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II.改革のための具体的方策

1.競争的な研究開発環境を実現するための制度的枠組みの構築

  《現状》
 各競争的研究資金制度において、研究者間・研究機関間の競争促進の観点から、研究費から研究従事者(ポストドクター、大学院生、技術者等)の人件費の支給、間接経費の支給・拡充といった取り組みに着手している。
しかし、
-  研究従事者の任用について、雇用の対象、賃金等に制限があり、研究従事者の雇用に係る資金は競争的研究資金全体の約4%に過ぎない。
-  間接経費比率も低い水準(主要大学で5〜7%程度)である。
-  国公立大学の研究者の現在の給与・人事システムは、競争的研究資金の獲得を業績として直接反映する仕組みとなっていない。
 米国では、競争的研究資金に研究者本人の人件費が計上され、研究機関の適切な管理の下、研究者の給与と表裏一体をなすものとして位置付けられている。間接経費も機関毎に異なるが、その比率は40〜60%と研究機関にとってもインセンティブとなっている。
 我が国の私立大学は、科学技術振興の面で大きなポテンシャルを有するが、国立大学と比べ、施設設備が自助努力によるところが大きい(一方、配分実績は、国立大学が全体の60%に対し、私立大学は12%と5分の1)。
 個人補助制度を中心に競争的研究資金に係る不適切経理問題が発生し、制度に対する社会的信頼が損なわれかねない状況にある。現在、競争的研究資金全体の6割以上の資金が個人補助制度(注1)となっているが、個人補助制度の場合、当該補助金の管理責任は、当該補助金の交付対象者である研究者個人(科学研究費補助金の場合は研究者の所属する研究機関の長である個人)が負うこととなっている(注2)。
(注1)  そもそも予算制度として、国立大学や国立試験研究機関といった国の機関に、国から補助金が出せない。このため、間接経費についても、現行個人補助制度の場合には、一旦個人に交付された後、個人から機関に移し替えている。大学が法人化された後は、直接経費、間接経費を問わず、国から補助金を受け取ることができるようになる。
(注2)  現在、研究者個人が経理を機関に委任している場合でも、制度との関係で最終責任を負うのはあくまで、当該補助金が交付された研究者個人である。
 大学等の研究機関は、所属研究者の研究業務に対するエフォート(研究、教育、管理運営等の業務に従事する時間配分)や研究費の経理状況について十分に管理できていない。
 競争的研究資金の配分先を見ると、我が国では、大学が78%(国立大学が60%)、民間企業は5%弱であるが、一方、米国では、大学が71%、民間企業が8%(2001年度実績)となっている。また、米国の国立衛生研究所(NIH)、国立科学財団(NSF)では、原則、大学、民間企業等の研究者の所属を問わずできるだけ多くの研究者に応募資格を与えているのに対し、日本の場合は、予算ベースで全体の5割を超える部分に民間の研究者が応募できない状況にある。

 《具体的方策》

(1)競争的研究資金獲得に対するインセンティブの向上

  (研究従事者の任用)
 研究代表者の裁量で研究チームを構成する研究従事者を選任し、研究費から研究従事者の給与を配分できるようにすることを基本とする。この観点から、研究従事者の人件費の直接経費への計上に係る制限を緩和し、拡充を図るとともに、研究代表者の責任と権限で、研究実施に必要かつ適切な研究従事者の範囲や雇用形態を決定できるようにすべきである。
 この観点から、各制度においては、研究従事者の雇用に対する自由度を高める一方、研究機関は、研究従事者の任用は研究機関の責任において行い、国内外の優秀な人材を確保し得るようフレキシブルな労働条件、給与規定を整備する。

(研究者本人の給与)
 国立大学の法人への移行後においては、その自主的な判断により、競争的研究資金の獲得及びその研究開発成果等の業績が適切に給与や人事に反映するシステムを導入すべきである。その中で、競争的研究資金における研究者本人の人件費の計上及び給与への反映のあり方を検討する。(6.(1)参照)

(間接経費の拡充)
 間接経費の拡充は研究機関の研究環境やマネジメント体制の整備に不可欠であるとともに、資金を獲得できる研究者の価値を高め、競争促進を図る観点からも極めて重要である。
 当面、第一段階の目標として、第2期科学技術基本計画で定められている、間接経費比率30%を実現すべく、全ての競争的研究資金制度で引続き努力する。全ての制度が、いずれの研究機関に対しても間接経費を配分する。
 なお、間接経費比率は、本来、研究機関の実態を反映し、機関毎に異なるものであることを踏まえ、例えば、国公私を通じた個々の大学における施設整備等の公的支援の程度をも反映した間接経費比率を検討する必要がある。

(2)研究機関による適切なマネジメント体制の構築

  (資金の提供形態)
 本来、研究機関に所属する研究者がその業務の一環として行う研究業務においては、それに係る研究費は、研究機関が責任をもって管理すべきであり、研究者個人に管理責任を負わせるべきではない。このため、これまでの個人補助制度を改善し、これを研究者の所属する機関が、配分機関に対し、補助金の交付申請を行い、交付を受け、直接に責任を負って補助金を管理する制度とする。
 この際、当然ながら、現在同様、個々の研究者の発案に基づき作成された研究計画に対して審査・採択を行うものであり、当該計画の申請に際しては、研究課題毎に研究代表者、研究分担者、研究実施体制、研究経費等が明確に特定される必要がある。また、交付に際しては、当該研究以外の用途への使用は行えない旨を条件として課す一方、研究課題毎の直接経費における費目間振替等の弾力的運用を確保する。
 なお、国立試験研究機関の研究者等に対しては、引き続き制度の対象となるよう弾力的な制度運用を図る。

(研究機関による研究者のエフォート管理)
 競争的研究資金の増加、産学連携事業の拡充が進展することを踏まえ、大学等研究機関は研究者のエフォートを管理し、研究者が当該研究課題に割く時間と研究場所を確保できるよう措置する。
 また、各競争的研究資金制度においては、申請書への研究者のエフォート記載を早期に徹底する(なお、課題採択後、研究計画の見直し・査定に応じて、エフォートを変更し得る。)。

(間接経費の活用)
 研究機関は間接経費を活用して、研究資金の申請及び管理に係る事務体制の強化等の競争的研究資金の適切なマネジメント体制の整備を図る。

(3)研究者の一層の競争促進による研究の質の向上

 
 我が国の競争的研究資金制度は、大別すれば、研究者の自由な発想に基づく研究の推進を目的とするもの(例えば科学研究費補助金)と特定の政策目的達成のための公募型の研究開発に分類できる。これら多様な競争的研究資金の拡充を図り、制度間の競争をも通じた一層の競争の促進を図っていくことが必要である。
 研究者の自由な発想に基づく研究の推進を目的とする制度については、本来、研究者の所属(大学、公的研究機関、民間企業等)如何にかかわらず、研究内容自体が評価されるべきものであり、それぞれの制度の目的を踏まえ、できるだけ多くの研究者がその所属を問わず応募できることにより、我が国の研究者全体の競争の一層の促進、ひいては研究の質の向上に資するよう、制度の見直しを図る。
 その際、我が国の場合、大学のみならず、民間企業の研究者がノーベル賞(あるいはノーベル賞級)受賞対象となるような研究を行い、学術研究の発展にも大いに貢献してきていること、産学官連携、大学発ベンチャー等、産学の協調と競争という新しい流れが出てきていることを考慮し、新しい環境変化に対応した制度設計を検討すべきである。

2.若手研究者の活性化に向けた制度整備

  《現状》
 我が国の競争的研究資金の配分実績を見ると、50歳代を中心に分布している(40歳〜44歳が15%、45歳〜49歳が18%、50歳〜55歳が22%、55歳〜60歳が19%)。結果として、若手研究者が資金を獲得する機会が損なわれている(ノーベル賞の受賞対象となった研究時期等によると、多くの研究者が創造性を発揮する年齢は30歳から40歳)。
 我が国の競争的研究資金の多くは、申請書の内容が、研究計画自体よりも研究者の経歴、過去の業績に重点が置かれている。さらに、研究費の小規模な研究開発課題が多い。このため、若手研究者を中心に多数の申請を行わざるを得ない状況となっており、その結果、欧米に比べても、膨大な数の申請件数となり、評価に過重な負担をかける一因となっているものがある(科学研究費補助金(2002年度予算1703億円)で申請件数約85000(採択件数約21000)、NIH(2000年予算1兆7269億円)で申請件数約27000(採択件数約8600))。
 一部又は全部が若手研究者を対象とする制度があるが、全体の6%程度にすぎない。いずれも35〜39歳以下といった年齢で限定している。また、若手研究者向けプログラムの1課題当たりの研究費は、同一制度内の他のプログラムに比べて少額の場合が多く、さらに制度によっては、若手研究者向けプログラムへの申請が、同一制度内の他のプログラムへ申請することを制限しているものがある。
 一方、米国では研究計画の評価に重点が置かれ、申請書では研究計画の部分が大きい。若手支援のグラントも多数存在するが、それらは年齢ではなく、研究経歴(例えば常勤職に就いて5年以内)で応募者を限定している。
 また、米国では、若手研究者は任期を付して雇用し、その間の業績を評価して任期を付さない職を与えるテニュア制が、研究開発環境の活性化の源と言われ、ポストドクター、テニュアトラック、テニュアというキャリアパスが明確である。任期付のテニュアトラックがテニュアを獲得する際の評価基準に競争的研究資金の獲得が位置付けられ、その獲得インセンティブが非常に高い。
 これに対し、我が国の研究者のキャリアパスを見ると、若手研究者(国立大学の助手、講師等)の大部分が終身雇用のため、競争的研究資金の獲得が昇進のインセンティブになっていない(第2期科学技術基本計画において、30代半ば程度までの若手研究者について、広く任期付任用を図ることとされているが、我が国の大学においては任期付任用は2%程度にとどまっている。)。
 ポストドクターは出身校に留まる等流動性が低く、また、研究内容や専門知識が産業界のニーズに必ずしも適合していない。

 《具体的方策》

(1)研究実績よりも研究計画の内容を重視した審査への転換

 
 研究の質の向上のためには、研究者の経歴や業績ではなく、研究計画で評価する体制に改めることが不可欠である。各制度の申請書の書式を改めて、1〜2ページではなく、きっちりとした研究計画(例えば、米国のNIHやNSFでは、研究計画を15〜25ページ程度で記載)で審査を行う。これに併せて、事後評価(必要に応じて中間評価)について、外部評価を含め配分機関側の評価体制を整備する。

(2)「研究者」を育てる制度への転換

 
 若手研究者の独立性を確立し、より流動的な環境の中で研究を進められるようにするため、若手研究者向けの競争的研究資金の拡充を図る。特に、若手向けの競争的研究資金制度については、若手研究者育成の観点から、単純な年齢による判別だけではなく、研究経歴による応募資格(例えば常勤職(特に任期付)に就いて5年以内)、他分野から移って来た多様な人材を排除しないこと等を含め、制度の見直し、充実を図る。
 交付される研究費が小規模な若手向け制度については、金額の規模を大きくすることを検討する(例えば、米国の代表的な若手研究者向けプログラムは、NSF(Career Program)が1200万円/年、NIH(K Awards)が1000〜4000万円/年、両者とも研究期間は約5年間。一方、科学研究費補助金の若手研究Bは、研究期間2〜3年で合計500万円)。また、若手プログラムへの申請が同一制度内の他のプログラムへの申請の制限を設けているものについては、見直しを図る。
 研究機関は、競争的研究資金を獲得した若手研究者(助手、講師、助教授)が教授等から独立して独自の研究開発を実施できるよう、研究従事者や研究実施場所を確保する。

(3)研究者のキャリアパスの再構築

 
 日本の若手研究者の活性化を図っていくためには、競争的研究資金制度の改革と共に、研究者のキャリアパスの再構築が不可欠である。そのためには、大学等研究機関は、若手研究者を中心に、広く任期付任用(米国でのテニュアトラック)を定着させ、その段階における業績評価の主要な項目の一つとして、競争的研究資金の獲得を位置付ける。
 助手、講師、助教授の教授からの独立性を向上させるため、学校教育法における助手、講師、助教授の職務や名称を定める規定の見直しを行う。

(4)ポストドクター及び大学院生の育成

 
 ポストドクターは、テニュアトラックへの前段階として、研究者のキャリアパス全体の中での位置付けの明確化を図っていくべきである。また、日本のポストドクターは流動性が低いが、今後、競争的研究資金による雇用型の支援を拡大し、人材の流動性を高めていく。
 競争的研究資金による研究開発課題にポストドクター及び大学院生(修士課程を含む)が参画する場合には、研究開発の実施においてポストドクターや大学院生が費やした労力や時間、また、その能力や役割に応じた給与を与える。

3.プログラムオフィサー(PO)、プログラムディレクタ−(PD)による一元的管理・評価体制の整備

 
《現状》
 我が国の競争的研究資金制度は、それぞれ外部専門家を中心とした評価システムを有し、研究課題の採択・評価を実施している。一方、米国をはじめとする諸外国の配分機関は、外部専門家に加えて、研究経歴のある多人数のPO(各制度の個々のプログラムや研究課題の選定、評価、フォローアップ等の実務を行う研究経歴のある責任者)やPD(競争的研究資金制度と運用について統括する研究経歴のある高い地位の責任者)を擁し、プログラムの計画から、最後の評価の段階まで一貫してマネジメントする体制を徹底。
(注) 「米国のPO」の役割は、例えば、評価プロセスの選択、評価段階においては、評価者の選任、現地調査への参加、合議審査会議等の評価プロセスの計画・実行、どの課題にどの程度の資金提供を行うかの最初の立案、また、実施されている研究開発課題の進行状況の評価等である。POの殆どが、自然科学系の博士号を有しており、担当研究分野の知識や研究経験を持ち、その研究動向についても熟知している。
例えば、米国のNSF、NIH、DARPA(国防省国防先端研究プロジェクト局)には、それぞれ約400、1100、140人が専任で配置されて、NSF、NIH、DARPAのPO1人当たりが扱う年間予算額は、それぞれ15.6億円(2002年、1$=130円)、17.6億円(2001年)、18.6億円(2001年)である。また、独国のDFG(ドイツ研究協会)においても、約125人のPOが配置されている。
 我が国の競争的研究資金制度についても、「科学技術基本計画」、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」において、研究経歴のある責任者を各配分機関に専任で配置し、競争的研究資金制度の一連の業務を一貫して、科学技術の側面から責任を持ち得る実施体制が整備されるよう努めるとされている。これを踏まえ、本プロジェクトの「中間まとめ」において、POやPDを配置し、POやPDを中心とする一貫したマネジメント体制の導入を決定した。
 各制度においては、平成15年度からPO・PD配置への取り組みを開始している。しかし、人数の面でも、また、雇用形態(非常勤、大学等からの併任等)等制度の位置付けの面からも、必ずしも十分とはいえない状況にある。
 また、PO・PDの具体像が明確でないため、制度間でPOやPDの役割に関する理解にばらつきがある。
 我が国には、POやPDという職務が、研究者のキャリアパスとして確立されていないため、質および量の面での確保の困難が予想される。

 《具体的方策》

(1)PO・PDの役割の明確化

 
 PO・PDに期待される機能は、課題の採択・評価等における専門性・機動性・戦略性の確保、研究費の執行を含むマネジメント等の説明責任の遂行である。その観点から、各制度においてPO・PDが以下の基本的な役割を果たすこととする。また、各制度の趣旨や目的はそれぞれ異なることを踏まえ、PO・PDの各制度における具体的な権限、責任は各制度で位置付け(評価委員会とPO・PDとの適切な役割分担)を検討する。

プログラムオフィサー(PO)の基本的役割(詳細 別紙

> プログラムの方針(案)(目的、目標、重点テーマ、新規テーマ設定)の作成。
> 評価者の選任。
> 外部評価(ピアレビュー)に基づき、採択課題候補(案)の作成(優先順位付け、研究費の査定、研究分担者の必要性、重複の排除)。
> 評価内容や不採択理由の開示。それに対する申請者からの質問、不服申立への対応。
> 採択課題について、研究計画の改善点の指摘。不採択の申請者にも助言。
> 進捗状況や予算執行の状況を把握。必要に応じて、現地調査。
> 研究計画の変更(中止・縮小・拡大を含む)の提言。
> プログラム全体の運営見直し等の提案。
 

プログラムディレクター(PD)の基本的役割

> 競争的研究資金制度におけるマネジメントシステムの向上。
> プログラムの方針決定。新規プログラムや新規領域設定を決定。
> 各制度内の領域間・分野間・プログラム間等の資金の配分額や配分方式(個人研究とグループ研究等)を決定。
> プログラムオフィサー間の調整。
> 採択課題の決定。
> プログラムオフィサーの評価。

 これを踏まえ、各制度は、今後、競争的研究資金の規模に見合う人数のPO・PDを配置し、その責任を果たし得るような身分、処遇を確保する。特に、非常勤や併任といった雇用形態は、過度的な措置とし、とりわけ大型の制度においては、できるだけ早期に専任へ転換を図る。
 本省の制度においても、適切なマネジメントシステムの確立の観点から、POのみならず、それらを統括するPDを配置することを検討する。
 各制度は、PO・PDの基本的な役割が十分果たし得るマネジメントシステムの構築を行い、第2期科学技術基本計画期間中(平成17年度まで)に、PO・PDの最終的な配置体制を完了する。

(2)PO・PDの確保と育成

 
 優れた人材をPO・PDとして確保していくためには、産学官が協力し、PO・PDが研究者のキャリアパスとして位置付けられるように努めていくことが必要である。
-  大学・公的研究機関は、PO・PDに優秀な人材を輩出、育成に努力する。特に、研究者の評価に際して、PO・PDとしての経験を適切に評価する。
-  産業界も研究開発マネジメント能力向上の観点から、優れた人材を競争的研究資金のPO・PDとして人材交流を図る。
-  配分機関においては、PO・PDの適切な業務遂行を可能とするための活動経費の確保等の体制を整備を図る。
 関係各省及び配分機関は、PO・PD育成のための研修等を実施(例えば、内外における実務研修)する。

(3)PD会議の設置

 
 総合科学技術会議のイニシアティブにより、各配分機関のPDで構成される会議を設置し、各競争的研究資金制度のマネジメントシステムの向上を図るとともに、課題の不必要な重複の排除や制度間の調整等、我が国の競争的研究資金全体の有機的な運用を図る。

4.競争的研究資金の効率的・弾力的運用のための体制整備

  《現状》
 研究費交付時期が遅く、予算の単年度主義のため、年度末に予算消化的な研究費の執行が行われる場合がある。また、複数年度にわたる研究課題の継続年度について、多くの場合は研究費の空白時期が生じ、これが不適切経理問題の誘因となっているとの指摘がある。
 平成15年度予算で科学研究費補助金及び厚生労働科学研究費補助金が繰越明許費として指定され、既に指定されている制度と合わせて全体の約8割の資金が繰越明許費の対象となっている。
 なお、米国のNIHやNSFでは、プログラム実施期間内において、次年度への繰越は、研究機関側の裁量である。
 我が国は、配分機関の独立行政法人化後に通年公募を予定している制度があるものの、現状の申請書受理は年1回である。
 一方、米国のNIH、NSF等では、申請書を年複数回または通年で受理している。
 評価者の選任に当たっては、年齢や肩書きが重視されているとともに、配分機関が主体的に行っていない場合がある。また、利害関係者の排除規定が厳正かつ十分なものになっていない(例えば、同じ所属機関であっても利害関係者としてみなされず、評価者となることができる制度がある)。
 採択、不採択に係る評価内容の開示は、一部の制度及びプログラムにおいて実施されているが、その開示内容も、科学的・技術的な意見や不採択の理由ではない場合があるなど、不十分である。
 一部の制度は、採択課題の中間評価・事後評価において、外部評価を含め配分機関による評価を実施していないものがある。
 課題の事後評価、追跡調査等を通じた競争的研究資金制度の評価が実施されておらず、各制度の目的・計画の見直し、運用の改善が十分なされていない。
 我が国の競争的研究資金制度では、一部の制度が電子メールによる申請書の受付を行っているだけで、電子システム化が進んでいない。欧米では、米国のNSFに代表されるように、電子システムの導入が進んでいる。
 政府研究開発データベースの構築、運用により、研究費の配分実績が事後的に把握できるようになったが、事前審査段階での重複等の確認はできない。また、政府研究開発データベースへの入力時期が制度によってまちまちである。

 《具体的方策》

(1)年度間繰越及び年複数回申請

 
 各制度において公募・審査時期を早める(例:科学研究費補助金は9月1日に公募開始)ことで、研究費交付時期の一層の早期化に努めるとともに、引続き年度間繰越を柔軟に行えるようにすべきである。
 本省が運用する制度については、平成16年度予算において、必要に応じ全ての制度が繰越明許できるよう措置を検討する。また、繰越明許の事務手続きの簡素化・合理化を併せて検討する。
 他方、安易な年度間繰越を抑制するため、各制度はプログラムオフィサーを中心として年度間繰越の必要性・妥当性を評価する体制を整備する。
 研究者に多くの競争的研究資金獲得の機会が与えられるよう、年複数回の申請書の受理を検討する。
-  独立行政法人化される配分機関にあっては、運営費交付金制度を活用し、できるだけ早期に実現を図る。
-  本省が運用する制度であって、業務体制そのものが制約となっているものについては、業務の独立行政法人への移行を進める等在り方を検討する。
 以上のような体制整備を図ることにより、競争的研究資金にかかる予算(補正予算を含む)の積極的な活用を図る。

(2)公正で透明性の高い評価システムの確立

 
 評価者の選任に当たっては、プログラムオフィサーが中心となって、利害関係者の排除に留意しつつ、年齢や肩書きにとらわれず、真に研究計画を評価できる大学や企業等の第一線の研究者・技術者を選任する。
 その際、各省及び配分機関が構築・管理しているデータベース(各課題毎の研究者、資金、研究開発成果、評価者、評価意見等)を活用するなどして、優秀な若手研究者・技術者を積極的に選任する。
 評価者プールの形成や評価者の選任は、学会等を含む他の機関からの推薦に基づくのではなく、配分機関自らが制度の政策目的や特色、研究開発の内容に応じて評価者を選任する。
 また、各競争的研究資金制度において、厳正な利害関係者の排除規定(注)と実施要領を作成する。
(注)  利害関係者の詳細な範囲は、NSFおいては、主に(1)同じ機関に所属する場合、(2)過去4年間、論文の共著者である場合、(3)指導した学生、指導教官である場合等としている。さらに、NIHでは、(1)申請者が家族や親しい友人である場合、(2)過去一定期間内に申請者と契約締結の履歴をもつ場合、(3)申請者と極めて近い研究開発を行っている場合、(4)評価者と長年にわたって対立する考え方を有する場合等としている。
 評価者は、課題毎に事前に利害関係者に入ることを申し出て、該当した課題の評価を辞退することが求められている。
 申請者に対して、評価意見等の開示を行う。その際、プログラムオフィサーが、評価意見や不採択理由を開示するとともに、申請者からの問い合わせや申請書の研究内容の相談に対応する。
 各配分機関は、研究課題についての中間評価や事後評価を適切に行い、その結果を踏まえて、必要に応じて研究の見直し・中止を行う。その際、制度や課題によっては、ピアレビューによる評価のみならず、プログラムオフィサーによる評価等柔軟性をもって対応する。
 各配分機関の競争的研究資金制度の改革が適切に行われるよう、各省あるいは配分機関は、所管する制度全体を把握した上で、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づいて研究課題の事後評価や追跡評価を実施し各制度の成果の波及効果や活用状況等を把握して制度評価を行う。その結果を踏まえ、目的・計画の見直し、運用の改善を図り、さらに、制度の統合・廃止・拡大・縮小等へ反映させる。

(3)電子システム化とデータベースの拡充

 
 平成17年を目途に、申請書の受付、書面審査、評価結果の開示等に電子システムの導入を図る(これにより、事前審査における重複申請の把握・不合理な複数課題獲得の排除、配分機関における評価業務の効率化・作業量の削減、政府研究開発データベース入力の迅速化・効率化等を図る)。
 その際、各省が導入する電子システムを有効かつ効率的に活用するため、政府研究開発データベース(内閣府)を配分実績のみならず、事前審査にも活用できるよう、各省のシステムと政府研究開発データベースの連携を図る。

5.独立した配分機関(Funding Agency)体制の構築

  《現状》
 現在、競争的研究資金として位置付けられているものは26制度である(7省庁、配分機関としては本省6、法人7)。
 また、その対象も研究者個人、機関(大学、公的研究機関、民間企業等)とそれぞれの制度で異なる(これは、例えば科学研究費補助金が従来(〜平成13年8月)、一部国立試験研究機関等を含むものの、ほぼ大学、高等専門学校を対象としていたことや、平成8年度以降、特殊法人による公募型の研究開発等は民間企業、国立試験研究機関を主たる対象としていた等の経緯による)。
 配分事務を本省で実施している制度は、それが制度の拡充、弾力的な運用体制の構築の制約となっている場合がある。
 他方、特殊法人が配分事務を行っている制度については、特殊法人改革の一環として予算拡大に制約が課された場合、競争的研究資金の拡充の制約となる。
 諸外国においては、競争的研究資金の大部分は、複数(多くて数機関)の政府機関又は外郭団体が独立した配分機関として、それぞれの専門性と特徴を有しつつ、グラントを供与し、その多様性と効率性を両立している。
(注) 米国をはじめとする先進諸外国においては、主要な研究費の配分は専門性と効率性の観点から、行政機関とは別の専門機関が実施している。(米国・・・NIH、NSF等、英・・・Research Council 6機関、独・・・ドイツ研究協会(DFG)、伊・・・国家研究会議 等)
配分機関(Funding Agency)は、(1)人事・予算執行面で行政から一定の独立性・自立性を確保し、(2)多人数の専任の研究マネージャー(プログラムオフィサー)を擁し、科学技術の側面から一貫したマネジメント体制を構築、(3)研究者が責任者としてマネジメントの統括責任を負う。

《具体的方策》
 競争的研究資金の配分に当たっては、各配分機関がそれぞれ専門性と特徴をもって、戦略的・機動的に業務を遂行すべきである。総合科学技術会議は、競争的研究資金制度間の連携を図り、政府全体として効果的・効率的な運営体制の構築を図る。
 新制度の相次ぐ創設により、各省の下で、3〜4以上の制度に細切れとなってきているのが現状であり、各制度の目的・内容を精査し、効率的運用の観点からその整理・統合を図る。
 特に、我が国の競争的研究資金全体の概ね5割の資金規模となっている科学研究費補助金、約1割を占める厚生労働科学研究費補助金については、その規模を考えると、その実態を勘案しつつ、独立した配分機関にその配分機能を委ねる方向で検討する。
 多くの配分機関が、今後、独立行政法人の形態をとることとなることを考えれば、競争的研究資金の拡充を図っていくためには、「独立行政法人」であるが故に、直ちに予算上の制約が課されることのないようにする必要がある。
 また、独立行政法人化される配分機関がその自主性、機動性を発揮していくためには、競争的研究資金は原則として交付金の形で予算措置を講じる必要がある。
 配分業務を行う独立行政法人において、制度改革への取り組みが確実に実施されるよう、主務大臣は当該独立行政法人の中期目標に必要な事項を定める等の適切な措置を講ずる。

6.競争的研究資金制度改革と関連する改革 −大学改革−

  《現状》
 競争的研究資金制度の効果を、競争原理を通じて最大限に発揮するためには、競争的研究資金の獲得やその研究開発成果が研究者の業績として評価され、それが適切に給与や人事面の処遇に反映されるといったインセンティブメカニズムがシステムとして整備されることが必要である。
 現在、日本の国立大学の教職員(研究者)は給与の体系を法律により定められており、業績を反映したインセンティブの部分の割合が限定的である。特に競争的研究資金の獲得が給与のみならず、昇進(キャリアパス)にもほとんど反映されていない。
 他方、米国では、競争的研究資金に研究者本人の給与が計上されており、自らが研究活動をするための研究費を外部から獲得することが、その研究機関での研究実施を確保するための必要条件となっている。さらに、テニュアトラック(任期付きのポストの助教授)から、テニュア(終身的な地位である準教授以上。但し、職の継続について数年に一度厳しい審査がなされる)になる際の主要な評価基準の一つとされている。ドイツにおいては、2002年2月に大学教員の人事・給与システム改革が実施され、助手制度を廃止し、任期付任用の準教授制度を導入、さらに給与(教授)にインセンティブの割合を1/4以上とする業績評価を反映するシステムを導入した。
 このようなインセンティブシステムの整備のためには、これまで述べた競争的研究資金制度そのものの改革はもとより、現在、競争的研究資金の配分実績において、約6割を占める国立大学の改革、さらには、研究者に係るシステム改革(2.(3))と一体的に取り組むことが必要である。

 《具体的方策》

(1)競争的な給与・人事システムの構築

 
 国立大学においては、平成16年4月に予定されている、法人への移行により、経営に競争原理が導入され、また、教職員の身分が非公務員となる。
 法人化後の各大学においては、その自主的な判断により、競争的研究資金も含め、外部資金獲得やその研究開発成果を研究者の実績として適切に給与や人事に反映する給与・人事システムを積極的に導入し、競争的メカニズムを創っていくべきである。
 研究者の能力主義の徹底、競争的な環境の形成という観点からは、研究者本人の当該研究開発活動に係わる人件費を直接経費から充当し、それを研究者の給与に反映していくことが有効と考えられる。
 ただし、競争的研究資金の量的規模を考慮すれば、直ちに実施することは困難であるが、今後、各大学が新しい給与システムを導入する中で、具体的な対応の在り方を検討していくことが必要である。

(2)研究と教育の区分

 
 大学が研究と教育の2つの機能を両立していくためには、競争的研究資金の拡充と産学官連携の推進等が行われる中で、大学が責任を持って教職員のエフォート管理を行うことが必要である。
 また、予算・経費の面においても「研究」と「教育」に区分し、競争的研究資金の活用による「研究」の活性化と併せて引き続き「教育」への必要に応じた予算措置を行っていく必要がある。


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