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あさコラム vol.50
感染症エクスプレス@厚労省 2017年4月14日
永遠の課題
こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。
最近は感染症関係にまつわる悲しい出来事がいくつか起こり、意気消沈し
ています。
まず、既に報道でご存じのとおり、この3月末に乳児ボツリヌス症で生後
6ヶ月の赤ちゃんが死亡されました。
亡くなられた赤ちゃんとご遺族の方には、心からお悔やみ申し上げます。
この赤ちゃん、生後4カ月ごろから市販のジュースに混ぜながらハチミツ
を摂取していたところ、けいれんや呼吸症状などの神経症状が発症して入
院。
治療の甲斐なく、乳児ボツリヌス症で荼毘に付されました。
摂取していたハチミツからは、ボツリヌス菌が検出されました。
乳児ボツリヌス症は、1歳未満の乳児にみられる疾患です。
ハチミツにはボツリヌス菌が存在することがあることから、離乳が完了し
て腸内環境が整っていない場合は、ボツリヌス菌が腸内で増えて毒素を出す
ため、ボツリヌス症を引き起こすことがあります。
ほとんどの場合、適切な治療により治癒しますが、亡くなられることもま
れながらあります。
(なお、1歳以上の方にとっては、ハチミツはボツリヌス症のリスクの高
い食品ではありません。)
この件を調べていたところ、「乳児にハチミツを与えない」ことは「育児
の常識」とのご意見があった一方、実はこのことを知らない方々も、若い世
代を中心に少なからずいることがわかりました。
確かに、ハチミツには「1歳未満の乳児には与えないで下さい」との表示
はありますし、母子健康手帳にも同様の記載があり、保健師さんも現場でご
指導いただいているかと思います。
ですが、親子が孤立化するケースもある最近の子育て事情を考えますと、
全ての親御さんや赤ちゃんのお世話をする方々にこうした情報を行き渡らせ
るためには、根気強く普及啓発に取り組んでいかなければなりません。
かくいう私たちも、各種通知や発表、ツイッターやWEBサイトの活用など、
情報提供に努めていますが、こうした状況を踏まえますと、もう一歩の工夫
や努力をしていかなければなりません。
改めて、普及啓発や注意喚起の難しさを痛感しております。
もうひとつの出来事は、オウム病。
研究班の報告によりますと、これまでに2名、妊婦の方がオウム病で死亡
されたことがわかりました。
亡くなられた妊婦の方とご遺族の方には、心からお悔やみ申し上げます。
国内で妊婦の方がオウム病で亡くなったケースが初めて判明したことから、
詳細解明については、研究班で調査に取り組んでいただ
いています。
オウム病はインコやオウム、ハトの糞に含まれるオウム病クラミジアを吸
入することで感染する人獣共通感染症です。
突然の発熱や呼吸器症状を呈し、重症化すると死亡する場合もありますが、
年間感染者数も多くないことから、感染症の中でも認知度が高くないようで
す。
オウム病の感染予防は動物由来感染症ハンドブックや厚生労働省のWEBサ
イトでも周知しています。
ポイントは、トリとの接し方や飼育などに十分注意すること。
トリに触ったら手洗いをする、トリに口移しでエサを与えないこと、トリ
を飼う時はケージ内をこまめに清掃することなどが重要です。
また、現時点では不明な点もありますが、医療現場の方々には、妊婦の方
が発熱と呼吸器症状を呈した場合、オウム病もぜひ鑑別疾患のひとつに入れ
ていただければと思います。
「知識こそ最良のワクチン」という言葉が示すように、感染症予防のため
には、まずは一人ひとりが予防知識を身につけていただき、さらにそれを実
践していただかなければなりません。
しかし、興味を引き付ける内容で広報や情報提供を継続的に行ったとして
も、世の中全体にはなかなか伝わらないのが実情です。
普及啓発や注意喚起について、どうしたら実効性の高いものにできるのか
まさに「永遠の課題」。
何か妙案がないか、思案の真っ只中にいるところです。
<ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから。>
<動物感染症由来ハンドブック>
<動物由来感染症>
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