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年金制度改正に係るこれまでの意見の整理

検討項目 論点 委員意見
1. 年金制度改正の基本的な視点
年金制度改正の基本的な視点をどう考えるか。
【現役世代の年金に対する不信感を払拭する改革を目指すべきとする意見】
年金制度は、個人で考えても半世紀を越える安定性があって初めて信頼するに値するものとなる。今問われているのは、この信頼である。(大山・山口・向山)
現役世代の制度に対する不信感、不安感の払拭を図り、将来にわたって持続可能な制度を構築することが必要である。具体的には、「保険料負担」を固定し、「世代間のアンバランスを解消」するとともに、「国民年金の空洞化の解消」、「世代内の負担の不公平の是正」を図り、「積立金の在り方の見直し」などを行う必要がある。(井手・岡本・矢野)
改革の際に重要な視点の一つは、若年層や現役世代の年金不信を払拭できる改革を志向することである。(翁)
揺るぎない制度を構築し、安心のメッセージを発することで、年金制度に対する不安感・不信感を払拭することが必要。(堀)

【給付水準と現役世代の保険料負担をバランスのとれたものにすべきとする意見】
今回の年金改革では、現役世代と企業の負担の限界を踏まえ、保険料負担に軸足を置いた制度、持続可能な制度を確立すべき。また、現役世代の負担を考慮しつつ、既受給者を含め、国民全体で痛みを分かち合うことが不可欠である。(矢野)
現役世代に比べて遜色のない所得を有し、資産において恵まれている高齢者にも応分の負担を求めて世代間の公平化を進めるべきである。(山崎)
将来世代の保険料や税負担の総額を負担可能な限度に抑制するためには、給付システムの思い切った改革と給付水準の見直しが必要である。(神代)
世代間の公平を図り、持続可能な制度とするためには、負担の上昇を極力抑制する観点から、給付の徹底的な見直しを行うべきである。また、世代間の年金給付額と保険料負担の関係を明らかするべきであり、試算結果について国民に開示すべきである。(井手・岡本・矢野)
制度への信頼をえるためには、“応能負担と負担に応ずる給付”という年金保険の原点に立ち戻る必要がある(“必要に応じる給付”は、現金給付では2次的であるべき)。(大澤)
長期の拠出を求める年金制度で拠出インセンティブを高めるため、給付は拠出に応じたものとするべき。(大澤)

【少子化、高齢化の進行に対し、柔軟に対応でき、かつ安定した制度とするべきとする意見】
社会保険料の引上げによる負担増と給付水準の抑制を議論しなくてもよいような、中長期的に持続可能な制度を確立すべき。(岡本)
今回の財政再計算は将来にわたって大きく改正する必要のない持続可能な制度を確立するまたとない機会であり、負担と給付のあり方を中心に現行制度を抜本的に見直し、年金制度に対する国民の信頼を回復する必要がある。(矢野)
年金の姿を決めるにあたって政治と行政にだけまかせるのではなく、国民全体の努力を引き出すインセンティブを制度自体に組み込むことが望ましい。(渡辺)

【将来の年金を実感できる分かりやすい制度とするべきとする意見】
個人に対する拠出と給付の関係を明確に告知することは、若年層や現役世代の年金不信や不安を解消するために極めて重要である。(翁)
負担と給付の関係について国民に分かりやすい制度に変えていくべき。(岡本、矢野)
若い世代に関して言えば、不信感をこれ以上増大させないためにも、将来の年金額というものを明確に情報提供すべき。(杉山)

【就労形態、ライフスタイルの変化に対応できるものである制度とするべきとする意見】
一人の人間の生涯の働き方を自営業、被用者、専業主婦というような形で固定的にとらえることは適切でない。ライフスタイルの多様化、就業の多様化を反映した制度の充実が必要。(岡本)
女性に限らず、男性についても多様な働き方が増加しつつある中で公的年金についても時代に適した抜本的な改革が必要。(井手)
固定的な性別役割等を反映した制度から、できる限り中立的な制度へ変えていくべき。(大澤)
自営業人口の減少と雇用者のフルタイム安定雇用という20世紀後半の条件を前提とせず、雇用就業が流動化する今後の条件に即応できる制度とするべき。(大澤)
ライフスタイルの多様化や変遷に対して、中立な制度とするべき。(大澤)
今後、女性や高齢者が就労し、インターネット等を使用したSOHOでの働き方が増えていくことを考えれば、多様な働き方に応える年金制度を検討していくことが必要。(杉山)

【成熟した社会における公的年金の役割を再考する必要があるとする意見】
これまで公的年金制度は、制度の大きな枠組みは変えずに部分的に対処してきたが、かつての肉体労働を中心とした労働内容が変化し知的な部分が大きくなった結果、労働の負担も小さくなり、一生働き、あるいはボランティア活動を通じて社会と関わりを持っていきたいと考える人も増えている中で、公的年金制度についても、多様なニーズや貢献を考慮に入れ、抜本的な改革の是非を検討するべき。(若杉)

検討項目 論点 委員意見
2. 公的年金制度の基本的な考え方・体系
   
制度の体系についてどう考えるか。
(1) 現行の2階建て方式(基礎年金+報酬比例年金)の維持
【現行の2階建て方式を維持すべきとする意見】
現役時代の主たる収入源が賃金である被用者グループについては、退職により主たる収入源を喪失することから、引退前の所得水準が一定程度反映される現行の2階建て方式を、今後とも維持すべき。しかし、現役時代の所得格差を高齢期にそのまま持ち込まないよう、所得再配分機能を現行以上に強めるべき。(大山・山口・向山)
被用者グループと自営業者グループでは就業形態などが異なり、現行の体系にならざるを得ない。(大山・山口・向山)
退職一時金と企業年金がそれなりの水準で出ている労働者は半分に過ぎない。2階部分を民営化してうまくいかなくなったら、多くの労働者が基礎年金のみという状況になってしまう。(神代)
厚生年金の適用漏れとみるべき雇用者が多くおり、徴税機関との連携、労働保険との適用・徴収の一元化により適用を進めるとともに、制度横断的に利用できる社会保障番号制度を導入すべき。(山崎)
(a) 基礎年金を社会保険方式とすべきとする考え方
【社会保険方式を維持すべきとする意見】
社会保険か税かは、単に財源(保険料、税)が異なるだけでなく、保障システム(社会保険、社会扶助)が異なる。社会保険方式は、リスクに備えて保険料を拠出するという自助の要素が内在し、また、その見返りとして所得・資産にかかわらず給付が行われる。また、収支のバランスをとる必要があるため、コスト意識が高まる。税のみを財源とした社会扶助方式では、その給付水準は生活困難の救済に必要な程度に抑えられ、かつ、所得制限などが付随してしまう。(堀)
市場経済に適合するのは、共助を基本におき、公助によってこれを補うという関係の社会保障制度である。社会保険方式を堅持しつつ、主要財源としての保険料と補足的財源としての租税負担を適切に組み合わせるのが妥当。ただし、社会保険の適用と保険料徴収力の強化が不可欠。(山崎)
税方式化は、何もしなくても一定年齢に達すれば年金が支給されるという点で違和感がある。所得調査も避けられない。保険料を納めた人がそれに見合った給付を受けるというシステムが望ましい。(渡辺)
年金制度の基本的な精神は、自分の老後の所得は自分の所得で確保することにあり、その意味では、加入して保険料を支払う社会保険が理念上相応しい。ただし、我が国では年金においても社会扶助の要素が入っているので、税財源が加わることとなる。(若杉)
社会保険方式の方が給付と負担の関係が明確であり、負担増について国民の合意を得やすい。負担を先送りすることなく、税方式化に伴う財源を確保することが可能か。(堀・山崎)
現行の社会保険方式は、国民年金の未納の問題、第3号被保険者の問題などがあるにしても、95%の人はきちんと保険料を払っている。消費税はいったん税率が上がっても政権によって変わる可能性があり、年金制度に政治的不安定要因を持ち込むことになる。(神代)
事業主も、保険料の拠出を通じてサラリーマンの老後の生活保障に役割を果たす責任があるのではないか。(堀)
現行制度の基礎年金拠出金についてどう考えるか。
【厚生年金保険料の基礎年金に対する部分と報酬比例部分を分離すべき、もしくは負担の内訳を明確化すべきとする意見】
厚生年金の基礎年金拠出額は増加しており、負担の構造を明らかにするために厚生年金保険料の1階分と2階分を分離すべき。また、将来の基礎年金の税方式化のためにも必要。(矢野)
現役世代の制度に対する理解を高め、不信感・不安感を払拭していく観点から、保険料の使途を明確にしていく必要がある。特に、基礎年金拠出金制度を通じて、結果として未納者や未加入者の分まで負担を肩代わりしている財政運営のあり方は問題がある。(岡本)

【基礎年金拠出金の負担は制度ごとに分けて論じるべきではないとする意見】
基礎年金は全国民で負担すべきものであり、自営業者とサラリーマンに分けて負担を論じることは適当でない。仮に制度間の負担を比べるとしても、国民年金の未納者はその時点では負担を免れるが将来の給付も受けなくなることを考慮すべき。(堀)

【基礎年金拠出金を応能負担とすべきとする意見】
各被用者保険から支払われる基礎年金拠出金は、現在、各保険に加入する人の数に応じて割り当てられているが、これを応能負担化し、報酬総額に応じた額とするべき。(山崎)
(b) 基礎年金を税方式とすべきとする考え方
【基礎年金は税方式によるべきとする意見】
基礎年金部分と報酬比例部分については、意義と役割が異なり、所得捕捉の問題が解決されていない現状では、財源面で完全な峻別を行うことが必要。基礎年金については、全ての高齢者の基礎的な生活費の保障を行うものとして位置づけ、次期改正で全国民が薄く広く負担する消費税を活用して国庫負担を2分の1に引き上げるとともに、その後間接税による税方式へと転換すべき。(岡本・矢野)
税方式は、努力なしに老後の生活を丸抱えするということではない。(矢野)
国民年金の未加入・未納が増加しており、現行の保険方式による皆年金の確保は達成不可能である。真の国民皆年金の確立こそが信頼の基礎であり、資産・所得により給付を制約されない、全ての住民を対象とした普遍主義原則の観点から、税方式化に向けた制度再設計を行うことが必要。(大山・山口・小島)
基礎年金の税方式への転換は、男女ともに人生を通じて多様な働き方をするようになった時代に適した抜本的な改革のひとつとして有効。第3号被保険者問題の解決にも資する。(井手)
現在の基礎年金制度における国庫負担の位置付けはあいまいである。将来的には国庫負担はスウェーデン型の最低保証年金のような位置付けにしていく方向を検討すべき。(翁)
(2) 報酬比例年金への一本化
【サラリーマングループと自営業者グループを区分せず報酬比例方式の方向を目指すべきとする意見】
現行の体系では、雇用就業の多様化、流動化により、相対的に第2号被保険者の減少と第1号被保険者の増大が見込まれることに、対応できない。全国民加入の一元的制度へ再構築すべき。(大澤)
被用者グループと自営業者グループがあたかも固定的に異なるかのように見る見解は、自営業人口の減少と雇用者のフルタイム安定雇用という20世紀後半的諸条件に立脚している。(大澤)
第1号被保険者は必ずしも昔ながらの自営業者ではないので、「第1号はサラリーマンと違って一生働けるから基礎年金だけでいい」といった考え方の見直しが必要。(杉山)
ワークスタイルの多様化が進んでおり、仕事の内容でなく「立場」により保険料の負担や給付が変わることは適当でない。また届出漏れなどで、より一層の空洞化が生じる恐れもある。(井手)
報酬比例年金への一本化を目指す場合、自営業者の所得把握についてどう考えるか。
【自営業者グループの所得把握の問題点を指摘する意見】
自営業者も所得に応じて保険料を負担する所得比例方式をとるのが望ましい。ただし、所得把握をどうするかがあり、現状では第2号と同じ条件は難しいと思われる。(杉山)
自営業者にも所得比例の年金が望ましいとしても所得捕捉による保険料算定が困難。(大山・山口・向山)
自営業者についても所得捕捉に努め、将来的には応能負担制に改めるべきだが、その場合に給付面にどのように反映させるかは今後の検討課題。なお、国民年金の保険料免除は多段階にすべき。(山崎)
当面は現行の制度体系を維持し、中長期的(所得の十分な把握が前提)には自営業者と被用者制度を一元化すべき。(堀)
理想的には、年金制度を所得比例の1階建てに一本化していき、基礎年金部分を最低保証として国庫負担で賄う方向が分かりやすく、合理的。そのためには、サラリーマン被用者と自営業者間で公平な所得の捕捉体制の整備をされるべき。(翁)
報酬比例年金に補足的な給付を組み合わせることについてどう考えるか。
【報酬比例構造に税財源による補足的な給付を組み合わせて対応する意見】
国民一人一人が同一の所得比例年金を目指し、低所得者を対象にミニマム年金を設定するべき。(今井)
拠出インセンティブのメリットがある賦課方式で所得比例の制度と併せて、累進所得税を税源とする一般財源によるミニマム年金を創設すべき。(大澤)
スウェーデン方式を参考に、所得比例とし、無・低年金者に対して税財源による保証年金を充ててはどうか。(杉山)
2階建て構造の骨格についても当面は維持するが、自営業者等の十分な所得把握、男女間の賃金格差の縮小、女性の就労環境の改善等が実現すれば、社会保険方式の1階建て年金(所得比例年金)+最低保障年金制度の導入を検討。(堀)

検討項目 論点 委員意見
3. 給付と負担の在り方
   
(1) 給付と負担の水準
給付水準についてどう考えるか。
【一定の水準の確保が必要とする意見】
老後生活の基本部分を保障する水準の確保が必要。基礎年金と厚生年金をあわせた給付水準は、将来にわたり、在職時の勤労収入の一定割合(可処分所得間の比較で所得代替率55%)を保障すべき。(大山・山口・小島)
モデル年金の給付水準をもらえる人ばかりではなく、また、高齢者の医療・介護の負担や税負担も増えていく。給付水準を引き下げるべきではない。基礎年金を税方式化すれば、将来的にも15%程度の保険料率で今の給付水準を維持できる。(小島)

【給付水準を引き下げるべきとする意見】
たとえ現役世代が納得のいく、合理的な範囲で負担を増加させたとしても、将来の給付水準の低下は避けられない。世代間の公平が図られた持続可能な仕組みにするため、負担上昇を極力抑制する観点から、給付の徹底した見直しを行うべき。(岡本・矢野)
高齢者世帯の平均的な消費支出のほとんどをまかないうる現行の給付水準は十分に高く、消費支出に教養娯楽費や交際費等も含まれることを考えれば、モデル年金額を現行水準よりも低い水準で設定しても合理的。(岡本・矢野)
公的年金の代替率は高すぎるので、30%程度に引き下げていくべき。保険料を固定し、新しい受給者から給付の引下げを行うこととしてはどうか。公的年金の役割の縮小分は、私的年金でカバーされるべき範囲である。(若杉)
物価下落の際も物価スライドを実施すべき。また、一定の割合を超えて上下した場合にスライドを実施する「ゾーン制」とすべき。(堀・渡辺)

【既裁定年金の給付水準は、物価スライドを停止している分を反映させた後の水準を前提にすべきとする意見】
本来制度としてあるべき水準として、物価スライドについて、少なくとも過去3年間停止している1.7%分も全て反映させた後の水準を前提に検討すべきである。(岡本・矢野)
保険料引上げについてどう考えるか。
【保険料の引上げは不可欠とする意見】
少子高齢化が大幅に進む中で、公的年金制度を将来も維持するためには、保険料引上げの凍結解除と段階的引上げは必要不可欠。(堀)
保険料の引上げの凍結は、財政規律という観点からは好ましくない。世代間の負担の公平を考え、できるだけ早く最終保険料率に到達させるべき。西欧諸国の保険料水準と比較すると、我が国はまだ低い段階にある。引上げを怠ると、高齢化のピーク、あるいはその後の保険料水準が極めて高くなる。(近藤)

【保険料引上げ計画を前倒しすべきとする意見】
保険料の引上げ計画を前倒しするべき。少なくとも前回改正での保険料凍結の影響は早急に解消すべき。前倒しにあたっては、年齢別の保険料引上げ計画もありうるのではないか。(山崎)
最終的な保険料率への引上げは、次世代への負担をできるだけ軽くするためにも、2025年といわず、到達時期を前倒しする方向で検討を進めていく方がよいと思う。(杉山)
保険料の引上げが凍結され、計画より5年遅れている状況である。少しでも早く最終保険料に到達すべき。(近藤)
保険料の小刻みな引上げは、政治経済情勢によって実現できなくなる可能性があり、最終保険料を低くするためにも、保険料を早めに引き上げるべきである。(翁)

【安易に保険料を引き上げるべきでないとする意見】
企業の活力を奪い、経済の活性化を阻害し、さらには企業の雇用維持努力に水を差すことになるので、安易に保険料負担を引き上げるべきではない。(矢野)
最終的な保険料水準についてどう考えるか。
【20%程度にすべきとする意見】
企業にとっては、法定福利費の負担が大きくなっているため、保険料率はできるだけ抑えるべきであるが、「方向性と論点」に記載されている保険料率20%は参考にするべきである。(神代)
最終保険料率は20%程度が許容できる限度として、給付水準を維持するための方策について検討する必要がある。(大山)
将来の保険料水準は、前回改正で設定された20%程度。その程度であれば、諸外国との比較でみても許容されるべき。(山崎)
非現実的な40年間夫片稼ぎ世帯を例外として、その他の世帯類型では、給付水準(所得代替率)が50%を切るようになることにてらせば、20%程度の保険料率は妥当ではないか。(大澤)

【20%を下回る水準とすべきとする意見】
医療保険や介護保険の負担を考えると、年金の最終保険料20%は大きすぎるのではないか。(翁)
今回の制度改正では、保険料固定方式を採用し、負担に軸足を置いた改革を実現すべきである。医療・介護等の社会保険料負担や世代間の不公平を是正するという考え方に立って、給付の見直し、積立金の取崩し、基礎年金部分の間接税方式への移行を進める中で、現行の年収の13.58%を極力上回らない水準で長期間固定すべきである。したがって、最終保険料率を現行水準に固定した場合、加えて、例えば15%程度に固定した場合の試算を、基礎年金の国庫負担割合を2分の1を超えて引き上げた場合ともあわせて、国民に示すべきである。(井手・岡本・矢野)

【20%を下回る水準でも給付水準の維持は可能とする意見】
空洞化の解消、厚生年金の適用拡大、さらに遺族年金の見直し等を行えば、最終保険料を20%まで上げなくても今の給付水準を維持できる。また、基礎年金を税方式化すれば、15%程度の保険料率で十分給付水準の維持は可能。(小島)
(2) 給付と負担の見直し方法
少子化の進行等の社会経済情勢の変化を踏まえて給付と負担を見直す方法についてどのように考えるか。
 
(a) これまでの方式の維持
【これまでの方式を維持すべきとする意見】
老後生活の基本部分を保障する水準の確保が必要。基礎年金と厚生年金をあわせた給付水準は、将来にわたり、在職時の勤労収入の一定割合(可処分所得間の比較で所得代替率55%)を保障すべき。(大山・山口・小島)
マクロ経済スライドでは、少子化の進行で給付水準が限りなく低下し、老後の生活保障の柱としての役割が損なわれ、年金制度への信頼性を失うおそれがある。特に、基礎年金、障害年金、遺族年金、低年金受給者も一律に水準低下となれば、生活保障としての機能が喪失される。そのため、マクロ経済スライドは、導入するべきではない。(小島)
段階的に保険料の引上げと給付の引下げを行うという保険料固定・給付自動調整という案では、若い世代の不信感が強くなる。賃金が上がらず、自助努力で老後に備えるだけのゆとりがないので、あらかじめ給付水準が決まっていることが必要。(山口)
保険料固定方式の問題は、自分の受給する年金額が裁定時まで分からないことだ。(大山)
(b) 保険料固定方式
【保険料を固定することに賛成する意見】
保険料固定方式は、世代間の負担の公平の観点を正面から打ち出した考え方であり、画期的なもの。(神代)
次回の改正にあたっては、保険料の負担の側面に軸足を置くこととし、保険料負担については将来にわたり固定することを制度の基本とすべきである。(岡本・矢野)
保険料固定方式については、負担に対する先の見えない不安から解放されるので賛成。(杉山)
保険料固定方式については賛成だが、将来世代への負担が過度にならないようにすることが前提。(翁)
現在の厳しい経済情勢の下で、保険料引上げについて国民の合意を得、かつ、保険料引上げについての政治的リスクを避けるために、将来の段階保険料を国民に明示し、かつ、それを固定するという約束をするのは止むを得ない選択。(堀)
スウェーデン改革のいくつかの要素のうち、保険料を固定して社会経済情勢の大きな変化に対しては自動的に給付水準を調整するという考え方は、我が国にも応用できるのではないか。(近藤)
制度の見直しのたびに給付の抑制と負担の増加の繰り返しで、制度に対する国民の信頼は揺らぎ始めている。(渡辺)
保険料固定方式とした上で、さらに講ずべきことを検討するべきとする意見
【保険料固定方式を採用した上で、さらに講ずべきことを検討するべきとする意見】
給付乗率の引下げなど、高年齢層の世代も負担を分かち合う仕組みを考えるべきである。(翁)
世代間格差の是正のため、給付乗率、モデル年金の見直し、高額所得者への給付制限等についても議論する必要があり、それぞれの財政への影響を示すべきである。(岡本・矢野)
保険料固定方式の採用にあたっては、世代間の不均衡を是正するために、給付面と負担面の双方での見直しを急ぐべき。(山崎)
将来世代にとっては、給付調整のリスクがみえないところが保険料固定方式の難点。そうした不安の解消のため、世代間の公平性をわかりやすい指標を用いて検証し、説明していくことが前提。その上で、現状の段階でも、その程度の給付調整が可能なのか、公的年金控除の縮減についてどの程度まで行えるのか、について、十分かつ綿密な検討を行うべき。(翁)
(3) マクロ経済スライド
マクロ経済スライドを行うときのスライド調整率についてどう考えるか。
【マクロ経済スライドが適当であるとする意見】
手取り総賃金という国全体の経済力(=保険料負担能力)の伸びに見合ったスライドを行うというもので、負担者の観点からは理論的に正当化し得る。(堀)

【実績準拠法によるべきとする意見】
将来予測の変動によって変わる将来見通し平均化法よりも、実績準拠法が望ましい。(堀)

【将来見通し平均化法によるべきとする意見】
給付面に関しては、将来見通し平均化法などにより、水準適正化を前倒しするべき。(山崎)

【将来の少子化を見通して早めに給付水準を調整すべきとする意見】
実績準拠法では2025年以降に給付の調整が集中するため、現役世代の納得を得ることは困難。少子化を見通して早めに給付水準を調整していくべき。(矢野)
時間をかけて給付調整をする場合、将来世代に給付削減のしわ寄せが生じる。(岡本・矢野)

【長寿化などへの対応の必要性を指摘する意見】
既裁定年金について、寿命の伸びを給付の調整に反映するような仕組みが組み込めないか。(近藤)
寿命が非常に伸びた場合には、スウェーデン方式のような考え方を入れるかどうか、議論するべきである。(神代)
給付スライドについては、少子高齢化、運用利回りの低下などのリスクを自動的に給付額に反映できる仕組みとするべきである。(翁)
平均余命の伸びも加味した調整も検討すべきである。(井手・岡本・矢野)
年金改定率の下限についてどう考えるか。
【名目年金額下限型を支持する意見】
年金改定率の下限については、名目年金額下限型にするべきである。(大澤)
物価下限型よりも名目年金額下限型の方がより望ましいのではないか。(堀)
名目年金額下限型を採用するか、あるいはさらに踏み込んで、一定水準を超える年金については年金額の改定を当分の間凍結するということも考えられよう。(山崎)

【物価下限型及び名目年金額下限型の問題点を指摘する意見】
物価下限型を採用すれば既裁定者については調整が十分働かない。名目年金額下限型を採用すれば、名目額が保証されるため、スライド率に係る指標が大幅なマイナスとなった場合に調整が十分働かない。これでは、世代間の負担と給付のアンバランスの是正の面で不十分。次期改正において、相当程度の引下げを実施していく必要があるので、名目額を減らすことも聖域化しないで検討すべき。(岡本・矢野)
マクロ経済スライドを導入の際は、世代間の負担と給付のアンバランスを解消するため、早期に引下げを実施していく必要があり、加えて、下限を設けずに、指標がマイナスになった場合は、名目年金額を減らすべきである。(井手・岡本・矢野)

【賃金と物価の関係を踏まえる必要があるとする意見】
既裁定者の物価スライドについては、賃金下落率が物価下落率より大きい状況では債務が拡大してしまうため、そうした期間のスライドの在り方については議論が必要である。(翁)
基礎年金と報酬比例年金について、別個に給付水準の調整を行うことについてどう考えるか。
【基礎年金については給付水準の調整はするべきではないとする意見】
前回の年金改正で最終的に基礎年金については手を付けないという形で決着が着いたので、基礎年金の給付水準の調整はするべきではない。(大山)

【基礎年金について給付水準の調整をするべきとする意見】
「方向性と論点」では基礎年金の水準も調整することとしているが、第1号被保険者の定額保険料を負担可能な範囲内に収めるためには、やむを得ないのではないか。(堀)

【基礎年金と報酬比例年金について、別個に調整をするべきとする意見】
基礎年金の給付水準の下限については生活保護の基準や改定方式が手がかりになるように思う。一方、二階部分の年金額の改定については、名目年金額下限型を採用するか、あるいはさらに踏み込んで、一定水準を超える年金については年金額の改定を当分の間凍結するということも考えられよう。<再掲>(山崎)
(3-2) 自動調整を行った場合の給付水準
保険料を固定し、給付の自動調整を行った場合の給付水準の下限について、どう考えるか。
【何らかの基準で給付水準の下限を検討すべきとする意見】
生活保護基準と年金給付水準の間には直接的な関連性はないが、社会保険年金に防貧機能が期待されていることからすれば両者が全く無関係だとも言えない。少なくとも基礎年金の給付水準の下限については生活保護の基準や改定方式が手がかりになるように思う。(山崎)
経済状況次第で所得代替率が45%以下に落ちては老後の保障にならないため、給付水準の維持については議論を深めるべきである。(大山)
給付の自動調整を行う場合、給付水準の下限については、積立金の取り崩しによって維持するべき。(大澤)

【給付水準が大幅に下がった場合は保険料も見直すべきとする意見】
将来の給付水準が定まらないため、老後の生活不安をもたらすおそれがある。給付水準があまりにも下がりすぎた場合には、保険料の見直しも必要ではないか。(堀)

【ILO第102号条約との関係を指摘する意見】
保険料固定方式については、給付水準が将来的に低下していくため、ILO第102号条約との関係を整理する必要がある。(小島)
我が国が批准したILO第102号条約の最低基準に抵触することにならないか検討が必要。(堀)
スウェーデン型で、環境変化が大きい場合、給付水準が限度を超えて下がってしまうことについては、一定の限度を設ける必要がある。ILO第102号条約にあるような水準がひとつの目安。(近藤)
  ※ ILO第102号条約
「標準受給者(年金受給年齢の妻を有する男子)について、30年拠出した場合に従前の所得額の40%の給付を確保すること。」
現在の年金受給者に対しても、一定の給付水準の調整を求めていくことについて、どう考えるか。
【既裁定年金についても調整するべきとする意見】
年金制度に対する国民の不信感を払拭するためには、全ての世代が痛みを分かち合うことが必要。既裁定年金についても、速やかに給付水準の調整対象とするべきである。(岡本・矢野)
労働力人口が減り始めた場合、現役世代の協力を得るためには、既裁定年金についても調整をする必要がある。(神代・山崎)
既裁定年金も適正化すべき(物価スライドを停止した従前額保障方式)。(堀)
平均余命の延びに応じて既裁定年金を減額することは、生涯の受給総額が変化しないので受け入れられるのではないか。(近藤)

【既裁定年金は可処分所得スライドとすべきとする意見】
既裁定年金にも可処分所得スライドを復活させ、現役世代の手取り賃金の伸びを反映した調整を行うべき。(小島)
(4) スライド制の在り方
物価変動率が賃金変動率を上回るような場合における既裁定年金のスライドについてどう考えるか。
【物価変動率と賃金変動率を比べ、低い方に合わせてスライドさせるべきとする意見】
賃金変動率と物価変動率のどちらか低い方に合わせてスライドさせることも考えるべき。賃金・物価の上昇局面においても同様に考えるべき。(翁)
賃金が物価を下回る時は、それを踏まえた調整をするべき。(山崎)

【物価変動率と賃金変動率のどちらか低い方に合わせたスライドには反対する意見】
物価か賃金のどちらか低い方に合わせてスライドさせた場合、年金水準は現役世代と差がつく一方になる。人口減少分を調整するのは別として、現役とのバランスを踏まえて給付水準を考えるべき。(堀)

【物価よりも賃金を重視すべきとする意見】
物価水準よりも賃金水準を重視してスライドさせるべき。その場合、お互いの助け合いが実感としてわかるように、可処分所得スライドとするべき。(大山)
(5) 高所得者に対する給付の在り方
高所得者に対する給付の在り方についてどう考えるか。
【高所得者への給付調整は行うべきではないとする意見】
同額の保険料を同期間拠出したにもかかわらず、所得・資産によって、一方は全額支給し、他方は減額・不支給とするのは、(1)保険料拠出意欲をなくし、(2)自助努力によって老後に備えた者を不当に差別するものであり、社会保険としての意義をなくす。(堀)
「高齢者の経済格差に配慮した給付抑制」といっても、公正な実施ができるのか。どのように所得を調査するのか。(近藤)

【公的年金等控除を見直すことで対応すべきとする意見】
高所得者の年金を減額・不支給とすべきとの議論があるが、むしろ公的年金等控除を見直すことによって対応すべき。(堀)
高所得者の給付調整などは行うべきでなく、公的年金等控除の見直しで対応するべき。(大澤)
(6) 年金課税
年金受給者に対しては、公的年金等控除により、現役世代と比較して優遇した措置が税制上講じられているが、世代間・世代内の公平を確保する観点からの見直しをどう考えるか。
【公的年金等控除を縮小するべきとする意見】
現役世代の拠出は非課税とした上で、高齢者を一様に弱者としてみなして税制上で優遇する現行制度を見直すとともに、拠出時・運用時非課税、受給時課税を原則徹底すべき。(井手・岡本・矢野)
公的年金等控除については、給与所得控除の水準にまで下げるべき。(大澤)
公的年金等控除については、当面給与所得控除の水準まで下げ、将来的には高齢者の生活実態等を踏まえた独自の水準を設定すべき。(山崎)
給与所得のある年金受給者に給与所得控除と公的年金等控除があわせて適用されるのは、過剰な優遇。いずれか一方を選択し、給与所得と年金所得を合算して課税すべき。(山崎)
拠出段階で非課税であること、給与所得等と比べ優遇しすぎていること等から、公的年金等控除は縮減する必要がある。(堀)
社会保険料控除によって所得税・住民税の課税ベースが狭くなっているという議論があるが、公的年金等控除の見直しによって公的年金額の多くを課税対象とすれば、この問題は解決できる。(堀)
控除の縮減は、国庫負担の1/2への引き上げについての、財源確保に対しては有効。ただ、国庫負担は最低保障としての役割を果たすことなども絡めて、国庫負担の将来のあり方を考えていくべき。(翁)
税制は、高齢者も現役と同様とすべき。(若杉)
老齢年金への課税は見直すべき。(小島)
年金課税の適正化も世代間の不均衡を早期に是正する上で効果的。(山崎)
拠出時・運用時非課税、受給時課税の原則を徹底し、現役世代の課税最低限を上回らない水準にまで課税最低限を引き下げるべき。公的年金等控除は縮小・廃止すべき。(岡本・矢野)
経済的弱者ではない高齢者には負担を求めるという所得再分配政策を考えていくべき。(翁)

【上記見直しの際、生活実態等への配慮が必要とする意見】
公的年金等控除の見直しは検討しなければいけない。しかし、高齢者世代は若い世代よりも所得格差が大きいことや、年金だけに頼っている高齢者世帯が6割もあることへの配慮が必要。その他の収入と併せて控除を考えていくべき。(向山)
年金税制は、基本的には給与所得と同じ基準によることが望ましい。ただし、改正する場合は、所得階層別に差をつけ、かつ経過措置をおいて実施することが望ましい。(神代)
年金課税は、仕送りをしている若い世代との不公平のない制度にすべき。ただし、資産の有無など高齢者内の格差にも配慮したきめ細やかな仕組みが必要。(杉山)

【遺族年金・障害年金の非課税措置も見直しが必要とする意見】
遺族年金・障害年金の非課税措置については、障害者の就業所得に対する課税等との均衡を図る観点から見直す必要がある。寡婦控除・障害者控除と統合するなど、非課税措置以外の方法もある。(堀)
遺族年金については、所得の総合課税を考えると、はじめから課税対象から除外するのはどうか。ただし遺族年金の課税については、受給世帯の生活実態を踏まえた検討が必要。(小島)
遺族年金・障害年金の非課税措置については、有子遺族と障害者に限定すべき。(山崎)
遺族年金が老齢年金化している現状からすれば、遺族年金を原則課税という考え方とすべきである。(井手・岡本・矢野)
年金収入に対する課税を強化した場合の増収分の取扱いをどう考えるか。
【年金制度に還元すべきとする意見】
公的年金等控除の見直しに伴う増税分は、基礎年金国庫負担率引上げの財源にする。(堀)
課税見直しによる税収は基礎年金の財源に充てるべきである。(小島)
年金税制の改革による税収を、基礎年金国庫負担2分の1への所要財源には及ばないものの、引上げの財源とすることが考えられる。<再掲>(神代)
年金課税の見直しによる増収分は、将来世代の保険料負担増を緩和するための基礎年金の国庫負担割合の引上げや、育児等の次世代育成支援に充てるべき。(山崎)

【子育て支援に充てるべきとする意見】
年金課税の見直しによる増収分は、将来世代の保険料負担増を緩和するための基礎年金の国庫負担割合の引上げや、育児等の次世代育成支援に充てるべき。<再掲>(山崎)
非課税になっている年金に課税し、その増収分を子育て支援、次世代育成支援に充てるべき。ただし、安易な現金給付や専業主婦にだけインセンティブがつくような時代に逆行したものでなく、「将来、年金の支え手になる人材の育成」という視点から取り組むべき。(杉山)
(7) 積立金の役割
積立金の役割についてどう考えるか。
【年金積立金は高齢化が進んだ段階における負担の軽減等の役割があるとする意見】
積立金は、高齢化のピークの保険料水準を抑え、その後においても最終保険料率を賦課保険料率より低くする役割を果たす。(近藤)
積立金の意義は、(1)高齢化が進んだ段階における負担の軽減、(2)負担の世代間格差の緩和、(3)高齢化に伴う貯蓄減少に対応するための投資資金の確保、(4)自分の老後の年金費用は可能な限り積み立てるという自助の要素の重視という点にある。(堀)

【積立方式としての性格付けが必要とする意見】
現在は将来の保険料負担を軽減するための積立金であり、年金債務の考えが全くないので、積立金の運用の責任等が曖昧にされる。それぞれの長所を生かした公的年金財政にするために賦課方式と積立方式とを併用すると性格付けし、積立部分の年金債務を明らかにして財政運営を行うことが望ましい。<再掲>(若杉)
賦課方式に偏った財政方式のリスク分散の上でも、確定給付型を含め一定の積立要素を明示的に組み込むべき。(山崎)
積立金の取り崩しについてどう考えるか。
【年金積立金を取り崩すべきとする意見】
その時点の給付に必要な額以上に保険料を引き上げる段階保険料方式を見直し、積立金を取り崩して保険料の引上げを抑えるべき。積立金を保有しても見込みどおりの収益を上げ続けられる保証はない。(大山・山口・向山)
賦課方式で、これほど積立金を持つ必要はない。基礎年金を税方式化すれば、その分積立金を減らすことができる。(小島)
望ましい積立水準については、現行の給付費の5年分程度から、高齢化のピークに向けて可能な限り抑制すべきである。(井手・岡本・矢野)

【年金積立金を取り崩すべきでないとする意見】
年金積立金を取り崩すことで当面は保険料を低くすることができるが、将来世代に対する責任を持つべき。高齢化のピークやその後における保険料の水準を考えると不適当である。(近藤)
将来の保険料負担を考えると、現在の積立金を取り崩すことは責任ある対応とはいえない。(渡辺)
(8) 経済前提等
財政再計算における経済前提等についてどう考えるか。
【厳しい前提で試算をするべきとする意見】
試算は、楽観的な前提によるのではなく、少子化が与える影響や、少なくとも現状のデフレ状況からいつ脱却できるかについて予想される厳しい見通しも視野に入れた前提で行わないと、世代間の公平性について判断できるものにならない。(翁)
経済前提の想定においては、マクロモデル等による検証を行うとともに、超長期にわたって楽観的な物の見方は止めるべきである。(井手・岡本・矢野)
足下の厳しい経済状況が、数年で良くなると見るのは楽観的だ。今後5年くらいを考えても、しばらくは世界的な競争の厳しさが和らぐことはなく、次期再計算くらいまでこのような状況が続くのではないか。人口推計については、低位推計で考えるべきではないか。(矢野)

【状況が改善した場合の姿も示すべきとする意見】
「努力を前提に高い水準」というリスクの高い方式でなく、「努力しなければ悲観的なものになるが、努力すれば給付は高く負担は低くなる」という仕組みを内蔵した設計とすることが、現状では最も望ましく現実的。国民全体の努力を引き出すインセンティブを制度自体に組み込むことが望ましい。(渡辺)

【長期の経済前提は将来の潜在成長率から検討すべきとする意見】
将来を見通す時に、日本経済の構造変化から過去の実績が以前と比べてあまり参考にならなくなってきている。将来の潜在成長率予想といくつかのあり得べきシナリオから考えていく必要があるのではないか。(翁)

【雇用者の割合及び被保険者の割合は低下するとする意見】
労働力人口に占める雇用者の割合や、雇用者に占める被保険者の割合は、今後低下していくのではないか。(大澤)

検討項目 論点 委員意見
4. 国庫負担の引上げと安定的な財源の確保
前回改正法に規定された基礎年金の国庫負担割合の引上げを、どのように実現するか。
【基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げるべきとする意見】
将来の保険料を負担可能なものとするためには、基礎年金の国庫負担割合の3分の1から2分の1への引上げが必要。(堀)
現役世代や企業の負担が過度に重くならないよう、基礎年金の国庫負担割合を2分の1へ引き上げるべきである。(岡本)
保険料負担の上昇をできるだけ抑制するため、基礎年金については将来的な全額税方式を射程に、国庫負担を早急に2分の1に引き上げるべき。(大山・山口・向山)
税財源の持つメリットを活かし、保険料の上昇幅を抑えるためにも、国庫負担の割合を2分の1にすべき。(渡辺)
国庫負担水準の2分の1への引上げの趣旨は、最終保険料率を抑えるためである。(神代)

【基本的には消費税や年金税制の見直しで財源を賄うこととする意見】
基礎年金については、全ての高齢者に一律に支給するのではなく、一定の所得を有する高齢者は支給停止又は減額などにより給付総額の抑制を行った上で、次回改正で安定財源として消費税を活用して、基礎年金の国庫負担を2分の1へ引き上げるべきである。(岡本・矢野)
国庫負担を2分の1に引き上げることが望ましく、その財源は、年金税制の適正化と消費税引上げによる増税分を充てるのが望ましい。(堀)
年金税制の改革による税収を、基礎年金国庫負担2分の1への所要財源には及ばないものの、引上げの財源とすることが考えられる。(神代)
基本的には、消費税を目的税として充てるのが望ましいが、現状では消費税の引上げは妥当でない。当面は歳出構造の見直しで対応すべき。(渡辺)

【基本的には一般財源で賄うこととする意見】
国庫負担の2分の1への引上げ財源は、歳出の見直しや年金課税の見直し等により、一般財源で賄うべきである。(小島)

【間接税を所得保障の財源とすべきでないとする意見】
比較的低所得で子育てをしている世帯や母子家庭など、消費性向の高い世帯にとっては、消費税負担は不釣合いに重い。逆進性を持つ間接税を所得保障の財源とするのは不適当。(大澤)

【国庫負担の引上げについては、低所得者や過去期間分の債務の償却に着目してもよいとする意見】
国庫負担割合の引上げ分については、低所得者個人に着目した国庫負担の要素を組み込むべきではないか。また、基礎年金の過去期間分の債務の償却に重点を置いて配分するという考え方を取り入れてもよい。その場合、高齢者も相当な財源を負担することが妥当であり、仮に消費税を引き上げて対応するのであれば、それに伴う物価上昇分は年金スライドの対象から一部または全部控除する対応が必要。(山崎)

【国庫負担水準については国庫負担の意義や財源の議論をした上で検討すべきとする意見】
保険料も税も国民負担という点では同じである。国庫負担分を、最低保障年金として位置付けるのかといった将来像を明確にすることが必要であり、国庫負担の意義や財源の議論、あるべき年金の制度設計の姿と切り離して、水準引上げの議論をすることは難しいのではないか。(翁)

検討項目 論点 委員意見
5. 制度の理解を深める仕組み
現役世代、特に若い人の年金制度に対する理解を深めるため、将来の自らの年金給付を実感できる仕組みや運営として、どのようなものが適切か。
【個人に対して加入記録や将来の年金についての情報を通知すべきとする意見】
定期的に加入記録を知らせ、必要なアドバイスを提供すべき。(山崎)
個人に対する拠出と給付の関係を明確に告知することは、若年層や現役世代の年金不信や不安を解決するためにきわめて重要。(翁)
年金個人情報の通知には賛成。導入にあたっては、特に若い世代の意見を取り入れ、どのような通知であれば興味を持って読むかを十分検討の上導入してほしい。(杉山)
年金個人情報提供に向けた当面の取組(年金見込額試算対象年齢50歳以上への引下げ、58歳到達者への直接本人宛通知、インターネット等を通じた照会)を確実に実施すべきである。また、わかり易い制度とするためにポイント制が検討されているが、厚生労働省のポイント制案を採用すると、年金額の算定式が変更され実際の計算式が分かりにくくなるため、誤解が生じる可能性がある。(井手・岡本・矢野)

【ポイント制の導入を検討すべきとする意見】
自分の年金額のおおよそが分かることで、保険料納付意欲が高まり、かつ、老後の生活設計に役立つため、賛成。(堀)
定期的に加入記録を通知する一環として、年金額算定式におけるポイント制の導入も検討すべき。ただし、(1)ポイント制を導入しても、老齢年金については65歳時の年金額の水準の通知にとどまること、(2)加入者にとっての関心事はポイントそのものよりも年金額であり、しかもポイントの単価は毎年変わるのだから、現在価格での過去の加入実績分の見込み額を通知するのと同じであること(これは現行制度でも可能である)、(3)給付乗率が同一となる昭和21年4月2日以後に生まれた者についても、今後の制度改正によっては経過措置の導入等により、単価が生年月日等によって変わることがありうること、(4)導入に伴うシステム開発コストや通知費用が相当にかかること等、についても十分に考慮する必要がある。(山崎)
これからの年金制度は何よりも分かりやすいものになることを望む。ポイント制は、本人の拠出の実績がわかるのがよい。ドイツのように、わかりやすい内容を考えてほしい。(杉山)
ポイント制に賛成。納付実績の少ない人が通知を見て老後のために行動できる仕組みにするべき。(山口)
若者にとって年金は受給するまでに40年間というあまりにも先のことで想像もつかないので、わかりやすいポイント制を取り入れ、個人に情報提供していく必要がある。(今井)


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