労働時間法制について
1 | 年次有給休暇 |
(1) | 年次有給休暇取得のイニシアティブを労働者にゆだねてきたが、取得率は50%以下の水準で推移しており、労働者の時季指定だけに任せるシステムが限界に来ていることから、年次有給休暇のうち一定日数につき、使用者が労働者の希望も踏まえてあらかじめ具体的な取得日を決定することにより、確実に取得させることが考えられるのではないか。 |
(2) | 計画的付与制度においては、1年をいくつかの時期に分割した上で、時期ごとにその都度付与日を設定するといった柔軟な設定方法が可能である旨を周知するなど同制度の活用促進を図ることが考えられるのではないか。 |
(3) | 1週間程度以上の連続休暇を計画的に取得させることや、年休取得率の低い者に計画的に取得させるための方策(例えば、未消化年休の取得計画を作成させること等)が考えられるのではないか。 |
(4) | 通院や、急に子どもの送り迎えや親の介護が必要になった場合などについては、病気休暇制度等を整備することにより対処すべきであるが、現実には、企業における病気休暇制度等の導入が急速に進むことは考えにくいことから、過渡的な措置として、労使の協議に基づく合意を前提として、年次有給休暇の時間単位による取得を認めることも考えられるのではないか。 この場合、こうした利用方法が年次有給休暇の制度本来の趣旨とは異なることから、例えば、
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(5) | 未消化年休に係る年休手当を退職時に清算する制度を設けることも考えられるのではないか。 |
2 | 時間外・休日労働 |
(1) | 実態として時間外労働が長時間化していることから、法定労働時間を超えて労働する時間数が一定の時間数を超えた場合などについて、割増賃金の支払いに加え、その時間外労働の時間数に相応する日数の休日(代償休日)など、労働義務を一定時間免除することを義務付ける制度が考えられるのではないか。 |
(2) | 時間外労働のルールを徹底するため、例えば時間外労働の限度基準で定める延長時間の限度など、一定の時間数を超えて時間外労働をさせた場合に、使用者に対し、通常より高い割増率による割増賃金の支払いを義務付けることが考えられるのではないか。 また、実際に時間外労働した時間数について通常よりも高い割増率によって代償休日の日数などを算定することや、事業主の都合により代償休日を与えられなかった部分の時間外労働について高い割増率を適用することなど、時間外労働を削減するための方策についても考えられるのではないか。 |
(3) | 36協定を締結せずに法定労働時間を超えることは、労働時間法制に係る基本的なルールに反するものであることから、このような違反(労働基準法第32条違反を構成)に対する罰則を強化することも考えられるのではないか。 |
(4) | 所定労働時間を超えて労働した場合、法定労働時間内であっても、その超えた部分について割増賃金の支払いを義務付けるという考え方は、所定外労働の抑制につながる効果が考えられる一方、所定労働時間を法定労働時間まで延長するという対応も考えられるなど、その影響が広範かつ大きいため、今後とも検討を継続する必要があるのではないか。 |
3 | フレックスタイム制・事業場外みなし労働時間制 |
(1) | フレックスタイム制は中小企業をはじめとして導入が進んでいない状況にあるが、普及が進んでいない中小企業におけるフレックスタイム制を活用した好事例の収集・提供等が考えられるのではないか。 また、特定の曜日に限った部分的なフレックスタイム制の導入は認めることや、時間外労働となる時間の計算方法等について実態に即した見直しを行うことが考えらえないか。 |
(2) | 事業場外みなし労働時間制は営業職など労働時間の算定が困難な業務において活用されているが、改善すべき点等はないのか。 特に、事業場外みなし労働時間制は労働時間の全体が把握しがたい業務に従事していながら、所定労働時間を超える場合に限り、事業場内で業務を従事した時間が把握できることを前提とした制度及び運用となっているが見直す必要はないのか。 |
4 | 自律的に働き、かつ、労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されることがふさわしい労働者のための制度 |
(1) | 仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望む労働者であって、自律的に働き、かつ、労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されることがふさわしい者が存在する。こうした者については、企業における年俸制や成果主義賃金の導入が進む中で、労働者本人が労働時間に関する規制から外されることにより、より自由で弾力的に働くことができ、自らの能力をより発揮できると納得する場合に、安心してそのような選択ができる制度を作ることが考えられるのではないか。 |
(2) | 新制度の要件としては以下のようなものが考えられるのではないか。
(以上の要件を考えるに当たっての留意点)
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(3) | 新制度の法的効果としては、労働時間及び休憩に関する規定が適用されないとすることが考えられるのではないか。 また、深夜業に関する規定については、適切な健康確保のための措置が担保されていることを前提として、適用除外することが考えられるのではないか。 一方、労働基準法第35条の法定休日の規定については、休日取得の実効性の確保を図る観点から、適用することが考えられるのではないか。 |
(4) | 新制度の適正な運用の確保としては以下のようなものが考えられるのではないか。 |
・ | 適正な運用を担保するため、対象労働者からの苦情に対応するための措置を講ずることが考えられるのではないか。 |
・ | 要件・手続に違背があった場合は、新制度の法的効果を認めないこととし、労働基準法第32条等違反の問題が考えらえるのではないか。その場合、本来支払われるべき割増賃金の取扱いについての検討が必要ではないか。 |
・ | 行政官庁としては、導入手続が適正に行われているかという側面から適時適切に確認することが適当ではないか。このほか、賃金台帳等により対象労働者が明らかにされていることが求められるとともに、実際に健康確保措置が実施されているか、実際に休日が確保されているかなどについても書面に基づき確認を行い、こうした手続等が適切に行われていなかった場合は改善を求め、改善されないときは制度を廃止させることができることとする仕組みについての検討が必要ではないか。 |
5 | 現行の裁量労働制・管理監督者の改善 |
(1) | 現行の企画業務型裁量労働制については、新制度の創設に伴い、廃止することも考えられるが、実態を踏まえつつ、当面の間現行制度を維持することが適当ではないか。 その際、中小企業においては、労働者が少数で、全員から意見を聞くことにより、合意の形成を図れる場合については、労使委員会の設置を求めないこととすることも考えられるのではないか。 また、苦情処理措置をより実効あるものとすることが考えられ、このような苦情処理措置の運用改善の具体的方法を指針等において例示することが考えられるのではないか。 一方、現行の専門業務型裁量労働制については新制度の要件設定の仕方によっては対象労働者が一部重なることも考えられるが、異なる要件であり、ニーズもあると考えられることから、維持することが適当と考えられるのではないか。 その際、過重労働に陥ることを防ぐため、業務量の適正化を図るための所要の運用改善を行うことが必要ではないか。 |
(2) | 管理監督者については、いわゆるスタッフ職のうちに、処遇の程度等にかんがみ管理監督者として取り扱うべき者が出てくるなど、現行の要件では、その適正な運用を図ることが困難となっている。 そこで、本来の制度趣旨に照らして、要件の明確化及び適正化を図る必要があるのではないか。 また、その範囲について賃金台帳等により明らかにすることも考えられるのではないか。 さらに、深夜業に関する規定(割増賃金に関する規定等)についても適用除外とすることが考えられるのではないか。 この場合、管理監督者の健康確保措置の在り方について検討することに併せて、労働条件を決定する際、管理監督者の意向が反映される仕組みの在り方についても検討が必要ではないか。 |