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精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書(案)


平成15年 月 日
厚生科学審議会生殖補助医療部会


I  はじめに

 生殖補助医療に関する検討を必要とした背景

 昭和58年の我が国における最初の体外受精による出生児の報告、平成4年の我が国における最初の顕微授精による出生児の報告をはじめとした近年における生殖補助医療技術の進歩は著しく、不妊症(生殖年齢の男女が子を希望しているにもかかわらず、妊娠が成立しない状態であって、医学的措置を必要とする場合をいう。以下同じ。)のために子を持つことができない人々が子を持てる可能性が拡がってきており、生殖補助医療は着実に広まっている。

 平成11年2月に、厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医師及び国民の意識に関する研究班」(主任研究者:矢内原巧昭和大学教授、分担研究者:山縣然太朗山梨医科大学助教授)が実施した「生殖補助医療技術についての意識調査」の結果を用いた推計によれば、284,800人が何らかの不妊治療を受けているものと推測されている。
(※15年1月の調査が3月にまとめられる予定であり、それも踏まえ記述。)

 また、日本産科婦人科学会では、昭和61年3月より、体外受精等の臨床実施について登録報告制を設けているが、同学会の報告によれば、平成11年中のそれらを用いた治療による出生児数は11,929人に達し、これまでに総数で59,520人が誕生したとされている。

 このように、我が国において、生殖補助医療が着実に広まっている一方、近年、以下のような問題点も顕在化してきた。
 これまで、我が国においては、生殖補助医療について法律による規制等はなされておらず、日本産科婦人科学会を中心とした医師の自主規制の下で、人工授精や夫婦の精子・卵子を用いた体外受精等が限定的に行われてきたが、学会所属の医師が学会の会告に反する生殖補助医療を行ったことを明らかにした事例に見られるように、専門家の自主規制として機能してきた学会の会告に違反する者が出てきた。
 夫の同意を得ずに実施されたAID(提供された精子による人工授精)により出生した子について、夫の嫡出否認を認める判決が出されるなど、精子の提供等による生殖補助医療により生まれた子の福祉をめぐる問題が顕在化してきた。
 精子の売買や代理懐胎の斡旋など商業主義的行為が見られるようになってきた。

 このように、我が国においては、生殖補助医療が急速な技術進歩の下、社会に着実に広まっている一方、それを適正に実施するための制度が現状では十分とは言えず、生殖補助医療をめぐり発生する様々な問題に対して適切な対応ができていないため、生殖補助医療を適正に実施するための制度について社会的な合意の形成が必要であるとの認識が広まっている。

 生殖補助医療技術に関する専門委員会における基本的事項の検討経緯

 こうした背景を踏まえ、平成10年10月21日に、厚生科学審議会先端医療技術評価部会の下に、「生殖補助医療技術に関する専門委員会」(以下「専門委員会」という。)が設置され、この問題を幅広く専門的立場から集中的に検討することとされた。

 生殖補助医療のあり方については、医療の問題のみならず、倫理面、法制面での問題も多く含んでいることから、専門委員会においては、医学、看護学、生命倫理学、法学といった幅広い分野の専門家を委員として検討が行われた。

 また、この問題は国民生活にも大きな影響を与えるものであり、広く国民一般の意見を聞くことも求められることから、専門員会においては、宗教関係者、患者、法律関係者、医療関係者等の有識者から5回にわたるヒアリングを行い、また、一般国民等を対象として平成11年2月に行われた「生殖医療技術についての意識調査」の結果も踏まえ、この問題に関する慎重な検討が行われた。

 さらに、生殖補助医療をめぐる諸外国の状況を把握するために、平成11年3月には、イギリス、ドイツ等ヨーロッパにおける生殖補助医療に係る有識者からの事情聴取、平成12年9月には、イギリスにおいて生殖補助医療に係る認可、情報管理等を管轄するHFEA(ヒトの受精及び胚研究に関する認可庁)の責任者との意見交換が行われた。

 なお、生殖補助医療には、夫婦の精子・卵子・胚のみを用いるものと提供された精子・卵子・胚を用いるものがあり、また、人工授精、体外受精、胚の移植、代理懐胎等様々な方法が存在しているところである。AID、提供された精子による体外受精、提供された卵子による体外受精、提供された胚の移植、代理懐胎(代理母、借り腹)といった精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方については、その実施に当たって、夫婦以外の第三者の精子・卵子・胚を用いることとなることや夫婦の妻以外の第三者が子を出産することから、親子関係の確定や商業主義等の観点から問題が生じやすいため、専門委員会において、これらを適正に実施するために必要な規制等の制度の整備等を行う観点から検討が行われた。

 専門委員会は、2年2か月、計29回にも及ぶ長期にわたる慎重な検討を行い、平成12年12月に専門委員会としての精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての見解を「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」(以下「専門委員会報告」という。)としてとりまとめた。

 専門委員会報告は、インフォームド・コンセント、カウンセリング体制の整備、親子関係の確定のための法整備等の必要な制度整備が行われることを条件に、代理懐胎を除く提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を認めるという内容であったが、同時に、その内容は精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の基本的な枠組みについて検討結果を示すにとどまるものであって、その細部については検討しきれていない部分も存在したことから、こうした点について、別途更なる詳細な検討が行われることを希望するものであった。

 生殖補助医療部会における制度整備の具体化ための検討経緯

 精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の具体化に関する更なる検討を指摘した専門委員会報告を踏まえ、平成13年6月11日に専門委員会報告の内容に基づく制度整備の具体化のための検討を行うことを目的として厚生科学審議会の下に生殖補助医療部会が設置された。

 専門委員会は、医学(産婦人科)、看護学、生命倫理学、法学の専門家により構成されていたが、本部会においては、小児科、精神科、カウンセリング、児童・社会福祉の専門家や医療関係、不妊患者の団体関係、その他学識経験者も委員として加わり、より幅広い立場から検討を行った。

 審議に当たっては、諸外国における生殖補助医療の状況や生殖補助医療における精神医学、心理カウンセリング、遺伝カウンセリング等も含め、生殖補助医療について有識者から5回にわたるヒアリングを行い、また、一般国民を対象として平成15年1月に行われた「生殖補助医療技術についての意識調査」(主任研究者 山縣然太郎 山梨大学教授)の結果も踏まえ、○年○ヶ月の○○回にわたり、この問題に対する慎重な検討を行った。

 審議の進め方として、専門委員会においても議事録を公開していたところであるが、本部会においては、より国民に開かれた審議を進めるため、審議も公開で行った。また、国民の意見をインターネットなどを通じて常時募集したほか、平成15年1月には、それまでの議論を中間的にとりまとめた検討結果についても意見を募集し、提出された意見についてはその都度部会で配布し、審議の素材とした。

 本部会においては、専門委員会報告の内容を基にその具体的な制度整備について議論がなされたが、具体化の議論に当たっては、前提となる専門委員会報告の内容自体についても再度検討しており、中には出自を知る権利の内容のように専門委員会報告と異なる結論となった箇所もある。こうした箇所については、結論に至る考え方も含めて本論において説明を行っている。

 なお、精子・卵子・胚の提供等により生まれた子についての民法上の親子関係を規定するための法整備については、平成13年2月16日に法務大臣の諮問機関である法制審議会の下に生殖補助医療関連親子法制部会が設置され、本部会の検討状況を踏まえ、現在、審議が継続されているところである。


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