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2018年6月22日 第70回労災保険部会

労働基準局労災管理課

○日時

平成30年6月22日(木)17:30~18:28

 

○場所

AP新橋虎ノ門 貸会議室A(東京都港区西新橋1-16-5 NS虎ノ門ビル11階)
 

○出席者

  
明石 祐二((一社)日本経済団体連合会労働法制本部統括主幹)
秋田 進(日本通運(株)取締役常務執行役員 ロジスティクスエンジニアリング戦略部、事業収支改善推進部、広報部、総務・労働部、業務部、NITTSUグループユニバーシティ 担当)
荒木 尚志(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
岩村 正彦(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
大前 和幸(慶應義塾大学名誉教授)
小畑 史子(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
砂原 和仁(東京海上日動メディカルサービス(株)企画部 担当部長)
田久 悟(全国建設労働組合総連合労働対策部長)
立川 博行(全日本海員組合中央執行委員政策局長)
坪田 英明(日本基幹産業労働組合連合会中央執行委員)
二宮 美保(セコム(株)人事部特命担当次長)
浜田 紀子(UAゼンセン(日本介護クラフトユニオン特任中央執行委員))
本多 敦郎(鹿島建設(株)安全環境部長)
水島 郁子(大阪大学大学院高等司法研究科教授)
宮智 泉(読売新聞東京本社編集委員)
村上 陽子(日本労働組合総連合会総合労働局長)
山内 幸治(新日鐵住金(株)人事労政部 部長)


○議題

・複数就業者への労災保険給付の在り方について
・労災診療費の改定について(報告)

○議事

 ○荒木部会長 定刻になりましたので、ただいまから「第70回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会」を開催いたします。
はじめに、前回の部会以降、委員の交代がありましたので、事務局から紹介をお願いいたします。

○労災管理課長 では、御紹介いたします。委員名簿を席上に配布しておりますので、御参照ください。公益代表といたしまして、永峰好美委員に代わりまして、読売新聞東京本社編集委員の宮智泉委員に御就任いただいております。

○宮智委員 読売新聞の宮智でございます。どうぞよろしくお願いします。

○労災管理課長 続きまして、使用者代表として、長尾健男委員に代わりまして、新日鉄住金人事労務部部長の山内幸治委員に御
就任いただいております。

○山内委員 新日鉄住金の山内です。どうぞよろしくお願いします。

○労災管理課長 次に、事務局にも人事異動がありましたので、紹介させていただきます。労働保険徴収課長の河野でございます。労災保険財政数理室長の久野でございます。なお、主任中央労災補償監察官の石丸、労災保険審理室長の村岡も、本年4月1日付けで着任いたしておりますが、本日は業務の都合により欠席しております。

○荒木部会長 本日の委員の出欠状況ですが、労働者代表の酒向委員が御欠席でございます。坪田委員が遅れての出席と聞いております。出席者は17名ということになりますが、公益代表、労働者代表、使用者代表、それぞれ3分の1以上の出席がございますので、定足数を満たしていることを御報告いたします。それでは、カメラ撮りはここまでということでお願いをします。
 では、本日の議題に入ることといたします。第1の議題は、「複数就業者への労災保険給付の在り方について」です。まず、事務局から説明をお願いいたします。

○労災管理課長 資料1-1を御覧ください。複数就業者への労災保険給付についてということで、副業・兼業の現状について御説明をいたします。
 3ページを御覧ください。左のグラフです。まず、労働者側の現状について御説明します。左のグラフの青い棒が副業の希望者で、赤い折れ線が雇用者全体に占める割合です。副業を希望する雇用者は増加傾向にあります。また、右のグラフですが、オレンジの棒で、複数就業者の経年変化をみております。折れ線グラフで雇用者全体に占める割合をみておりますが、本業も副業も雇用者である方は増加傾向にあります。
 続きまして4ページを御覧ください。副業している方を本業の所得階層別で見たものです。左のグラフで、棒グラフが副業就業者の人数です。右の円グラフでお示しをしていますとおり、本業の所得が299万円以下の階層が全体の役7割を占めています。左のグラフの折れ線は、所得階層別でみた雇用者総数に対する副業している方の割合をみたものですが、数字を赤字にしていますが、本業の所得が199万円以下の階層と、1,000万円以上の階層で副業している方の割合が、比較的高くなっています。
 5ページです。副業している方を雇用形態別にみたものです。左のブルーの棒が2002年、右のオレンジが2012年の数です。中ほどの全体の就業者数の変化ですが、正社員は全体の従業者数が減少していますが、一方で、1段目を御覧いただきますとおり、副業者の数は増加しています。また、パート・アルバイトは、全体の就業者数との比較はプラス15.7%ですが、副業者数はプラス51.9%ということで、著しく増加をしている状況です。
 6ページです。こちらは副業している方を、本業の業種でみたものです。このグラフの数字は、右にありますように、副業者全体に占める各業種の割合をお示ししたものです。左のブルーが2002年の割合で、右のオレンジが2012年の割合です。2012年のほうを見ていただきますと、本業の業種が、「卸売・小売業」「医療・福祉」である副業者が多くなっております。また、2002年から2012年の変化を見ていただきますと、「卸売・小売業」等が減少傾向にある。これは左側を御覧いただくと分かりますが、右側が増加傾向にある業種を示していますが、「医療・福祉」等で増加傾向にあるところです。
 7ページと8ページを併せて御覧ください。副業している方の本業の業種と、副業の業種をみたものです。7ページが2012年、8ページが2002年のデータです。本業と副業が同業種の部分を太枠で囲っております。2012年の傾向を見ますと、「医療・福祉」で、本業と副業をやっていらっしゃる方が、7万4,600人、「卸売・小売業」の方が、5万1,200人、また、「教育・学習支援業」も5万200人ということで多くなっております。2002年から2012年の変化ですが、副業している方が多い業種は変わっていませんが、総数自体は増えていますが、「医療・福祉」の人数が増加傾向にあります。
 続きまして、9ページを御覧ください。こちらは、平成28年度に経済産業省が委託事業で実施した実態調査の結果です。副業・兼業を行う理由、左の上のグラフに、「十分な収入を得たい」というのが一番多くなっております。右の上のグラフですが、「今後の働き方の希望」としては、6割の方が、今後も副業を続けたいと希望をされています。また、本業への影響については、「スキルが高まった」「視野が広くなった」「多様なアイディアが出る」「人脈が広がった」といったプラスの認識を持っていらっしゃる方がいる一方で、「労働時間が長くなり本業に専念できない」等のマイナスの認識を持たれているという状況もあります。
 10ページです。今度は、副業・兼業している方の労働時間をみたものです。左の平均を御覧いただきますと、就業者平均と差はないのですが、労働時間を区分して見てみますと、上のグラフの右側ですが、副業・兼業している方のほうが、比較的長い週労働時間の割合が大きくなっています。下のグラフにありますように、「副業・兼業先の1週間の平均労働時間」は、約半数の働き手が週平均1~9時間という状況です。以上が、副業・兼業している方の働き手側の現状です。
 続きまして、企業側のお考え等を見てまいりたいと思います。11ページです。こちらは平成26年度に中小企業庁が委託事業で実施された調査の結果です。副業・兼業を認めていない企業は、85.3%です。副業・兼業を認めるに当たっての企業側の懸念としては、下のほうのグラフですが、「本業が疎かになる」というのが最も多くなっております。中ほど以降にありますように、「長時間労働につながる」「労務・労働時間管理上の不安がある」といったような懸念もあります。また、一番下ですが、「労災基準が明確になれば認める」といったような御回答もあります。
 12ページです。副業・兼業について政府に期待をすることは何かという問いに対しての調査結果です。「労働時間算定に関する取扱いの明確化」「社会保障関係の手続の簡素化」「労災基準の明確化」といったようなことを、半数近い企業が回答しています。
 13ページです。副業・兼業のメリット・デメリットについて整理をしたものです。一番下の欄にお示ししていますように、「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」が、平成28年に、中企庁に設置された研究会において整理されたものです。企業にとってのメリットとしては、人材育成、優秀な人材の獲得・流出防止といったものが挙げられる一方で、本業への支障、人材の流出等がデメリットとして挙げられています。また、労働者にとってのメリットですが、所得の増加、自身の能力・キャリア選択肢の拡大、自己実現の追求・幸福感の向上といったものが挙げられている一方で、就業時間の増加による本業への支障等といったようなことも不安として挙げられています。
 14ページです。こちらは今年の1月に厚生労働省で策定をした「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においても、メリット、デメリットを整理しております。労働者のメリットとしては、離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、主体的にキャリアを形成することができるといったようなことが挙げられております。また、留意点という言い方になっておりますが、②にありますように、職務専念義務等を意識することが必要だということを労働者としても留意している。また、企業のほうですが、メリットとして②にありますように、労働者の自立性・自主性を促すことができるといったような点。また、留意点としては、必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応という懸念が挙げられています。
 次に、労災保険制度に関して、現行制度及び、これまでの政府決定等について御紹介をします。16ページです。複数就業者への労災保険給付(現行制度)ということで、3点整理をさせていただいています。まず1点目、適用についてですが、労災保険制度は、雇用形態に関係なく適用の対象となります。複数就業者につきましても、それぞれで労災保険は適用されるところでございます。
 2点目、給付額に関してです。業務災害を発生させた使用者につきましては、労働基準法により、被災労働者に対する無過失の災害補償責任が課されております。労災保険制度は、この使用者の災害補償責任を代行するものでありますので、使用者から被災労働者に支払われていた賃金に基づき算定する「給付基礎日額」により給付額を決定しております。このため、複数就業者への労災保険の給付額につきましては、災害が発生した就業先の賃金分のみを算定基礎としており、全ての就業先の賃金合算分を基に補償するということはできないのが現行制度です。例の所を御覧いただきますと、就業先A・Bを兼業して、合計で月20万円の賃金を得ている労働者が仮に就業先Bで事故に遭い、就業先A・Bともに休業した場合、これはB分の月額5万円を算定基礎として補償されます。A分の労災保険給付は算定基礎とならないというところです。
 この点に関しては、過去に検討したことがあります。飛んで恐縮ですが、24ページです。平成26年に、労災保険制度の在り方に関する研究会で有識者の方々に御参加いただきまして御検討をいただきました。これは、単身赴任者の赴任先の住居と帰省先の住居間の移動とか、複数就業者については「二重就職者」と表記していますが、その事業所間の移動を「通勤災害」として保護することについてどうかということで御議論をいただいたものです。その関係で、二重就業者に係る給付基礎日額についても御議論いただいたわけですが、問題意識としては、上の囲いの「一方」の所を御覧いただきたいのですが、「労災保険制度は、労働者が被災したことにより喪失した稼得能力を補填することを目的としており、このような目的からは、労災保険給付額の算定は、被災労働者の稼得能力をできる限り給付に的確に反映させることができるものであることが求められる」のではないかという問題意識の下に検討が行われました。
 具体的には、25ページを御覧ください。(1)の「その結果」の部分ですが、業務災害又は通勤災害による労働不能や死亡により失われる稼得能力は2つの事業場から支払われる賃金の合算分であるにもかかわらず、実際に労災保険から給付がなされ、稼得能力の補填がなされるのは片方の事業場において支払われていた賃金に見合う部分に限定されることになる。特に、賃金の高い本業と賃金の低い副業を持つ二重就職者が、副業に関し業務上又は通勤途上で被災した場合には、喪失した稼得能力と実際に給付される保険給付との乖離は顕著なものとなる。また、既に厚生年金保険法の老齢厚生年金等や健康保険法の傷病手当金については、同時に複数の事業所から報酬を受ける被保険者については、複数の事業所からの報酬の合算額を基礎とした給付がなされることとされています。
 少し飛びますが、(2)の直前の所ですが、二重就職者についての給付基礎日額は、業務災害の場合と通勤災害の場合とを問わず、複数の事業場から支払われていた賃金を合算した額を基礎として定めることが適当であるということで整理をされました。
この研究会の中間取りまとめを受けて労災保険部会で御議論をいただいております。その結論が26ページです。冒頭で申し上げましたように、複数就業者の事業場間の移動、あるいは単身赴任者の赴任先住居と帰省先住居間の移動については、通勤災害保護制度の対象とするということで、当時この後、法律改正が行われております。今議題になっている、複数就業者に係る給付基礎日額に関しては、一番最後の尚書きの所ですが、使用者側の委員から、兼業を禁止している事業場が非常に多い現状で、広く補償を及ぼすというのは、時期尚早ではないかといったような御意見が出されまして、引き続き検討を行うことが適当ということで、この検討は現在に至るまで、特にこれ以上はなされていないというのが現状です。
 恐縮ですが、17ページにお戻りください。適用、給付額に続きまして、3点目、労災認定に関する現行制度です。労災保険制度は、先ほど御説明しましたように、労働基準法による個別事業主の災害補償責任を代行するものですので、労災認定における業務起因性の判断に当たっては、就業先の業務上の負荷と災害との相当因果関係を個別に判断をしています。このため、全就業先の業務上の負荷を合わせて評価するという取扱いはしていないところです。これは、判例もありまして、参考の所にお示しをしておりますが、これは2つの事業場で就労をし、脳・心臓疾患を発症したケースですが、下から2行目ですが、「両事業場での就労を併せて評価して業務起因性を認めて労災保険給付を行うことは、労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合に保険給付を行うと定めた労災保険法12条の8の明文の規定に反する」ということで、平成27年に大阪高裁で判決が出されているところです。例として、1つ示しておりますが、A・Bを兼業して、就業先のAで週40時間、Bで週25時間の業務に従事した方が、脳・心臓疾患を発症した場合、今の認定基準では、発症前1か月におおむね100時間を超える時間外労働(1週辺り40時間を超えて労働した時間)が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされております。A・Bともに、この働き方では業務と発症との関連性が強いとは評価できない、つまり、基準法による個別事業主の災害補償責任が生じているとは言えないということで労災認定はされないケースということになります。一方で、仮に単一の就業先で、同じ時間の労働を行った場合は、月100時間の時間外労働が認められ、労災認定をされるケースになるということでございます。
 以上が、現行制度の説明です。次に、19ページを御覧ください。働き方改革の関連の中で、複数就業者の労災保険制度のあり方に関する部分もありますので御紹介をいたします。まず、閣議決定文書等の中で、昨年の3月に、働き方改革実行計画が策定されております。冒頭の所ですが、「副業・兼業を希望する方は、近年増加している一方で、これを認める企業は少ない。労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図る」とされております。企業が副業・兼業者の労働時間や健康をどのように管理すべきかを盛り込んだガイドラインを策定し、副業・兼業を認める方向でモデル就業規則を改定する。更に、複数の事業所で働く方の補護等の観点や副業・兼業を普及促進させる観点から、雇用保険及び社会保険の公平な制度の在り方、労働時間管理及び健康管理の在り方、労災保険給付の在り方について検討を進めるという実行計画が策定されております。
 昨年の12月に、新しい経済政策パッケージということで閣議決定をされている中にも、この論点がありましたし、先般6月15日、未来投資戦略2018ということで閣議決定をされておりますが、この中においても、副業・兼業の促進に向けて、働き方の変化等を踏まえた実効性のある労働時間管理や労災補償の在り方等について、労働者の健康確保や企業の予見可能性にも配慮しつつ、労働政策審議会等において検討を進め、速やかに結論を得ると、盛り込まれたところです。
 今、出てまいりましたガイドラインを策定するということに関しましては、今年の1月に策定されており、20ページに概要をお示ししております。このような形で今年の1月に策定されております。モデル就業規則も改定されておりまして、21ページが改定前のモデル就業規則ですが、中ほどにありますように、遵守事項として、⑥の所ですが、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」というのがモデル就業規則でした。これを次のページにお示ししておりますが、この遵守事項を削除した上で、労働者は勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。従事するに当たっては、事前に会社等に所定の届出を行うといった形で、いろいろな留意事項が盛り込まれることで、改定が行われています。
 続きまして、23ページです。御説明をしてまいりましたように、働き方改革実行計画以降、そこに書かれたことにつきまして、ガイドラインを作ったり、モデル就業規則の改定を行ってきたわけですが、残された課題としては、右下のほうに記載していますが、副業・兼業に係る制度的な課題について検討をしていくということになっています。論点につきまして、現行制度の3点に注目をして御説明をいたしましたが、適用については、複数就業者に関する特別な論点というものはありません。資料の1-2を御覧いただければと思いますが、給付額と労災認定に関して今後、御議論をいただきたい論点案ということでお示ししております。まず、給付額については、複数就業者の全就業先の賃金合算分を基に労災保険給付が行われないことについて、どう考えるか。複数就業者の全就業先の賃金合算分を基に労災保険給付を行うとした場合、労働基準法の災害補償責任について、どう考えるか。次に、労災認定に関しては、複数就業者の全就業先の業務上の負荷を合わせて評価して初めて業務起因性が認められる場合、労災保険給付が行われないことについて、どう考えるか。また、複数就業者の全就業先の業務上の負荷を合わせて業務起因性の判断を行い、労災保険給付を行う場合、労働基準法の災害補償責任について、どう考えるかということを論点の案として整理をさせていただきました。私からの御説明は以上でございます。

○荒木部会長 ありがとうございました。それでは、ただいまの説明について御質問、御意見等があれば、よろしくお願いいたします。

○浜田委員 丁寧な御説明をありがとうございました。私からは、私自身が所属しております産業別労働組合UAゼンセンの実態を少しお話させていただきます。御説明いただいたように、7、8ページに副業をしている働き手の方の数字が書いてありますけれども、副業をしている者が多いとされている「卸売・小売業」の労働者や、急激に増えてきたと言われております「医療・福祉」の介護士、いわゆるヘルパーなどの組合が、UAゼンセンには大変多く加入しています。
 数字自体は調査をまだしていませんが、実際に介護ヘルパーをしている組合員等の話を聞きますと、1社だけでは十分な業務量や賃金は到底得られないということで、数社の掛け持ちをしているという声は非常に多く聞いております。副業・兼業については、政府が推進すべきものではないと、そもそものところでは考えますけれども、現在でも生計の維持などのために必要に迫られて複数の就業先で業務をこなす労働者がいるという実態がありますので、そうした労働者を保護する観点からは、今回の労働保険給付の見直しの検討は非常に重要だと考えております。補償の意味では是非、積極的に検討いただきたいと思っております。

○立川委員 複数就業者の労災保険給付の在り方の見直しについては、労働者側としては本部会でも求めてきた問題でありますし、見直しに向けて積極的な論議が行われることについては歓迎いたします。ただ、この資料の中で、兼業とか副業によって創業や新事業の喪失が増加するという考えについては、少々疑問を呈するところです。というのは、副業・兼業をされている大方の方々の収入が299万円以下という中で、生活給のために働いているという方が多いのではないかと思います。そうした意味では、直接的に創業とか新事業への進出というのはなかなか考えにくいのではないかということや、確かに所得は増加しますけれども、この所得の増加というのは生活のための費用の増加を必要としているのではないかという観点が非常に強く表れている資料だと思います。労働時間も増えるようなことがありますので、健康管理の問題というのも改めてしっかり検討していただきたいと思うところです。
 そのようなことをまとめてというわけではありませんが、収入の面ということを考えていきますと、複数就業者というのは支払を受けている賃金の総額で生計を立てている方がほとんどだということが、この資料の中で分かってくると思います。そのような場合であっても、現行の制度では、労働災害により障害を負って労働不能になった場合、発生した災害に関わる事業所から支払われた賃金を基に、障害補償であるとか、遺族補償が算定されることになります。結果、そうしますと労働不能や死亡によって失われる稼得能力は複数の事業所から支払われる合算分であるにもかかわらず、実際の労災保険からの給付は片方の事業所から支払われていた賃金を基にしたものになりますので、稼得能力が十分填補されない状態にあるということが言えます。
 そういうことから、複数就業者がどこで災害に遭うかによって得られる給付が異なるというのは非常に問題があると思っています。そうした意味でも、複数就業者の賃金合算分を基に労災保険給付を実施する方向で検討をお願いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

○田久委員 2人の方とちょっと重なってしまうかもしれませんが、私も同じように賃金合算分での給付というものを是非検討していただきたい。労働者を守るという観点から見ると、やはりそこをきっちり持っていかなければいけないと思っていますが、副業・兼業に関して言いますと、現状で、そういった不利益を被っている労働者を守っていく立場としては改善を求めていくと同時に、やはり副業・兼業が本当にそういったところではやるべきという根本的なところの話も含めて議論はしていく必要があるのかと思っています。
 アンケート、実態調査で見ますと、数字的に分かれば是非教えていただきたいのですが、十分な収入を得るためということで副業をやっているという中で、今後も兼業や副業をしたいのかということを聞いていただいて、収入が増えればやりたいのかやりたくないのかというのも聞いて、実態として把握をしなければ、そういったものが増えているという答えにはならないと思っていますので、やはり実態調査としては、そういった観点も含めて調査をしながら検討をしていただければと思っています。

○秋田委員 資料で、ちょっと一点確認です。10ページの兼業・副業の現状という所で、労働時間の内訳で、労働時間に応じて色分けで割合が示されているのですけれども、3つ目の就業者平均の所が、微妙に区分が、緑が30~42時間になっていたり、紫の所が43~48時間と、上の2つと合っていないのですけれども、合わせたデータというのはないのですか。

○荒木部会長 事務局からいかがですか。

○労災管理課長 この就業者平均のデータは、一番下に書いてありますように、労働力調査の結果ですので、労働力調査の時間区分による表記になっております。一方で、副業をしていらっしゃる方の調査は、平成28年度の経産省の委託事業の結果から引いておりまして、その労働時間の区分をそれで表記をしているというところです。経産省の労働時間区分に合った他の統計調査というのがなかったもので、ちょっと分かりにくくなっておりますけれども、このような表記にさせていただいております。

○秋田委員 状況は分かりました。微妙にずれているということだけは確認できました。

○荒木部会長 ほかにはいかがでしょうか。

○坪田委員 諸外国の制度について記載された27ページの参考資料ですが、その中でドイツとフランスにつきましては給付額の合算が認められているという中で、これらの国の制度において、使用者の労災補償責任に相当する部分についてどのように考えられているかという点と、このような制度のメリット、デメリットがもしあれば、お聞かせ願いたいと思います。よろしくお願いいたします。

○荒木部会長 では、事務局からお願いいたします。

○労災管理課長 27ページの資料の説明をしておりませんで大変恐縮です。このお示ししております結果というのは、JILPTで諸外国における副業・兼業の実態調査ということで、労災に限らず調査をされたものの中にたまたま労災に関する記述もあったものを切り取らせていただいていますけれども、今御指摘のあった点を含めて今後、更に情報収集をしてまいりたいと思います。申し訳ございません。

○荒木部会長 岩村委員、どうぞ。

○岩村委員 今、私のほうで分かっている範囲だけでお答えしますと、フランスについては日本の労働基準法上の災害補償に相当する制度はないので、労災保険に相当するものだけで補償をやるという給付をやっているということだと思います。多分これは水島先生のほうがお詳しいと思いますが、ドイツも同じだと私は理解しています。

○水島委員 よろしいでしょうか。今、岩村委員から頂きましたように、ドイツも同様です。ドイツは労災保険という仕組みが、災害保険制度という形で、もっと広い制度になっていますので、その点も日本とは大きく異なる点と理解しております。

○荒木部会長 よろしいでしょうか。

○村上委員 今、複数の労働側の委員から同様の意見を申し上げていますけれども、資料1-2に今後の論点が示されておりますので、これについて申し上げたいと思います。まず、給付額については、以前より私どもとしては課題であるということを申し上げてきていまして、やはり合算した賃金額を基に給付を行っていくべきであろうと思っておりますし、そのために必要な法改正を行うべきだと考えております。その下のマルでは、労働基準法上の災害補償責任等との関係についても記載されておりますが、労災保険制度は随時の法改正により年金給付の制度化もされておりますし、給付日額についても上限・下限を設定する等、既に社会保障化してきていると考えており、労基法の災害補償と関連はありますけれども、既にそれを越えているところもあると思っております。そうした観点での検討をお願いしたいと思っています。
 その下に労災認定について記載がありますが、その点に関しても、やはり慢性的、持続的な疾病については通算していくべきだろうと考えております。具体的には、これまでも、じん肺であるとか、アスベストであるとか、放射線などについては、異なる事業場での負荷を通算してきておりますので、労働時間であるとかエピソード等についても、合わせて業務起因性を考えていくべきではないかと考えております。
 先ほど17ページの資料で具体的にどのような課題があるのかということで、単独の事業上では時間外労働はないけれども、通算すると1か月100時間を超える時間外労働に相当する場合には、現行では労災認定はされないというケースだけではなくて、それぞれの事業場ごとに時間外労働が50時間あったといったようなケースであっても労災認定がされにくいということであるとか、あるいはハラスメント関係であるとか、業務の負荷について大変プレッシャーの多い仕事に2つ就いていた場合などについても認定の問題が考えられるのではないかと思っています。そうしたことから考えると、やはり通算していくことが必要ではないかと考えております。以上です。

○荒木部会長 論点についての御意見でしたね。ほかにはいかがでしょうか。特段ほかには御意見、御質問はないということでしたら、ただいまの意見も踏まえつつ、今後どう取り扱うか検討してまいりたいと思います。
 本日は、もう1つ議題があります。第2の議題は、労災診療費の改定についてです。事務局より説明をお願いいたします。

○補償課長 続いて、「労災保険診療費の改定について」御報告を申し上げます。資料2の3ページを御覧ください。労災診療費の算定につきましては、労災診療費の仕組みのとおり、見ていただきますと、健康保険の診療報酬点数に準拠しているものと、いわゆる労災特掲項目ということで労災独自に項目を定めているものがありまして、これについては健康保険の診療報酬を改定すると同様に、2年に1度の頻度で見直しを行っているところです。
 1ページに戻っていただいて、昨年の12月20日に健康保険の診療報酬改定率が診療費本体でプラス0.55%等と発表されたことを受けて、労災における影響を積算し、追加で約10億9600万円の予算を確保したものです。その内容は大きく2つに分かれて健康保険の診療報酬改定に連動する項目の改定による影響額が約9億5800万、労災特掲に及ぼす影響額が約1億3700万となっているところです。今回の労災診療費の改定について、大きく4つの項目について改定を行ったところですので、それについて引き続き、御説明させていただきます。
 まず1つ目ですが、術中透視装置使用加算の対象部位の拡大です。労災事故の特徴といたしまして、墜落、転落や転倒等にわよる骨折が多く、各複雑な骨折を伴うものが多いことから、被災労働者の早期職場復帰を図るためには、これらの部位の早期治療・療養が必要となっております。術中透視装置を用いた手術は、骨折部の皮膚の解説部分が小さく済むために被災労働者への負担が少なく、術後、早期にリハビリテーションを行うことが可能となり、早期職場復帰に効果があることから、術中透視加算の対象部位の拡充を図ってきたところですが、今回の改定において、手首から手全体に拡大をしたものです。
 2ページを御覧ください。2つ目は、職場復帰支援・療養指導料の拡充についてです。今回の健康保険の診療報酬改定において、がん患者の治療と仕事の両立の推進等の観点から主治医が産業医からの助言を受けて、患者の就労の状況を踏まえて治療計画の見直し、再検討を行う等の医学的管理を行った場合の評価が新設されたところです。労災保険においても、傷病労働者に円滑な職場復帰を促す取組が重要であるということから、これまで産業医に対する文書での情報提供を評価する仕組みはあったものの、産業医等から治療上、望ましい配慮等について助言を得て治療計画の再評価を実施することに対する評価は設けられていなかったものですから、「療養・就労両立支援加算」ということで新設をし、評価ができるようにしたものです。
 具体的には、4ページを見ていただければと思います。上のほうで見ていただきますと、これまでは職場復帰支援・療養指導料ということで、その他の疾病の場合は月1回420点ということになっていましたが、今回はその下にありますように、産業医からの助言や口頭の指導を受けて、それに基づいて主治医が新たな対応を行った場合については、「療養・就労両立加算」として600点を加算するということで、一般には420点と600点を加算して1,020点ということで、健康保険に準拠した形の金額になるということです。
 2ページに戻っていただいて、加えて社会復帰の取組の実態を踏まえ、算定要件である入院治療を伴わず通院療養を3か月以上継続しているものという所の「3か月」を、「2か月以上」ということで、対象を拡大させていただきました。
 3つ目ですが、職業復帰訪問指導料の拡充についてです。こちらも通院と同様に、「3か月以上」というところを「2か月以上」ということで、対象を拡大させていただいています。4つ目は、四肢以外に行った創傷処置の取扱いについてです。今回の健康保険の診療報酬の改定におきまして、創傷処置が45点から52点への引上げが行われたことにより、当該処置については外来管理加算の特例の取扱いの対象から除外されましたが、労災保険においては労災事故の特殊性を考慮し、四肢以外に行った創傷処置は、従来どおり45点として算定できることとして引き続き、外来管理加算の特例として52点を加算するということにしたものです。これまでどおりの点数の全額を支払えるようにしたということです。以上です。

○荒木部会長 ただいまの説明について、何か御質問や御意見等があればお願いします。

○砂原委員 御説明ありがとうございました。確認したいのですが、例えば今の職場復帰支援・療養指導料の拡充とかというところがありましたけれども、この辺は今回の診療報酬改定において両立をするために産業医との意見書のやり取り等があった場合には1,000点、体制加算があればプラス500点で1,500点が付いたものに対して、こちらを同様な形に手当をされたということを先ほど御説明いただいております。微妙に点数が違うなと思いました。ただ、算定要件等も微妙に違うように感じました。多分、労災からのほうが多少幅広い範囲に対する報酬となっているため、若干手厚い給付がされる形なのかと思いましたが、普通の私病よりも業務災害等で労災の給付を受けて治療を受ける人は、よりきちんと復職をしてもらいたいという願いからと言うと変ですが、そういう観点から若干高めの報酬になっているという認識でよろしいのでしょうか。

○補償課長 3ページをちょっと御覧いただきますと、2番の所で労災独自の取扱いというのがありますけれども、右側の具体例の診療単価は、健保が1点10円に対して1点12円ということで、このように微妙に労災のほうについては若干厚めの対応になっています。

○砂原委員 ありがとうございました。それと、あともう1つですが、(3)で職場復帰訪問指導料の拡充というのがあるのですが、ガイドライン等を策定していろいろな治療と職業生活の両立に取り組んでいると思います。この指導料では、医療職が事業主の事業場を訪問して、事業主に対して指導を行うというようになっています。小職の認識では、従来は余りそういう形では両立支援が行われていなかったのかと思いますが、利用実績はどの程度あるのですか。

○補償課長 ちょっと今は手持ちにはありませんので、後ほど報告させていただきたいと思います。

○砂原委員 ありがとうございます。

○荒木部会長 ほかに何か御質問、御意見等はございますか。よろしいでしょうか。それでは、第2の議題は報告事項ということなので、承っておきたいと思います。第1の議題は、なかなか難しい問題で、諸外国の制度、あるいは労働時間の通算等々の問題もありまして、併せて考えなければいけない課題だと思いますので、今後この部会でも議論を深めていきたいと考えております。
 それでは、ほかに御意見がないということでしたら、本日の部会は以上といたします。本日の議事録の署名委員は、労働者代表の立川委員、使用者代表の二宮委員にお願いすることといたします。次回以降については、事務局から何か御連絡はありますか。 追って、また調整して御連絡ということでよろしいですか。

○労災管理課課長補佐(企画) 失礼いたしました。次回は7月17日を予定しておりますので、また場所等は追って御連絡させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

○荒木部会長 それでは、そういうことといたします。本日は、どうもお忙しい中ありがとうございました。
 

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