(1) インシュリン注射の指示をワークシートに打ち出して指示を確認しているため、多くの患者を受け持つので他の患者のワークシートと誤認してしまった。
(2) 多忙な準夜勤務帯で多くの患者を受け持ち、それぞれに処置を実施しながら、電話やナースコールに応じていたため(多重課題)、識別能力や注意力が低下していた。 (3) 患者Aと患者Bのインシュリン注射の指示内容が同じだったため、心理的スリップにより患者誤認をおこした。 (4) インシュリンとワークシートの確認はダブルで確認する事になっているが、一緒に確認をした看護婦もワークシートの氏名部分を確認しなかった(スリップ)。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
● ワークシートの定位置を患者のベットサイドと決めて、毎日貼る。 ● 別のスタッフとダブルチェックする場合は、患者名の照合をまず最初の手順とする。 ● 可能であれば、入院中でもインシュリン注射は患者に実施してもらう。 ● ワークシートの使用を廃止する場合。
|
事例1:薬効が類似した薬品の取り違え
発生部署 | (薬局) | 手技・処置など | (調剤) |
発生診療科 | (不明) |
■インシデントの具体的内容
調剤された薬を入院患者に確認しながら渡す際、ワークミン2Cap 4日分に対してロカルトロールが調剤されていることに気付いた。 |
■インシデントの発生した要因
両医薬品の処方頻度が低いため医薬品調剤保管棚の同一引き出し内に両医薬品を箱ごと入れていたため取り違いがおきた。さらに、監査では、他に処方されていたメドロールとハルシオンの外観の区別について患者へ説明が必要かどうか話していたことで気をとられ、確認が不十分となった。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
患者には確認することがあったので一度持ち帰ると伝え、正しいワークミンに交換してから再度他の薬と一緒に患者に渡した。取り違え防止対策としてワークミンとロカルトロールを別の引き出しに保管することとした。 |
■専門家からのコメント
● 各薬剤の名称の明記を行う。 ● 問題があった薬剤(この例ではワークミンとロカルトロール)のみについて管理規則を定めるのではなく、取り違えの要因別(外観、薬効)に対策を講じるべきである。 ● 各医療機関で扱っている薬剤を総点検し、外観が類似した薬品をリストアップし、これらの管理方法を定めることが重要である。当該管理方法には薬剤の保管場所、保管管理者等も定めるべきである。 |
事例2:輸液ポンプ使用時のクレンメ操作エラー
発生部署 | (放射線部門) | 手技・処置など | (機器一般:輸液ポンプ) |
発生診療科 | (不明) |
■インシデントの具体的内容
3ヶ月の看護婦が先輩看護婦と2人で輸液薬剤を10ml/hで輸液ポンプを使用して投与中、MRI検査の為ポンプを除去する際、先輩看護婦が滴下が早くなったことに気づき、輸液ポンプのルートのクレンメがクランプされていないことを指摘された。発生時刻:13時25分その後の患者の状態:身体変調がないことを確認後、MRI検査を施行 |
■インシデントの発生した要因
新人看護婦の輸液ポンプをはずす際のクレンメ操作に対する知識不足、ポンプを除去する際に先輩看護婦に声かけを行わなかった、また、助言を求めなかった。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
● 再調査を施行し、実態を把握し、RM会及び安全対策委員会で事例ごとに要因に対して対応した。 ● 輸液ポンプ操作に対しては以前より数回にわたり、安全対策委員会及び各部門を通じて、注意喚起、書類通達(正しい使用方法・操作時の注意・ルートの選定・具体的指導・マニュアル遵守)を実施してきた。 |
■専門家からのコメント
● 手順として、クレンメの位置はポンプよりも下方と決める。 ● ポンプには簡単な操作手順を作って貼る。 ● 輸液を実施している患者がMRIを受ける際の輸液及び輸液ルートの扱いに関するルール・マニュアルを作成し、周知徹底する。 ● 特に、新人看護婦の手順の遵守・徹底を指導する。 ● 本事例は、頻度の高いインシデント事例の1つであり、医療従事者の注意は当然であが、ルートをはずしても、輸液が急に流れないような仕組みを有する輸液ポンプの開発も期待される。 |
事例3:動脈ラインの接続外れ
発生部署 | (病棟) | 手技・処置など | (チューブ・カテーテル類) |
発生診療科 | (不明) |
■インシデントの具体的内容
右手に挿入中の動脈ライン側で、2人の看護婦で寝衣を整えた。その際に患者は四肢を動かしている状態であった。右手部の寝衣に血液がにじんでおり、動脈ラインの接続がゆるんでいた。発生時刻:17時 |
■インシデントの発生した要因
(1) 右手の動脈チューブは右手より2時間前頃に入れ替えをしている、その際接続が十分であったか否かは不明である(施行医がきちんと接続していると思い再確認をしていなかった) (2) 寝衣交換時、四肢を動かしている患者の対応及び、手技が2人の看護婦とも不十分であった。その後の患者の経過:身体状況・バイタル変動なし |
■実施したもしくは考えられる改善策
2件の動脈ラインのインシデント(アクシデント)事例及び他病院死亡事故ニュースを参考に、
● 当院における動脈チューブ挿入患者の実態を調査 ● 事例と調査結果をもとに「動脈チューブ挿入患者の安全な取り扱いの徹底について」安全対策委員長より全部署に通達をした。 ● 動脈ラインを留置している患者は、不測の事態が生じた場合に対応しやすい部署の入室を適用することを院内で取り決めた。 |
■専門家からのコメント
● 動脈ラインがはずれることは致死的であるので、ライン留置患者のケアや診察時は、刺入部や接続部分を必ず確認する。 ● 動脈ラインの管理に関する院内研修を実施する。 ● ロックが二重にかかるようなタイプのものなど、動脈ラインの製品としての改善を要望する。 |
事例4:同一処置のある患者の誤認
発生部署 | (病棟) | 手技・処置など | (注射) |
発生診療科 | (不明) |
■インシデントの具体的内容
看護婦(経験18年)は、18時(準夜帯)に患者Aの血糖値採血の結果が262であったため、ワークシートのスライディングスケールに従い、ヒューマリンR4単位を皮下注射した。その後、見ていたのは同室の患者Bのワークシートだったことに気付いた。処置室に戻り、患者Aのワークシートを確認したところ、たまたまインシュリンの種類とスライディングスケールの単位が同じだったため、症状の変化は見られなかった。 |
■インシデントの発生した要因
(5) インシュリン注射の指示をワークシートに打ち出して指示を確認しているため、多くの患者を受け持つので他の患者のワークシートと誤認してしまった。 (6) 多忙な準夜勤務帯で多くの患者を受け持ち、それぞれに処置を実施しながら、電話やナースコールに応じていたため(多重課題)、識別能力や注意力が低下していた。 (7) 患者Aと患者Bのインシュリン注射の指示内容が同じだったため、心理的スリップにより患者誤認をおこした。 (8) インシュリンとワークシートの確認はダブルで確認する事になっているが、一緒に確認をした看護婦もワークシートの氏名部分を確認しなかった(スリップ)。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
● ワークシートの定位置を患者のベットサイドに貼る。 ● 別のスタッフとダブルチェックする場合は、患者名の照合を最初の手順とする。 ● 可能であれば、入院中でもインシュリン注射は患者に実施してもらう。 ● ワークシートの使用を廃止する場合。
|
■専門家からのコメント
● 導入されている「ダブルチェック」が機能していない理由を分析する(2人のチェックに関する役割分担や、チェックする項目が決められているかなど)。 ● 効果的な確認やチェックを導入して、効率的で有効な確認を行う。 ● ワークシートを用いた業務のリスクについても明らかにする。 ● インシュリン注射の際は、ワークシートをベッドサイドに持っていき、最終施行時に患者とともに名前を確認することも有効である。 ● 18時前後の業務内容を分析し、インシデントを誘発したその他の要因についても根本的に分析する。 |
事例5:包装が類似した返品薬剤の取違い
発生部署 | (薬局) | 手技・処置など | (調剤) |
発生診療科 | (呼吸器科) |
■インシデントの具体的内容
テオロング(200mg)の中にランデル錠が2錠混ざっていたことに患者が気づき、看護婦が薬剤部に届け出た。 |
■インシデントの発生した要因
ランデルの包装シートがテオロング(200mg)の包装シートと似ているため、テオロングの中にランデルが入っていたことに気付かなかった。監査時に7錠中の一部だけを見て全ての薬を確認せずに出してしまったことが原因と考えられる。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
薬剤部内で中止返品薬取扱いの対策を再度検討、運用方法を改良するよう薬剤部職員に指示。かつ、変更となった運用を朝礼にて報告、薬剤部内研修会で周知徹底を図った。 |
■専門家からのコメント
● 中止返品薬剤については念入りに確認する。 ● 薬剤の包装は類似している場合は保管場所を離す。 ● エラーの発見者は、医療従事者だけでなく、患者の場合もあるので、患者への十分な情報提供や患者教育の充実も重要な取組である。 ● 中止返品薬の取り扱いなどは、薬剤部だけでなく、他部門も含めて検討して組織における改善策を立てることが重要である。 |
事例6:医薬品の充填ミス
発生部署 | (薬局) | 手技・処置など | (調剤) |
発生診療科 | (薬剤部) |
■インシデントの具体的内容
カルベニンの入っているはずの薬袋にウロキナーゼ6000が入っているので確認して欲しいとの連絡が病棟の看護婦よりあった。 |
■インシデントの発生した要因
注射薬自動払い出し装置にてカルベニンは袋詰めされるが、その際に混入したようであり、その原因としては調剤器へのウロキナーゼの充填ミスか調剤機のピッキングミスが考えられる。しかし、いずれにせよ最終監査での確認が不十分であったと思われる。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
薬剤部職員に注射薬を器械に充填する際と最終監査手順の作成を指示し、薬剤部全職員に手順を説明し、手順を遵守するよう周知徹底が図られた。なお、本手順は薬剤部調剤業務標準業務手順書に書き加えられている。 |
■専門家からのコメント
● ピッキングマシーンへの薬品の充填作業は複数のスタッフで確実に確認し、記録を残す。 ● 充填ミスが生じてもエラーが発見されるシステムの導入の検討。 ● バーコードによる薬剤・患者照合システムは充填ミスが発生しても、最終確認段階で検出されるので、今後の開発に期待したい。 |
事例7:ストレッチャーのストッパーの破損による転落
発生部署 | (透析) | キーワード | (転倒・転落) |
発生診療科 | (泌尿器科、腎臓内科) |
■インシデントの具体的内容
3年目の病棟看護婦が、14時ごろ腎センターに透析患者(59歳男性)を迎えにきた。スライダーを使用して透析用ベッドから病棟ストレッチャーに移動しようと透析用ベッドに病棟のストレッチャーを横付けにし、ストレッチャーのストッパーを掛けた。ストレッチャーの車輪が動いてしまい、患者が透析用ベッドと病棟用ストレッチャーの間に転落しそうになった。 |
■インシデントの発生した要因
(1) 患者は脳梗塞であり、片側に麻痺があり、移動については看護婦の全面介助を要した。
(2) 病棟ストレッチャーのストッパーが破損していた。 (3) 看護婦がストレッチャーが固定されているか否かの確認を行わなかった。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
(1) ストレッチャ−の安全性について、乗用車同様に、必ず使用前の始業点検を行う。 (2) ストレッチャーに患者を移動させる際には、ボティメカニクスを勘案して、患者を一度ベッドの端に動かし、その後ストレッチャー側からストレッチャーを透析用ベッド側に押し付けながら移動をさせる。 |
■専門家からのコメント
● 通常の保守・定期点検を確実に実施する。 ● 片麻痺のある患者は健側への移動を行う。 ● 停止時はストレッチャーのストッパーを使用する。 ● ストッパーをかけた時は、しっかりロックされているか確認する。 ● 備品や医療機器は、故障や不具合の発生を未然に防ぐためにも、レンタルが適する場合もある。 ● 「インシデントの発生した要因」欄には、問題となっている要因の重要性の高いものから順に書く方がインシデント事例をどのように解釈しているのか理解しやすく、効率的な改善策の検討に有効である。 |
事例8:前投薬の指示の重複
発生部署 | (病棟) | 手技・処置など(注射) |
発生診療科 | (心臓外科) |
■インシデントの具体的内容
1年目の看護婦がペースメーカ植え込み術の患者に7時に麻酔科から指示の出ている前投薬を服薬させた。その後7時40分に手術室より連絡があり、8時15分に手術室へ向かった。(持参物品については事前にリーダー看護婦と確認を行った。)患者入室後、手術室より病棟へ電話連絡が入り、心臓血管外科から指示が出されていた、アタラックスP12.5mgが施行されていなかった事が判明した。重ねて、注射用ワークシートも忘れてしまい、手術室への申し送り時に、その確認作業が洩れていた。手術は無事終了した。 |
■インシデントの発生した要因
(1) 7時40分に手術室から入室時間についての連絡が入った時に、通常は8時30分頃なので、予測していなかったため、また、準備も出来ていなかったためにあせってしまった。 (2) 前投薬が、麻酔科と心臓外科の指示が重複して出されていた。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
(1) 午前中の手術は、他の手術が中止になったりした場合、9時からの手術に突如繰り上がる事もあるため、深夜看護婦が、物品を正確に揃えておく事とした。 (2) 手術のための準備物品の項目を列記したメモ用紙を用意し、オリエンテーションや諸々の処置が終了するたびにチェックを行い、その用紙を最終的にカルテカバーの表表紙に添付し、急いで準備したときも、最終的にその用紙で再度確認できるようにする。 (3) 前投薬単科に任せ、今後事情があって両科より出る場合は、ワークシートのコメント欄に必ずコメントを入れる事となった。 |
■専門家からのコメント
● 本事例は「インシデントの発生要因」の(2)が組織的に取り組むべき重大な課題である。 ● 2科以上で併診する場合は、処方の重複は多々ある。 ● 特に、麻酔科と外科の周術期における処方の取り決めが必要。あるいは、クリティカルパスの活用も効果がある。l 指示出し、指示受けシステムを明確化する。 ● 注射実施の際は、指示をチェックし、実施後は終了はサインする等の確認の手順を徹底する。 ● 注射ワークシートを活用する。 |
事例9:下肢の筋力低下に伴う転倒
発生部署 | (病棟) | 手技・処置など | (転倒) |
発生診療科 | (泌尿器科) |
■インシデントの具体的内容
4年目の看護婦が準夜の19時15分頃病室でバイタルサインを測定していたところ、他の看護婦より、別室のAさん(76歳・前立腺がん・骨転移あり)がベッドサイドに座り込んでしまっており、立てない状態である、ということをしらせてくれた。訪室すると患者はもうすでに他の看護婦の介助によりベッド上で休んでいた。オーバーテーブルがベッドから離れた位置にあり、ベットから立ち上がって、テーブルにあるものを取ろうとして、足に力が入らず、座り込んでしまったとの事。外傷や打撲は無く、意識もしっかりしていた。 |
■インシデントの発生した要因
(1) 最近、骨転移と痛みのために、ベッド上で過ごすことが多くなり、下肢の筋力が低下していた。 (2) 患者は、自分の体力の低下が、認識できていなかった。 (3) オーバーテーブルとベッドの位置が患者にとっては離れていた。 (4) 患者に対し、ベッドから降りる時は、看護婦を呼ぶようにという言葉をかけていなかった。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
(1) 環境整備を行う際に、患者のセルフケア能力を正しく判断し、必要最低限の物は患者の手元に置き、また、テーブルに手が届くよう、配置を考慮した。 (2) 看護計画に骨転移、痛みの状況を確認しながら、下肢の筋力アップのための運動スケジュールを入れていくこと、また、看護婦付き添いで歩行器による移動ができるよう、ベッドの近くに準備した。 |
■専門家からのコメント
● 転倒予防のためのアセスメントを充分行い、これに対応する計画を立て実施する(スコア等の活用)。 ● 患者・家族へ現在の筋力の低下と療養上の注意点について充分に説明し、計画への合意と協力を求める。 ● 上記双方の筋力低下を防ぐケアは、基本的に臥床が長引く全ての患者に必要なケアである。 |
事例10: 点滴混注時の薬剤の取り違い
発生部署 | (病棟) | 手技・処置など | (注射) |
発生診療科 | (婦人科) |
■インシデントの具体的内容
卵巣腫瘍患者の処置後、不正出血があり、(1)エポセリン1gと(2)アドナ1A・トランサミンS1アンプル入りの点滴静注の指示がでた。病棟は分娩直後の患者がおり他のスタッフは忙しかったため、看護婦は一人でワゴンから薬剤を取り出し担当スタッフに渡した。担当スタッフと私は、ともにダブルチェックして、点滴を作成し医師が実施した。実施後の翌々日のワゴン交換時に薬剤部より電話があり、トランサミンS1アンプルではなくアスパラK1アンプルが減っていると連絡があり、薬剤を取り違えて使用したことに気づいた。 |
■インシデントの発生した要因
(1) ワゴン薬を取り出すときは、忙しくダブルチェックせず一人で薬剤を取った。 (2) 混注時の薬剤ダブルチェック時は、お互いに思い込んでいた。またダブルチェックがマンネリ化していた。 (3) トランサミンSとアスパラKはアンプル形、色が似通っていて、同じ引出に入っていた。 |
■実施したもしくは考えられる改善策
(1) ダブルチェックの時は、薬剤名をお互いに声を出して読む (2) 薬剤部と相談し、コンピューターシステムを変更、アスパラKはトランサミンSと同じ引出しに入れないようにした。 |
■専門家からのコメント
● 薬効の似ている薬も取り間違えしやすいため、場所を離して管理するようにする。 ● 外観が類似した薬剤の扱いは、院内で統一した考えの下に管理することが重要である。 ● 要因で指摘されているようにダブルチェックがマンネリ化しているので、有効でない要因を明確化し、確実な確認方法を検討する。 ● 効果的なチェックができていない場合がある。 ● 声を出して耳による確認は有効であり、改善策(1)は他のダブルチェックにも積極的に展開していくことが重要である。 ● 最終実施時の確認を確実にする方法として、アンプルをこの時にも確認できるよう残しておく。 ● 病棟保管薬の管理や使用については、各施設においてその扱いについて検討する。 |
-
《重要事例情報分析グループ》
内野 克喜 東京逓信病院薬剤部・薬剤部長 大井 利夫 上都賀厚生連上都賀総合病院・名誉院長 加藤 尚子 国際医療福祉大学・講師 金子 万里子 東海大学医学部付属病院・看護部次長 釜 英介 都立松沢病院・リスクマネージャー 倉山 富久子 千葉大学医学部附属病院・リスクマネージャー 嶋森 好子 元社団法人日本看護協会・常任理事 白石 三智 社団法人日本看護協会 会員サービス部 医療・看護安全対策室 田浦 和歌子 武蔵野赤十字病院・看護副部長(リスクマネージャー) 寺井 美峰子 聖路加国際病院・リスクマネージャー 當銘 貴世美 医療法人秀和会春日部秀和病院看護部 花井 恵子 北里大学病院中央手術部・婦長 平林 明美 横浜市立大学医学部付属病院・医療安全管理室 福留 はるみ 聖母女子短期大学・講師 ◎ 増子 ひさ江 日本赤十字社看護婦幹部研修所・講師 村山 純一郎 昭和大学病院・薬剤部長 山本 千恵美 東京大学医学部付属病院・リスクマネージャー ◎は班長
(五十音順)
次ページ
ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療 > 医療安全対策 > 医療事故情報収集等事業 > 重要事例情報の分析について