ホーム> あさコラム vol.31

あさコラム vol.31
感染症エクスプレス@厚労省 2016年11月25日

月にかわって…

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

 ついに解禁!「美少女戦士セーラームーン」とコラボレーション!
 去る11月21日、「性感染症予防キャンペーン」で厚生労働省が国民的漫画
「美少女戦士セーラームーン」とコラボレーションすることが発表されまし
た。
 発表日までは極秘事項として口を堅く閉ざしておりましたが、ここに改め
て発表いたしますとともに、作者の武内直子先生と講談社様、性の健康医学
財団様に心から御礼を申し上げます。

 今まで、私たちは性感染症予防の啓発普及に毎年取り組んでまいりました
が、残念ながら現在、性感染症の感染者数は増加傾向にあります。
 性感染症は感染しても直ちに症状が出ないことも多く、発見が遅れ、その
ために他の方々に感染を広げてしまうという特徴を持っています。
 とりわけ、性感染症の中でも、ここ数年、急増しているのが梅毒。
 痛みのない潰瘍が性器に形成され、治療せずにいると全身の皮疹やリンパ
節の腫脹、数年~数十年後には血管や神経の障害など、多様な症状をきたす
感染症です。
 平成22年(2010年)の梅毒報告数は621件でしたが、平成27年(2015年)
では報告数は2697件と実に4倍以上に増え、今年(平成28年、2016年)は10
月初旬までに3284件と、既に前年の報告数を上回りました。
 年齢別でみると、全体としては男性の報告数が多いものの、20歳代前半で
は女性が男性を上回るなど、10歳代後半から30歳代までの若い女性における
増加が顕著。
 特に妊婦さんへの感染は、早産や死産、胎児への重篤な異常につながる可
能性があり、この状況、大変心配しているところなのです。

 課長就任時の昨年から「この状況は何とかならないものだろうか」と担当
と一緒に悩み、数ヶ月前からキャンペーンを思案していたところ、浮上して
きたのがセーラームーンとのコラボレーション。
 子どもの時にこの漫画やアニメを楽しみにしていた少女たちが、現在、20
~30歳代の女性になっています。
 「20~30歳代の女性層が子供の時のヒロインだったセーラームーンの力を
借りて、性感染症が増加しているこの局面を打破できないものだろうか…」
 と、担当が武内先生に打診したところ、キャンペーンへのコラボレーショ
ンについて武内先生からご快諾をいただきました。

 ポスターは、武内先生の発案のとおり、月に座ったセーラームーンが「検
査しないと おしおきよ!!」と検査を呼びかけるものです。
 当初は「エイズ・性感染症予防 まずは検査から始めよう」といった無難
なキャッチコピーを提案していたのですが、武内先生とのやりとりの中で、
セーラームーンの決めぜりふである「月にかわっておしおきよ!」をアレン
ジしたキャッチコピーに決まりました。
 同じデザインのリーフレットも作成しており、裏面には、主な性感染症と
その症状についてまとめてあります。

 発表会見では、武内先生のメッセージが披露されました。
 以下に原文ママでご紹介いたします。

 『今回のキャンペーンに賛同した私の想い』
 いろいろな感染症が取り上げられるなかで、その対策は日頃から重要な問
題であると考えており、今回このような機会を通じて、皆様のお役に立てる
ことを嬉しく思います。
 性感染症の問題は非常にデリケートな問題であり、「検査しないとおしお
きよ!」の文言を提案した際の、厚生労働省担当者の「いいんですか!?」
の驚きようは、まさにそれを表しておりました。
 セーラームーンが今までのイメージを払拭し、セーラームーンの声がファ
ンや皆さまに理解され、検査に結びつくことで、多くの方がより健康に過ご
せることを願っております。
 武内 直子(サイン)

 武内先生の意気込みと熱い思いが伝わってくる、心に刺さるメッセージで
す。

 さて、このキャンペーン、早速、大きな反響があり、
 ・コラボレーションを快諾した武内先生の懐の深さに感銘
 ・私たちの世代にとって性感染症予防が大事なことだからこそ、セーラー
  ムーンが選ばれたんだと思うと、本当にスゴイ!
 というポジティブなご意見がある一方、
 ・セーラームーンが汚れてしまう
 ・セーラームーンが性感染症検査のキャンペーンに登場するのはイメージ
ダウン
 という、ネガティブなご意見もありました。
 だからこそ、「(性感染症に対する)そのイメージを払拭したい」という
武内先生の熱い思いを強く受け止め、病気のひとつに過ぎない性感染症に対
する正しい理解と偏見差別の解消に取り組んでいかなければならないと決意
を新たにしているところです。

 また、
 ・セーラームーンは中学生(高校生)じゃないの?性感染症の検査を訴え
  るキャラとしてはいかがだろうか?
 とのご意見には、
 ・前出のとおり、セーラームーンは連載当時の漫画やアニメを楽しんでい
  た現在の20~30歳代の女性との親和性が高いこと
 ・中高生には、エイズ予防教育や保健の授業で、検査や相談など性感染症
  予防についての学習は既に行われていること
 ・10歳代後半においても、性感染症の感染者が報告されていること
 ということを鑑みると、セーラームーンが性感染症予防の観点で検査や相
談を訴えてくれるのは不適切ではないと思います。
 (ちなみに、漫画ではセーラームーンはクリスタル・トーキョーの女王ネ
オ・クイーン・セレニティ(22歳)となります)

 なお、女性に人気のあるキャラクターである乙女の味方・セーラームーン
は、実は男性にも人気が高いんです。
 また、セーラームーンは、LGBTの方々にも支持を得ているとの情報もあり
ます。
 要は、みんなの人気者なんですね。
 性感染症は女性だけの健康問題ではなく、男性の健康問題でもあります。
 「検査しないと おしおきよ!!」と発したセーラームーンのメッセージは、
女性だけに留まらず、全ての方々に向けていると、私は考えています。

 何はともあれ、この発表により、一時期は「セーラームーン」と「厚生労
働省」がトレンドワードの上位を獲得するなど、性感染症の予防が久々に脚
光を浴びたのは大変ありがたいことです。
 特に、性感染症予防の啓発用に準備したセーラームーンパッケージの配布
コンドームは人気が高いようで、「欲しい!どこで買えるの?」といった問
い合わせもあったとか。
 (残念ながら、この製品は性の健康医学財団様がオカモト(株)様のご協
力を得てキャンペーン用に作っていただいた非売品なのです。)

 知らぬ間に忍びよる、性感染症の脅威。
 この窮地を打破するために、話題性があり訴求力も高いセーラームーンと
武内先生の力をお借りしながら、今回の「性感染症予防キャンペーン」に取
り組んでまいります。
 コラムの読者の皆様からも色々とご意見やご感想があるかとは思いますが、
性感染症について話題にもならず、無関心となることが一番の問題。
 こうした状況をご理解いただき、ぜひ「性感染症予防キャンペーン」にご
支援をいただければ幸いです。
 どうぞよろしくお願いいたします。

 では、次回もどうぞよろしくお願いします。

<性感染症>


性感染症リーフレット(オモテ面)


性感染症リーフレット(ウラ面)

 

「感染症エクスプレス@厚労省」は、主に医療従事者の皆さまに向け、通知・事務連絡などの感染症情報を直接ご提供するメールマガジンです。
本コラムは、「感染症エクスプレス@厚労省」に掲載しております健康局結核感染症課長によるコラムです。
「感染症エクスプレス@厚労省」への登録(無料)
本コラムの感想、ご質問、ご要望など
コラム バックナンバー

ホーム> あさコラム vol.31

ページの先頭へ戻る