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I.背景及び要請

1. 科学運営委員会は1997年12月9日付けの特定危険部位に関する意見の中で、脊柱について、脊髄及び背根神経節と近接していて汚染の可能性があるため特定危険部位として取扱うべきだと提言した。

科学運営委員会は、1999年12月のヒトの曝露リスクに関する意見の中で、BSE感染したウシの中の総感染性量に占める脳、脊髄、背根神経節の割合が、それぞれ64.1%、25.6%、3.8%であると述べた。この意見の中で科学運営委員会は、脳、脊髄、背根神経節及び三叉神経節はヒトが直接摂取すると危険が大きいことを、数量的データに基づいて認めた。

反芻動物組織中のTSE感染性分布に関する2002年1月11日付けの科学運営委員会の意見及び報告書より、以下のことが推論できる。

  入手可能なデータは不完全で、情報の多くは、実験的な経口投与後の感染性分布に関する唯一の研究から得られたものである。実験的に経口投与されたウシの組織のうち感染性を示す部位について、その感染力の値がマウスによる潜伏期間分析から推定されたが、これによれば、中枢神経系を含めて、ほとんどの感染組織の感染力は分析の検出限界に近いと考えられる。同じ組織をウシでの生物学的検定により再評価した結果は、予備段階ではあるがマウスによるデータを裏付けるものとなっている。ただし、この分析が完了するには、少なくともあと5年を要する。比較的多量の未処理のBSE感染部位を経口で投与したBSE病原性の実験的研究において、潜伏期間が最短で35ヵ月だったのに対し、[従来型のマウスによる生物学的検定法によれば]中枢神経系が感染性を示す証拠は投与後26ヵ月の時点では検出されなかったものの、32ヵ月の時点では検出された(Wells 他1998年)。しかしながら、中枢神経系(または、その他の組織)について感染性が初めて検出できる時期と潜伏期間の関係を説明できるデータは、この研究からは得られない。なぜならば、この研究では、全検体の潜伏期間の範囲が(研究が逐次殺処分方式をとっていたため)特定できないからである。自然発生のBSEでは中枢神経系が感染性を持ち始める月齢(あるいは潜伏段階)は不明であり、実験的諸研究の入手可能な結果によっても、いつBSE感染検体の中枢神経系が感染性を示し始めるか予測することはできない。「病原性研究」(G.A.H. Wells、未公表データ)において病気を引き起こすために投与されたものと同様のBSE感染源を経口投与されて感染したウシの用量反応データによれば、平均潜伏期間はほぼ45ヵ月と考えられる(範囲は33〜55ヵ月)。末梢から感染したげっ歯類のスクレイピーの実験的研究及び自然発生したヒツジスクレイピーのデータ(2000年4月13日・14日採択の「小型反芻動物の特定危険部位に関する意見」)によると、潜伏期間の約50%の時点で中枢神経系が感染性を示す。ウシのBSEにもこのような一定率の関係が当てはまるかどうかは不明だが、既存データに基づく限り、自然発生のBSEにおいて、感染性は、臨床的発病のはるか以前に、最初に中枢神経系で検出可能となるとみなすのは不合理ではなさそうである。従来型のマウスによる生物学的検定では臨床的徴候が出るわずか3ヵ月前に初めて検出できるかもしれないが、実地症例の平均予想潜伏期間が60ヵ月の動物であれば、少なくとも理論的には30ヵ月前に感染性が生ずる可能性がある。

2001年1月12日付けの特定のウシ組織及び動物由来製品のBSEに関する安全性についての意見で、科学運営委員会は、妥当な程度に最悪の仮説として、一般的に背根神経節と脊髄がもたらすリスクは、潜伏期間の後半のほうが高いという見解を示した。科学運営委員会の結論は、月齢が12ヵ月を超えた個体の脊柱に付いた肉は、BSEの潜伏期間中でないと断言できない限り摂取すべきではない。科学運営委員会はまた、簡易検査による監視結果が、この点に関する追加情報を提供することになると述べている。

2001年1月12日付けの科学運営委員会の意見(EC、2001年)を受けて、月齢が12ヵ月を超えるウシの脊柱は特定危険部位と分類された。特定の国々で特定の条件の下で、適用除外措置が取られるものと予想された。さらに、該当する月齢群についてEU域内のウシのBSE発生率統計に照らして、脊柱除去の年齢制限が見直されることが予想された。この見直しは、BSE監視の結果に基づくものとなるはずである。

2001年1月から12月の間に実施された監視活動において、EU域内のウシ約850万頭に対してBSE簡易検査が行われた。検査の対象集団は、月齢30ヵ月を超える健康な家畜(一部の加盟国では、月齢24ヵ月を超えるもの)、感染リスクがある個体、及び疑わしい個体である。

2. 2001年10月に、委員会部局はアイルランド食品安全局向けに実施された「背根神経節のBSE感染性によるリスクの評価」(DNV2001年)の結果を受け取った。このリスク評価はアイルランド固有の条件に適合するものではあるが、Det Norske Veritas(DNV)社の1997年のリスク評価(DNV1997年)を方法論的及び科学的に更新するものでもある。1997年のリスク評価とその結果は、2000年4月14日付けの「英国による骨付き肉消費禁止令解除決定」に対する科学運営委員会意見(E.C.2000年a)、及び2000年9月15日付けの「英国からの骨付き子ウシ肉輸出」に対する科学運営委員会意見(E.C.2000年b)において、広く引用し活用されている。

3. (a)これまでに実施されたBSE監視の結果(特にBSE陽性症例の月齢構成)と、(b)ウシの背根神経節がもたらす可能性があるリスクの最近の評価(DNV2001年)を踏まえて、科学運営委員会は次の通り要請を受けている。

背根神経節にあるかもしれないBSE感染性によるリスクについて、アイルランド食品安全局に最近提出された数量的評価を評価すること。評価は添付参照のこと。

背根神経節を含むウシの脊柱が[消費者にもたらす]BSEのリスクを数量的に評価すること。

脊柱をウシ科動物の特定危険部位として取扱う上での月齢制限引き上げを正当化できる証拠が見つかるかという問いに答えること。もし引き上げ可能ならば、その上げ幅と条件は何か。もし可能でないならば、引き上げに必要な条件は何か。

4. G.Wells博士(ウシBSE病原性論的側面を担当)とS. Bird博士(データ分析を担当)を共同報告者とする報告書が作成された。この報告書は、2002年5月2日のTSE/BSE特別部会において議論され、完成され、採択された。


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