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2. 牛肉の生産および消費

2.1 牛肉の生産

アイルランドでは牛肉生産は主要産業のひとつであり、生産される牛肉の相当部分が輸出されている。ウシの総数は約780万頭である。本研究の対象は輸出用ではなく、主に地方自治体(LA)が認可した食肉処理場で国内消費用に屠殺されるウシである。

2000年にはアイルランド全体で190万頭のウシが屠殺された。年齢の内訳は表2.1に示すとおりである。公営食肉処理場で国内消費用に処理されたウシは7%であるが、感染のリスクの高い3歳を超えるウシはわずか1%にとどまっている。

公営食肉処理場から出荷される牛肉は、国内供給量の約3分の2に相当し、残りについては輸出用に認可された工場から供給されている。輸出用食肉工場は主に大規模スーパーマーケットなど高級牛肉の販売先に供給している。輸出用食肉工場から国内消費用に供給されている牛肉の年齢の内訳は公営食肉処理場の場合と同一と推定される。2000年に国内消費用に屠殺されたウシの総数は約20万5,700頭(全屠殺頭数の11%)である。

表2.1 2000年に屠殺されたウシの年齢内訳

年齢 公営食肉処理場 輸出用認可食肉工場 総数
1. 月齢30ヵ月未満 118,220 86.2% 791,431 45.4% 909,651
2. 月齢30〜36ヵ月 12,047 8.8% 395,063 22.7% 407,110
3. 3〜4歳 5,023 3.7% 230,309 13.2% 235,332
4. 4歳以上 1,846 1.3% 326,409 18.7% 328,255
  137,136   1,743,212   1,880,348
 ウシ移動監視コンピュータシステム(CMMS)への届出数

アイルランドの26の郡の公営食肉処理場における屠殺数についても情報を収集した。その結果は表2.2に示すとおりである。表2.2のデータによると、全体の21%がCork郡で屠殺され、残りについては全国各地にほぼ均一に分散している。表2.2の総数がCMMSへの届出数である表2.1の総数と異なっていることも注目すべき点である。

表2.2 各郡の公営食肉処理場で屠殺されたウシの数(2000年)

屠殺数 比率 屠殺数 比率
Carlow 502 0.3% Longford 1,577 1.1%
Cavan 3,987 2.7% Louth 3,335 2.2%
Clare 8,320 5.6% Mayo 6,321 4.2%
Cork 31,679 21.2% Meath 8,106 5.4%
Donegal 7,393 4.9% Monaghan 2,559 1.7%
Dublin 37 0.0% Offaly 4,839 3.2%
Galway 7,687 5.1% Roscommon 7,719 5.2%
Kerry 9,532 6.4% Sligo 1,410 0.9%
Kildare 3,230 2.2% Tipperary 6,733 4.5%
Kilkenny 3,499 2.3% Waterford 1,725 1.2%
Laois 4,323 2.9% Westmeath 4,226 2.8%
Leitrim 1,657 1.1% Wexford 6,969 4.7%
Limerick 5,440 3.6% Wicklow 6,725 4.5%
総数 149,530        


2.2 DRGの位置

DRGは末梢神経系組織の一部であり、脊柱の中に位置する。通常は脊髄とともに除去されるわけではなく、脊柱に結合したままで残される。DRGが及ぼす影響は、屠殺後の肉の切り分け方、およびその利用方法により異なる。

脊柱に沿う椎骨は、頚椎(7)・胸椎(13)・腰椎(6)・仙椎(5)の4部分に分けられる。この31個の椎骨が両側でそれぞれDRGとつながっている。各DRGの重量は約0.5gであるから、ウシ1頭のDRGの総量は約31gと推定される。

頚椎周辺の肉は首肉で、常に脱骨して販売される。胸椎周辺の肉は肩肉やリブステーキとなる部分で、これも脱骨して販売される。

次の4個の椎骨および肋骨部分の肉はリブローストに使われる。この部分は骨付きでリブ肉として売られる可能性があるが、輪切り肉やステーキ肉では脱骨することもある。骨付きで販売される場合、一般に脊柱の骨を除去し肋骨だけを残す。これによりDRGが除去される。

サーロイン部分には6個の腰椎と3個の胸椎、つまり総数31個の椎骨のうちの9個(29%)とそれに付随するDRGが含まれる。この部分は脱骨してフィレステーキやサーロインステーキに使われるが、Tボーンステーキにも使われる。骨付きのサーロインローストにも使われるがあまり一般的ではない。

脊柱の最後の部分はでん部で、5個の仙椎につながっている。ランプ肉は脱骨して販売される。


2.3 牛肉の消費

本研究は、特に背骨が付いた状態で消費者に販売されている牛肉製品のDRGへの曝露によるリスク評価を目的としている。上記のとおり、これに該当する製品はリブローストとTボーンステーキである。

食品安全局は、2000年に屠殺されたウシの頭数および年齢、骨付きで販売された割合を調査するため、アイルランドのすべての食肉処理場に質問書を送付した。残念ながらこの調査結果は解釈が難しく、販売されたTボーンステーキやリブ肉の量を査定するのに必要なデータとはならなかった。

処理場の数を減らして継続調査を実施し、販売されたリブ肉とTボーンステーキについてさらに詳細な情報を求めた。7つの郡の72ヵ所の処理場から回答が寄せられた。これらの処理場では2000年に公営処理場全体で屠殺された14万9,530頭のうちの1万2,133頭(8%)が屠殺された。

ウシリブ肉
72の回答者のうち17の処理場(24%)が骨付きリブ肉を販売していたが、背骨を付けていたのは6ヵ所(8%)のみであった。これらの処理場6ヵ所の平均で、2000年に1週間あたり58.3枚の骨付きリブ肉、平均8.3kg相当を販売していた。しかしこのうち55枚は大規模食肉卸売業者1社が販売したものであり、調査結果に大きな影響を与えている。この結果から、屠殺されたウシ全体の12%が骨付きリブ肉に加工されていると判断される。(ウシ半頭から、4本の肋骨を持つリブ肉1枚が切り取られていることになる。)

Tボーンステーキ
72の回答者のうち68の処理場(94%)がTボーンステーキを販売していた。ウシ半頭から460gのステーキが平均して19枚切り取られていた。1週間に販売する量の範囲は1枚から1,330枚で、この最大の数字は上述の大規模業者によるものであり、平均は73枚であった。各処理場から販売されるTボーンステーキの最大販売可能数は、屠殺されたウシの頭数と1頭当たりから加工されるTボーンステーキの数を掛けて算定した。屠殺数から計算される最大可能数を上回る販売数を回答者が算定しているものがあった。この場合は、屠殺数を基にした数を採用した。この調整の結果、同調査から、サーロイン部分の平均44%がTボーンステーキに使われていることが明らかになった。

消費者調査
処理場からのデータに加え、2001年2月から3月にかけてLansdowne Market Researchが牛肉の消費習慣に関する調査を行った。全国から抽出された年齢15歳以上の1,200人に対して面接調査を実施した。この調査の主な結果は表2.3に示すとおりである。調査によると、全対象者の40%が過去1年間に1回以上ウシリブ肉を食べており、30%は週に1回以上、17%は月に1回以上であることが明らかになった。しかし対象者が購入するリブ肉の多くは肋骨付きであって、背骨付きではなかった(この点は調査で区別されていなかった)。Tボーンステーキの場合、対象者の40%が過去1年間に1回以上食べており、21%は週に1回以上、22%は月に1回以上であることが明らかになった。牛肉製品全般について調べたところ、対象者の67%が週に1回以上食べると答えている。また調査は外食率の高さも示しており、27%が週に1回以上、26%が月に1回以上外食していた。しかし、外食の際にいつも骨付きリブ肉やTボーンステーキを食べる人の割合は比較的低かった(時々食べる―20%、たまに食べる―33%、食べない―33%)。

表2.3 牛肉消費に関する調査結果

  15歳以上の成人の牛肉摂取頻度(2000年)
  牛肉製品全般 リブロースト Tボーンステーキ
毎日 2 0 0
週に1回以上 67 30 21
月に1回以上 10 17 22
あまり食べない 4 11 17
まったく食べない 14 10 10
分からない 2 32 31

調査の結果から、Tボーンやリブ肉を頻繁に食べる人の割合が予想以上に高いことが分かった。これらを毎週食べている人は1年に52回食べ、同様に毎月食べる人は年に12回、たまに食べる人でも4回食べていると仮定した場合、アイルランドの人口が370万人(15歳以上が全人口の80%と予測)であるから、2000年1年間で4,200万枚のTボーンステーキが消費された計算になる。しかし、国内市場向けに屠殺されたのは20万5,700頭で、そのうちTボーンステーキに加工されたのは44%、1頭あたりから38枚切り取られたことが明らかである。このことから、Tボーンステーキの年間生産量は350万枚であり、消費調査から推定された数字の10因子分少なくなる。この調査結果は牛肉の消費量を過大に見積もっていることになるが、その理由は明らかでなない。週に1回以上および月に1回以上Tボーンステーキを食べる人の比率を21%から1.8%に減らすと、牛肉の生産量から算出される数値と一致することから、本リスク評価においては、この修正済み結果を利用する。


2.4 DRGへの曝露

DRGの感染因子への曝露を推定するためには、DRGの摂取量を算定する必要がある。そのためには、a)処理業者や卸売業者が脊柱を除去した肉 b)骨付きで消費者に販売された肉、について検討が求められる。

脱骨して販売される肉
処理業者が肉から骨をとり除く際、DRGは除去されるのか、あるいは背骨とともに残るのか調べるため限定的な治験を実施した。この調査はダブリン大学獣医・解剖学部が実施し、4頭のウシから除去した脊柱についてDRGの有無を検査した。その結果、残っていた神経組織は各椎孔の脊髄神経根のみであるが、それにDRGが結合して茶色の小さな塊状になっており、容易に識別することができたことが報告された。調査した切片のすべてにおいてDRGが脊柱に残っており、肉とともに切り取られていなかった。ただし1例のみ第一頚椎の脊髄神経のDRGが除去されていた。この神経は椎骨外側部椎孔を通って出ており、そのDRGはこの椎孔の外側にある。この例ではこの神経節の一部が除去されていた。

この結果から、脱骨の際にDRGが肉とともに切り取られる可能性は約240分の1(0.4%)と推定される。この治験は数値の範囲を確認するのには有効であるが、数量的に乏しいため、統計的に有意な結果ではない。したがって、脱骨の際にDRGの1%が肉とともに切り取られると仮定することにする。これは英国での調査の仮定と同一であるが、慎重になりすぎているきらいがある。そこで、肉とともに切り取られるのはわずか0.1%であるとするケースについても評価を実施する。

民間の解体業者の処理能力は高いものの、ひき肉などに入れるために残留組織を骨から切り落とすのに小規模精肉店が時間をかけているのに比較すると、DRGの除去率は低いと考えられる。

骨付きで販売される肉
骨付きで販売される肉については、脊柱に含まれるDRGの摂取程度を算定する必要がある。この点についてはデータがなく、確実性を持って特定するのは困難である。英国で実施されたDRGのリスク評価では、通常DRGは摂取されておらず、食べたとしても含まれるDRGの5%程度であると推定された。100%摂取される最悪のケースについても考察した。

DRG特別部会の一部のメンバーは5%では低いという意見を示した。それは牛肉を加熱するとDRGが骨から容易に流出するためである。さらに、骨がスープストック作りに使われる可能性もある。その場合骨からすべての組織が流出することになる。

DRG特別部会と検討を重ねた結果、第95百分位数の範囲が5%から95%である正規分布値を使用する。値の範囲の感度については、範囲の限界で固定値を使って検定する。

加熱
加熱は感染性に影響を与えないものと考える。


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