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4. 中枢神経系組織の感染因子

この研究は、BSEの感染因子が新たな変異体であるヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(変異型CJD)の原因であるとする仮定を基本としている。この仮説は、BSEと変異型CJDを引き起こす物質が同一であるとする研究結果によって支持されている(Collinge他1997年、Bruce他1997年)。

BSEに感染したウシの組織の感染性(感染を引き起こす可能性)は50%感染量(ID50)で表す。これはBSEに曝露したヒトの50%が感染を発症するのに必要な量(各人に必要な摂取量)である。この定義は、この量よりはるかに少なくても感染する場合もあれば、はるかに多く摂取しても感染しないこともあり得ることを認めるものである。

BSE病原体の感染性については、欧州委員会の科学運営委員会(SSC)で詳しく検討されており、その評価は、2000年4月13、14日の会合で採択された「ヒトのBSE病原体への経口曝露―感染量および種の壁」と題する「意見」の中で明らかにされている。今回のリスク評価においてもこの見解を基本とする。

本項における感染性レベルの推定はすべて中枢神経系(CNS)組織、すなわち脳と脊髄に関するものである。DRGは末梢神経系の一部であり、感染性レベルは中枢神経系の場合より低い可能性がある。前述の病原性実験では感染性レベルに関するデータは得られていない。したがって、DRGの感染性レベルは脳や脊髄と同程度と仮定する。感染性は他の末梢神経系組織では確認されていない。

4.1 ウシの感染量

SSCは臨床的に感染させた脳について多様な手法で感染性を評価し、その感染濃度の範囲は101ないし103 ウシ経口 ID50/gであると結論付けた。また、経口摂取がデータが示すよりも効率が高い場合やサンプル脳の感染度が高い場合は、最悪のケースを表す数値はさらに高くなると指摘している。同委員会はそうした高い値についても除外できないという結論を出している。低い値は英国MAFFが実施した発病率に関する実験結果の一部に基づくものである。ただしこの実験は不完全であるため、感染量の最終値を得ることができない点に注意が必要である。SSCは、すでに発表・査読された実験結果を用いてDiringer(1999年)の計算に重み付けをし、50 ウシ経口 ID50/gを算定している。

このデータから、感染濃度の分布範囲として10〜103 ウシ経口 ID50/gを、最適推定値には50 ウシ経口 ID50/gを採用する予定である。

4.2 種の壁

BSEのヒトへの感染性は、種の壁の影響でウシに比べて低いと考えられる。この場合の種の壁とは、ある種において有効な感染物質を別の種に与えたときそれを減少させる因子を表す。したがって、ウシとヒトの種の壁を100と想定すると、ヒトに感染させるためにはウシの場合の100倍の感染物質が必要となることを意味する。

SSCはその「意見」の中で、反芻動物とヒト(変異型CJD)におけるBSEの種の壁の高さについては明らかではないとしている。種の壁が全く無い(=1)最悪のケースについても、検討に含めるべきであると考えている。しかしこれまでの証拠から、その数値は1よりも大きいと考えるほうが現実的である。SSCは、科学的データがさらに収集されるまでは、BSEに感染した可能性のある製品にヒトが曝露された場合のリスク評価に際しては、最悪のケースとして種の壁を1と想定し、104から101の範囲について検討するよう提唱している。この見解は、DNVが以前行ったリスク評価の仮定を支持するものである。同評価においては種の壁の値10、100、1,000、10,000が等しい確率であるとして表し、種の壁が1である確率を1%とした(DNV、1997年aおよびb)。本リスク評価でもこの確率分布を使用する。

4.3 ヒトの感染量

感染しているウシの中枢神経系組織からヒトへの感染濃度は、ウシの感染量に、ウシとヒトの種の壁の値を掛けた積から求められる。これらを上記の確率論的評価における分布と合わせると、ヒトの感染濃度の中央値は0.26 ヒト経口 ID50/gで、第95百分位数の範囲は0.002から44と推定される。


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