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(2)臨床応用基盤研究経費(仮称)
事務事業名 臨床応用基盤研究経費(仮称)
担当部局・課主管課 医政局研究開発振興課
関係課 大臣官房厚生科学課

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
【(1)基礎研究成果の臨床応用推進研究】
 我が国で生み出された基礎研究の成果を臨床現場に迅速かつ効率的に応用していくために必要な技術開発、探索的な臨床研究等を推進するとともに、画期的かつ優れた治療法の確立を目指すことを目的とする。
具体的には、
(1)主任研究者又は分担研究者が出願している薬物又は医療技術等の基本特許を活用して、画期的かつ優れた治療法として3年以内に探索的な臨床研究に着手しうることが明らかな薬物又は医療技術に関する研究
 例: 遺伝子治療、細胞治療、ヒト型化 抗体を用いる治療、新規の医療機器の開発に関する研究等
(2)効率的な遺伝子解析のための臨床データの解析法の開発に関する研究
等について推進することとしている。
【(2)治験推進研究】
 新しい医薬品・医療機器(以下、医薬品等という)の承認のためには、薬事法に基づいて当該医薬品等の有効性・安全政党に関する科学的な見地からの審査が必要であり、このための実証データの収集を目的として、ヒトで臨床試験を行うことが「治験」である。
 我が国における治験の状況を見ると治験届出数は年々減少し、我が国で治験が実施されない状況(治験の空洞化)にある。治験の空洞化の原因としては、我が国における治験が欧米と比べて、(1)治験にかかる時間が長いこと、(2)治験の質が良くないこと、(3)治験にかかる費用が高いことなどが指摘されており、これらの問題点が相互に相まって悪循環となっている面もある。このため、こうした点を改善するための施策の充実が望まれており、加えて、平成15年7月から薬事法改正の一つとして、医療所の必要性から、医師主導の治験が実施できる制度が導入されることとなっている。このため、医療上必要な治験の実施に向けて、迅速かつ効率的に実施できる環境整備を行う。

 国立高度専門医療センター、特定機能病院、臨床研修指定病院などの複数の医療機関をネットワーク化して、質の高い治験の症例数を速やかに確保する体制(大規模治験ネットワーク)を整備する。具体的には、今後3年間で、国立高度専門医療センター等が中心となって10の疾患群ネットワークを順次形成することとし、各ネットワークの全体的な管理・運営や評価等を実施する総括事務局を設置する。
 ネットワークにおいては、欧米で標準的な医薬品等でありながら、国内では不採算等のために導入されていない医薬品等について、企業の協力を得ながら、医師自らが治験を行うシステムを導入し、国からの研究費補助金により、治験の経費、事務局の運営費等を支援する。これにより、採算性が低く、企業にとって開発のインセンティブが働きにくい医薬品等であっても、信頼性の確保されたデータに基づき、承認のプロセスを経て、最終的に企業による製品販売を通じ、患者への当該医薬品等の安定的な提供に資する。

予算額(単位:百万円 (1)基礎研究成果、(2)治験)
H12 H13 H14 H15 H16要求
(1) 0
(2) 0
(1) 0
(2) 0
(1) 1,250
(2) 0
(1) 1,100
(2) 850
(1) 1,100
(2) 1,700

(3)問題分析
【(1)基礎研究成果の臨床応用推進研究】
 21世紀に入って、新薬開発競争が激化しており、その成果が本格的に現れる10年後の2010年頃には、「新薬黄金時代」を迎えることが予想されており、急速な高齢化が進展する我が国において活力ある長寿社会の実現のための実用化が期待されている。しかしながら、医薬品・医療機器が開発され医療の現場に流通するまでには、膨大な研究費用と長い研究期間を要するとともに、国民の生命・健康を守るために必要不可欠な安全確保に資する厳しい薬事規制等のハードルを越えなくてはならない。
 また、近年は、医薬品の研究開発を巡っては製薬企業間によるグローバルな競争が激化しているが、残念ながら、創薬環境として我が国の市場は国際的に魅力的なものとはなっておらず、このままでは、我が国の医薬品等産業の国際競争力は将来弱体化していく可能性が高い。
 日本においては、企業が治験等の実用化直前の研究に研究費を多く向ける傾向があり、基礎研究成果の実用化の可能性を確かめる研究については投資が少ないのが実態である。

【(2)治験推進研究】
 治験は医薬品が上市されるためには不可欠のステップであるが、我が国の状況を見ると、近年では、日本企業であっても国内より欧米で治験を先行させるケースが増加しており、治験の空洞化と言われている。このような状況に対して、
(1) 患者にとって、国内での治験が遅れる又は行われないことにより、最先端の医薬品等へのアクセスが遅れること
(2) 医療機関や医師等にとっても、最先端の医薬品等へのアクセスが送れることにより、技術水準のレベルアップが遅れること
(3) 製薬産業等にとっては、国内での研究開発が低下し、さらに治験に係る新しい事業(治験施設支援機関(SMO)や科発業務受託機関(CRO)等)の振興やそれに伴う雇用の創出といった面でマイナスであること
など、我が国の保健医療水準や産業の国際競争力に対してマイナスの影響があると考えら得ている。

(4)事務事業の目標
【(1)基礎研究成果の臨床応用推進研究】
 基礎的な段階に留まっている研究成果について実用化を促進することにより、国民に有用な医薬品・医療技術等を提供する機会が増加することが見込まれる。こうしたことから、基礎研究成果を臨床に応用することについて、その有用性の見極めや臨床応用に際しての課題を解決することを目的とした研究を推進する。

【(2)治験推進研究】
 平成13年8月に公表された「医薬品産業ビジョン」において、今後3年間で10の疾患群ごとに、ネットワーク事務局を中心にA)国立高度専門医療センター、高度専門医療施設等、B)特定機能病院、C)臨床研修指定病院など複数の医療機関とネットワークを形成(「大規模治験ネットワーク」)し、承認に必要な症例数を速やかに確保する体制を整備することとされた。
 また、大規模治験ネットワークにおいては、これまでの製薬企業が主導して実施する治験に加えて、欧米で標準的な医薬品でありながら国内では不採算等のため導入されていない医薬品について、医師主導で実施する治験のシステムを導入することとされた。

2.評価結果
(1)必要性(行政的意義(厚生労働省として実施する意義、緊急性等)、専門的・学術的意義(重要性、発展性等)、目的の妥当性等)
【(1)基礎研究成果の臨床応用推進研究】
 総合科学技術会議の答申においては、国がライフサイエンス分野で重点的・戦略的に取り組むべき分野の1つとして、「研究開発成果を実用化する臨床医学・医療技術」が掲げられており、また、重点4分野の中で特に重点的に推進すべき事項として「先端研究の臨床応用促進、医療技術・遺伝子組みかえ体の安全性の確保等研究成果を社会に迅速に受容・還元するための制度の構築」とされている。
 日本の生命科学基礎研究の進歩は目覚ましく、その成果は欧米に劣るものではないが、それらを応用する保健医療分野の臨床研究は、特出した研究があるものの、欧米に比べて一般に活発ではない。このため、治療技術等として医療現場において実用化できる可能性のある画期的な基礎研究成果が、日本で実用化されるよりも前に、欧米で実用化される例も見られる(例:乳がんに対する画期的な抗がん剤であるハーセプチン)。
 また、日本においては、企業が治験等の実用化直前の研究に研究費を多く向ける傾向があり、基礎研究成果の実用化の可能性を確かめる研究については投資が少ないのが実態である。
 このような状況において、基礎的な段階に留まっている研究成果について実用化を促進することにより、国民に有用な医薬品・医療技術等を提供する機会が増加することが見込まれる。こうしたことから、基礎研究成果を臨床に応用することについて、その有用性の見極めや臨床応用に際しての課題を解決することを目的とした研究を推進するものである。

【(2)治験推進研究】
 医薬品が上市されるためには治験が不可欠であるが、我が国の状況を見ると、治験届出数は年々減少し、我が国で治験が実施されない状況(治験の空洞化)にある。このような治験の空洞化は、(1)患者にとっては、国内での治験が遅れることにより、最先端医療(海外で流通している新薬等)へのアクセスが遅れる、(2)製薬産業等にとっては、国内企業の研究開発力が低下するほか、新事業の創出、雇用の創出と言った面でマイナスである、(3)医療機関や医師等にとっては、技術水準のレベルアップが遅れるなど、我が国の保健医療水準や産業の国際競争力に対してマイナスの影響が大きいと考えられる。
 したがって、画期的新薬の開発を促進し、患者に対して迅速に新薬を提供していくためには、我が国における治験環境の充実を図り新薬の開発に資する魅力ある創薬環境を実現していく必要がある。このため、複数の医療機関がネットワークを形成し、質の高い治験が迅速にかつ適性な費用で行うことができるようになることは重要である。

(2)有効性(計画・実施体制の妥当性等の観点)
【(1)基礎研究成果の臨床応用推進研究】
 「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」を踏まえ、本研究事業に関する評価指針を策定し、専門家等により、適切に評価(事前評価、中間・事後評価)を実施している。

【(2)治験推進研究】
 治験推進研究(治験活性化プロジェクト大規模治験ネットワーク構想)は、平成14年10月に行われた総合科学技術会議における「平成15年度概算要求における科学技術関係施策の優先順位付けについて」で、S評価を受けている。
 本事業に関して、疾患群ごとのネットワークの全体的な管理・運営や評価等を実施する総括事務局を設置することとしている。

(3)効率性(目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から)
【(1)基礎研究成果の臨床応用推進研究】
 平成14年度の終了課題については、中間・事後評価委員会において、目的に沿った一定の研究成果があがっているものと評価されている。
 基礎的な段階に留まっている研究成果について実用化を促進することにより、国民に有用な医薬品・医療技術等を提供する機会が増加することが見込まれる。こうしたことから、基礎研究成果を臨床に応用することについて、その有用性の見極めや臨床応用に際しての課題を解決することを目的とした研究を推進するものである。

【(2)治験推進研究】
 治験環境を整備し、我が国の創薬環境を整え、画期的な医薬品等の創出に資することを目指しているので、その目標への寄与度によって効率性が示される。

(4)その他
【(1)基礎研究成果の臨床応用推進研究】
注)本事業は14年度より開始しているが、遺伝子治療の臨床研究については「ヒトゲノム・再生医療分野」から当該研究事業に移行しており、平成14年度で終了したものの成果を記載している。

<例>
(1)新規遺伝子導入技術を用いた難治性循環器疾患遺伝子治療の臨床研究(大阪大学 金田教授)では、末梢血管病に対する世界初のHGF遺伝子治療臨床研究を計22例の患者に対して実施し、FDAから米国での治験を認められるとともに、そのプロトコールは類似の遺伝子治療臨床研究の規範となった。さらに、高効率・低侵襲ベクターとして開発したHVJenvelope vectorが、動物実験で脳梗塞の予防や治療に有効性が示され、ベクターの国際特許も出願されている。
(2)遺伝子治療製剤の供給基盤整備と遺伝子治療への応用(名古屋大学 吉田教授)では、臨床研究用遺伝子包埋リポソーム製剤の開発に成功した。併せて本製剤を安定化するための新しい凍結化及び凍結乾燥化技術が開発されるとともに、本製剤を用いた臨床研究によって安全性及び有効性が証明された。本臨床研究は、純国産技術で開発した我が国初の遺伝子治療であり、これまで治療法のなかった再発・再燃悪性グリオーマの治癒の可能性が出てきた。

(5)特記事項
【(1)基礎研究成果の臨床応用推進研究】
 総合科学技術会議の答申においては、国がライフサイエンス分野で重点的・戦略的に取り組むべき分野の1つとして、「研究開発成果を実用化する臨床医学・医療技術」が掲げられており、また、重点4分野の中で特に重点的に推進すべき事項として「先端研究の臨床応用促進、医療技術・遺伝子組みかえ体の安全性の確保等研究成果を社会に迅速に受容・還元するための制度の構築」とされている。

【(2)治験推進研究】
 治験推進研究(治験活性化プロジェクト大規模治験ネットワーク構想)は、平成14年10月に行われた総合科学技術会議における「平成15年度概算要求における科学技術関係施策の優先順位付けについて」で、S評価を受けている。

3.総合評価
【(1)基礎研究成果の臨床応用推進研究】
 近年、医薬品の研究開発を巡っては製薬企業間によるグローバルな競争が激化しているが、残念ながら、創薬環境として我が国の市場は国際的に魅力的なものとはなっておらず、このままでは、我が国の医薬品等産業の国際競争力は将来弱体化していく可能性が高い。さらに、日本においては、企業が治験等の実用化直前の研究に研究費を多く向ける傾向があり、基礎研究成果の実用化の可能性を確かめる研究については投資が少ないのが実態である。
 また、総合科学技術会議の答申においては、国がライフサイエンス分野で特に重点的に推進すべき事項として「先端研究の臨床応用促進」が示されている。
 このような状況において、基礎的な段階に留まっている研究成果について実用化を促進することにより、国民に有用な医薬品・医療技術等を提供する機会が増加することが見込まれる。こうしたことから、基礎研究成果を臨床に応用することについて、その有用性の見極めや臨床応用に際しての課題を解決することを目的とした研究を推進するものである。
 本研究事業については、平成14年度の終了課題については、基礎研究成果の実用化等に向けた成果が着実に上げられており、また、論文発表、成果発表、技術開発、厚生労働行政への貢献等の成果が挙げられている。
今後については、更なる努力を重ね、着実に成果をあげられるよう期待したい。

【(2)治験推進研究】
 治験環境を整備し、画期的な医薬品等の創出に資することは、我が国国民の保健医療水準の向上に極めて有益であると考えられる。
 さらに、治験が活性化されることにより、新事業の創出、雇用の創出などの経済活性化にも結びつくものである。
 なお、当該事業は平成14年10月に行われた総合科学技術会議における「平成15年度概算要求における科学技術関係施策の優先順位付けについて」で、S評価を受けている。
 以上のような理由より、当該事業を円滑に実施し、もって、国民の健康の向上を目指す必要がある。


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