研究課題 実施期間 合計金額
(千円)
主任研究者所属施設 氏名
(1)  専門的・学術的観点
 このテーマで、すでに分かっていること
 本研究で加えられたこと
 本研究成果の専門的・学術的意義
(2)  行政的観点(※1)
 期待される厚生労働行政に対する貢献度等。
(3) その他の社会的インパクトなど(予定を含む) 発表状況 特許 施策 (4) 普及・啓発活動件数 研究事業名
原著論文(件)※2 その他論文(件) 口頭発表等(件) 特許の出願及び取得状況 反映件数※3
特発性造血障害に関する調査研究班 平成14年度〜16年度 159,520 昭和大学藤が丘病院 小峰光博 (1)専門的・学術的観点
「特発性造血障害」の病態名の中に、4疾患が含まれる。再生不良性貧血、溶血性貧血、不応性貧血(骨髄異形成症候群)、骨髄線維症であり、それぞれに亜病型があって、すべてが対象疾患となっている。したがって個々の病態について分けてすべての問いに回答する必要があるが、ここでは要点に限って記載する。多くは骨髄機能不全を共通のキーワードとするが、それぞれの病因・病態発生は異なり、多様な内容を持つ難治性疾患群であり、根本治療も確実な治療法も未確立で、多くの困難な問題を今後に残している。
(ア)このテーマですでに分かっていること
1.再生不良性貧血については、何らかの免疫機序が関与して造血幹細胞障害がおこり、造血低下の結果、汎血球減少が生じる。免疫抑制療法と造血幹細胞移植療法が主な治療法であり、近年成績は飛躍的に改善してきた。免疫機序の詳細については多くが不明である。その他の機序による場合も含まれていると考えられるが、それを事前に知る方法はない。経過中に病像の移行をみることがあるが、その本態はやはり不明である。
○治療研究事業制度の平成14年度の改正に伴い、再生不良性貧血の認定基準・重症度基準の改訂、軽快者基準の検討、臨床調査個人票(新規と更新用)を作成した。
○臨床調査個人票に基づき、旧様式で8,000余、新様式で4,000余件のデータを集計し、実態を解析し、報告した。
○診断基準と重症度基準を対象の4疾患、7病型について平成16年度に改訂・作成した。
○「診療の参照ガイド」を4疾患、7病型について平成16年度に作成し公表した。
○血液難病の患者支援団体との交流に意を用いた(班会議の案内、講演会・相談会への参加)
○国際協調を図り、国際PNH専門家会議の結成に主導的に寄与し、国際共同研究の計画に参加した。
○ヒューマンサイエンス振興財団の支援でPNH治療薬の共同開発研究を進めた。
○難病医学研究財団の支援で骨髄不全症候群の治療に関する国際コンセンサス会議を開催した。
○適応外使用となる薬剤の有用性評価のための臨床研究を班組織を中心に実施する体制を整え、数種の臨床研究を行った。
○平成16年12月に、疾病対策課から「特定疾患治療研究事業」と「難治性疾患克服研究事業」の対象疾患の事業評価のためのアンケート調査について通知があり、細目におよぶ調査項目について、疾患毎に回答した。この内容は特定疾患対策懇談会の検討資料として利用されるとのことであった。
(3)その他の社会的インパクトなど(予定を含む)
○PNHの病因遺伝子の同定は班研究者によってなされ、本症の分子機構の解明が飛躍的に進展し、診断と病態の理解を根本から変貌させ、この分野での世界的リーダーシップを取っている。
○再生不良性貧血をはじめ、不応性貧血、骨髄線維症においてしばしばPNHタイプの異常血球が微量に検出され、その意義の究明が急がれている。現在、免疫抑制療法の有効性の予測因子となると考えられている。班研究者はその微量測定法を開発し、臨床検査施設との共同研究によって、一般化への途を探っている。
○班研究者の中には造血細胞移植療法の専門家が多数含まれている。それらの方々は、対象疾患に対する移植療法にも造詣が深く経験に富み、造血細胞移植学会を通じるなどして骨髄バンクや臍帯血バンク事業に関わっておられる。患者支援団体の活動にも造血細胞移植療法に関わるものが多く含まれている。
○遺伝子治療の臨床開発に向けた地道で着実な努力が重ねられている。先天性のFanconi貧血やPNH、慢性肉芽腫症などは将来候補疾患となり得るものである。
610 257 54 1) 選択的増幅性を付与する遺伝子(小澤敬也) 出願番号:特願平8−47796
2) 抑制性NK細胞受容体陽性細胞の増殖法(今村雅寛)
3) AAVベクター作製過程の改良(大西一功)
4) 白血病、前白血病または非白血病性悪性血液疾患の判定方法および診断薬(堀田知光) 出願番号:特願2002−106786
○難病の診断と治療指針 疾病対策研究会(編)六法出版社 改訂版(平成13年)に対象の4疾患について分担執筆した。さらに、改訂のための執筆をしたが、最新版は未刊行である。
○難病の診断と治療指針(改訂版・暫定版)(平成15年)の作成に関与した。
○難病対策ガイドブック改訂版 疾病対策研究会(監修)(平成15年)の作成に協力した。
○特定疾患介護ハンドブック疾病対策研究会(監修)改訂第4版(平成16年版)に対象4疾患について分担執筆した。
○平成15年度版 難病対策提要 (疾病対策課) 第IV章 治療研究対象疾患の概要 再生不良性貧血の項の作成に関与した。
○一般国民に向けた啓発を目的とするパンフレットは平成5-7年度に作成したが、その後は作成していない。
○対象疾患の一般向けの説明は難病情報センターのホームページ上に掲載しており、広く利用されている。難病情報センターを窓口とする一般社会からの相談については、必要に応じて個々に回答を作成し、情報センターを通じて回答している。
○血液難病支援団体、とくに再生つばさの会、とは緊密に連絡しており、会が主催する講演会や相談会に講師・相談員として班研究者が常に複数名が参加している。また、その機関誌への執筆や刊行物(患者・家族向けの案内書)の分担執筆や指導を行っている。
○年2回の班会議総会には、常に4−6名のつばさの会の会員が参加している。
○平成16年度の血液学会・臨床血液学会総会で、学会の役割についてのパネルディスカッションをもち、つばさの会代表者にパネリストとして参加を要請し発言してもらった。
○研究班として一般公開用のホームページは未整備である。
 
          2.溶血性貧血については、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)が主な対象疾患である。いずれもまれな疾患である。AIHAは自己抗体が生じて赤血球が過剰に破壊されて貧血をきたすが、自己抗体が生じる理由はまだ不明である。治療法として副腎皮質ステロイド薬が優れているが、慢性経過をとるので長期管理が問題となる。免疫系に作用する新しい薬物の有用性に関心が寄せられる。PNHはさらに頻度が低いが、アジア系人種に多いとされる。自己血中の補体の作用で赤血球膜が破壊して溶血する。その原因が補体制御分子の細胞膜への結合を仲介するアンカー分子の産生をコードする遺伝子の変異によることを研究班メンバーが明らかにした。PNHは経過中に再生不良性貧血と同じように骨髄低形成になりやすく、また再生不良性貧血の経過とともにPNHへ移行することがあるが、両者の関係はまだ十分に説明できていない。補体感受性を克服する治療薬は現在開発途上のものがあるが、病態のコントロールに有用な治療薬は利用可能なものがない状況である。                  
          3.不応性貧血は、骨髄異形成症候群に含まれる病態であり、さまざまな遺伝子異常を背景として生じる血球形成異常と理解され、急性白血病との近縁関係が濃厚である。後天的な疾患で種々な亜病型に分類され、高齢者に好発する。普遍的な分子異常、遺伝子異常はまだ明らかでなく、現状ではほとんどみるべき薬物治療法がない。若年者や一部の高齢者には骨髄移植が選択される。現在世界でも最も多くの研究者の関心を集めており、広範な研究が行われ、多数の知見があるものの、疾患克服に繋がる糸口が捉えられていない。前白血病状態としての位置づけも重要である。
4.骨髄線維症は、指定から9年を経た。古くから慢性骨髄増殖性疾患の一つとして位置づけられているクローン性増殖性疾患であるが、疾患の本態は解明されていない。慢性経過をとりつつ進行し早晩致死的な経過をとる。治療法は骨髄移植を除いて、対症療法のみである。
                 
          (イ)本研究で加えられたこと
1. 再生不良性貧血
(1)病因・病態発生については、患者骨髄で細胞障害性Tリンパ球の増加と特定のクローンの異常な拡大がみられた。また、そのようなリンパ球が抗原として認識する分子として、diazepam-binding inhibitor-related protein 1あるいはrobosomal protein L14が同定された。免疫抑制療法への反応性とHLA DRタイプとの関連が確認され、さらにPNHタイプ血球の存在も免疫異常の存在を示唆する現象として理解される。患者骨髄細胞にはゲノムの不安定性が内在することが示唆された。Fanconi貧血の遺伝子・分子機構が一層明らかにされ、本邦例での検索が進展した。(2)小児および成人の再不貧の治療成績と長期予後が明らかになった。免疫抑制療法は1995年以降、骨髄移植は1991年以降に一般化するようになり、それらの長期成績が明らかとなり、成績の向上は飛躍的で、治癒を期待できる疾患として新しいイメージが定着しつつある。(3)不応性貧血との境界・重複例、免疫抑制療法に不応例・再燃例、病像の移行をきたす例などが今後の大きな問題となる。
2. 溶血性貧血
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)では、自己抗体の出現機序が最大の問題だが、本研究におけるRh抗原の分子遺伝学的解析は、病因論にも繋がるものと期待される。自己抗体定量も臨床における診断・治療に貢献している。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の病態成立に、PIG-A遺伝子変異に加えて何らかの背景要因の関与が必要であり、免疫機序と追加遺伝子変異の可能性が明らかにされた。これらの知見は世界的潮流を導くものとなっている。日米比較研究で、臨床像に人種差があることが判明した。治療薬として補体阻害薬のRNAアプタマーが開発途上にある。国際共同研究の必要性が認識され、具体的な活動へと繋がりつつある。
                 
          3.不応性貧血
重点研究班と協力し、分子生物学的・遺伝学的研究によって、病因となる分子メカニズムの解明に努力を注ぎ、重要な報告が多数発表されたが、依然原因不明である。一部に免疫病態の関与が疑われることから、本班ではシクロスポリン治療の有効性評価試験をはじめて行い高い有効率を得た。この分野における我が国の研究水準の高さを反映し、班研究者が会長となって、平成17年5月に第8回国際MDSシンポジウムが4日間の日程で長崎で行われる。
4.骨髄線維症
指定から9年を経、研究歴は短いが、世界に類をみないデータベースが作成され、追跡調査を加えて、臨床像・予後因子分析を終えた。治癒を期待できる唯一の治療法は骨髄移植移植のみである。成因・病態発生については不明の部分が多かったが、実験的研究が重ねられ、ヒトに近似のマウスモデルの作成に成功した。これは今後病態解析とともに薬物治療の研究手段としても極めて有用と期待される。
                 
          (ウ)本研究成果の専門的・学術的意義
対象4疾患についての基礎的・臨床的研究成績はどれも高水準で重要なものであり、それぞれ著名な国際誌に報告され、高く評価されている。この分野・領域における我が国を代表する成果として理解してよいと考える。対象疾患には従来から好適な実験モデルがなく、研究は臨床的に入手される素材によらざるを得ないことから、研究活動における臨床医・臨床血液学研究者が主要な担い手となっている特殊性が考慮されるべきと考える。
                 
原発性免疫不全症候群に関する調査研究 平成14-16年度 89,000 富山医科薬科大学医学部小児科学 宮脇利男 (ア)約100近くの責任遺伝子が明かとなり、遺伝子解析により確定診断が可能となっている。(イ)高IgM症候タイプ5の責任遺伝子uracil-DNA glycosylase (UNG)の同定に貢献した。(ウ)UNG遺伝子変異が高IgM症候群をもたらすことがNature Immunologyni掲載され、国内外から大きな反響があった。 ○特になし。 X連鎖無ガンマグロブリン血症等の比較的頻度のの高い疾患についてフローサイトメトリーを用いた簡易診断法を開発、臨床の現場で有用な手立てとして提供している。 325 17 128 2 0 2(真菌感染予防を目指した慢性肉芽腫症ー日常生活の手引きーを作成し、患者・家族、主治医に配布した。ホームページ[http://www.toyama-mpu.ac.jp/md/pedi/mennHp/index.html]を通じて、患者。家族との相談に対応した。) 難治性疾患克服研究
難治性血管炎に関する調査研究 平成14-16年度 161,490 聖マリアンナ医科大学 リウマチ・膠原病・アレルギー内科 尾崎承一 (ア)ANCA関連血管炎に関する質の高いエビデンスは欧州のWegener肉芽腫症を主体とした研究に限られている。また、病態と密接に関わる遺伝子発現の研究はまだない。 米国でBurger病への血管内皮成長因子(VEGF)プラスミドを用いた遺伝子治療が行われた(1998)。しかし、実用に至っていない。 血管炎の原因遺伝子検索は、世界的にもこれからの課題である。(イ)MPO-ANCA関連顕微鏡的多発血管炎の前向きコホート研究が開始され、治療前後の血液サンプルを用いた網羅的遺伝子発現解析が開始された。HGF遺伝子プラスミドを用いた遺伝子治療の二重盲検法による多施設共同前向き臨床試験を進行中である。再生医療の予備的検討もなされた。難治性Buerger病3例に対し自己骨髄細胞移植による血管再生療法を施行し、臨床症状の著明な改善を認めた。
血管炎モデル動物として、リコンビナントインブレッドマウスMXH/lprを用いて、血管炎好発系と嫌発系の間でゲノムワイドに調べられた遺伝子マーカーから系統間分布表が作製され、血管炎感受性遺伝子が複数の染色体上にマッピングされた。、HTLV-I env-pX遺伝子導入ラット、カンジダ成分CAWS誘導冠状動脈炎モデルマウスが樹立・解析された。(ウ)欧米に比べ我が国に多い顕微鏡的多発血管炎に限定した前向き臨床研究は世界初の試みである。病態と密接に関与する遺伝子を3種類同定した。
世界に先駆けてBurger病に対する遺伝子治療の臨床応用実現に向けて大きく前進した。これらの解析を通して、世界に先駆けた、血管炎原因遺伝子の同定や血管炎発症機序のさらなる解明が期待される。
進行性腎障害に関する調査研究班(主任研究者:冨野康日己)と免疫疾患の合併症とその治療法に関する研究班(主任研究者:橋本博史)の2班と合同で、MPO-ANCA関連血管炎に対する重症度別治療プロトコールを作成し、その有用性を検証するための前向き臨床試験が開始された。また、全班員合同で「血管炎アトラス」を作成し、全国の専門医に配布した。さらに、新規治療として、再生医療、遺伝子治療を展開した。 専門医間で治療方針に関する考え方が大きく異なっていたが、多施設共同の前向き臨床試験プロトコールに関する議論等を経て、前向き臨床試験による質の高いエビデンス確立への機運が高まった。さらに、臨床試験に用いられる重症度別治療プロトコールが、我が国の標準的治療法として普及しつつある。さらに前向き臨床試験の推進母体として、我が国の血管炎治療分野をリードする形に発展している。 臨床試験により新しい治療法として確立されれば、下肢や足趾の切断を余儀なくされていた患者のQOLを著しく改善させることができる。 原因遺伝子や発症機序の解明が進むことによる波及効果は大きい。 95 139 628 6 0 2 難治性疾患克服研究
自己免疫疾患に関する調査研究 平成14-16年度 156,020 北海道大学大学院医学研究科病態内科学講座・第二内科 小池隆夫 (ア) (1)SLEに血栓症が好発し抗リン脂質抗体との関係が明らかにされて、抗リン脂質抗体症候群と呼ばれている。(2)膠原病には難治性の間質性を合併することが多い。(3)SLEの発症を規定する疾患感受性遺伝子が欧米を中心に報告されてきた。
(イ)(1)抗リン脂質抗体症候群の日本人における病態を解析した。新しい抗リン脂質抗体の測定法を開発した。抗リン脂質抗体が細胞にシグナルを伝えて、組織因子を誘導することが血栓形成の本態であることを明らかにした。(2)膠原病に合併する間質性肺炎にタクロリムスが有効である可能性が示唆された。(3)班員の協力により400検体以上のDNAサンプルを集め、疾患感受性遺伝子の解析を行った。
(ウ)(1)抗リン脂質抗体が誘導する組織因子誘導シグナルを阻害することにより、血栓症の治療が予防できる可能性がある。このことは世界に先駆けて発表された事実であり、大きな反響をよんだ。(2)タクロリムスの難治性間質性肺炎に対する有効性が示されたので、試験の規模を拡大して更なるデータの蓄積が期待される。(3)関節リウマチおよびSLEの発症に関与する新たな遺伝子が同定され、Nature Genetics,誌に発表されまたマスコミでも報道され社会的な反響をよんだ。
(1)抗リン脂質抗体の測定のための標準抗体となるモノクローナルマウス・ヒトキメラ抗体を作成し、WHO/アメリカリウマチ学会標準抗体に認定され、世界標準抗体になっている。抗プロトロンビン抗体およびループスアンチコアグラント測定の標準化を行った。日本人の抗リン脂質抗体症候群の治療ガイドラインを作成した。
(2)膠原病に伴う難治性間質性肺炎の治療法の新たな治療法の確立が期待できる。
(1)血栓発症の分子機構が解明されてきたので、治療薬開発のためのターゲット分子が絞られてくる可能性がある。新規の抗リン脂質抗体の存在が明らかになり、その測定法も確立されたので、潜在的な患者の掘り起しが可能になる。
(2)同定された新規遺伝子の機能解析から、自己免疫疾患の新たな治療戦略が生まれる可能性がある。
501 477 931 11     難治性疾患克服研究
ベーチェット病に関する調査研究 平成14-16年度 75,000 福島県立医科大学医学部皮膚科学教室 金子 史男 1. 発症内因子としての疾患責任遺伝子はヒト第6染色体短宛に存在するHLA-B51の近傍とその対立遺伝子HLA-B*510101アリルに存在する。 2. 発症外因子として、Streptococcus(S).sanguinis(113-20株)(旧分類S.sanguis)がベーチェット病(BD)患者の口腔内に特異的に多く検出され、このS.sanguinisに対して異常過敏反応を示す。 3. S.sanguinisは熱ショック蛋白(heat shock protein:HSP)-65kDa (HSP-65)を産生する。その反応性にヒトにはHSP-60が産生され、両者にはいくつかの塩基配列(ペプチド)に相同部分が存在する。HSP-65/60はBD患者の血中および病変組織で検出でき、病勢に何らかの役目を演じている。 4. BD患者の病勢の活動期には種々の免疫異常が存在する。病変部ではTh 1型免疫反応が亢進しており、αβT細胞および本来粘膜免疫に関与するγδT細胞が血中においても活性化している。 5. 治療では白血球活動を抑制するコルヒチン、免疫抑制剤シクロスポリンが有効であるが、後者に感受性のない患者がある。 1. 1987年以来の診断基準が2003年に改定され、S.sanguinisの反応に対する検査項目が加味され、活動期、非活動期ならびに重症度基準が設定された。 2. BDの腸管型の診断基準が準備された。 3. 疫学的調査から発症年齢の推移および口腔内アフタに対するQOLの概念が提唱された。 HSP-65/60の相同部ペプチドによる免疫寛解療法が研究された。 10 11 20 1     難治性疾患克服研究
          (イ)1. HLA-B*510101を日本人、イラン人、トルコ人、ヨルダン人から選び出し、遺伝子多型(single nucleotide polymorphism:SNP)解析とゲノムワイドなマイクロサテライト法で解析し、その系統樹を作成してみるとBDの由来は地中海沿岸人から伝播した可能性が明らかになってきた。 2. S.sanguinisのDNAの構造(bes-1)にヒト眼網膜ガングリオンペプチド(Brn-3b)と相同する部位が存在する。bes-1遺伝子はPCR(polymerase chain reaction)でBD患者病変部に存在が確認され、PCR-in situ hybridization法ではBD患者病変部の湿潤細胞核に検出された。これらのbes-1陽性細胞膜表面にはS.sanguinis抗体に反応する抗原を表現していることから、これらの単核細胞が局所病変を起こす可能性がある。一方、同様の方法でヘルペスウィルスの検出を試みたが、検出できなかった。 3. S.sanguinis由来HSP-65とヒトに出現するHSP-60の相同部はいずれもヒトのT細胞エピトープにも相同部を有する。これらの相同部に対して、BD患者にはIgA、IgGに抗体が存在することから複雑な免疫状態にある。HSP-65/60の相同部には相互に患者リンパ球を刺激するペプチドと逆に反応を抑制する相同部ペプチドが存在する。反応を抑制するペプチドは免疫寛容を誘導できる可能性を示唆している。 4. BD患者の病勢の活動期にはαβT細胞、γδT細胞が活性化されているが、特にγδT細胞は粘膜部で抗原としてのS.sanguinisおよびHSP-65は抗原情報伝達細胞である樹状細胞(DC)にHLA-B51上の近傍遺伝子MICA(major histocompatibility complex classIchain-related gene A)により拘束され、T細胞に抗原情報伝達が行われている可能性が示唆された。治療による非活動期にはCD8+γδT細胞、CD4+αβT細胞の活性は沈静化されている。                  
          5. 治療では、シクロスポリンの感受性遺伝子の存在が薬剤感受性の有無を表していることが明らかになってきた。ステロイド治療法の見直しが行われ、その効果的治療法が示された。ヒトの抗サイトカイン療法の治療効果が検討された。また、生体内に生ずる抗炎症作用を示すhuman cationic antimicrobial protein(CAP)-18、heme oxygenase(HO)-1、αメラノサイト刺激ホルモン(αMSH)などを誘導することによる治療法が考えられた。
(ウ) 1. 本症の発症伝播が疾患感受性遺伝子の解析から明らかになり、本症は地中海沿岸諸国に発し、いわゆるシルクロード沿いに日本に伝播してきたことが推定された。
2. S.sanguinis抗原の口腔粘膜を介して自然免疫の型で過敏症を獲得し、その受容体として抗原情報伝達細胞膜のHLA-B51上の遺伝子MICAの関与と、抗原受容体としてToll-like receptor(TLR)-9の関与が推定された。 3. HSP-65/60の役割が明らかになり、その両者の相同部が発症の引き金と反応抑制を示すことから治療への応用として免疫寛容の誘導可能性が明らかにされつつあり、世界的にHSP-65/60が本症研究の病因解明と治療へ応用できる可能性が焦点とされている。
4. 本症の粘膜を介する免疫にCD8+γδT細胞の役目がクローズアップされた。
                 
ホルモン受容機構異常に関する調査研究 平成14-16年度 88,000 大阪厚生年金病院 清野佳紀 ア)副甲状腺機能低下症治療の中心であるビタミンDの細胞内情報伝達については生の転写制御機構以外には明らかではなく、さらにCaイオンの生体機能における重要性から、ビタミンDの骨に対する直接作用は明確ではない。また、副甲状腺ホルモンが骨の形成を促進することは明らかとはなっているが、その細胞内情報伝達についての詳細は明らかではなかった。同様に甲状腺ホルモンによる遺伝子転写の負の調節機構については適切なモデルが無いことからその分子機構は不明であった。バセドウ病においてはその疾患感受性を規定する因子は不明であった。イ)ビタミンDの核移行メカニズム、新しいビタミンD受容体リガンドの同定、ビタミンDによる負の遺伝子制御機構の解明、ビタミンDの骨に対する直接作用の解明、副甲状腺ホルモンの細胞内情報伝達、低リン血症性骨軟化症におけるFGF23の同定、甲状腺ホルモンによる負の遺伝子転写制御機構の解明、バセドウ病疾患感受性遺伝子候補の解明などを新たに本研究で明らかにした。ウ)ビタミンD 副甲状腺研究に全く新たな展開を提供し、国内外から大きな反響があった。特に負の制御に関わる共役因子の同定、FGF23に関する研究はPNAS、Cellなどに掲載され、本領域の研究の中心テーマとなっている。また、甲状腺ホルモンにおける遺伝子転写制御においても国際的に高い評価を得ている。 本研究成果をもとに、新たな治療薬、創薬標的ができた。バセドウ病の疾患感受性に関する研究成果は疾患頻度などわが国では明らかではなかった成績を得ることができ、行政に反映できるものと考えるばかりでなく、疾患の予防においても重要な情報となりうる。 甲状腺、副甲状腺疾患の予防治療成績の向上に繋がるばかりでなく、より頻度の高い骨粗鬆症やバセドウ病の新たな治療戦略開発に発展する。 291 175 404 0 0   難治性疾患克服研究
間脳下垂体機能障害に関する調査研究 平成14-16年度 59,000 神戸大学大学院医学系研究科 千原和夫 ア 間脳下垂体障害の成因の一部 イ SIADH、高齢者のバゾプレシン分泌機構について明確になった。SIADH治療合併症防止法が開発された。下垂体腫瘍、ホルモン過剰症の機構が一部解明された。先端巨大症の合併症、長期予後が明らかとなった.プレクリニカルクッシング病の疫学調査が行われ、実態が明らかとなった。クッシング病の新規薬物療法が検討された。成長ホルモン分泌不全症、視床下部下垂体炎の新規検査が開発された。右記の診断治療の手引が作成された。ウ 成果は311編の英文原著として報告され、大きな反響があった。 中枢性思春期早発症の診断基準が改定された.下垂体機能低下症、先端巨大症、クッシング病の診断と治療の手引、TSH産生下垂体腫瘍の診断の手引が作成された。成人GH分泌不全症、GH分泌不全性低身長症の診断の手引が改訂された。本研究班を中心に開発された新規診断薬が認可された。 種々の問い合わせが相次ぎ,成果の一部は製薬会社のホームページにも掲載された(ファイザー、科研製薬)。新聞にも取り上げられた(産經新聞、神戸新聞)。 348 375 576 1 13 6 難治性疾患克服研究
中枢性摂食異常症に関する
調査研究
平成
14-16
年度
59,000 日本医科大学大学院
医学研究科生体統御科学
芝崎 保 (ア)患者数が増加している。神経性食欲不振症の有効な薬物治療法が確立されていない。
(イ)神経性食欲不振症の合併症である低身長と骨粗鬆症の病態を解析し、その予防のための最低BMI値を設定した。若年女性の痩せ願望、痩せ過ぎ、食行動異常の増加や、摂食調節物質の病態への関与様式が明らかになってきた。
(ウ)中枢性摂食調節機構の詳細と本症の病態に関与する物質が明らかにされ、病態改善薬が開発されつつある。
合併する骨粗鬆症の予防、治療のための最低BMI値を設定し、骨粗鬆症を減少させることにより、将来の患者のQOLを高めるだけでなく、医療福祉経済面での損失を縮小することが期待される。 若年女性の痩せ願望、痩せ過ぎ、食行動異常の増加の現実を啓蒙で訴える。 43 413 591 5 0 80 難治性疾患克服研究
原発性高脂血症に関する調査研究 平成14-16年度 55,000 千葉大学大学院医学研究院 齋藤 康 (ア)昭和58年より発足した本研究班は、主に原発性高脂血症の疾患別頻度の同定、診断基準の整備、治療法及び予後、とくに動脈硬化における意義の確立が行なわれた。引き続いてこれまでに以下の成果を得た。(1)2000年の日本人における高脂血症の発症頻度に関する調査研究(10年毎に行なわれてきた実態調査の一環)。(2)複合型高脂血症の診断法の確立。(3)小児高脂血症の現状と病態の解析。(4)脂質代謝異常に関連する遺伝子異常の検出。
 これらの成果は、我が国の原発性高脂血症の特異性とともに、食生活の欧米化にともなう欧米諸国と同レベルの動脈硬化のリスクファクターとしての高脂血症の位置付けを明らかにした。このように20年間に蓄積した統一基準に基づく国民の血清脂質に関わる診断、病態と予後データの蓄積をおこない、高脂血症診療における診断基準、ガイドラインの作製に貢献して来た。
(イ)昭和58年より発足した本研究班による継続課題を基盤に、本研究班では以下の項目を主要課題とした。
1.高脂血症の診断指針と病態解析におけるゲノム解析の有用性の検討
2.ハイリスク高脂血症の診断と病態および発症要因に関する研究
3.小児高脂血症における家族性高コレステロール血症の診断法の確立
4.動脈硬化発症におけるHDLに関する研究
5.高脂血症に関する各種検査法の実態調査
ゲノム解析では本邦における原発性高脂血症に関わる遺伝子解析の現状評価と有用性を評価するために4種類の調査解析を進め、『日本人の原発性高脂血症及び関連疾患における遺伝子異常のデータベース作成』を作成した。ハイリスク高脂血症調査では、新診断基準に基づく家族性複合型高脂血症の病態を明らかにした。小児家族性高コレステロール血症については、全国アンケート調査から診断基準を提唱した。HDL調査は、LDL低下療法との比較から医学的および医療経済的にHDL治療の有用性が明らかにした。検査法の実態調査から、LDL直接測定法の標準化に関わる客観的評価の必要性が明らかになった。
本研究班は、これまで日本動脈硬化学会と密接な連携のもとで実施された。その研究成果は学会で定める診断基準ならびにガイドラインのデータベースとして用いられてきた。最近では、2002年度版動脈硬化診療ガイドラインに反映された。また、日本動脈硬化学会誌であるJ Atheroscler Thrombに公表、そのデータベースは学会ホームページにリンクさせる。以上のように本研究成果は、学会の診断基準、ガイドラインの制定に深く関与し、その結果、厚生労働行政に多大な貢献を果たすことが期待される。 今年度までの研究成果の一部はすでに学会誌に発表された。さらに最終年度に得られた成果について学術誌において引き続き公表し、その成果を一般に活用されるようにする。特に、高脂血症の診断指針と病態解析におけるゲノム解析の有用性の検討に関して、本研究班により従来行なわれてきた全国の原発性高脂血症の遺伝子解析の現況の最終結果は、日本動脈硬化学会誌に公表され学会ホームページから接続可能となる予定である。今後、日本動脈硬化の社会的普及活動と密接に連携を取り研究成果の公表をすすめる予定である。 140 30 60 0 5 6 難治性疾患克服研究
          (ウ)本研究計画は、北班の研究成果を基盤に、継続課題、新規課題を5つの主要課題を具体的に設定し連携を保ちながら進められ、当初の研究計画を予定通り終了した。これらの研究成果は、今後、原発性高脂血症の診療に関わる診療における有用なデータベースとして提供される。さらに本研究結果により今後さらに検討すべき課題が明らかになったと考えられる。以上の研究成果は、わが国における原発性高脂血症の疾患別頻度の同定、診断基準の整備、治療法及び予後、とくに動脈硬化における意義の確立などに今後多大な貢献をすると考えられる。                  
アミロイドーシスに関する調査研究 平成14-16年度 28,000 信州大学医学部内科 池田修一 (ア)従来、原発性全身性ALアミロドーシスに対する有効な治療は本邦では行われていなかった。(イ)導入療法としてのVAD、それに続く自己末梢血幹細胞移植を併用したメルファラン大量静注療法を行うことで、本疾患の根治が可能となった。(ウ)本成果はAmyloidに掲載され、国内の多くの施設から問い合わせがあり、反響は大きいと考えられる。 本成果をもとに原発性全身性ALアミロドーシスに対する治療ガイドラインを作成し、全国の5施設を中心に普及に努めている。   3 2 3       難治性疾患克服研究
          (ア)家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)に対する肝移植は、本邦では1993年から生体肝移植を中心に行われているが、その長期予後については明らかにされていなかった。(イ)本邦で過去11年間にFAPに対して行われた肝移植は43例であり、10年生存率は78%である等の詳細を明らかにした。近日中にInternal Medicineに掲載予定である。(ウ)本成果は生体肝移植が中心であり、国内外から注目されている。 本成果は今後FAPに対して肝移植を行う際のガイドラインになると考えられる。   2 2 3        
プリオン病及び遅発性ウイルス感染に関する調査研究班 平成14-16年度 263,770 東京医科歯科大学大学院脳神経病態学(神経内科) 水澤英洋 (ア)これまで本邦には変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)はなく医療行為等による二次感染の心配もなかった。プリオン蛋白の機能、異常化機序は不明で、早期診断法、治療法、ケア体制は皆無であった。亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の実態は不明で発症機序も解らなかった。進行性多巣性白質脳症(PML)の実態は全く不明で診断基準もなく発症機序も不明であった。

(イ)本研究によりCJDの全国サーベイランスが発展し、本邦発の変異型CJDを検出し、迅速に調査し二次感染予防対策を立てることができた。プリオン蛋白の抗アポトーシス機能が明らかになり、新規解きほぐし蛋白を同定、株特異的異常化機構の同定、神経変性を来さないプリオン病動物モデルの開発、MRI等の診断手法の有用性、キナクリン治験の実施、ペントサン治験の開始、専門カウンセラーによるケア体制の準備などがなされた。SSPEではサーベイランスが行われ、危険因子として発症年齢、遺伝子多型などが同定され、特徴的サイトカイン反応、SSPE株の遺伝子配列、リバビリン併用療法、中枢感染モデルの作製などが達成された。PMLでは診断基準の作成、全国調査の実施、新規結合蛋白同定、ウイルスゲノムのPML型配列の発見などがなされた。
 プリオン病は現在根本的治療法のない致死的感染疾患でありサーベイランスとそれにもとづく感染予防がきわめて重要であるが、変異型CJDの発見と対応により本研究によるサーベイランスと疫学研究がきわめて有効に機能していることが示された。
 事実、本研究では班会議の他にプリオン病ではサーベイランス委員会、SSPEとPMLではそれぞれの分科会をもち、何度もの会議を行い、さらには得られた知見をいち早く全国に周知するというCJDサーベイランス全国担当者会議をも行っており、厚生労働行政に対する貢献は非常に大きい。
 また、診断基準の策定、見直しに加えそれぞれに治療への試みが開始されたことも厚生労働行政にとって大きな貢献であり、最終的には発症機序の研究の進展も大きな貢献をすることと期待される。
 プリオン病のサーベイランス体制は常設ではなくこの研究班の中にあるが、非常にうまく機能していることが示唆され、他の疾患などへのモデルともなりうる。 全国都道府県の行政担当者と神経難病専門医を対象としたCJDサーベイタンス全国担当者会議は、本研究班や内外の最新の知見や連絡事項を迅速かつ効率的に周知することに役立っており、やはり一つのモデルと成りうる。
 診断に関しては、とくにMRIの普及率のよい本邦での研究が世界をリードする形になってきており、変異型CJDについてはその診断基準の見直しが検討され成果をあげている。
 治療についてもプリオン病のキナクリンやペントサンによる治療、あるいはSSPEのリバビリン治療は本研究班で開発されたものであり、世界をリードする形に発展している。 
139 182 419 8 10 124 難治性疾患克服研究
          (ウ)いまだ発症機序も全く不明であるプリオン病の克服には正確な実態の把握が重要であるがそれが達成されつつあることが示され、この変異型CJD例により脳波上、MRI上の新知見が明らかとなり、2005年5月英国での国際サーベイランス会議で発表しWHOの基準の見直しが進んでいる。キナクリン/ペントサン治療は本邦で開発され英国での治験を指導するまでになっている。プリオン病の発症機序の解明も着実に進んでおり大きな貢献をしている。SSPEについても実態の把握が進み、疫学的危険因子や遺伝的危険因子、SSPE特有のゲノムが明らかとなり、リバビリンの治験も進んでいる。PMLについては発症機序解明で大きな進展があったのみならず、診断基準の作成等により全国的実態調査が進んだ。これらの成果は一流の学術誌に掲載され班会議にて発表されたのみならず、2004年にはPMLおよびプリオン病の国際会議を共催し全世界にむけて発信された。    発症機序についてもそれぞれの疾患において基礎研究者と臨床医とが有機的に連携する本研究班の特徴を活かした研究成果があがっており、それは分担研究者がそれぞれ独自にCRESTなどの大型研究費を獲得して当該疾患の研究を推進していることでも明らかである。              
神経変性疾患に関する調査研究 平成14-16年度 137,280 三重大学大学院医学系研究科生命医科学専攻神経感覚医学講座神経病態内科学分野 葛原茂樹 対象9疾患ごとに分けて以下に記載する
I.筋萎縮性側索硬化症(ALS)について
[1]原因と発症機構
(ア)
a.常染色体優性遺伝の家族性ALS(FALS)の約半数は,原因はSOD1遺伝子変異である.
b.孤発性ALSの原因は不明である.
c.グアム島と紀伊半島に100倍以上の多発地域があったが,1980年代に多発は消滅した.(食生活などの環境因の改善のためと推定).
(イ)
a1.SOD2遺伝子導入トランスジェニック・マウス作成により発症機構の解明が進んだ(gain of function).
a2.世界で初めてトランスジェニック・ラットを作成し,大型動物による実験が可能になり,病態と治療薬の研究が進んだ.
b.孤発性ALSの脊髄運動ニューロンではグルタミン酸AMPA受容体GluR2RNAの編集率が正常対象と比較して有意に低下していることを発見した.
c.紀伊半島多発地の再調査により,高発生率の持続を確認した.更にグアムと同じパーキンソン痴呆複合(PDC)の存在を発見し,多くが家族性発症であることを確認した.
[ALS]
・平成14年度に本研究班の成果をもとにALSの診断基準と臨床個人調査票の改訂を行い,その中に国際基準に合わせた診断基準,重症度の評価基準、遺伝疫学的研究を可能にする項目を盛り込んだ.
・平成15年7月17日各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知「ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の在宅療養の支援について」(在宅療法ALS患者のヘルパーによる吸痰行為許可)につながった.
[ALS]
特になし
443 557 950 5 6 25
・財団法人ヒューマンサイエンス振興財団主催 平成16年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究推進事業研究成果発表会にて成果発表(H16.3月)
・「パーキンソン病と関連疾患(進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症)の療養の手引き」作成,配布(H17.3月)
・ALS/MND国際会議2006 日本誘致に協力し,プログラム委員になった(葛原・祖父江)
・難病情報センターインターネットホームページに9疾患を掲載(http://www.nanbyou.or.jp/)
・ワークショップ開催(H15.8月,H15.9月,H16.8月)
難治性疾患克服研究
          (ウ)
a1.遺伝子異常に起因する異常蛋白産生防止による治療法開発の方向が示された.
a2.細胞死抑制作用のある薬物(HGFなど)や既知の薬物の治療効果判定に利用されている.
b.孤発性ALSの発症機構に関する初の知見としてNature誌に掲載され,国内外から大きな反響があった.
c.多発原因の従来の環境因説(ミネラル,ソテツ毒)を否定する新知見として国際誌に掲載され,国内外で大きな反響があり,日米共同研究が始まった.
                 
          [2]臨床分野の研究
(ア)
a.臨床的な機能の客観的評価法が未確立.
b.我が国では人工呼吸器装着長期生存者が増加している.
c.有効な治療法が確立していない.
(イ)
a.電気生理学的検査 Motor Unit Number Estimation (MUNE)を用いて,発症後の運動ニューロン活動量が測定できることを示した.
b1.人工呼吸器装着後の患者の臨床徴候を長期間研究し,完全閉じ込め症候群(total locked-in : TLI)に至るALS臨床像の全経過を解明した.
b2.新たに作成した臨床個人調査票を用いて我が国の患者の療養実態を明らかにした.
c.メチルコバラミン(ビタミンB12)の臨床効果を検証中である.
(ウ)
a.将来はALS患者の客観的機能評価と予後予測,FALSでは発症前の病態診断と予防的治療の指標に応用できる可能性がある.
b1.人工呼吸器装着患者のコミュニケーションとQOLの向上,事前指示(advanced directive)の行使の上で有用な情報である.
b2.患者数のみでなく機能性を含めた実態把握は難病行政推進上,重要なデータである.
c.統計的有意差は出ていないが,その結果には世界中の関係者が注目し,臨床治験開始も検討されている.
                 
          II.パーキンソン病(PD)について
[1]原因,発症機序,基礎研究
(ア)
a.家族性PDについて,原因遺伝子として常染色体優性遺伝性のα‐シヌクレインと,我が国で発見された常染色体劣性遺伝性のparkinの遺伝子変異が判明している.
b.発症機序として,遺伝素因と外因(環境因)の関与が推定されている.
(イ)
a.2002年に常染色体優性遺伝性の相模原の家族性PD(PARK8)の遺伝子座を12p11.2-q13.1に同定した.
b.黒質神経細胞死の発生機構として,細胞内蛋白の分解・除去機構であるユビキチン・プロテアソーム系機能不全の存在が判明し,新しいリガンドとしてユビキチン類似蛋白(PARK1N)やドルフィンなどを同定した.
(ウ)
a.遺伝子座決定を基礎に,2004年に原因遺伝子dardarinが発見された.
b.ユビキチン・プロテアソーム系機能修復によるPD治療戦略が示された.
[PD]
・本研究班が担当して,平成14年度に特定疾患治療対策事業の臨床個人調査票と疾患概念や診断基準の改定を行った.その中には,重症度の客観的評価項目(UPDRSから抜粋)と遺伝疫学的研究を実施できる項目を含めることにより,疫学的研究が可能な内容とした.
[PD]
特になし
             
          [2]臨床分野の研究
(ア)
a.診断基準は確立しているが類似の線条体黒質変性症(SND),進行性核上性麻痺(PSP),大脳皮質基底核変性症(CBD)との鑑別困難例がある.
b.レビー小体型痴呆(DLB)の概念提唱により痴呆を伴うパーキンソン病(PDD)との異同が問題になっている.
c.対症療法としての薬物療法が確立している.
d.定位脳手術の適応基準が示されている.
e.黒質神経細胞保護など,根本的治療法は確立されていない.
f.患者のQOLが重視されるようになった.
(イ)
a.有用な鑑別診断法として,MIBG心筋シンチグラフィーの異常所見が発見された.
b.レビー小体出現剖検例の研究により,DLBとPDDの病理学的所見に本質的差異はないことが示された.
c.本研究班の分担研究者が中心になって,日本神経学会でPD治療ガイドラインが作成された(2002年).
d.定位脳手術の技術的改良(手術部位決定法,破壊か電気刺激か)が進んでいる.
e.MPTP投与PDモデルサルにおいて,アデノ随伴ウィルスベクターによるドパミン合成酵素遺伝子導入治療が成功した.
f.患者のQOLを決定する影響因子が解析され,それを利用した改善事項を提唱した.
                 
          (ウ)
a.国際的に高く評価され,追試されている.
b.DLBの診断基準や概念の見直しが始まった.
c.治療ガイドラインが標準的医療として全国的に普及している.
d.手術適応がより厳格になって治療成績も向上している.
e.日米でヒトPD患者を対象に,アデノ随伴ウィルスベクターによるドパミン合成酵素遺伝子導入治療の臨床応用が倫理委員会に申請され審査中である.
f.医学的治療に加えて,QOL改善の取り組みが医療機関や難病センターを通じて実施されるようになった.
                 
          III.進行性核上性麻痺(PSP)と大脳皮質基底核変性症(CBD)について
(線条体黒質変性症(SND)の担当は小脳失調班に変更)
(ア)
a.国際的診断基準が提唱されているが,非定型例が多い.
b.パーキンソン病,PSP,CBDの間で鑑別診断困難例がある.
c.PSPとCBDは病理学的に共通点が多い.
d.白人で報告されている発症リスクのタウ遺伝子多型は,非白人では有意差が無い.
(イ)
a.本研究班でPSPとCBDの症例を集めて分析し,独自の診断基準を作成し公表した.
b.パーキンソン病との鑑別にはMIBG心筋シンチグラフィー(パーキンソン病では異常,PSP,CBD,SNDでは正常)が,PSPとCBDの鑑別には髄液タウ蛋白値(PSPで正常,CBDで上昇)が有用であることを示した.
c.PSPとCBDの詳細な検討により,両者の特徴を併せ持つ例や中間型もあることを確認した.
d.日本人に特有の発病リスクとなるタウ遺伝子多型の候補遺伝子を発見した.
[PSPとCBD]
・本研究でのこれまでの取り組みが基礎になり,平成15年度からはPSP,CBD,SNDが特定疾患治療研究事業に追加された.それに伴う診断基準や臨床個人調査票の作成に研究班として取り組んだ.
・臨床個人調査票の解析により,(受給者に限られるとはいえ)PSPとCBDの罹患者と症状の実態が始めて明らかになり,医療行政に基礎データを提供した.
[PSPとCBD]
特になし
             
          (ウ)
a.PSPとCBDの診断を容易にし,新しく作成された特定疾患対策研究事業の疾患概念,診断基準,臨床個人調査票にも取り入れられた.
b.MIBG心筋シンチグラフィー,髄液中タウ蛋白の両検査とも国内で利用されているだけでなく,国際誌にも発表され,有用性が確立されつつある.
c.国際誌に報告され,疾患概念の確立に貢献している.
d.発症リスク遺伝子多型の確立により,疾患の人種・民族差と固有の発症因子発見の糸口になることが期待される.
                 
          IV.ハンチントン舞踏病(HD)について
(ア)
発症機構はhuntingtin遺伝子のCAGリピート数の異常伸長によって産生されるポリグルタミンを含む異常蛋白が神経細胞死を誘発する(gain of function).
(イ)
ヒト疾患遺伝子を導入したトランスジェニックマウスにおいて,発症をサプリメントのトレハロースが抑制することを発見.
(ウ)
国際誌Nature Medicineに掲載され,国内外に大きな反響を与えた.ヒト臨床治験のための評価表(UHDRS)を本研究班で検証する準備を進めている.
[HD]
平成14年度に実施された特定疾患対策研究事業の見直しにおいて,診断基準,臨床個人調査票の作成作業を行い,重症度,遺伝子診断の適応,疫学的研究実施に適したものに改訂した.
[HD]
特になし
             
          V.球脊髄性進行性筋萎縮症(SBMA:Kennedy病)について
(ア)
a.原因はX染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピートの異常伸長によって産生されるポリグルタミン蛋白のgain of function による.
b.伴性劣性遺伝疾患であるにもかかわらず,女性のX※X※ホモ接合子を持つ例で発症しない.
(イ)
a.X※X※の病的遺伝子を持つメスのトランスジェニックマウスは発症しない.
b.オストランスジェニックマウスは睾丸摘出かLH−RHアゴニスト(リュープロレリン)投与により去勢することによって,発症が抑制される.
c.異常蛋白が核内に取り込まれ機能障害を発現するにはアンドロゲンが必要である.
(ウ)
a.成果は国際誌に発表され,国内外で高い評価を受けた.
b.ヒト患者を対象にした臨床治験が開始された.
[SBMA]
特になし
[SBMA]
特になし
             
          VI.脊髄空洞症について
(ア)(イ)(ウ) 特になし
[脊髄空洞症]
特になし
[脊髄空洞症]
特になし
             
          VII.ライソゾーム病について
ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究班,および突発性心筋症に関する調査研究班が担当
                 
免疫性神経疾患に関する調査研究班 平成14-16年度 174,320 九州大学大学院医学研究院神経内科学 吉良潤一 (ア)15年ぶりの多発性硬化症の全国臨床疫学調査を実施した。(イ)わが国の多発性硬化症患者数は9900人と推定された。(ウ)今後二次調査結果を詳細に解析して、わが国の多発性硬化症の実態が解明されることが期待される。 わが国の多発性硬化症疫学の基礎データとなる。 MRI所見を含む詳細なデータを1900例を越える例数集積した研究は、アジア人種では前例がなく、世界的にみても極めて貴重なものといえ、今後の解析結果が待たれるところである。 940 766 2024 0 3  23
(http://www.med.
kyushu-u.ac.jp/
neuro/)
市民公開講座「神経免疫疾患の研究の最前線」を開催
難治性疾患克服研究
          (ア)本邦や他のアジア諸国では視神経脊髄型MSが欧米より多い。(イ)視神経脊髄型MS及び通常型MSの臨床及び免疫病態の特徴と相違を明らかにした。1)視神経脊髄型MSは女性優位、脊髄病変が3椎体以上を長く、オリゴクローナルバンド陰性であることが通常型MSと重要な相違点であることを明らかにした。2)通常型MSの髄液IgGの標的抗原解析を行い、ヘルペス属ウイルスに相同性の高い配列を高頻度に検出した。3)視神経脊髄型MSでは、通常型MSに比べて髄液IgG1%やCCR5+CD4+細胞サブセットが低値でTh1反応の関与がより少ないことが示唆された。4)プロテインチップによるMS髄液のタンパクプロフィール解析の結果、MSでは対照群に比べて髄液シスタチンCの低下があることが明らかになった。5)視神経脊髄型MSに特異的な自己抗体NMO-IgGを発見した。(ウ)視神経脊髄型MSが通常型MSと異なる病態であることが国際的にも注目され、診断や治療法の開発にも多大な影響を与えた。 ○MSの病型を的確に診断し、各々における更に詳細な病態解析や適切な治療法を開発するための基礎データとなった。
○NMO-IgGは今後、視神経脊髄型MSの病態解明のみならず早期診断、治療を推進するための重要な発見である。
従来一般にはMSという一つの病気と考えられてきたが、病型毎の異なる特徴に関する知識の普及に役立つ。           (http://www.mscabin.org/)
(http://www.h2.dion.ne.jp/~msfriend/mokuji/contents.html)
難治性疾患克服研究
          (ア)MSの有病率は10万人対2-4人である。MSは多因子疾患,多遺伝子疾患である。MSには病変分布よりいくつかの病型がある。日本におけるMSのQOL調査は十分ではない。(イ)北海道十勝地方の有病率は10万人対8.6人である。MS関連遺伝子として,HLA,エストロゲン受容体,オステオポンチン,CCケモカイン 受容体2が判明した。MSを考えるに当たって病変分布に加えて新たに発作関連重症度が独立した観点になりうることを明らかにした。MSのQOL全国調査のための予備調査を行った。(ウ)MS有病率の日本における南北差,日本でも臨床病型として通常型が多いことが考えられた。MS関連遺伝子のバックグラウンドとしての多型頻度が人種により異なり,日本における独自の研究が必要であることを明らかにした。MS理解に発作関連重症度という第3軸を導入することでアジアのMSを的確に位置づけることが可能になった。MSのQOLの予備調査でQOL評価尺度の選定ができた。 疫学調査は,今後の治療を考える上で重要な疾患の自然歴を調査する基盤となるもの
である。さらには,QOL調査の基礎資料にもなる。QOL全国調査の準備ができた.
治療におけるテーラーメイド医療がMS関連遺伝子の研究で明らかにされつつある。QOL研究により,患者参加の治療選択が可能になる。             難治性疾患克服研究
          (ア)OS-MSについては、その重症化を規定する遺伝的因子が、アジア人種に多いplatelet activating factor (PAF) acetylhydrolaseを不活化する遺伝子変異(G994T)であることを世界で初めて発見した。(イ)GT/TT遺伝子型は女性の重症OS-MSでは51.7%に見られるのに対し健常者では26.6%に過ぎなかった。一方、PAF受容体のシグナル伝達を阻害する遺伝子変異(A224D)は、C-MSで健常者より有意に高率であったが、OS-MSではそのような傾向はみられなかった。(ウ)OS-MSではPAF-AHを不活化しPAFを増やすことが重症化に寄与するのに対して、C-MSではPAFを阻害することが発症に寄与するという対照的な機序が働いている。 MSの重症化を規定する因子の新たな発見である。               難治性疾患克服研究
          (ア)Helicobacter pylori (HP)は生活の近代化に伴い感染率が減少するが、MSとの関連は知られていない。(イ)HP抗体陽性率を検索したところ、健常者、OS-MSに比し、C-MSで有意に低いことが示された。特に1950年代以降生まれでその傾向が顕著であり、C-MSではHP陽性群で陰性群より有意にEDSSが低かった。(ウ)HPはC-MSの発症と進展に対して防御的に作用していることが明らかとなった。 ヘリコバクターの神経疾患への関与を指摘。 MSの環境因子としてH. pyloriがOS-MSとC-MSで異なった関わりを示していることを明らかにした点は、極めてユニークと考えられる。             難治性疾患克服研究
          (ア)MRスペクトロスコピー(MRS)を用いることで大脳組織の化学的変化を観察できる。(イ)多発性硬化症(MS)では軸索障害を反映するNAA/Crの低下が、治療により回復する。(ウ)MSの病態の一部は可逆性であることが示唆された。 現在、本邦でMSの治療薬として承認されているインターフェロンβ治療の有効性の客観的評価が可能であり、より適切な治療に貢献しうる。 さらに研究を進めMRSをMSの臨床的評価法として確立する予定である。             難治性疾患克服研究
          (ア)MRI/MRSの様々なパラメーターを用いて,多発性硬化症(MS)二次進行型でMRI画像上正常に見える白質・灰白質に異常が捉えられ, 病態の進行と関連することが報告された。(イ)拡散強調画像による拡散テンソル解析を用いて視神経脊髄型MSでも画像上正常に見える大脳皮質および白質に異常があり,経過と共に増悪することが示された。(ウ)これまで描出できなかった,潜在性の病変を非侵襲的・定量的に解析できる手法を開発したことは,本症の診断,予後推定,治療効果の判定などに有用な情報を提供できると考えられる。 これまで描出できなかった,潜在性の病変を非侵襲的・定量的に解析できる手法を開発したことは,本症の診断,予後推定,治療効果
の判定などに有用な情報を提供できると考えられる.また,解析手法は日々進歩しており,MSの病型予測や予後推定,治療の反応性
の評価などに応用可能で,免疫性神経疾患の一大テーマであるMSの診療・治療に不可欠のツールになる可能性が高い.
血清中抗体にによる悪性腫瘍の診断や,MRI/MRSなどの非侵襲的検査の普及は,医療現場での切実な要請であり,人類の健康を守る立場からも多大な利点を有することから,社会的インパクトも大きいと考える。             難治性疾患克服研究
          (ア)MS髄液における多種のサイトカイン測定の報告はなかった。(イ)蛍光ビーズサスペンションアレイシステムを用いて、少量の髄液中の多種類のサイトカイン・ケモカインの多項目同時測定に成功した。16種類のサイトカイン・ケモカインを測定し、OS-MSではその他の非炎症性神経疾患(OND)、C-MSに比し、IL-17、IL-8、IL-5が有意に高値であることが初めて明らかとなった。(ウ)OS-MSでは病巣への好中球の浸潤が顕著であることから、髄空内でのIL-17/IL-8系の活性化が組織破壊に重要である可能性が考えられた。 髄液多項目同時測定法の確立。 髄液上清中の多種類のサイトカイン・ケモカインを同時に測定する方法も世界で初めて報告し、各種免疫性神経疾患で応用可能となったことにより診断および病態解明に大きく貢献し得た。             難治性疾患克服研究
          (ア)髄液細胞内サイトカインの測定は細胞の脆弱性のため測定が困難であった。(イ)寄生虫性脊髄炎(PM)以外のすべての病態で,髄液細胞では末梢血よりもTh1へシフトしていた.多発性硬化症(MS)髄液では対照神経疾患よりもTh1へシフトしていた.アトピー性脊髄炎髄液はMSに似たパターンを呈したが,PM髄液は大きくTh2へシフトしていた.CIDP髄液はTh1へシフトしており,IVIG治療反応性のマーカーとなった.(ウ)各種神経免疫疾患の髄腔内での免疫異常を評価することが可能となった。 髄腔内での細胞内サイトカインの測定系を樹立した。 脆弱な髄液細胞内サイトカインの測定系を世界で初めて樹立できたことの意義は大きい。免疫性神経疾患における髄腔内での免疫異常を評価することが可能となった。             難治性疾患克服研究
          (ア)時間のかかるELISA法による炎症性物質の計測が指標になり得ることは知られている。(イ)フローサイトメトリーを用いた細胞性免疫の異常検知システムを確立した。特に髄液についての本検査の確立は重要な臨床情報を提供することを明らかにした。(ウ)フローサイトメトリーは検査室業務の範囲内で行える検査であり、その普及の基盤形成に大きく貢献した。また、成果は国際雑誌に発表し、国内外から大きな反響があった。 多発性硬化症の免疫学的検査による疾患活動性マーカーの確立により、
同疾患の臨床試験における効果判定のための客観的な指標を追加することが
できた。さらに、免疫学的異常の正常化という点から評価することにより、
年単位の期間を要した臨床試験が数ヶ月の短期間で終了することができる
素地を築いた。このことは、臨床試験の促進という厚生労働行政に資する成果
であると考える。
市中の医家によく読まれている日本医事新報に多発性硬化症の疾患活動性マーカーの総説を掲載することにより(4221:108-109,2005)、同疾患がどのような検査方法で病態をとらえることができるのか、どのように管理すべき
かという点について情報発信を行った。
            難治性疾患克服研究
          (ア) 多発性硬化症で中枢神経内へ侵入するリンパ球は各種接着因子によってコントロールされている。(イ) 正常者では中枢神経内へ侵入するTリンパ球はTh2優位であるが、多発性硬化症急性期患者ではTh1優位となることが確認された。(ウ) 多発性硬化症急性期では、血液脳関門のレベルで病的リンパ球の選択がおこっている。これは血液脳関門をターゲットとした多発性硬化症の新規治療法の開発に直結する知見である。 現在決定的な治療法のない多発性硬化症に対して、血液脳関門を操作するという全く新しい視点から新規治療法の開発に繋がる研究である。 ヒト血液脳関門構成内皮細胞株の樹立が進んでいる。           ( 2004.12.25.多発性硬化フォーラム開催、市民参加型の講演・シンポジウム)  
          (ア) MSをはじめとする免疫性脱髄で神経変性が起こること、その機序にグリア細胞が関与する可能性があること (イ)ミクログリアが炎症性因子を介して神経変性を起こす。その因子の中心はグルタミン酸であることが明らかになった。ミクログリアの活性化抑制により、神経変性をも抑制できる可能性がある。 (ウ)従来中心であった、免疫抑制剤以外に、ミクログリアの活性化抑制因子がMSの治療法になりうる。MSの治療として神経変性抑制が重要であることを明らかにした。 新規治療法開発に向けた基礎実験ができ、動物モデルでの治療実験がはじめられるようにした。 公開市民講座などをとおして,当研究室の取り組みを紹介していく予定。           (1.錫村明生。多発性硬化症の病態とマクロファージ/ミクログリア。第3回MSフォーラム、2004年8月、京都/2.錫村明生。神経変性、再生におけるミクログリアの役割。道北神経懇話会、2004、10月、旭川/3.錫村明生。免疫性神経疾患の新たな治療戦略。第4回神奈川免疫性脳神経疾患研究会、2003年、10月、横浜/4.錫村明生。免疫性神経疾患の治療。第6回北海道神経免疫フォーラム、2003年10月、札幌)  
          (ア)Rho kinase阻害薬であるfasudilのEAEへの効果は知られていなかった。(イ)Fasdilの腹腔内投与によりPLPペプチドp139-151で誘導したEAEの発症が臨床的にも病理学的にも有意に抑えられることを見出した。(ウ)本薬剤はくも膜下出血術後の脳血管攣縮にわが国では既に使用され安全性が確立している薬剤であり、MSへの臨床応用が今後期待される。 MS新規治療法の候補となりうる。 すでに認可されている薬剤であり、EAEに効果が確認されたことで、MS患者に使用できる可能性がある。              
          (ア) タイラーウイルス非構成蛋白(L、L*)がその病態に関与している。(イ) Bacterial two-hybrid systemを用いて、非構成蛋白Lと相互作用する分子clathrin-associated protein AP50を同定できた。(ウ) AP50はエンドサイトーシスに関与する分子で、免疫系の重要な負の調節因子であるCTLA-4のturnoverに関することから、ウイルス非構成蛋白Lにより、病態が形成されている可能性が示唆された。   多発性硬化症との関連が示唆されているヘルペスウイルスなどで同様の機能を持つ蛋白が見出されれば、多発性硬化症の病態解明およびその制御が 可能となる。              
          ア)急性散在性能脊髄炎に関する疫学調査は欧米を中心に小規模で行われている。(イ)アジア地域(日本)におけるはじめての疫学調査を行った。(ウ)アジアでの本疾患の特徴を示し、遺伝的・地域的な検討を可能にした。 本調査は予防接種副反応としての急性散在性脳脊髄炎の基礎データを提示した。 我が国における本疾患の頻度、症状、検査所見、治療、予後などの実態をはじめて示し、医療面における基礎資料となった。              
          (ア) 非ヘルペス性急性辺縁系脳炎の病態は不明である。(イ) 髄液でインターロイキン6上昇とインターフェロンγ正常を明らかにした。(ウ)ウイルスの直接感染の可能性が低いことを示唆した。 新しい病気としての概念の構築の一助になりうる。 非ヘルペス性急性辺縁系脳炎をひとつの疾患概念として確立していく予定。              
          (ア)アトピー性脊髄炎(AM)の治療法はまだ確立していなかった。(イ)AM 26例に42回の免疫療法を施行した結果、神経学的所見の改善率においても電気生理学的・MRI画像的所見の改善率においても、血漿交換がステロイドパルス療法やIVIG より良好な成績が得られた。(ウ)AMには血漿交換が有効であることが示された。 アトピー性脊髄炎の治療法の確立に貢献した。 アトピー性脊髄炎の治療成績を含めた臨床調査を予定している。              
          (ア)HTLV-Iウイルス量が高いことが強力なHAM発症・増悪因子である。(イ)HAMでは制御性T細胞の機能異常が起こっている。HTLV-I特異的CTLの多様性が高い集団の方が低い集団より、より少ない細胞数で変異ウイルスを抑えHTLV-Iを有効に排除する。EBウイルスの慢性活動性感染の合併がHAMの増悪因子となっている。(ウ)HAMの病態に関与している免疫学的、外的要因が明らかとなり、病態制御(治療)の標的として重要である。 難治性免疫疾患HAMの発症病態解明と治療法の開発により、難病克服に貢献する。 治療法の開発は当該疾患患者の救済のみならず、他の難病患者にも希望を与えることができ、社会的インパクトは大きい。              
          (ア)HTLV-I関連脊髄症(HAM)はHTLV-I感染者の一部に発症することがわかっていたが、なぜ一部に発症するのかはわかっていなかった。(イ)無症候性HTLV-IキャリアからHAM発症に関与する、ウイルス要因、宿主要因を多数同定した。(ウ)同じウイルスに感染していながら、神経疾患発症を振り分ける要因の解明はBlood等の雑誌に掲載され、国内外から大きな反響があった。 発症リスク式を用いて未発症キャリアよりHAM発症を88%の確率で予測できるようになり、HAM発症予防の素地を確立した。 HAM未発症の高リスク無症候性キャリアを同定できることより、発症予防のための厳重な経過観察を行う予定。および、治療介入が必要な時期を検討する。           (ホームページ開設:http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~intmed3/ham/ ,HAM研究のパンフレット作成)  
          (ア)HTLV-I関連脊髄症 (HAM) の発症には末梢血T細胞におけるhigh HTLV-I proviral loadを基盤としたTh1の活性化が重要な役割を果たしていること。(イ)上記異常にはp38 MAPKの活性化が強く関与していること。 (ウ) HAMの発症機序を細胞内シグナル伝達系の解析からアプローチしたこと。 全世界的にもみてHTLV-Iの浸淫地域である日本,そしてHTLV-Iが惹起するHAMに対する根治療法の糸口が細胞内シグナル伝達系の解析から掴めたこと。             (2003年6月に発足した全国HAM患者の会 (アトムの会)長崎県支部 (2003年11月発足) における講演会の開催)(ホームページの開設)  
          (ア)動物実験で重症筋無力症のエピトープに対するコンプリメンタリーペプチドの感作で発症が抑制可能である。(イ)臨床応用のため、ヒト抗体産生マウスを使い、ヒト型コンプリメンタリーペプチド抗体を作製した。(ウ)このモノクローナル抗体により患者血清中の重症筋無力症惹起抗体の認識が可能であることを示した。   重症筋無力症の新しい診断法、治療法の開発にむけ基礎的研究成果が得られ、臨床応用へ一歩前進した。              
          (ア)重症筋無力症(MG)では抗アセチルコリン受容体自己抗体が神経筋接合部の機能を障害している.また,MG症例の大部分に胸腺異常が合併しており胸腺摘出術はMG治療法としての地位を確立している.しかし,胸腺異常がMGの病態とどのように関係しているかは不明であった.(イ)我々は,MG患者の過形成胸腺においてリンパ球ホーミングを制御するケモカインCCL21の発現が正常胸腺の数十倍に上昇しておりその原因が上皮細胞での産生亢進によること,過形成胸腺ではCCL21遊走能が亢進していることを明らかにした.また,自己抗体産生を制御するB helper Tリンパ球(CXCR5発現)がMG患者の末梢血で増加しており,他の自己免疫疾患を合併する症例で特に増加が著明であることを見いだした。(ウ)CCL21が過形成胸腺を有するMG患者の病態に深く関与していることが明らかになった.ケモカインシグナルの解析により病状や治療効果の判定が可能となった. 重症筋無力症の重症度や治療効果の判定に有用な知見が得られた.今後の臨床応用が期待される。                
          (ア)重症筋無力症胸腺には胸腺腫や胚中心形成などの異常がある (イ)WHO分類Bタイプ胸腺腫においては術前ステロイドパルス療法が主としてCD4+CD8+ double positive cellを減少させることにより腫瘍量を減少させる(ウ)WHO Bタイプの胸腺腫においては術前ステロイドパルス療法が手術の根治性向上につながる可能性がある               (重症筋無力症のHPを開設http://www.med.
nagoya-cu.ac.jp/
surg2.dir/mg/index.html
メールでの相談に応じています)
 
          (ア)胸腺にはMyoid cellが存在し、AChRを発現している。重症筋無力症(MG)患者では胸腺の異常が高頻度で、AChRに反応するT細胞B細胞が存在する。MGの中に抗AChR抗体が陰性の患者が存在し、この一部は抗Musk抗体陽性である。 (イ)胸腺異常には末梢で活性化されたAChR反応性T細胞だけでなく,胸腺内での何らかの免疫異常の関与が必要であることが示唆された。また、MuSK-MG患者IgGが神経筋伝達を阻害する機序は、AChR-MG患者IgGとは異なる可能性が考えられた。(ウ)未だに十分に解明されていないMGの胸腺異常の発生機序を研究し、胸腺摘出術の理論的根拠を示す意義がある。
抗Musk抗体陽性MGの病態生理を解明する意義がある。
胸腺摘出術の理論的根拠を示すことで治療法の確立、疾患の理解につながる。                
          (ア) 重症筋無力症治療においてアザチオプリンは有効である。(イ) 重症筋無力症治療においてタクロリムスは有効であり、その作用は、免疫抑制作用の他に骨格筋機能に対する影響もある。(ウ) 重症筋無力症の免疫療法における治療計画において、免疫抑制薬の作用、副作用を考えて最も効果が大きく、副作用の少ない治療方法を選択することが可能となった。 大量のステロイドによる副作用をタクロリムス併用にて軽減させることができるようになった。 入院治療期間を短縮させることができるようになった。 この成果を踏まえ医師主導型治験から発展した、メーカーとの共同開発として、タクロリムスの難治例以外の重症筋無力症にも適応を広げる臨床試験が計画中である。2004年11月に医薬品機構の対面助言を経て、現在、最終の臨床試験プロトコールをメーカーの開発部門とともに策定中である。 この臨床試験が終了した時点で、タクロリムスの重症筋無力症に対する条件付き使用制限が撤廃されるとともに、臨床研究成果は国際学術雑誌に発表される。海外でもエビデンスが認められれば、あらたな治療方法として、海外でも広く使用されるものと期待される。              
          (ア)重症筋無力症における内視鏡的胸腺摘除術が行われるようになってきたが、その効果の免疫学的な裏付けはまだなかった。(イ)縦隔鏡下拡大胸腺摘除術前後で抗AChR抗体は低下し,末梢血CD4陽性細胞内サイトカインの比であるIFNγ/IL-4は上昇した.(ウ)縦隔鏡下拡大胸腺摘除術によりTh2へのシフトが改善するとともに自己抗体が減少することが示された。 重症筋無力症の治療法としての胸腺摘除術が胸骨正中切開から内視鏡へと移行していく根拠となりうる。 侵襲が少ない縦隔鏡下拡大胸腺摘出術も免疫動態に裏付けられた十分な治療効果があることが証明されたのはMG患者にとって朗報であり,次第に胸腺摘出術の術式が開胸から内視鏡下へと移行してゆくことが考えられる.           筋無力症友の会九州支部会で毎年講演している  
          (ア)ギラン・バレー症候群は脱髄型と軸索型の二大病型に分類される(イ)軸索型ギラン・バレー症候群の病態にはNaチャネル機能障害が関与している。またこの病型の機能予後は従来いわれているほど不良ではない。(ウ)Naチャネル機能障害を示したことはAnnals of Neurology、Neurology等の国際誌に掲載され、国際的に反響があった。 この成果を含む諸研究から、神経免疫学会・神経治療学会によるギラン・バレー症候群の治療ガイドラインが策定され、各学会誌、インターネットを通じて全国に普及。 本研究班の報告書、名簿からのリスツアップによりギラン・バレー症候群に関する医事訴訟の鑑定依頼が複数あった。           (http://www.ho.
chiba-u.ac.jp/
division/division.
html)
 
          (ア) Guillain-Barre症候群(GBS)やFisher症候群では、抗ガングリオシド抗体が上昇して、診断検査として有用、かつ病因解明の手がかりともなる。(イ)GBSではガングリオシド複合体に対する抗体が上昇することがある。GD1a/GD1b複合体に対する抗体は、重症化と関連する。GBS血中抗ガングリオシド抗体の反応性は共存するリン脂質の影響をうける。マイコプラズマ菌体はガラクトセレブロシド(Gal-C)様の糖鎖をもち、同感染後のGBSでは抗Gal-C抗体が上昇して脱髄を引き起こす。抗GQ1b IgG抗体を伴ったGBSは、人工呼吸器使用の頻度が高い。
(ウ)単独のガングリオシドではなく、2種類のガングリオシドの複合体を特異的に認識する抗体の存在が、はじめて明らかになった。細胞膜のラフト上の複合糖質が作るクラスターを認識し、細胞機能障害を引き起こす可能性が示唆される。GBSの抗ガングリオシド抗体の反応に対するリン脂質の意義が明らかになった。マイコプラズマ肺炎後の脱髄性神経障害のメカニズムの詳細がわかった。
GBSの重症化と関連する血清学的指標(抗GD1a/GD1b抗体、抗GQ1b抗体)が得られたことは、より強力な治療法の適応を考慮する際に有用である。ガングリオシド複合体、リン脂質との混合抗原など、あらたなGBSの抗原がみつかったことにより、抗体測定の診断的意義が向上し、早期診断早期治療開始できることで、重症化の防止ひいては医療資源節減につながる。 ガングリオシド複合体に対する抗体がみいだされたことにより、複合体としてのガングリオシドの意義解明の重要性が認識され、研究が進展すると予想される。           (HP(http://www.med.kindai.ac.jp/neuro/GBS.html)にGBSについての解説を掲載
HP(http://www.med.kindai.ac.jp/neuro/sokutei.htm)に、抗体測定についての案内を掲載。)
 
          (ア)軸索型ギラン・バレー症候群患者患者の血清中には高頻度に抗ガングリオシド抗体が検出され、病態との関連が明らかにされつつあるが、脱髄型の病態、関与する抗体は明らかでなかった。(イ)脱髄型ギラン・バレー症候群患者の髄液中に抗ヘリコバクターピロリ空胞化毒素抗体が検出される事実を見出し、病態に関与する可能性を指摘した。(ウ)本邦でも人口の約60%がヘリコバクターピロリに感染しており、従来の上部消化管疾患のみならず、ギラン・バレー症候群の発生にも関与する可能性が見出され、いわゆる消化管外病変の研究に新たな視点を加えた。 2003年に改定された日本ヘリコバクター学会編集の、「Helicobacter pylori 感染の診断と治療のガイドライン」にこの研究課題に関する報告が引用され、ヘリコバクターピロリ感染が原因となる臨床症状の多様性を示しえた。現在、詳細な機序と治療法を検討中である。                
          (ア)Fisher症候群 (FS) はGBSの亜型である。(イ)GBSの亜型であるFSやBickerstaff脳幹脳炎 (BBE) の臨床的位置付けが,多数例において明らかにされた。(ウ)FSとBBEの臨床像を明らかにしたことで,治療への足がかりを得た。 FSとBBEの治療選択や後遺症,予後を明らかにしていくために,大規模対照試験が望まれる。 本邦の複数の研究グループは,GBSの発症に関与する自己抗体の研究を世界的にリードしている.本研究により得られた知見は,他の自己免疫疾患の発症機序の研究の進歩に大いに役立つであろう。           (http://www.dokkyomed.ac.jp/dep-m/neuro/jap/gbs_q&a.html)  
          (ア)ギラン・バレー症候群(GBS)の先行感染菌であるC. jejuniよりクローニングされたDNA-binding protein from starved cells (C-Dps)蛋白のGBS病態への関与は解明されていなかった。(イ)抗C. jejuni抗体陽性GBSの抗C-Dps抗体陽性率は,C. jejuni腸炎の陽性率よりも高かった.また,C-Dpsはsulfatideと結合することが確認された.PC12細胞株に対して,C-Dpsは膜表面に結合することが確認された.(ウ)C-Dps蛋白がGBSにおけるニューロンの傷害に寄与する可能性を示唆する新しい知見である. 軸索型ギラン・バレー症候群の機序の解明の端緒となりうる。 C-Dpsの末梢神経伝導や神経筋伝達への影響を調べることでこの蛋白のGBSへの関与を明らかにしたい.              
          (ア)慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)はその発症・進展に免疫異常が関与しており、従来から用いられているステロイド薬や大量免疫グロブリン療法に対して抵抗性の症例が存在すること。(イ)治療抵抗性の症例に対して、シクロスポリンの内服や抗CD20抗体(リツキシマブ)の投与が有効であること.CIDPの診断に際し、頚椎や腰椎MRI(STIR法)による神経根の評価が有用であること。(ウ)CIDPの難治例に対する治療法の選択肢を広げるとともに、一般医であってもMRIを用いて簡便に本症を鑑別診断できる可能性を示した。 他の疾患に対して使用されているシクロスポリンや抗CD20抗体を、従来からの治療に抵抗性のCIDPにまで適応を拡大できる可能性を示した.また、従来から行なわれている大量免疫グロブリン療法は高額で医療保険を圧迫する原因ともなりうるが、シクロスポリンや抗CD20抗体を用いることでその使用を減らすことができる可能性を示した。 CIDP難治例に対するさらに強力な治療として、今後自己末梢血幹細胞移植の有用性についても検討していく予定である。           (日本神経学会総会、日本末梢神経学会等で研究成果について発表した.また2003年には長野県内の神経内科医を対象にCIDPの研究会を行ない、最近のトピックスや難治例に対する治療などのテーマについて議論した)  
          (ア)CIDPにはステロイド、血液浄化療法、IVIgがエビデンスを伴う有効な治療法である。しかし上記に反応しない一群が存在することも知られている。 (イ)多数のCIDP症例を国内で広範に収集し解析することで、治療反応性と臨床電気生理的な特徴との関連が明らかとなった。 (ウ)IVIg反応性と、末梢神経における軸索障害との関連性が明らかとなった。これはCIDPのみならず他の末梢神経疾患の病態解明に関わる学術的意義を持つと考えられる。 現在最も用いられているIVIg療法の反応性を規定する因子が明らかとなったことにより、有限の医療資源(輸血に依存する)を有効に使用する医療経済的かつテーラーメード医療の基礎となるデータを蓄積した。 上記結果についてさらに解析を進めており、IVIg反応性を規定する遺伝子背景、病態関連遺伝子の特定が明らかになりつつある。将来的にはマイクロアレイチップを用いた、IVIgの有効性を目的とした施行前診断が多数症例でかつ安価に可能となりうる。              
          (ア)ステロイドに反応しない難治性CIDPでは,免疫グロブリン療法を繰り返すしかない。(イ)難治性CIDPにおけるシクロスポリンAの有効性が示された。(ウ)副腎皮質ステロイド薬で寛解・維持できない難治性CIDPに対して,シクロスポリンAを試みる価値を見出した。 厚生労働省に働きかけ,シクロスポリンAを難治性CIDPのオーファンドラッグとして認可を得る。                
          (ア)Isaacs症候群では抗VGKC抗体が末梢神経の興奮性に関与している。Crow-Fukase症候群ではVEGFの異常が病態に関与している。(イ)Isaacs症候群では、抗VGKC抗体は補体非依存性にチャネル蛋白のdegradationを促進し、それが興奮性亢進を引き起こしている。Crow-Fukase症候群の全国疫学調査でも血清VEGF値は診断、治療法の選択に極めて重要である。また米国の診断基準では診断率が十分ではない。(ウ)抗VEGF抗体はIsaacs症候群のように末梢神経障害のみならず、中枢神経に局在するVGKCを阻害し、脳炎を起こすことが明らかになって来つつあり、抗体の作用機序の解明はこれら疾患の治療戦略を構築する上で極めて重要である。Crow-Fukase症候群の早期診断に血清VEGF値を加味した本邦での診断基準が有用であることが明らかになった。 抗VGKC抗体が末梢神経のみならず、中枢神経系の興奮性異常に関与することが明らかになり、抗体陽性の辺縁系脳炎への新たな治療戦略が確立できる可能性が出来た。Crow-Fukase症候群の本邦での診断基準が始めて作成され、これにより難治性である本症候群の早期診断が可能となり、今後重症度に応じた治療ガイドラインの策定の目処がたった。 今後非ヘルペス性辺縁系脳炎での抗VGKC抗体を測定し、本邦での陽性率を明らかにするとともに、その病態を明らかにする。これにより後遺症を残さない発症早期の診断が可能となる。Crow-Fukase症候群患者の全国疫学調査から得られた知見をもとに早期診断、早期のテーラーメード治療を行うことで、この難治性疾患の治療法を確立する。とくに末梢血幹細胞移植の有用性について検討する。              
          (ア)末梢神経で遅いK+チャネルが存在することは生理学的には知られていた。(イ)遅いK+チャネルがランビエ絞輪に局在するKCNQ2あるいは3であるとの仮説のもとに同チャネル阻害薬投与前後での機能変化を観察した。(ウ)この遅いK+チャネルが軸索の興奮性を適度に抑制することで線維束性収縮などの異常発火を防ぐ.チャネル機能の低下が末梢神経の異常興奮を引き起こす可能性が考えられた。 梶龍兒は神経免疫疾患治療ガイドライン委員会のメンバーとして「慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー」に関するガイドラインの策定に携わり,これが全国に普及。 目的のチャネル機能の検出について国際的な協力の下おこなっており,新たな疾患概念の確立を目指している。              
          (ア)傍腫瘍性神経症候群に関連する神経抗原の同定はされたが、その機能は不明であった。傍腫瘍性辺縁系脳炎の概念は確立されているが、わが国における患者の臨床像については不明であった。(イ)傍腫瘍性小脳変性症に関連する神経抗原の機能としてMORFファミリー蛋白やataxin-3との相互作用を介して転写調節に関与することを明らかにした。わが国における傍腫瘍性辺縁系脳炎について抗体の関与の比率、腫瘍の種類、臨床症状について明らかにした。(ウ)本研究成果の専門的・学術的意義傍腫瘍性神経症候群に関連する神経腫瘍共通抗原の生物学的機能の一端を明らかにした。わが国における辺縁系脳炎の臨床の実態を初めて明らかにした 本邦における傍腫瘍性辺縁系脳炎の臨床像の実態は、ウィルス感染を含む種々の要因から成る辺縁系脳炎の診断や治療方針の確立に向けて生かされる資料を提供し得ると考えられる。傍腫瘍性神経変性症関連抗原と遺伝性小脳変性疾患との関わりはこの難病の病態解明につながる可能性を有している。                
          (ア) 傍腫瘍性神経症候群の代表的病型では,患者末梢血CD8陽性T細胞が抗原特異的に細胞障害活性を有することから,神経傷害に細胞障害性T細胞 (CTL)が関与すると考えられる。 その仮説を証明するモデルはまだない。(イ) MHC class I分子モチーフが共通のマウスの培養神経細胞を用いてex vivoで病態が再現できた。(ウ) CTLの関与が考えられる免疫性神経疾患で病態モデルを用いて仮説が証明されたものは極めて少ないため,上記の結果は意義が大きい。                  
          (ア) 傍腫瘍性神経症候群では,その診断と背景にある悪性腫瘍を予測する特徴的な抗神経抗体が見いだされる。 抗体は腫瘍発見に先行することから悪性腫瘍の早期発見に有用なマーカーとなる。(イ) 最近発見された新たな抗体も含め,多数の抗体を同時に解析するスクリーニングシステムを構築した。(ウ)傍腫瘍性神経症候群は臨床症状のみからの診断は困難であり,特異的な抗体診断が,背景にある悪性腫瘍の診断を含めて極めて有用なマーカーとなる。 ・ 傍腫瘍性神経症候群は,悪性腫瘍を背景として生じる神経疾患であり,神経症状のみからの診断は困難である.本症各病型で特徴的に認められる抗体は本症診断に極めて有用であり,背景の悪性腫瘍早期発見にも有用なマーカーであるが,多数の抗体を効率よく正確に診断するシステムが整っていない.我々は最近明らかにされた抗体も含め,既知の抗体を効率よく診断するシステムを構築して診断に寄与しており,医療者・罹患者にとっても,また医療経済上も大きなメリットとなる。                
          (ア)膠原病や腫瘍に伴い自己抗体を介在する脳症(自己免疫性脳症)においては,疾患特異的自己抗体とその標的抗原はごく限られた疾患にしか見いだされていない。(イ)橋本脳症,辺縁系脳炎,傍腫瘍性神経症候群において新たな自己抗体を見いだした,特に,橋本脳症においては,プロテオミクス解析を用いて,抗体の標的抗原と抗原部位を決定し,血清診断を可能にした。(ウ)橋本脳症における疾患特異性の高い血清診断が初めて可能となった。その結果,国内多施設からの抗体検索の依頼があり,この分野の臨床レベルの向上に寄与した。また,他の自己免疫性脳症においても,新規の自己抗体を検出し,今後の標的抗原の決定と血清診断への道を開いた。   橋本甲状腺炎は,潜在例を含めると,日本人の約5%が罹患していると考えられている。本研究によって,臨床診断が根案であった橋本甲状腺炎に伴う脳症(橋本脳症)の血清診断が可能となり,潜在的な多数の患者の発掘と早期治療が可能となった。自己免疫性脳症の血清診断の開発がわが国当該分野をリードする形に発展している。           (http://www.fukui-med.ac.jp/CRL/seminar/2005/frontier2-houkoku/frontier2.html  
          (ア)今までC型肝炎と筋炎の関連性は知られていなかった。(イ)(1)慢性経過の筋炎(PM/DM)150例および封入体筋炎46例に関して、疫学調査をおこない、慢性経過の筋炎および封入体筋炎でHCVの合併頻度が有意に高いことをはじめて指摘した。(2)HCV陽性の筋炎と封入体筋炎の筋組織内でRT-PCR法でウイルスの複製を示す証拠を確認し、免疫組織学的手法で浸潤炎症細胞にウイルス構成蛋白を確認した。筋組織に浸潤する炎症細胞内でのウイルスの増殖が示唆された。(3)HCV陽性のPM/DMの治療予後の追跡調査をおこなった。HCV陽性のPM/DMでも通常の免疫抑制剤の治療で筋炎の反応性があり、肝炎の悪化なく治療を継続できたことを確認した。1例はC型肝炎の治療のみで軽快した。(ウ)いままで、HCVの筋炎との関連は不明であった。本検討は、世界ではじめての多数例を用いての系統的検討であった。 C型肝炎ウイルスには慢性肝炎以外の合併症としては、本態性混合性クリオグロブリン血症、膜性増殖性腎炎、末梢神経障害、悪性リンパ腫、シェーグレン症候群などが知られていたが、本検討により、筋炎においても関連性があることを初めて明らかにした。 C型肝炎ウイルスの病態の広がりに関して新知見を加えた。              
          (ア)Sweet病で脳炎・髄膜炎などの神経合併症を呈する症例が自験例を含め散見されていたため、「神経Sweet病」として新たに提唱していた。(イ)今回、全国調査を施行して多数例を解析することにより、「神経Sweet病」の特徴を明らかにした。(ウ)脳炎・髄膜炎の新たな鑑別診断として疾患の確立をはかり、診断基準も作成して公表した。 新たな脳炎・髄膜炎の疾患概念を世界に先がけて本邦から発信できた。ステロイドが有効な例がほとんどであり、速やかに当疾患を診断することにより効率のよい治療につながりうる。                

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