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受付番号:17
受付日時:平成13年4月17日
年齢:グループのため該当せず
性別:女性(スタッフは女性だけですが、会員には男性も若干含まれます)
職業:グループのため該当せず
氏名:フィンレージの会
所属団体:同上
この問題に関心を持った理由:
 全国にいる会員の多くが不妊治療を受診しており、会員自らに、直接関連してくる問題として、非常に注目しています。

会の概要
 子どもを望みながら子どもができない、いわゆる不妊という状態にある人々のセルフ・サポート・グループである。会の創設は1991年。会員は全国に約600名(2000年度)おり、加えて、連携して活動している地域自助グループも全国にある。活動としては、ニューズレターの発行、講演への講師派遣、地域の自助グループ活動への援助、不妊や不妊治療に関する実態調査等を行なっている。個人代表は置かず、10名以上のスタッフが中心となって手弁当で運営しているNGOである。これまでの活動の成果として、東京都女性財団からの援助を受けて1993年度に「レポート不妊ーフィンレージの会活動報告書」を、1999年度に「新・レポート不妊―不妊治療の実態と生殖技術についての意識調査報告」を発行した。「新・レポート不妊」では、1999年1月に、現会員と旧員857名からのアンケート調査結果をまとめたもので、不妊治療の実態を把握する貴重な資料であると自負している。2000年度には「加藤シズエ賞」を受賞した。

御意見

 指針案に対する意見

《総論》

1)提供についての矛盾した方針

 冒頭、III.1(1)「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療を受ける条件」として「○自己の精子・卵子を得ることができる場合には、それぞれ精子・卵子の提供を受けることはできない」(p.4)とありますが、これは、これ以降の記述と矛盾します。たとえば、「○ただし、卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦も、卵子の提供を受けることが困難な場合には、(夫の精子に問題がなくても)胚の提供を受けることができる」(p.9)となっている点などです。自己の精子・卵子を得ることができたとしても、妊娠できない夫婦は少なくないということを、考慮する必要があると思われます。

2)誰が判断するのか

 「精子の提供を受けなければ妊娠できない」「卵子の提供を受けなければ妊娠できない」などを、誰がどんな基準で判断をするのかが不明です。現状でも、医師・医療機関によって判断は異なっています。

3)誰が管理や運営をするのか

 特に気になるのは、これらの提供にかかわる総合的な管理や運営を誰がするのか、監査は誰が行うのかが現時点ではっきりとしていないことです。私たちは公的管理運営機関による一元化管理が必要だと考えますが、その具体的な内容が見えません。

4)金銭授受についてのあいまいさ

 金銭の授受について、実費とか対価といった表現があいまいで、何を指すのかよくわかりません。医療費、通院のための交通費、提供するために仕事を休んだ際の収入補填など、どこまで考慮されているのでしょうか。

 以下、本報告書の中で、疑問および異議のあるところだけ提示させていただきます。

●III.1.(2)(2)「提供精子による体外受精」 (p.7)

 本報告書では、「○ 女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供精子による体外受精を受けることができる」とあります。この定義を厳密に受け取ると、精子提供による体外受精を受けられるのは、女性の両卵管に問題があり、なおかつ男性不妊のケースのみとなります。
 現状では、強度の男性不妊の場合、女性の側に「医学上の理由」がなくても、体外受精・顕微授精が実施されています。また、顕微授精を行おうと、精巣等からの精子回収に挑戦するご夫婦もいます。いずれも、妊娠可能な精子が得られるという保障はないにもかかわらず、女性は排卵誘発剤の投与等、からだに負担のかかる“準備”をします。苦痛をともなう準備をしてきたのだから、採れた卵を無駄にしたくない、万が一、夫から「妊娠可能な精子」が得られなかった場合は“代替”として「提供精子」も利用したい、と希望するご夫婦もいると思われますが、この定義ですと、それはしてはいけないこととなります。こうしたケースについては、どのようにお考えでしょうか。

●III.1.(2)(3)「提供卵子による体外受精 」(p.8)

 本報告書では、「○卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供卵子による体外受精を受けることができる。*他の夫婦が自己の体外受精のために採取した卵子の一部の提供を該当卵子の採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け、当該卵子を用いて提供卵子による体外受精を受けることも認める。」とありますが、この文章には不明な点が多くみられます。

ア)金銭の授受を、誰が行うのかがわかりません。提供者は匿名が条件ですから、誰かが仲介すると想像されますが、金額など、最初の約束が守られなかった場合、誰が交渉にあたるのかも不明です。

イ)卵子提供には、排卵誘発や採卵時のリスクなどがあります。そのリスクに関する説明(インフォームド・コンセント)の具体的な内容や、方法についても不明です。

ウ)排卵誘発や採卵で事故(卵巣過剰刺激症候群やまちがった場所を刺したことによる大出血など)が生じた場合、あるいは提供者が高度障害などを残した場合、誰がどう補償するのかが不明です。もし、卵子提供が実施されるなら、骨髄移植における補償制度などと同様の、公的補償措置が準備される必要があると考えます。

●III.1.(2)(4)「提供胚の移植」(p.9)

 胚提供は、母親が出産する以外に、親の遺伝をまったく受け継がない子どもが生まれるという意味において、養子と実質的にはかわらないと言えます。この点を考慮し、このようにしてまで生殖医療を実施する意味について、再度検討する必要があると思われます。しかし、この技術を使って、出産から自らがかかわり、より実子に近い形で子どもを持つことに意義を持つカップルもいると思われ、その場合には、以下の2つの条件が必要と思われます。ア・提供者及び、提供される側双方に、心理的葛藤が生じる可能性があるため、養子縁組との比較を含めた、十分なインフォームド・コンセントがなされること。イ・提供を強制されないシステム(凍結胚の廃棄という選択肢も尊重される)を用意すること。提供胚を用いた妊娠は、両親からの遺伝をまったく持たない子どもが生まれるという意味で、養子縁組を代替する提供方法であり、将来的に社会的な問題が生じる可能性を最小にするという観点から、生殖にかかわる第三者の数は最小限に留めるべきだと思います。したがって新たな胚をつくることを目的として、精子・卵子をそれぞれ提供してもらい、移植用の胚を得ることには反対します。

●III.1(3)(1)「精子・卵子・胚を提供する条件」(p.11)

 まず、精子提供も、卵子提供と同様、婚姻の有無や子どもの有無の条件を定める必要があると思われます。たとえば、ある男性が独身のときに精子提供して、その後に結婚したとします。夫が過去に精子提供をしたことを妻が知った時、心理的なショックを受けたり、子どもが生まれている場合は、家族関係に混乱を招く可能性がある、と考えるからです。人工授精であれ、体外受精であれ、精子提供者は、ア.婚姻していること、イ.すでに自分の子どもがいること、ウ.妻の同意があること。この3つの条件を満たした場合に、はじめて提供できるものとすることが望ましいと考えます。なお、本報告書では精子提供できる人の条件を「満55歳未満の成人」(p.11)としていますが、この根拠が不明です。卵子には加齢による妊娠率の低下、異常があり、精子には、それがないと考えていらっしゃるからなのでしょうか。
 また、精子・卵子単独では年齢条件があるのに、胚については年齢条件がありません。これはどのような理由によるものでしょうか。私たちは、胚提供についても、実施されるのであれば、上記の3つの条件を満たすほうが望ましいと考えます。提供する夫婦2人の同意が必要なのは言うまでもありませんが、重要なのはその夫婦にすでに子どもがいることだと考えます。不妊治療を受けてきて、自分たち夫婦には子どもができず、その自分たちの胚を提供したことによって、他の夫婦に子どもができたということになると、その後の人生にも影響があるのではと思われるからです。また、「○同一の人からの卵子の提供は3回までとする」とありますが、何が3回なのか不明です。排卵誘発が3回なのか、採卵が3回なのか、それとも胚移植が3回なのか、わかりません。

●III.1(3)(2)「精子・卵子・胚の提供に対する対価 」(p.12)

 ここでは、「精子・卵子・胚の提供に対する対価」について、「精子・卵子・胚の提供に係る一切の金銭等の対価を供与および受領することを禁止する。ただし、実費相当分については、この限りではない」とされています。
 8ページでは「他の夫婦が自己の体外受精のために採取した卵子の一部の提供を当該卵子採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け」と記述されており、さらに13ページでは「当該卵子の採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担する」とされています。
 しかし、不妊治療の内容は多岐にわたり、そのつどプロセスも違うことから、何を「実費」「経費」と算定するのでしょうか。当事者間で決定するのは困難ですし、医師や医療機関によって異なるのも変ではないでしょうか。仮に金銭授受を認めるのであれば、算定の基準を設ける必要があると思います。

●III.1(3)(3)「精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持 」(p.13)

 どこまでを「匿名情報」とするのか、生まれた子どもの「出自を知る権利」と合わせて、もっと詳細に検討する必要があると思われます。また、提供者が受けられる情報(提供の結果=子どもができたかどうかなどを教えてもらえるのか)についても、検討する必要があると思われます。

●III.1(3)(4)「兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供」 (p.13)

 兄弟姉妹等からの提供は、さまざまな問題の種になるのではないかと懸念します。またここでは、「兄弟・姉妹等」と、親や友人なども含まれるような表現になっていますが、これは、兄弟・姉妹以上に、問題を拡大し、複雑化するのではないかと考えます。

理由1) 「提供における匿名性の保持」と矛盾します。兄弟・姉妹等からの提供は、匿名性が保たれません。

理由2) 提供者が身内にいて特定される場合、提供者の子どもに対する思い入れなども特別なものであると想像されます。そこを発端とする感情的なもつれ、親族関係にかかわるトラブルが生じる可能性は非常に高いのではないでしょうか。子どもとその周囲への影響を考えると、兄弟姉妹間の提供は非常にリスクが大きいと考えます。

理由3) 報告書では兄弟・姉妹等からの提供の条件として「提供する人に対する心理的な圧力の観点から問題がないこと」をあげていますが、これがどの程度保障できるか疑問です。兄弟・姉妹からの提供が“あたりまえ”になってしまったら、心理的な圧力は否めません。兄弟・姉妹だからこそ断りにくい、ということも予想されます。

●III.1(3)(5)「書面による同意 」(p.15)

 提供者側も提供される側、書面による同意について言及されていますが、同意書の具体的内容やその同意書を何年間どのような形で保管するかが不明であり、形骸的なものになる危険性が否めません。したがって、公的管理運営機関と公的審査機関の成立をみて、具体的な内容を示し、再度検討されることを望みます。

●III.1(3)(6)「十分な説明の実施」(p.17)

 本報告書では、提供者側も提供される側も、技術の実施の前に充分な説明を受けるとされていますが、誰がどのような内容(医療的内容にとどまるのか、その後の人生にかかわる可能性についてまで話すのかなど)の説明を行うのかが不明です。また一回限りの説明なのか、複数回説明が実施されるのかもこの文章からではわかりません。
 さらに、意思決定までの措置期間を設けるのかなども検討する必要があると思われます。

●III.1(3)(7)「 カウンセリングの機会の保障」(p.20)

 本報告書では、「提供する人およびその配偶者は生殖医療の実施に際して、当該生殖補助医を行う医療施設または当該精子・卵子・胚の提供を受ける医療施設以外の専門団体等による認定等を受けた当該生殖補助医療に関する専門知識を持つ人によるカウンセリングを受ける機会を与えられなければならない。」と書かれていますが、認定する専門団体が不明であるということ、カウンセラーを医療の専門知識をもつ者と規定しているために、単なる医療知識の説明のみに終始するのではないかと危惧をいだきます。

●III.1(3)(8)「精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の保護」(p.21)

 ここでは提供に関する個人情報を「医療施設または公的管理運営機関が管理」となっていますが、情報は医療施設ではなく、すべて公的管理運営機関が管理すべきです。

●III.1(3)(9)「「精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の提出・保存」(p.23)

 「提供者が生まれた子供に開示することを承認したもののみを開示する」という記述がありますが、この場合、子どもによって、得られる情報内容に差異が生じてしまいます。「出自を知る権利」でも触れますが、開示する個人情報に関しては、一定の基準を設ける必要があると考えます。

●III.1(3)(10)「同一の人から提供された精子・卵子・胚の使用数の制限」(p.24)

 本報告書では、「妊娠した子の数が10人」としていますが、何を根拠に10人としたのか不明です。
 いずれにしても、妊娠した子の数に上限を設けるならば、公的管理運営機関による情報の一元化が不可欠です。また、妊娠の事後報告ではなく、処置の実施前に審査や管理が必要であると思われます。

●III.1(3)(11)「子宮に移植する胚の数の制限 」(p.25)

 多胎妊娠のリスクを考慮すると、一回に子宮に移植する胚の数は、原則として一回に1個、移植する胚や子宮の状況によっては2個とするべきであると思います。それは、胚を2個移植して、3胎妊娠となっているケースが、当会の調査でも報告されているからです。

●III.2(1)「規制方法 」(p.26)

 本報告書では、罰則を伴う法律によって規制する行為として「○ 営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋」をあげていますが、斡旋だけでなく、営利目的と知りながら施術した者に対しての記述も必要であると思います。

●III.2(2)(2)「出自を知る権利 」(p.30)

 出自を知る権利は保障されなければならないと考えます。しかし、提供者に関する情報がどこまで提供されるべきかは、さらに多くの人を交えたうえでの検討が必要です。少なくとも、本報告書にあるように「提供した人が承認した範囲」という規定の仕方では、得られる情報に差異が生まれることから、賛成できません。公開に関する何らかの基準が必要と考えます。
 また、本報告書では、「提供によって生まれた子どもは、自己が結婚を希望する人と結婚した場合に近親婚とならないことの確認をもとめることができる」としていますが、提供者の子どもは、「結婚を希望する人と近親婚にならない確認」を求めることはできないのでしょうか。現実に、精子・卵子・胚の提供によって生まれた子どもが、その事実を知らされることは、現在の日本では非常に稀です。近親婚を避けるのがひとつの目的であるなら、双方がアクセスできるようにしておく必要もあるように思われます。

《最後に》

 本報告書の結論によれば、「必要な制度の整備を三年以内に行う」と記述されています。しかし、「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療」には、制度も含め、それに関わる社会面・倫理面の複雑な問題が関連しています。したがって、期間を三年と限定することには危惧をいだきます。「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療」の実施には、公的管理運営機関と公的審議機関の確立が不可欠であり、また個人情報の扱いやカウンセリング、インフォームド・コンセントのあり方などについて具体的な体制が示されて、はじめて「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療を実施」を検討することができると思うからです。
 したがって、現時点で「三年後に精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施を開始する」と明言することは避け、準備が整った段階で、あらためてもう一度検討されることが望ましいと考えます。
 また、これらの機関や体制が確立されるまでは、モラトリアム期間とし、精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施は控えられるべきと提言します。

以上


受付番号:18
受付日時:平成13年4月17日
意見提出者(年齢、性別、職業、氏名、所属団体)
 ○37歳、男性、大学助教授、市野川容孝、東京大学大学院総合文化研究科
 ○40歳、男性、研究員、ぬで島次郎(ぬでは木遍に勝)、三菱化学生命科学研究所
 ○42歳、女性、大学非常勤講師、松原洋子、所属なし
 ○54歳、男性、研究員、米本昌平、三菱化学生命科学研究所
 ○57歳、男性、弁護士、光石忠敬、光石法律特許事務所
この問題に関心を持った理由:
 生命倫理問題の歴史と現状を研究し社会的に発言をしてきた者として。

御意見

1.生殖補助医療の際限のない拡大を防ぐための倫理原則を確立すべきことについて

 報告書II「基本的考え方」では、「生まれてくる子の福祉を優先する」としている が、III以下の内容は、とりわけ以下の3、4で述べるように、生殖補助医療の不合理な拡大につながるものになっており、「生まれてくる子どもの福祉」ではなく、「子どもがほしい大人」「子どもを産ませたい産婦人科医」の意思が優先されている。
 専門委員会の議事録を見る限りでは、「他人に明白な害をもたらさない限り何をやっても自由、禁止できない」という一委員の極端な個人的自由主義が決定の根拠とされているが、そのような自由主義は学界でも一般社会でも多数の支持を得ているとは考えられない。当事者個々人の権利と、人の生命の尊厳の保持・社会の秩序の保持の適正な均衡を図ることを、政策決定の根拠とすべきである。
 そのために具体的には、II「基本的考え方」に、「生殖補助医療は夫婦の配偶子を用いるのを原則とする」と明記し、精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療は極力避けるべきであることを明確にすべきである。

2.専門委員会の運用と構成の不適格について

 この報告書を策定した専門委員会は、非公開のもとで審議を行い、議事録も2ヶ月以上遅れでなければ公開されておらず、生命倫理に関する国の審議会としての適格性を欠く。
 さらに同専門委員会は、日本産科婦人科学会会告違反で処分された医師を委員としていれ続け、その委員が主導して、その委員が違反で処分された行為を認める内容になっており(提供できる近親等を無限定にし、父親からの提供も認める点)、やはり適格性を著しく欠くものといわざるをえない。この提言部分は、以下の4で述べる理由に加えて、この理由からも到底容認できない。

3.提供精子と提供卵子による体外受精胚作成を容認したことについて

 報告書III1(2)○の4「提供胚の移植」では、「余剰胚の提供を受けることが困難な場合には、精子・卵子両方の提供によって得られた胚の移植を受けることができる」としている。利用できる胚を、不妊治療のためすでに作られながらもはや当人たちは使用しないことを決めた、いわゆる余剰胚に限定せず、精子の提供者と卵子の提供者をまったく別々に調達し、新たに体外受精胚を作成することを認めるというのである。
 子を成そうとしていない無関係の男女の配偶子を融合させ新しい生命を産み出すことは、精子または卵子どちらかだけの提供を受けることとは質的・倫理的に大きく異なり、人の尊厳に反する生命操作である。それは、精子・卵子提供者とその間に産み出される新たな人の生命を、自らの生殖目的で道具化することにほかならない。次の○5で代理懐胎を禁止している理由と同じである。このような変則的な方法を、生殖補助医療を不必要に拡大させることにはならないと断じる報告書の結論は、根拠不明で認められない。
 われわれの知る限りでは、生殖補助医療の公的規制を行う国で、このような変則的な方法を明示で認めた国はない。
 精子・卵子双方の提供を受け新たに体外受精胚を作成することを認めるのは、代理懐胎と同じく、他者を道具化することであり、人の尊厳に反し、生まれてくる子の出自を不必要かつ非合理的に混乱させるものであり、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に著しく反するので、断じて認めるべきではない。

4.提供者の匿名原則を破る特例を広く認めすぎていることについて

 報告書III1(3)○の4「兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供」では、精子・卵子・胚の提供者の匿名性の保持を破る特例としうる対象者の範囲を「特に限定せず」、結果的に、父母やいとこ、はては「親友等」からの提供まで認める内容になっている。
 これは、生まれてくる子の出自を不必要に混乱させ、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に著しく反することだと考える。また、提供者の選別に道を開くことで、「優生思想の排除」という基本的考え方にも反する。匿名原則を破る特例は、認めないとすべきである。この点では、われわれは、2001年2月に報道された日本産科婦人科学会倫理委員会の方針を支持する。

5.提供無償の原則違反への罰則の不十分さについて

 報告書III1(3)○の2「精子・卵子・胚の提供に対する対価」では、提供に係る一切の金銭等の対価の供与及び受領を禁止しているにもかかわらず、III2(1)では、法律に罰則を設けるのは、「営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋」と違う表現をとっている。なぜ刑罰を科すのは「営利目的」に限るのか。金銭的対価を伴っての授受自体が人の生命の尊厳に反するのであって、それが営利目的かそうでないかにはよらない。
 また、報告書は、「IV 終わりに」の最後で、胚の実験利用については「他の検討機関において別途検討がなされることが望まれる」としている。本報告書が罰則をもって法律で禁じるべきとしている精子、卵子、胚の営利目的での授受は、医療目的の授受を対象にしたものであって、研究目的での営利目的での授受を拘束するものではないということであれば、2000年12月に公布されたいわゆるクローン規制法が、精子、卵子、胚の金銭を伴う授受を禁止していないことと合わせて考えると、著しく責任を欠いた提言であると言わざるをえない。
 以上の理由により、法律では、「医療目的であるとそのほかの目的(研究目的など)であるとにかかわらず、人の精子・卵子・胚は金銭的対価を伴って授受されてはならない」と明記し、違反に対し刑事罰を設けるべきである。

6.無許可実施に罰則を設けていないことについて

 報告書III2(2)○の4では、「国が指定した医療施設でなければ、当該生殖補助医療を行うことはできない」としながら、III2(1)では、指定を受けずに実施した違反に対しては、法律で罰則を科す対象にしていない。これでは日本産科婦人科学会の会告と同じで、実効性のある規制となるとは考えられない。指定を受けずに実施した者に対しても法律で罰則を科すべきである。

7.「生殖補助医療」という言葉を再検討すべきことについて

 報告書では「生殖補助医療」という語を用いており、本意見書もそれに一応したがっているが、ここで対象になっている現在の生殖技術は、単なる「補助」の域を越え、生殖及び人の誕生のあり方に深く介入し操作するものになっている。「生殖補助医療」という語の無反省な定着は、これらの技術がもつ、生命と生殖への介入・操作の度合いの大きさに対する当事者及び一般社会の正確な認識を妨げる恐れがある。今後政策として実施していく際には、新たな名称の採用を含め、再検討すべきである。


受付番号:19
受付日時:平成13年4月17日
年齢:43歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:匿名希望
この問題に関心を持った理由:
 看護者の立場から,不妊治療を受ける女性や夫婦、家族の健康と生活に関心があります。

御意見

II 意見集約にあたっての基本的考え方

 この章は非常に重要であるにも関わらず、あまりに紙面が割かれていないことに疑問を感じます。とくに、第一番目に述べられている「生まれてくる子の福祉を優先する」ことの具体的状況を箇条書きする、あるいはその考え方を詳しく論じていただきたいと思います。

III 本論

精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について

(2)各生殖補助医療の是非について

(1)AID(提供精子による人工授精) (2)提供精子による体外受精 (3)提供卵子による体外受精 (4)提供胚の移植 (5)代理懐胎 のすべてに関して

 これらのなかで、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的な考え方に触れた解説があるのは(5)代理懐胎のみです。(1)〜(4)に関しても公平に論じられるべきだと思います。

(3)提供卵子による体外受精

 「*他の夫婦が自己の体外受精のために採取した卵子の一部の提供を当該卵子の採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け、当該卵子を用いて提供卵子による体外受精を受けることも認める」について卵子を提供する患者夫婦とどのような取り交しを行うのでしょうか。予め、卵子提供をするなら治療費が半額になる、とするのでしょうか。それとも、凍結保存されている卵子を用いて自己の治療をする意思がなくなった段階で提供の意思を確認し、他者に提供された段階で半額返金するのでしょうか。前者では、高額な治療に苦しむ患者の弱みにつけこむことになると思います。そのようなことが起こらないような措置を望みます。

(3)精子・卵子・胚を提供する条件等について

(1)精子・卵子・胚を提供する条件について

 「同一の人からの卵子の提供は3回までとする」とありますが、これは採卵回数を3回としているのでしょうか。それとも、不妊夫婦への提供を3回でしょうか。紛らわしいので明記していただきたい。

(3)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供について

 誰からの提供を認めるかは、むしろ(1)精子・卵子・胚を提供する条件、において論じるべきではないかと思います。匿名性の保持の特例として取り上げられることに異論を唱えます。まず、第三者が第一義なのか、第三者も兄弟姉妹も同列なのか、あいまいにされていると思います。「精子・卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹以外に存在しない場合」ということばには、すでにそうであったこと、行われてしまったことを認めようとしているとさえ、感じられます。

(5)書面による同意

(イ) 精子・卵子・胚を提供する人及びその配偶者の書面による同意について

 この同意は提供する回ごとに交わされるものなのか、事前に撤回した場合を除き、一度交わしたら、妊娠した子が10人に達するまで同意したものとみなされ、自動的に提供が繰り返されるのか、そこまで明記していただきたい。また、提供者は逆に、提供後の精子・卵子・胚の行方を知ることができるのか、記載がないので、これについても明記していただきたい。

(7)カウンセリングの機会の保障について

 カウンセリングの機会の保障とカウンセリングを行う人についての解説はありますが、肝腎のカウンセリングの内容が述べられていません。具体的に配偶子や胚の提供に関し、必要とされるカウンセリングの特徴・内容をまず明記し、そのようなカウンセリングを提供するためにはどのような人材がふさわしいかを論じていただきたいと思います。

(9)精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の提出・保存

 生まれた子が知ることができる個人情報の一定の範囲とはどのような情報を含むのか、具体的に明記してほしいと思います。

2 規制方法及び条件整備について

(2)条件整備

(2)出自を知る権利について

 「近親婚とならないことの確認を求めることができる」とは、その相手が同様に精子・卵子・胚の提供を受けて生まれた者であれば確認は容易であろうと思いますが、そうでない場合、相手を巻き込むことになりますし、相手の同意なしに行うことはできないと思います。そのようなことを一方的に「求めることができる」としてよいのでしょうか。


受付番号:20
受付日時:平成13年4月18日
年齢:不明
性別:男性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見


受付番号:21
受付日時:平成13年4月18日
年齢:30歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:なし
この問題に関心を持った理由:

御意見

1. Iの1で背景としてあげられている医師の自主規制の下で行われてきた生殖補助医療そのものが違法であるという点もよく考慮していただきたい。

2. Iの2で経緯としてあげられている、一般国民対象の平成11年2〜3月に行われた意識調査に関して、各報道機関にむけて十分開示されていないのではないか。一般国民対象とするなら、もっと広範囲で実施するべきでわずか2ヶ月で慎重な検討とはいえない

3. IIで「生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない人に子を持つ可能性を提供するもの」というあり方について、大変あやふやな定義だと思う。
 不妊症は病気なので治療が必要という考え方なら、保険適用されない現状と矛盾する希望するなら提供する、という立場は責任逃れにすぎない。

4. III(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖医療を受ける条件について」について

・ 「法律上の夫婦に限る」のは反対。
 子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない人に子を持つ可能性を提供するものなら、夫婦であるか否かは無関係。
 独身者や事実婚カップルの場合に生じやすいとしてあげられている説明は、生殖医療上の問題ではなく社会の問題だから。
 生まれてくる子の福祉の観点から、現在差別されている社会の状況を法律で規制するべき、改善するべき。望まれて生まれてくる子を、不幸になるからと先回りして排除する社会が異常。

・ 「加齢により妊娠できない夫婦は対象とならない」のは反対。
 年齢の上限設定は必要だが、高齢出産に伴う危険性よりも上記生殖医療を受ける方が問題点は多い。希望を尊重するという姿勢なら、対象外にするべきではない。

・ 「自己の精子・卵子を得ることができる場合には、それぞれ精子・卵子の提供を受けることはできない」のは賛成。
 医療側が先走ることのない様便宜的利用は危険。
 本来の妊娠出産の可能性を大事にしてほしいから。

・ 説明に「第三者が対価の供与を受けることなくリスクを負って提供した精子・卵子・胚の利用条件は厳格なものとされるべき」とあるが、そもそも提供させることが基本的考え方の「生殖の手段として扱ってはならない」と「安全性に十分配慮」に反する。

5. III(2)「各生殖補助医療の是非について」について

・ 血縁主義的な考え方が根強く存在している現状を認めながら条件付きで生殖補助医療を容認しようとする姿勢そのものに反対する。嫡出推定制度や認知制度と血縁主義の貫徹とは別問題。生殖補助医療を選択しようとする背景には、世間からは実親子関係のように装える点が大きい。
 遺伝的要素を受け継がない養子と、実情では変わりがないのに精神的・身体的リスクを負うにもかかわらず選択させる状況になりかねない。
 血縁主義者の考え方は、絶対的な価値観ではないが、人々を拘束している事実から目を背けている。
 父母のいずれか一方でもよいから遺伝的要素を受け継ぐ子をもちたいという感情は尊重されなければならないが、広範囲で生殖補助医療を容認するべきではない。

(1) AIDについては「安全性への十分な配慮」の考え方に反するため反対。HIV等の感染症の危険があるにもかかわらず、実施することは(検査等の予防措置が講じられたとしても)容認するべきではない。医療行為で感染の可能性が起こることの重大さを認識して欲しい。

(2) 提供精子による体外受精については「安全性に十分配慮」に反する。たとえ希望する当事者に限りリスクを負うとしても、容認するべきではない。
 子を持ちたいのなら、この程度はがまんしろと強要されかねない。(1)と同様感染の可能性が起こることも重大にとらえてほしい。

(3) 提供卵子による体外受精については、反対。
 当事者以外の第三者に身体的リスクを負わせてまで実施するのは医療行為ではない。臓器移植や骨髄バンクへの登録等と異なり、生命の危険にさらされているわけではない。まったく個人的な感情や周囲(世間)の圧力から生殖補助医療を選択するのを、医療行為として容認するべきではない。
 他の夫婦の採取した卵子の一部提供については、論外。そもそも、危険をおかして採取した卵子は当人のみが使用するべき。

(4) 提供胚の移植については、反対。
 余剰胚の提供という考えそのものが、他の夫婦の採取した卵子の一部提供と同様「人を生殖の手段として扱ってはならない」に反する。
 使用しないことを決定した胚といえども、夫婦のものであり医療機関がつかいまわししていいものではない。
 誕生する前でも生命にかわりはないが、使用しないことを決定した胚は廃棄するのが正当ではないか。
 本来の目的に沿った扱いをするべき。
 抵抗感から、余剰胚の提供が十分に行われないからといって医療機関が治療中の夫婦に圧力をかけることのない様除外するべき。

(5) 代理懐胎(代理母・借り腹)の禁止については、賛成。
 生殖の手段として扱ってはならないし、安全性に十分配慮できないから。

6.III(3)「精子・卵子・胚を提供する条件等について」について

(2)(1)〜(5)の生殖補助医療を容認できないため、以下は

(1) もし実施された場合の歯止めとしての条件について。
 精子提供と卵子提供の年齢制限の基準が明確でないため、反対。
 誤解を招くおそれがあるから、は理由にならない。精子についてイギリスの採用例を上げるのなら卵子についても同様にするべき。卵子提供者の身体的リスクを既に子のいる人なら許容できるとする考え方は生殖の手段として扱うことにつながっていくので反対。最高でも提供は1回にとどめるべき。(同一人からは)

(2) 対価についての範囲を実費相当分とするのは反対。
 礼金は論外だが、交通費・通信費等のみの実費相当分のみでは、身体的リスクを負った場合の治療費の問題が発生する。ボランティアとして行われたとしても危険負担を提供者のみに負わせるべきではない。

(3) 匿名性の保持については賛成。

(4) 兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供については反対。
 提供する人に対しての心理的な圧力ばかりでなく、提供を受け入れる様に強要される場合もないとはいえない。
 匿名性の保持からも問題がある。
 兄弟姉妹等以外に存在しない事態が起こるかもしれないからといって、生まれた子が成長していく環境としてふさわしいものにならない。提供した当時と感情の変化が起こることは十分考えられる。
 肉親であるが故の問題(家庭内の)も、より後々発生することもあり、十分な説明・カウンセリングが行われたとしても防げるものではない。
 心理的な圧力の観点や、対価の供与が行われていないことの確認をとることは身内だけに不可能に近く、条件として採用できない。医療施設での判断も適正さを欠く。恣意的な判断を招くことは避けられない。公的管理運営機関の事前審査は机上の論にすぎない。

(5) 書面による同意については、最低限必要。

(ア) 医療施設だけでなく、公的管理運営機関でも別途同意を確認する(書面による)手続きも検討するべき。

(イ) 提供する人及びその配偶者の書面による同意については、賛成。
 同意の撤回を使用前に限らず、その提供者の希望により選択できるようにできないか。妊娠以降は難しいとは思うが、書面の提出から使用されるまでの日数を、提供者知ることができるのかどうか。使用前に再確認の形をとることができないか検討するべき。卵子提供による不利益の可能性について、予め責任を負うものを定めておくことは賛成。

(6) 十分な説明の実施については,説明にある通りに行えるのであれば賛成。希望する夫婦に説明すべき具体的な事項が、実施ありきの儀式にすぎなくなる怖れはある。受けることが可能な治療方法を説明するのも必要だが、選択しない(生殖補助医療を受けない)ことも再考するように実施してほしい。又、提供側にも同様あるいはそれ以上の説明を実施してほしい。

(7) カウンセリングの機会の保障で、医療施設以外の専門団体等による認定等を受けた専門知識を持つ人によると限定していることは賛成。
 現行で一般的な認定制度等も存在しないにもかかわらず、今回対象以外の生殖補助医療を実施している現状から改めるべきで、育成(カウンセラーの)されるまでは、「できうる限り」という逃げ道を作らず、当該生殖補助医療の実施は凍結されなければならない。

(8) 提供する人の個人情報の保護については賛成。
 ただし提供時に検出することの出来なかった感染症等の影響についても検討してほしい。公的管理運営機関の管理の適正さを監査することも必要。

(9) 提供する人の個人情報の提出については賛成。
 保存については、無制限に延長を認めるべきではないが、生まれた子の子孫についても安全性が(生殖補助医療の)確立されていない現在では検討が必要なのではないか。

(10) 使用数の制限については反対。
 近親婚の発生を防止するなら、10人とせず、1人に妊娠は限るべき。
 使用できる精子・卵子・胚を減少させるものであっても、超えてはならない。制限すべき事項

(11) 子宮に移植する胚の数の制限については反対。
 多胎妊娠の危険性をもっと重大にとらえるべきで原則として1個、移植する胚や子宮の状況が良好でなければ実施するべきではない。

7.III(2)「規制方法及び条件整備について」について

(1) 規制方法について、罰則を伴う法律によって規制するのは賛成。
 ただし、営利目的、代理懐胎、職務上知り得た人の秘密の漏洩に限定されるのは反対。
 急速な技術進歩に法律や国民の意識を合わせていくやり方は規制の実効性が担保できる範囲内の必要最低限のものとするのは反対。
 生命を誕生させる行為に、不正があれば医師以外の者でも罰則を伴う法律で規制されるのは当然。
 国民の幸福追求権を、医療の技術進歩に利用することは避けなければならない。
 堕胎罪があるのに、その逆は規制されないのは公平でない。

(2) 条件整備の

(1) 親子関係の確定について、概ね賛成。
 ただし、定められた手続きによらず行われた場合については、子の福祉の観点からのみ論じられるものではない。例外とするべき。
 妊娠による母性の確立の過程は過大評価されるべきではなく、書面による同意を重要視するべき。

(2) 出自を知る権利について賛成。
 ただし、提供した人がその子に開示することを望まないものであっても健康上に関する事柄であれば検討は必要。

(3) 体制の整備について、賛成
 公的審議機関・公的管理運営機関を設けるにあたってはその過程を国民に明らかにしてほしい。

(4) 医療施設の指定について、概ね賛成。
 ただし、生殖補助医療を行う医療施設と、判断する施設は同等の水準の別施設が望ましいと思う。

8. IV「終わりに」の中で、3年以内の制度の整備を求めながらAIDを除外しているのは、反対。

 当該生殖補助医療の中では、安全な技法としてとらえているのだろうが、医療側からの一方的な考え方だから。書面による同意も、十分な説明の実施も、カウンセリングの機会の保障も与えられていないのに除外するのは問題がある。
 当事者にとっては、当事者以外の遺伝的要素を受け入れる医療であることに変わりはないから。生殖補助医療一般に関しても適切な対応を望む、とあるが概ね賛成。
 可能な範囲内と限定せず、医療機関まかせにせず規制を検討してほしい。

9. (別添)の多胎・減数手術について、行政・関係学会が行うべきことを早急に実施させるよう、防止対策・体制については罰則を伴う規制をしてほしいし、多胎のみ野放し状態で減数手術を全面禁止にするべきでない。原因と結果の問題だから。


受付番号:22
受付日時:平成13年4月18日
年齢:32歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:匿名希望
この問題に関心を持った理由:
 学生時代より民法改正には興味を持っていたが、生殖補助医療についても、関心があったので、今回はこの両方に関連するから。また現在、家族法については、日頃から研究活動を行っている。

御意見

1.IIIの(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について」について

 報告書の「法律上の夫婦に限る」部分の結論に反対です。
 その理由は、不妊カップルの中には、法律上の夫婦になれないようなケースがあることを想定していないからです。現在、夫婦別姓のための事実婚は、かなり増えています。もちろん選択的夫婦別姓が民法改正により実現すればいいのですが、それも現段階では期待できません。不妊のカップルにとって法律婚か事実婚かは関係なく、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができないのは、どちらも同じです。現実に不妊症であるカップルを法律婚でないという理由だけで、除外するのは、内縁夫婦(事実婚)を、法律婚夫婦とほぼ同様に扱っているわが国において、説得力に欠けます。
 また、報告書中の当該部分の結論に係る説明には、その結論に至った理由として、「生まれてくる子の法的な地位が不安定という」ということがあげられていますが、法的な地位は、そのカップルが選択肢として選んだのであればよく、むしろ、思いがけず妊娠したからといって簡単に婚姻届を出し、子どもを出産するが、夫婦ともに育児を行わず、ひどい事例では児童虐待をするような夫婦と比べ、不妊期間中、長期にわたり子どもを欲することの意味を十分考慮した結果、人工授精・体外受精などの不妊治療を選んでいると考えます。法的な地位よりも、子どもを欲する気持ちを配慮すれば、法律婚夫婦に限る必要はなく、内縁夫婦(事実婚)についてもみとめるべきです。
内縁夫婦(事実婚)についての定義に困ると疑問がでるかもしれませんが、不妊治療は、男女ともにさまざまな検査を受け、指導を受けながら行っているのであり、精子・卵子・胚の提供がなければ妊娠できないことが判明するまでに、内縁夫婦(事実婚)であることの確認が十分できるものと考えます。
 なお、この報告書には触れられていない部分ですが、現在、事実婚カップルは、人工授精は認められるが、体外受精については認められないとのことです。 この点については、精子・卵子・胚の提供があるわけでもないのに、法律婚でないという理由で認められていないようですが、可能な方向への検討をお願いします。


受付番号:23
受付日時:平成13年4月18日
年齢:グループなので年齢ではありませんが、発足から19年目になります
性別:グループではありますが女
職業:グループなので記入しません
氏名:SOSHIREN女(わたし)のからだから
所属団体:同上
この問題に関心を持った理由:
 人口政策・優生政策に対する批判とリプロダクティブ・ライツの観点から、生殖補助医療のあり方を検証したいと考えて、応募します。

 グループの概要‥1982年結成。女性のからだを通して行われる人口政策・優生政策を批判し、堕胎罪と優生保護法の廃止を求めて活動してきました。1997年、第1回加藤シヅエ賞を受賞。母体保護法の問題点も指摘しながら、女性が自分のからだについて自ら決定すること、リプロダクティブ・ライツの確立をめざしています。

御意見

<総論>

 私たちは、生殖補助医療技術の開発と実施に、次のような疑問と批判を持ってきました。

 以上のことから、一般の市民に分かりやすい情報提供、医師と患者の対等な関係の構築、優生思想および障害者と女性への差別をなくす努力が必要であり、これらが行われるまで、生殖補助医療技術の開発と実施をやめるよう求めてきました。
 しかし、こうした問題は省みられることなく、技術の開発と実施はすすんでいます。今回の報告書は、生殖補助医療のあり方に対して一定のルールを設けようという初めての試みですが、既に普及してしまった技術の追認に終始しているとの感をぬぐえません。
 精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療は、人間とくに女性の身体に無理を与え、生まれてくる子をめぐる人間関係にも多くの無理を生じます。また、これまでの家族・社会の在り方を変えてしまう可能性をもっています。私たちはそのことを直視しなくてはなりません。にもかかわらず報告書は、この医療の実施を大幅に認めながら、従来の家族観を維持し、かつ補強しようとしているところに、最大の矛盾を感じます。

<各論>

1.IIの「意見集約に当たっての基本的考え方」について

 「意見集約に当たっての基本的考え方」には、次の6つの項目があげられています。

 これらは、もし精子・卵子・胚の提供を受ける生殖補助医療を実施するならば、最低限欠かすことができないことです。しかし、報告書が出した結論は、これらの条件を満たしているでしょうか。満たそうとしたのであれば、報告書が代理懐胎は禁止したものの、それ以外を容認したことは納得できません。「優生思想を排除する」は、掲げられたこと自体は評価できますが具体性に欠け、実現の保障がないばかりか、むしろ反していると思われる点があります。

2.IIIの1(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について」について(p4)

 報告書はここで、「提供等による生殖補助医療を受けることができる人は、法律上の夫婦に限る」とし、その理由は、「生まれてくる子の福祉の優先」であるとしています。しかし、このことで「生まれてくる子の福祉」がまもられるとは思えません。近年、家族の形態は多様であることが認められつつあり、法律上の手続きを踏まないカップルや同性同士のカップルに、法律上の異性同士の夫婦と同様の権利を認める国が出てきています。提供等による生殖補助医療そのものが、家族の形態を一層多様化させるにもかかわらず、それを受けることができる人を法律上の夫婦のみに限るのは、不合理に感じられます。また、離婚が増加していることを考えれば、法律上の夫婦ならば生まれてくる子の福祉がまもられると断言することもできません。反対に、将来にわたって、育児に責任を持つことが保障されるのであれば、法律上の夫婦とその他のカップルを区別する理由はないと考えます。

3.IIIの(3)(1)「精子・卵子・胚を提供する条件」について(p11)

 ここでは、精子・卵子の提供者に年齢制限を設けています。自然妊娠においては行われない年齢制限を、提供等による生殖補助医療を用いる場合には設けること自体に、まず疑問を感じました。女性と男性で制限する年齢とその根拠に違いがあることには、性差別の疑いも感じました。そして、年齢制限の理由として、提供される精子・卵子の「質」を問題にしている点は、優生思想以外のなにものでもありません。これは「意見集約に当たっての基本的考え方」に掲げられた「優生思想を排除する」に、明らかに反しています。このような年齢制限とその理由が認められるとすれば、その影響から、自然妊娠にも優生思想が持ち込まれることをおそれます。

4.IIIの1(3)(4)「兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供」について(p13)

 兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることに反対します。
 本論1(3)の(3)には「精子・卵子・胚を提供する場合にはに匿名とする」とあり、提供者の匿名性が保持されない場合の問題点を多々指摘しています。また、兄弟姉妹等からの提供を求める理由が、血の繋がりの重視にあることが考えられるとの認識も、示しています。にもかかわらず、匿名性が担保されない兄弟姉妹等からの提供を認めるのは納得できません。
 兄弟姉妹等からの提供を認める条件である「提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない場合」に個々のケースが該当するのかどうか、判断はどのように可能でしょうか?これも非常に疑問です。
 兄弟姉妹等からの提供を認めることが、「生まれてくる子の福祉」よりも、子をもちたい側の「血の繋がりの重視」を優先していることは明白です。これでは、血縁主義を重視する旧来の考え方に、新しい技術が貢献することになってしまいます。

5.IIIの1(3)(7)「カウンセリングの機会の保障」について(p20)

 報告書はここで、提供等による生殖補助医療を受ける夫婦と提供する人及びその配偶者に、カウンセリングの機会が与えられなければならないとしています。しかし、提供等による生殖補助医療を受けるとき、あるいは提供を行うときのカウンセリングで、ことは足りるのでしょうか。そうは思えません。
 この医療を受ける側も提供する側も、妊娠・出産・子育てのあらゆる過程で、さまざまな問題に遭遇する可能性があります。とくに、子供にその出自を伝えること、出自を知った子供にどう接するのかといった問題は大きいでしょう。また、出自に疑問をもった子供、知った子供が悩みを抱くことも考えられます。その悩みにどうこたえるかについて、報告書は何も示していません。

6.IIIの2(2)条件整備(2)「出自を知る権利」について(p30)

 (2)は、提供によって生まれた子が成人した後、提供者の情報を知ることができるとしています。しかし、知ることができる情報は、個人を特定できないものに限られ、さらに提供者が開示を承知した範囲に限定されます。子が知ることができる情報は非常に不十分かつ、不公平であることが予想され、これでは「権利」と言うに値しません。
 また、提供によって生まれた子は結婚を希望するとき、近親婚とならないことの確認を求めることができるとあります。近親婚を避けなければならない理由は書かれていませんが、避けなければならないのであるとすれば、確認は、生まれてきた子に認めるだけでは十分ではありません。提供した人が子をもった場合、その子もまた、複雑な人間関係をもち、自分と血の繋がりのある者と結婚する可能性がある点は、提供によって生まれた子供と同じであるからです。
 提供による生殖補助医療の実施を認め、かつ、近親婚を避けなければならないとするなら、提供者となった人の子供も、結婚しようとする相手との血のつながりを調べざるを得ません。条件整備(2)「出自を知る権利」には、問題と矛盾があります。
 子供をほしいと望むのは、親になろうとする人です。その望みを精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を用いて叶えたとき、子供は複雑な人間関係の中に生まれ、結婚しようとする相手との血の繋がりまで調べなければならないのでしょうか。
 子供が欲しいという希望は、子の負担よりも優先するものなのでしょうか。…そのような疑問をもちました。誤解のないように書き添えますが、何らかのハンディをもって生まれることが即その子の不幸であるという意味ではありません。人はさまざまな条件のもとに生まれ、どのような条件を持っていようとも尊重され、幸福に生きる権利があります。その意味で、私たちは優生思想の排除を強く求めています。しかし、あえて人為的に複雑な条件を子供に負わせるべきではないと考えます。どうしても避けることができない場合は、その負担を軽減するために最大限の努力を払わなければなりません。報告書が「意見集約に当たっての基本的考え方」の中に「生まれてくる子の福祉を優先する」をあげたのも、そのためでしょう。しかし先にも述べたように、匿名性の保持に例外を設けるなど、報告書の結論は、生まれてくる子の福祉よりも子供を欲しいという希望を優先しているとしか考えられません。
 子供が欲しいという希望は、持つ人と持たない人さまざまですが、我々の社会には血縁主義と「女性は子供を産むもの」という考え方が根深く、子供が欲しいという願いに拍車をかけ、女性にとって、ときには男性にとっても圧力となっています。
 精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方を決める上で、「子供が欲しいという希望」を優先することは、「生まれてくる子の福祉を優先する」に反するだけでなく、従来の規範の強化となるおそれもあります。

7.IIIの2(2)条件整備(3)(4)と、IV「終わりに」について(p33〜35)

 報告書は、公的審議機関・公的管理運営機関の設置や法律の整備が、3年以内に行われることを求めるとしています。しかしこれらの条件が整ったとしても、これまで指摘してきたように、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の実施に関しては、まだまだ考えられるべきこと、議論されるべきことが山積になっています。そうした問題を放置して実施を認めることは将来に禍根を残すであろうことから、提供等による生殖補助医療の実施は中止すべきと、私たちは考えます。

8.別添「多胎・減数手術について」について

 多胎妊娠の防止がまず行われるべきとしたこと、および、母体保護法を改正して人工妊娠中絶の規定を改める必要はないとしたことは、妥当であると考えます。


受付番号:24
受付日時:平成13年4月18日
年齢:47歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:匿名希望
この問題に関心を持った理由:
 出産の社会史の研究をしているので、また、子どもの人権を守る研究・活動をしているから。

御意見

1 はじめに

2 本専門委員会における検討の経緯について

 *私は専門委員会における検討の経緯については、専門家偏重主義であり、一般の人の意見をもっと取り入れるべきだと思います。5回に渡るヒアリングを行ったということですが、一般市民、なかでも生殖補助医療の対象となり、利益以上の害を受ける可能性のある女性の意見を聞いたとは言えません。この問題に関心のある人以外は、新聞などで少し見たという程度ではないでしょうか。家族の在り方を大きく変わる可能性がある問題であるだけに、もっと長く検討期間を取り、検討することが必要だと考えます。
 まず技術ありきであってはいけません。生殖医療を選択するカップルはいざ知らず 、生まれてくる子どもたちの行く末を深慮せずに、導入してもよいのでしょうか。再考を願います。

II 意見集約に当たっての基本的考え方

 *私は基本的考え方のうち「優生思想を排除する」と「人間の尊厳」を守るという項目の実効性に関して憂慮します。言葉だけで記しても、それに対する行動が伴わなければこのような意見募集は免罪符になるだけです。今までの生殖医療や先端科学技術に関する政策の中で、障害を持つ子どもたちや当事者の意見は十分に聞かれてきません。また、自らの身体を医療の対象とされる女性の意見も取り入れられていません。このように当事者や女性を軽視する委員会が「優生思想を排除する」ことができるかどうかは疑問です。

III 本論

1 精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について

(1)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について

「○精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける人は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限る。」について

 不妊症の原因は男女双方に認められます。しかし、現状では多くの場合、女性にその責めが多くかかってきます。現在までは、不妊のカップルは養子等の手段で子どもを持ち、育てることができました。また、子どもを持たないという生き方を選択できました。しかし、生殖補助医療が推進されるようになると、すべてのカップルが子どもを持たなくてはならないという圧力が厳しくなります。まして生殖補助医療は女性に命を危険を伴う身体上の負担と、多額に費用、時間、労力がかかります。一つの便利さがあらたな抑圧を生むことがあります。夫婦には子どもが必要、しかもその夫婦は正式な夫婦に限るという考え方をこの技術は推進することになります。
 卵管狭窄症の女性の場合は手術的治療によっても改善が可能であり、生殖補助医療以外の方法も試みられるべきであると思います。

(2)各生殖補助医療の是非について

「○親子の遺伝的繋がりを重視する血縁主義的な考え方が根強く存在している我が国」という認識について

(1)AID(提供精子による人工授精)

「○精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦のみが、提供精子による人工受精を受けることができる」について

 *私は「精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」の定義が曖昧で、運用の仕方によっては、対価を支払って精子を譲り受ける可能性(遺伝学的な素質の選択)が出てくるのではないかと思う。

(3)提供卵子による体外受精

「他の夫婦が自己の対外受精のために採取した卵子の一部の提供を当該卵子の採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け、当該卵子を用いて提供卵子による体外受精を受けることも認める。」について

 *不妊治療に臨む方の話しを伺うと余った卵子はないと言う認識がほとんどである。心身経済などの大きな負担に加えて、苦労して採取した卵子だからこそ、費用の半分を負担してという発想で譲り渡すことはできないと思われる。他人が自分の遺伝的要素を持つ子どもを持つわけだが、その場合の心理的葛藤への検討が欠如している。

(4)提供胚の移植

「余剰胚を移植する」ことについて

 *上記(3)にも示したように不妊治療を受けている夫婦にとって余剰胚という認識はない。自分の子どもの人数が予定に達してからと言って、不要になるという考え方には無理がある。後々の問題のもとになるのではないだろうか。また子どもにとっても、いったい誰が親であるのか悩む時期があるだろう。余剰胚が移植されて出来た子どもが自分の遺伝学的な親を知りたいと思う時、その子どもには親を知る権利はあるのか等の問題は全く検討されていない。こんな段階で生殖補助医療を進めるべきではなく、養子の可能性を探るべきであると思われる。

(5)代理懐胎(代理母・借り腹)

(3)精子・卵子・胚を提供する条件等について

(3)精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持について

 *私見では、匿名性を守った場合、親の側の都合は守られても、提供によって生まれた子どもが出自を知りたい場合にどうするかの議論ができていない。子どもは4人の親を持つことになる。子どもにとっての親子関係の安定は心理的に見ると大変大切なことである。そのことの議論のないまま、特に子どもの側の意見、または子どもの側の代弁者の意見を聞くことなく、本件を進めてはならない。

(4)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供について

 *兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供は、頼まれた側の人にとって断わることが 難しいものである。提供側の本人の意思は親しく、また変更できない関係であるが故に、自由に意見を述べにくい場合がある。また、後々、問題が起こった場合、肉親だけに人間関係はもつれやすい。そんな可能性のある兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を承認してはならない。また、説明、カウンセリングが行われと記されているが、日本では遺伝カウンセリングができる体制は整っていない。

(6)十分な説明の実施について

 *(ア)、(イ)共に、日本では医療機関や医師の権威が強く、患者や利用者の側の位置が対等ではない。そんななかでは十分な説明が行われていない。説明や(7)のカウンセリングにしてもその働き患者の側から、もしくは第三者の立場から評価できる機関はないまま、生殖補助医療の実施に踏み切るのには反対である。

2 規制方法及び条件整備について

(1)規制方法

 *法律によっては規制しないとされているが、罰則規定のない方法が有効であるとは 考えられない。

IV 「終わりに」について

 *生殖補助医療の過程で生じた余剰胚の実験利用は認められない。本来は生むべきものとして人間が受精させた胚を不要であるからと言って、実験利用に使うことは認められない。まして、昨今は遺伝子治療に関わる権益が生まれつつある時代であり、胚を特定の人の権益のためだけのものとしてはいけない。


受付番号:25
受付日時:平成13年4月18日
年齢:47歳
性別:女性
職業:教員
氏名:長沖 暁子
所属団体:慶応義塾大学
この問題に関心を持った理由:
 もともとこの分野が専門であり、生殖技術の開発およびその応用に関しての研究を行ってきました。また1999〜2000年度東京都女性財団委託研究員として「女性の視点からみた先端生殖技術に関する研究」を行いましたが、専門委員会が参考とした「生殖技術についての意識調査」は上記研究において、我々が作成した意識調査を原案として行なわれたものです。

御意見

○総論

 基本的理念として、生殖技術の研究開発・臨床応用に関しては、この技術が人間の生命観や自然観をも転換させうる可能性を持つ点から、すべての人が当事者であり、専門家だけでなく、技術の受け手である患者、そして一般の人も交えた社会的議論が行なわれなければならないと考えています。またその上で、独自の社会的、倫理的理念から、技術の開発、その応用に対する承認・規制が行われるべきだと考えます。
 この点に関して欧米では、宗教界からのいつから生命が始まるかなどの議論や、一般の市民も含めた広範な議論が行なわれ、ヨーロッパの国々では生殖技術に法的規制を加えていく方向に進んできました。しかし、その規制の方向は各国でも異なっており、独自の生命観、自然観のもと議論が行われてきたことがうかがえます。
 しかし、今回の委員会の議論にどの程度、一般の人々が関心を持ってきたでしょうか?その原因の一つに情報が公開されていないということがあげられる点は東京女性財団の研究で指摘したとおりですが、まだまだ議論、国民的コンセンサスが不足していることは晶かです。
 その意味でも、どのように情報公開を行い、どのように技術の評価が行われるかが重要であり、情報公開、技術の評価に関して、第三者機関の設立がまず必要だと考えます。この点に関しては報告書で述べられている公的審議機関・公的管理運営機関がそれにあたると考えられますが、その位置付け、詳細が決まらないまま、実施を結論付けることは、本末転倒だと考えます。どのような条件下でどのような技術を認可するのかということがまず議論されるべきだと考えます。上記の点で委員会の結論に疑問を呈したいと思います。
 また、東京女性財団の研究において我々は明らかにしてきたように、今まで生殖技術に関して妊娠・出産を担う女性の立場からの議論が行われてきませんでした。例えば、この調査で具体的に明らかになったことは、子どもを持つことや家族に対する意識、生殖技術に対する意識において、最も大きな差をもたらすファクターは性別であり、女性の方が多様なライフスタイルを容認する一方、生殖技術に対しては否定的でした。つまり、生殖技術に関する議論においては男女差を考慮に入れるべきであり、意思決定の場において、女性の意見を反映することが必要だと考えます。この点から、女性委員が圧倒的に少ないこの委員会の結論自体にジェンダー・バイアスがかかっていることが懸念されます。

III.1.「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療について」について

 まず(1)において「法律上の夫婦に限る」としていますが、法律婚と事実婚の間に差別があることを前提にした議論に疑問を観じます。子どもの福祉を問題にするとき、婚姻関係だけで、はかれない事は明らかです。
 また(2)受ける条件の(1)〜(4)において、提供を受けることができる夫婦の 条件に関して、誰がどのような基準で判定するのかが不明確です。体外受精の対象は「体外受精でしか妊娠できない夫婦」であるにもかかわらず、体外受精の実施前、または実施後、自然妊娠するケースがあることに関して複数の論文が存在します。基準の不備、または基準の濫用などが考えられるとき、これだけでは不十分です。

 (2)の(5)において代理懐胎を禁止したことは評価しますが、もしこの理由が「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」「多大なリスクを負わせてはならない」こととするのであれば、排卵誘発剤を使った卵の提供に関しても、上記の理由は十分該当すると考えます。

 (3)提供する条件の(1)において、精子55歳、卵子35歳未満とした根拠、および精子では子がいることが条件としない根拠が明確ではありません。このような条件づけは、一般の妊娠に対して与える影響が大きいと考え反対です。またこれは胚の場合はどのように適用されるのでしょうか。
 また同一の人からの卵子提供の三回とは、具体的に排卵誘発、採卵、体外受精、胚移植、子の誕生のうち何を指すのか不明確であり、一方精子に対しての条件がないことと矛盾します。同一の人からの精子提供による子どもは何人いてもかまわないということであれば、これは現代社会の男性優位主義を反映したものにしかなってしまうと思います。

 (3)の(3)において匿名を条件としたうえで、(4)において兄弟姉妹等の提供を認めた点でこの報告書のもっとも矛盾を感じます。私が知る限りでは、血縁間の提供を認めた国はありません。血縁間で行われる提供が、報告書で述べられている「圧力」を生み出す可能性、またその後の血縁間、夫婦間、子どもに対してどのような影響を与えるのかを考えたとき、これを認めることにより、匿名性だけでなく、提供者の自主性に関しても疑問が生じること、その後への影響が大きすぎる点から反対します。

 (3)の(5)〜(11)に述べられている同意、説明、カウンセリング、個人情報の保護、提出、提供配偶子・胚の使用制限、移植数の制限に関してこそ、中立的な立場にある機関で行われなければ、その公正性は守られません。この部分が各医療機関の裁量で行われない保障こそが必要だと考え、最初に述べたように、まずこの機関の詳細に関して、その権限を含めて明記されなければいけないと考えます。

III.2.規制方法および条件整備について

 (2)出自を知る権利に関して、提供者が開示を承認した範囲に限定されていることは、提供者の意向によって左右されることになり、これを権利と名づけることには疑問を感じます。このような判断を個人のレベルに委ねることは、理念としての子の権利を軽んじることになると思われ、もし子の権利を認めるのであれば、すべての人が同等な情報を得られることが条件であるべきだと考えます。

 (3)体制の整備に関しては最初に述べたように、公的審議機関・公的管理運営機関の内容こそが重要であり、その議論がまず行われるべきだと考えます。この機関が統一され、情報の収集・開示、実施・応用の認可が一元化されること、構成員の半数以上が専門家以外のメンバーであり、なおかつ構成員の半数以上が女性であることなど、その公正性が保障される条件が必要だと考えます。またその権限、システムなどに関しても十分な制度が必要だと思います。これらが議論され、決定される前に、技術の臨床応用が決定されることに反対します。

受付番号:26
受付日時:平成13年4月18日
年齢:不明
性別:不明
職業:不明
氏名:優生思想を問うネットワーク 代表 矢野恵子
所属団体:同上
この問題に関心を持った理由:
 私たちは、生殖医療技術をはじめとする先端医療の持つ様々な問題、特にこれらがはらむ生命操作や優生思想の問題について発言し、活動している女性と障害者の市民グループである。生殖補助医療は、女性の体を通して行われるものであり、また、この報告書にもあるように「人間を人為的に誕生させる技術」で、優生思想に利用されうる技術でもある。したがって、女性と障害者にとって大きな影響を及ぼす問題であるので、下記の通り意見を述べる。

御意見

ア.生殖補助医療に関しての国としての対応は、あまりにも遅すぎたといわざるを得ない。
 すでに、約5万人の子が生殖補助医療によって誕生していることは、報告書も指摘するとおりである。この間、国としての基準を制定することなく、一民間団体である日本 産科婦人科学会の自主規制にまかされてきたのである。まず、その反省の上に立ち、AIDや夫婦間の体外受精を含んだ、現在行われている生殖補助医療全般について、その危険性、副作用等も含め国として正確な実態調査を行い、それを広く公表し、その上で十分な議論が尽くすべきである。
 現在行われている生殖補助医療(不妊治療)は、これまで社会的議論は全く行われておらず、また、当事者、特に女性の心身に大きな負担を強いる技術である。(特に、体外受精においては、排卵誘発剤の使用による卵巣過剰刺激症候群等によって生命の危険にさらされることさえあるのである。また、女性に治療すべき疾患がない、男性不妊の場合にも体外受精は行われ、女性に大きな負担を強いている。男性に対する治療を女性に行うということをはたして治療と呼べるのか、といった点についての議論もなされるべきである。)にもかかわらず、本報告書では、AIDや夫婦間の体外受精などは「着実に普及してきている」(<I はじめに>記載)ものとして議論の対象外に置いてしまっている。

イ.そうした検討がほとんどなされないまま、本報告書は、体外受精技術を前提とした第3者の配偶子・胚の提供による生殖補助医療の是非の検討に移っている。配偶子・胚をその人から切り離し、別途に利用する道を開くことは、生命操作に直結するものであり、配偶子・胚の産業利用につながり、人の体を切り売りする方向に向かうものである。

ウ.しかも、第3者の配偶子・胚の提供による生殖補助医療においては、提供を受ける女性のみならず、提供する女性も心身に大きなリスクを負うにもかかわらず、本報告書では代理懐胎以外のすべてを認可するという暴挙に至っている。これは、本報告書中<II 意見集約に当たっての基本的考え方>記載の「安全性に十分配慮する」「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」にも反するものである。

エ.そもそも本報告書には、不妊をどう考えるのかという根本的な議論が抜け落ちている。
 不妊とは何かは、その時代の家族観、女性観に大きく左右されている。結婚すれば、子ができて当然とする家族観や、女性は子を産んで一人前とする女性観が、多くのカップルや女性を不妊治療に追い込んでいくのである。不妊に悩むカップルや女性たちの多くは、単に、自分たちの子が欲しいのにできない、という悩みだけでなく、子がいないことに対して周囲が圧力をかけたり、差別したりすることに悩んでいるのである。そういった不妊の問題を、不妊の当事者に多大な負担を強いる生殖補助医療を行うことだけで解決しようとするのは、画一的な家族観の押しつけであり、女性差別の助長に他ならない。
 まず行われるべきは、広く不妊当事者の声を聞くことである。また、生殖補助医療に頼らない不妊問題施策も、図られなければならない。夫婦と子どもがいる家族を、社会の基本的な単位に据えるという考え方の再考、子を得るための別の方法、たとえば養子縁組をもっと容易にするといった制度改革の推進、また養親子関係に対する社会的な偏見をなくすための施策、子がいなくても充実した生活が送れるよう、女性の社会参加の推進等、制度政策面での改革が押し進められなければならない。本報告書には、そういった方向性が全く見られない。

オ.また、本報告書を作成した生殖補助医療技術に関する専門委員会における会議は、そのほとんどが非公開であり、議事録の公表も大幅に遅れ、市民が情報を得ることが困難であった。しかも、最終報告書を出してからパブリック・コメントを求めるという形は、市民の意見を本当に反映しようとしているとは言えずとうてい認めることができない。本報告書はいったん白紙に戻すべきである。その上で、今回のパブリック・コメントを公表し、不妊治療に関する実態調査を行い、それらを公表の上、再度、当事者を含めた委員会を開催することを求める。なお、本委員会には、日本産科婦人科学会の会告にも抵触する、夫の父の精子による人工授精を行った医師が委員として参加している。これでは、とうてい公正、中立な議事進行は望めない。

カ.多胎減数手術については、別途委員会を作り、検討するべきである。本委員会は、本報告書を見る限り、今以上に生殖補助医療を推進しようとしている。それは、多胎妊娠を増加をさせることに他ならず、公正な観点から多胎減数手術を論じる資格があるとは 言えない。

[III 本論] について

1.精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について

(1)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について

 この技術を受けられるのは、法律上の夫婦に限る、とあるが、その理由が差別的である。「生まれてくる子の親の一方が最初から存在しない」「生まれてくる子の法的な地位が不安定」であることをもって、生まれてくる子の福祉の観点から問題が生じやすいと断じているが、その根拠は何か。これは明らかに、母子家庭、父子家庭、事実婚家庭、及び独身者に対する偏見、差別である。また、「生まれてくる子の法的な地位が不安定」とはどういうことか。法的な両親がそろっていないことを「不安定」というのは、独断 に過ぎない。そういった独断と偏見に強く抗議するとともに撤回を求める。

(2)各生殖補助医療の是非について

ア.生殖補助医療の是非についての問題点は、前項で述べたとおり多々あるが、ここでは問題となる点を「両親あるいは一方の遺伝的要素が受け継がれないこと」のみとしている。

イ.AIDについて、「50年以上の実績を有し…大きな問題の発生はこれまで報告されていない」としている。しかし、生殖補助医療は、世代を越えた技術である。50年程度で、問題がないとはいいきれない。しかも、「誕生しているといわれるが」という表現に見られるように、きちんとした調査がなされたわけではないことは明らかである。正確な調査がまずなされるべきであろう。

ウ.生殖補助医療で生まれ、夫の遺伝的要素を受け継がない子の場合、夫が嫡出否認の訴えをする可能性があって法的地位が不安定であるが、それは法整備により解消できるから問題ないとしている。前項で、法律婚の夫婦以外では子の法的地位が不安定だから生殖補助医療の対象にならないといいながら、この項では法的地位の不安定さは解消できるといっていて、考え方に統一性がない。

エ.「…血縁主義的な考え方は、絶対的な価値観として人々を拘束するものではなく…遺伝的要素を受け継がないということのみをもって、当該生殖補助医療が子の福祉に反するものとは言えない…」としている。家族に血縁主義を押しつけず、新しい価値観を見いだそうとしているように見えるが、(1)において、法律上の夫婦以外では「子の福祉の観点から問題が生じやすい」と断じ、独断に基づく古い家族観を展開している。また、血縁を重視しないことを肯定的にとらえるなら養子縁組の充実をこそ図るべきであるのに、1の(2)の(5)や2の(2)の(1)において、養子縁組に否定的な言質を述べている。

オ.以上のように、生殖補助医療を認める理由は裏付けがなく、また、全般に統一性がなく、理由として不合理であり、生殖補助医療を進めるための詭弁に過ぎないといわざるを得ない。

カ.代理母を認めないとした点は評価できる。

(1)AID(提供精子による人工授精)

 前項で述べたように、すでになされているから、ということは理由にならない。

(2)提供精子による体外受精

 体外受精によるリスクはあるが、それを負うのはそれを希望する当事者に限られていて、リスクの程度も禁止するほどではないから、容認するとしている。その根拠は何か。不妊治療における女性の苦痛は、子どもが欲しいならそのくらい我慢するべきだ、といった医療者の姿勢に沈黙せざるを得ない場合も多いと聞く。リスクを詳しく調査し、その結果を公表した上で再度、広く当事者を含めた市民の意見を求めるべきである。

(3)提供卵子による体外受精

ア.卵子の提供は、提供者及び提供される人の心身に多大な負担をかけ、提供者の卵子をその人から離して利用し、また、提供される人にとっては他人の卵子によって妊娠・出産するわけで、基本原則「安全性に十分配慮する」「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」にも反し、とうてい認めることはできない。

イ.にもかかわらず、本報告書においては、「…提供者がリスクを正しく認識し、それを許容して行う場合」という条件を掲げ「…禁止するのは適当ではない」としている。しかし、体外受精に関する社会的議論のない現在、提供者が正しい情報を得ているとはいいがたい。しかも、(3)の(6)の(イ)にあるように、提供者にリスクの説明するのは、提供を受ける医療施設である。これでは、公平で中立な情報が提供者に与えられるとは言えず、報告書における条件をも満たしていないので、この点においても認められない。

ウ.また、不妊治療を受けている夫婦から卵子の提供を受けることも容認しているが、不妊治療を受けている当事者にとって、当該医療施設から卵子の提供を依頼されることは、何らかの心理的圧力になる恐れがあり、当事者の自由な意志決定が守られない可能性があるので、この点からも認められない。

エ.なお、不妊治療を受けている夫婦から卵子の提供を受ける場合、「採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け・・・」とあるが、不妊治療が高額であることを考えると、治療費を捻出するために卵子を「売る」夫婦が出てくる可能性がある。これは、卵子の商品化であり、基本原則「商業主義を排除する」からも大きく逸脱するものでありとうてい認められない。

(4)提供胚の移植

ア.胚は、不妊治療当事者にとって心身ともに大きな負担のもとに作られるものである。
 「余剰胚」などないという認識をするべきである。そういったことも含め、まず、不妊治療当事者の意見を聞くべきである。

イ.卵子の提供の場合と同様、当該医療施設からの提供の依頼は、自由な意志決定を阻む恐れがある。

ウ.最初に、胚の提供を受けられるのは「胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」としながら、卵子の提供が見込みにくいから、「卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」にも「余剰胚」の提供を受けることを認める、としている。卵子の提供が見込みにくいのは、それだけ大きなリスクがあるからだということを報告書自体認めているのに、なお卵子提供を容認するのは矛盾しており認められない。

エ.また、「余剰胚」は、提供者に新たなリスクを負わせるわけではないというが、提供夫婦と提供を受ける夫婦が同じ医療施設で不妊治療を受けている場合、提供夫婦が最初から提供を前提に胚を余分に作ることを当該医療施設から求められる可能性もあり、その場合は提供者のリスクは当然高くなる。「余剰胚」だから新たなリスクはないという理由での容認は、全く認められない。

オ.一方、「余剰胚」は提供夫婦の遺伝的要素を受け継いでいるので提供に抵抗感があり、「余剰胚」の提供が十分行われない可能性もあり、胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦で「余剰胚」を得ることができない場合は、卵子と精子、両方の提供を受けて新たに胚を作り移植することができるという。これは全く人為的に胚を作る行為であり、恣意的な選別や遺伝子操作等の門戸を開くものであり、もはや生殖「補助」医療とは言えず、まさに生命操作に他ならない。基本原則の「人を専ら生殖の手段としてはならない」及び「人間の尊厳を守る」に反していて、とうてい認められるものではない。

カ.また、「余剰胚」の提供を受けることが困難な場合、という表現はきわめてあいまいで、医療者側の恣意的判断で、「余剰胚」を得る前に、卵子と精子を得て胚を作る可能性がある。生命操作に結びつく行為の条件基準としてはあまりにも安易である。

キ.胚の提供は、提供する側の卵子・精子・胚を切り離して利用することであり、提供を受ける女性にとっては、全くの第3者の胚を移植されることで、これは「人を専ら生殖の手段としてはならない」に反し、この点からも認めることはできない。

(5)代理懐胎(代理母・借り腹)

ア.代理懐胎の禁止は、評価できる。

イ.報告書は、その禁止理由の一つとして「…自己の胎内において約10カ月もの間、子を育むこととなることから…母性を育むことが十分考えられ…」と述べている。妊娠によって母性が生まれるという決め付けは、養子縁組の否定につながるもので、撤回を求める。

ウ.なお、卵子提供・胚の提供は、形態として代理懐胎と変わらないので、代理懐胎だけ禁止しても、歯止めにはならない。

 以上のように、第3者の精子・卵子・胚の提供によるすべての生殖補助医療については、再度の検討が必要であり、現段階では認めることができない。従って、以下の点については論外であるが、問題点の大きい点について看過することができないので、意見を申し述べる。

(3)精子・卵子・胚を提供する条件等について

(2)精子、卵子、胚の提供に対する対価

 精子、卵子、胚の提供に伴う金銭の授受は原則的には禁止しているものの、「実費相当分についてはこの限りではない」として当初から大きな抜け道を用意しており、実質的に、営利目的での流通を可能とする内容になっている。
 すでに、米国等では精子バンクや卵子バンクがあって、高額で取り引きされていること、さらには、ES細胞研究や再生医学研究など卵子や胚を用いた研究や産業利用が進められ、卵子や胚の需要が急速に増えていることを考えれば、精子、卵子、胚の商業利用への流れは今後ますます強まると考えられる。罰則を伴う法律によって営利目的での精子・卵子・胚の授受や斡旋を禁止したとしても、「実費相当分」の名目で、これらの 商業的流通が行われるおそれは濃厚である。

(4)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供

ア.兄弟姉妹等からの提供では匿名性は守れず、子の身近な人間関係が複雑になり、兄弟姉妹への心理的な圧力も考えられる。また、「等」は極めて曖昧な言い方で、際限なく範囲が広がっていくおそれがあり、匿名性の原則はもはや存在しないも同然である。

イ.匿名性の原則に反してまで、兄弟姉妹等を認める理由の一つに、「…我が国においては、血のつながりを重視する考え方が根強く存在している…」から、としている。しかし、「はじめに」において、血縁主義的なものは絶対的なものではないと述べているのである。一方で、生殖補助医療を認める理由として血縁主義に懐疑的姿勢をとり、一方で、兄弟姉妹からの提供を認める理由として血縁主義を擁護するのは、矛盾していて、なりふりかまわず生殖補助医療を推進しようとしているとしか思えない。

ウ.(3)では、匿名性を保持する理由の一つに、「…提供を受ける側が…提供する人の選別を行う余地を与える…」からということがあげられているが、血縁重視の観点から兄弟姉妹を選ぶということは、提供を受ける側が提供者の選別を行うことに他ならず、匿名性の特例に値するものではない。

エ.なお、兄弟姉妹等からの提供の場合、医療施設は、その内容、理由等を公的管理運営機関に申請して、事前の審査を受けなければならないとしている。しかし、IIIの2の(2)の(3)にあるように、公的管理運営機関は「生殖補助医療の実施に関する管理運営の業務を行う」所である。実施するかしないかも含め「生殖補助医療の利用に関して、倫理的・法律的・技術的側面から検討を行う」、公的審議機関がその業に当たるというべきであろう。

(5)書面による同意

 生殖補助医療によるリスクに関しては、今までなおざりにされてきたといわざるを得ない。今回の報告書においても、提供を受ける側のリスクについて、保障や責任の所在等の議論がなされていない。提供者のリスクについては、「(同意書に)…卵子の提供により受ける可能性がある不利益について誰がどのように責任を負うかを予め定めておくことも必要である」とコメントされている。何らかの理由により、採卵しても使用しない場合で不利益が生じた場合、あるいは、卵子の凍結が可能になり、採卵から提供まで一定期間保存される間に何らかの不利益が判明した場合等、提供者と提供される側だけでなく医療施設も責任を負わなければならない事態が考えられるが、提供者の同意書は公的管理運営機関に提出されるわけではなく、医療施設内で管理されるのみである。リスクについての明確な責任体制、及び提供された精子・卵子・胚の所有権、管理責任体制が公的に示されるべきである。

(6)十分な説明の実施、及び(7)カウンセリングの機会の保障

 当該医療施設による説明だけでは、公平、中立な情報は与えられない恐れがある。カウンセリングは、単に「機会を与える」程度ですませられるものではない。必ず、当該医療施設以外の場でのカウンセリングが必要である。中立の立場でのカウンセラーの養成が間に合わないのであれば、養成されるまで、少なくとも第3者の精子提供による体外受精、卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施は行うべきでない。

(8)精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の提出・保存

 配偶子・胚の提供を得るとき、血液型を合わせる必要性などから、提供者の一定の個人情報が必要になる、ということだが、その範囲が明確でない。1の(2)の(1)<AID(提供精子による人工授精)>の項では、「HIV等の感染症の危険があることから…十分な検査等の予防措置が講じられるべきである」としていて、提供者の疾病に関する検査が行われることが示唆されている。多くの市民の反対にも関わらず、日本産科婦人科学会において受精卵の着床前遺伝子診断が容認されたことを考えると、この検査が、配偶子・胚の遺伝子検査につながるおそれもある。そのようなことがないよう、配偶子・胚の検査内容、個人情報の内容等については、市民も含め徹底した議論がなされるべきである。

2.規制及び条件整備について

(1)条件整備

(1)親子関係の確定

 コメントの中に、「…その子を約10ヶ月の間自己の胎内に置いて育てることにより、その子に対する母性を育み、…こうした妊娠による母性の確立の過程は、子の福祉の観点から極めて重要なものと考えられる。」とある。妊娠によって母性が確立するというのは独断に過ぎず、子の福祉にとって極めて重要という言い方は養子縁組を否定し、養親子に対する偏見を助長するものであるので撤回を求める。

(2)出自を知る権利

 子が知ることができるのは、提供者個人を確定できないもので、提供者が同意したものに限るとされているが、そういう中途半端な情報で、子のアイデンティティは確立するのだろうか。また、子にとって何が必要かという調査等がなされた形跡もなく、きわめてお為ごかしな項目であるといわざるを得ない。

(3)提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に実施に関わる体制の整備

 公的審議機関は、「専門家を参集し」とあるが、不妊治療当事者の参加が不可欠である。また、生殖補助医療が女性の体を通して行われることから、審議官の少なくとも半数以上は女性でなければならない。

[多胎・減数手術について]

ア.「…減数手術については、母体保護法の人工妊娠中絶の定義規定に該当する術式でない…その指摘は適当である」としながら、「規定の解釈や見直しも含め検討すべきとの意見もある」「…減数手術が厳格に守られるためには、行政又は学会において、これをルール化することが必要である」として、法改定や、ガイドライン策定を視野に置いていることが見受けられる。
 しかし、多胎妊娠の増加は生殖補助医療の増加の結果であることは明らかである。であるなら、まずしなければならないのは、生殖補助医療そのものの見直しである。そのためには、速やかに、多胎妊娠・減数手術の実施状況を含めた生殖補助医療に関する国としての実態調査を行い、その情報の公開するべきである。その上で、不妊治療当事者を交えて、広く生殖補助医療に関する社会的な論議を進め、多胎妊娠・減数手術の防止に努めなければならない。そのことなしに、多胎妊娠・減数手術を前提とした「規定の解釈や見直し」や「ルール作り」などはもってのほかである。

イ.その意味からも、生殖補助医療をいっそう推進させる今回の報告書の作成は、言語道断である。

ウ.遺伝子診断や性別診断等によって減数児の選別を行ってはならない、というのは当然であるが、その実行の担保を明確にするべきである。



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