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2017年12月5日 第3回労働政策審議会労働政策基本部会

政策統括官付労働政策担当参事官室

○日時

平成29年12月5日(火) 10:00~12:00


○場所

厚生労働省 省議室(9階)


○出席者

(委員)

岩村氏、大竹氏、川崎氏(テレビ会議)、古賀氏、佐々木氏、長谷川氏、守島部会長、山川氏

(ヒアリング対象者)

上田恵陶奈氏(株式会社野村総合研究所 未来創発センター2030年研究室)
山本勲氏(慶應義塾大学商学部教授)

(事務局)

藤澤政策統括官(総合政策担当)、本多総合政策・政策評価審議官、奈尾労働政策担当参事官、大竹企画官

○議題

・ 技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について(ヒアリング)
・ その他

○議事

 

○守島部会長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第3回「労働政策審議会労働政策基本部会」を開催したいと思います。

 皆様方におかれましては、大変お忙しい中、御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。

 それでは、冒頭のカメラ撮りはこのぐらいまでとさせていただきたいと思います。御協力、よろしくお願いします。

(報道関係者退室)

○守島部会長 本日は、所用により石山委員、入山委員、大橋委員、後藤委員、武田委員、冨山委員、御手洗委員が御欠席でございます。川崎委員は、ごらんのとおり、TV会議での御出席ということになっております。よろしくお願いします。

 また、本日は委員の皆様方のほかに、ヒアリングのために慶應義塾大学商学部教授の山本様、株式会社野村総合研究所未来創発センター2030年研究室、上級コンサルタントの上田様においでいただいております。

 それでは、議事に入りたいと思います。本日の議題は、第1に「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」、第2に「その他」となっております。

 本日の進め方について簡単に御説明をしたいと思います。議題1の「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」ですが、最初に事務局より10分程度の資料説明をしていただいて、その後、本日ヒアリングのためにおいでいただいております山本様より「AIが日本人の働き方に与える影響に関する論点整理」について20分程度御説明いただきます。その後、その内容について20分ほど質疑応答を行いたいと思います。

 山本様の御説明に対する質疑応答の後、同じくヒアリングのためにおいでいただいております上田様より「AIと共存する未来~AI時代の人材~」について20分程度御説明いただいた後、その内容について20分程度質疑応答を行います。

 その後、引き続きまして議題2の「その他」ですが、議題1の事務局説明・ヒアリングを踏まえ、AI等の技術革新は労働にどのような影響を与えると考えるか、労働政策にAI等をどのように活用できるか、技術革新の労働への影響を踏まえ、今後の労働政策はどうあるべきか等の観点について、自由に御議論を願いたいと思います。

 それでは、説明が長くなりましたけれども、議題1の「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」、事務局より御説明をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

 では、奈尾さん、お願いします。

○奈尾労働政策担当参事官 労働政策担当参事官の奈尾でございます。よろしくお願いいたします。

 資料1をごらんいただきたいと思います。「技術革新が労働に与える影響について(先行研究)」ということで、まず1ページをごらんいただきますと、6つございます。1番といたしまして野村総合研究所レポート。労働人口の約49%が技術革新により代替可能性が高いというものでございまして、これがかなり大きな議論を呼んだものですから、まず1番から御説明した上で、2、3、4、5は、政府が出しております主な労働にかかわる技術革新の影響というものでございます。政府におきましては、労働にかかわるもの以外でも分析されているかと承知しておりますが、労働に関するものを抜き出したものでございます。

 6番がアーンツという方のOECD諸国における自動化の話を書いてございまして、これは1番の野村総合研究所レポートと若干対をなすものでございますので、紹介させていただくというものでございます。

 中身ですが、2ページ、1番をごらんいただければと思います。201512月に公表されました野村総合研究所レポートにおきましては、上の囲みの2つ目の○、オックスフォード大学のオズボーン准教授等との共同研究におきまして、国内601種類の職業について、AI等による代替可能性を試算したものであります。

 下の内容のポイントの1つ目、1020年後に、日本の労働人口の約49%が技術的には人工知能等により代替できるようになる可能性が高いと。3ページをごらんいただきますと日、英、米の比較がございますが、日本は英、米よりも代替可能性が高いとされているわけであります。

 2ページの内容のポイントでございますが、1つ目の○に「技術的には」とございますけれども、あくまでコンピュータ等による技術的な代替可能性を見ている。実際は社会・環境要因があるのですが、そこは考慮されていないということかなと理解しております。

 続きまして、4ページ、経済産業省の「新産業構造ビジョン」。ことしの5月に公表されたものでございまして、2つほどシナリオをつけていまして、そのシナリオごとに従業者数等がどうなるかというのが大まかな予測の概略でございます。

 内容のポイントの1つ目の○であります。2030年度まで、現状放置シナリオと変革シナリオ、2つシナリオをつくっておりまして、現状放置シナリオというのは、潜在成長率が低位で推移する場合であります。一方で、変革シナリオは、潜在成長率が上昇し、消費や投資が拡大するというシナリオでありますが、従業者数の減少が大幅に違うというのが結論でございます。

 内容のポイントの3つ目の○であります。第4次産業革命によるビジネスプロセスの変化は、新たな雇用ニーズを生み出していくということで、就業構造の転換に対応した人材育成や、成長分野への労働移動が必要ということで結論づけられてあります。

 具体的に現状放置シナリオ、変革シナリオはどうなるかというのが5ページ以降でございまして、5ページの下の試算結果をごらんいただきますと、現状放置シナリオ、変革シナリオごとのGDP成長率、賃金上昇率、名目GDP成長率が書いてあります。一番上の実質GDPでごらんいただきますと、0.8%、2.0%とかなり大きな違いがあります。

 書いておりませんけれども、参考までに2016年度の実質GDP成長率は1.3%でありまして、ここ3~4年ほど、平均すると1%強の成長率があるわけでありますが、現状放置ですと、それを下回る可能性が高いということであります。

 賃金上昇率もプラス2.2とプラス3.7で大幅な違いがある。2016年度の名目賃金指数は書いておりませんが、15年度を100とすると、16年度はプラス100.06ということでございます。

 名目GDPも、特に2030年度になると大きな違いが出てくる。200兆円以上の違いが出るということであります。足元、2016年度の名目GDPは約538兆でございますので、そこからの伸びが全く違うというものでございます。

 6ページ、7ページに産業構造、職業別の試算状況がまとめてございます。右から2番目の従業者数をごらんいただきますと、現状放置の場合は、上から3つ目、➂顧客対応型製造部門、上から4つ目、➃役務・技術提供型サービス部門、この2つで特に大きな減少が見込まれています。

 対して、上から5つ目の情報サービス部門、上から6つ目のおもてなし型サービス部門、こういったところでは、変革シナリオではプラスがかなり見込まれるというものでございます。

 7ページ、職業別の従業者数のところを開いていただきますと、右から2つ目の職業別従業者数でごらんいただきますと、現状放置のほうですと、上から2番目、製造・調達、下から2つ目の➇➇バックオフィス、一番上の上流工程、こういったものでは特に減少が大きい。逆に変革シナリオにおきましては、➄のサービスとか➂の営業販売等を中心に増が見込まれるというものでございます。

 続きまして、8ページ、総務省の情報通信政策研究所のAIネットワーク社会推進会議報告書。これも最近出たものでございます。AIネットワーク社会推進会議というのを昨年10月から開催しておりまして、そこではAIの影響、これは労働に限らないのですが、AIのさまざまな分野での利活用の場面を想定して、どういったインパクト、リスクがあるかというのを整理したもの。その中で、特にAIについて開発原則を9つほど立てていまして、例えば制御可能性原則とかプライバシーの原則といったものがあるようでありますけれども、そういったものも整理していくということがこの研究の動機であったかと承知しています。

 内容のポイントで雇用関係について書いてありますが、1つ目の○、雇用が減少することが見込まれる業務もあるものの、付加価値の高い業務への配置転換や新たな雇用の創出の可能性もあるということであります。

 3つ目の○といたしまして、円滑な移行のための教育や人材育成が重要であるということであります。

 書いておりませんが、この報告書の中では次のような点も触れられておりまして、一部でAI等による雇用代替論があるのだけれども、何が代替可能かとされている職種は主観的な予測をベースにしていて、信頼性は高くないのではないかという話でありますとか、あるいはAIシステムのサポートによって、特に女性・高齢者等の活躍の促進の機会については好影響があるのではないかといった分析もされてございます。

 続きまして、9ページ、当省でやっている研究会報告でございます。この報告は28年度の調査研究事業でございますが、幅広い産業分野の企業に対してアンケート、インタビューの調査を行っていたものであります。

 内容のポイントでございますが、人手不足と相殺される部分があるため、AI等の活用によって全体の雇用量を減らすように働くことは、直ちに今、働いている人の雇用をなくすことを意味するわけではないということを書いてございます。実際インタビューでは人手不足が補えるという意見もかなり多かったようでございますので、こういうまとめ方は一つございます。

 一方で、省力化が人手不足を上回れば失業が生じる可能性は当然あるということであります。書いておりませんが、当然ミスマッチの失業というものもあり得ますので、そういったものも留意すべきかと思います。

 2つ目の○でありますが、強い影響を受けると予想されている部門、具体的には総務・人事とか調達・仕入れといったものが中心でありますが、あるいは年齢層を対象に、AI等による業務や役割の変化への対応。具体的には能力開発機会の提供等を早急に行うことが必要であるとされています。

 企業も、一方でAI等の投資を行って、新たな価値の創出のためにAI等を活用していく必要があるということでございます。

10ページ、5つ目、当省でやっています労働経済白書です。これは今年の9月に公表してございます。この労働経済白書は毎年テーマを決めていますけれども、上から2つ目の○、29年度版のテーマといたしましては、イノベーションの進展への対応、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みということで、イノベーションの進展対応中心にAI等の話が出ているというものであります。

 内容のポイント、1つ目の○、AIの進展等によって定型的業務が中心の職種の就業者は減少する。一方で、新しい付加価値の創出に役立つ技術職の就業者は増加するなど、職種によってこの影響は違うということで、実態の把握に今後努める必要があるというものでございます。例えば生産工程事業者とか事務職では減が大きいのではないかということを書いてございます。

 2つ目、AIの影響といたしまして、労働時間の短縮や業務の効率化等によりまして労働生産性の向上が期待される。一方で、新しい付加価値の創出のために活用する企業は少ない。これは説明を省略いたしましたが、先ほどの9ページの研究会の報告書の中のインタビューにおきましても、生産性の向上等に役立てるという企業は多いのですが、新しい付加価値の創出のために活用する企業は必ずしもそうでもないようなことが見られております。

 3つ目の○、今後のスキルといたしまして、AIを使いこなすスキルとかコミュニケーション能力が挙げられており、こういったスキルを高めていくことが必要である。例えばOECDの昨年の報告におきましても、話す能力を仕事に使う人が多い国ほどAIによる職を失う可能性が低いといった分析がされているようでございますので、それとも軌を一にした分析であると思います。

11ページ、12ページは、ちょっと細かいので説明は省略いたしますが、AIが職場にどんな影響を与えるかとか、どんな役割を期待しているかということを分析したものでございます。

11ページの下の真ん中をごらんいただきますと、職種別の就業者変化ということで、これは先ほどの経済産業省の分析とかなり似たような結果を示しているかなと思います。

12ページは、例えば左側の「人間にやってもらわないと困る仕事」としては、コミュニケーション能力が必要とされる仕事といったものが多いかなと思います。

13ページは、アーンツ等の分析でございまして、1つ目の○で書いてございますとおり、いわゆるオズボーン報告がかなり反響を呼んでいるということで、この推計手法をちょっと見直して、アメリカやOECD諸国における実際の自動化リスクの割合について、もう一度推計してみようというのが動機であったようでございます。

 2つ目の○は、いわゆるオズボーン報告は、ある職業についている人は全て同じタスクを行っている、同じようなスキルであるという仮定がどうもあるのではないかということで、個人レベルにもうちょっと分解した推計をしてはどうかということかなと理解しています。

 内容のポイントの1つ目の○、自動化リスクの高い仕事(70%以上代替される仕事)は、OECD諸国全体で9%、アメリカでも9%にすぎない。日本の数字は出てこないので書いておらず恐縮なのですけれども、日本も多分そんなに大きくずれないかなと思います。何でこんな違いが出ているかと申しますと、同じ仕事についている人についても、経験とか属性によってかなり代替される確率が違うのではないかということで、それを全部分析、分解して回帰分析した結果、パーセンテージが大きく違うというものでございます。

 内容のポイントの2つ目の○、この研究自体も問題がある。1つ目は、技術的可能性のみに着目しており、技術の実装、費用といったものを考慮していない。そういったことを留保づきで捉えるべきではないかということかと理解します。

 最後の○、教育水準や所得水準が低い方のほうが自動化リスクが高い。技術革新による失業よりも、潜在的な格差拡大や職業訓練に注意を向ける必要性があるというのが書かれてございます。

 ちょっと雑駁でございますが、私のほうからの冒頭説明は以上でございます。

○守島部会長 ありがとうございました。

 質疑応答等はまた後でまとめてやりたいと思います。

 それでは、引き続き専門家の方からのヒアリングに移りたいと思います。

 では、山本先生、よろしくお願いいたします。

○山本氏 どうもありがとうございます。慶應大学の山本と申します。よろしくお願いいたします。

 私は、専門が労働経済学になっておりまして、働き方、労働時間ですとかワーク・ライフ・バランス、そうした研究を進めているのですが、最近、AIとの関係というところに関心があって、少しだけ研究を進めているということでして、まだオリジナルの研究をたくさんやっているというわけではないので、その点を御了解いただければと思います。

PP

 これまでやってきたことは、先ほども紹介にありました総務省の研究会のほうで研究をするということと、あと、三菱経済研究所でAIと雇用の関係について研究して、非常に薄い小冊子にまとめさせていただいたということで、きょうお話しさせていただく機会を得られたと思っております。

 ここでやっていることは、労働経済学でこの問題は余り取り上げられてはいない。ですが、領域としては労働経済学がやるべきなのではないかということと、それから先ほどもありましたが、オズボーン論文のように数字だけひとり歩きして、非常にあおる、雇用が大変なことになるといったようなことも起きているので、もう少し学術的にどういうことが議論されてきているのかというところを整理したいということがありました。

 それもあって、最初はAIの影響というよりは、少しさかのぼって、1980年代以降のICTの技術革新と労働市場の関係、あるいは普遍的に言われてきた、産業革命以降、実は技術革新が進むと雇用に影響がある、雇用がなくなるという意味では、ケインズが技術的失業、「技術失業」と呼んでいましたが、ラッダイト運動以降そういったことは常に言われてきたのですけれども、労働経済学ではどう考えてきたかということを簡単に紹介させていただきます。

 一言で言うと、スキルプレミアムモデルと言って、スキルに着目した考え方がとられていました。ここではハイスキルとロースキルという労働者がいて、技術革新が進むと、熟練ハイスキル労働者と非熟練のロースキル労働者の間の賃金格差が拡大するのではないかという指摘がなされています。それをスキルプレミアムモデルと言いまして、右側に式で書いてあるところは、この賃金格差がどういう要因によって決まってくるかというところが簡単に示されています。2つの要因がありまして、1つが、技術革新が進む。特に熟練労働者に有利な技術革新が➀だとお考えください。これが進むと格差が拡大しますということです。

 ➁のほうは、ハイスキルな労働者の数が相対的にふえる。例えば大学への進学率が高まって、スキルのついた労働者が労働市場にたくさん出てくる。これはマイナスがついていますので、そういう事態になれば格差はむしろ減少するということが言われています。これが「Tinbergenの競争」と言われていまして、つまり、技術革新の影響が出やすいかどうかというのは、技術革新のスピードもそうなのですが、高学歴化、新しい技術を使って労働する人の数が多いか少ないかによっても変わってくるということが言われています。

 図1はアメリカの賃金格差の推移をとっているのですが、例えば70年代は賃金格差が縮小しています。ここで言われているのは、技術革新よりもむしろ高学歴化のほうが進んだと。当時、アメリカは大卒が非常にふえていた。ですので、格差はむしろ縮んで、80年代以降、大卒、進学率の上昇がストップしたので格差が拡大したのだということが言われているということになります。

PP

 こうしたことは、80年代ぐらいまで当てはまると言われていたのですが、ただ、様相が変わってきまして、御案内のとおり、二極化、中間層がなくなるという現象が起きてきて、このことは必ずしもスキルプレミアムモデルでは説明できないという問題があります。

 図2は、横軸にスキルのレベルをとって職種別に並べています。賃金をスキルの大小のメジャーと考えて、左から賃金の低い職種を並べていって、一番右側がスキルの高い高賃金の職種と考えてください。これが1980年時代のものなのですけれども、縦軸は、そこから25年かけて雇用のシェアがどういうふうに変わったかと。ゼロより上だと雇用がふえた、下だと減ったということになります。見てわかるとおりに、真ん中が減っていて、高所得層、低所得層がふえるという二極化が起きている。

PP

 これは必ずしもスキルプレミアムモデルでは説明できなくて、では、かわりにタスクモデルというものが出てきまして、これは、どういった働き方ができるかというスキルではなくて、むしろどんな仕事、業務に従事しているのか、タスクに注目するべきだと。なぜならば、機械というのは、人そのものに取ってかわるものではなくて、人が行っている一部のタスクをできるようになっていくものだということで、タスクに注目するべきなのではないかという理論が構築されてきました。

 そこで、いろんなタスクの分け方があるのですが、よく使われるのは定型的なタスク、ルーチンタスク、もしくはノンルーチンタスクという分け方が一つあります。それから、分析・相互という分け方。いわゆる知的労働に当たる部分です。それから、手仕事、肉体労働に当たる部分。こういう分解をすることがよくされております。

PP

 このタスクモデルを使うと図2をうまく説明できまして、減ったところ、真ん中のあたりというのは、どうもルーチンタスクを行っている人が多かったのではないかということが示されています。ふえた両端のところはノンルーチンタスクを行っていた。ただし、ノンルーチンタスクは2つに分かれまして、いわゆる知的労働を行う専門職ですとか管理監督者などの高賃金、高スキルな職種と、もう一つがサービスや肉体労働、運転や修理などを行う低賃金の職種がともにノンルーチンに分けられるのですが、2つの異なった種類のものが含まれていると説明できるということです。

 ルーチンタスクか、そうでないかで雇用の増減が決まって、二極化が起きているということで、「Routinization仮説」と言われることもあるのですが、これが最近では主流なモデルになってきているということが言えます。

 この考え方は、ルーチンタスクは、やはりICTがかなり得意とするタスクになりますので、技術、コンピュータが取ってかわられやすかったということがあります。一方で、知的労働はなかなか代替できない。ですが、同じように、決して賃金は高くないのだけれども、運転とかサービス、修理などの仕事というのは、その当時、ICT、コンピュータではまだできなかったので、人がやることが必要だった。相対的に雇用はふえたというような説明がされております。

PP

 この点が当てはまるかどうかというところが図3に示してありますが、これはいろんな方が研究していますが、日本でもアメリカでも専門的・技術的職種がふえて、一方でサービスもふえていて、それから生産工程とか事務が伸びないか、減っているという傾向がある程度見られるということで、タスクモデルが最近では当てはまるということが言われています。

PP

 以上が過去を振り返ったこれまでの労働経済学の潮流なのですが、ここから言えることは、まずスキルプレミアムモデル、この含意というのは決して古くなっていなくて、大事なのは、労働供給が多ければ、決して労働市場に負の影響が生じない。どういう労働供給かというと、新たな情報技術を活用できる労働供給ということで、含意としては、スキルやリテラシー向上があって、新しい技術を使える人が多くなれば、賃金格差とか失業ということは少なくなるだろうということはまず大前提として言えるかと思います。

 タスクモデルという考え方は非常に大事でして、特に日本ではAIというのが、人造人間のようなものができて、突然隣の人が機械に取ってかわるというようなイメージにとられることが多いのですが、決してそうではなくて、従事している仕事の部分的なタスクが技術に取ってかわられるのだと。そういう視点を持って今後の影響を考える必要があるだろうということです。言いかえれば、人と同じような技術ができなくても、もっともっと手前の段階で人の行っているタスク、仕事が技術に置きかわる可能性が非常に大きいというところがあるかと思います。

PP

 8ページは今後の話、AIによってどう変わっていくかというところなのですが、先ほど挙げた図2をもう一度挙げているのですが、今後懸念されるのは、図2で低賃金だけれどもまだ職があったと。つまり、コンピュータではできなかったサービスとか運転の仕事が、技術革新が進むとAIやロボティクスによってできるようになってしまう。自動運転などは最たるものかと思いますし、サービス業というのもどんどんそういう技術が入ってくる。そうなってくると、これまではノンルーチンのいわゆる手仕事タスク、肉体労働に当たる部分は雇用の受け皿として機能していた可能性があるのですけれども、そこがなくなってしまうということで、失業が懸念される。これが恐らくオズボーン氏らが強調したいことなのだろうなと思います。もちろん、高いスキルの仕事、タスクも取ってかわられる要素はあるのですが、ただ、まず取ってかわられると思われているのがサービス、運転の仕事だろうと考えられています。

PP

 オズボーン氏らの研究は、先ほど説明があったとおりなのですけれども、最近日本のデータを使ってデイヴィッドという人が同じような研究をして、やはり55%の仕事が代替可能だということを示しているということになります。

PP

 留意点ですが、先ほど事務局のほうからも御説明がありましたが、私のほうでも幾つか挙げさせていただきます。ここでは「AI技術失業」と呼んでいますが、こういういろんな主張があるのですが、特にオズボーンのものは主観的な予測に基づく。恐らくこの後、野村総研さんから少し説明があると思うのですが、もととなっているのは、70職種、代表的な職種を取り上げて、この職種が将来代替されるか、されないかというところを専門家、論文には機械学習の研究者が選んだと書いてありますが、それが将来を予測しているわけです。その情報をもとに700職種に広げていっているということなので、いわゆる教師データに当たる部分に、これはしようがないのですけれども、主観的な予測が入ってしまっているというところがあります。

 予測をしている人が機械学習の研究者と論文には書いてあったのですが、必ずしも機械学習の研究者が仕事に関して詳しいとは限らない。同じ職種であっても日々変わっていますし、内容は多様であるということを考えると、技術に関しては正しい予測ができるのかもしれませんが、本当に仕事が取ってかわられるかどうかというのは疑問に思ってしまうところがあるだろうというのが一つあります。

 雇用との代替可能性というのは、技術的なところだけではなくて、価格というところがないと社会実装されないというところがあって、この点も恐らく考慮されていないのだろうなと思いますし、また、この技術革新がどこで進むかというのは、例えば日本であれば、介護などの人手不足に対処するために、そういった分野でどんどん技術革新が進んでいくでしょうし、アメリカだともうちょっと違うところというふうに、労働市場の環境によってもどういう進み方をするかというのは変わってくるだろうけれども、その辺が考慮されていない可能性があるかと思います。

PP

 オズボーンらの研究では、新しくできる雇用が考慮されていないというところも大きな留意点なのだろうなと思っています。新しい技術ができると、取ってかわられるだけではなくて、生まれる雇用、創出される雇用もあるだろう。ここに代表的なもの、考えられるものを3つぐらい分類しましたけれども、AIなどの新しい技術をつくる人たちが必要になります。新しい技術を社会に普及させるための仕事もかなり必要になるのだろうなと思います。こういう新しい技術が世の中に普及されるには、補完的イノベーションが必要だということを訴えている人も多いのですが、これはどういうことかというと、単に技術があるだけでは生産性は伸びずに、それを使えるだけの組織を変える、あるいは経営の仕方を変える、働き方を変えるということが必要になってくるのですけれども、そこをやるための人も恐らくふえるだろうということが予想されます。

 さらに、そういう補完的イノベーションもあわさるとGDPがふえていきますので、経済成長に伴って雇用のパイが大きくなっていくというところで、雇用もつくられるということが容易に予想されます。

PP

 オズボーンらの研究は、何年後というのは一応掲げられていますが、技術がどれぐらい人の仕事をとるかという主張は、主張によってタイムスパンがかなり異なっている可能性があるというところも注意が必要で、究極的には全てのタスク、技術ができるようになれば、人はむしろ働かずに、技術が生み出した富をどういうふうに分配していくかといったことを考えるという姿になってくるのでしょうけれども、そこはいいのかもしれないのですが、そこに至る移行過程というのは、さまざまな課題や混乱があるというところが大事だということがあります。

 5番目が、雇用だけではなくて、失業以外への影響というのも余り触れられることがない。新しい技術ができると、当然ながらストレスの大きな仕事とか危険な仕事、やりたくないような仕事を技術にやってもらって、人はやりがいのある仕事、ディーセントワークに特化できるというような、働き方に関してポジションな側面もあると思います。技術革新によってメンタルヘルスや仕事の満足度、幸福度が向上するといった点が余り考慮されていない。

 特に日本に当てはまりますが、少子高齢化、人手不足などの状況が生じていると、むしろAIなどというのは、それを解消するためのツールになり得るというところがあるかと思います。

PP

 時間の関係で、含意というところは、今、申し上げたとおりなので、少し省略させていただきます。

PP

 最後に、日本の労働市場の特性と技術革新というところに触れてみたいと思います。日本でもRoutinization仮説、雇用の二極化が起きているかということなのですが、先ほど見た図3で見ると、アメリカほど顕著ではないのですが、ある程度起きているというところがあります。

 図4というのは、賃金の二極化というところも、上が日本になるのですが、アメリカほど顕著ではないのですけれども、ある程度見られるというところがあります。ただ、それほど顕著ではないというところもまた大事なところで、これに関連する研究として、デラリカさんたちが先ほど最後に事務局から説明のあった研究と似たようなことをやっておりまして、OECDPIAAC(国際成人力調査)を使って、職種ではなくて、個々人の労働者がどんなタスクに従事しているかという情報をもとに、ルーチンタスクインデックス(RTI)、ルーチンタスクの要素から知的作業、アブストラクト、手仕事のマニュアルのタスクの要素を引いたもので、相対的にルーチンタスクはどれぐらい大きいか、つまり、機械に取ってかわられる可能性がどれぐらい残っているかという指標をつくっています。

PP

 それを国別に並べたのが16ページになります。これを見ると、アメリカがルーチンタスクが一番少ないということになっている一方で、日本はルーチンタスクがまだかなり多いという国になっている。こういったところがアメリカほど雇用の二極化が顕著に観察されないというところにも通じるのかなというところが考えられます。

PP

 では、なぜそういうことがあるのだろうかということを一つひもとくヒントとして、日本的雇用慣行というのがあるかと思います。そこでは正規雇用を中心にいわゆるメンバーシップ型という形で、多様なタスクを正社員が行っている。これに対してよく使われるのがジョブ型という言われ方をしますけれども、アメリカのような労働市場では1人の人が1つのジョブに特化した仕事をしている。言ってみれば、タスクが非常に限定されているのがアメリカ型だとすると、技術が代替できるようになると、アメリカのほうが人単位で代替される可能性が非常にある。すぐに技術にかわる環境が整っている。日本の場合は、いろんな人がいろんなタスクを行っているので、一部の計算していたようなタスクが機械に取ってかわられるとしても、その人はほかにもいろいろ考える仕事とか折衝する仕事などを行っていることが考えられるので、どうも影響を受けにくいというところがあるのではないかと思います。

 メンバーシップ型のもとで日本では人材育成が盛んに行われていると言われていまして、かなり人的投資を行っているということがあります。ですので、機械が人の仕事をできるようになったとしても、かつ機械の価格が下がったとしても、うんと下がらないと、人を解雇するための解雇費、間接的な人的投資のサンクコストが大きくなってしまうので、なかなか代替が生じにくいというところがあるのではないかと思います。こうしたことから、日本の労働市場というのは、ある意味短期的には技術革新の影響を受けにくいというところがあるのかなと予想されます。

PP

 ただし、この状況がいつまでも続くというわけではなくて、この点は留意が必要だと思うのですが、もっともっと資本財、技術の価格が下がっていけば、当然ながら経営判断として技術を使ったほうがいい、人を切って技術にするというところは起きますし、技術革新がどんどん進んでいけば、人的投資を受けたスキルというのがもう使えなくなってしまう可能性もある。そうなってくると、日本的雇用慣行があってもAI技術失業というのは進み得るというところがありますし、また技術が汎用的な形で進んでくれば、日本的雇用慣行自体がなくなって、雇用の流動化が進むというところも考えられます。

 つまり、中長期的には、今、ルーチンタスクが残っている分、大きな反動として雇用が代替されるリスクは十分考えられるのではないかなというところがあります。

 また、ここには書いていませんけれども、国際競争を考えたときにも、例えばアメリカのような国では、雇用をできるだけ効率的に技術に変えていって、それでいい製品をつくっていくだろうということが考えられるのですが、日本ではそれをしないで、まだまだ人でできるというふうに温存してしまうリスクもあるかと思います。そうすると、競争力自体が落ちてしまって、いつの間にか雇用自体がなくなるという事態も懸念されるのかなと思います。

PP

19ページ目が非正規雇用への影響なのですが、日本の特徴として正規雇用と非正規雇用で全く違う働き方をしている可能性があります。非正規雇用が90年代以降ふえた過程で何が起きたかということなのですが、研究によっては脱スキル化が起きたということが言われています。つまり、正規雇用者が行っていた多様な、複雑なタスクを非正規雇用でもできるように整理して、タスク化していった、あるいはルーチン化していった。それを非正規雇用に担ってもらっていた。それで非正規雇用がふえていったと捉えることができるのですが、言いかえれば、非正規雇用というのは、かなりの部分ルーチンタスクを担っていた可能性があるので、そうすると、これから技術が進んで、非正規雇用がやっていたことも安い価格で技術ができるようになってくると、大量な非正規雇用の失業が生じるということも予想されています。

PP

20ページ目は、情報通信白書の検証でされていたのですが、新技術、技術そのものの利活用は日本ではかなりおくれているし、どうもリテラシーも低そうだというところが問題だということであります。

PP

22ページ目は、一方で、日本の特徴としては労働供給制約で人手不足がある。こういうもとでは、むしろAIをどんどん活用していけるというところ。かつ働き方改革を行っていくときに、AIがうまく親和的に使えるのではないか。先ほど少し出てきました補完的イノベーションがないと、技術が進んでも生産性がふえない。いわゆる生産性パラドックスというものが生まれると言われていて、今、技術革新のスピードが非常に速いので、生産性パラドックスはどんどん起きるだろうということも予想されているのですが、それを起こさせないためには補完的イノベーションを起こしていく必要があって、組織や経営改革を行っていくと。恐らくこれが働き方改革にもつながっていくのだろうと思います。

 以前慶應大学の松浦先生と私がやった研究では、IT技術と働き方改革に当たるワーク・ライフ・バランス施策の導入を同時に行っている企業ほど企業の生産性が高まるという検証結果も出ておりまして、単に技術だけではだめで、何か改革を一緒に補完的にしていかなければいけないというところが大事なメッセージになるのではないかと思います。

 駆け足になりましたけれども、私のほうからは以上になります。

○守島部会長 ありがとうございました。

 それでは、質疑応答に入りたいと思います。どなたからでもどうぞ。

○山川委員 私もこの件について余りわかっていないのですが、お話を聞く限り、物すごく簡単に言うと、将来失業しないためには、ノンルーチンができる高スキルの人を大量に育てていかないとだめだということですか。

○山本氏 まずはそう言えると思います。ただし、ノンルーチンと言っても、AIとかロボティクスが進んでくるとできる領域がふえてきていますので、必ずしもノンルーチンだったら安全だというわけでもないと思うのです。例えばよく言われているのが、銀行の融資担当の仕事ですとか、法律の判例を読む仕事ですとか、お医者さんの過去の症例をもとにいろいろな判断をするというところの大方の部分は、AIとかビッグデータを使うと判断ができて、仕事ができてしまう。そういう意味では、ノンルーチンの中でも、技術が進むと、これまでノンルーチンと思われていた仕事が実はルーチンにかなり変わっていくという見方もできるというふうに思うのです。

 ですから、できるだけルーチンの要素の少ない、本当に創意工夫をしながら進めていくとか、体を器用に使っていくということ、技術ではしにくい部分をどんどん身につけないと、今後はなかなか厳しいというところは言えるのかなと思います。

○山川委員 もう一点だけ。そういった職業、技術とかを身につけるのは、従来どおりの企業内の人材育成では到底対応できないかなというイメージなのですが、どうですか。

○山本氏 そうですね。今まで日本では企業内訓練を行ったり、オン・ザ・ジョブ・トレーニングでいろんな部署を経験してというところなのですが、恐らくそれでは難しいだろうし、あと、現在の教育内容でもなかなか難しい。教育改革が考えられていますが、少なくとも詰め込み型、暗記などというのは、今後ビッグデータを使えばAIが簡単に調べてくれるので、むしろ出てきた材料をどう判断するかというところは大事になってくると思います。まさに教育改革の方向性と似ているとは思うのですが、考える力というところ、あるいはデータをどういうふうに見るかという力を養うような方向に変えていかなければいけないのだろうなと思っています。

○山川委員 ありがとうございます。山川でした。済みません。

○守島部会長 ほかにどなたか。では、大竹さん、お願いします。

○大竹委員 とても的確に経済学での研究をまとめていただきまして、ありがとうございます。

 働き方改革との関連でもう少し教えてほしいのですが、途中紹介がありましたとおり、仕事をタスクレベルで議論しなければいけないということで、タスクの中身によってはIT化が進んでくる、自動化が進んできて、代替されていく部分もあるということなのですけれども、タスクレベルでどんどん仕事がうまく管理できるようになってくるとなると、例えばネット上で共同作業をするとかということが進んできて、副業がもっと簡単になるということもあると思うのです。

 働き方改革の一つは、ジョブ、仕事というのを一つで考えなくても、タスクレベルで管理していくという技術が進んできて、働き方そのものも変わっていくのではないかという議論もあると思うのですが、そのあたりを説明いただければと思います。

○山本氏 ありがとうございます。

 これも御指摘のとおりでして、今でもクラウドワーカーというのが注目されていますけれども、あるいはテレワークというのも今後同じ文脈で話が進んでいくのだろうなと思いますが、技術が進むことによって働き方そのものが変わりやすくなってくるだろうということは容易に想像できますし、働き方の変わり方が、同じ企業の中でテレワーク、自宅で働けるとか、近くのセンターへ行って働けるということだけではなくて、今言われたように副業ですとか、あるいは一つの企業に所属しないで、請負という形でどんどん仕事をこなしていくということも十分可能になってくると思うのです。そうすると、日本的雇用慣行そのものがなくなるでしょうし、全く新しい働き方になってくるかと思います。

 そうなると、今度は厚生労働行政に関しても、では、雇用保険をどうするとか、あるいは労働基準行政をどうするとか、雇用者でなくなってくるので、そこの仕組みもがらりと変えなければいけないというところで、進めば進むほどいろんなパラダイムが変わってくるだろうなというところは予想されるかなと思います。

 ただ、日本的雇用慣行が変わらなければいけないと言われていても、やはりまだ残っていますし、これはそれなりの経済合理性がまだあるという状況では、すぐに変わるということも考えにくいのかなと。恐らくそういう働き方が可能になったとしても、日本の企業の中でそれをうまく使ってさらに別の日本的雇用慣行ができる可能性もあるのかなと思ったりもしまして、これは今後の動向を見ていかないと何とも言えないのだろうなと思いますが、リスクとしては、雇用者が少なくなって、働き方自体、いろんな制度も変更が必要になるということが予想されるかなと思います。

○守島部会長 では、佐々木さん、お願いします。

○佐々木委員 ありがとうございます。前の質問とかかわりますけれども、2つ質問があります。

 1つは、今、先生がお考えになる中で労働とか雇用側の法律、ルールで、ここは変えていかないとこれからの新しい時代に合っていないのではないか、今の労働法などでここが邪魔してしまっているのではないかというもの、何か思い当たるものがあれば教えていただきたいということ。

 パワーポイント12ページの「失業以外への影響」のところで、上の働き方、ディーセントワークへの貢献、そして仕事満足が高まるというのは理解できたのですが、その下の人手不足、女性活躍、ダイバーシティ経営への影響、ここももう少し教えていただけますでしょうか。

○山本氏 ありがとうございます。

 まず、法的な枠組みに関してですが、余り法律は詳しくないのですが、やはり雇用の流動性というところがポイントになるのかなとも思っていまして、日本はまだ流動性が低過ぎるというところもあって、そうなってくると、技術とうまく共存していくという形がなかなかしにくい。一つの企業の中の配置転換だけで今、対応しているという状況になってくるので、いい技術を使っている企業、産業に労働者がうまく移動しやすいとか、そういうインセンティブをうまくつけていく、その部分が大事になってくるのかなと思っています。

12ページ目の働き方のところなのですが、少子高齢化、人手不足のところは、例えば高齢者が働くときに、なかなか力が出せなかったり、あるいは病気を持っていたりするときに、ロボティクスがその負荷を下げてくれるとか、先ほど申し上げたテレワークとか、いろんなところで柔軟に働けるという仕組みが整っていくと、女性、高齢者、障害者、多様な人が働きやすくなるだろうというところがここで言いたかったことになります。

○守島部会長 ありがとうございます。

 ほかにどなたか。では、古賀さん、お願いします。

○古賀委員 貴重なお話をありがとうございました。ほかの先生方の質問と関連するかもしれませんが、2点御質問をさせていただきたいと思います。

 1つ目は、AI等の技術革新によって働き方や労働市場が変化するということと社会保障・税との関係について、所見をお持ちでしたら、ぜひ教えていただきたいと思います。

 2つ目は、過去からの永遠の課題かもしれませんが、経済的不平等をどう緩和させていくのかとか、いわゆる未熟練労働者が急変する労働市場に対応するための一貫した総合的かつ長期的な政策をなかなか見出せないでいるというのが実態であると思うのです。そういう意味から、それに対するヒントになるような先生のお考えがあれば、ぜひお教えいただきたいと思います。

 この2点です。よろしくお願いします。

○山本氏 ありがとうございます。

 税・社会保障ないしは政策、制度的なものというのは当然ながら変わっていく必要があって、ベーシックインカムを入れるべきだということがよく言われているかと思うのですが、私個人的にはベーシックインカムを入れてもそれほど大きな問題解決にはならないのだろうなと思っていまして、そういう意味では、今の枠組みを微修正しながら続けていくというところかと思いますが、その中でも先ほど申し上げた雇用者でない働き方というのがどんどんふえていくだろうというところがあると思いますので、そこをどうカバーしていくかというところが大きな問題になろうかなと思っています。

 あとは、先ほどの話の中でいきますと、非正規雇用に関しては非常にリスクが高いと思っていますので、非正規雇用、次の話にも関係してきますけれども、そこをいかに機械と代替されないようにしていくのか。一時的に代替されたとしても彼らの職をどうやって見つけていけるようにするのか。そういう再教育の部分が分野としては大事だと思います。

 ですが、具体的にどういうふうにしたらいいかというところは非常に難しくて、今、非正規雇用は企業の中で必ずしも教育訓練をたくさん受けているわけでもないので、スキルはそもそも身についていない。今まで日本では企業による教育訓練が中心だったと思いますので、個人でスキルを身につけるというカルチャーのようなものもそれほどないと考えれば、そこから変えていく必要がある。自己責任でスキルをつけなければいけないというところをどういうふうに浸透させていくかというところが大事なのかなと思っています。

 2番目の非熟練の労働者をどういうふうにしていったらいいのだろうかというところは、御指摘のとおり、本当に難しい問題でして、恐らく技術革新のスピードが世代交代と同じペースで起きている分には全く問題ないと思うのですが、今はそれをはるかに超えた速いスピードで起きていますので、若いころ身につけた技術がそのまま一生涯使えるわけでもないということを考えると、熟練労働者もどうついていったらいいかというところが思いますし、ましてや非熟練はどうなるのだろうかというところがあるのかなと思います。

 ただ、一つ可能性があるとしたら、新しい技術が決して難しいものだけとも限らないと思うのです。操作が非常に簡単で、でも、高度なこともできる。その操作の仕方さえ覚える、あるいは判断するところは経験を積めばできるとなると、今までは自分で複雑な作業を行って、あるいは分析を行って出てきたものをその人が判断するということ、そこはセットになっていたと思うのですが、その部分はもう機械がやってくれると。そうなってくると、判断するところだけ人がやれるとなると、逆に経験さえ積めばいろんな人ができるようにもなるのかなと思いますので、そこも技術をどこまで人に優しく、人が利活用できるような形でインターフェースをきちんと考えていくか。技術革新を変えていくことでも非熟練労働者の雇用のあり方が変わってくるのかなというふうにも思ったりしております。

○古賀委員 ありがとうございました。

○守島部会長 ありがとうございました。

 山本先生は所用がおありになりまして、ここで退席をされますので、そろそろ山本先生への御質問はこれで終わりにしたいと思います。

 先生、どうもありがとうございました。

○山本氏 ありがとうございました。

○守島部会長 それでは、続きまして、上田さんにお願いしたいと思います。

○上田氏 御紹介にあずかりました野村総合研究所の上田と申します。よろしくお願いいたします。

PP

 事務局から御説明いただいた一番目の論文であり、山本先生にも幾つかリファーいただき、かつ批判をいただいたところの張本人でございます。オズボーンさんとの共同研究は2年も前ですけれども、その背景と、世の中に対して広まってしまった誤解に対する説明も含めて説明させていただきたいと思います。

PP

 引用いただきましたとおり、49%という数字を出しました。事務局から丁寧に説明いただいて、正しく伝わったのですが、世の中の誤解の多くは、そもそも技術的というところがついていなくて、49%が実際に変わるとNRIが言っているという誤解がございます。これはうそです。私どもは一貫して技術的な可能性であるということを言ってきました。

 かつ、この分析というのは、エクスキューズをし始めると、いろいろ理由はあるのですけれども、完全にその職業が代替できる可能性のみを指していて、一部のタスクが入ってくるようなことは分析していません。それはそういうデータがないからです。49%という数字が、イギリスの35%に比べて高いとか、米国の47%より僅差ながら多いとか、そういうことも言えなくはないのですが、オズボーンさんと私どもの共通した理解は、まず職業分類に何人の人が統計上、登録されているのかという国による違いに由来するという点です。当然職業の定義は国によって違ってまいりますので、技術は世界共通である。その意味で、先進国はすべからくかなり高い確率で技術的代替の可能性が存在している。それが統計上4935であるかということについては大した意味がないというのが私どもの理解でございます。

 私どもがこれをやった目的は、正直センセーショナルな議論を起こすことでした。何のためか。それはAIが役に立つとか立たないとか、総論で議論することに対して、そろそろそれを脱して具体論に踏み込まなければ間に合わないという危機感から行ったものです。

 職業ごとにこれが実際代替できる可能性があるのか、ないのかという数字を出すことによって、その数字の是非を含めて当事者の方々に議論いただきたいということが最大の目的でした。ですので、この数字が間違っているという批判は甘受いたしますし、それを言い返すつもりもございません。ただ、議論が前に進むための道具、たたき台として使っていただく、その程度のものだと思っております。

PP

 そうはいっても、この数字は何で出てきたのかということですけれども、山本先生もちょっとおっしゃっていただきましたが、まず、主観的なということはそのとおりなのですが、一番よくある主観の誤解は、NRIが勝手にこれはできる、できないをやっていると。それは完全に違っていて、この数字の判定そのものは、いわばAIがやっています。ただ、AIによる判定というのは、これが正しいよ、これは間違っているよというのをトレーニングセット、教師データに基づいて判定をしています。その数字を使ってO-netというアメリカの職業データベースと互換性のある厚労省さんの外郭団体、JILPTさんのデータを使ってやっています。元データは弊社のものではなくて、JILPTさんの公的な、公開されているデータです。

 教師データも、オックスフォード大学のワークショップでこういうものは代替される可能性がある、こういうものはないということを判定しているのですが、皆さん、思い返していただいて、産業革命以降自動化されている職業というのは現実にあります。このトレーニングセットで自動化される可能性があると置いているのは、実際に自動化が進んでいる職業のみです。したがって、これは主観ではなくてファクトです。これに対して否定することは不可能だと思っています。ただ、将来にわたっても代替される可能性がない。こちらは主観です。なので、その意味では、教師データの半分が主観であって、半分は主観でないというのがより正確なところでございます。

 繰り返しになりますが、私どもは、これに対して何らの人的な操作を加えずに、単純にトレーニングセットに対してアルゴリズムを適用しています。ただ、一応エクスキューズしますと、このアルゴリズムを適用した結果の説明能力は98.9。このスコアは極めて高いものですので、これをモデルとして批判することはかなり困難であるということは、統計的には言えます。

PP

 さて、最初に技術的可能性にすぎないと言いましたけれども、それの意味です。先ほど事務局側のものにもいろんな数字がありました。上は私どもの49から、下は9%まで。これらの数字は実は矛盾しないと思っています。矛盾しない理由はこちらなのですけれども、基本的にAIは何ができるかというのは、技術だけで決まるものではありません。AIはディープラーニングがすごい。これはそのとおりなのですが、ディープラーニングにおけるアルゴリズムは、単体で万能のAIになるわけでは決してありません。それが何かに組み込まれなければなりません。それが何らかのコンピュータであれ、事務機器であれ、はたまたロボットであれ、何であれ、何かに組み込む実用化、ここの部分の研究開発がいくかいかないかということによって、実際のAIサービスが利用できるかどうかが決まります。

 2番目、社会の受容性。つまり、AIでサービスされることを人々が、市民が、我々が受け入れるかどうかです。よく言われる話ですけれども、日本というのは、自販機の人口当たり普及率は世界1位である。一方で、リテールにおけるセルフレジの普及というのは先進国に劣後している。これらは技術的には進んでいるけれども、社会が受け入れなかった結果、そのサービスの普及がおくれるということを言っています。

 3番目、費用対効果です。同じデータベース型のコールセンター用のAIを各銀行さんが入れても、この効果指標を仮に人件費の単純置きかえと考えるのか、それともお客様満足度の向上と考えるのかによって、成功となることもあれば、失敗となることもあるでしょう。要は、企業のKPIの置き方次第で、そのサービスが実際にその企業に入るかどうかというのは変わってくる。その意味でも人間の意思決定によってAIの入る、入らないの数字が変わってまいります。

 最後はELSI問題です。人殺しマシンというのは一番露骨な話ですが、より身近なところで言えば、例えば警備マシンが、突入してくる何らかの不審者に対して物理的な力を使うかどうか。それが子供であった場合に、それでも排除するのか、しないのか。そういったことをぎちぎち個別具体的に考えていかなければ本当に実用サービスというのはできないわけです。

 それが要人警護であれば、それでもリスク排除を優先するかもしれないし、市民社会であればそんなことをすると多分非難されるでしょう。それは個社個社の企業さん自身が自分のサービスの具体的な場面でルールをつくらなければいけないのであって、政府のここの部分の委員会というのは大分進み始めましたけれども、それで終わるものではない。この先に個社のELSI問題の検討というのがなければ、決して終わらないわけです。その意味で、日本のこの検討というのはかなり立ちおくれているという認識がございます。したがいまして、私どもの49%というのは最大値ですけれども、現実の数字ははるかに低いところに行く。これに対しては全く同感でございます。

PP

 ただ、この49%というのは、私どもは違う意味で捉えていまして、先ほど山本先生もおっしゃっていましたが、我々のこの研究の出発点は、AIは人手不足を解消できるのかという問いでした。

 それに対して、49%しか完全代替ができないというのは、半分のところは人でやらなければならない。AIは万能でなくて、そこの部分を進められるところと進められないところがあるねということを議論して、どこに対して労働力のシフトをしなければならないのかということを議論したかったわけです。

 ここで見ていただきますと、このグラフは、横軸に雇用者数をとっており、縦軸に私どもの出した自動化の可能性を出しています。右上のところに総合事務員がありまして、それ以外にも会計従事者とか庶務の方とか、いわゆる事務職というものが挙がっております。なので、我々風にサマリーを言いますと、20世紀がロボットが製造業を自動化する時代だったのに対して、21世紀というのはAIがオフィスを自動化する時代。つまり、対象はホワイトカラーであると思っております。

PP

 よくある誤解の2つ目ですが、AIとか自動化というのは低賃金から始まってくるというような仮説がありますけれども、それは我々の研究においては少なくとも違うと思われています。この散布図では横軸が賃金でして、縦軸が自動化可能性です。賃金と自動化可能性の相関というのはマイナス0.16ということになっていまして、賃金と自動化可能性のところに相関はない。言いかえると、人間にとって価値があるかないかということと、機械にとってそれが難しいかどうかというのは全然違う軸なので、それは一致しませんというお話です。

PP

 私どもの研究には教師データに結論が入っているという根源的な問題はございます。ただ、少なくともその研究の枠内で私どもがどういうことがAIにできて、どういうことはできないのかということについてサマリーを述べるならば、ここの3つでございます。創造性と言っていると、全員がアーティストになる必要はないという批判をいただくので、言い方をちょっと変えて、意味が伝わるように「創造的思考」と書いていますが、言いかえると、経営判断もそうですし、学者の方々がやっているような思考というのもそうですが、概念で物を考えることです。つまり、アルファ碁は確かにすばらしいソフトで、人間のチャンピオンに勝ったわけですが、碁の世界には石の数が多ければ絶対勝ちだという明確なルールがあります。しかし、我々の市民社会の生活も企業の経営判断においても、ゴールが何なのかは人ごとに違いますし、また、局面ごとに違います。そのときにどの概念がどういうふうになっていて、今回は何を優先しなければならないのか、一回一回ジャッジをしてゴールを決める。これは極めて創造的な思考でして、これはAIが直ちに代替できない。つまり、AIは自分の目的を自分で定義できないわけです。

 2つ目、ソーシャル・インテリジェンス。よくコミュ力と言われているものに近いものですけれども、コミュニケーション、確かにAIはしゃべることができます。機械音声はあるのですが、しかし、情報を伝達することはできても、相手に理解してもらったり、説得したりということについては苦手であると思っております。

 ですので、同じようなコミュニケーションをする職業の中にあっても、例えばファストフードの店員については自動化することは可能かもしれませんが、ワインソムリエは難しい。そのような傾向につながってまいります。

 最後、非定型。こちらは山本先生の話の中でもルーチンタスクのところの話が出てきました。もちろん程度問題でして、最近は場合分けが何万通りあっても、AIは何万通りの枝分けをできますので、程度問題ではございます。ただ、確実に一つだけ言えることは、過去に起きていないパターンに対して、AIは答えを出せません。AIは基本的に過去に起きているデータの中から一番近いものを選んでくるわけです。類似の傾向があればいいけれども、現実には完全に一致していなくても、近いものについて推測したものを出すことはできます。しかし、競争ルールが変わったり、完全に非連続の変化が起きてしまったときに、そこに答えを出すことはできません。その意味で、柔軟な対応を求められている従業員についてはAIによる代替可能性は低いと思っております。

PP

 上側が機械による失業とかベーシックインカムを主張なさる方々のモデルですが、AIというのは入ってきて人間を完全に駆逐する、AIと人間を敵対関係に置いているような関係がありますけれども、私どもの理解では、AIというのはツールである。つまり、インターネットと同じように、従業員は使いこなすべきものであり、人間が主役です。人間が主役であって、真ん中あたりにあるようなルーチンタスクというのは大体AIがやってくれるのですが、さらにAIにデータを食べさせる。つまり、AIはデジタルでなければ食べられませんので、データをデジタル化するとか、そんなところも人の付加価値かもしれません。そんなふうに人とAIは同じ職場の中で共存するものだと思っております。

PP

 これもよくある誤解、ベーシックインカムの人たちがおっしゃるのは、付加価値の低い仕事から順番に自動化されていって、最後は何も残らないので、人はやることがなくなって、そのときの収入としてベーシックインカムがなければ保障されないというがごとき主張がございますが、私どもはそれは違うと思っています。私も入社して以来、仕事の内容がどんどん変わってきましたけれども、それは今後も変わらないと思います。すなわち、仕事が減るならば、人々は新しい仕事を始めるわけです。最終的に現在やっている仕事と同じタスクというのはごく一部しか残らないかもしれませんが、職業は内容を変えて存在すると思っております。

 あくまで一例ですけれども、私どものこの論文を契機として、会計の方々と一緒に執筆させていただいたことがあるのですが、会計事務所の方々がおっしゃったのは、チェック・アンド・モニタリングのような業務はAIに代替されるけれども、アドバイザリー業務のようなところ、コミュニケーションですが、そういった業務に会計士はシフトしていく。そういう意味では、結果的に会計士そのものは残るのだけれども、会計士が今やっている業務の大半は確かに消える。そんな関係でございます。

 ただ、そのときに、ここが高い低いというように見せかけて、実はこれは付加価値が高い低いで書いてございません。下は「機械化可能性が高い」、上は「人でなければできない」であって、それが易しいか、難しいかというのは言っていません。

 かつ、放っておいて上に行く。モチベーションの高い人はそうなのですが、そうでない人に対して、どれだけモチベーションを与えるのか、インセンティブを与えるのかというところが重要でして、スキルアップというものは、今まではOJTでやってきたわけですが、今後の人の流動性が高まる中で、企業にとっては自社を去っていくかもしれない人材に対してOJTを施すインセンティブはないわけでして、その時代に誰がモチベーションを持って人々を教育していくのか。これは極めて政策的に大きな課題だと思っております。

PP

 るる述べてきましたけれども、オズボーンさんとの共同研究の話を離れて、それ以降私どもがAI時代に人々とその組織が変わらねばならないと思っていることを若干述べさせていただきます。

 今までというのは、ある意味均質な人材がいて、大体スキルセットも同じならば、コミュニケーションのスタイルも一緒ということで効率を高めていたわけでございます。逆に言うと、自社の価値観にそぐわないような人は余り受け入れてこなかった。ただ、イノベーションは多様な人材から生まれるというのは、一応アカデミックの結論でございますので、そういう意味で言うと、多様な人材でイノベーティブな組織と効率的で均質なところというのはトレードオフで、日本は大体均質のほうをとってきた。

 ただ、AIが入ってきますと、これが効率重視の業務というのは、基本的にAIが中心になって、人がサポートしながらやっていけばいいわけですので、人がやるべきは、実はAIが苦手とする創造性の高いところに行くわけです。だとすると、先ほどの山本さんのスライドの最後のところにまさしくありましたけれども、ダイバーシティの高い組織にしていくということが重要になってくると思っております。

PP

 そうなっていくために、これもステレオタイプな書き方ですけれども、もともとは縦割りの組織が大好きな文化でございましたが、2000年代、BPOが進んでいくような中で共通業務というのをくくり出してアウトソースを始めました。ここの重要な意味は、業務の標準化を社内で行って、かつそれをアウトソースして、一気通貫でやらなくなったというところでございます。AIになるというのは、このアウトソース先がいわば人でなくてデジタルになっていくというところだと思っております。

 その意味で、AIを使いこなすためには、デジタルを前提にした業務プロセスの再構築が必要ですし、また誰が何をするのかというタスクの再設計ないし、AIとの役割分担について考えていくということが重要だと思っております。

PP

 一個一個説明すると長くなってしまうので、このページはサマリーにしていますけれども、左側が現在で、右側がこれから起こることだと考えています。これは私どもの中だけで考えているのでなくて、比較的リーディングカンパニーであるとか、山本さんの論文でもたくさん引用されていた日本内外の先生たちとのディスカッションの結論です。終身雇用から流動性が高まる。当たり前なのですが、ここにはもう一つの意味もございます。というのは、ジェネラリストの総合職がOJTで上に上がっていく。これが今までのモデルだったとすると、今後必要になるのはエキスパートだと思っています。

PP

 これの意味は、ここだけ説明のページを後ろに入れていますけれども、今までというのは、ある意味均質で、しかも教養とか、割と一般的な能力を求めている。かつこのレーダーチャートは全部が満遍なくできているような人を求めてきたのかなという気がいたしますが、そんなところの大半というのはAIで置きかえられる。せいぜいAIというのは、組織人としてのそんたくはしないぐらいだと思うのですが。

 一方、右側のところ、今後AIの時代に求められる、先ほど申し上げましたコミュニケーションであるとか、創造的思考であるとか、あるいは柔軟性、非定型のところを考えますと、その能力を最大限生かすような人々は、例えば交渉の専門家は「ネゴシエーター」と呼ぶかもしれませんし、デザインにすぐれている人は「アイデアマン」となるかもしれないし、はたまたAIのところのデータ自体をいじる人は、今でもありますが、「データサイエンティスト」と呼ばれるかもしれない。

 こういった能力を1人の人が全て持つことは不可能なわけでして、その意味で会社の中にはさまざまな能力にすぐれた人が集まっている。そして、人の評価というのは均一の軸で行うことができなくなっているというところがみそだと思います。

 ただ、全てのエキスパートを常時抱えているというのは、企業にとっても高コストですし、機会のない、やる仕事がないときにそこにい続けることは、エキスパートにとっても余りうれしいことではありませんので、その意味で複数の企業に属したり、転々としていく。エキスパートの時代になればなるほど流動性は高まらざるを得ないのだと思っております。

PP

 3番目のところですが、1社のみの終身雇用ではなくて、私が野村総合研究所にしか所属していないのか、それとも平日は野村総合研究所のコンサルタントをやりながら、休日は大学の講師をしているとか、独立の何らかのアドバイザーをしている、そんな感じの兼業・副業だと思います。その意味で、例えば現在の統計にしましても、1人の人をユニークに一つの職業に分類できるという前提は崩れていくかもしれませんし、就業規則に職務専念義務というのが入れば入るほど、こういった変化に対しては妨げになる可能性があるかと思っております。

 3番目ですが、人を適材適所でアサインしていくとなりますと、部署への所属ではなくて、タスクフォース、プロジェクト制ということで、柔軟に人をアサインするでしょうし、その中に社会のエキスパートというのもどんどん入れていくのだろうと思っております。働き方改革にもつながりますが、オフィスワークからリモートワークへ。ここの意味は、もちろん家でも仕事ができるというのもございますが、国境を越えるという意味もあると思っております。この研究をするに当たっても、私どもはオズボーンさんとスカイプで毎週やっていました。フェース・ツー・フェースなんてやりません。そういう意味で、働き方のところでも、例えば22時以降の勤務は深夜残業と。これは時差を考えると不可能というか、意味のない規制でして、どちらかがそれをやらないとスカイプ通話をできないわけですけれども、そんなことが普及していく時代の労働法制というのは何だろうということにもなろうかと思います。

 最後、Up or OutからOn/Offと言いますが、Up or Outと言うと、よくキャリアで昇進志向という話ですが、それだけではないと思っております。一旦介護であるとか子育てというものに行って戻ってくると、現状では昇進するようなパスのところに戻ってくるのはなかなか難しいわけですけれども、今後はマネジャーから一旦介護を重視した働き方をして、戻ってきてまたマネジャーをする。何でそういうことが必要になるのかというと、それはダイバーシティの観点からも確かに必要なのですが、先ほどのような優秀なエキスパートというのは、会社の中でもなかなか貴重な人材になってくるわけです。貴重な人材を囲い込んでおいて長いこと働いていただくためには、そういったマネジャー像自体も多様化させていく必要があるだろうと思っております。

PP

 ちょっと長くなりましたが、私どもが思っているのは、AIにできる、できないというのは入り口の議論でして、むしろ日本にとって重要なのは、AIを使いこなすように組織なり人事なりというものをつくり変えておく、その備えこそが現状極めて重要なのではないかということでありますし、こういったものの能力とか、先ほど山本さんもおっしゃいましたけれども、今後職業という単位ではなくて、スキルで人々を判断するのだとしたら、こういうスキルの標準になるようなデータは日本にあるのか。そういったものを交換するためのプラットフォームはどういうふうに整備されていくのか、官民の役割分担は何なのか、こういったところこそが実は肝要なのではないかと思う次第でございます。

 ありがとうございます。

○守島部会長 ありがとうございました。

 それでは、先ほどと同じように質疑応答に入りたいと思います。どなたからでも。では、大竹さん、お願いします。

○大竹委員 話題になった推定の背景を丁寧に説明していただきまして、ありがとうございました。

11ページの変化についてお聞きしたいのですけれども、これは先ほどおっしゃったとおり、日本の企業の組織や人事が変わらないと、こういう変化は。そういう準備をしないといけないという話だったのですが、これが迫られてくるというのは、産業分野にもよると思うのですが、現在でもこの方向に大幅に変化しているところもあれば、まだそこに至っていないところが日本の企業の中で多いと思うのですが、日本全体がこういう方向になるというのは大体どのくらい先のイメージでいらっしゃるのでしょうか。あるいはもう既に進んでいるところだとどういう分野でこれが多いのか。例えば野村総研さんだと、事実上この右側に全部行っているのだということなのでしょうか。そのあたりを教えていただければと思います。

○上田氏 ありがとうございます。

 御案内のとおり、AIは一つの要素であって、AIがなければこういう変化が起きないかというと、そんなことはなくて、私の認識ですと、これは本来グローバルの競争をする中で既に起きていてしかるべきことだと思っております。とりわけこれが起きるべきなのは、各グローバル企業の本社だと思っております。本件に関連していろんな企業さんを訪問した際に、欧米のグローバル10万人規模の会社さんの本社は基本的に500人ぐらいです。日本の大企業というのは、2,000人からの本社を抱えていたりする。もちろん、部署の構成が違いますので、単純比較は決してできないのですけれども、ただ大き過ぎる、もしくは不要なプロセスがあるのではないかというところがございます。その意味で、日本というのは、製造業の製造現場の効率化は極めて進んでいるのですが、オフィスの中についてはおくれている。それがとりわけ本社ではないのかなと思っております。

 弊社ができているのかといいますと、プロジェクト制にはなっていますし、兼業・副業についても一応認めています。一応エキスパートをそろえているつもりではおります。流動性は残念ながら高く、よくやめていく。そんなところまでは実現していますので、業界によっては確かにできているのかなという気はいたします。

○守島部会長 ありがとうございました。

 ほかにどなたか。では、どうぞ。

○岩村委員 大変貴重なお話をありがとうございました。政策的に考えたときの優先度とか、どこにポイントを置くかということを考えたときに、今後こういう変化が起きていくということ自体は、そうだろうと思うのですが、余り日本の中で物を考えてもしようがないのかもしれませんが、例えば日本の雇用労働者の労働人口を考えたときに、そのうちでこういう方向で変化をしていく人たちの割合、大きさ、ボリューム感というのはどのような感じとお考えなのかというのをお聞かせいただければと思います。

○上田氏 ありがとうございます。

 基本的に我々はオフィスの中で人が余っていて、それがほかの業界や、今後人を必要とするところに流れていくのだろうと思っています。ちょっと言い忘れましたけれども、49だ、何だといろんな数字がありますが、世の中の研究の大半は、弊社自身の研究も含め、正しい研究なんてできるわけがないと思っています。世の中が現在持っているスキルなり職業なり、現在のデータに基づいてしか推計できないという限界が定量分析にはあるのですが、本来世の中は変わっていくからでして、この表の中に、例えば将来の職業というのは、残念ながら私どもでは予測できないので書いていないし、そこが何人必要なのかもわからない。ただ、そういう新しいものが出てきたときに、そこに対して人を流せるような政策も、それをモチベートするような仕組みが必要になるだろうと思っています。

 先ほど申し上げましたとおり、それがOJTでよかった今までに対して、流動性が高まる場合には、それをプッシュするような何らかの仕組みが必要であり、残念ながら日本の持っているさまざまな手段というのはボトムラインを上げていくというところと、それから公教育、社会に出るまでのところという2つに極めて大きなウエートがあって、社会人になった後の職業のスキルアップをやるところに対しては、なかなか手が回っていないのかなという気がしております。

 ここを官民でどう役割分担をしながら、例えば介護でも何でもそうですが、そういったところに人が向かえるようにしていくのか。それは賃金を上げればいいという単純な問題でなくて、私もそうですが、いきなり介護をやれと言われてもなかなかできません。そういったときに、例えばAIないしロボットというものが、ノウハウや一定のことを代替できるならば、スキルが不足している人であっても、一定スキルの求められるところに行くことができる。そういった観点を持ちながら、職業間の移動というのは、今まで以上に教育しなければいけないこととAI等で補うことの分別によって進むのではないか。そんな観点を持つと、もうちょっと都市部のオフィスから違うところに移るというものが加速するのではないか。そんなふうに思っております。

○岩村委員 ありがとうございました。

○守島部会長 ありがとうございました。

 ほかにどなたか。では、古賀さん、お願いします。

○古賀委員 貴重なお話をありがとうございました。2つ関心があることをお聞きしたいと思います。

 1つ目は、3ページにあるELSI問題についてです。この問題について、日本は非常に遅れているのではないかという課題認識を提示されましたが、逆に対応が進んでいる国はどこなのでしょうか。また、対応が進んでいる国はこの問題についてどういった基準をつくりながら対応しているのか等をお知りであれば、提示していただければありがたいと思います。

 2つ目は、今、お話しされていた能力開発の件ですが、企業内訓練がだんだん効力を失ってきている中、労働者の能力開発をどこが担うのか、どういった仕組みを整備していくのか、あるいはどんな組織をつくるのか、つくらないのか。先ほど、官民連携というお話しもされていましたけれども、具体的なアイデアがあれば、お聞かせ願いたいと思います。

 以上でございます。

○上田氏 ありがとうございます。

 まず、ELSI問題が進んでいるというのは、なかなか難しいですが、国のカルチャーが違うということを無視して言うならば、アメリカは進んでいます。要は、トライ・アンド・エラーを許す国ですので、100%問題が起きないようになるまでなかなかサービスインできない日本とはそこが違うという意味では、実際に起きてしまったことから考えていく。もしくは100%起こさないのではなくて、起きた部分については保険でカバーする。そういった技術で100%防ぐのではないといった意味でおもしろいかなと思います。

 また、同じ物づくりという意味では、ドイツにおいては、インダストリー4.0というのがビジネスモデルの話でよく出てきますけれども、現実の運用基準というところまでよく考えているという意味においては、製造業として見るべき対象国かなと思っております。

 2つ目の官民の役割分担。このような場で私見を御披露するのがいいのかどうかというのはありますが、蛮勇を振るって申し上げますと、例えば派遣の方々というのは、今後一番影響を受けるようなところでございますけれども、ここの部分で考えますと、派遣会社というのは、実際働いている方のスキルが上がって時給が上がれば、自社の手取りもふえるというウィン・ウィンの関係がございます。そうすると、彼らがトレーニングして、この人はこれができるようになったと。これは自主認証にすぎませんが、そういったスキルの認定をすると、受け入れ側も、そうであれば高い時給で受け入れるよと言う。派遣される側もそこに何らかのモチベーションがある。テンポラリー、どんどんあちこち移るのですが、派遣元が一定である限りにおいて、実はこれは長期的なトレーニングの機関になる。そんなこともあり得るのかなと思いますし、そういうときにトレーニングの間の時給は誰が負担するのかというと、何らかの助成金というのもあり得るのかなと。そんなことを思ったりいたします。

○守島部会長 ありがとうございました。

 ほかにどなたか。では、佐々木さん、お願いします。

○佐々木委員 先ほど山本先生にもお聞きした労働の法律上、先ほど22時以降が不健康だと言われたら働けないではないか、そういうこともあると思うのですが、そのほかに、この研究をされているうちに、日本の今の労働法制の中で、ここはどんどん変えていかないと時代についていけないのではないかと思われた点があれば教えていただきたいということが1点。

 全体的に伺っていると、AIがどんどん進んでいくと、人は、高度化する、クリエーティブになる、話し方が上手になるというところで生き延びていくということですが、全人口、皆さんがそうなるということでもない。一方で、日本は海外と比べると、AI化が本社機能の中ではかなりおくれていると思っております。流動性がないのも大企業の本社が多いのではないかと思っています。それを逆手にとると、今の日本の中小企業がAIを上手に活用することによって効率が上がっていって、そしていい人材が流れてきやすくなるのかなと思うのですけれども、このあたりについて何かお考えがあれば教えてください。

○上田氏 ありがとうございます。

 労働法は、二十数年前に大学で勉強して以来、何もアップデートしていないのですが、本研究の中で企業の方々とディスカッションしてきている中で幾つか出てくるのは、複数の企業に所属している場合において、社会保障の費用をどう分担するのかとか、あるいは残業規制においても、例えば週の前半はA社、週の後半はB社であると、残業規制はB社のみにかかってくる。これは、A社で長いこと働かせてしまうと、A社は逃れられて、B社だけが丸損である。そんな感じで、複数の企業に所属するという前提を置いて見直していただくと、いろんなところに当たりというのは発生するのではないかというのが1つ目でございます。

 もう一つは、人々が国境を越えていろんなところを異動するときに、例えばなのでちょっと細かい論点になりますけれども、配偶者と一緒に来られるのかというときに、どちらかが先に異動が決まるわけです。そのとき配偶者ビザで来てしまうと、その後、日本国内に来ても就労ビザに切り替えづらく就労しにくいという問題があって、実は人が来てくれないということもあったりします。その意味では、家族がどんどん移っていって、比較的スキルの高い人は、配偶者もスキルの高い人だという前提に立ったときに、人の流動性を高めるような仕組みを今後経済協定などの間のところでも入れていただくといいのではないかと思っております。

 残業規制のところにも絡むのですけれども、現在政府がなさっていることも基本的に同じ流れだと思いますが、みずから自律的に律することのできる人に対する自由度ということと、その自律性を期待することが職権上も能力上も難しいという方に対しては、違うアプローチが必要なのではないかと思っております。

 次の御質問のところですけれども、AIに限らず、IT化というのは、基本的にさまざまなサービスが現在、クラウドなども含めて、比較的投資を伴わずに利用できるようになってきているというのがございます。そういう意味では、個人や中小企業が情報武装するということが比較的容易になりますので、そうなりますと、環境整備において大企業と引けをとらないような環境を用意して、そこに優秀な人材が来るというのはあり得べしかなという気はいたします。

 ただ、優秀な人材というのはグローバルに流動する時代ですので、英語化も含めて、中小企業にいきなりやれと言っても難しいところもあろうかなと一方では思います。

○守島部会長 ありがとうございました。

 では、どうぞ。

○本多総合政策・政策評価審議官 事務局から申しわけありません。1つ質問させてください。資料の6ページ、今後自動化が難しい職業の特徴とあるのですけれども、そうしますと、こういった能力を育成していくことが重要なのかなと思うのですが、こういった能力を育成する場や方法としてどういう教育訓練があり得るのかなと。こちらを拝見しただけですと、今、教育訓練課程として提供されているようなところに行ってすぐこれが身につくのかどうかが少しわからなかったものですから、その点について御教示いただければと思います。

○上田氏 教育課程の中では、例えば日本の小学校教育というのは、一人一人の個性を伸ばすという意味において、現在でもかなり高い評価を得ているものだと思います。一方、中学、高校、大学の教育内容については、残念ながら余り評価されていないということがございます。その中では一人一人に向き合ってその人の個性を伸ばすというアプローチがそもそも必要になってくる。かつ山本先生もおっしゃっていましたけれども、暗記とか正確に何々をするというよりは、ユニークに何かをつくっていくというところであるとか、テストというものは一問一答ということではなく、記述ということに変わっていっていますが、こういった流れを加速させることはそもそも理にかなったことであると思います。

 他方で、全員がこういう能力に秀でて、何か一芸を見出せるかというところももちろん課題ではございまして、そういった人々はイノベーションを支えていくような貴重な人材ですので、ぜひ育て上げねばならないわけですが、そうでない人たちについて、AIのサービスを使いこなすことによって、みずからに足りないスキルを補って、一定のスキルのある人と同等に働けるようにするという意味では、ITリテラシーを高めて使いこなすという側も底上げとしては極めて有効だと思っております。

 ですので、この3つができなければ労働力として意味がないとか、そんな大層なことを言っているわけではございませんで、イノベーションにつながりそうな人材というのは、かぎとしてはこういったところのありそうですよというように使っていただければと思います。

○守島部会長 では、どうぞ。

○長谷川委員 ありがとうございます。2つ質問があります。

1つ目は、11ページの図は、主にグローバル企業の本社のホワイトカラーワーカーをイメージしているとのことですが、資料では、1社のみの終身雇用ではなく、今後はダブル就労、トリプル就労も可能になるとなっています。そうなると、例えば賃金や労働時間などの労働条件は、個人が企業と交渉して決めていくことになり、全て労働者の自己管理、自己責任にすべきというイメージなのかというのが、質問の1点目です。

 2つ目は、11ページの図はグローバル企業の本社部門のホワイトカラーワーカーの話であるという文脈の中で、派遣労働者や工場労働者の話も出てきました。本社部門のホワイトカラーワーカーは賃金もスキルも高いのでこうした変化もあり得ると思ったのですが、派遣や請負といった形態で働いている人たちの賃金・労働条件や社会保障はどのように変化していくのでしょうか。派遣労働者は派遣会社と交渉することになると思うのですが、個人請負の形態で働く人たちについては、労働条件決定や安全衛生、社会保障はどのように変わるのでしょうか。

○上田氏 ありがとうございます。

 極めて難しいところを御質問いただいたと思っています。全員が個人でやるのかというところについて言うと、極めて能力の高い方は、今でもそうですけれども、弁護士ではないですが、自分たちで交渉して、契約書がない方は当然つくられる。そういう人たちというのは今後もいると思います。一方、おっしゃるとおり、派遣の人たちというのは、派遣元が一定の賃金テーブルないし労働条件を決めていく。今後エキスパート向けの派遣業、つまり、高度人材の派遣業というものもふえてくると思いますので、そういう意味では、必ずしも個人が全てを交渉しなければならないというものではないですし、これは完全にアドホックで仕事をするというわけではなくて、自分が懇意にしている4~5社の中からことしの仕事先はここだというものが決まっていくものだと思いますので、完全に毎日のように条件闘争しているという世界観を私どもは持っておりません。

 一方、それ以下の今、非正規で働いている方々も、基本的には人手不足という観点からすると、正規化というのは今後進んでいくべきだと思います。少なくとも正規化というのは、派遣会社が長く有能な人材として認めていくというところにはつながっていくべきですし、有能な人材とは何なのかというのを試す場として、これも私案でございますが、あるとき事務員として働いていて、それが週3日であるとすると、残り2日ないし3日というものをネールアーティストでも何でもいいですが、比較的リスクの高いものを試してみる。そうやっていきながら自分の適性というのを見きわめていく。今までですと、転職するというのは、極めてリスクの高い、0、1のようなリスクをとるわけですが、兼業が認められていく時代は、自分の適性というのをある意味スムーズに、リスクを少し減らしながら試していくこともできるのではないかと思っています。その先には昔の用語で言うところの職業ギルドのようなものもある程度存在しないと、条件闘争という意味では難しいのかなと思っておりますけれども、そのあたりは私どももまだ思考が追いついていないところでございます。

○守島部会長 そろそろ時間になりましたので、上田様の質疑応答は終わりにしたいと思います。どうも長時間ありがとうございました。

 それでは、続けて、議題2の「その他」に移りたいと思います。先ほど申し上げたように、議題1の事務局説明、それから今、お二人にやっていただいたヒアリング等を踏まえて、AIの技術革新は労働にどのような影響を与えると考えるのかという点。それから、労働政策にAI等をどのように活用していくべきなのかという点。それから、技術革新の労働への影響を踏まえて、今後の労働政策はどうあるべきか。この審議会の基本的な議論ですけれども、進めていきたいと思っています。

 残りの時間で御自由に御議論いただきたいと思いますので、御意見のある方は挙手の上、御発言願いたいと思います。では、よろしくお願いいたします。山川さん。

○山川委員 山川です。

 きょう、非常に勉強になって、前からいろいろと考えていたのですけれども、結局、きょうの話を聞いてわかることは、最終的に日本型の現在の雇用慣行が維持できないのは当然の結論なのかなと思っていて、そうなってくると、問題は、徐々に変わるのを阻害する要因を消極的に除いていくのか、積極的に今後日本型雇用慣行はだめなのだから、それを変えていこうという政策にしていくのか、ここが結構大きいのかなと思っていて、個人的には国際競争力の問題もあるので、このままだらだらとつぎはぎみたいな感じでやっていっても間に合わないのではないか。そうなると、日本型の雇用慣行そのものを抜本的に改正することの是非みたいなこともちょっと議論する必要があるのではないか。

 それはどういうことなのかというと、今の労働法制というのは、法律も裁判所の判例も全部、長期雇用を支持するような方向になっているから、労働法制もこの条文をどう変えるかということではなくて、抜本的に変えるということになると思います。そうなってくると、今度請負との話もあって、今は労働者なのか、請負なのかによって全然規制が違うわけなのだけれども、果たしてそれでいいのかどうか。例えば私の顧客で年収の1億みたいな人は、解雇規制と残業代で物すごく規制されているのに対して、例えばクラウドソーシングか何かでほぼ最賃を割っているようなもので受注せざるを得ないような人などがいた場合、労働者だから厚く保護して、請負だからしないというわけにもいかないから、今後働き方が多様化していく中で、そこに何らかの区別をする必要があるのかどうか。だから、労働者の定義を見直す必要はないのかどうかとか、そこら辺は、小さいところを見ていくよりも、もうちょっと抜本的な大きなところから議論していったほうがいいのかなと。私はそういうふうに考えています。

 そうなってくると、きょう出てきた教育の問題はすごく大きいのかなと思っていて、子供のころからの教育、スキルの部分であったり、自己責任みたいなところも大きいし、職業訓練をどうしていくのかという問題もあるし、そういうふうに自律的な社会をつくっていくということになったら、当然それについていけない人がいるから、セーフティネットをどうするのか。いろいろ考えるところはあるのですけれども、私が言いたいポイントとしては、もうちょっと抜本的に労働法制を変えていく。少なくともそういうことを議論すべきときではないのかなと思います。

 以上です。

○守島部会長 ありがとうございました。

 ほかにどなたか。では、佐々木さん、お願いします。

○佐々木委員 私も全く同じことを考えています。結局、何が問題かという小さいところから入るよりも、どちらの方向に行くのかということを決めてから進まないとならない。それが長年、今までの労働政策の中でうまくいってこなかった。どうしても現在の問題、過去の問題をどうやって解決するかばかりが議論されていて、未来に向かっての組み立て直しというところまで追いついてこなかったということが大きいかなと思うので、せっかくの機会ですし、AIが取り上げられましたから、これからどういうふうに方向性として持っていくのか、スピードを上げるのか、上げないのか、大きな手術をするのかということを意見交換できたらいいなと思います。

○守島部会長 ありがとうございます。

 ほかにどなたか。では、古賀さん、お願いします。

○古賀委員 本日、いろいろヒアリングをさせていただきながら、AIなどの技術革新をどのように社会の中に組み込んでいくのかが重要であると感じました。前段のヒアリングでは、人間が主体性を持ってどうしていくかということが非常に重要であると感じましたし、人と技術とがお互いの得意分野、あるいはタスクをどう役割分担していくか、そういう社会をどうつくっていくかというのが非常に重要だと思いました。

 それはとりもなおさず、「働くこと」の本質を問いかけているのだと思うのです。「働くこと」というのは、言うまでもなく、物理的なことだけではなくて、社会的な活動であり、社会のシステムの一環としての行動が「働くこと」であって、その原点を忘れてはならないと思います。

 その上で、社会が大きく変わるときには、必ず光と影が出てくるということです。そして、労働法制というのは、どちらかといえば影の部分に対して目くばせをしながら進んでいかなければならないということを、非常に大きなスタンスとして持っていなければならないと思います。

 そういう意味で、先ほども少しヒアリングの中で質問させていただきましたが、急変する労働市場に対応する経済的不平等とか格差をつくる要因も含めて、影の部分の人たちに対して、どう総合的、長期的に政策をつくり出していくのかということも忘れてはならない。

 2つ目は、人材育成、能力開発をどうしていくのか。これはどこかに任せておくということだけでもないのかもわからない。そんな観点からの議論が必要ではないかと思います。

 以上です。

○守島部会長 ありがとうございます。

 ほかにどなたか。では、大竹さん、お願いします。

○大竹委員 きょうの議論で共通していたことは、仕事のタスク化が進み、タスクによってAIが代替していくというところで、働き方が今の長期雇用の形から、副業・兼業あるいは請負、独立、自営といったいろんな働き方の形に加速していくということは間違いないだろうということだと思うのです。そのときにどの働き方をとっても中立的になるような労働法制が必要だろうということです。労働法制だけではないと思うのですが、社会保障のあり方とか、労働法制の中だと残業規制もそうですし、兼業のあり方、それ以外にもいろいろあるかもしれません。議論していて、先ほど長谷川委員から自律的な働き方というのが出てきたときに、自己決定だけでいいのかと。今は長期雇用だから、企業が個人の人生設計にかなり関与するという形、あるいは賃金交渉も企業あるいは労働組合が管理するという仕組みになっていますけれども、それができないという状況になったときに、全部任すかどうかというのは、なかなか難しいところがあると思います。そのため、行動経済学で言うデフォルトみたいに何か規範みたいなものをつくっていって、余り考えなくても人生を間違えないような仕組みを設計する必要もあるでしょう。

 兼業という場合も、完全に労働者同士が勝手にやるというわけでなくて、今の場合でも、社会保障のやりとりをする上で、企業同士が話し合いをしなければいけないし、先ほどの残業規制の場合も、働き方についてもきちっとお互い管理するということをしないと事実上できない形になっていますから、その場合はある程度残ってくると思うのですが、それが2社、3社、4社とふえてきたときに、どこまで管理がちゃんとできるようになるのかというのは、技術的な問題と法制的な問題が密接に絡んで進んでいくのかなというイメージを持ちました。

 ただ、先ほど質問したのですが、今、そこに向かって急速に進んでいる部門と、まだゆっくりの部門がある中で、どのくらいのスピード感でこういう改革をしなければいけないのかというのは、まだよくわからないなというところがあります。

○守島部会長 ありがとうございました。

 ほかに。では、岩村先生、お願いします。

○岩村委員 簡単にコメントですが、労働法制が今後どういう方向に行くのか。きょうのお話も、先ほど出ていましたように、問題は労働法制だけでなくて、社会保障法制その他との関係、当然全体として見ていかなければいけない問題だと思います。

 ただ、現実に政策を考えるということになると、まず第一に、私自身は常にリアリスティックに考えなくてはいけないと思っていまして、そういう点では、余り急激に大きな改革をして社会を混乱させるということは避けなければいけないだろうと思います。

 第二に、日本の労働法制が長期雇用を前提としていたかというと、私はそこまでではないのではないかと思っています。何か紛争が起きたときに、労働者の側からすると、今のところにいたいと考える。そのほうが生活の安定も図れると考えるというのは、ある意味自然なところなので、それをどう紛争を解決するかという観点からいろんな形での解決を従来はやってきていたのかなと思っていて、そこまで長期雇用を前提としていたものとは必ずしも思っていません。

 ただ、他方で、従来考えてきた労働法制、社会保障法制というのは、19世紀の産業革命、あるいは20世紀、あるいは戦後がそうなのだと思いますが、一つの会社でフルタイムに働くというモデルを前提にしてきたのですが、これがパートタイマーとか派遣とか、そういった多様な雇用形態が出てくる中でかなり大きく様相が変わってきて、さらにAIが今後発展していく中で、従来括弧つきで正社員と言われていたような人たちについても、一つの会社で月曜日から金曜日まで働くということではないという人たちが登場してくるということになったときに、今までの労働法制の中でそれにきちっと応えるような形になっていたかというと、必ずしも十分な形での対応ができていないし、社会保障法制の部分もそういうところがあるだろうと思います。

 そういう点で、そこをどう考えていくのかというのがこれからの大きな問題でしょうし、従来例えば弁護士とかのように士業というのは、ある意味一つのジョブをベースにしながら、さまざまなクライアントあるいは企業との間で事業を展開する、あるいは仕事をするというタイプだったのが、今後はそういう士業に限らず、ある一定以上のスキルを持った人たちがそれに近いような仕事の仕方をしていくということになるのだろうと考えます。

 そういう世界が来たときに、そうした仕事の仕方をする人たちは今の捉え方では労働法の枠の中には入ってこなくて、専ら経産省などの政策の枠の中で考えるということになっているのです。ところが、労働者とそういう形態で働く人たちとの境界線が非常にフルーになってくると、そういう二分法は使えなくなるだろうというのは、確かにおっしゃるとおりなので、この辺は既に厚労省の他の研究会でも議論されていることだと思いますが、そういったことも含めて考えていくのかなという気がして、お話を伺っていました。

 ただ、他方で、先ほど古賀委員もおっしゃいましたが、問題には両面があるので、契約でいろんなことを決めるということになると、それはそれでまたいろんな縛りがかかってくるということもあり、その辺の裏と表をよく見ながら検討していくということかなという感想を持ちながらお話を伺っていました。

 ありがとうございました。

○守島部会長 では、長谷川さん、どうぞ。

○長谷川委員 今、岩村先生がおっしゃったように、変化しているわけですが、その変化にさまざまな法律とかそういうものを対応させるときに、やはり歴史を見なければいけないのかなと思います。そもそも人類が登場して以来ずっと長い歴史があるわけで、私たちが今の社会で働くというのは、自分たちの子孫を残すということだと思うのです。そういう生活費を稼得するために働いて、賃金を得て生活する。これが私たちが働く意味だと思うのです。それは非常に重要な課題があり、そういう中でいろんな枠組みを検討するときは、これまでのそういうものの法律とか、そういうものの体系がどういうふうに変化してきたのかとか、働くことがどういうふうに変化してきたのか、そういうことを見ながら考えていくことが必要なのだと思います。

 私は1970年代から働いているのですが、昔の教科書を読んだら、OA化に対してどう対応するかとか、ME化に対してどう対応するかというのが議案書の中にいっぱい出てきまして、ああ、70年代はそういう議論をしていたのだなと思いました。今はAIに対してどうするかということで、そういう意味では、日本は技術革新に対して、いろんな知恵を出しながら、社会全体も労使も努力してきたのだ。それが今日の姿で、そういう中で今回のAIということに関して十分に対応できているのかどうか、その議論だと思うのですけれども、その辺は、これだけの人が集まっているのですから、きょうもいろんな問題が出されたので、それを丁寧に拾いながら、どういうことをしなければならないのかということを考えていくことが必要かなと。

 そのときに、大学を卒業してきて高度なスキルを持っている人と真ん中ぐらいにいる人。私は郵便局だったので、真ん中ぐらいの部類に近いところかなと思うのですけれども、あとは全くルーチンをやっているような非正規の人とか、いろんな労働者像がいるわけですので、その労働者像を描きながら、どこをターゲットにした政策を打つのかということを考えていくことが必要なのではないか。

 2つ目は、私は60歳で職業生活が終わったときに、さて、これからスキルをつけて新しいことにチャレンジしようかなと思ったらば、すごく教育費用が高くてどこにも行けなかった。大学に行こうと思ったらば、入学金が100万で、授業料がウン十万。そしたら自分の退職金を全部食い潰してしまうから、これは無理だと思って別なことをやり始めたのですけれども、皆さんも言っていたけれども、教育訓練とか、能力開発とか、スキルアップということについて、この場所ではきちっと議論してほしい。

 最後に、この間、戦後のいろんな制度を支えてきた中で日本的労働慣行というのは非常によかった。それが日本の経済を支えてきたわけでありますので、その集団的労使関係というものもぜひ考えの中に入れていただければなと思います。

 以上です。

○守島部会長 ありがとうございます。

 ほかにどなたか。

 私の個人的な感想としては、比較的皆さん方がAIというのは敵だというか、対応せんといかぬ課題だと。全員ではもちろんありませんが、そういうふうに考える傾向があって、先ほどもちょっと議論が出ましたけれども、AIというのは、実は中小企業の生産性を抜群に上げていくための一つの手段なのだということを位置づけるとすれば、そういう中でどういうふうに中小企業に対して人材育成の仕組みをつくっていくのか。例えば幾つかの企業がまとまって共同でAIを使う。使えることが重要だという話がありましたけれども、使うための仕組みをつくっていくとか、いただいた議題の中にもあったのですが、労働政策の中でAIを機械としてどういうふうに活用できていくのかというところも議論していく必要はあるのかなと。AIというのは仕事をなくすから敵だと思う、そういう配慮も重要だと思います。それだけでなくて、AIを使ってどうやって日本国の比較的生産性の低いセクターの生産性を上げていくのかという議論も労働政策の中の一部としてはあり得るのかなと思いました。

 ほかにどなたか。よろしいですか。

 それでは、ほぼ時間となりましたので、今回の議論はこれで終了とさせていただきたいと思います。

 最後に、事務局から御連絡等があれば。

○奈尾労働政策担当参事官 次回の当部会の日程につきましては、1225日月曜日の15時から17時、場所は厚生労働省の18階の専用第22会議室というところで予定してございますので、よろしくお願いいたします。

○守島部会長 それでは、本日はこのあたりで閉会とさせていただきたいと思います。

 本日の会議の議事録につきましては、本審議会の運営規程により、部会長である私のほか2名の委員に御署名をいただくことになっております。今回につきましては、大竹委員、長谷川委員に署名人になっていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたしたいと思います。

 それでは、本日の会議はこれで終了とさせていただきたいと思います。どうも御苦労さまでした。ありがとうございました。

 


(了)

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