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[III.疾病・障害対策研究分野]

(1)長寿科学総合研究経費
事務事業名 長寿科学総合研究経費
担当部局・課主管課 老健局総務課
関係課 老健局内各課

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 高齢社会を迎えた今、社会全体で高齢者を支える、国民が安心して生涯を過ごすことができる社会へと転換するため、高齢者に特徴的な疾病・傷害の予防、診断及び治療並びにリハビリテーションについて研究を行う。また、高齢者を支える基盤としての介護保険制度にも着目し、介護ケアの確立、介護支援機器の開発、権利擁護等の社会科学的検討及び保健・医療・福祉施策の連携方策に関する研究を行うことにより、総合的な長寿科学研究に積極的に推進する。
 さらに、「メディカルフロンティア戦略」の一環として、要介護状態の大きな原因となる痴呆及び骨折について、より効果的な保健医療技術を確立するための臨床研究等の推進によって、医療の質の向上を図る。

(主な研究課題)

老化メカニズムの解明等
各種老年病の成因の解明と予防・治療方法の開発等
高齢者に適した各種リハビリテーション方法の確立及び看護・介護の効果的、効率的実施方法の開発等
高齢者に適した機器及び居住環境の知見の整備等
高齢者に関する社会的諸問題に関する包括的研究等
高齢者に対する漢方薬等の効果に関する研究等
痴呆の予防、診断及び治療方法の開発並びに痴呆介護ケアの確立等
骨折の予防、治療及びリハビリテーションの確立等

予算額(単位:百万円)
H12 H13 H14 H15※ H16要求※
1,789 1,790 1,791 2,230 2,249
効果的医療技術の確立推進臨床研究経費(痴呆・骨折分野)
(H15)、痴呆・骨折臨床研究経費(仮称)(H16)を含む。

(3)問題分析
 我が国は、国民の1/4が高齢者という超高齢化社会を世界に類を見ないスピードで迎えようとしており、今後も活力ある社会を保ち続けるためには高齢者の健康増進及び尊厳の保持が重要な課題である。また、社会が「寝たきり」等で介護するようになった高齢者を無理なく受け入れ、国民が安心して生涯を過ごすことができる社会へと転換していくことが不可欠となっている。
 このような状況に対応するため、平成12年度から「ゴールドプラン21」及び介護保険制度がスタートし、これらを着実に実施し、社会全体で痴呆や寝たきりなどの状態にある高齢者等を介護し支えていくことが必要である
 また、二大死因であるがん及び心筋梗塞、要介護状態の大きな原因となる脳卒中、痴呆及び骨折の予防と治療成績向上を果たすため、平成13年度から「メディカルフロンティア戦略」を、政府一体となって取り組むこととなった。このため、要介護状態の予防やリハビリテーションの推進、痴呆ケアの確立等があらためて重要な課題となってきている。

(4)事務事業の目標
 ゴールドプラン21やメディカルフロンティアの推進に加え、要介護認定や介護予防、ケアマネジメント、身体拘束ゼロ作戦などの行政施策を講じる上で、その科学的根拠となる基礎、臨床及び政策研究について、関連する研究と一体的に推進し、もって健康で尊厳ある長寿社会を開拓していくことを目標としている。
 特に、メディカルフロンティアの一環として、要介護状態の大きな原因となる痴呆及び骨折について、より効果的な保健医療技術を確立するための臨床研究等の推進によって、医療の質の向上を図ることを目標としている。

2.評価結果
(1)必要性(行政的意義(厚生労働省として実施する意義、緊急性等)、専門的・学術的意義(重要性、発展性等)、目的の妥当性等)
 世界に類例を見ない超高齢化社会を迎えつつある我が国にとって、高齢者がその尊厳を維持しつつ、健康で豊かな生活を送ることを可能とするため、老化や老年病に関する基礎、臨床両面からの医学的知見を集積し、疾病の予防及び治療方法を開発するとともに、介護ケア、リハビリテーションの確立、地域における保健・医療・福祉の連携方策等、老化・加齢に関する研究として、基礎的研究から社会的研究まで広く包含する横断的研究として我が国でも数少ない研究事業である。このため、本研究事業は厚生行政を所管する厚生労働省が主体的に実施する必要がある。また、介護保険制度の見直しに伴う介護サービス基盤の充実や、今後増加が予想される痴呆性高齢者への対策が急務であり、これらについての臨床・行政的研究を緊急に行う必要がある。
 本研究事業では(3)に述べるような多方面にわたる研究成果が得られ、我が国の高齢者保健福祉の向上に加え科学技術の振興にも大きく寄与してきた。引き続き、ゴールドプラン21やメディカルフロンティア戦略等の推進に加え、これらのモニタリングや見直し等についても着目しつつ本事業を進めていくことは、健康で尊厳ある長寿社会の開拓といった目標に十分資するものである。

(2)有効性(計画・実施体制の妥当性等の観点)
 本研究事業の実施にあたっては、基礎・臨床・社会医学及び社会福祉の専門家による事前評価を行った上で採択を決定することとされており、また、中間評価及び事後評価を行うことにより、個別研究課題の継続の必要性が評価されることとなっており、客観的かつ公正な実施が期待できる。また、研究計画期間は原則2年以内と規定されており、遅滞なく研究成果を見定め、漫然とした研究継続を行わないよう研究者自身の自律的チェックにも繋がるものであり、本研究事業自体の計画的な実施が期待できる。

(3)効率性(目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から)
 医学的分野では疾患関連蛋白の発見、老化や老年病発症の機序の解明、骨折予防やリハビリテーション技術の開発が進み、また、政策研究分野においても、要介護認定や介護予防、ケアマネジメント、身体拘束ゼロ作戦などの科学的根拠の蓄積に大きな成果が見られた。
 また、ゴールドプラン21、対がん10か年戦略、メディカルフロンティアなど、様々な行政計画と連動しつつ研究成果がこれらの施策に反映され、本業の目的が十分達成されつつあるが、高齢者介護やリハビリなど発展途上の分野もあり、今後の研究の促進が期待される。
 また、推進事業や臨床研究事業により、若手研究者の育成、研究者間の連携及び国際交流が図られており、引き続き我が国の長寿科学を担う人材の確保及び育成に寄与して行くことが期待される。

(4)その他
 「高齢者介護研究会報告書」(平成15年6月:老健局長の私的研究会)において、介護予防・リハビリテーション、痴呆ケアモデルの確立、地域包括ケアシステム等介護サービスの見直しに係る研究及び科学的知見の集積を行う必要があると提言がなされた。

(5)特記事項
 特になし

3.総合評価
 本研究事業における基礎・臨床的な研究成果により東洋医学を含む高齢者医療の進展がみられ、また、介護や看護技術、保健福祉政策及び社会科学的側面においても研究成果がその前進に大きく寄与してきた。今後とも保健・医療・福祉の全般にわたり本研究事業が重要な役割を果たすことが期待される。
 また、ゴールドプラン21等に基づく厚生労働行政への応用や、臨床等の実際のサービス提供への応用が可能な研究について積極的に評価することを目的として平成15年度に公募課題の改正を行っており、今後もこの方向性を推進していくことが重要である。また、今後予定されている介護保険制度、ゴールドプラン及び老人保健事業等の見直しと連動して本研究事業の将来構想を検討することが課題である。


2015年の高齢者介護
〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて〜


課題
○介護保険施行後見えてきた課題


要介護認定者の増、在宅サービスの脆弱性、
痴呆性高齢者の顕在化、新たなサービスの動き等


○制度の持続可能性の確保(課題解決の前提)

目標
高齢者の尊厳を支えるケアの確立

高齢者の尊厳を支えるケアの確立の図

実施期間
早急に着手し、2015年までに着実に実施
(戦後のベビーブーム世代が高齢期に達する2015年までに実現)



高齢者リハビリテーションの現状

高齢者リハビリテーションの現状の図


新しいケアモデルの確立−痴呆性高齢者のケア−

     現状
 身体ケアと比べ、遅れている痴呆性高齢者ケア
 要介護高齢者の相当部分が痴呆性高齢者
  : 要介護高齢者のほぼ半数、施設入所者の8割が、何らかの介護・支援を必要とする痴呆がある高齢者(痴呆性老人自立度II以上)
      身体ケアのみでなく、痴呆性高齢者に対応したケアを高齢者介護の標準とするべき
     痴呆性高齢者ケアの普遍化
     痴呆性高齢者ケアの基本=「尊厳の保持」
 痴呆性高齢者の特性
○記憶障害の進行と感情等の残存
○不安、焦燥感等→徘徊等行動障害
○環境変化への適応困難
 生活そのものをケアとして組み立てる
○環境の変化を避け、生活の継続性を尊重
○高齢者のペースでゆったりと安心して
○心身の力を最大限に発揮した充実した暮らし

     日常の生活圏域を基本としたサービス体系
○小規模な居住空間
○家庭的な雰囲気
○なじみの人間関係
○住み慣れた地域での生活の継続
グループホーム
小規模・多機能サービス拠点
施設機能の地域展開
ユニットケアの普及
事業者・従事者の
専門性と資質の
確保・向上

     ケアの標準化、方法論の確立
痴呆症状等に効果的に応えることのできる介護サービスに関し、
 ○系統的なエビデンスの収集と評価 ○サービスのパッケージの開発 等

     痴呆性高齢者と家族を支える地域の仕組み立
家族や地域住民に対する痴呆についての正しい知識と理解の啓発
住民による主体的な健康づくりと痴呆介護予防活動
早期発見、相談機能の強化、専門的人材の育成
地域の関係者のネットワークによる支援


介護サービス体系の見直し

介護サービス体系の見直しの図


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