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III.  反芻動物頭部の安全性

−意見書及び報告書で使用した頭部及びその解剖学的部分に関する以前の定義に注意する必要がある。本報告書では、「頭部」と「頭部全体」という用語は同一のものとし、舌を含む頭全体を含めるものとする。「頭蓋」という用語は、ウシの場合、頬肉(咀嚼筋)及び舌を除く頭部を意味する。小型反芻動物の場合、「頭蓋」という用語は皮膚と舌を除いた頭部を意味する。

III.1. 感染性と潜伏期間との関係

III.1.1 ウシ

BSEに感染したウシの頭部に関しては、自然感染症例と実験的症例の両方において臨床的段階にある中枢神経系(CNS)から一貫して感染性が検出される。実験的に感染させたウシでは、臨床的徴候が発症する前にCNSの感染性が検出される。しかし、病原性試験ではCNS(又は他の組織)で最も早期に検出される感染性とウシにBSE病原体を実験的に経口感染させた後の潜伏期間との関係を解釈できるデータは得られなかった。自然発生BSEでは、脳部位の感染性が認められる齢は不明であり、BSE症例でいつCNS感染性が認められるようになるか予測することはできない。経口曝露によるウシBSEの実験的試験では、潜伏期間の下限は曝露後35ヵ月であったが、(従来のマウス生物学的検定により)CNSの感染性の証拠は曝露後32ヵ月で見られ、曝露後26ヵ月の時点では見られなかった(Wells他 1998年)。ただし、(この試験では逐次殺処分プロトコールを使用したため)試験対象としたすべての個体に関する潜伏期間の範囲を求めることはできないことから、臨床的発症に関する所見と組織感染性に関する所見を直接比較することはできない。BSEに経口感染させたウシの用量反応データから暫定的に推定した感染性は、病原性試験において疾患を誘発するために接種材料を投与したときの用量反応データとほぼ同等であったことから(G. A. H. Wells、未発表データ)、平均潜伏期間はほぼ45ヵ月あると思われる(範囲33〜55ヵ月)。組織の感染性をBSEの潜伏期間と関係付ける直接的な実験データがないことから、組織感染性の初期検出性を自然発生BSEの潜伏期間との関係から計算するために適用できる式はない。しかし、スクレイピーに関する一定の実験的マウスモデルでは、末梢経路で曝露した場合、CNSの感染性の初期検出と潜伏期間との間に一定の関係が見られる。使用されたモデルの範囲では、感染性は潜伏期間の約54%において検出可能であった(Kimberlin 及びWalker 1988年、Kimberlin 及びWalker 1989年)。このような一定の関係がウシのBSEにも適用できるかは不明であるが、自然発生ヒツジスクレイピーで得られたデータでは感染性が検出される潜伏期間は約50%であり、上記の値と同等のであることが示唆されている(2000年4月13日・14日に採択された小型反芻動物のSRMに関する意見書)。従って、TSE自然発症例から得られた知見全体及び入手できるデータに基づくと、自然発症BSEは臨床的発症に先立ってまずCNSで感染性が検出可能になると思われる。従来のマイス生物学的検定で感染性が検出できるようになるのは臨床的徴候が生じるわずか3ヵ月前かもしれないが、野外症例の平均推定潜伏期間は60ヵ月であることから、少なくとも理論的には曝露30ヵ月後には感染性が検出可能になると思われる。BSE感染性の測定はマウス及びウシを使用して行われており、ウシ・マウス間には約500倍(102.7)の種障壁があることが示されている(G.A.H. Wells、未発表データ)。ウシ・ヒト間種間障壁は不明であることから(EC 1999年)、検出可能なウシCNS感染性の発生が推定されても、そこからヒトの感染性リスクを計算することはできない。

以前に示されたように、実験的に誘発したBSEにおいて三叉神経節(解剖学的に頭蓋底に位置する)の感染性が検出されるのは臨床的段階に入ってからであり、おそらくCNS中の病原体が複製した結果であると思われる。

III.1.2. ヒツジ

新しい情報はまだほとんどないが、ヒツジBSE(感染性脳組織5gという比較的多量の病原体に曝露して誘発)に関するVLAの実験的試験から、曝露後、潜伏期間の17%(この試験では4ヵ月)という早期に頭部リンパ節(咽頭後リンパ節)の侵襲が生じることがあり、CNSの侵襲は潜伏期間の40〜66%を経過した時点(この試験では10〜16ヵ月)から生じると思われる。ヒツジ(おそらく感受性の異なる種々のPrP遺伝子型を有するヒツジが含まれると思われる)のBSE流行において野外で生じる曝露範囲は明らかにこれよりもはるかに低いことから、それに比例して潜伏期間が大幅に延長し、CNSの侵襲が遅れると思われる。しかし、広範囲のリンパ系部位への病原体の播種はどの曝露量でも比較的一貫してスクレイピー/BSE潜伏期間の早期に生じる事象であると考えなければならない。ただし、この事象はヒツジの遺伝子型に影響される可能性がある。

III.2.  齢に関係する因子

ウシ、ヒツジ及びヤギの頭蓋、中枢神経系、眼及び扁桃がどの齢から危険になるかは、動物種、感染性と潜伏期間の関係、屠殺プロトコールに関連する因子、原産国及び原産地域の地理的リスクに関する基準を考慮に入れてケースバイケースで判断する必要がある。

齢に特異的なBSE発生率に関しては、ウシ頭部組織のリスク情報の変更につながると思われる新しいデータは得られていない。30ヵ月齢未満のウシにおける臨床的疾患の発生率は約0.05%であることがこれまでに明らかにされている。実験データからも、BSE感染源への経口曝露により約30ヵ月を最小値とする潜伏期間範囲を得るには高力価脳部位を100g単位で使用する必要があることが示唆されている(G、A、H、Wells及びS.A.C. Hawkinsの非発表データ)。ウシの組織感染性と齢との関係については、頭部関連のSRMに関する以前の推奨事項に影響を及ぼすと思われる他のデータは得られていない。

ヒツジ又はヤギのBSE自然発生症例の証拠はなく、実験的に誘発したヒツジBSEの病原性に関する情報は暫定的なものであることから、このような情報から齢に関連する因子及び頭部の相対的感染性に関する明確な推定は行えない。飼料を通して、又はヒツジBSE流行によりBSE病原体に対する自然曝露が生じた場合には、平均潜伏期間は自然発生スクレイピーの潜伏期間に近くなる可能性のほうがはるかに高く、現在いくらかのデータが得られているBSE感染源への実験的経口曝露(Foster他 1993年、上記のBellworthyの私信データ)で生じたBSEの潜伏期間よりも長くなると思われる。ただし、用量と宿主遺伝子との相関関係が曝露の有効性に影響することから、これまでのところ、ウシBSEで行われてきたような評価は行なえない。このように不確定な部分があり、またBSE感染ヒツジでは潜伏期間早期でも頭部リンパ組織侵襲の可能性があることから、BSEが確認された小型反芻動物の頭部SRMに関する齢下限を推奨するには基礎となる情報が欠けている。ヒツジBSEの地理的リスクとの関係で齢下限という問題も考慮に入れる必要があるのは明かであり、特に頭部由来のMRMやくず肉(舌を想定)などの一定の未加工肉製品に関しては、以前に示唆されたように(作業部会の意見書及び報告書―小型反芻動物の特定危険部位、2000年4月13日・14日採択の意見書)(EC 2000年)、リスクの分類によっては齢下限を適用できると思われる。

III.3.  屠殺プロトコールに関係する因子

この問題は、2002年1月10日・11日にSSCが採択したスタンニング法とTSEリスクに関する科学的意見書及び報告書(EC 2002年)で詳しく検討されている。

ウシ頭蓋の定義(頭部全体から頬肉と舌を除いたもの)と、この定義に関連しウシの舌をSRMに分類しないという判断は(表 2参照)、特定の屠殺法に関しては引き続き適切と思われる。現在の規制では、頭蓋からの舌の分離は、舌が汚染されていないことを条件に(また、食肉処理場の施設内で他の動物の頭部との接触が生じる前に分離できることを条件に)許可されている。この規定は引き続き妥当であり実際的であるが、大後頭孔からの漏れや、貫通スタンニング法を使用した場合にはこの処理によって生じた孔からの漏れにより舌とCNS部位との交差汚染が生じるリスクがある。

更に、衛生関連規制では、頭部の肉は専用精肉場で除去しなければならない。多数の頭部を食肉処理場から精肉場に輸送するときに頭部が相互に接触することが多いため、肉表面とCNS部位との交差汚染リスクが高くなる。貫通スタンニング法を使用した場合にはこのリスクが更に高くなるが(報告書に示したリスクと同じレベル)、貫通スタンニングを使用しない場合でも大後頭孔からCNS部位が漏れる可能性があるため、リスクはゼロではない。なお、目に見える神経及びリンパ組織すべてを消費者に販売する前に除去しなければならないが、ウシの自然発生BSEでも実験的BSEでもこれらの組織(リンパ節及び末梢神経)からはこれまでにところ感染性は検出されていない。

このように、現在の状況では、ウシの舌(頭部全体)をSRMに含めるのほうが賢明であろう。非貫通スタンニング法を使用するのであれば、齢及び各国のBSE流行状況によってはこの条件を除外できると思われる。すなわち、流行鎮静の証拠が得られ、必要な措置のすべてが一貫して講じられている場合には(下記参照)、疾患発生率は低く(従って感染率が低く)、齢が若いほど更に発生率は低くなるため、舌をSRMに含めるという条件を免除できると思われる。

通常の肉処置場の手順では、腸組織(実験的に誘発したBSEの潜伏期間中に感染性が検出されている他の唯一の組織)と頭部との接触は生じない。

小型反芻動物の場合も頭蓋(皮膚及び舌を除いた頭部)のSRM指定において一貫して舌がSRMリストから除外されるが、屠殺場の作業上、小型反芻動物の頭部全体を齢にかかわらずSRMに含める必要があると思われる。特に、BSEが確定しているかBSEが発生している可能性があると思われるヒツジ集団については、この措置が必要であろう。

ヒツジでは頭部の皮膚が除去されるため、貫通スタンニングによる孔又は大後頭孔から漏れたCNSと舌との交差感染が生じる確率はウシよりも高い。更に、CNSに感染性がある場合には、頭部のすべてのリンパ節及び扁桃が感染性を有する可能性が高く、末梢神経にも感染性があると思われる。

貫通スタンニングを行わない場合でも、汚染リスクはやや低減する程度である。

III.4.  結論

BSEに感染したかBSEを誘発させたウシの組織感染性試験からは、すでに指定されている組織以外の頭部組織をSRMとみなす必要性を示唆する新しい証拠は得られていない。一方、ウシを使用した感染性生物学的検定の結果は、BSEの臨床的段階でも、少なくともマウス生物学的検定では頭部リンパ節を含む局所リンパ節の感染性は検出されないという見解を裏付けている。下垂体、CSF、前頚神経節、顔面神経、舌、唾液腺及び頭部リンパ節に関する完了済みのマウス生物学的検定からはこれらの組織の感染性は明らかにされていない。更に、三叉神経系の生物学的検定に基づくと、臨床的段階においてのみ、おそらくCNS侵襲に続発すると思われる低い感染力価がこの組織に存在すると思われる。

経口曝露後のBSE潜伏期間にウシから採取した一定の組織に関するウシ生物学的検定の結果を待たなければ結論は下せないが、今までのところマウス生物学的検定で感染性が検出された組織でのみ感染性が確認されている。このように、ウシの骨格筋、舌又は関連の神経を齢にかかわらずSRMとみなす必要性を示唆する新たな感染性データは得られていない。

ウシの舌又は頬肉をSRMから除外するという判断は、屠殺時におけるCNSによる汚染を避けられるのであれば引き続き妥当である。

BSEリスクが存在する場合のウシ頭部SRMリストは引き続き適切である。

ヒツジについては実験的BSEの潜伏期間早期において頭部リンパ組織に侵襲が認められており、ヒツジのBSEは感染性組織分布の点で自然発生スクレイピーと同等の病原性を示すという見解と一致する。体性末梢神経幹の感染性はスクレイピーでは「低」に分類されるが、臨床的段階になると屠殺体に広く分布する可能性がある。これが推定されるようにCNSからの「遠心性」の広がりによるものであり、実験的ヒツジBSEの潜伏期間のおよそ40〜50%を通してCNSの感染性を検出できるのであれば、この段階の体性末梢神経線維に感染性が存在すると言えよう。これらの所見が得られたことから、任意の集団においてBSEが確認されるか可能性があると思われる場合には、齢の下限推奨値を提言し、その齢未満のヒツジの頭部組織のいずれかをSRMから除外することは困難となる。また、潜伏期間及び組織分布に対してヒツジの遺伝子型が影響を及ぼす可能性も、このような推奨を困難にしている。更に、以前に報告したように、小型反芻動物の屠殺実施法から考えても、齢にかかわらず頭部全体をSRMとして廃棄する必要があると思われる。

また、小型反芻動物では貫通スタンニング法の使用の有無にかかわらずBSE潜伏期間早期において感染性を示す可能性がある組織と舌との交差感染が生じるリスクが高いと思われる。

従って、ヒツジでBSEが発生したと考えられる場合には、屠殺実施法に関係なく、すべての齢のヒツジの舌を含む頭部全体をSRMリストに含める必要があろう。この条件に関する例外を設けるには、ヒツジBSE流行の発生について更にリスク評価を行い、地域別に(ヒツジ)BSEリスク評価を適用することが必要になろう。


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