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独立行政法人産業安全研究所の
平成15年度の業務実績の評価結果




平成16年8月30日
独立行政法人評価委員会



1.平成15年度業務実績について
(1)評価の視点
 独立行政法人産業安全研究所は、厚生労働省の附属機関であった産業安全研究所が、平成13年4月から位置づけを変え、新たに独立行政法人として発足したものである。
 今年度の当研究所の業務実績の評価は、平成13年4月に厚生労働大臣が定めた中期目標(平成13年度〜17年度)の第3年度目の達成度についての評価である。
 当研究所に対しては、国の附属機関から独立行政法人となった経緯をふまえ、弾力的・効果的な業務運営を通じて、業務の効率性の向上、質の向上及び透明性の向上により国民の求める成果を得ることが強く求められている。
 当委員会では、従来の評価方針や平成14年度までの実績の評価の過程で生じた評価作業等に係る今後の課題に加え、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会から当委員会に対し提出された平成13年度及び14年度における独立行政法人の業務の実績に関する評価の結果についての意見等を踏まえ策定した「厚生労働省所管独立行政法人の業務実績に関する評価の基準」に基づき、評価を実施した。

(2)平成15年度業務実績全般の評価
 平成15年度は、独立行政法人として主体的な業務運営が求められるとともに、3年目を迎え、これまでの業務実績評価において指摘された事項について改善が求められたところである。
 そのような中で、平成15年度は、フェロー研究員制度の創設、若手任期付き研究員の採用などの手法を有機的に組み合わせ、効率的な業務運営を可能としているなど、新しい取組がなされた。業務の中心である調査研究については、継続中の調査研究の今後の成果に留意が必要であるが、個別項目に関する評価結果にも見られるように全般としてほぼ適切に行われていると考えられる。
 また、厚生労働大臣からの要請等に応じて引き続き、迅速かつ的確に産業災害の調査も実施しており、厚生労働省において、行政通達の発出などに当たって有効に活用されている状況がみられる。
 これらを踏まえると、平成15年度の業務実績については、全体としては当研究所の目的である「労働者の安全の確保」に資するものであり、適正に業務を実施したと評価できるが、以下の点に留意する必要がある。

 (1)  内部進行管理について、内部評価結果等に基づく研究予算の増額措置により研究員のインセンティブを高めるとともに、ポイント制による個人業績評価により評価の客観性、公平性を高める等の取組がされているが、このような改革の成果が具体的に現れるよう、継続的に検証することが望ましい。
 (2)  講演会等の開催、一般公開等については積極的に行われているが、参加者が十分でなく、産業安全は社会一般の関心が高い分野であり、国民の研究所に対する理解を深めるためにも、関心が持たれるよう広報に工夫が必要である。

 中期目標に沿った具体的な評価結果の概要については、2のとおりである。また、個別項目に関する評価結果については、別紙として添付した。

2.具体的な評価内容
(1)業務運営の効率化について
 業務運営の効率化については、業務運営体制、内部進行管理の面で進捗が認められ、中期目標に沿った取組が行われている。
 業務運営体制に関しては、所内会議等の運営の改善、諸規程の制改訂等の体制の見直しが進められる等、一層の効率的業務運営が図られている。中でもフェロー研究員制度の創設、前年度に引き続いての若手任期付研究員の採用などの手法を有機的に組み合わせ、効率的な業務運営を可能にしている、また、複数の研究グループにまたがる調査研究についても平成14年度に引き続き6課題となっている等の努力がなされた。
 内部進行管理に関しては、内部研究評価会議の結果、災害調査、委員会活動等研究外業務への貢献を考慮して研究予算を増額するなど、研究員のインセンティブを高める取組が実施されていることは評価できる。また、ポイント制による個人業績評価を実施することにより、評価の客観性、公平性を高めている。今後、一連の改革の成果が具体的に現れることが期待される。
 経費の削減に関しては、施設設備管理業務(警備、清掃等)の入札条件の見直し等を行い、経費節減を図っているとともに、競争的外部研究資金の獲得に努力し、成果を挙げている。今後、さらに一層経費の削減を進め、競争的外部研究資金を獲得すること等について、成果につながるよう努力することが必要である。
 研究施設、研究設備の共同利用等については、共同研究数が10件あり、研究所の規模からみると多いと評価できる。また、施設貸与についても5件行っており、研究資源の効率的な運用が着実に推進されている。

(2)国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上について
 (1)  調査研究に関する業務内容
 調査研究業務については、当研究所の目的である「労働者の安全の確保」への寄与という観点から、適正に実施されている。
 労働現場のニーズの把握については、産業安全に関する情報交換会を開催し、要望、意見等については、極力取り上げており、研究所の活動に活かされている。また、産業安全関連団体・学会等57の各種の委員会へ職員を派遣し、委員会を通じた現場のニーズの把握などの実績を上げている。本研究所は産業安全の第一線のニーズを注視することが重要であり、さらに一層ニーズの把握のための機会を充実させることが期待される。
 プロジェクト研究については、中期計画に基づき行政ニーズ及び社会的ニーズを踏まえた研究活動を任期付き研究員の活用等により効率的に実施している。外部研究評価会議、内部研究評価会議において進捗状況を確認しながら、有効に実施されている。
 また、基盤的研究については、中期計画に基づき研究活動を実施するとともに、大規模事業場で一度に3人以上が被災する重大災害が頻発したことを受け大規模産業災害頻発要因に関する研究を立ち上げるなど、年度途中に立ち上げたものを含め35課題の基盤的研究を実施し、ピアレビューを行っている。課題の件数や成果をあげるための取組について評価できる。今後、基盤的研究の重点化を図り、成果が対策に活かされるようにすることが必要である。
 上記の研究の一方、当該法人は行政機関等からの要請に対応して迅速かつ的確に産業災害の調査を行うことが求められており、これを着実に実施したことは高く評価できる。これらの結果は行政通達などに有効に反映され、同種災害の防止に寄与している。国内外の労働安全に関する基準の制定改定に際しては、当該法人の研究成果を各種委員会において提供し、労働者の安全、作業快適性の改善向上に多大の貢献をしている。さらに、ISO等の国際規格への反映など、国際的にも貢献しており、少ない人員の中で研究成果を活かして多大な貢献をしていることについて評価できる。
 また、産業安全に関する国内外の科学技術情報、資料等の調査については、各種業務活動の中で国内外の安全に係る情報・資料の収集に努めるほか、職業運転手の疲労と業務上の交通事故に関する調査の報告等、行政から要請のあった8件について調査を行い、報告をしているが、行政からの要請に対応するだけではなく、国民一般に向けて積極的な情報発信をすることが必要である。
 外部評価については、外部研究評価会議において内部研究評価会議の実施状況に対する意見、提言を受けるとともに、プロジェクト研究の評価を研究計画に反映させるなど、適切に実施されている。

 (2)  調査研究成果の普及及び活用
 調査研究成果の普及及び活用についても、中期目標に照らし適正に実施されている。
 国内外の学会での発表(123回)、論文発表(48報)に関しては、中期目標(学会発表300回以上、論文発表200報以上)を達成するためには十分なものであり、活発な研究発表等が行われ、質的にも関連する「日本機械学会交通・物流部門優秀論文講演賞」を受賞する等、高く評価されている。
 また、研究成果を安研ニュース、研究報告、安全資料等として発信するとともに、インターネットのほか技術専門誌、雑誌、講演など幅広い手段を活用してその成果の普及を行っている。
 講演会等の開催については、全国3カ所で安全技術講演会を主催し、成果の普及に努めており、一般公開についても105名の参加をみている。一般社会の関心は高いと考えられる分野であるので、今後、より多くの人が参加することができるよう、一層の充実、工夫が必要である。
 知的財産の活用促進に関しては、10件の特許を出願し、6件の登録がされている。また、所有特許の製品化が初めてなされており、16年度には初めての特許収益が得られるなど、これまでの取組に成果が出ていることは高く評価できる。さらに特許の活用が進むよう広報等の取組を行うことが望ましい。

 (3)  外部機関との協力の推進
 若手研究者等の育成への貢献については、我が国唯一の産業安全に関する研究機関である産業安全研究所の責務として、研究員等の受入れ、研究所職員による他機関への講演や技術支援、労働大学校・安全衛生教育機関・災害防止団体における研修講師としての派遣等の協力による直接的な安全に係る担当者の育成等、中小事業者や産業現場のための活動を実施している。研究者の受入については、産業界の技術者・実務者と幅広く連携し、より効果を高めることが望ましい。
 また、フェロー研究員制度の創設、流動研究員制度の活用、研究協力協定等により、国内外の研究機関との研究交流を積極的に進めている。今後、研究協力の戦略を鮮明にし、成果を検証する等により、相互に高いメリットがあるものとすることが望ましい。

(3)財務内容の改善等について
 運営費交付金を充当して行う事業に係る経費の節減については、備品及び消耗品費節減の取組等がなされているとの説明であるが、その結果どの程度効率化されたかについて数値により客観的に示すことが必要である。
 運営費交付金以外の収入の確保については、競争的研究資金の獲得に難しい研究分野であるが、運営費交付金以外の外部資金の獲得はやや少なく、今後積極的に実施することが必要である。自己収入についても、それに係る費用を適切に管理し、経費節減に取り組むことが望ましい。
 また、職員の採用、人事の計画については、若手任期付研究員の採用を行う等計画どおり適正に実施されている。


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