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食品の表示制度に関する懇談会
中間取りまとめ





平成14年8月
食品の表示制度に関する懇談会



目次


1 はじめに
2 食品の表示制度の目的
3 現行の食品の表示制度の問題点
4 表示項目の見直し
(1)義務表示
(2)任意表示
(3)用語、定義の統一等
(4)その他
5 情報提供等
(1)行政による消費者への情報提供、事業者への周知徹底
(2)相談窓口の一元化
6 表示違反の監視、是正のための措置
(1)監視体制のあり方
(2)是正措置
(3)事業者の自主的な取組み
7 組織法律の見直し
(1)組織
(2)法律V
8 おわりに

(参考1)食品の表示制度に関する懇談会開催要領
 (別紙)食品の表示制度に関する懇談会名簿V
(参考2)これまでの審議経過



はじめに
 本年1月に明るみに出た雪印食品の食肉の原産地偽装事件に端を発し、食品表示の偽装事件が次々と発覚している。これらの表示偽装事件の多発は、消費者の食品の安全や品質に対する信頼の崩壊を招いており、深刻な問題となっている。食品表示は消費者にとって極めて身近で重要な問題であることから、これらの虚偽表示が再び行われることのないよう、食品表示の信頼確保に向けて万全を期す必要がある。
 一方で、食品の表示制度は、現在、食品衛生法、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)等複数の法律に規定されており、各府省間に十分な連携がないままそれぞれの観点から表示制度を運用しているため、同じ表示項目に異なる用語が使われることがあるなど、消費者、事業者双方にとって分かりにくいものになっていること等が指摘されている。また、4月に示されたBSE問題に関する調査検討委員会報告においても、「現在の各種表示制度について一元的に検討し、そのあり方を見直す必要がある」と指摘されている。
 このような状況を受け、消費者等関係者からの意見を今後の食品の表示制度のあり方の検討に反映させることを目的に、厚生労働省医薬局食品保健部長及び農林水産省総合食料局長の私的懇談会として、内閣府及び公正取引委員会の参画を得て、「食品の表示制度に関する懇談会」が開催されることとなった。本懇談会は、6月からこれまで5回にわたり検討を行い、その検討結果について以下のとおり中間取りまとめを行った。
 今後、政府においては、この中間取りまとめを踏まえ、具体的な表示制度のあり方について引き続き検討していくことを要望する。

食品の表示制度の目的
 食品は、生命の維持に不可欠であることはいうまでもないが、そのことに加え、より安全・安心・良質な食品を求める消費者の要望は強い。しかし、消費者が自らのニーズに合った食品をその外観からのみ選択することは不可能である。
 このようなことを踏まえ、本懇談会の検討課題である食品の表示制度は、以下の3点を目的とするものと考えられる。
 ○ 消費者の商品選択に役立つこと
 ○ 衛生上の事故・危害の防止(食品の安全の確保)に役立つこと
 ○ 正確で誤認を生じさせないこと
 これら3つの目的は表示を利用する消費者がその主体となるものであり、したがって、当然のことながら、表示は、消費者にとって分かりやすいものであることが大前提である

現行の食品の表示制度の問題点
 食品の表示制度は、食品衛生法、JAS法、景表法など複数の法律に基づくものであることから、その表示のルールも、食品衛生法に基づくものは飲食に起因する衛生上の危害の発生の防止を目的とし、JAS法に基づくものは品質に関し消費者の選択に資することを目的とするなど、それぞれ目的が異なっている。また当初は、表示項目が重複することも少なかったため、制度発足以来、各府省が互いに十分な連携をしないまま、それぞれの表示制度を充実してきた経緯がある。
 しかし、食品衛生法に基づく表示とJAS法に基づく表示とが、制度発足当時と比較して相当オーバーラップしてきていることもあって、現行の食品の表示制度については以下のような問題が顕在化してきている。
(1)表示制度が複数の法律に分散して規定されており、一覧できないため、消費者、事業者双方にとって分かりにくいこと
(2)それぞれの表示制度に基づく表示項目や表示内容が、それぞれの府省ごとに決定される仕組みであるため、整合性が取れておらず、用語や定義の統一性が欠けているものがあること。また、解釈等に関する情報提供などの運用面でも統一性に欠けること
(3)監視体制や是正措置もそれぞれの制度によって異なり、連携が十分でないこと

 このため、表示ルールの設定・改廃や解釈、監視等については、全体として整合性があり、連携の取れたものとすることが必要であるとともに、その表示ルールについては、消費者、事業者双方にとって分かりやすいものとする必要がある。

表示項目の見直し
 表示項目の検討に当たっては、義務表示と任意表示に分けて考えることが適当である。この際、消費者にとって商品選択に必要な表示と、衛生上の事故・危害の防止に役立つ表示とについて、消費者にとって分かりやすいことや事業者が正確に情報提供できることが重要である。また、国際的な基準との整合性についても考慮する必要がある。

(1) 義務表示
 食品が多様化し、加工食品、輸入食品が増加する中、農林漁業者を含む食品生産者側と消費者側との距離は広がる一方となっており、これに伴って消費者が必要とする情報は増加傾向にある。一方で、表示項目が増加すると表示が複雑化し、消費者が本当に必要とする情報が分かりづらくなるという側面がある。あわせて、表示が事業者に対して、衛生上の事故・危害を防止させるために重要な機能・効果を有していることを認識する必要がある。
 こうした中、義務表示項目については、消費者が必要とする情報と情報選択のしやすさのバランスを踏まえた多くの消費者にとって商品選択の上で重要なものと、衛生上の事故・危害の防止のために事業者に行わせる必要があるものとすることが適当である。
 具体的な表示項目については、基本的には現行の義務表示項目を維持することが適当であるが、消費者の必要とする情報の変化(健康志向の高まり等)についても考慮すべきである。また、個別の表示内容や表示方法等について、今後、この懇談会とは別の消費者、事業者等関係者を交えた場で、具体的検討を行っていくことが必要である。
 なお、義務表示の記載方法については、基本的には、できるだけ万人が知り得るよう商品の容器包装等に記載すべきであるが、高齢化社会への対応を念頭に置き、大きな字で分かりやすく表示する観点から、容器包装等への表示のほか、情報機器等を活用する方法についても検討することが必要である。

(2) 任意表示
 任意表示については、
ア)  特定の項目を記載する場合には、併せてその表示方法が義務づけられるもの(例えば、特色のある原材料を使用していることの表示など、強調表示を行う際のルール)と、
イ)  表示方法も含めて任意であるもの
とに分けて考えることが適当である。
 ア)については、適切な項目設定により義務表示同様の表示効果を得られる場合があることから、義務表示項目の見直しと併せてその内容を検討すべきである。
 イ)については、例えば景表法による公正競争規約の見直し、策定等を検討すべきである。

(3) 用語、定義の統一等
 複数の法律において用語や定義などが異なっている表示項目等については、表示を見る消費者、表示を行う事業者の分かりやすさを考え、速やかに整合性の確保に向けて検討に着手すべきである。特に、消費期限や賞味期限及び品質保持期限については、関係府省で速やかに定義や用語の統一を図る必要がある。
 また、表示項目及び内容の改正に当たっては、各府省による調整の下、施行時期をできる限り同じ時期にする等により、事業者の表示に係る負担を極力減らすことが必要である。

(4) その他
 容器包装等に記載された事項以上に情報が必要な特定の消費者のニーズに応えること、高齢化社会の進展で限られた容器包装等の限られた面積においてより見やすく分かりやすい表示が求められていること等から、バーコードの活用、マーク表示等新たな表示方法の活用を今後検討すべきとの意見、この際、消費者が必要な表示項目として(1)商品購入の段階に必要な項目、(2)家庭で保存・飲食する段階で必要な項目の両方があることに留意すべきとの意見があった。
 表示の信頼性を向上させるため、任意の手段として第三者による認証制度について検討すべきという意見があった一方で、仮に第三者による認証を受けることで監視が緩くなることがあれば問題であるとの意見があった。
 トレーサビリティについては、表示の信頼性の向上や、衛生上の事故・危害発生時の原因究明の観点から活用すべきとの意見があった。
 また、JAS法の品質表示基準は品目横断的なものと個別品目ごとのものに分かれているが、分かりやすさを考慮し、極力統一する方向で検討すべきとの意見があった。
 さらに、製造年月日については現行制度の下でも任意で表示することは可能であることを確認すべきとの意見があった一方、製造年月日に代わるものとして期限表示が導入された経緯等を十分踏まえ製造年月日表示については慎重であるべきとの意見があった。

情報提供等
(1) 行政による消費者への情報提供、事業者への周知徹底
 消費者、事業者双方が食品の表示制度を正しく理解することにより、正確な情報が伝達され、相互の信頼を構築することが可能となる。このため、消費者、事業者双方に対する取組みとして、各表示制度について一覧できるパンフレット、具体的事例を豊富に盛り込んだ分かりやすいQ&Aの作成や、表示制度に関する説明会の開催等を各府省が連携して積極的に行うことが必要である。
 この際、こうしたパンフレットやQ&A等が有効に活用されるよう、各府省は通常の行政ルートだけではなく、消費者が接しやすい様々なルートを活用して配布を行うこと等により、食品の表示制度の正しい理解を促進する必要がある。
 また、情報提供に当たっては、行政と消費者、事業者双方向のコミュニケーションが重要であることに留意する必要がある。

(2) 相談窓口の一元化
 消費者、事業者双方にとって、食品表示の疑問点を問い合わせるための相談窓口が明確化されていることが必要である。現行では、例えば食品衛生法では厚生労働省、都道府県、保健所等、JAS法では農林水産省、農林水産消費技術センター、都道府県等が問い合わせに応じているが、消費者、事業者双方の利便、各表示制度の整合的運用の観点から各表示制度の相談窓口を一元化することが求められている。このため、相談窓口の一元化(ワン・ストップ・サービス)を進めるべく、地方自治体等の意見も聴きながら、関係府省で速やかに検討することが必要である。

表示違反の監視、是正のための措置
(1) 監視体制のあり方
 昨今の多くの偽装表示事件により、残念ながら表示に対する消費者の信頼は失墜している。適正な表示を確保するためには、一義的には事業者自らのモラルに委ねざるを得ないが、一方で消費者を欺く偽装表示は許さない、との認識の下、新たな偽装表示事件が発生しないよう違反の抑止に努めるとともに、食品表示に関する監視体制を一層充実させることが必要である。
 ただし、行政で監視できる範囲には限界があることを踏まえ、行政機構全体の肥大を招かないことを前提としつつ、既存の監視体制の有効活用を図るとともに、必要な部分については監視の充実強化を図ることが重要である。
 また、効率的・的確な監視の観点から、専門的知識を有する担当部局がそれぞれ監視を行うとともに、国レベル、県レベルを通じ、各法担当部局が密接な連携を図る必要がある。
 さらに、行政のみでなく、消費者の目を活かすことも必要であり、消費者による不正表示のチェックや、消費者にとって分かりやすい表示づくりに事業者が積極的に取り組む気運の醸成などに取り組むべきである。
 なお、偽装表示等に関する企業の内部告発者の保護も重要な検討課題であるが、消費者行政全般として検討すべき課題であり、国民生活審議会の検討に委ねることが適当である。

(2) 是正措置
 監視体制を補い、事業者による表示違反行為の抑止力とするため、罰則の強化を含めた厳しい是正措置が重要である。
 また、消費者が不利益を被らないよう、行政機関が違反を認定した場合には、事業者名を含め速やかに公表することを原則とすべきである。ただし、事業者名の公表が事業者に与えるダメージはきわめて大きいことから、違反事業者が違反行為に比して過大な社会的制裁を負うことのないよう考慮する必要がある。
 なお、JAS法については、品質表示基準の違反に係る指示及び公表の指針が策定されているが、その適切な運用を図るべきである。

(3) 事業者の自主的な取組み
 法令遵守を含め、各事業者において主体的に自らの行動を律するための行動規範の作成が進められているが、これらの取組みを一層促進するよう啓発する必要がある。
 行動規範の作成と実施・運用に当たっては、企業のトップがその重要性を認識するとともに、従業員に周知徹底していくことはもとより、消費者の意見の反映等により、可能な限り透明性を高めることが重要である。また、チェック機能等の社内体制の整備、表示の定期的な自主点検、普及・啓発等業界団体等での取組みの強化等に留意することが重要である。

組織・法律の見直し
 食品の表示制度については、食品衛生法、JAS法等の各制度が制度発足以来、各府省が互いに十分な連携をしないまま、それぞれの表示制度を独自に実施してきたことが消費者、事業者双方にとって分かりにくい仕組みとなった大きな要因である。このため、当懇談会ではさまざまな視点から現行の食品表示制度について検証を行い、2から6まででその改革方向を指摘・提言してきたところである。今後、これらの事項が確実に実施され、用語・定義の整理等が図られるとともに、監視の連携や情報提供の充実、相談窓口の一元化等が実現すれば、我が国の食品の表示制度は大きく改善されると考えるが、今後とも今回指摘してきたような問題点が再度発生しないよう、各府省の連携が将来にわたって継続的に推進されることが必要である。
 このため、本懇談会では、表示のルール設定・監視の組織や法律のあり方についても議論を重ねてきた。

(1) 組織
 表示制度を担当する組織については、将来的には、既存の府省と切り離した組織に一元化すべきとの意見もあったが、例えば食品の安全行政は、食品の内容と表示を一体的にチェックすることが必要である等、効率的・的確なルール設定・監視の観点から、専門的知識を有する行政組織がそれぞれ担当することが適当である。

(2) 法律
 法律については、ア)各法で規定する食品表示について、一本の法律にまとめるべき、イ)各法はそれぞれの目的に従って定められており、法律の一元化を行うと、それぞれの観点からの独立したチェックができなくなる等消費者にとってデメリットとなるので、各法は現行のままとしつつ、各府省の連携、表示項目の整合性を図ることで解決すべき等の提案があった。
 本懇談会としては、将来にわたって各表示制度の整合的な運用が図られることが最も重要な課題であると考えており、このような観点から、関係府省において検討を行い、再度本懇談会に報告することを要請する。
 他方、現在内閣官房において食品安全基本法(仮称)制定のための検討が行われており、この基本法の中で食品の表示制度が適切に運用されることが重要である旨を規定するよう、関係部署に要望することを要請する。

 なお、中長期的には、食品に関する行政全般の中で、表示に関する組織・法律のあり方についても改めて検討していくことが適当である。

おわりに
 本懇談会で取り上げた事項は非常に広範囲なものであり、速やかに対応できる項目から複雑な調整を要する項目まで存在している。
 このうち、品質保持期限及び賞味期限の用語の統一等、速やかに対応できるものについては、関係府省で連携し速やかに対応すべきである。また、中長期的に検討すべき事項については、今後とも関係府省が十分な連携をとりながら対応を進めて行くことを要請する。
 この際、国レベルにおける連携にとどまらず、各制度を実行する地方レベルにおいても、変わることなく連携が図られることが重要である。
 なお、この中間取りまとめに盛り込まれた事項は、消費者にはもちろんのこと、表示を実行する事業者にも大きな影響を与える事項が多いので、今後引き続き関係者の意見を幅広く聴取しながら、行政として検討を進めることが必要である。また、その検討結果については、改めて本懇談会に適切な時期に報告することを要請する。

以上


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