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(資料1)

健やか親子21検討会報告書の概要

−母子保健の2010年までの国民運動計画−

第1章 基本的な考え方

第1節 健やか親子21の性格

○ 21世紀の母子保健の主要な取組を提示するビジョンであり、かつ関係者、関係機関・団体が一体となって推進する国民運動計画。

○ 安心して子どもを産み、ゆとりを持って健やかに育てるための家庭や地域の環境づくりという少子化対策としての意義と、少子・高齢社会において国民が健康で元気に生活できる社会の実現を図るための国民健康づくり運動である健康日本21の一翼を担うという意義を有する。

○ 計画の対象期間は、2001年(平成13年)から2010年(平成22年)までの10年間とし、中間の2005年(平成17年)に実施状況を評価し、必要な見直しを行う。

第2節 基本的視点

(1) 20世紀中に達成した母子保健の水準を低下させないために努力

(2) 20世紀中に達成しきれなかった課題を早期に克服

(3) 20世紀終盤に顕在化し21世紀にさらに深刻化することが予想される新たな課題に対応

(4) 新たな価値尺度や国際的な動向を踏まえた斬新な発想や手法により取り組むべき課題を探求

第3節 「健やか親子21」の課題設定

○ 基本的視点を踏まえ、21世紀に取り組むべき主要な4つの課題を設定し、各課題ご とに、現状に対する見解と主要課題として選定した理由等、取組に当たっての基本的な方向性や枠組み、可能な限り具体的な形での方策を提言。

(1) 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進

(2) 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援

(3) 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備

(4) 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減

第4節 「健やか親子21」の推進方策

1 基本理念

○ 国民運動の理念の基本を、1986年にオタワで開催されたWHO国際会議において 提唱された公衆衛生戦略であるヘルスプロモーションにおく。

2 「健やか親子21」の推進方策

(1) 関係者、関係機関・団体が寄与しうる取組の内容の明確化と自主的活動の推進

(2) 各団体の活動の連絡調整等を行う「健やか親子21推進協議会」の設置

(3) 計画期間と達成すべき具体的課題を明確にした目標の設定

第2章 主要課題

第1節 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進

1 問題認識

○ 近年、思春期の人工妊娠中絶や性感染症、薬物乱用等の増加等の問題や心身症、不登校、引きこもり等の心の問題等も深刻化し社会問題化。

○ これらは、解決が極めて困難だが、改善に向けての努力を強化する必要があり、21世紀の主要な取り組み課題として位置付け集中的に取り組む必要。

2 取組の方向性

○ これまでの試みが十分な成果をあげられていないことに鑑み、十分な量的拡大と質的転換を図ることが不可欠。

○ 各種対策が十分な連携のもとに推進される必要があり、特に、厚生労働省と文部科学省が連携し、取組の方向性の明確なメッセージを示し、地域における保健、医療、福祉、教育等の連携の促進が必要。

3 具体的な取組

(1)思春期の健康と性の問題

○ 量的拡大は、(1)学校における相談体制、(2)保健所等の地域における相談体制、(3)若者の興味を引きつけるメディアを通じた広報啓発活動、等の強化等が必要。

○ 質的転換は、(1)学校における学校外の専門家などの協力を得た取組の推進、(2)同世代から知識を得るピア・エジュケーター(仲間教育)、ピア(仲間)・カウンセリングなどの思春期の子どもが主体となる取組の推進、(3)メディアの有害情報の問題への取組みとしてメディア・リテラシーの向上のための支援、(4)インターネットなどの媒体を通じ思春期に関する情報提供や相談、等を推進する必要。

(2)思春期の心の問題

○ 思春期の心の問題に関して家庭、学校等の地域の関係機関の相談機能の強化と、相互に学習の場の提供、定期的な情報交換等を実施する場を設置する必要。

○ 思春期の心の問題に対応した体制について、診療報酬面での改善、医科系大学の講座の開設、医療法上の標榜の課題、思春期の心の問題に対応できる医師や児童精神科医等の育成、児童精神科医の児童相談所や情緒障害児短期治療施設への配置の推進、学校教育での活用等を検討する必要。

第2節 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援

1 問題認識

○ 妊娠・出産・産褥期の健康を、長期的な視野で、社会的、精神的側面からも支え、守ることが、母子保健医療の社会的責任。

○ 我が国の母子保健水準は世界のトップクラスだが、妊産婦死亡率は更に改善の余地が残されている等一層の安全性の追求が求められるとともに、妊娠・出産に関するQOLの向上を目指すことも時代の要請。

○ リプロダクティブヘルス/ライツへの対応や、少子化対策の安全で安心して出産できる環境の実現に応えるべく、本分野を21世紀の主要な取組課題との位置付けが必要。

2 取組の方向性

○ 妊娠、出産に関する安全性を確保しつつ快適さを追求するために、専門職の意識の変革、医療機関間の連携、分娩・入院環境の改善、地域保健サービス内容の転換、職場の母性健康管理体制との連携の一層の推進等が必要。

○ 働く女性の妊娠・出産が安全で快適なものとなるよう、職場の環境づくりも重要。

○ 不妊治療を求める夫婦に対して、生殖補助医療や情報の提供体制の整備とカウンセリングを含む利用者の立場に立った治療方法の標準化が不可欠。

3 具体的な取組について

(1)妊娠・出産の安全性と快適さの確保

○ 産科医療機関は、安全性の確保が最も重要で、医療機関間の連携、休日・夜間体制の整備が必要。リスクに応じた分娩形態や助産婦の活用によるチーム医療の採用、病院のオープン化等の取組も必要。総合周産期母子医療センターを中心とした周産期ネットワークシステムを構築し、母体・患児の搬送体制の確保、周産期医療に関する情報提供、医療従事者の確保、研修等を推進。

○ 妊娠、出産の医療サービスを利用者に対し情報提供を推進し、利用者が希望するサービスが選択できるよう医療施設における取組を推進。QOLの確保と有効な医療を追求する観点から産科技術について、リスクに応じた適応の検討やEBMによる見直しを行う。

○ 妊婦の心の問題に対応した健診体制や出産形態の採用、カウンセリングの強化等の取組が必要。

○ 地域保健については、2次医療圏で医療機関、助産所、保健所、市町村の連携推進を図るとともに、保健所・市町村が中心となった母子保健情報の提供や、母子保健に関する学習機会の提供や両親教育の実施、育児サークルの育成等を積極的に行う必要。

○ 職場における母性健康管理指導事項連絡カードの活用、産業医と産科医の連携等により、妊娠中及び出産後の女性労働者の状況に応じた配慮がなされる妊婦に優しい職場環境の実現に向けた取組が必要。

(2)不妊への支援

○ 不妊治療に関する相談体制及び医療提供体制を整備。

○ ガイドラインを作成し、治療の標準化と、治療を受けることの不安や精神的圧迫などに対する十分な心のケアを行う。不妊治療の適切な情報提供がなされた上で治療の選択が行えるよう相談体制を整備。

第3節 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備

1 問題認識

○ 21世紀の少子・高齢社会で産まれた子どもが健やかに育つような支援は、小児の保健と医療の主要な課題、QOLの観点や健康な子どもの健全育成をも視野に入れ、小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備を、21世紀に取り組むべき主要課題として位置付け、重点的に進める必要。

○ 地域保健における母子保健活動の低下や、小児医療の不採算に伴う小児病棟の縮小・閉鎖による小児医療水準低下、小児救急医療レベルの低下、小児科医師志望者の減少等の問題が生じており、これまで我が国が達成した世界最高レベルの小児保健医療水準や地域保健サービスのレベルの維持のための対策が重要。

2 取組の方向性について

○ 地域保健における母子保健サービスの水準低下を予防する体制の確保を図る必要。

○ 小児医療の特性を踏まえ、他科を比較して遜色なく小児医療を確保できるよう医療経済面を含めた制度的なアプローチが不可欠。

3 具体的な取組について

(1)地域保健

○ 母子保健業務は、政策医療等を担う医師等の技術職の確保や関係職員の研修の充実等を図り、世界でも最高の水準にあると言われる地方自治体の母子保健の水準を今後も確保。

○ 乳幼児期の健診システムは世界でも最も整備され、受診率も高いが、健診の精度や事後措置は自治体間の格差があり、今後、健診の質の維持向上等を図るとともに、地域の療育機能等の充実を図る。

○ 事故の大部分は予防可能で、小児の発達段階に応じた具体的な事故防止方法を、家庭や施設の関係者への情報提供、学習機会の提供等を行う。

○ SIDS予防対策は、(1)仰向け寝の推進、(2)母乳栄養の推進、(3)両親の禁煙の3つの標語による全国的なキャンペーンをマスコミの協力も得て広報活動を量的に拡大。

○ 予防接種は、関係者の関心を高めるために情報提供を質的に転換。

(2)小児医療

○ 都道府県で地域の実情を踏まえ適切な小児医療提供体制を確保する観点から関係者の理解を得つつ病床確保対策を推進。

○ 小児科医の確保対策については、小児医療に魅力を覚えるような環境整備のための方策の検討や、女性医師の育児と仕事の両立が図られる体制づくりが必要。

○ 小児救急医療体制整備は、都道府県が果たすべき重要な責務であり、医療計画で計画性をもって行うことが対策の基本。初期救急医療体制は、休日・夜間急患センターにおいて、小児科医を広域的に確保し外来機能を強化、二次救急医療体制は病院小児科の輪番制の充実、三次救急医療体制は、小児科医を重点的に確保した概ね人口100万人につき1ヶ所の拠点となる医療機関を医療計画において明確に位置付け整備等を例示。

○ 小児の入院環境、患児の家族のための体制整備、長期慢性疾患児等の在宅医療体制の整備や、地域の児童福祉施設や教育施設とのコーディネート機能の強化等の体制整備を実施。

第4節 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減

1 問題認識

○ 母子保健での心の健康は、(1)両親の育児不安・ストレスと子どもの心の関係、(2)児童虐待に代表される親子関係、の2つの大きな問題が存在。

○ 乳幼児期の子どもの心の発達は、一番身近な養育者(母親)の心の状態と密接に関係があり、乳幼児期の子どもの心の健康のためには、母親が育児を楽しめるような育児環境の整備が不可欠。

○ 妊娠・出産・育児に関する母親の不安を軽減し、育児を楽しみ、子どもの豊かな心の成長を育むための取組を全国的に総合的に講じることは、21世紀の母子保健上極めて重要な対策。

2 取組の方向性について

○ 妊娠―出産―産褥―育児期にかけて、育児に焦点を当てた心の問題の観点からのケアシステムを構築し、一人の人間を最適な環境で見守っていくことが必要。

○ 母子健康手帳の交付から始まる地域保健での母子保健の流れと妊産婦健診より始まる地域医療の流れの融合と、出産前のケアと出産後のケアの連続性の担保が不可欠。

○ 地域保健・地域医療での対応が児童虐待の予防と早期発見及び再発予防に大きな役割を果たし得ることと、継続的観察・介入が可能だということの認識と位置づけを持つことが重要。

3 具体的な取組について

(1)子どもの心と育児不安対策

○ 地域保健は、これまで疾病の早期発見・早期療育、保健指導を育児支援の観点から見直す。市町村の乳幼児の集団健診を、疾患や障害の発見だけでなく親子関係、親子の心の状態の観察ができ、育児の交流の場として、話を聞いてもらえる安心の場として活用する。

○ 保健所は、地域医療との連携によるハイリスク集団に対する周産期から退院後のケアシステムの構築を行うとともに、福祉分野との連携と自主的な民間の育児グループの育成を図る。

○ 産科は、出産の安全性や快適さに関わる事項に加え、妊産婦の育児への意識・不安のチェックとそれに基づく地域保健関係機関や小児科への紹介、親子の愛着形成を促進する支援等を行う。

○ 小児科は、診察時の疾病の診断・治療に加え、親子関係や母親の心の様子、子供の心の様子・発達への影響等の観察及びケアやカウンセリングを行うよう努力する等子どもの心の問題に対応できる体制の整備を推進。

(2)児童虐待対策

○ 保健所・市町村保健センター等ではこれまで明確でなかった児童虐待対策を母子保健の主要事業の一つとして明確に位置付け、積極的な活動を展開。

○ 医療機関と地域保健が協力し被虐待児の発見、救出した後の保護、再発防止、子どもの心身の治療、親子関係の修復、長期のフォローアップの取組を進める。

○ これらの活動にあたっては、児童相談所、情緒障害児短期治療施設等の福祉関係機関、警察、民間団体等との連携をを図る。

第3章 推進方策

第1節 「健やか親子21」の推進方策について

○ 課題達成に向けて、一人一人の国民はもとより保健・医療・福祉・教育・労働などの関係者、関係機関・団体がそれぞれの立場から寄与することが不可欠。

第2節 関係者、関係機関・団体の取組の内容の明確化

○ 子どもの健康が重視され、思春期の子どもに対する適切な応援や妊産婦や不妊の夫婦に対する優しい配慮がなされ、健康な子どもと障害や疾病を持つ子どもの育ちやその親を支援できる地域社会の実現のための取組を国民一人一人が行えるようにすることが重要。

○ このような取組がなされるよう、関係者、関係機関・団体として国民、地方公共団体、国、専門団体、民間団体の順にその寄与しうる取組内容を各課題ごとに記述。

第3節 「健やか親子21推進協議会」の設置

○ 関係者等の行動計画のとりまとめや進捗状況の報告・経験交流の実施等を統括する「健やか親子21推進協議会」を中央に設置し、インターネットによる情報提供や意見 の収集、全国大会を通じた国民運動計画推進の気運の醸成等の活動を実施。

第4節 目標の設定

1 目標設定の考え方

○ 目標は、ヘルスプロモーションの基本理念に基づき、次の三段階に分けて策定。

(1) 保健水準の指標(達成すべきQOLを含む住民の保健水準を示す。住民や関係機関 等が目指すべき方向性の指標。)
(2) 住民自らの行動の指標(各課題を達成する上で住民一人一人が取り組むべき事項を 示す。親子や各家庭での保健行動や生活習慣に関する指標と、知識・技術などの学習 の指標を含む。)
(3) 行政・関係機関等の取組の指標(事業の実施、サービスの提供、施設・設備の整備 など資源・環境の整備に対して行政や関係機関・団体が寄与しうる取組を表す。)

2 指標設定のプロセス

○ 全国の各市町村で策定の母子保健計画において、(1)保健水準の指標と(2)住民自らの行動の指標を設定している212の自治体の母子保健計画に盛り込まれている指標、当検討会のこれまでの議論から指標として取り上げるべき項目を抽出し、上記の観点から優先順位をつけ、検討会での検討を経て、各課題の取組の指標を設定。


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