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(※以下の受付番号27〜31の御意見は、今回の結果発表までに提出された受付期間外の御意見ですが、参考として掲載します。)


受付番号:27
受付日時:平成13年4月19日
年齢:不明
性別:女性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

 現在、2歳10か月になる男児の双子を育てています。私の両卵管がつまっていたため、34歳の時から不妊治療をはじめ、体外受精2回失敗し、顕微受精2回目でようやく妊娠することができました。費やしたお金は、約200万円。それでも、4年間という短い間で、2人の元気な男の子を授かることができて、幸せだと思っています。
 主人と話し合ったことは、「40歳(私が)まで、不妊治療を続けて、お金の上限は、5百万まで。その結果、子どもが出来なかったとしたら、2人の生活を楽しむことにしよう。」また、「障害のある子供だとしても、大切に育てよう。」「2人の間に子供が出来なかったとしても、養子はもらわない。」など、3点、重要だと思われることについて、話し合い、結論を出しました。こうした話し合いが、とても大切だと思いますが、ともすると、どちらかの考えが押し通され、また、夫が検査に協力しないという例もたくさんあります。
 夫婦間であるならば

(1) 顕微受精までは、許されると考えています。

(2) しかし、代理母や、卵子や精子を他人からもらうというのは、反対です
 なぜなら、「子供が欲しい」と思う人の中に「障害児はいらない」と考える人もいるからです。卵子や精子が他人のものだとすると、かりに障害児を授かった場合、他人のせいにして責任を放棄する親がでてくるかもしれないからです。健康な子供が生まれる保障はないのです。

(3) 義父や自分の兄弟、姉妹から、精子や卵子の提供を受けることも反対です。なぜなら、あれほど望んだ子供たちなのに、出産してから、育児の大変さゆえに、私と夫の間には、想像もできなかった亀裂が入りました。妊娠、出産前には考えられなかった事です。「人間の心」というものは、時と場合応じて変化するものだということを痛感しました。「人間の心」ほど、危ういものはありません。あくまで、産まれてまた子どもの安全を最優先に考えなければなりません。もし、義父の精子をもらった子ならば、義父は、孫を孫として扱うことができるでしょうか。もし、自分の姉の卵子だったら、ただのおばとして接することができるでしょうか?今の日本の社会では、法の整備がととのっていないので、無理だと思うし、アメリカなどのように「養子でも、子どもはかわいい、大切に育てる」という土壌でなければ、子供の幸せは、保障できないと思います。
 夫婦間であってもつまづくのですから、まして、他人の精子や卵子を、代理母をということまで許されたら、子供がそれを知った時ショックを受けると思います。
 夫婦間でできなっかたのなら、2人の生活をエンジョイして、あきらめるべきなのです。

(4) 「卵子の若返り」「精巣から精子をとりだす」などの技術が進歩し、安全性が確立されたのなら、夫婦の遺伝情報が伝えられた子どもなのだから良いと思います。

○ 双子・三つ子等、多胎児の出産・育児は、想像を絶する大変さがあります。その大変さを、みなが知らなさすぎます。そういう情報を、不妊治療をしている夫婦に説明すべきです。体外受精にはお金がかかりすぎるので、そちらの整備をお願いします。


受付番号:28
受付日時:平成13年4月19日
年齢:41歳
性別:女性
職業:大学教員
氏名:柘植 あづみ
所属団体:いくつかありますが、これは個人としての意見です。
この問題に関心を持った理由:
 生殖医療技術と社会の相関関係について調査研究を行なっているから。

御意見

《総論》

【1】6項目の基本的考え方について

 まず、報告書の内容に矛盾している箇所が見られます。その矛盾は「生まれてくる子の福祉を優先する」、「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」、「安全性に十分配慮する」、「優生思想を排除する」、「商業主義を排除する」、「人間の尊厳を守る」という専門委員会の基本的考え方として合意された6項目に関して熟考されていないことから生じる問題だと考えます。そこでまず、この6項目に関する疑問を述べます。

1)何が「生まれてくる子の福祉を優先する」ことになるのか。
 この答えを得るには、第三者が係わる体外受精を認める以前に、これまで1万人以上生まれているとされるAIDによって生まれた人やその親たちの状況を知る必要があると考えます。議論の土台となる関連データが無い状況で、「生まれてくる子の福祉」とは何なのかが理解できるとは思いません。

2)「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」ことに関して、生殖の手段として扱うとはどこまでをそのように判断しているのか。
 代理母(代理出産)が「生殖の手段として扱っている」と判断し、それを禁じることは理解できます。しかし、精子提供者や卵子提供者は手段として扱われていないのでしょうか?さらに、考えようによっては、子どもをもちたい理由、不妊治療を受ける理由如何によっては、不妊治療を受けている女性も「生殖の手段として扱」われている、といえます。つまり、貴委員会が「生殖の手段として扱う」ということの意味を深く検討されていないのではないか、と思います。

3)「安全性に十分配慮する」というのが明確ではありません。
 私が知るかぎりでは、現在、不妊治療の排卵誘発剤による卵巣過剰刺激症候群という副作用に関する医療過誤訴訟が2件行われています(新潟大学の例は死亡、秋田大学の例は脳血栓による半身不随となった。)このいずれも、排卵誘発剤の副作用が生じた早い時点で医療者が危険性を認識し対処していれば大事に至らなかった、と考えられます。ところが、不妊治療に特に体外受精や顕微授精の際に過排卵状態にしてできるだけ多くの卵子を採卵するのが当然のことのようになっており、少々の卵巣過剰刺激症候群に対しては医師は何の対処もしません。私がインタビュー調査した不妊治療の患者のうち、AIHや体外授精、顕微授精をした人々の大半が、吐き気や腹痛等の症状だけではなく、卵巣が腫れる、腹水が溜まるといった経験をしています。そして、それを医師に伝えた 際に、何人かの医師は「卵巣過剰刺激症候群がでる時には妊娠している可能性が高い」と説明し、何の処置もしなかった、ということです。結局、全員がその時には妊娠はしていなかったのです。
 また、卵子提供が実行されるようになれば、通常のホルモン分泌がある女性に排卵誘発することになります。排卵誘発または採卵の際の麻酔や採卵手技によってもしも事故が生じ、卵子提供者が傷害されるようなことになった際に、誰がそれを保障するのでしょうか。専門委員会が考えておられる「安全性に十分配慮する」ために、一体、具体的にどのような対策を出される予定なのでしょうか。少なくとも「十分に配慮する」ためになすべきことの例を示すべきではないでしょうか。

4)「優生思想を排除する」。
 ここでの「優生思想」が指す範囲、定義は何でしょうか?精子や卵子、胚をその遺伝的な性質で選別しない、ということを含意しているのでしょうか。
すでに実施されている某大学のAIDを推進している医師は、精子提供者が「その大学の医学部の学生で体育会サークルに属し、遺伝的疾患がない家系であることを審査している」と様々な媒体で発言されておられます。さらに、この大学のAIDによって生まれた子どもの発達(IQも含む)は、通常の妊娠によって生まれた子どもの平均値よりも高い、という論文さえ出されております。これは「優生思想」ではない、と判断されているのでしょうか。貴委員会が考えておられる「優生思想」とはどのようなものなのでしょうか。「優生思想を排除する」と明記すれば、それで批判がかわせるとでもお考えなのでしょうか。

5)「商業主義を排除する」。
 これについても、何を商業主義とするのかが明確ではありません。すでに、不妊治療を専門的に実施しているクリニックや病院が利益を多く得ていることは患者でも知っています。
 また、精子や卵子、胚を提供した人に何の金銭的対価を支払わないとすれば、それを提供する人の動機は何になるのでしょうか? 博愛・奉仕精神、それとも同情でしょうか。確かに、脳死o臓器移植における臓器提供の状況を見ると、博愛・奉仕・同情の 精神から提供する人も存在するだろうと思われますが、逆に、兄弟姉妹や近親者が「私が提供しなければ提供する人がいない」という立場に置かれて提供を申し出る状況、つまり、提供への圧力がかかる状況が強まる可能性があります。これは生体肝移植や腎臓移植にすでに見られます。「自由な意思」という名の圧力の存在について、どのように対処できるのでしょうか。それとも、たとえ圧力があってのことだとしても本人が自発的に名乗り出たのだとしたら、それは「自由意思」と認め、何の問題もない、という判断されるのでしょうか。

6)「人間の尊厳を守る」についても賛成ですが、人間の尊厳とは一体何でしょうか。
 不妊治療を経験した女性たちの話しを聞いていると、治療の現場では人間の尊厳が守られていない、と感じることが多々あります。例えば、カーテンやパーティションだけで仕切られた診察室にいくつもの内診台が並べられ、患者はその台の上であお向けで下腹部をあらわにした姿勢で、タオルや膝掛けのようなものもかけられないまま、待たされ、隣の処置の会話が聞こえてくる。人工授精の際に、看護婦さんが「この人はディ(AIDの隠語)です」とか「先生、それはこの方のではありません」などという声されも聞こえる。私は、こういう状態も「人間の尊厳が守られていない」と感じます。そうなると、現在のARTの実施現場そのものから変革しないと、人間の尊厳が守れる状況にはなりませんが、委員の方が考えておられる「人間の尊厳」というのはどのようなものでしょうか?

 以上のように、この6項目の曖昧さと、さらにこの6項目間での優先順位が明確にされていないために、報告書において矛盾が見られます。これでは、報告書の一部の修正では済みません。

【2】報告書にみられる委員の価値意識

 この報告書を読んで、上記の6点以外に貴専門委員会委員が有されている「思想」と「価値意識」、不妊治療という医療への「認識」についても疑問を抱きました。

1)まず、「子を持ちたいという希望」にはできる限り応えるべきであり、そのために実施される技術を拡大すれば良い、とする考えについて述べます。
 「子を持ちたいという希望」にできるだけ応えようとすることについては、個人の価値観の違いになってきますから、ここでは詳しくは述べません。ただ、1点だけ、不妊の人たちは、「子どもが妊娠/出産できない」からではなく、「結婚していて子どもが欲しいのにいない」という社会的状況によって苦しんでいる、という認識をもっていただきたいと思います。つまり、不妊の悩みや苦しみの解決策は、不妊治療だけでは解決できないのです。[詳しくは柘植あづみ「生殖技術と女性の身体の間」、『思想』2000年2月号を参照ください。]

2)また、ARTの応用を拡大すれば「子を持ちたいという希望」に応えられる、と考えることは、あまりにも不妊治療およびその成功率についての認識が低いと思います。
 不妊治療の成功率は、医師が報告する際には不妊治療をしている人の5割以上は出産できるとするかなり高い数値が示される傾向にあります。しかし、私が、20歳代から40歳代で当初不妊治療をしていた10名に長期間(7−9年)に継続の聞き取り調査をしてきた結果では、不妊治療によって妊娠・出産できた人は,検査中1名、AIH1名、AID1名の3名で、さらに体外授精をやめて1年後に自然妊娠・出産した人1名でした。不妊治療の成功率は3割です。人数が少ないからという反論が出るかもしれませんので、厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医師及び国民の意識に関する研究」研究報告書を引用し、検討します。

  排卵誘発剤 人工授精 体外受精 顕微授精 その他 合計
(治療を)現在受けている 165,500 35,500 17,700 14,500 51,600 284,800
(治療を)過去に受けた 709,000 271,500 99,900 14,500 340,000 1,434,900
治療して子どもが生まれた 314,500 37,800 35,500 35,500 190,000 613,300
合計 1,189,000 344,800 153,100 64,500 581,600 2,333,000

注:表の縦方向は回答に重複はなく、横方向は回答に重複がある。報告書の縦報告の合計が若干計算が間違っていたため、それを修正した。総合計の2,333,000は同じである。

 上の表から、不妊治療の成功率を求めてみます。横の集計には重複して治療している人が含まれていること、現在不妊治療をしている人のうち、将来、何人に子どもが生まれるのかが不明であることから、精確な数値ではありませんが、治療して子どもが生まれた613,300人を合計である2,333,000人で割ると成功率は26%、治療して子どもが生まれた613,300人を過去に治療を受けた人と治療して子どもが生まれた人の合計2,048,200人で割っても30%という成功率であることがわかります。

 さらにフィンレージの会という自助グループが会員への調査結果を見てみましょう。

 不妊治療の結果(治療結果について回答した人798人)

タイミング指導または排卵誘発+タイミング指導で出産に至った*1 53人
その休止中に妊娠・出産に至った 30人
AIHによって出産に至った*2 38人
その休止中に妊娠・出産に至った 33人
GIFT・ZIFTで出産に至った*3 4人
体外受精・顕微授精で出産に至った*4 70人
その休止中に妊娠・出産に至った 17人
体外受精・顕微授精の間または止めた後にAIHにて妊娠・出産 5人
AIDで出産に至った*5 3人
不妊治療によって出産に至った合計A 173人
不妊治療の休止中または止めた後に出産に至った合計B 80人

*1:結果の無回答者7人。
*2: AIH実施回数1-3回144人、4-6回127人、7-9回76人、10-14回92人、15-19回35人、20回以上52人、他10回以上1人計527人中。結果の無回答者12人。
*3:27人中。回数統計は載せられていない。
*4:体外受精・顕微授精実施回数1-3回208人、4-6回97人、7-9回31人、10回以上24人計360人中。結果の無回答者0人。
*5:AID実施回数1-3回11人、4-6回3人、7-9回4人、10回以上6人計24人中。結果の無回答者2人。

 ここからわかるのは、何らかの不妊治療を受けた・受けている人、798人中、すでに不妊治療によって出産した人が173人(22%)、直接的には不妊治療によってではなく出産した人が80人(10%)だということです。現在も継続中の人は205人(26%、ただし出産した後に再度治療をしている人も含まれる)。残りの人は子どもができなかったが治療を止めた人です。一度出産して再び治療継続している人の重複があるため、この表から読み取れることの限界はあります。また、入会動機が、不妊治療をしてもなかなか妊娠しないために悩んでいる、情報が欲しい、という人も少なくないと思われるため、出産率が低くなっていることも考えられます。それでも、厚生科学特別研究から求めた結果、最低で26%、最高が30%と大きくは違いません。
 排卵誘発剤による妊娠・出産を除くと、両調査から求められる成功率はさらに下がります。
 不妊治療の成功率が低く、不妊治療を経験した人の3割程度だろうということは、私がインタビュー調査をした医師の何人かが認めています。[柘植あづみ『文化としての不妊治療』1999、松籟社をご参照ください。]
 つまり、精子・卵子・胚の提供による体外受精を認めたとしても、何年も不妊治療をしても出産に至らない人が多いのです。
 次に、AIDや精子・卵子・胚提供による体外受精などの第三者が係わる不妊治療を望む人々は不妊治療を受けている人においても少ない、ということです。
もちろん、少数派だからといってその人たちの希望を無視すれば良い、とは考えません。しかしながら、前述のように、夫婦間の不妊治療において妊娠・出産できると診断された人においても、出産に至らず、あきらめて行く人たちが少なくない現状で、なぜ、第三者が係わる不妊治療を認めるという技術の応用の拡大だけが検討されるのか、を熟考していただきたいのです。
 不妊治療には限りませんが、強く希望していても、どこかであきらめなければならないことがあります。医療技術の進展は、このあきらめなければならない線を単に時間的に後ろにずらしているだけだと思います。これは出産できた人にも言えるのです。私の調査からは、不妊治療で一人子どもが生まれた方が、その次に、二人目はまだなの、とか、一人っ子はかわいそうよ、という周囲からの言葉に傷つき、苦しんだことを話されていました。また、他の出産された方2人の例では、子どもが未熟児で生まれたこと、アトピー性皮膚炎があったこと、それぞれの理由から「母親の責任」を強く感じて悩まれました。
 貴報告書を読むと、出産すればそれでめでたしめでたし、とお考えになられているようですが、それについて疑問でなりません。不妊治療をやめて子どもをあきらめた時点で、新しい仕事や生き方を見つけて、いま楽しい、とおっしゃる方もいらっしゃいます。養子縁組を選択して、大変だけれど子育てがとても楽しいとおっしゃる方もいらっしゃいます。
 医療技術が進展しつづけるために、あきらめるという選択肢が見えなくなり、次の新しい選択肢へと進めない、という現状があることも知っておいていただきたい、と思います。

3)日本の医療における問題

(1)インフォームドコンセントの不十分さ

 不妊治療においては、インフォームドコンセントの充実のためと考えてか、時間の節約のためか、集団での体外受精等の説明会、ご自分の著書やを読むとかビデオを見るようにいわれる、という説明方法が多いようです。しかしこれは医師・医療機関側のインフォームドコンセントへの無理解を示していると思います。

(2)医師の診断の不統一

 「精子の提供を受けなければ妊娠できない」「卵子の提供を受けなければ妊娠できない」などを、誰がどんな基準で判断をするのかが不明です。現状でも、医師・医療機関によって判断は異なっています。これは私自身が行なった調査において不妊治療をしていた人たちが転院すると不妊原因の診断から異なり、治療も当然異なってきた例がいくつも見られたこと、また、東京女性財団による「女性の視点からみた先端生殖技術」においても男性12名、女性42名の各1回のヒアリング結果からも指摘されております(東京女性財団「女性の視点からみた先端生殖技術」2000年P184)。
 あるクリニックでは排卵誘発とタイミング指導で実施しましょうとかAIHを行ないましょう、と判断されたのに、違うクリニックでは即、体外受精(IVF-ET)や顕微授精と判断されることは少なくありません。私の調査事例の1例に、IVF-ETの適応とされてそれを2回受けたが妊娠せず、あきらめて違うクリニックで軽い排卵誘発剤をもらい、漢方薬も飲んでいるうちに自然妊娠・出産し、さらにその数年後に再度、自然妊娠・出産した方がいらっしゃいました。これは、不妊治療の患者にとってもできるだけ身体への侵襲の少ない、そして「自然」に近い方法で妊娠・出産したい、という気持ちが尊重されているか、という問題に加えて、医療費の問題にも係わります。当然、ARTの方が医療費がかかり、患者の負担が大きいからです。また、将来的に日常医療の範疇にARTが入ってきたときの保険診療にするか否かの問題とも係わります。
 つまり、医師によって診断および必要とする治療の判断が異なるという日本の状況において「誰が診断するのか」、「それが適切な診断か」には問題があることが大きな問題となります。提供精子・卵子・胚で早く妊娠させられるのなら、と、そちらを奨める医師の存在を否定できないでしょう。

(3)誰が管理や運営をするのか

 さらに、特に気になるのは、第一にこれらの提供にかかわる生殖補助医療の総合的な管理や運営を誰がするのか、監査は誰がするのかが現時点でがはっきりとしていないことです。私は公的管理運営機関による一元化管理が必要だと考えます。特に医師以外の専門的知識を有し、トレーニングを受けたスタッフを揃えた第三者機関の設立が必須だと考えます。

 以上の理由から、各論の検討をする以前になすべきことがあり、今回、このままの状態で各論の検討に進むべきではない、と考えます。
 最初に、国内で実施されている不妊治療の実態に関してこれまで調査されてきた資料を十分に読み込み、それでは不備な箇所を実際に調査する。
 特に、これまで調査されていないAIDに関する家族関係や子どもに事実を伝えるか否か、子どもに隠していた事実がわかったときにどのような問題・課題が生じたが、離婚や親の死亡(この際、特に父親の死亡)によって生じる問題・課題、などについての実態調査が行われるべきです。
 日本で実施するには限界がある際には海外調査でも代替できると思われますが、日本の社会・文化的土壌が存在することを考慮した場合にやはりこれまで実施されてきたAIDやまた、認められていないにもかかわらずいつくかのクリニック等で実施されてきた提供精子・卵子による体外授精の実態調査を行なうべきです。
 次に、兄弟姉妹等からの配偶子・胚の提供を認めるか否かの検討をする場合に、それは「匿名性」の原則から外れているわけですから、事前にこのような調査が必須であると考えます。
 また、報告書では、生まれた子が抱える可能性のある問題や出産する親の側が抱える可能性のある問題には、一定程度配慮されておりますが、精子・卵子・胚の提供者側が抱える可能性のある問題についての検討が不足しています。これについても、国内・外での資料収集や一時データの収集と分析が必要だと考えます。
 したがって、現時点で「三年後に精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施を開始する」と明言するのではなく、必要な実態調査を基に、問題・課題の検討を十分にされてから、あらためてたたき台が作成されることを要望します。


受付番号:29
受付日時:平成13年4月19日
年齢:30歳代〜60歳代
性別:女性2名、男性7名
職業:大学教員(各専門分野; 医学(外科医師)、哲学・倫理学、法学(刑法)、生物学、神経生理学、畜産学)
氏名:匿名希望
所属団体:日本科学者会議 生命倫理研究委員会
この問題に関心を持った理由:
 当研究委員会にとって重要な検討課題を含んでいるため。

御意見

●報告書をまとめる以前に検討すべきこと。

 AIDはすでに50年も実施されているにもかかわらず、追跡実態調査を行わないで、報告書をまとめることは問題である。 そこで、早急にAIDの追跡実態調査を実施し、出自を知る権利などの問題点を検討した上で、報告書を提出すべきである。

●II 基本的考え方について

1)第1項「生まれてくる子の福祉を優先する」とあるが、この「福祉」の内容はどのように定義されるのか不分明である。とりわけ第6項「人間の尊厳を守る」と言うこととの関連はどうなるのか。

2)「人間の尊厳を守る」と言うことは、第1項から第5項までの根底にある考え方ではないのか。つまりこの6項目が同等な権利を持って主張できるものではなく、むしろ他5項目の根拠に位置すべき考え方ではないか。

●III-1-(1)最初の丸について

 AID以外の生殖補助医療については、必要な制度の整備がなされるまで実施されるべきでない、として、AIDについては禁止していないことに、反対である。AIDについても禁止すべきである。早急にAIDの追跡実態調査を実施して、問題点を検討すべきである。

●III-1-(1)7番目の丸は正確に記述されるべきである。

 2行目「生まれてくるこの親の一方が最初から存在しない」というのはやはり「法律上」という言葉を入れるべきである。理由は、私自身「法律上の夫婦」に限定するという考え方に賛成するが、しかしそれは今日の時点でということである。将来「事実婚」が法律上も「法律上の夫婦」と同等の権利を持つような承認を得ることになった場合、あるいは「事実婚」の子どもが「法律上の夫婦」の子どもと同等の法的権利を持つようになった場合に、これを除外する必要はなくなるからである。理由の2番目は、この(1)全体で、「生物学上の親」と「法律上の親」を厳格に分けて、法律が保護するのは「法律上の親子関係」であることを鮮明にすることによって、成り立つ考え方ではないかと思われることである。

●III-1-(2)3番目の丸について

 AIDによる大きな問題の発生はこれまで報告されていない、としているが、実態調査を実施しないでこのようなことはいえないだろう。早急に実態調査を行って、当事者でなければわからないような問題点を明らかにすべきである。AIDが夫や妻や子にどんな影響をおよぼしたか、また、子の出自を知る権利に関してどのような問題があったかなど。
 AIDの実態調査を行い、AIDの問題点を検討した上で、報告書をまとめるべきである。

●III-1-(2)-(1)

 AIDに関しての項目であるが、この記述にはまったく反対である。 理由1 すでに過去50年を超える「実績」があるわけで、そうするとこの50年間のきちんとした「総括」を行うべきである。(2)は全般的に技術的に問題がないということが前提になっていると思われるが、この丸2で「6つの基本的考え方に照らして」とあるが故に少なくともこの報告が「子供の親」を「法律上の親」として確定し「子どもの法的身分」を安定させることが下で主張されるわけであり、こういう問題を含んでいるのではないか。「特段問題があるとは言えない」などと安直な文章で済ませるべきではない。少なくとも「法的身分」の動揺性をペンディングしたまま進めてきた医師群の責任をきちんとさせるべきではないか。そうでなければ、既成事実を作ってからそれを検証することなく承認させるという形に歯止めがかからなくなるのではないか。
 さらに問題なのは、AIDで産まれた子供たち(すでに50歳を超えている)の追跡調査、AIDで問題が生じないのかどうか、を検証することがなされていないことである。それぬきに「特段問題がない」と言えないのではないか。

●III-1-(2)-(2)、(3)

 精子提供、卵子提供の「体外受精」に関しても世界的には1978年以後のことであるとしてもすでに23年経っているわけであり、技術的な問題についての検証、あるいは、子どもの成長・及び子どもの権利(すなわち子どもの福祉)にかんする検証が「体外受精」に関してなされていないことは重視すべきである。したがって「特段問題がない」というような文章ではなく、やはり追跡調査のような研究が行われていない現実にたいして厳しい態度を取るべきである。認めるにしてもやはり、きちんとそういうプロジェクトを他面で進める必要があるのではないか。
 また次の(4)で始めて「凍結卵子による体外受精が技術的に確立されておらず、」と技術的な問題に言及しているが、「体外受精」そのものが、その技術的な検討抜きに承認されるのははなはだ疑問である。
 なお「人工授精」及び「体外受精」がどの程度の成功率を持ち、どのような影響を夫婦に与えるかに関しての言及がないのは問題である。少なくとも「専門委員会」でAID及び体外受精にかんする聞き取りを行ったわけであり、そういう不妊治療そのものの厳しさに関して言及しないのは、あたかもこれらの不妊治療を受ければ子どもがもてるというような幻想を与えかねないものである。
 本報告書が、不妊治療を推進するという「意図」のもとで作成されている印象を与えるのは問題ではないかと思われる。むしろ、子供が産まれないと言う「夫婦」のあり方にたいして、選択肢はいくつかあるわけでそれらの選択しにニュートラルな報告になるようにすべきである。

●III-1-(2)-(4)

 余剰胚の使用に関しては、もっと慎重な取り扱いが必要である。また例外として、「整理・卵子の提供を受けて得られた胚の移植」を認めるとなっているが卵子提供が女性の体にたいして甚だしい影響を与えることを考慮すると、これは認めるべきではないと思われる。

●III-1-(2)-(5)

 賛成

●III-1-(3)

 卵子提供に関しては、きわめて影響が大きいことを考慮に入れて禁止すべきであろう。

●III-1-(3)-(3)

 「精子・卵子・胚を提供する場合には匿名とする。」これは、提供者と提供を受ける人の間での「匿名性」の確保と言うことに限定すべきである。三つ目の○に関しては、これは少なくとも報告書はこういうことを言う学問的な権利を持っていないと考える。なぜなら、先に述べたようにここで述べられた認識を前提にして一切の検証を行ってきている「人工授精」「体外受精」に関して厳しい反省を行っていないからである。少なくとも子どもの方が自己の出自を知らないが故の自己喪失感を持つこと、あるいはルーツをさがそうとすることはすでに「養子」問題の側から報告されている。こういう点に関して、検証を抜きにして、進められたのがこの専門委員会の議論であったことを忘れてはならない。
 さらに言えば、「その子や当該精子・卵子・胚を提供した人の家族関係などに悪影響を与える」云々とされているが、「その子」と「提供者」とを対等に並べるのは、きわめておかしいのではないか。「その子」は通常の親子関係と同様に何らの同意も抜きにそういう決定をされているわけで、それに対して「提供者」は説明を受け同意しているわけであり、自己責任の問題が生じるのではないか。少なくともここの(3)において「子どもの出自を知る権利」を制限する根拠は、「提供者のプライヴァシー」の問題と「ドナー減少」という生殖医療を進める側の論理であって、子どもに即して、子どものうちに根拠を持っていないと言えよう。そうすると「子どもの出自を知る権利」を制限する正当性はないと言わねばならないのではないか。責任のある側が責任を免れようとする論理でしかないのではないか。この「子どもの出自を知る権利」を否定する論理は成り立たないのではないか。通常の親子関係、そして「特別養子縁組」による子どもも「子どもの出自を知る権利」は守られている。そのなかで不妊治療によって産まれた子供だけはこの権利を否定される。これはきわめて危険な状況を生み出すのではないか。そして不妊治療を受ける親、提供者だけがこのような特権的地位を与える根拠はないだろうと思われる。少なくともこのような「特権的な扱い」の正当性はどこにも示されていないのではないか。
 まして今日「自己情報コントロール権」という積極的な「プライヴァシー権」も主張されている時代である。そうすると生殖補助医療技術によって産まれた子供もまたこの権利を正当に認められるべきではないか。それを「提供者のプライヴァシー」の名の下に否定することは、結局「自己の出自」ついて自分は知らないけれども医師と提供者(あるいは医師だけ)は知っているという奇妙な事態を現出することになる。これは甚だしい人権侵害ではないか。
 積極的に提案すれば、「子どもの側が一定の年齢になれば、知ろうとすれば知りうる条件を作っておくこと」が必要で、この子どもの親には子供の生物学上の親を知る権利を否定すること、また子どもの法律上の地位を確定しておくことで十分に「子どもの権利」を否定することなく「ドナー」をも守れるのではないか。

●III-1-(3)-(4)まったく反対。それ以上にナンセンスである。これはまったく憤りを感じるものである。これではあまりに何とか不妊治療のを促進したいという動機だけが根拠となっているものでしかないだろう。

 (3)で、「子どもの出自を知る権利」を否定してまで守ろうとした「ドナーのプライヴァシー」が簡単に否定されてしまうようなこの項目は何なのだろうか。まったくレシピアント・ドナー間の匿名性あるいは、「商業化」を否定する報告にもかかわらず、特別の力が働く(ましていまだ個人の独立よりも家族の維持の方に比重がかかる文化状況を払拭できていない)日本の国でこんなことをやれば、まったくプライヴァシーは守られないし、家族関係破壊につながるだろうと思われる。まして女性をもののように扱う事態が現出するだろう。これは「人間の尊厳」という基本的な考え方、そして人権にたいして、きちんと認識し直して再検討すべきである。
 ○を4つも使ってこの場合の弊害を述べながら、あっさりと「十分な説明・カウンセリング弊害の認識」などと言えるならば、これはそもそも生殖医療技術の前提とされた「ドナーのプライヴァシー」など完全に吹っ飛んでしまうのではないか。それだったら、「ドナーに」きちんと「十分な説明・カウンセリング・来るべきリスク」を説明して、「匿名性」などはまったく必要なくした方が筋が通っていると言えるだろう。
 精子・卵子・胚の提供は、匿名を原則としているのだから、兄弟姉妹等からの提供についても匿名とすべき。腎臓や肝臓の生体からの移植では、患者本人の生命を救うために兄弟姉妹や親や子から臓器が提供されているが、一方、生殖補助医療では患者は不妊症で悩んではいるが本人の生命が脅かされてはいないので、匿名にしないで、兄弟姉妹等からの精子などの提供は認めるべきではないだろう。


受付番号:30
受付日時:平成13年4月22日
年齢:30歳代から50歳代
性別:男性10名、女性2名 現在計12名
職業:哲学、倫理学、生命倫理学、法医学
氏名:日本医学哲学倫理学会・国内学術交流委員会
所属団体:同上
この問題に関心を持った理由:
 第1に、国内学術交流委員会は、生命倫理関係の社会的に問題になっている懸案にたいする学会の意見のとりまとめを課題の一つとしているため

御意見

1.今回は2ヶ月の意見公募期間がありましたが、やはり学会として組織の意見をまとめるのは、この程度の期間が必要だと考えます。

2.全体の基本的なスタンスの取り方について

1)まずこの点で、今回の報告書は、「生殖補助医療」という子どもの産生に限定した報告になっておりますが、すでに科学技術庁などで、受精卵の研究利用などの問題で、報告がなされ、クローンの研究利用及び産生に関しての禁止などについては法的規制がなされています。そうしますと、例えば、フランスの「生命倫理法」のような法的規制、あるいは包括的なガイドラインなど、生殖医学全般にかんする包括的な議論を日本でも行い、その上で決定されるべきだと考えます。
 とりわけ、「ヒト胚」の委員会では、「いつから人間か」という問題が提起されたにもかかわらず、問題が限定されていることを理由にこの問題は議論されないまま・未解決のままになりました。今回は「子どもの産生」にかかわるものとなっております。
 それぞれ限定的に議論することによって、その「生殖医学」の問題群のなかで、すり抜けてしまう問題が生じるのではないかと危惧するものであります。
 できるだけ速やかに生殖医学にかかわる問題点に関して、包括的に議論していくことが望まれるのではないかと考えます。

2)今回の報告書は「生殖補助医療のあり方」についての報告のはずであり、本来「不妊治療」を進めるための報告書であってはならなかったのではないかと考えます。ですが結果として出てきたものは、「あらゆる機会を通じて不妊治療を押し進める」ためのものになっている印象を与えます。「子供が産まれないが子どもを望む夫婦」にとって、「不妊治療」は一つの選択肢でしかありません。その点をきちんと押さえて、夫婦、産まれてくる子供の「人間の尊厳」を尊重する議論がなされる必要があると考えます。

3)今回の報告書は、以下で具体的に述べますが、子どもの権利・夫婦の権利・ドナーの権利についての優先順位に関して混乱が見られます。それとの関連で「医師の義務および権利」に関してきわめて甘いものになっていると考えます。
 この点では、まず「子どもの権利」が最優先されるべきことです。その点で、「子どもの出自を知る権利」はほかの二つの権利との関係では最優先であり、ドナーの権利との権利と衝突する場合には「子どもの出自を知る権利」が優先されるべきだと考えます。その結果ドナー減少を引き起こし、「不妊治療」が難しくなったとしてもそれはやむを得ないことだと考えます。

3.以下で逐条、意見を述べさせていただきます。

II 基本的考え方について

1)第1項「生まれてくる子の福祉を優先する」とありますが、この「福祉」の内容はどのように定義されるのか不分明です。とりわけ第6項「人間の尊厳を守る」と言うこととの関連はどうなるのでしょうか。

2)「人間の尊厳を守る」と言うことは、第1項から第5項までの根底にある考え方ではないで しょうか。つまりこの6項目が同等な権利を持って主張できるものではなく、むしろ他5項目の根拠に位置すべき考え方であると考えます。

III-1-(1)説明部分の4番目の丸は正確に記述されるべきです。

 2行目「生まれてくるこの親の一方が最初から存在しない」というのはやはり「法律上」という言葉を入れるべきです。
 理由は、「法律上の夫婦」に限定するという考え方に賛成しますが、しかしそれは今日の時点でということです。将来「事実婚」が法律上も「法律上の夫婦」と同等の権利を持つような承認を得ることになりました場合、あるいは「事実婚」の子どもが「法律上の夫婦」の子どもと同等の法的権利を持つようになりました場合に、これを除外する必要も理由もはなくなるからです。
 理由の2番目は、この(1)全体で、「生物学上の親」と「法律上の親」を厳格に分けて、法律が保護するのは「法律上の親子関係」であることを鮮明にすることによって、成り立つ考え方ではないかと思われることです。
 全体として(1)はその意味で賛成です。
 第1に、それはさまざまな大人の場合には、事実婚とか、あるいはホモセクシュアリティの方の権利としての「結婚」などは現実にあるわけですが、それはまだ決着が付いていない問題ですし、決着が付いていない段階で「子どもの福祉」、「子どもの権利」を最優先することは当然であると考えるからです。
 第2に、ここでの考え方として理解できるのは、「遺伝上の親」と「社会上の親」の分裂という歴史的にも社会的にも存在する(たとえば、養子縁組の場合、さらに精子提供にもとづく事例を挙げることができます)ことを承認し、そのうえで「社会上の親」を正当に法律上も承認するという考え方と思われます。これは日本の「血統主義」にたいして正当な前進を示すものと思われるからです。

III-1(2)-(1)AID(提供精子による人工授精)

 AIDに関しての項目であるが、この記述にはまったく反対です。

理由1 すでに過去50年を超える「実績」があるわけで、そうするとこの50年間のきちんとした 「総括」を行うべきです。(2)は全般的に技術的に問題がないということが前提になっていると思われますが、この丸2で「6つの基本的考え方に照らして」とあるが故に少なくともこの報告が「子供の親」を「法律上の親」として確定し「子どもの法的身分」を安定させることが下で主張されるわけであり、こういう問題を含んでいるのではないでしょうか。「特段問題があるとは言えない」などと安直な文章で済ませるべきではありません。少なくとも「法的身分」の動揺性をペンディングしたまま進めてきた医師群の責任をきちんとさせるべきではないか。
 そうでなければ、既成事実を作ってからそれを検証することなく承認させるという形に歯止めがかからなくなるのではないか。

理由2 さらに問題なのは、AIDで産まれた子供たち(すでに50歳を超えている)の追跡調査、AIDで問題が生じないのかどうか、を検証することがなされていないことです。それぬきに「特段問題がない」と言えないのではないでしょうか。
 とりわけ、「養子縁組」ではそういう研究も行われていることを考慮に入れると、AIDで産まれた子供に関してもこのような研究ができないことはないのではないかと思います。

III-1-(2)-(2)、(3)体外受精について

 精子提供、卵子提供の「体外受精」に関しても世界的には1978年以後のことであるとしてもすでに23年経っているわけであり、技術的な問題についての検証、あるいは、子どもの成長・及び子どもの権利(すなわち子どもの福祉)にかんする検証が「体外受精」に関してなされていないことは重視すべきです。
 したがって「特段問題がない」というような文章ではなく、やはり追跡調査のような研究が行われていない現実にたいして厳しい態度を取るべきです。認めるにしてもやはり、きちんとそういうプロジェクトを他面で進める必要があるのではないしょうか。
 また次の(4)で始めて「凍結卵子による体外受精が技術的に確立されておらず、」と技術的な問題に言及していますが、「体外受精」そのものが、その技術的な検討抜きに承認されるのははなはだ疑問です。
 なお「人工授精」及び「体外受精」がどの程度の成功率を持ち、どのような影響を夫婦に与えるかに関しての言及がないのは問題です。少なくとも「専門委員会」でAID及び体外受精にかんする聞き取りを行ったわけであり、そういう不妊治療そのものの厳しさに関して言及しないのは、あたかもこれらの不妊治療を受ければ子どもがもてるというような幻想を与えかねないものです。
 本報告書が、不妊治療を推進するという「意図」のもとで作成されている印象を与えるのは問題ではないかと思われます。むしろ、子供が産まれないと言う「夫婦」のあり方にたいして、選択肢はいくつかあるわけですから、それらの選択しにニュートラルな報告になるようにすべきです。

III-1-(2)-(4)

 余剰胚の使用に関しては、もっと慎重な取り扱いが必要です。また例外として、「精子・卵子の提供を受けて得られた胚の移植」を認めるとなっていますが、卵子提供が女性の体にたいして甚だしい影響を与えることを考慮すると、これは認めるべきではないと思われます。さらに注意すべきは「胚の地位」の議論はまったく日本で話されておらず、それが未決着の課題であるということです。
 余剰胚に関しては「研究利用」の射程に入ってきていることがあります。ですから、ここで「不妊治療」に関してのみと限定したとしても、他人のために利用することを認めたとすれば、親の同意があれば、ほかに利用できると言うことになってしまい、なし崩しに「研究利用」まで進んでしまう可能性を含みます。これは本意見書の最初に述べた「包括的な議論」を回避して進めてきた危険性を象徴するものではないでしょうか。
 さらに言えば、次の項目で、サロゲートマザーを禁止する理由は、「ヒトをもっぱら生殖の手段として扱ってはならない」、「安全性に十分配慮する」「生まれてくるこの福祉を優先する」の三つが記載されています。これは、結局この方法の場合に生じてくる倫理的問題が生じてくると言うことから許容されないと言うことだと考えられます。そうであるとするなら、受精卵、卵子の提供の場合も、同じ問題が生じてきます。たとえば、産まれてきた子供が障害を持っていたらどうなるのでしょう。もちろんこの場合、提供された親が引き受けるべきですが、このとき、この障害が遺伝的なものなのかどうか、結局は胎児診断が行われることになるのではないでしょうか。そして最終的には、胎児診断から胚の診断への道が開かれていくことになるでしょう。不妊治療を受けている人自身がその結果を利用しないと言うことはあり得ないでしょう。このときこそ、まさに「人をもっぱら生殖の手段として取り扱うことになる」のではないでしょうか。

III-1-(2)-(5)

 賛成

 理由は上記と同じ。

III-1-(3)

 卵子・胚の提供に関しては、きわめて影響が大きいことを考慮に入れて禁止すべきであろう。

理由1.上述の通り

理由2.この案では、胚の移植は、そうでなければ妊娠できない夫婦に適用するとしながら、「卵子の提供を受けることが困難である場合」にも適用でき、さらには「余剰胚」の提供を容認することを足場に、「精子・卵子両方の提供」による胚移植も容認するとしておりますが、ここに「生殖補助医療の推進」の立場からの便宜主義的な主張に思われます。

III-1-(3)-(3)

 「精子・卵子・胚を提供する場合には匿名とする。」
 これは、提供者と提供を受ける人の間での「匿名性」の確保と言うことに限定すべきです。
 三つ目の○に関しては、これは少なくとも報告書はこういうことを言う学問的な権利を持っていないと考えます。なぜなら、先に述べたように、ここで述べられた認識を前提にして一切の検証を怠っている「人工授精」「体外受精」に関して厳しい反省を行っていないからです。
 少なくとも子どもの方が自己の出自を知らないが故の自己喪失感を持つこと、あるいはルーツをさがそうとすることはすでに「養子」問題の側から報告されている。こういう点に関して、検証を抜きにして、進められたのがこの専門委員会の議論であったことを忘れてはならないでしょう。
 さらに言えば、「その子や当該精子・卵子・胚を提供した人の家族関係などに悪影響を与える」云々とされているが、「その子」と「提供者」とを対等に並べるのは、きわめておかしいのではないか。「その子」は通常の親子関係と同様に何らの同意も抜きにそういう決定をされているわけで、それに対して「提供者」は説明を受け同意 しているわけであり、自己責任の問題が生じると思います。
 少なくともここの(3)において「子どもの出自を知る権利」を制限する根拠は「提供者のプライヴァシー」の問題と「ドナー減少」という生殖医療を進める側の論理であって、子どもに即して、子どものうちに根拠を持っていないと言えるでしょう。そうすると「子どもの出自を知る権利」を制限する正当性はないと言わねばならないの ではないでしょうか。責任のある側が責任を免れようとする論理でしかないので はないでしょうか。その意味で、この「子どもの出自を知る権利」を否定する論理は成り立たないのではないでしょうか。通常の親子関係、そして「特別養子縁組」による子どもも「子どもの出自を知る権利」は守られています。そのなかで不妊治療によって産まれた子供だけはこの権利を否定されるというのは、きわめて差別的な処遇と言わねばなりません。それを法によって正当化することは、きわめて危険な状況を生み出すのではないかと思います。
 そして不妊治療を受ける親、提供者だけがこのような特権的地位を与える根拠はないだろうと思われる。少なくともこのような「特権的な扱い」の正当性はどこにも示されていないのではないとおもわれます。
 まして今日「自己情報コントロール権」という積極的な「プライヴァシー権」も主張されている時代です。そうすると生殖補助医療技術によって産まれた子供もままたこの権利を正当に認められるべきではないかとおもわれます。それを「提供者のプライヴァシー」の名の下に否定することは、結局「自己の出自」ついて自分は知らないけれども医師と提供者(あるいは医師だけ)は知っているという奇妙な事態を現出することになります。これは甚だしい人権侵害であるとおもわれます。
 積極的に提案すれば、「子どもの側が一定の年齢になれば、知ろうとすれば知りうる条件を作っておくこと」が必要で、この子どもの親には子供の生物学上の親を知る権利を否定すること、また子どもの法律上の地位を確定しておくことで十分に「子どもの権利」を否定することなく「ドナー」をも守れるのではないかと思われます。

III-1-(3)-(4)

 まったく反対。不整合の最たるものです。
 これはまったく憤りを感じるものです。これではあまりに何とか不妊治療のを促進したいという動機だけが根拠となっているものでしかないということを述べるようなものです。
 理由は、(3)で、「子どもの出自を知る権利」を否定してまで守ろうとした「ドナーのプライヴァシー」が簡単に否定されてしまうようなこの項目は何なのでしょう。
 まったくレシピアント・ドナー間の匿名性あるいは、「商業化」を否定する報告にもかかわらず、特別の力が働く(ましていまだ個人の独立よりも家族の維持の方に比重がかかる文化状況を払拭できていない)日本の国でこんなことをやれば、まったくプライヴァシーは守られないし、家族関係破壊につながるだろうと思われる。まして女性をもののように扱う事態が現出するだろう。
 これは「人間の尊厳」という基本的な考え方、そして人権にたいして、きちんと認識し直して再検討すべきです。

 理由2。○を4つも使ってこの場合の弊害を述べながら、あっさりと「十分な説明・カウンセリング弊害の認識」などと言えるならば、これはそもそも生殖医療技術の前提とされた「ドナーのプライヴァシー」など完全に吹っ飛んでしまうのではないか。それだったら、「ドナーに」きちんと「十分な説明・カウンセリング・来るべきリスク」を説明して、「匿名性」などはまったく必要なくした方が筋が通っていると言えるだろう。

III-1-(3)-(7)カウンセリングの機会の保障

 この位置に「カウンセリングの機会の保障」とあるのはこのカウンセリングをすでに「不妊治療」を促進するためのカウンセリングと方向づけてしまっているようなものです。  すでに述べたことでもありますが、本来この報告書は、不妊治療にたいして「ニュートラルな報告」になるべきであると考えます。
 そうしますと、この場合、カウンセリングの第1義的な課題は、まず子供が産まれない夫婦にたいして不妊治療を勧めるのではなく、「子供が産まれない」という自体にたいしてその夫婦がきちんと自分たちで立ち向かうことを支援することにあると思います。
 そのうえで、不妊治療というのはそのような夫婦にとっての一つの選択肢でしかないということをきちんと踏まえたカウンセリングになると思います。簡単にいって、選択肢としては「子どもがいない二人」として自らの人生を形成していく、第2に、「養子縁組」をする、第3に不妊治療を行う、ということになると考えます。
 そういうカウンセリングが何よりもまず必要なのではないでしょうか。
 そのうえで、それぞれの夫婦の選択肢に即してのカウンセリングが必要になることでしょう。ですから、一番最後に「カウンセリングの機会の保障」が置かれるのではなく、不妊治療の一番最初にこれが位置づけられることが必要ではないかと考えます。
 もちろん、こう言いますと、これは「精子、卵子、胚……」の提供に関する報告書なのだからといわれるかもしれません。しかし、この「生殖補助医療技術」専門委員会は、当然そのために、Iで述べられているように「促進」が課題ではないはずである「適性」に行われることが課題のはずです、その点で、このカウンセリングに関しては述べております。
 そしてこの項目の「専門団体などによる当該生殖補助医療に関する専門知識を持つ専門カウンセラーの認定制度が創設され、そうした専門カウンセラーの育成が推進されることが望まれるところである」とされておりますが、この推進は重要であり、上のような視角から推進されるように望みます。

III-1-(3)-(8)精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の保護

 保留ただし、囲み内の「公的管理運営機関」の設立は賛成です。

 理由1。「卵子・胚」に関しては先に述べた意見に基づき、これを入れた形に関しては保留せざるをえません。

 理由2。「精子・卵子・胚を提供する人のプライバシーが守られなければ、当該生殖補助医療のための生殖補助医療のための精子・卵子・胚の提供の減少を招き、当該生殖補助医療の実施を実質的に困難にする恐れがある」
 これは「個人情報」の「適正な管理」の理由にはならないのではないでしょうか。そもそも「提供者のプライバシー」という観点からだけならば、提供した後でただちに廃棄すること、あるいは「個人情報」は提供しないでもらい、「精子」だけを提供してもらうことがもっともよいわけです。実際のところ個人情報抜きの「精子提供」では何故いけないのでしょう。「プライバシー」にとってもっともよい手段だと思うのですが。おそらくここでそれではそういう「精子」を受け取る夫婦がいなくなるという「生殖補助医療技術を担う医師」が登場するはずです。これが結局この報告の理由になってしまう印象を与えてしまいます。
 「提供者の個人情報」を提出させ保存管理する理由は、このような「生殖補助医療技術の促進」と言った観点や「提供者のプライバシー」と言った観点ではなく、この「個人情報」に関する(8)、(9)でほぼ完全に無視されている「出自を知る権利」との関係で 初めて問題になると思います。
 そして「守秘」の根拠は子どもの権利の側から基礎づけられるべきではないかと思います。つまり養子縁組もまたそうですが、子どもの両親は誰なのかということは子どものプライバシーにはいるわけです。そうすると「子どもの許可」なくして、「同意」なくしてプライバシーを暴露することは許されないことになります。それは「子どものプライバシー」「子どもの権利」を侵害するからです。
 どうも議論が反対になっているように考えます。

III-1-(3)-(9)精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の提出・保存

 これも保留です。ただし保存および「公的管理運営機関」の設立は重要であり、必要だと考えますので、賛成です。「卵子・胚」に関しては上述しましたように反対ですので、そういう意味も保留には含んでおります。
 賛成・保留の理由は理由付けが逆だはないかと考えます。(8)、(9)、は(「子どもの出自を知る権利」を含め)論理展開が逆ではないかと考えます。すなわち「子どもの(出自を知る)権利」の問題があるがゆえに、提供者の個人情報の提出が必要であり、かつ保存すべきなのだと考えます。そのうえで、「提供者の権利・プライバシー」の問題が来るのではなく、「子供の親」は誰なのか、が問題となり、そこで親子関係が確定するとすれば、「提供者の権利・プライバシー」はどのように守られるべきかという議論が来ると考えます。ですが、この報告書では逆の展開をしておられますから、保存・管理なども正当性を持たなくなってしまうことになり、むしろ「生殖補助医療技術」を施行する医師の願望・欲望が前面に出てきてしまっていると考えます。
 こうなりますとこの「医者」とは何ものなのでしょうか。自分だけを安全なところに置いてお金儲けする集団のごとき印象を与えてしまいます。
 しかし、この「個人情報」に関する(8)、(9)に関してまったく「子どもの出自を知る権利」に関しては触れられておりません。これでは、ここの議論の正当性を与えることができないと考えます。

III-2-(1)

 賛成

 ただし、「胚、卵子の提供」に関しては先の1に関する意見を前提にしております。
 理由は「商業主義」の否定の観点からです。

III-2-(2)-(1)

 保留

 少なくとも現在「胚」、「卵子」の提供までを承認する方向をとろうとするからこれだけ複雑な書き方をせざるをえないと考えます。
 ですが、そもそも「卵子」、「胚」の提供がかなりの問題を含み、まして「胚」に関しては「いつから人間か」の議論そのものを回避したところで進んできていることを考慮に入れるなら、「精子提供」だけに限って(これもすでに述べたように問題を含みます)、法的な規定もすっきりと「生んだ女性」が母親、「その夫が父親」として「親子関係」を確定し、現実に産まれてきている子供の地位をはっきりさせて守ることが重要だと考えます。

III-2-(2)-(2) 出自を知る権利

 反対

 理由1。「提供者のプライバシー」とは「子どもの自己情報コントロール権」の一部を構成することになるわけで、「知る」ことに関しては、子どもの権利を制限することは正当性を欠いていると考えます。

 理由2.少なくとも「子ども」はおしなべて生まれてくることを自分の判断で行うことができないわけです。しかし「提供者」は提供するか田舎の判断は、彼の自由の範囲にはいるわけです。そうすると自由の実現が提供となるわけで、そうすると当然行使した自由の責任として彼が親であることを「自分の自由の権利の実現の行使」の結果にたいしてとるべきです。それを自らの自由とは無関係に生み出された子どもの法に責任を押しつけるのは頂けません。

 理由3.「生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねない」と言うことが理由に挙げられるに至っては、あまりに「子ども」を犠牲にしながら、成人者が自分の自由を行使するということになるのではないでしょうか。
 この「報告書」は実際理由3があまりにも前面に出すぎるものだと思います。もっとニュートラルな報告にすべきです。

III-2-(3)、(4)体制の整備など

 この点もまた「子どもの権利」を中心に体制をつくるというように整理し直すべきです。

 最後になりますが、専門委員会の先生方が、2年以上の年月をかけて議論された努力には敬意を表させていただきます。しかし、現在「子どもの虐待」など子どもの置かれている情況があまりにもひどい状況を報道されております。
 そういう子ども、新しい日本の未来を担うべき子どもたちの将来にかかわる問題だと思います。そうしますと子どもの置かれている現実をもう一度再調査され、とりわけ、「非配偶者間人工授精」によって生まれてきた方々の聞き取り調査などももうできる状況にあるのではないかという気がします。実際養子縁組の場合にはそういう方々が発言をし始めていることもさまざまな本などで目にしますし研究書も出されております。
 「生殖補助医療技術」で子供を作られた方々に関しては、報告も一部なされております。しかし、ドナーになった方々、それによって生まれてこられた方々に関して本当に調査することは不可能なのでしょうか。
 そこからもう一度やり直されることを望みます。


受付番号:31
受付日時:平成13年5月1日
年齢:28歳
性別:女性
職業:不明
氏名:不明
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

 専門委員様

 「第三者からの精子・卵子の提供について」

 私は28才の女性です。結婚して3年ほどになります。
 子供をもうけたいのですが、病気のために卵巣の機能がなく妊娠するためには卵子の提供を受けなければなりません。アメリカへ渡って卵子提供を受けようか真剣に考えていましたが、昨年12月の報道によると第三者からの精子・卵子の提供が認められるとのことで迷っています。多額の費用がかかることもありますが、やはりコーディネートしてくれる会社やアメリカの病院が本当に信頼がおけるかどうか大きな不安があるからです。それ以前にそもそも人の命に手を加えていいのか、養子をもらうとか、2人での生活を楽しむことを考えようかとか、もし子供を産めてもDNAは受け継がれないんだなど、いろいろ思いを巡らしましたが、やはり子供を産みたいのです。
 日本で実施されるようになるまで約3年ほどかかるとのことですが、不妊に悩む女性にとってはたいへん長い年月です。
 もちろん慎重に検討していただく必要があると思いますが、一日も早く日本で実施されるようになることを切にお願いします。
 本当によろしくお願いします。



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