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(6)エイズ・肝炎・新興再興感染症研究経費(仮称)
事務事業名 エイズ・肝炎・新興再興感染症研究経費(仮称)
担当部局・課主管課 健康局結核感染症課
関係課 健康局疾病対策課

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・
一部新規
 近年、新たにその存在が発見された感染症(新興感染症)や既に制圧したかに見えながら再び猛威をふるいつつある感染症(再興感染症)が世界的に注目されている。
 これらの感染症は、その病原体、感染経路、感染力、発症機序、診断法、治療法等について不明な点が多く、日本国内で患者が報告された場合にパニックを引き起こす可能性もある。また、全く勢いも衰えず、国によっては平均余命、経済状況にまではっきりと悪影響を示しているエイズも、我が国においても感染者数の増加傾向を示している。
 本事業では、国内外のエイズ・肝炎・新興再興感染症研究を推進し、研究の向上に資するとともに、速やかにその研究成果を行政施策へと活用し、国民の健康の保持及び不安解消に努めるべく、以下の研究を実施する。

(新興・再興感染症分野)
(1)国内発生が報告された新興感染症に関する研究
(2)国内未発生の新興感染症に関する研究
(3)国内発生例が報告された再興感染症に関する研究
(4)海外において感染拡大のおそれのある感染症に関する研究
(5)ハンセン病に関する研究
(6)動物由来感染症の病原生態学に関する研究
(7)寄生虫に関する研究
(8)新世紀社会対応型基盤整備研究
(新)(9)感染症新予防・診断技術開発に関する基盤研究
(新)(10)国際感染症対策の推進に関する研究
(新)(11)リスクコミュニケーション研究

(エイズ分野)
 (1)臨床分野
 日和見感染症に対する診断・治療開発、多剤併用療法(HAART)の開発・推進、治療ガイドラインの作成の他、慢性疾患としての側面を含め、免疫賦活療法等の新たな治療法の開発。肝疾患等の合併症の診断・治療の確立、さらにHIV陽性者の生殖医療の研究。
 (2)基礎分野
 HIV感染及びエイズの病態解析、薬剤の効果や副作用に関わる宿主因子の遺伝子多型等の生体防御機構の研究、抗HIV薬・ワクチン等の開発の他、薬剤耐性ウイルスの分子レベルでの発生機序解明、同ウイルス治療薬の開発、同ウイルス検査開発。
 (3)社会医学
 我が国独自のHIV医療体制の確立、HIV感染症の拡大及び慢性化による新たな局面に対応するため、個別施策層(青少年、同性愛者、外国人、性風俗従事・利用者)別の介入方法の開発やエイズ予防対策におけるNGO等の関連機関の連携といった個人レベルの行動変容に結びつく感染拡大防止の手法の研究。
 (4)疫学
 個別施策層別の発生状況の精緻化、啓発普及方法等実施政策のインパクト把握、特に、アジアでの爆発的な感染者の増加の我が国へ波及阻止のために海外における疫学研究の強化、薬剤耐性ウイルスに対するサーベランス体制確立のための研究。

(肝炎分野)
(1)ウイルス性肝炎の病態、肝炎ウイルス持続感染機構の解明
(2)C型慢性肝炎の治療法の開発
(3)肝硬変の予防及び治療法の開発
(4)肝がんの発生・進展の分子メカニズム及び早期診断法の開発
(5)肝炎対策としての肝移植の研究
(6)肝炎まん延状況・長期予後の疫学

予算額(単位:百万円)
H12 H13 H14 H15 H16要求
(新興)1,771
(エイズ)1,757
(新興)1,773
(エイズ)1,760
(新興)1,549
(エイズ)1,763
(肝炎)744
(新興)1,363
(エイズ)1,755
(肝炎)743
(新興)1,863
(エイズ)1,833
(肝炎)743

(3)問題分析
(新興・再興感染症分野)
 近年、ウエストナイル熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、新型インフルエンザなどの新興感染症が出現し公衆衛生学的に大きな問題となっているが、これら感染症の病原体検出、診断、予防・治療法の開発は国際レベルでの協力研究体制をもってしても難航し、速やかな展開が得られているとは言いがたい状況にある。
 従って、我が国においても、新興感染症の発生時に、精度の高い診断法や有効な治療法・ワクチンを迅速に開発するため、特定の疾患・病原体に限定されない疾患横断的な開発技術の研究基盤を確立する必要がある。
 そこで、本事業において、新興再興感染症対策強化のため、疾患横断的な研究体制の確立を目指し、国内外を問わず、多分野の専門家の参加を得て、研究のさらなる推進を図ることとする。

(エイズ分野)
 HIV感染者及びAIDS患者は、2002年末現在、全世界で4,200万人と推計され
るが、そのうちの約20%(720万人)がアジア・太平洋地域で発生している。2002年から2010年の間に、新たに4500万人がHIVに感染するというのが、現時点での確実な予測である。これらの感染の40%以上がアジア・太平洋地域で起こるだろうと考えられる。今後、アジアでの爆発的な感染者の増加が我が国へ波及するおそれがある。
 一方、国内におけるHIV感染者及びAIDS患者の報告は1985年のサーベイランス開始以来、ほぼ一貫して増加し続けている(平成14年のHIV感染者報告数は614件、AIDS患者報告数は308件)。数の規模は小さいとはいえ、この傾向は先進諸国の中では極めてまれな例である。
 これらの深刻な状況を踏まえ、国内外から、臨床医師、基礎医学研究者、NGO、疫学者等多くの専門家・活動家の参加を得て、研究のさらなる推進を図ることとする。

(肝炎分野)
 また、肝炎対策においては、特にC型肝炎ウイルス感染による長期の経過、予後の解明、透析施設及び歯科診療による感染等、疫学的に解明すべき点が多く、治療の面においても抗ウイルス療法の標準化等は引き続き検討すべき課題である。

(4)事務事業の目標
(新興・再興感染症分野)
非結核性抗酸菌の迅速鑑別診断キットの開発
ハンタウイルス感染症の検査体制の確立
レプトスピラの早期診断法の確立
ツベルクリン反応に代わる新しい結核特異的診断法の確立
新しい結核ワクチンの開発
動物由来感染症対策としての、動物園における感染症ガイドラインの策定
施設内アメーバ感染の実態把握調査及び施設内アメーバ感染ガイドラインの策定
インフルエンザワクチンの有効性に関する科学的根拠の確立
生物テロ対策の迅速診断としてのPCR法及び組織学的診断法の開発
天然痘等バイオテロに関する対応マニュアルの策定
大規模感染症発生時における行政・医療機関向けのマニュアル策定

(エイズ分野)
免疫賦活を応用した治療法開発
HIV治療ガイドラインの作成
母子感染予防マニュアルの作成
抗HIV薬の血中・細胞内濃度測定及び薬剤耐性検査等によるモニタリングシステムと簡便な手技の開発
HIV・HCV共感染血友病患者に対する生体肝移植等の肝炎治療法の開発
HIV男性、非感染女性夫婦間の生殖補助医療の開発
凝固因子製剤の補充療法にかわる血友病の遺伝子治療方法の開発
抗HIV薬・ワクチンの開発
HIV抗体迅速検査を含む利便性の高いHIV検査体制の確立
非政府組織(NGO)の活用による効果的な普及啓発への提言
同性間性的接触における効果的なエイズ予防対策の方法確
HIV医療体制の現状把握と今後の在り方に関する提言
エイズ動向調査の情報等によるHIV感染者・エイズ患者の有病数・発生数の推計

(肝炎分野)
C型肝炎に対する抗ウイルス剤の迅速かつ客観的評価システムの策定
C型慢性肝疾患に対する標準的治療法の確立
歯科診療におけるC型肝炎感染防止マニュアルの改訂
透析におけるウイルス性肝炎防止マニュアルの策定

2.評価結果
(1)必要性(行政的意義(厚生労働省として実施する意義、緊急性等)、専門的・学術的意義(重要性、発展性等)、目的の妥当性等)
(新興・再興感染症分野)
 近年、新興・再興感染症は世界的にも注目を集めており、日米包括経済協議の一環として、地球的展望に立った協力のための共通課題(コモン・アジェンダ)において、1996年4月に新たに追加された協力分野として「新興及び再興感染症」についての研究協力が求められている。
 これらの感染症は、その病原体、感染経路、感染力、発症機序、診断法、治療法等について不明な点が多く、診断の遅れや感染防御策の不十分さから、二次感染や院内感染の拡大を引き起こすことがある。また、誤った情報の伝達により国民の不安が増大し、日本国内で患者が報告された場合にはパニックを引き起こす可能性もある。
 こういった事態を回避するためには、迅速かつ正確な診断法の開発、感染経路等の解明、正しい情報の収集・分析・還元方法の開発等が極めて重要であり、早急に取り組む必要がある。
 さらに、本年新たに発生したSARSのように、近年の発達した輸送手段を介した急速な感染拡大により、世界的な感染症危機を引き起こす可能性のある感染症に対しては、国内対策ばかりでなく、効果的かつ現実的な水際対策の実施や国際的なアラートシステムの構築等、国際機関や諸外国と連携しながら、国際的なまん延防止対策を講じるための研究を推進する必要があり、厚生労働省として実施する意義は高いと考えられる。

(エイズ分野)
 1997年から本格的に導入されたHAART(多剤併用療法)により、HIV感染者
の長期予後の改善は著しいものがみられるが、根治療法はいまだ確立されておらず、長期投与が必要とされている。しかし、副作用等により、初回導入の40%が失敗に至るとされ、薬剤耐性ウイルスの出現という新たな問題も生じている。そのため、新たな治療法の開発、長期服用のための方法の確立、新薬やワクチン開発の更なる研究が重要である。
 我が国の新規感染の殆どが性的接触によるものであるが、性行動が本能に基づくもの
であるため、その予防は非常に難しく、例えばコンドーム使用の促進など、その行動変容のための研究と同時に、草の根レベルでのきめこまやかな普及啓発手法の開発を推進していくことが重要である。
 なお、HIV訴訟の和解を踏まえ、恒久対策の一環としてエイズ治療・研究をより
一層推進させることが求められている。

(肝炎分野)
 一方、肝炎、ハンセン病対策、院内感染対策等については、社会的問題としての観点からも、厚生労働省として積極的に取り組むべき研究課題であると考える。特に、現在、国民の大きな関心を集めているC型肝炎については、本研究において、その疫学(罹患率、経過、予後)が解明されつつあり、インターフェロンを含めた標準的治療法にも進歩が見られ、今後の研究成果も大いに期待される。

(2)有効性(計画・実施体制の妥当性等の観点)
(新興・再興感染症・肝炎分野)
 本事業においては、これまでも我が国の現状に関する数多くの知見を得ることができた。平成12年度実施分は既に終了しているが、当初の目的をほぼ達成しており、十分な成果が得られている。
希少であるが危険性の高い感染症の診断法、治療法が一部確立された。
食品由来感染症の原因菌の検出法の向上、PFGEの標準化も意義が高い。
結核、性感染症の現状が明らかにされ、特に日本式DOTSの開発は重要であった。
インフルエンザ、ハンセン病など社会的意義が高い疾患の対策方法についても新知見が得られた。
また感染症サーベイランスの適正化のための検討でも改善点が指摘された。
院内感染対策マニュアルが作成された。
特に現在社会的問題となっているC型肝炎の疫学(罹患率、経過、予後)が、1年を経過した段階で明らかにされつつある。
C型肝炎ウイルスによる発癌機構も一部解明された。
C型肝炎キャリアを早期発見するための健診方法が確立され、またC型肝炎に対するインターフェロンを含めた標準的治療法にも進歩が見られる。
 行政施策との関連性の面からみても、PFGEの標準化により広域感染症の疫学調査が容易になり、また病原体検出の向上は韓国産牡蠣輸入禁止の根拠になる等、行政施策への貢献度も高い。

(エイズ分野)
 HIV/AIDS対策の究極の目標は、予防法、治療法の開発、エイズの根絶である。エイズ予防ワクチンについては治験段階に至るものがあるなど、着実な成果が上がっている。また、感染拡大阻止の観点からも研究を進めておりサーベランスの精緻化、同性愛者、青少年、風俗産業従事・利用者など集団毎の特性に応じた介入研究を行っており、これら研究の目標は妥当なものである。

(3)効率性(目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から)
(新興・再興感染症分野)
 本年、新たに発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)は、近年の発達した輸送手段を介した急速な感染拡大により、世界的な感染症危機を引き起こし、その経済的損失は当初は極東のみで300億米ドルと概算される等、深刻な経済危機をも引き起こした。我が国においても、外国人SARS事例に関連した観光地においては、4億円を超える損害が生じたとも言われているが、そのような経済損失を考えた際には、本研究事業から得られる成果は十分な効果を生むものであると考える。
 新興感染症が発生した際には、その感染源や感染経路が不明であることから、誤った情報の伝達により国民の不安が増大し、過剰な防衛反応をとることが想定されるが、正しい情報の普及・啓発や、疾病に関するリスクを国民と行政、医療関係者が共有し、そのリスクの削減に役立つリスクコミュニケーション手法を用いることで、過剰な反応をある程度回避させることができる。
 また、迅速かつ正確な診断法・鑑別診断法の開発や感染経路の解明により、不必要な隔離や入院が回避できる。
 さらに、これまで、特に結核においては、数ヶ月に及ぶ入院や1年以上に及ぶ通院治療を強いられるケースもあり、労働力の損失も問題となっていたが、有効な治療法が開発されることで治療期間が短縮され、早期に社会復帰が可能となる等、経済面への波及効果も見込まれる。

(エイズ分野)
 HIV/AIDSに関する基礎医学、臨床医学、社会医学、疫学が一体となっている研究事業であり、見識者より事前・中間・事後評価をさせるとともに、各主任研究者間の調整会議も実施し一体化の利点を最大化すべく運営しており効率的事業といえる。
 また、我が国は他の先進諸国に比較してHIV感染者の数が少ないため、最新の知見、技術は欧米で発見、創造されることが多いが、本推進研究費を使用して欧米への短期留学、学者の招聘等を行い効率的な知見・技術の獲得に努めている。
 また、経済的観点から見ても、HIV感染者にはエイズ発症防止のための治療、発症後のエイズ治療に対し高額な医療費が必要となり、感染そのものを防止しようとすることは非常に経済的である。また、我が国の感染の中心は25から34才までの男性であり、これらの世代が感染することによる経済的損失は大きい。

(4)その他
 本事業では、これまでは、個々の新興再興感染症に関する感染実態の把握、病体・発症メカニズムの解明、診断・重症化防止・治療方法の確立、流行予測等に関する研究を中心に行ってきたが、今後は、重症急性呼吸器症候群(SARS)のように急速な感染拡大により世界的な危機を引き起こす可能性のある感染症への対応等、これまで十分に想定していなかった感染症危機管理体制の強化に係る研究を推進する必要がある。
 よって、これまでの研究課題に加え、新興感染症の発生時に、精度の高い診断法や有効な治療法・ワクチンを迅速に開発するための、特定の疾患・病原体に限定されない疾患横断的な開発技術基盤の確立、効果的かつ現実的な水際対策の実施や国際的なアラートシステムや接触者追跡システムの構築等、国際機関や諸外国と連携しながら、国際的なまん延防止対策を講じるための研究を実施する。
 また、新興感染症発生時には、誤った情報の伝達により国民の不安が増大し、過剰な防衛反応をとることがあるが、そのような事態を回避するために、正しい知識の普及・啓発と、疾病に関するリスクを国民と行政、医療関係者が共有し、そのリスクの削減に役立つリスクコミュニケーション手法に関する研究も合わせて実施する。

(5)特記事項
 HIV訴訟の和解を踏まえ、恒久対策の一環としてエイズ治療・研究をより一層推進させることが求められている。

3.総合評価
 近年、新たにその存在が発見された感染症や既に制圧したかにみえながら再び猛威をふるいつつある感染症が世界的に注目されている。また、日米包括経済協議の一環として、地球的展望に立った協力のための共通課題(コモン・アジェンダ)において、1996年4月に新たに追加された協力分野として「新興及び再興感染症」についての研究協力が求められている。
 これらの感染症は、その病原体、感染経路、感染力、発症機序、診断法、治療法等について不明な点が多く、診断の遅れや感染防御策の不十分さから、二次感染や院内感染の拡大を引き起こすことがある。また、誤った情報の伝達により国民の不安が増大し、日本国内で患者が報告された場合にはパニックを引き起こす可能性もある。
 また、本年、新たに発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)は、近年の発達した輸送手段を介した急速な感染拡大により、世界的な感染症危機を引き起こし、一部の地域は多大なる経済的損失をも被った。
 これらの新興再興感染症についての研究を推進し、国内及び諸外国の感染症対策に役立てることは、国際的な感染症対策において、これまで我が国が果たしてきた役割から考えても非常に重要であり、引き続き当該事業を推進する必要があると考える。
 エイズについては、地球規模の深刻な問題であり、2001年には国連エイズ総会も開催され、保健分野だけの問題ではなく、経済、人権全ての分野に関わる重要課題であり、全世界で一丸となって対応すべき問題とされている。エイズに関する研究を推進することは、国内のみならず我が国よりもさらに深刻な途上国に対する支援にも結ぶつくものであり、引き続き当該事業を推進する必要があると考える。


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