3. リスク評価
食用に屠殺された個体由来の特定ウシ臓器以外の組織にBSE感染性が存在する可能性は、単純な「イベントツリー」で提示したデータおよび仮定によって前節では評価している。2つのリスク量が決定され、その両方がヒト経口ID50の摂取に基づいている。一方は英国内での経口ID50の年間総摂取量で、社会的または集団リスク量である。もう一方は個別リスクであり、経口ID50の各個人ごとの1年当りの予想摂取量で表される。
少量投与については、摂取量によって特に悲観的なリスク推定値が示される。これは安全閾値が現在では数量化されていないためである。
DRG感染性への曝露の評価を図3.1のイベントツリーで説明する。図の左側に当該組織の感染性が示されているが、これは個体ごとの部位、感染性密度、その年に屠畜された感染個体数の積である。
図の右側は4列からなる。最初の列にはその経路の全ての分岐点確率、2列目にはその経路の最終的な総感染単位が表示される。これは1列目の確率と総感染性を掛け合わせたものである。3番目と4番目の列は感染性が摂取された場合の値で、3列目に感染性が別のイベントツリーに入り込んだ場合等の感染性の縮小についてであり、4列目は最終的な摂取である。
リスクの結果は入力パラメーターの不確定性を考慮するためにモンテカルロ法を用いて評価した。各変数は点推定ではなく区間推定で定義され、結果は数回にわたって計算された。
図3.1 DRGのイベントツリー
1997年度
入力の定義は以下のとおりである。
種間障壁確率分布、離散値 | |
1 | 1% |
10 | 24.75% |
100 | 24.75% |
1000 | 24.75% |
10,000 | 24.75% |
BSE感染脳の感染性
対数正規分布、幾何平均10、95パーセンタイル100、範囲1〜1,000
臨床的発生件数(38ヵ月齢未満)
ポアソン分布、率=4
1屠体中のDRG重量
正規分布、平均30g、標準偏差3g
リブロース中のDRG混入率
正規分布、平均13%、標準偏差1.3%
サーロイン中のDRG混入率
正規分布、平均30%、標準偏差3.0%
Tボーンステーキ肉として販売されるサーロインの比率
正規分布、平均13%、標準偏差1.3%
肉屋またはスーパーマーケットで販売されるリブロースの比率
正規分布、平均27%、標準偏差2.7%
外食産業で販売されるリブロースの比率
正規分布、平均25%、標準偏差2.5%
肉屋で除去される背骨の比率
正規分布、平均70%、標準偏差7.0%
外食産業で除去される背骨の比率
正規分布、平均90%、標準偏差9.0%
骨に感染性が残存しない確率
対数正規分布、平均1%、標準偏差0.5%
骨付き肉の摂取による感染性の可能性
対数正規分布、平均5%、標準偏差1%
英国内の牛肉摂取率
正規分布、平均88%、標準偏差9%
30ヵ月齢未満での中枢神経系感染に伴うDRG感染性に起因する感染性の総摂取量の中央値は、1997年度の英国内の全人口に対して0.05 ID50であると推測される。95%範囲は0から11 ID50で、総摂取量が1未満の場合の確率は80%である。
また、感染性の総摂取量の24%は食肉中の骨に由来し(範囲10%〜45%)、残りが除骨作業で除去されずに食肉に残ったDRGの割合に由来する。
摂取の個別リスクの中央値は、年間1人当たり9×10-10ID50と推測される。95%範囲は5×10-12から2×10-7ID50であり、リスク等級のほぼ4桁にまたがる。個別リスクの対数の頻度分布を図3.2に示す。
個別リスクは感染性の総摂取量を英国内の牛肉消費人口の推定値で割って推定した。この推定値は肉の部位(リブローストやTボーンステーキ肉など)ごとの消費人数が得られれば精度が増す。ただしこれが結果に大きな差異を及ぼす可能性はない。
仮定ごとの個別リスクの感受性を図3.3に示す。各入力パラメーターから全体変数への寄与率がこのデータから分る。また、感受性が種間障壁の変動によって決まることも明らかである。これはリスク等級の4桁分に亘る一様分布で定義される。次に重要なパラメーターは感染組織の推定感染性、感染性を持つ動物の数、除骨作業で骨から可食部に移された感染性の割合である。