審議会議事録  厚生労働省ホームページ

第4回目安制度のあり方に関する全員協議会議事録


1 日時 平成16年1月22日(木)10:15〜11:20

2 場所 厚生労働省専用第21会議室

 出席者
  【委員】 公益委員 渡辺会長、岡部委員、勝委員、中窪委員、
 古郡委員

 労働者側委員 弥富委員、加藤委員、久保委員、中野委員、
 山口委員

 使用者側委員 池田委員、川本委員、杉山委員、東條委員、
 原川委員

  【参考人】岩手地方最低賃金審議会会長、埼玉地方最低賃金審議会会長

  【事務局】厚生労働省
  大石審議官、麻田賃金時間課長、川戸主任中央賃金指導官、
  山口副主任中央賃金指導官、長課長補佐

 配付資料

 資料1 目安制度のあり方に関する主な論点

 資料2 各論点に係る主な意見

 資料3 目安制度のあり方に関する全員協議会の今後の進め方(案)

 資料4 ヒアリング項目

 資料5 ヒアリング資料(岩手地方最低賃金審議会) (PDF:184KB)

 資料6 ヒアリング資料(埼玉地方最低賃金審議会) (PDF:215KB)


 議事内容

○会長
 第4回目安制度のあり方に関する全員協議会を開催します。本日の全員協議会では、まず最初に今後の進め方について議論したいと思います。前回、前々回のフリーディスカッションを踏まえて、目安制度のあり方に関する主な論点、今後の全員協議会の進め方や具体的なスケジュール等について、事務局のほうで、労使各側とある程度調整をしていただいていると伺っていますので、事務局からご説明をお願いします。

○事務局
 今後の進め方について、ご説明をします。資料No.1から資料No.3をご覧ください。目安制度のあり方に関する全員協議会は、昨年10月21日から延べ3回にわたり開催していまして、フリーディスカッションをいままで行ってきました。これまでの公労使委員の発言を踏まえ、今後議論すべき論点を整理したものが資料No.1です。これまでのご議論については、事務局の責任により資料No.2のようにまとめています。
 資料No.1の項目の順に大まかに振り返りますと、「表示方法及びランク区分のあり方」については、ランク設定の必要性は、ランクを無くす積極的理由がない、あるいは地方では現行の制度が良いとの意見が圧倒的に多いとの指摘がありました。またランク設定の方法に関しては、総合指標の基礎となる20指標について、全体的な見直しがあってもいいのではないかとの指摘がありました。表示方法については、時間額一本化を決めたばかりであり、しばらく様子を見たほうがいいのではないかという意見がありました。
 次の大きな項目は「改定のあり方」ですが、数年に一度改定するなど新たなルールを決めることが適当との意見がありましたが、一方でルール化は難しいので、最低賃金制度の重要性を考えれば、毎年審議する中で目安をどうするかを議論すべきという意見がありました。
 「賃金改定状況調査等参考資料のあり方」についてです。調査対象事業所の選定の関係ですが、対象事業所規模を広げるべきとの意見、一方で地方小都市の調査対象サンプル数を増やすべきとの意見がありました。また、賃金改定状況調査における賃金上昇率の算出方法について、全労働者に占めるパートタイム労働者比率が上昇するなど、労働者構成比が変化する中で、構成比の変化を除去した算出方法とすべきという意見がありましたが、一方で賃金の低廉な労働者の実態を全体で見るものであるので、現状の計算方法で行うべきとの意見がありました。
 「金額水準」について、生計費から見るべきとの意見、あるいは平均賃金に対する最低賃金の比率から見る方法もあるというような意見がありました。いままで出たご意見は以上のようなものです。
 これまでは、フリーディスカッションとして幅広く、率直な意見交換を行っていただきましたが、今後はこれまでの議論を踏まえて資料No.3の議題について検討を深め、意見集約を進めていくことが必要と考えています。資料No.3をご覧ください。改めて今後の検討の議題として、「改定のあり方」、「金額水準」、「賃金改定状況調査のあり方」、「表示方法及びランク区分のあり方」についての4つとしてはいかがかと考えています。
 また検討のスケジュールですが、最低賃金及び目安制度に係る本質的な大きな議論である、(1)改定のあり方、(2)金額水準について、次回の2月に議論を行ってはいかがかと考えています。次々回からは、論点がある程度絞られてきていると考えられる「賃金改定状況調査のあり方」について、議論をしてはいかがかと考えています。
 本審議会では、目安の審議を例年5月から7月にかけてやっていますが、終了後の8月からは残る議題である「表示方法及びランク区分のあり方」について議論を行い、本年の12月までには全体的な取りまとめを行ってはいかがかと考えています。以上が今後の検討スケジュールの事務局案です。

○会長
 いま進め方についてご説明がありましたが、ご意見がありましたらどうぞ。特にありませんか。これはスケジュール、要するに計画予定ですので、また途中でいろいろご意見がありましたら、それに従ったスケジュールで見直すこともあろうかと思いますが、一応こういう枠で進めます。よろしいでしょうか。

(異議なし)

○会長
 引き続きまして、かねて予定していた地方最低賃金審議会の会長からヒアリングを行います。本日は、岩手労働局と埼玉労働局の地方最低賃金審議会会長においでいただいています。本日はお忙しいところをおいでいただきまして、誠にありがとうございます。事務局のほうで予めヒアリング項目を作成していただいているので、それに沿ってヒアリングを進めたいと思います。
 それでは岩手地方最低賃金審議会の藤原会長、どうぞよろしくお願いします。

○参考人
 ただいま会長からお話がありましたように、ご質問の項目が予めありましたので、それに沿ってご説明をします。最初に、総論的に地方最低賃金審議会における目安の意義、役割について公益委員の側から見た点をお話します。
 ご承知のように地方の経済状況を見ますと、経済実態が必ずしも日本の経済実態と同時に動いているわけではありません。特に岩手県のような地域の経済実態にあっては、中小の製造業を中心とした産業構造で、ただサービス産業が相対的に所得構造、生産構造上ではかなりのウェートを占めていますが、賃金の審議にあたってのベースになっている経済指標の中心部分は、中小の製造業です。
 また最低賃金が適用される労働者の中心は、どうしてもサービス産業ですが、そういった中小の製造業の経済実態と実際に適用される労働者の最低賃金の齟齬が多少あるように思います。昨今の経済事情から見て、使用者側からの判断材料としてはご承知のように賃金の抑制、ないしは引き下げ論が主張されています。労働者側から見ると、いわゆる最低賃金の理念から鑑みて賃金の引き上げ、賃金の格差の是正の観点から賃金の引き上げが主張されるわけです。
 私たち公益委員としては、両者の論議をよく聞いて、審議を進めなければいけない立場にあるので、その場合にある程度客観的な指標が必要になっているわけです。そういうときに私どもは、賃金改定状況調査を1つの客観的な指標と考えていて、要するに第4表による一般労働者及びパートタイム労働者の賃金上昇率を参考にして、あるいは中心の指標にして判断をすることにならざるを得ないわけです。したがいまして地域別最低賃金額の決定の引き上げの目安を、私たちとしては、大変大切な指標として位置づけていることをまず申し上げておきたいと思います。
 それではご質問にあった項目に沿いまして、お話をします。第1は改定の状況です。5つお話をします。1つ目は、景気状況における中小企業の収益と結び付くまでには、いわゆる全国的な動向と私どものようなところではかなりタイムラグが存在します。そういう点が経済情勢を判断するときに、重要な観点になっています。
 2つ目は、概ね私どもは目安に沿った形で改定をしてきていますが、なお最近5カ年ではどうかということですが、平成11年と平成13年に1円の上積みがありました。平成14年は目安はお示しいただきませんでしたけれども、1円の上積みをいたしています。本年はゼロになっています。
 3つ目は結審の状況についてですが、平成12年度は労働者側反対、平成14年度は使用者側反対、平成15年度は労働者側反対、平成11年と平成13年は全会一致という審議の結審の状況です。これは単に、いたずらに反対あるいは全会一致ということではありませんで、私どもは全会一致を目指して慎重に審議をし、ベストを尽した結果がこうなっているということです。したがいまして私どもは客観的な判断として、公益委員の判断としてもいろいろ協議をして、お互いに納得できる結審をしたいということを絶えず心掛けているわけですが、そのようにはなかなかまいらないということもあります。
 4つ目は、私どもの未満率の状況についてですが、大体1%台程度で推移をしています。この影響率ですが、2.2%から高いところでは2.8%、低いところでは1.9%ということで、概ね2%前後で推移しているのではないかと判断をしています。
 5つ目は、以上、審議状況について申し上げましたが、中央最低賃金審議会から示されている目安というものに対して、先ほども申し上げたように、地方の経済実態の状況を加えて判断をしていますが、雇用あるいは失業状況、生計費、初任給、組織労働者の賃金の状況など、地域別最低賃金でも当然のことですが、特に産業別最低賃金では当該産業の特有の事情がありますので、そういった点を考慮して現行最低賃金も含めた、さらに同じランクの他の県との比較等々を判断して審議をするということです。
 第2は、目安の表示方法及びランク区分のあり方についてで、3つ申し上げます。1つ目はこの目安と時間額の関係、特に日額と時間額の関係で表示単位が時間額に一本化されたわけですが、これに鑑みて日額と時間額の2つの方向の論議が1つに絞られたということは当然のことですが、1円の論議の重みが増したことに尽きるわけです。
 日額は据え置くけれども、時間額は引き上げるという全会一致を目指すための意見調整の座標がなくなった、それだけ狭まったということです。したがいまして、調整がより困難になってきているのは事実です。他方では従来、時間額と日額の関係、あるいは1日の所定労働時間をどのようにするか、といった論議は差し当たりしなくてもいいかなという良い点もあります。
 2つ目は、現在この中央最低賃金審議会でご設定いただいているランク設定について、私ども公益委員としては概ね妥当なランク設定であって、今後もこれは特に経済成長的な観点から見て、経済実態の芳しくない地方最低賃金審議会にあっては、ランク設定が必要であると考えている次第です。仮に、ランクがなくなった場合どういうことになるかというと、いろいろと問題が考えられますが、目安はどのように幅を持って考えることができるか、考えなければいけないかという悩みが増えるわけです。
 また現在、私どもはDランクでもさらに下のほうですが、全国の中でどういう位置で今後いくべきかといったような、根本論議が出てくるに違いないわけです。また現行の金額水準がどのようにあったらいいかという論議も、当然それに付随して生じてくると考えていますので、私どもにとってはランク設定の意義はあると申し上げておきます。
 3つ目は、仮にこれを率で表示した場合はどうかを考えると、現行の金額が当然ベースになりますので、現行の金額そのものの大きさによって、将来的にはかなり賃金上昇の差が生じてくる。したがいまして、賃金の係数を掛けるというやり方は、そういうことを考えるとあまり望ましい方向ではないように思いますし、それをどのように処理していくか、特に係数などはどう処理していくかの論議が新たに生じてくるのではないかと思います。したがいまして現在の金額表示は、私どもは審議の上で合理性を持っていると考えており、単に審議がしやすいというだけではなくて、ただいま申し上げたような問題点を考えた場合に、現在のような金額でお示しいただくほうがよろしいのではないかと判断するわけです。
 第3は、毎年改定の必要性についてということです。地方最低賃金審議会の会長の立場からすると、組織労働者の賃金が毎年改定されている実態があるわけです。そういう観点からすれば、改正決定の審議も毎年行わざるを得ないことになるので、労働行政上から見ても、労働行政を円滑に推進する立場から見ても、地方最低賃金審議会に対しては目安を示していただく必要があると考えています。
 第4は、現在の最低賃金の水準についてです。この最低賃金の水準の問題は、大変難解な問題です。岩手県の現行の金額水準、賃金水準は地方最低賃金審議会におきましても公労使が真剣に議論を重ねてきたので、この結果については私どもは真摯に受け止めて、真面目に論議を積み重ねてきた立場からして、最も尊重されるべきものであると考えています。
 2つ目のことで水準論あるいは格差是正論が絶えず、中央最低賃金審議会で問題になります。確かに、岩手県の最低賃金の水準はDランク内で低位にあります。これは単に、この論議がまずいからそうなっているかと考えると、必ずしもそうは言えない。岩手県の経済指標等から見て、現行の最低賃金は当然過小評価ではないかという意見もあります。岩手県の所得水準を見ると多分に、もう少し上にあってもいいのではないかという感じもするわけですが、この点について私どもはさらに地方最低賃金審議会で議論をする機会もあるし、過去にもそういう議論をしてきた経過もあります。
 これからも、経済実態と整合性を取って論議をしていかなければならない問題ですので、中期、長期的にはそういう立場で調整が図られることを期待しています。産業別最低賃金ではいわゆるサービス残業、特に流通産業にあっては格差是正という立場から、例えば自動車小売業のような産業では、格差是正を視点に入れて論議をして結審をいただいているところです。
 その他、目安についての要望です。以上申し上げたように、目安は、私どものような経済状況を持つ地方にあっては、最低賃金の改正に当たって、極めて有効かつ貴重な指針となっていることは先ほど申し上げたとおりです。したがいまして、特に平成12年に出された目安制度のあり方に関する全員協議会の中央最低賃金審議会に対する報告書の中の基本的な考え方として、「目安制度については今後とも経済・社会情勢等の変化に対応した適切な見直しを図りつつ、基本的には同制度を維持していくことが適当である」と述べられていることは、まことに当を得ていることでありまして、今後ともこの制度が維持され継続されるように要望を申し上げたいと思っている次第です。以上のとおりです。どうもありがとうございました。

○会長
 大変重要な点を簡潔にお話いただきまして、ありがとうございました。委員の皆様から何かご質問等がありましたら、どうぞご発言をいただきたいと思います。特にありませんか。

○公益委員
 平成14年に1円の上積みをした経緯ですが、これはどこからか指導があったとか、どこかの影響力をお感じになったせいですか。

○参考人
 平成14年度から、時間額のみの最低賃金を設定させていただきました。平成13年度は604円で、端数処理が残っていたことなどを勘案して、目安は示さないことになっていましたが、そういうことも勘案して使用者側は据え置きのご意見でしたが、端数処理という合理的な判断基準もありましたので、このようになったと承知しています。

○公益委員
 実際に岩手県で審議されるときに、周りの県の状況はどの程度考慮されているものなのでしょうか。

○参考人
 私どもは最低賃金審議のスケジュールを立てますが、いつも先行して私どもが見られる立場になっていて、これはまずいということでもうちょっと足並みを揃えてやっていかなければいけないなと反省しているところです。そういう点では、他県の審議状況はほとんど参考にしていません。私どもの独自の判断で、一応やっていると言っていいかと思います。

○参考人
 7月まではそのとおりですが8月3日、4日、5日、6日となると情報が飛び交うわけです。ただ、岩手がいちばん最初で、次に決めるのが隣接県で、と。岩手は東北の北のほうでもいちばん早い審議日程を組んでいるので、見られることはあっても、様子を窺うことは従来ありません。

○会長
 見られる立場であるようです。ほかにご発言はありますか。ないようですので、岩手地方最低賃金審議会会長には大変お忙しいところ、誠にありがとうございました。御礼を申し上げます。これにて終了します。どうもありがとうございました。
 次に、埼玉地方最低賃金審議会の木村会長にお願いします。本日はお忙しいところをおいでくださいまして、ありがとうございます。早速で恐縮ですが、ヒアリング項目に沿ってご説明をお願いします。

○参考人
 埼玉の最低賃金審議会は、1月19日に全員協議会を持ちました。本日のヒアリングでは、この協議会で出された公労使のご意見も踏まえつつ、埼玉の状況をご報告します。お手元に、予めお送りしている埼玉県内の経済情勢の資料がありますので、それを参考にしながら話を聞いていただきたいと思います。時間が非常に少ないので詳しく説明できませんが、経済状況についてお話します。
 平成15年度の埼玉県の経済情勢は、個人消費が雇用や所得の環境の厳しさから弱めの動きとなりましたが、設備投資は商業施設や物流施設の新設の動きが見られて、緩やかな持ち直しが続き、概ね横這いで推移しました。平成15年度の後半は個人消費は底固く推移して、設備投資が回復すると見られることから、景気は緩やかな回復に向かうものと見られています。そのために、県内の実質経済成長率は2.0%程度と見込まれています。
 平成16年度の県内経済の見通しは、前半は国内経済の回復を背景として、緩やかな回復が持続すると予想されます。年度の後半になると国内経済の減速に伴いまして、県内経済の回復のテンポは鈍ってくると見られています。そのため平成16年度の埼玉県の実質経済成長率は、平成15年度に比べて若干低下して1.7%と予測されています。ここ数年の埼玉の最低賃金の改定状況は、資料の2頁に表を載せています。これを参考にしていただければと思います。
 少し歴史的な話になりますが、埼玉の審議会はかつては労使が非常に協調的で、あまり揉めることもなく推移してきました。そして経営者の中には結構太っ腹の方もいらっしゃって、「よっしゃ」という感じで踏み切ってくださるようなこともあったりして、わりあいうまくいっていたことはあります。
 けれども経済状況が厳しくなってきまして、労使両方ともに経済的な余力がなくなってきたこともあって、この表からご判断いただけますように、全会一致の結審を見ることは非常に難しくなりました。特に平成14年度は、目安についての中央最低賃金審議会の答申内容の解釈をめぐって、労使の意見が大きく分かれてしまってなかなか決着に至りませんで、結局予備日を審議に当てるという異常な事態となりました。これは埼玉にとっては、非常に異常な事態でした。
 中央最低賃審議会から出された質問の項目に従って、お答えしていこうと思います。改定審議における目安の役割と、目安以外に重視している検討要素です。中央最低賃金審議会から出されます目安は最低賃金改定の基本的な指標で、この目安を中心に常に議論が行われています。目安以外の検討材料は国、埼玉県、埼玉労働局、連合、埼玉県経営者協会などが作成している、いろいろな資料並びに国内及び県内の経済状況といったものを用いています。
 目安の表示方法及びランク区分のあり方は、最低賃金額が時間額に一本化されたことによって、日額と時間額が併用されていた時代に、労使が折り合いをつける手段の1つだった「日額÷8+α」というのが使えなくなってしまいまして、労使が合意に至るのが非常に難しくなりました。また時間額一本化によりまして、1円を引き上げるということは日額にすると8円アップになるために、1円を引き上げるかどうかがこれまで以上に労使の厳しい攻防の場面となって、公益委員側としても引き上げの影響力の大きさを慎重に見極める必要が出てきました。そして、その判断が非常に難しくなっています。
 一部に、引き上げ額を円未満の銭単位で表示すべきではないか、という意見も出ているようです。特に平成14年度は中央最低賃金審議会の目安が示されず、平成15年度においては目安がゼロであったことがありまして、使用者側が最初の金額を提示できないということを申しまして、結局マイナスから始めようというご意見も出てきて、このあたりから最低賃金の引き下げ論が活発になってきました。
 ランクの設定です。ランクによる目安額の格差が意味を持ってきたのは、右上がりの賃金上昇という経済状況が前提にあったものと思われます。けれども、今日のように賃金水準の横這いや引き下げが現実に発生していて、今後ともこの流れが継続されることになるとすればランク設定の是非を含め、その設定のあり方や振り分け方について、見直す必要が出てくるのではないかと思われます。現在のランク設定そのものは、都道府県ごとの経済格差の存在及び地賃の全国的整合性の確保という観点から見て、やむを得なかったものと考えますが、ランクごとに目安の金額差を付けることが難しくなると、ランク設定そのものの意味が失われていくのではないかと考えられます。
 埼玉県においては県の中南部、これは東京圏、北部は北関東の経済圏の影響を受けていて、それぞれに賃金格差があることから、地域別最低賃金の水準をどこに置くべきかということで、金額設定の水準が難しい状況です。低い賃上げ率が継続し、ランクごとの引上げ額に差が生じない状況の下では、県の枠組みではなくて、むしろ経済圏ごとに最低賃金を設定することのほうが、合理性が認められるのではないかとも思われます。しかし、これは最低賃金のあり方とも関係することですので、十分に議論していただきたいと存じます。ランクを廃止しても、現在設定されている各地域別最低賃金の金額を前提に目安を示すというのであれば、地方最低賃金審議会での最低賃金の審議は可能であろうと考えられます。
 埼玉県は東京都と接しています。東京都への通勤者、いわゆる埼玉都民が多数存在しています。県中南部は東京経済圏に属することから、特に労働者側からは東京都並みにしてほしいという要望が出ています。目安の据え置きが続くと、ますますこういう傾向は進むと思われますが、使用者側はもちろんこれに反対のご意見ですから、労使の認識のずれがますます大きくなってくるのではないかと思われます。
 埼玉県は比較的賃金水準は高く、物価水準も高いです。埼玉県が位置しているBランクの中で、大きな格差があります。時間額670円以上のグループと、650円台以下のグループとに分かれているのが実情です。つまり、両グループの間には20円の差が生じています。このようにランク内の格差が大きすぎると、それを是正すべきだという議論も出てくるのではないかと思われます。埼玉が属しているBランクの中の格差は非常に大きいわけで、そういうことからBランクの見直しが必要ではないかと考えます。
 経済活動は、いま都道府県の単位を越えて広がっていて、ランク設定を見直すのであれば1つの経済圏ごとに、例えば南関東1都3県などのように示すことも検討すべきではないかと思われます。
 各ランクへの振り分けについては、ランクの見直しによってはある程度は可能と思われますが、ランクの廃止は目安制度、つまり目安を出すのか出さないのかとも関係しますので、両者の関連性を十分に勘案する必要があろうかと思います。また仮にランクを廃止して、かつ目安を率で表示する場合には、目安の実効性を担保する上でも、現在の各地域別最低賃金の水準を容認する合理的な理由を、各地方最低賃金審議会に示す必要があるのではないかと思います。
 仮に現行のランクが廃止された場合、埼玉県は現在においてもその審議は埼玉の最低賃金額に、より近い最低賃金額を設定している近県を、いわば横睨みをした形で行っていますので、ランクが廃止されても影響は少ないのではないかと考えます。
 目安を金額ではなく、率で表示することについての意見です。目安を率で表示することには、メリットとデメリットがあるだろうと考えられます。デメリットは円未満の端数の処理をめぐって、紛糾する可能性があるということです。メリットは、円未満の切り上げと切り捨てを使い分けることによる、選択幅の広がりが考えられます。もし、このメリットを生かそうというのであれば、円への換算方法を地方に委ねることにしなければならないのではと思いますが、それはいったい可能かということです。
 埼玉県の場合は、従来の審議において金額と率が共に議論されていて、率で表示することに特に抵抗はないと考えられます。しかし率のみで示すと、ランク間及びランク内の上位と下位の金額の格差は拡大することになります。それが最低賃金制度上、望ましいのかどうか。これは判断が難しいのではないかと思います。
 毎年改定の必要があるかどうかです。埼玉の地方最低賃金審議会としては、目安が示されなければ対応に大変困ります。地方最低賃金審議会としてはどのような経済状況であっても、目安は示していただきたいと思います。もちろん、この目安の制度は労使双方にとって、足枷になる側面はありますが、目安が示されないと、特に今日のような経済状況の中では、結論に到達できないと思います。
 現在の経済状況の下では、毎年改定の必要があるとも思えませんが、このご質問は最低賃金が下がることはないという前提の議論ではないのかと思われます。もし最低賃金が下がることがあるとすれば、毎年改定の必要性、つまり見直しの必要性が出てくるのではないか。要するに、毎年考えなければいけないことになろうかと思います。実態として産業別の最低賃金は、地方最低賃金審議会の改定額を前提として私どもでは議論をしているので、この点についても一定の配慮が必要ではないかと思います。
 埼玉の現在の最低賃金額の水準です。先ほども申しましたように、埼玉県は東京都に隣接していてその影響が大きいために、常に東京都が意識されています。つまり東京都に比較して低いという認識があります。一方県の北部は北関東に隣接していますが、そこからの影響は少なくて北関東を考慮すべきだという声はあまり大きくないという印象です。
 デフレ傾向が続く、失業率が高い、零細企業の賃金水準の低下傾向が見られる、中小企業の収益が好転しない、そのようなことを総合的に考えると、現在の埼玉の地域別最低賃金額は678円ですが、これを8時間とすると8を掛けて、5,424円が日額になります。月額の労働時間を171時間として換算すると、月額が11万6,229円となって、この水準が高いのか低いのか評価をするのはなかなか難しいですが、最近は必ずといっていいほど、最低賃金の審議において生活保護給付との比較の問題が持ち出されています。
 それについて大変議論が分かれるのですが、1つの議論は最低賃金も賃金である以上は、労働の対価の側面を無視できないということで、それに対して特に労働者側からは生活保護の最低生活費との比較が出されて、働くほうが生活保護を受けるよりも少ない収入であることはおかしいのではないか、という主張が出されています。その主張に明確に答えられる論理は、なかなか見当たらない。公益委員側としても労働者側のご意見に近い方もあれば、労働の対価だから仕方がないという意見に近い方もあればということで、なかなかこれも難しい点です。
 地方最低賃金審議会の水準を判断する資料として中央最低賃金審議会が示すものは、現行のものに加えてどんなものが必要であるかです。ランク区分の見直しに際して作成される、ランク区分の見直しを基礎とした諸指標の状況、この最低賃金決定要覧に入っているものですが、これは毎年のデータではありません。これに毎年のデータを加えていただければ、非常に有益だというご意見もあります。
 労働者側から、賃金改定状況調査の結果という第4表がありますが、この第4表がマイナスとなったことについて、正規労働者と非正規労働者が合算されている可能性もある。だから、正規労働者と非正規労働者をそれぞれ分けて示せば、両方ともプラスになっている可能性もあるのではないかというご意見があります。別々に示してもらえないかということです。それから労使双方から、埼玉のみのデータを示してもらえないかというご意見です。労働者側から、影響率は現在100人未満を対象に出しているけれども、100人以上も含めて全体で見る必要がある。全体で出してみてはどうかというご要望です。
 近隣県との整合性です。都道府県間の賃金格差は現実に存在します。その格差は、消費者物価の格差をはじめとする、経済合理性が認められる場合が多いです。したがって各県の賃金格差などが、最低賃金に反映されることには一定の合理性があります。しかも最低賃金の格差は、賃金の格差に比べると格差の度合が圧縮されていて、最低賃金制度の趣旨が生かされた格差となっているとも考えられます。埼玉県の場合は、現実には同一ランクの近隣県との整合性を意識しつつやっています。
 埼玉県の水準を調整していく傾向はあるのかですが、当県としてはランクの順位はほぼ妥当であろうと考えています。公益委員側としては、これを中長期的に上げるとか下げるとかいうように調整していく考え方は持っていません。けれども、労働者側は東京都や神奈川県に近付けたい考え方があります。使用者側は、東京都とは経済格差が大きいからということで反対しています。意見が分かれています。
 その他で、目安についての要望です。最低賃金は文字どおり最低賃金で、最低賃金法に基づいたものですが、これに引き下げということがいったいあるのかどうか。目安にマイナスがあるのかどうかについて、中央最低賃金審議会としての明確なご判断をいただければ大変幸いです。
 ここで労使のご意見を紹介しておきます。労働者側はこのように経済状況が非常に悪くなった中で、もう一度最低賃金の原点に戻って、憲法に謳われている生活保障を満足すべきものと考えて、抜本的に考え直しをしてもらえないか。それは是非必要なところに至っているというご意見です。使用者側は、賃上げが容易にできる状況ではなくなってきていることから、生活の構造改革を行う必要があるのではないかというご意見です。私の報告はここで終わります。ご清聴ありがとうございました。

○会長
 どうもありがとうございました。かなり刺激的なお話もあったように思います。どうぞ委員の皆さん、ご質問等ご発言がありましたらよろしくお願いします。

○公益委員
 最低賃金を経済圏ごとに決めるべきであろうという、非常に大胆というか興味深いご意見を承りました。例えば埼玉の場合に、県北と県南とで非常に差がある。地方最低賃金審議会の中で、その県北と県南を分けて考えるご議論、また地方最低賃金審議会段階で将来分けていこうというご意見は、いままでに議論されたことはありますか。

○参考人
 そういうのは、あまりないです。ただ、例えば労働者側がアップを要求してくるとなると、使用者側が条件はよくないと言うときに、北のほうではこういうことなのだと。南北の差が非常に大きいことはおっしゃるのですが、だからといって別に分けて議論することはしていないと思います。
 地図でご覧になるとわかりますが、埼玉は結構広いです。南部と北部とがありますが、西のほうに奥深くあって、そのあたりも南部のほうとは違う状況があります。だから、これは難しいです。

○会長
 ほかにありますか。特にご発言がないようですので、埼玉地方最低賃金審議会の木村会長のご説明、大変ありがとうございました。これにて終了します。どうもありがとうございました。以上で本日の審議事項はすべて終わりました。
 次回の全員協議会について確認します。次回は、2月24日(火)午前10時から厚生労働省5階の第13会議室です。
 特に委員の皆さんからご発言がなければ、これで第4回目安制度のあり方に関する全員協議会を終わります。本日の議事録の署名は、原川委員と久保委員にお願いします。本日は、どうもありがとうございました。



(照会先) 厚生労働省労働基準局賃金時間課最低賃金係(内線5530)


PDFファイルを見るためには、アクロバットリーダーというソフトが必要です。
アクロバットリーダーは無料で配布されています。
(次のアイコンをクリックしてください。) getacro.gif


トップへ
審議会議事録  厚生労働省ホームページ